バレていないと思っていた
「どうしたの、ビーコ?」
「皆様、何か勘違いをされていませんか」
「勘違い?」
「はい。どうも、お話しを聞いていると、私の認識と噛み合わないものですから。差し出がましいようですが、御館様も、侍女長も、兵士長もこの本の中身をよく御覧になられたのでしょうか」
「もちろん、エーコに渡されて読んだよ。内容はパプリカが言った通り、実際のあたしとは掛け離れた姿と、事実無根の悪口が…え、もしかして」
話していて、ベィミィはある事に気が付いた。
ベィミィが読んだのは、初めの頁だけだ。
ド天然で舞い上がったエーコや、糞真面目で怒り狂ったパプリカも、きっと同じだろう。
そう思って、ベィミィは続きを読んだ。数頁は同じように、ベィミィの悪口が書かれている。しかし、七頁から文章は一気に変わった。
『此処まで記した事は。真っ赤な嘘である。実際の魔女ベィミィは、いつまでも若く美しく、心優しい。我々人間を、いや、他の種族をも見守ってきたのだ。此処からは、彼女の偉大なる実績を記録の確認が出来る限り書き綴りたいと思う。どうか読者の諸君には、これ以前の頁を破り捨てて頂きたい』
これ以降は、実際にベィミィが数百年の間、人間に対してやって来た事が書かれていた。あれも、これも、懐かしい事ばかりだ。よく記録に残っていた、と感心する量である。
「なんだか、恥ずかしいなぁ。でも、どうして人間達はあたしがやったって、分かるのだろう?」
ベィミィは確かに人間達や他の種族にも色々と力を貸してきた。水晶を覗けば、色々な場所が見えるのだ。その際に災害や戦争、飢餓、迫害、疫病、そうしたものも見えてくる。見てしまうと、放っておけなかった。でも、あくまでコッソリと、仮面を被ったり、偽名を使ったり、と魔女のベィミィだとは分からないようにしてきたつもりだ。
「ベィミィ様はおっちょこちょいですから、隠しているように見えて、実はバレバレだったのですよ」
ニッコリとした笑顔でエーコが言った。
「えっ?」
ド天然のエーコに言われ、衝撃を受ける。
「確かに、そう何度も謎の人物が助け船を出せば、御館様と知れてしまうのは必然。それと、エーコがうっかり口を滑らせたのが、何度かございました。まぁ、御館様が魔法を使うものですから、魔女だと分かるのは当たり前ですが」
さらり、とパプリカもそう言う。
「おそらく、バレていないと思っていたのは御館様だけかと」
気を使ったのか、ビーコはベィミィにだけ聞こえるように、そう耳打ちしてきた。しかし、それが余計に惨めだった。
「うそぉ…じゃぁ、あたしの努力はなんだったんだろ…」
大戦争を止めたあの時も、暴竜を鎮めたあの時も、死の赤い雨を浄化したあの時も、みんなみんな、ベィミィがやったとバレバレだったらしい。気を使われて、分からないふりをされただけだったみたいだ。
ベィミィはガックリ、と項垂れた。その際に被っていた魔女帽子も地面に落ちてしまったが、拾う気力もない。