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わたくしと護衛は百姓の家へと向かいました。さぞかしボロい家かと思って覚悟していましたが、その家は、想像の遥か底を行くものでした。三角形に藁を積み上げた脆弱そうな造りの家。中に入ってみると床はなく、地面に編んだ藁を敷いてあるだけでございます。
しかたなくわたくしは護衛を外で待たし、藁の上に腰を下ろして靴を脱ぎました。百姓は、わたくしの靴を手に取ると上や下から覗き込んでなにやら楽しそうにぶつぶつと独りで喋っております。
「おい、なにをじろじろと見ておる」
「へぇ、靴の形状が珍しいんで、長さを測ってるんです」そう云って、百姓は立ち上がると、「少々お待ちくだせぇ」と云い、幹をくりぬいて作ったような道具入れから動物の骨で作った針を取り出します。針に糸を括り付けたかと思ったら急に靴に噛みついて、ぎーぎーと野獣のような牙で糸を引っ張り出します。そのあいだ、わたくしは目のやり場に困り果てて視線をそらし、家の中にある意味深な土偶などを眺めておりました。
靴の修繕には半時も要さなかったでしょう。さっそく靴を履いてみると、不格好ではありましたが、歩くのに支障はありません。
そのとき思わず、安堵の溜息がこぼれました。そして百姓に、礼としてなにかやろうと云ったのですが、百姓は首を横に振って、「いらない」と一言。びっくりいたしましたが、それなら言葉に甘えて、その場を早々に立ち去ろうと立ち上がりました。しかしその時、一様この百姓にも黒霧のことを聞いてみようと思い立ち、声を掛けました。
「そういえば……」
「へぇ、なんでしょう」
「ここ最近――といっても半年以上も前のことなのだが――黒霧を見なかったか?」
「黒霧……」百姓は首をかしげながら眉毛をひそめてなにか思い出している様子です。
「なんでもいい、思い当たる節があるなら――」と、わたくしが云いかけた時、百姓が
「あれかな……」と言ってこちらを見ました。そして続けました。「でも話すと長くなりますよ」
「構わない、わたしは黒霧の正体を明かすためにはるばる参ったのだ」
「わかりました。それでは今夜は泊まっていってくれんか? お前さんと連れの分の飯も用意せにゃ」
「手伝おう」