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第3話:「誤認」

魔術師(ソーサラー)? それが玉の役割なのか」

 傑は驚いた様に目を丸くした。

 玉と傑が出会ってから5分。玉は既に2回の充填(リロード)を済ませ、傑が自分の異変に気付いている事を知っていた。

「魔術師か……。何か魔法使えたりするのか?」

 玉は首を横に振った。

「ううん、そう思って色々試してみたんだけど何も無かったの」

 玉はなるべく異変に気付かれない様、限りなく自然な表情と口調を使った。

「そうか……でも魔術師ってぐらいなんだからその内何か使える様になるかもな」

「そうだと良いんだけど……」

 玉は嘘を吐いた。「記憶を読み取る」魔法を使えるという事が相手の心情にどういう影響を与えるかという事を玉なりに理解していたからだ。

(目が合っただけで自分の記憶や考えている事を読み取られるだなんて、誰にも言えないよ……)

 玉は目を伏せ手元のグラスを口元へ運んだ。

 緊張で鳴りそうな喉を、グラスの中の水分で掻き消す。「先程の玉の異変は疲労からきていたものだ」と傑が考えてくれるまで、玉は限りなく「普段の自分」を演じようと考えていた。

「だが勝利条件がそれだけって事は、やはりゲームマスターを探すってのがかなり大変な事なんだろうな」

「だよね……何の手掛かりも無いし、どうすれば良いか……」

 玉はグラスをテーブルに置く。それと入れ替わりに傑はグラスを口元へ運んだ。

(やはりおかしいな、玉…………。明らかに挙動不審だし、何か隠している……)

 傑は黒い縁の眼鏡の奥から玉の顔を眺めていた。少し黙っている内に玉と目が合ったが、玉はすぐに目を逸らす。

(……まあこんな事態だ。態度に異変が出るのも当然と言えば当然かもしれんが…………)

 傑はグラスをテーブルに置いた。玉はグラスとテーブルとが触れ合う際の音に反応し、ハーフパンツのポケットから携帯電話を取り出した。

(携帯か……)

 傑は溜息をつき、天井を見上げた。

(携帯さえ使えればなああ〜。……父さん、心配してるかな)

 機能する筈の無い携帯電話の入ったポケットに手を当て、傑はもう一度溜息をついた。

「す、傑…………!!」

 携帯電話を開いた玉が、声を震わせて傑を呼んだ。傑は首を降ろし、顔を玉に向けた。

「……携帯が、繋がってる…………!!」

 玉は震える両手で包み込む様に携帯電話を支えていた。

「物理的に有り得ないだろ、それ…………」

 傑は何ら表情を変えず淡々と答えたが、今自分達が立たされている状況を考えれば何が起こってもおかしくは無いとすぐに思い直した。

「いや、ちょっと見せてくれ…………」

 傑は身を乗り出し顔を近づける。玉は携帯電話の画面を差し出した。

 その携帯電話の画面では、電波が3本立っていた。



 第3話「誤認(misunderstanding)」



「ここか……」

 ズボンから連なる鎖のチェーン。それらをジャラジャラと鳴らしながらローキは玉と傑のいる店の外に到着した。

 その後ろには6人の男達。それらの男達は皆屈強な体をしている。

「いくぞ」

 ローキは指で男達に指示を出し、店の扉を開けた。

 ローキを先頭とする7人の屈強な男の集団。それは嫌でも店内の者の目についた。

「気にするな。目的はあくまで今回のプレイヤー達だ」

 目を大きく見開いて店内を見回す。特に広くもない店内、すぐに玉と傑のいるテーブルに目をつけた。

「いたな……」

 ローキはその鋭い口元に笑みを浮かべた。


 ローキ達が傑達の元へ近づこうとしている時、傑は既に自分達の身に危険が迫っている事に気が付いていた。

(なんだあいつら……。あれも他のプレイヤーなのか!?)

 淡々と、かつ有無を言わさぬ威圧感を放ちながら、ローキは傑達のテーブルの横に立った。

(…………!! くそっ……!!)

 傑は正面を向いたままやり過ごそうとした。と言うより、ローキの方を向く事が出来なかった。

「表にでろ」

 低く、重量感を帯びた声でローキは言い放つ。傑は両手を膝の上に置いたまま動けない。

 片や、この突然の状況を何一つ理解していない玉はローキの目を真正面から見る。


読込(ダウンロード)!』


 ローキの脳から玉の脳へ記憶が流れ込む。

(…………!! この人は…………)

