巨大な都市
そんな話しをしている間に、ボンスの町が見えてきた。この地は代々、ボンス公爵家が納めている巨大な都市である。周りを外壁に囲まれ、町の中央には大きな城があった。城の周りにある城下町はよく栄えていて、この辺りの中心地として重要な土地である。歴史上、何度か魔物や他国に攻められた時もあるが、何度も跳ね返しては発展してきた。今では平和が続いており、もう何十年も攻められた記録はない。現領主のフックラー・ボンスは領民に優しいと評判が良く、優秀な世継ぎもいるから安泰であった。
空飛ぶ絨毯のまま町の中へと降り立つ訳にもいかず、近くの整備された歩道で降下する。全員が絨毯から降りると、魔法の絨毯は自動的に片手に収まる大きさまでに小さくなった。
「さて、町へと向かおうか。でもその前に、このままじゃまだ目立つよね」
ベィミィは見た目が人間とあまり変わらないが、他の三人は人外の部分が目立つ。シーコの尻尾と頭の角、コマツナの鋭利な牙と同じく頭に生えた大きな角、スイセンの青白い肌に身体の繋ぎ目。それらをベィミィは魔法を唱えて、人間と変わらない見た目に変えた。
大きな町なので人間以外の部族もいれば、魔物だっている。でも、この姿の四人組はさすがに目立つ。今回はあくまで、隠密行動なのだ。
「御館様の魔法はいつ見ても見事な御手前ですな。しかし、儂が大きいのに代わりはないので目立ってしまいます。申し訳ない」
「身長までは変えられないからね、仕方ないよ。それに、背の高い人間だという事にすれば大丈夫」
「これならいっその事、ピーマンの奴を供に命じられれば良かったかもしれませんな。奴ならエルフなので、人間とさほど変わりないですし、目立ちますまい。腕前も申し分ありませんぞ」
「ダメ、それは絶対にダメ。コマツナじゃなきゃ、嫌だ」
「そ、そうですか…いや、御館様がそこまで仰せられるとは、感激の極みにございます」
ベィミィが直ぐに否定すると、コマツナが若干戸惑ったように言った。この鬼の副兵士長は性格が良すぎて、同僚のエルフを高く買い過ぎている。あの男を供に選べば、隠密行動など成り立つわけがなかった。
城下町の南側と北側にはそれぞれ、巨大な都市らしく門がある。これだけ大きいと出入りも激しいので、怪しい輩を通さないようにしているのだ。比較的に城下町への門は緩いが、城の入り口である城門は締め付けが厳しい。場合によっては、あの城にも入らなければならないのでベィミィはあれやこれや考えを巡らせたが、あまり良い案は浮かばなかった。最悪、魔法を使えば強行突破できるだろうが、それは本当に最後の手段にしたい。人間達を困らせるのは、不本意だからだ。
「ふわぁ、相変わらず大きい所ですね。私、久々に来たものですから、緊張しますっ」
空飛ぶ絨毯から解放されたスイセンは、今度はこの巨大な門に委縮していた。下から見上げると、改めてその巨大さに驚かされる。ベィミィの館の建設隊も凄いが、人間はこうした建造物を自力で造ってしまうのだから感心される。
「大丈夫だ、スイセン嬢。儂らが付いている、堂々としていれば良い」
「はいっ、皆さんがいると心強いです」
「何かあれば、スイセン殿に治療してもらう事になりますから。此方も心強いですよ」
「何もない事が一番ですが、その際は頑張りますねっ」
三人の会話が微笑ましく、力強かった。ベィミィの館の使い魔達は、だいたいみんな仲が良い。口では悪く言う時もあるが、根は良い者ばかりだ。同時に個性が強い者も多いが。