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静は目線を大地に移す。そこから見える風景に静は目を奪われた。静の視界に映る世界は真っ赤に染まっている。人工環境を作り出せる庭、ガーデンと呼ばれるドームの内側には本来、四季は存在しないのだけど、翼はプログラムを自分で書いて、人工の(つまり、偽物の)四季を作り出している。アメフラシという名前のプログラムだ。静には翼がなぜ四季を作ることにこだわるのか理解できなかった。ただ翼はとても喜んでいた。
翼が喜ぶのなら理由なんてわからなくてもいいような気もする。
僕は翼に甘い。それは翼に会ったときから自覚していることだ。
翼は四季だけではなく、天候や気温といった不確定要素をどんどん追加していった。今ではドームの内側も外側もあまり変わらない。
アメフラシが外側の環境を模倣するからだ。
アメフラシは外の気候や天気を読み取り、ドーム内部でそれを再現するというただの二度手間プログラムになってしまった。
(もちろん、正式な実験のときは、環境を一定の状態に維持することはできるのだけど)
このドームの設計者の赤家博士がこの惨劇を見たらどう思うかと考えると、静は胸が痛む。
体の弱い翼のために必死になって変化の少ない環境を作ろうとしたのに、翼はおもちゃ箱をぶちまけて遊ぶ子供のようにせっかくの奇麗な空間をすぐに散らかしてしまう。
しかも片付けることもしないのだ。どうやら天才、赤家翼の辞書には片付けるという言葉は載っていないらしい。