 玉は、「自分達が今置かれている状況の理解度」において傑を一瞬で抜き去った。それと同時に汗が噴出し、掌が湿る。

「聞こえないのか? 立て」

 細く鋭い瞳、決して大きくは開かない口、重く体中を突き刺す様な声。それらが傑と玉の体を締め付ける。

「………………」

 いつまでも立ち上がろうとしない傑と玉に痺れを切らし、ローキは右手を上げた。

 爪の伸びたその右手で傑の頭を掴み、力を入れる。


 ローキの首筋を刀剣が捉え、そしてローキの体は勢い良く地面に叩きつけられた。

「!!!」

 その轟音と衝撃で傑の体の痺れは解け、傑は顔を左へと向ける。

「…………!!」

 清水剣が刀剣を肩に掲げ、誇らしげに立っていた。

「剣、お前…………」

 その7人の集団の中ではリーダー的な位置にあるローキが吹き飛ばされたからであろうか。他の6人は腰を引き、剣と距離をおこうとする。

「情けないわよ、傑。ちゃんと玉を守んなさいよ」

 剣はそう言って笑った。立ち上がったローキの右手が剣の顔を襲う。

 その右手は、剣の顔にあと少しで届くという寸での所で止まった。

 傑が、剣にのみ集中していた視線を広げると、剣の刀剣がローキの首筋に突きつけられている事を知った。

「…………!!」

「私のポジションは『剣士(ソルジャー)』。悪いけど、結構強いわよ」

 ローキは悔しそうに嗚咽を漏らした。とは言えこの状況では動く事は出来ない。

「ロ、ローキ様!! ここは一旦退きましょう!!」

「ぐっ……!」

 剣は刀剣を下ろし、ローキを逃がす。

 ローキは店を出る寸前に入り口付近のテーブルを思い切り蹴飛ばし、テーブルの上の調味料等を全てぶち撒けて出て行った。


 剣は呆気にとられている傑と玉の方に体を向き直した。

「よっ、傑、玉」

「あ、ああ…………」

 傑は自分の横の椅子を引いた。剣はそこに座る。

「あ、ありがとう。剣が来てくれなかったら危なかった」

「いーのよ。こんなポジション、その為に存在してる様なもんだしね」

 剣は玉に断りを入れてから、玉のグラスの中身を口へと運んだ。

「それに、どうせ今のも『盗賊(バンデット)』の奴らだろうしね」

「バンデット?」

「ええ。『盗賊(バンデット)のボスの首を獲る』。それが私の勝利条件よ」

 傑は、初めて聞く内容であるそれに対してそれなりの反応を返したが、当然この時既に玉は全てを知っている。剣の勝利条件も、敗北条件も、特殊能力も、今回のこのゲームの参加者が自分達だけである事も。

「剣士の特殊能力として、私かなり強くなってるみたいだから下っ端とかなら問題無いんだけど、ボスってのは問題よねー。倒せるかしら」

 剣は困った様な表情をする。

「……でもお前、首を獲るってつまり、殺すんだろ? お前にできんのか?」

 傑は深刻な顔をして問う。

「大丈夫。今回プレイヤーって私達だけらしいのよ。つまりそれ以外は皆ゲームのキャラ。命を持たないのよ。正直グロいのは苦手だけど、クリアの為ならそれぐらいで四の五の言ってらんないわ」

 そう言って剣は再び玉のグラスの中身を飲む。

(……そうか、じゃあやはり店内にいる奴らも皆ゲームのキャラ……)

「だからとにかく、私のゲームクリアへの障害は純粋に盗賊のボスに勝てるかどうかってだけ。制限時間とかは特に無いみたいだし、じっくりやるわ。焦って返り討ちに遭っちゃ笑い事じゃないからね」

「……そうだな」

 傑は恐らく、このゲームに来て初めて笑った。



「あっ、あああっ…………!! いてえ! 首がいてええええ!!!!」

 薄暗く涼しい部屋。ローキは首をおさえてのた打ち回っていた。

「オー……わめくなローキ。みっともねえ…………!」

 派手な金髪に右手の指全てに通っている指輪。男は笑ってローキがのた打ち回る様を眺めていた。

「うるせえっ!! そもそもアンタが奴らを襲うなとかなんとかぬかしやがるから、こちとら全力で戦えなかったのさ!! 次からは思い切りやらせてもらう!!!」

「ン〜……次はねえよ、ローキ……。お前はもう1回も俺の命令に背いたんだぜ? この世界で、人の命令を聞けない奴の事を何と呼ぶか知ってるか? 『クズ』さ……!」

「だから、その命令が意味分からねえって言うんだよ!! 何故奴らを特別視する!?」

「フフ、だからそれが創造主(クリエーター)の意志だからだよ……!」

 ローキは歯を軋ませた。

「うるせえ!! 俺は奴らを襲うのをやめねえからな!! あのクソ女、絶対ブッ殺してやるッ!!」

「…………」

 男は笑い、立ち上がった。

「ン〜……フフフ、ローキ、ローキ。哀れな男よ。俺の言ってる事が分からねえか?」

 男はローキの首筋を掴む。

「ぐああっ!! やめろ! いてえんだよ!!!」

「ちょっと腕が立つからって好きにやらせてりゃすぐこれだ……。コレだからバカってのァ使い道に困る」

 男が更に力を込めると、ローキの足は地面を離れた。

「なっ……! お、オイ、やめろ!」

「ローキ……ローキよ! オメエらの様なバカは黙って俺の言う事を聞いてりゃ良いのさ……! 違うか!?」

 男の問いにローキは答えられない。声が出ないからだ。次第に呼吸も苦しくなる。

「お前らの代わりなんざ、いくらでもいるんだぜ……!? ええ? 『端役(エキストラ)』よ…………!!」

「がっ……やめ…………」

 ローキは薄れゆく意識の中、必死に男の右腕を掴んだ。

「フフ。この世界じゃあ、『バカ』と『クズ』は死ぬ決まりさ」

 生々しい音を立て、ローキの首は折れた。男の腕を掴んでいた右腕は力無く解け、両手両足がだらりと揺れる。

 男がローキの首を離すとローキは床に崩れ落ち、あの機械音が流れる。

『エキストラ1名の絶命を確認しました。現実世界に返します』

「あァ、そんなバカクズさっさと持っていっちまえ…………!」

 ローキの体は光に包まれ、そして消えた。

「フフ……フフフ、それにしてもやはり、今回の奴らは骨がありそうだ…………」

 男は椅子に座り直し肘をつき、右手に顔の体重を掛けた。

「もう邪魔は要らん、お前らなりの結末を見せてみろ! 第3世代の少年達よ…………!!」

 男の声がいつまでも、薄暗く涼しい部屋の中に響き渡った。

サブタイトル候補、ボツ案1

第3話「バリ3(the cell phone produced by DoCoMo's electric wave will be good)」

(FOMAは繋がるケータイへ)


結構悩んだ後、ポシャった。

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