楽しい夕食
その日の夕飯はエーコお手製のシチューパイと魚のムニエル、兵士達が育てた野菜のサラダであった。この館にはベィミィを含めて、二百四十二名がいる。交代で休日を与えているし、仕事や用事でいない者もいるので全員は集まらないが、それでも食堂はいつも賑わう。
席に決まりはないので各々が自由に座っている。普段はあまり関りがない相手と一緒になる者もいれば、仲良しどうしで集まる者もいる。
ベィミィの席だけは決まっていて、同席する者は毎回違って、順番になっていた。早い者勝ちだと争いになるし、何よりベィミィが色んな相手と話しがしたいからだ。
今日はビーコ、シーコ、ディーコの副侍女長三人組と、各隊の一つ飾りの者達が一人ずつ同じ机に座った。胸の飾りは隊長が五つ、副長が四つで、後は経験や実力で三つ、二つ、一つになる。一つ飾りは、館に来てまだ日の浅い者達だ。
「御館様、本日の夕飯は如何ですか?私も先輩方から教わりお手伝いしました」
「うん、とっても美味しいよ。有り難うメラ」
侍女の少女は嬉しそうにニッコリと笑った。
「御館様、サラダの野菜は今朝がた採れたばかりです。僕も収穫を手伝いました」
「そうなんだ、偉いね。サラダも美味しいよマツマル」
兵士の少年は照れ臭そうに、指で鼻の下を擦った。
「御館様、今日は森で怪我を負った獣人がいまして、私も治療に従事しました」
「きっとその獣人も喜んでいるよ、良い事したねミーシャ」
医療の少女は嬉しそうに、はい、と応えた。
「御館様、本日は館の古くなった箇所の修繕を行い、俺は三階の本棚を修理しました」
「あそこは気になっていたんだよ、有り難うグランディ」
建設の少年は嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
侍女、兵士、医療、建設、この館にいるベィミィの使い魔達は、いつの間にかこの四つの隊の何れかに属するようになっていた。別にベィミィがそうするように指示した訳ではなく、エーコ達四人の隊長に、それぞれが勝手に従うようになっただけだ。ベィミィ的には、別に上下関係なんていらないのだが、こうした方が上手く纏まるらしい。
一つ飾りの者達は特にベィミィに行ったことを報告したがる。上の連中がそうしているから、真似したくなるのだ。ベィミィもその話しを聞くのは、好きだった。聞くと、必ず褒める。そうすると、彼らも喜んでくれる。
「御館様、私も本を全て配り終えました」
抑揚のない声で、ディーコが言った。ディーコの髪型は他の二人より短く、肩ぐらいまでしかない。尻尾はクローバーの形をしていて、後はビーコとシーコとそっくりな見た目である。
「お疲れ様ディーコ、大変だったでしょ」
「何をしているのですか、ディーコ。一つ飾りの彼らは、御館様とのお話しを楽しんでいるのですよ」
ビーコがすかさずディーコに注意する。彼女は普段あまり会話のできない彼らに気を使っているのだ。
「しかし、ビーコもシーコも今日は御館様とご一緒でした。私だけ、仲間外れでしたので」
あくまで無表情だが、ディーコがそんな事を言うのは珍しい。そういえば、ビーコは少しだけしっかり者で、シーコは少しだけ頑張り屋で、ディーコは少しだけ甘えん坊だ、とエーコから聞いた時がある。あくまでほんの少しだが、彼女たちにはそんな違いもある。
「後で話しは共有しますから我慢しなさい。我々は常にそうしてきたではありませんか」
「分かりました。二人だけが秘密を知るのは、狡いですから。楽しみです」
それが彼女ら三つ子ならではの触れ合いらしい。そうなると、ベィミィだけが人間達に正体がバレていないと思って落ち込んだことも、共有されてしまう。それはまだ良いが、エーコに頭を撫でられたのを知られるのは恥ずかしかった。
「そういえばシーコ、ボンスの城下町は如何でしたか?」
ビーコがシーコに何気なくそう質問をした。
「それが、収穫はありませんでした。今日は時間もありませんでしたし、食材も買わねばならなかったので。御館様から、明日も向かうよう御命令は受けています」
咄嗟にシーコはそう答える。きっと、予めそう言うつもりだったのだろう。相変わらず無表情で抑揚のない声であり、自然な返し方だ。
「そうですか、引き続き頑張ってください」
ビーコも特に感づく事もなく、あっさりと質問を終えた。きちんとシーコはベィミィの言い付けを守り、それは共有しないようだ。
夕食を終えると、自然を装ってベィミィはシーコに近付いて、コッソリと耳打ちした。シーコは無言で頷く。
実はもう、連れていく二人は決めていたのだ。