きみはひとりぼっち。
私には昔、心の許せる友がいた。
笑顔のよく似合う子で、すごく可愛らしくって、
友達も私と違って沢山いて、鬱陶しがる私にも優しく接してくれた。
そんな優しい彼女を殺してしまったのは、私だ。
彼女は、どれほど苦しかったのだろう。
彼女は、どれほど辛かったのだろう。
気づけば、私の手は赤い血に染まっていた。
ああ、私はまた人を殺してしまったのか。
彼らが罪人だったから、
彼らが人を、彼女を殺めてしまったから、
そう理由をつけて、彼らを裁く。
そうして私は、讃えられる。
***
僕には昔、答えられなかった問いがある。
その問いに対して、僕は今、答えられるのだろうか。
正義も悪も人それぞれで、答えなんてないんじゃないか。
…いや、
彼は自分の持っている正義と悪が分からなくなったから、
彼はそれほどまでに疲れたから、
僕にそれをきいてきたんだ。
ああ、僕はなんて馬鹿だったんだ。
僕は分からなかったからじゃない。
目をそらして、蓋をしたかったから、
彼の問いに答えなかったんだ。
今なら答えられる。
彼の元へ、今なら行けるかな。
***
今日、彼女の墓参りへ行く。
今日は彼女の命日だから。
きれいな花を持って行く。
彼女が好きだった花だ。
行く途中、ふらふらと歩みの不安定な男が私の前を通りすぎた。
私はどうしたのかと息を殺してその不審な男のあとをつける。
その男は私に気がつかないほど、どこか一点を見つめ、目指していた。
いつのまにか彼のことを遠巻きにみていた周りの人々も視界から消え、人通りが少なくなってきた。
***
今日、彼の墓参りに行く。
今日は彼の命日だから。
僕の中に答えはあるのか。
そうきかれても、僕は何も答えられる事が出来ない。
だとしても、あのとき共に考えることはできただろう。
どうすれば、どうすればあのときを取り戻せるのだろうか。
***
男は山に登り、木の間をすり抜けて行く。
…ここは何処なのか。
そんな事も考えられない程、男の足取りは速く、一度でも目を離せば見失ってしまいそうだった。
しばらく歩いた後、広い場所に出た。
地面の草は枯れ、土もかわいて、荒れ地になっていた。
真ん中には倒れた大木があり、そこだけ時が止まっている様だった。
みていて綺麗…だというより、ぽっかりと心に穴の空いたように、虚しくて、哀しくなる光景だった。
男はふらふらと、歩き慣れた感じでその場を丁寧に歩く。
そして、大きな石の前に立ち止まって
その場にくずれた。
ぽつ、ぽつりぽつり と、その石に雫が落ちる。
それは彼の目から落ちていたものだった。
「うわああああああああああああ」
さっきまで無表情だったとは思えないほどに、顔をくしゃくしゃにして彼は泣いた。
大粒の涙が彼の青白い頰をつたう。
彼は声をあげ、救いを求めるかの様に、
…いや違う。彼は救いたくても救えないのを悔いている様に泣いた。
***
誰かがみてる。
誰だ。誰なんだ。
…ああ、あいつか。
僕の大切な人を殺したあいつか。
あいつを殺したい。
彼の元へ、はやく行きたい。
「ねえ」
僕は声を張り上げてそいつに話しかけた。
するとそいつは怯える素振りもなく、スッと影から出てきた。
「なに」
そう問いかけるそいつの顔は凛々しく、覚悟を決めた顔で、
目元には僕の様な隈もない。
苛つく。腹が立つ。
…こんな僕でもこいつが僕よりももっと辛いっていうのは分かる。
手に持っている花は、誰かに供えるつもりだったのだろう。
哀しかっただろうな。
でも、分かるだけだ。
理解は出来ても、許す事も、好ましく思える訳でも無い。
ああやっぱり、
苛つく。
僕は決意を固めて、ナイフで自分の首を切った。
***
また血だ。
手にも赤。彼も赤。赤。あか。
拭えない。拭えきれない。
…止められなかった。
本当に?
君ほどの人なら止められたんじゃないか?
そういえば、彼は最期に何を言っていた?
私はくずれおちながら思い出す。
“ きみはひとりぼっち。”
2018年10月29日 投稿
2022年3月15日 修正