表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

03 アルバルーム

 コウ少年は毎日の日課である『ママとのおひるねんね』を抜け出し、屋敷の廊下へと出る。


 これも、絵本で覚えたことだった。

 ライオンの赤ちゃんが、お昼寝中に母親の元から抜け出して大冒険するというものである。


 もちろん少年がいるのはサバンナなどではなく、彼の自宅だったが……。


 初めての冒険に出発するように、彼の胸は高鳴っていた。

 なにせママから貰った鍵があれば、この屋敷のすべての部屋に入ることができるのだ。


 コウは無限回廊のような廊下を、赤ちゃんライオンのごとく駆けた。

 走ると「コウちゃん!? あぶないでちゅよ!?」と血相を変えて飛んでくるママも、今はいない。


 見飽きたいくつもの扉を追い越し、ぐんぐん進む。


 しばらく走ると息ができなくなって、苦しくなったので立ち止まる。

 ぜいぜいと肩を上下させていると、汗が吹き出た。


 いつもであればすぐにハンカチを取り出して、ふきふきしてくれるママもいない。

 コウはどうしようか迷った挙句、服の袖で拭った。


 まだ100メートルも進んでいないのだが、彼にとっては未知の世界。

 ここからはすべての扉に鍵がかかっていて、鍵がなければ入れない。


 いままでは「お口を閉じている」と教えられ、そう信じていたものが……。



「でもこれからは、違うんだ……!」



 息を整えたコウは、第一歩を踏み出すような力強い足どりで、近くにあった扉の前に立つ。

 そこは他の部屋と同じ、大きな両開きの木扉だったが、ひときわ豪華な黄金の装飾が施されていた。


 宝石のちりばめられたドアプレートには、



 『コウちゃんアルバルーム』



 と彫られている。


 コウは冒険の第一歩はここにしよう、と決め、黄金の鍵を差し込んだ。



 ……スゥ……。



 と開いた隙間から、ひんやりとした風が漏れ出してくる。

 蕾がほころぶように、ゆっくりと動いた扉の先は……。


 シャンデリアすらなく、がらんとした部屋。

 天井も壁も床も、青白い水晶で覆われており、この屋敷にしてはこぢんまりとした印象。



「なんだ、空き部屋か……」



 外観が凄かったので期待していたのだが、何もなかったのでコウは肩を落とす。

 でもせっかくだから中に入ってみようと、足を踏み入れた瞬間、



 ……ぶわぁぁぁぁっ……!



 景色が急に広がって、見覚えのある場所に変わった。

 そこは、この屋敷の食堂だった。


 何百人も座れそうな長い長いテーブルの上座。

 いつも自分が座るその場所には、なんと……!



「えっ!? ボク……!?」



 そこには自分そっくりの男の子がいて、プレゼントの山に囲まれていた。

 その後ろには当然のように、『ママチェア』形態になった、ママが……!



「♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん!」



 ママ語に節を付けて、バースデーソングを歌っていた……!



「ええっ!? ママ、どうしてここに……!?」



 コウは驚きのあまりよろめいて、テーブルに手を付こうとした。

 しかしスカッとすり抜けてしまう。



「あれっ……?」



 そのおかげで、急に冷静になれた。


 ママも自分に似た少年も、こっちに気付くことなくパーティで盛り上がっている。

 そして自分のまわりには付かず離れずの距離で、文字や記号のようなものが浮かび上がっているが目に入った。



 『コウちゃんの14歳のお誕生日』


    ▽ ▼ ■ ▲ △



「……これは、いったい……?」



 コウ少年は手を伸ばした拍子に、『▼』の記号に触れてしまう。

 すると、



「♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん! ♪バブバーブ、コウちゃ~ん!」



 時間が逆戻りし、ママは再びバースデーソングを歌いはじめた。

 世界樹の種のおかげで、『叡智(えいち)』を手にしていたコウは、すぐに気付く。



「これは……もしかして……昔のボクと、ママの記録……?」



 『▼』の記号に触れるたび、景色はどんどん過去へと遡っていく。

 コウはもっと昔を見たくて、何度も記号を押す。


 しかし記録は、誕生日などの記念日だけでなく、毎日のようにあったのでなかなかうまくいかない。

 ためしにその横にあった『▽』に触れた途端、



 ……ぶわぁぁぁぁっ……!!



 いままで一度も見たことがない場所が現れた。

 いや、別の場所かと思うほどに、様変わりした場所だった。


 そこは、屋敷の屋上にある謁見台。

 屋敷は山の頂上にあるので、麓の景色を一望できるのだが……。


 いつとも知れぬ過去の映像の中では、周囲を有象無象の人間が、取り囲んでいたのだ……!


 人々はみな武装しており、まるで軍隊アリのようだった。



『マーマリア! マーマリア! マーマリア! マーマリア! マーマリア!』



 拳を掲げた鬨の声が、地を揺らすほどに押し寄せてくる。


 その中心にある屋敷、その中央にある謁見団。

 まるで地球のへそのような、世界のど真ん中に立っていたのは……。



「えっ……? ま……ママ……?」



 によく似た、美しい鎧甲冑を身をまとう、美少女であった。


 周囲には、多くの女性が跪いている。

 そのうちのひとりである、黒髪の凛とした女性が、顔をあげて上申した。



「ママリア様、ついにこの惑星(ほし)は、あなた様のものです。100億の信者も、こうしてあなた様に仕えることのできる喜びを、全身をもって表しておりますぞ」



 その隣にいた、金髪に派手なメイクの女性が、媚び媚びで割り込んでくる。



「さすがはママリア様! ママリア第一学園の裏番長から始まって、1年も経たずに惑星(ほし)をも手にするだなんて……! マジ、ヤバくない!? このアーネスト、ママリア様のズッ部下だかんね!」



 ママリアと呼ばれる人物は、コウの知るママに良く似ていたが、ママではなかった。

 どんな時でも微笑みを絶やさないママとは違い、その人物は常に眉根を寄せ、口をキリリと引き結び、覇王のように厳しい顔を崩さなかったからだ。


 その戦いの神のような人物が手をサッとかざすと、周囲に集まっていた100億もの人間が、一瞬にして静まりかえる。



「……わらわの野望は、こんなちいさな惑星(ほし)で収るほど、小さなものではないわ!!!!」



 ごうっ……!!!!



 と百獣の王が吠えるような一喝が鳴り渡ると、すべてが地にひれ伏す。



「我らはこれから、別の惑星(ほし)を攻める!! よいか皆の者!! この宇宙にあるものをすべて手に入れるまで、戦いは終わらぬと肝に銘じよっ!! このAflkjds級、」(~)Y+Y文嬗化㑠」ママリアの「譁�ュ怜喧縺�I……!!!!」



 堂々たる宣誓は最後まで聞き取れず、耳障りな雑音混じりになったあと……。



 ……ザァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!



 風景まで乱れ、とうとう崩れはじめる。



「……あっ……!?」



 ブロックノイズとともに消え去った、世界のあとにあったのは……。

 なにもない、水晶の部屋だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