それは、もう、仕方ないよね…
それからは、和やかな雰囲気での食事が始まった。フックラーの侍女達が用意してくれた料理は美味しくて、ベィミィは次々と口に運んだ。近くに控えている侍女に、副侍女長であるシーコは作り方を聞いていた。彼女の舌にも合ったらしく、今度ベィミィの館でもこの料理が出ると思うと楽しみだった。
「ところで館の魔女様、この度はどのような御用件で来られたのですか?」
食事中にフックラーがそう言った。料理が美味しくて夢中になっていたベィミィは我に返る。今日は別に、遊びに来た訳ではない。
「そうだ、気になる事があってやって来たのだけれど、その前に一つ良い?」
「なんなりと」
「シツジィが持っていた、あたしが描かれた絵。それって、いつの間に描いたの?」
「この絵の事ですな」
言って、シツジィがあの絵を取り出した。ベィミィの顔と胸元まで描かれた精巧な絵である。
「ああ、それでしたか。それは城内の画家に描かせた絵で、昨日から作業したばかりなのでそんなに小さな紙のものしかありませんが、これから立派な額に飾る大きな絵を描かせるつもりです。宜しければ、館の魔女様にも何枚か献上したいと思うのですが」
「是非、御願いします」
シーコがそう即答した。
「じゃなくて、どうしてあたしの絵が描けるのかなって。もう何年も此処には来なかったし、それにどうして今更になってこんな絵を」
「それは、昨日いらっしゃった、館の魔女様の使い魔を名乗る方からお聞きしたのです」
嫌な予感がした。昨日、此処に来たベィミィの使い魔。シーコを見る。勿論、彼女は首を横に振った。
「たまたまそこに私も居合わせたのですが、いやはや、とても美しい御方でした。流れるように清らかな長い桃色の髪をして、優しげな目で、何処か男を虜にするような妖艶な香りをさせた女性です。私も、もう少し若かったら…いや、死んだ妻にあの世で叱られてしまうので、これ以上は止めましょう」
桃色の髪のベィミィの使い魔。間違いない、エーコだ。
「それで、その使い魔は何を言ったの?」
「はい。このような本を売るなら、是非、ベィミィ様の絵も描いて頂けませんか、と仰いました。そこで、どのような御姿か、精密に御教授頂きました。私共もこうした館の魔女様の絵を是非飾りたいと考えていたのですが、何分お姿が分からない。なので、大変お世話になりました」
その様子が鮮明に思い浮かぶようであった。きっと彼女はニコニコしながら、嬉しそうにフックラーにベィミィの容姿を伝えたのだろう。そして、本を持ち帰ったのに嬉しくて報告を忘れている。
「流石は侍女長、良い仕事をされますな」
「侍女長の事ですから、おそらく考えるままに行動したのでしょう。それが、今回は良い方向になっただけです」
「侍女長にはいつも驚かされますが、とても良い御方ですよっ」
「うん、もう良いよ…エーコじゃ、仕方ない。問題はそっちじゃないし」