馬車の中は快適だった
恥ずかしかったので、ベィミィはさっさと馬車の中へと入った。中はかなり広く、用意された腰掛けに座ると背中とお尻が沈み心地良い。中には香が焚かれていて、それがまた良い香りだった。ちょうど四人が丸くて背の低い机を囲むようにして座れる形になっていて、机には果物が山盛りに積んである。天井や両側には窓が付いており、天幕を剥がすと外の様子が見られそうだ。
ベィミィが中に入ると、直ぐに三人も中へ入ってきた。背の高いコマツナは中に入る際に頭をぶつけ、照れたように笑った。高価そうな馬車に緊張していたスイセンは、それで解れたようだ。そんな二人を他所に、シーコはさっさとベィミィの左隣に座る。
「狭くて、申し訳ありません。本当は、御一人様ごとに一台ずつ用意すべきでした」
運転台の方から、初老の男の声が聞こえてきた。どうやら、彼が馬車の手綱を牽くようだ。
そうは言ったが、初めから一台にするつもりだったのだろう。ベィミィ達が警戒しないように、わざと皆でいられる広い馬車にしたのだ。
「そんな事ないよ。むしろ、こっちの方が落ち着くし」
「左様でしたか、それは幸いです。それでは参りますが、揺れますのでご了承ください」
初老の男の言葉と共に、ゆっくりと馬車は動き始めた。揺れるといっても町の中はよく整備されているらしく、たいしたことはなかった。むしろ、この程よい揺れと整った空間が心地良かった。
天幕に手をかけて、町の風景を眺める。色々な店や風景があり、様々な人や種族が行き交う。よくこの町は水晶で覗くのだが、こうして直に見るとまた違った光景のようだ。前に来た時よりも、さらに発展していた。
お洒落な服屋、流行りのパン屋、物珍しい一座の芝居小屋、回る水車、鍛冶屋が打つ金属音、子供たちが駆けまわる音。この町の息吹が、生活が生き生きと感じる。こんな馬車の中からただ覗くのだけではなく、実際にこの足で歩いてみたい。用事を済ませたら使い魔達とこの町を散策しよう、とベィミィは思った。
「そういえば御館様、一つ気になる事があるのですがっ」
スイセンの言葉にベィミィは我に返った。
「どうしたの、スイセン?」
「先ほどこの馬車を牽く人が、御館様に大恩があるとか言っていましたよねっ。随分と持て成されていますし、何か此処の人達にされたのですかっ?」
「何だスイセン嬢、あの本を読まなかったのか?」
「すみません最初の方は読みましたけど、ちょっと昨日は忙しくて…」
そういえばコマツナとスイセンは、この城と城下町が出来た後にベィミィの使い魔になっていた。あの頃からの付き合いは、四人の隊長と、ビーコ、シーコ、ディーコの姉妹ぐらいだろうか。