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第五話 生け贄を求める神

「この私を数日も縛って放置とは……」


 旅のお供になることを渋った狼は数日間その場に放置された。もちろん縛られたままである。鬼の所行と(ののし)ってやりたいと思ったが、相手は正真正銘の鬼なので狼は黙っていることにした。


(なれ)が堂で()りをしていた時に比べれば、そんなに放っておかれた訳でもないだろ」


 山を出たことで、ようやく旅らしくなってきた事に上機嫌のアガラは、不機嫌な狼の言葉を流した。狼からすれば、かたい蔓草(つるくさ)できつく縛られているのだから単に長く放置されるよりも精神的に(こた)えたわけであるので気が盛り上がらないのは当然だった。

 アガラと狼の少し後ろを、ガチャガチャと甲冑を打ち鳴らしながらボウタケマルが歩く。その一団を端から見れば妖怪達の行進のようであって恐ろしかったが、彼ら自身は神のお告げを受けた英雄の世直し旅のつもりであった。


「ボウタケマル! あれ村じゃないか?」


 はしゃぐアガラの先には、小さい田畑が並ぶ集落が見える。遠くから笛や太鼓の音色が聞こえているので、もしかしたら祭りでもやっているのかもしれない。そんな期待をしながら、遠くの集落へと彼らは向かった。




☆☆☆




「ひぃっ!? お、鬼っ!?」


 あまり人気(ひとけ)の感じられない集落で、ボウタケマル達は一人の男に出会った。男はボウタケマル達を見ると陰鬱そうだった顔を驚愕で歪めて、その場から立ち去ろうとする。そんな失礼な男の首根っこをつかまえ、ぐいと引き寄せたアガラはそのまま迫るように男へと話しかけた。


「おい、何故逃げる!」


「ひえええ。お助け、お助け、山神様ぁ、何とぞお助けくださりませぇ!」


 男は体を震わせながら、手を合わせて助けを乞うた。村人を襲う鬼の図に、狼は呆れてしまった。


「何が世直しの旅だ。ただ人へと恐怖を与えているだけではないか」


「お助け、お助け!」


 ボウタケマル達は、助けを求め震えるばかりの男に、襲うつもりはない事、旅をしている事などをゆっくりと聞かせてやった。それでも男は、ガタガタと震えて手を合わせるばかり。逃げられても困るのでアガラは男を捕まえたままだ。そんなこんなで一行は男が落ち着くまでしばらく待つことになった。


「……どうだ、落ち着いたか」


 狼は男になるべく優しい声色で話しかける。男は未だ鬼と狼に恐怖し怯えている様子だったが、とりあえずは何もして来なさそうであるという事は理解したらしく、先程のようにずっと助けを叫ぶような真似はしなかった。


「……へ、へい。あの、それで、な、何用でこの村に?」


「うむ。儂らは山神様のお告げによって、世直しの旅をしている。途中この集落を見つけたので立ち寄ったのだ」


 ボウタケマルの言葉に、男は息を呑んだ。


「や、山神様って……それじゃあ、やっぱり、い、生け贄を取りに来たんですか?」


「生け贄?」


 男の言葉に首を傾げていると、間髪入れずに男は続ける。


「か、帰ってください。約束どおり毎年村の娘はお渡ししているでしょう。今年の生け贄は明日の夜、きちんと(やしろ)の前に届けますから!」


 男は恐怖ですっかり血の気の引いた顔をしながらも、ボウタケマル達にそう言い放った。




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