無表情で優秀な副侍女長
銀色の長い髪を後頭部に一本に縛り、特徴的な赤い眼をした少女だ。エーコと同じ給仕の服を身に着けていて、胸には四つ星の黄色い飾りを付けていた。お尻からはエーコと同じ尻尾が生えているが、彼女のは先端がハートではなくスペードの形をしている。
「あら、ビーコちゃん。どうしたのですか?」
「侍女長、御頼みした食材がまだ厨房に運ばれていないのですが」
「それがですね、ベィミィ様の本を買うのに夢中で、すっかり忘れてしまいました。なので、これからパプリカ君と一緒に買いに行く所です。ね?」
「行かぬ、拙者は行かぬぞ」
「やはりそうでしたか。そう思って現在、シーコが侍女を三名連れてボンスにある城下町へ向かっています」
やはり抑揚のない声で彼女はそう言う。ビーコは三人いる副侍女長の一人であり、冷静で無表情である。それでいて気が回り、仕事も出来るのでド天然のエーコをよく支えている。
「あら、そうなのですか?」
残念そうなエーコとは対照的に、パプリカは救世主の到来に喜色を見せた。
「そうだビーコ、この本の事だけど」
気の回るビーコならば、あの忌々しい本を事前に察して処分してくれたかもしれない。そう期待を込めて、ベィミィは彼女に話し掛けた。
「御安心ください、御館様」
「うん」
やはり優秀な副侍女長だ、と頷いたが次の言葉にベィミィは絶句する。
「本なら、ディーコ達が配り終えましたので」
「なに、あの忌々しい悪書を配ったのはお主らだったのか」
パプリカが今まで救世主と崇めていたビーコに向けて、今度は怒りを表した。表情がコロコロと変わり、分かり易い。彼の長所であり、短所だ。
「そんな、悪書なんかじゃありませんよパプリカ君。私、町の皆さんがベィミィ様を褒め称えているのを見て、嬉しくて、皆さんが買われている本をパプリカ君たちにも、という思いで持ち帰ったのです」
「ぐっ、元凶はエーコか。この本の何処が、御館様を称える事になる。御館様をまるで化け物の如く醜く、悪鬼のように悪く書いているではないか。実際は、美の女神も恥じらうほどに美しく、聖母も模範とする程に御優しいというのに」
「いや、褒めすぎだよパプリカ」
「いいえ、決して過言ではございませぬ」
自信満々に鼻を鳴らして、パプリカは言い切る。このミノタウロスは忠誠心があり過ぎて、ベィミィを唯一神か何かと勘違いしているらしい。
「それは、私も賛同いたします。ベィミィ様は全てにおけて世界一ですから。そうした主人にお仕え出来て、私は幸せです」
常に幸せそうなエーコが、さらに幸せそうに言う。
「もう、二人ともからかわないでよ」
「あの、宜しいですか」
二人に褒められてベィミィが顔を赤くしていると、控え目にビーコが片手を挙げた。