04 コウのステータス
コウは部屋を飛び出すと、来た時と同じ勢いで廊下を舞い戻っていた。
いろんなものを見てしまったせいで、頭の中がひっくり返ったおもちゃ箱のよう。
彼は世界樹の種を口にしてから、目に映るものすべてが好奇の対象となった。
連日のように新鮮と興奮に包まれた日々を送っていたので、散らかった頭を片付ける方法もすでに知っていた。
少し前にいた『ママの部屋』を通り過ぎ、それより前にいた『図書館』へと飛び込む。
そしてひと息もつかずに、キッズコーナーの近くにある子供用の辞典などがある棚に向かった。
手あたり次第に手に取って、ページをめくりまくる。
キーワードは、水晶の部屋で耳にした、
『惑星』『宇宙』『人間』『信者』『アーネスト』『学園』『裏番長』……。
そして『ママリア』……!
まずは『惑星』と『宇宙』について調べ、この世界がどんな成り立ちをしているかを知った。
つぎに『人間』と『信者』について調べ、この世界に生きる者たちと、彼らを統べる『神様』という存在を知った。
『アーネスト』というのは、複数いる神々のひとりで、『美の女神』であることがわかった。
あとは『学園』と『裏番長』……。
『学園』というのは、人間が大勢集まって学習する場所のことで、『裏番長』というのは、その学園を裏から操っている人物のこと。
「……惑星でいちばん偉いのが『神様』なんだとしたら……『学園』でいうところの『裏番長』が、神様ってことになるのかな……?」
コウは本で得た知識に自分なりの解釈を交え、謎だった言葉を次々と解明していく。
残る調査項目はあとひとつ、『ママリア』だけとなる。
しかしそれよりもコウは『学園』というものに惹かれたので、さらに深く調べてみることにした。
本を次々と本棚から抜いて読みあさっていると、ふと……。
二重になった本棚の奥に、シリーズものの本を見つけた。
それは、
『週刊 はじめてのがっこう ~1ねんかけてじゅんびして、ママをあんしんさせよう!~』
という、かつて毎週刊行されていた分冊百科であった。
それらは分厚かったが、手にとってみると軽かった。
毎号オマケが付いており、ぜんぶ揃えると『がっこう』に行けるだけの準備が整うらしい。
『がっこうは、モンスターのやっつけかたをおしえてもらえるんだ!』
1ページ目のそのキャッチだけで、コウは瞬時にハートキャッチされてしまった。
「も、モンスターを、やっつけられる……!?」
少年は冒険モノの絵本が大好きであった。
特に、主人公の少年が旅に出て、モンスターと戦い、世界に平和を取り戻すというものに目がない。
気に入ったものは何度も読み返し、寝るときにもママに読んでもらうほどであった。
ちなみにママに読んでもらうと「コウちゃんが乱暴な子になるといけないから」という理由で残虐シーンはすべてカット。
また、異世界でブームの小説も真っ青の無双っぷりで、主人公がピンチになることはない。
後味の悪い結末であっても、必ずハッピーエンドとなる。
そして少年とともに旅するヒロインも、王国を救って結婚するお姫様も、ぜんぶママに置き換えられてしまうのだ。
「……そしてコウちゃんは、ママといっしょにいつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ……めでたし、めでたし~。ぱちぱちぱち~」
ママはいつも、お決まりとなった言葉とともに手を叩きながら、物語を締める。
語り手がいちばん楽しんでいるかのような、不思議な読み聞かせであった。
それはともかく、コウは『はじめてのがっこう』に興味津々。
これを読めば絵本の主人公のようになれるのかと、さらにページをめくる。
『ステータスをしらべてみよう!』
『この本のふろくにある「ステータスクリスタル」を胸にあてれば、キミの能力がわかるぞ!』
「ステータス……! 知ってる! 絵本にもよくあるやつだ……!」
ステータスというのは、人の能力を数値化したものである。
『力』や『素早さ』などがあり、高いほどその項目は優秀とされる。
コウは本の最後に付いていた箱を開け、その号の付録であるステータスクリスタルを取り出す。
それは、ドラゴンのシルエットが彫られた青白い石で、ペンダントのような細い鎖がついていた。
「かっこいい! これで、ボクのステータスがわかるんだ……!」
自分の鼓動の高鳴りを感じ、手が震える。
そのドキドキを抑え込むように、ギュッと握りしめたクリスタルを、胸に押し当てると……。
……パアッ……!
指の間から白い光が漏れだし、映写機のように本棚に何かを映し出した。
本の背表紙が邪魔だったので手を動かして、光を平らな壁に向けてみると、
ぼんやりとした、文字が……!
なまえ:コウ
れべる:1
たいりょく:3
まりょく:0
ちから:2
すばやさ:2
きようさ:2
ちりょく:0
「ひ……低っ……! 絵本の主人公はレベル1でも、どれも10以上あるのに……!? 魔力と知力に至っては、ゼロだなんて……!?」
いきなり残酷な事実を突きつけられた少年は、
「このクリスタル……壊れてるのかな……?」
ナチュラルに現実逃避をした。
「ママが言ってたもん、ボクは絵本の主人公よりも、ずっとずっと立派な男の子だって……」
本に書いてあった説明によると、胸に当てたステータスクリスタルを軽く振ると、職業やスキルが表示されるらしい。
職業というのは、『戦士』『剣士』『魔法使い』『僧侶』『アーチャー』などの、その人の適正に応じた、いわば『天職』のことだ。
スキルはその職業によって身に付けた、特殊な技能のことを指す。
魔法使いであれば『ファイヤーボール』などである。
「ボクは、なんの職業なんだろう? 戦士かな、魔法使いかな……?」
新たなる期待を胸に、手にしたクリスタルを、揺さぶってみると……。
テレビのチャンネルを変えた時のように、映し出されていたものがパッと切り替わった。
しょくぎょう:マママスター
すきるぽいんと:1
「ま……まま……ますたー?」
それは少年が読んできた、どの絵本にも登場しない……。
初めて目にする『職業』であった。




