誰を連れて行こうか
シーコが帰ってきたのは、その日の夕方だった。買ってきた食材を他の侍女達に任せ、シーコは単身で謁見部屋へとやって来た。付き添いたそうにしていたエーコとパプリカは、さすがに仕事を怠け過ぎだとそれぞれの副官達に連れていかれたので、謁見部屋にいるのはベィミィとシーコだけである。
「ただいま戻りました、御館様」
銀髪に赤い眼、シーコの見た目はビーコにそっくりだ。性格も同じで、優秀で気が回り、冷静で無表情である。違うのは尻尾であり、シーコは尻尾の先端がダイヤの形をしていた。髪型も、ビーコは後頭部に一本に縛っているのに対して、シーコは右側に髪を束ねている。ちなみに、ディーコも髪型と尻尾の形以外はそっくりだった。
彼女たちは三つ子なのだから見た目は似ていて仕方ないが、どうして性格まで一緒なのかは分からない。本人たちに聞くのはどうかと思い、以前エーコにその事を聞いたら、そういう家庭なのです、と返ってきた。どういう家庭なのだろう。
「お疲れ様、シーコ。ごめんね、疲れているのに呼び出してしまって」
「いえ、そもそも私から参じようと考えていたので。お気遣い、有り難うございます」
「うん、それでこの本の事だけど」
ベィミィは今回の騒ぎの元凶である本を取り出した。
「はい。その本の作者であるフレクスズを見付け出し、話しをして参りました」
「おぉ、よく見付けたね。それでどうだった?」
「それが」
「それが?」
「残念ながら話しを聞いた所、とても私どもだけでは手に負えないと判断いたしました。この本の騒ぎには、どうやら裏から手を引く者がいるようです。その者の名を聞いても、フレクスズは口を固く閉ざしています」
ベィミィはあの後、ボンスの城下町を水晶に映して覗いてみた。確かにベィミィの本は売られていたが、それ以外は特に変わった所はないように見えた。本を読めば分かるが、この作者のフレクスズに悪意がない事が分かる。つまり、誰かに書かされたのだ。
「うん、分かった。明日、あたしがボンスの城下町に行ってみるよ」
「御館様が直々に向かわれるのですか?」
「此処までされたら気になるし、たまには人間の町にお出掛けもしたいしね」
「では、何名か供をお連れください。その際は、フレクスズの所にご案内するので、是非私も」
シーコは、良い報告が出来なかったのを気にしているのだ。此処は彼女の気持ちを酌んで了承するべきである。
「じゃあ、あたしとシーコの二人で行こう」
「いけません。それでは皆が納得しないですし、何かあった時に私だけでは御館様をお守り出来ないかもしれません。せめてあと二名は、隊長か副長からお選びください。まもなく、夕食になります。休みの者を除けば一同が揃うので、その際に御指名頂ければ」
言われて、ベィミィはその光景を想像して頭が痛くなった。きっと、みんな行きたがる。食事は可能な限りみんなで食べるのが、この館の決まりである。その方が、御飯が美味しいからだ。だからこの館の食堂はかなり広い。
いつもなら楽しい食事が阿鼻叫喚になる。そんなのは、避けたい。特にエーコやパプリカが場を乱すだろう。言えば、あの二人は間違いなく付いて行くと言って折れない。他にも心当たりがある。
「ちょっと待って、もう少し考えたいから夕食の後にして。後で、こっそり伝えるから」
「…考えてみましたが、その方が賢明かと。申し訳ありません、愚案でした」
「シーコは絶対にこの事を秘密にしたまま、明日の朝こっそりとあたしの部屋に伝えた二人を連れて来て。特にエーコとパプリカには気付かれないように」
「畏まりました」