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「ここはずっと昔から、私の秘密基地なんだ」
「秘密基地?」
静が振り向くと、翼は朽ちた神社の階段のところに座り込んでいた。そこから翼は周囲の深い森の木々の風景に目を向けていた。
「うん。秘密基地。お父さんとお母さんも詳しい場所は知らないの。私の友達も誰も知らない。私と、……それから、静くんだけの秘密の場所なんだよ」
少し恥ずかしそうに顔を下に向けて、足で、とんとんと地面を軽く蹴るようにしながら翼は言った。
秘密基地。
……秘密の場所。
みんなから忘れ去られてしまった、……聖域。
うん。確かにここはそんな場所だと思った。
でも……。
「どうして翼ちゃんは、そんな大切な場所を僕にだけ教えてくれるの?」と静は聞いた。
すると翼は、顔をあげて、ちょっとだけむすっとして、もう、静かくんはそんなこともわからないの。鈍感だね。とでも言いたそうな顔をした。
でも、小学四年生の、動物や虫や自然に夢中な子供の静には、もちろん、その翼の顔を見て、翼がなにを考え、なにを不満に思っているのか、それをまったく理解することができなかった。
「よっと」
そう言って、翼は古い神社の階段から地面の上に立ち上がった。そしてスカートのお尻のところを手でぽんぽんと軽く叩いて、その埃を払った。
それからにっこりと笑って、翼はずっと神社の境内の中に突っ立ったままでいる、静の目の前の場所までゆっくりと歩いて移動した。
「静くんにお願いがあるの」
そう翼は言った。