普通には通れません
ベィミィの館はこの町の北側にある。なので、四人は北側の門から城下町に入る事にした。門には衛兵が数名いて、外壁の上にも見張りらしき兵士が立っている。門には城下町に入ろうとしている人の列が出来ていて、ベィミィ達はその最後尾に並ぶ。やはり身体の大きなコマツナは目立つらしく、前にいた行商人らしき一行は驚いていたが、コマツナが優しい笑みで会釈すると安心したように胸を撫で下ろし、また前を見た。行商人は荷台を奪われるのを何よりも恐れる。こんな大男が後ろに並んだので警戒したのだろう。
思ったよりも列は早く進み、直ぐにベィミィ達の番が来た。今まで平穏に検問を済ませていた衛兵達が、ざわつき、何やら互いに耳打ちをしている。
「やはり、儂のせいでしょうか」
コマツナが申し訳なさそうに呟いた。衛兵達の態度からして、それだけではなさそうだ。
「あの、検問して頂いても宜しいでしょうか?」
焦れたシーコが一歩前に出て、そう申し出た。
「検問、ですか。いやぁ、そのようなものは必要ありません」
此処の責任者らしき男が出てきてそう言った。周りの衛兵連中が慌てているのに対して、この男だけは冷静そうに見えた。おそらく、彼は北門を司る衛兵長なのだろう。
「そうですか、では中に入らせて頂きます」
「いや、申し訳ありませんが少しお待ちいただけますか。直ぐに中へとお通ししますので」
シーコが確認をとるようにベィミィの方を振り向いたので、無言で頷いた。取り敢えず待てと言われたら、待つしかない。強行して中に入る訳にもいかないし、帰る訳にもいかない。
「分かりました、急いでいるのでなるべく早くしてください」
「それは、勿論」
門の横に椅子が設けられていて、ベィミィ達はそこに座って待つ事にした。その間に、後ろに並んでいた人達が先に検問を受けて中へと入っていく。その際に彼らは此方を物珍しそうに見ていた。まるで晒し者である。
「ど、どういう事でしょうかっ?」
「分からんが、あの者の対応から警戒されているようには思えませぬな」
コマツナの言う通り、わざわざ椅子を用意されるあたりむしろ彼らの対応は丁寧に見えた。
「シーコ、昨日も検問なしで中に入れたの?」
「いえ、昨日はいつものように私も侍女達も検問を受けました。特に変わった事はありませんでしたが」
暫く待ち先ほどの衛兵長の男が、お待たせしました、とベィミィ達を呼びに来た。
「どうぞ、お入りください」
そして、すんなりと門を潜らせてくれた。