森の電話
昔ながらのダイヤル式電話。
森にあるお店には茶道具がいっぱい並んでいた。
店主は、第二次大戦を生き延びた頑固な爺さん。
電話が鳴った。
「はい、こちら茶道具屋。」
爺さんが茶道具に手を伸ばした時、電話機と一緒に、床に倒れた。
「もしもし、店主、どうしました?」
◆◆◆
私は、爺さんの遺産を受け継ぎ、毎日、電話とにらめっこしていた。
電話が鳴った。
「はい、こちら茶道具屋。」
「そろそろ、戻ってきたらどうだ。」
父だった。
◆◆◆
翌月、引っ越しを終えた店には、ダイヤル式電話が残っていた。
電話が鳴った。
「はい、こちら茶道具屋。」
「電話会社の者です。あと1時間ほどで、電話回線を切ります。よろしいですね。」
「はい。よろしくお願いします。」
爺さんと私が見つめてきた電話は、こうして鳴らなくなった。
◆◆◆
孫ができた。
電話機の事を教えると、今、どこにあるかと聞いてきた。
私は、タイムカプセルに入れて、森に埋めたと教えた。
孫によって掘り出されたそれは、まだ使えそうだった。
「爺ちゃん、これ繋いだら電話が鳴るんじゃないの?」
懐かしの音を鳴らす電話に、私は昔を思い出した。
そして・・・。
「おまえに子供ができたら、もう一度、この音を聞かせておやり。」
再びタイムカプセルを森に埋め、30年がたった。
◆◆◆
私のひ孫が経営する茶道具屋には、昔ながらのダイヤル式電話がある。
あの森は埋め立てられ、もうない。
店の電話が鳴った。
「はい、こちら茶道具屋。」
「えっ、ひい爺ちゃんが倒れた!」
ひ孫が驚いて落とした電話は、とうとう壊れてしまった。
◆◆◆
森の跡地に、私の墓は建てられた。
そこに壊れた電話が収められた。
死ぬ前に、あの音をもう一度聞きたかったな。
登場人物
・爺さん:第二次大戦を生き延びた人
・私:爺さんの孫
・孫:私の孫
・ひ孫:私のひ孫