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黒霧  作者: よた
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 カイ村の者たちは、さっそく山に陣取ると、ミネ村とイケス村の村人相手に、商売をはじめました。商売といっても、秦のように通貨などございませんから、要するに物々交換でございます。


 たとえば、ミネ村の者に対しては、山で獲れない魚や貝が非常に好まれましたから、山の山菜、猪や兎などの肉と交換し、イケス村の者に対しては、ミネ村で仕入れた素材を加工し、お祈りに使う法具や川魚用の仕掛けなどを作って売ったりと、かなり商売上手だったようです。気がつけば、ミネ村とイケス村の恵みはあれよあれよと吸い取られて行きます。


 異変に気がついたのは、だいぶ経ってからでございました。ミネ村とイケス村の者たちは、自分で道具を作ることもなくなり、道具が壊れれば、獲ってきた獣や魚を売って、あたらしい道具を得る。これがだんだんと過剰になっていきます。


 ある日のことです。カイ村の商売人が、こう云います。


「道具が欲しいなら、もっと獣や魚を収めて貰わないと十分にいきわたらない。だから、もっともっと獲ってきてほしい」と。


 網ひとつに対して、猪の脚一本だったのが、四本、一頭と徐々に増えていきましたから、これはかなわないと思って、ようやくミネ村の者たちは自分たちで道具を作ったほうがましだということに気がつきはじめました。そこで、カイ村との物々交換をやめたい、と申し出ました。しかし、カイ村の者たちは許してくれません。


「交換を止めてはいけないし、道具も勝手に作ってもならない。もしそんなところを見かけたら、そのときは、お前たちの村など叩きつぶしてやる」と云うのです。


 ワシワはこのような侮辱を受けて内心腹が立ちましたが、村には見渡せば腹を空かせた者ばかりでしたので、そのいつしたかわからぬ約束を守らねばならないのでした。


 それから月日が流れ、ミネ村の恵みは等々、底をつきます。若い者は次々と村を出て行きまして、もっと食物豊かなカイ村やイケス村、さらにもっと遠くの村へと逃げていきます。残されたのは年寄りばかり。これではもう成すすべはございません。


 これを好機と思ったのか、カイ村とイケス村の者たちは大勢で押し寄せてきて、美しき山で店をだしたり、獣道だけだった道を勝手に切り開いて参道をつくったりしました。


 これのおかげで山にはいつの間にか見知らぬ村の者までやってきて、しまいにはカイ村とイケス村の者たちが取り仕切って、ミネ村の者たちは蚊帳の外となってしまいました。


 残されたミネ村の者たちはもうあきらめていました。ワシワに残された道はただひとつ。それは、村を捨てて、この美しき山を下りることでございます。


 翌朝になるとワシワを含むミネ村の者たちはありったけの荷物を背負って、山を去りました。


 すると突然、ズドーンと地面が上下に動いて、体が宙に浮いたようになりました。全員が悲鳴をあげ、びっくりして身をかがめ揺れが収まるのを待ちました。揺れはなかなか止みません。両手と膝をついて、這いまわるので精一杯。この世の終わりが来たのだ、と云われたら、その通りだと信じたことだろう、と本人が語っております。


 揺れが収まった後、ワシワは振り返り、背後にあるはずの美しき山を眺めようとしました。すると、山が無くなっていたのだそうです。彼は急いで駆け戻りました。すると、山のてっぺんから真ん中までが削られて、そこから真っ黒な煙が上がっていたそうでございます。


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