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日が暮れる頃、わたくしと護衛は百姓と鍋を囲んでおりました。近くの山で獲れた猪、畑の野菜、山菜を煮込んだだけの簡単なもので、味付けという味付けは、何もありませんでした。そこで持参していた塩を一振りしてやると、見違えるほど味が変わりましてね、――もちろん陛下にお出しするほどのものではございませんが、――たいへんおいしゅうございました。
それはさておき、わたくしは百姓に黒霧のことをあらためて聞きました。すると、百姓は焚き火をいじりながら語りはじめたのです。ただその前に、これから申し上げますことは、わたくしが百姓の云ったことをなるべくわかりやすいようにと、直したものとなります。というのも、百姓言葉をそっくりそのままお伝えすると、――なにせ、百姓のなまりがわれわれの知るものとはまったく別の発展を遂げた、独特なもので、はっきりした言葉の意味がわからないこともございました。なので、一つひとつ文字におこしたり、身振り手振りで予想したりと、不要なやり取りばかりとなって――ただしくご理解いただけないのではないか、と考えたためでございます。その点は、あらかじめ、ご了承くださいませ。
たとえば、はじめに驚いたのは百姓に、名はなんと申すか、と聞いたとき、首をかしげたことです。なんと百姓には名前らしい名前がなかったのです。
ではどうやって彼のことを呼べば良いのか、考えたあげく、百姓がよく、『わしは~』という一人称を用いていることに気がつきました。そこで、わたくしは彼のことをワシワと名付けることにいたしました。こんなようなことが山ほどあるのでございます。