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第九話 鬼

「…………遅いな」


 なかなか帰らないアガラを心配してか、ボウタケマルはそう呟いた。

 既に村人達は寝静まり、起きているのはボウタケマルと狼だけだ。彼らは、アガラの登っていった山の入り口までやってくると彼女の姿がないか辺りを探してみる。


「山神だか猿神だか知らんが、返り討ちに遭って野垂れ死んでいたりしてな」


 心配するどころか、むしろくたばっていれば良いと言外にほのめかす狼にボウタケマルはかぶりを振った。村人ならいざ知らず、少なくとも鬼である彼女がそう易々(やすやす)と山神を騙る怪物に倒されるとは考えにくい。


「しかしなぁ、そりゃ腕力は強かろうが、狸やら狐に化かされたら簡単にだまされそうな面ではないか。あれは(から)め手や()め手にはめっぽう弱かろうと思うぞ」


 ボウタケマルは村長の家で出されたごちそうを機嫌良く食べ漁るアガラの様子を思い出した。仮に彼女に悪意を抱く者が表面上は取り繕って酒やごちそうを振る舞ったとしても、彼女は同じように喜んで飲み食いするに違いない。それで酔っ払って眠っている間に寝首を掻かれるのだ。

 そういえば、大蛇(おろち)や鬼の類いが大酒で寝入ったところを打ち倒されるというのは英雄譚や昔話でお決まりの流れではある。


「……そう言われると余計心配になってきたな」


 ボウタケマル達は山中の(やしろ)へ向けて急ぎ足で向かっていった。



☆☆☆



 鬼と狼の足で瞬く間に社へとついた彼らだったが、やはりボウタケマルの甲冑の音は、静かな森の中では良く響く。外で見張りをしていたらしい野盗の一人にあっさり見つかってしまった。

 

「…………」


 しかし、野盗は声を荒げることもなく、ただ呆然とボウタケマル達を眺めているだけだった。人間あまりの恐ろしさには声も出ないというが、野盗など丸呑みにしてしまいそうな巨大な狼と、大木や大岩のような体躯をした鬼がそろって自分の前に現れたことに、頭の理解が追いついていないようである。

 

 そんな野盗を驚かさないように、ボウタケマルはやや声を抑えて話しかけた。 


「儂の名はボウタケマル。一つ聞きたいのだが……」


「ひっ、で、出たああああああぁ!!」


 野盗は幽霊にでも出会ったかのように顔を青ざめ甲高い悲鳴を上げた。その声に、何事かと社の中から野盗が飛び出してくる。ボウタケマル達の姿を確認すると野盗達は一瞬だけ息を呑んだ様子だったが、今度は複数人だったこともあってか武器を構えてこちらへと対峙してきた。

 ボウタケマルは敵意をあらわにする野盗達に、自分たちは山神退治に来たのであって、人と争うつもりはないと伝えようとしたが、どうにも話を聞いてくれる雰囲気ではない。


 どうしたものかと考えているボウタケマルに狼が小声で話しかけてきた。


「……この社の奥からお前の連れの匂いがする。山神の社に(たむろ)している件といい、どうにも此奴(こやつ)ら胡散臭いぞ」


「……うーむ」


 ボウタケマルにとっては、ひ弱に感じる野盗といえど村人にとっては恐ろしい存在だろう。彼ら野盗を倒すというのも、また広い意味では世直し旅となるだろうが、あまり騒ぎになって本来の目的である山神とやらに感付かれるのも好ましくない。そう判断したボウタケマルは、アガラの無事を確かめるためにゆっくりと刺激しないよう野盗達へと向かっていった。

 一方、野盗達の方は、向かってくるボウタケマルへ半狂乱になって手に持つ武器で飛びかかってきたのだった。

 


 

前回から少し期間が空いてしまって申し訳ないです。

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