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第2話:「意思」

 ゲームについての説明を聞き、居ても立ってもいられなくなった玉はスタート地点からただひたすら真っ直ぐに走り続けた。

(勝利条件と敗北条件、そして魔法…………!! 記憶を読み取るって魔法がこのゲームに必要なのかどうか良く分からないけど、必要なんだよね、多分…………)

 走っては歩き、また走っては歩きをどれだけ繰り返したかは分からない。

 滴る汗を拭う事も無く、玉は地面に立てられた看板の横で足を止めた。

「町…………!!」

 ゲーム開始より2時間後、玉は「プレフィス」へと到着した。



 第2話「意思(intention)」



(この世界にもこんな所があるんだ……)

 回る水車にいかにもな酒場。そのレトロな風景は、玉が今までに描いていた「ファンタジー」世界のイメージにとても近い。

「!」

 その場に立ち止まり辺りを見渡している玉の目の前を、人間が横切った。

(知らない人……。他にもプレイヤーがいるの? それともゲームの中のキャラ……?)

 痛みすら帯びる足の疲労が引いていくのに連れ、玉は自分が空腹に陥っている事に気付く。

(お腹……空いたな…………)

 辺りを見渡せば、食事をとれる様な店はいくつも目に入る。玉はそれらを尻目に見ながらズボンの尻ポケットに手を当てた。

(お金……どう考えても使えないよね……)

 財布に入っているのは当然の様に現実世界の日本円。それがこの世界でも通用するとは思えなかった。

(あああ〜お腹空いたあ……)

 玉は下腹部に手を当て、ぐったりと頭を下げた。

(これじゃ、私普通に死んじゃうよ……。どうしよう)

 その時、玉は自分の右肩に誰かの手が乗ったのを感じた。反射的に後ろを振り向くと、そこには傑が立っていた。

「よっ、玉」

 傑は陽気に右手で敬礼のポーズをとった。

「……傑!」

 仲間との合流に安堵し、玉は傑の方に体を向けようとした。しかしその意思と相反し、玉の体は瞬間硬直する。


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 傑の脳から玉の脳へ、膨大な量の記憶が流れ込む。

 玉は一瞬視界が眩み、その場でよろめいた。

「玉!? おい、どうした!?」

 玉の頭の中を傑の記憶が巡る。

 勝利条件…… 梓の顔…… 役割…… 眼鏡を掛けた中年の男性…… 6人…… 死体……。

 玉は嗚咽を漏らし、傑の胸に手をついた。

「おい、玉!!?」

「だ、大丈夫……。ちょっと疲れただけ。ずっと走ってきたから」

「…………。とりあえずどこか中に入ろう」

 この時、優れた洞察力を持つ傑は玉が本当の事を言ってはいない事に気が付いていた。

 それでも傑は玉に肩を貸し、ゆっくりと優しい歩調で歩いていった。



 

「久しぶりの参加者ですね……」

 薄暗く閑散とした大部屋、すっかり老け込んだ老人。

「ああ……フフッ、実に長かった……! 何年振りだ?」

 金髪の男は感慨深げそうに笑みを浮かべる。

「十五年以上振りになりますか……。『第2世代』以来です」

「あ〜、あァ……! フッフッフ、アイツらか……! アイツらは凄かったな……! お前もそう思うな? オイ……!」

 金髪の男は顎で老人を指した。

「ええ……私も、彼ら以上のものはまだ知りません」

「だろうなァ……! フフフ、今でも奴らの事を思い返すだけで笑みが零れる……! ……よし、お前ローキを呼べ!」

「……はっ? ここに呼ぶんですか?」

 老人は驚いた様に聞き返した。

「あァ。なに心配するな、一つ言いてえ事があるだけさ」

「…………」

 それを聞くと老人は黙って部屋を出た。



「……失礼します」

 10分後、ノックと共に若い男性の声がその薄暗い声を訪れる。

「……入りな」

 男は扉を開け、中を見渡した。中には金髪の男がいて、若い男はそれに向かって一礼した。

「……御用ですか?」

「あァ〜……お前、今回の参加者の事は知ってるか?」

「! いえ……来たんですか」

「ああ。今回の参加者は6人だ」

 金髪の男は右手をヒラヒラさせながら話した。

「……それでローキよ。お前ら、こいつら6人には一切手ェ出すな」

 それを聞いた若い男は血相を変えて反論する。

「!!? 何故ですか!?」

「何故? フッフフフ……!! あァ〜すまん、そりゃ当然の疑問さ……!」

 金髪の男は右手で顔を隠しながら笑う。

「……理由を教えて下さい」

「それが『創造主(クリエーター)』の意思だからさ……!」

「!!!」

 金髪の男はローキの前に右手を差し出し、その人差し指でローキに対して「帰りな」という動きを見せる。

「…………。失礼しました」

 ローキは頭を下げ、一人で部屋を出た。すぐに他の男がローキの元に駆け寄る。

「ローキ様! 一体何の話だったんですか?」

「…………」

 ローキは激昂した。

 顔を歪ませ、唇を噛む。


「今回の『参加者』6名、一人残らず皆殺しだ」

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