アリサ[第16章]
きのうから波が荒れてきた。
遊泳禁止の旗が、きのうから立てられている。
その中、サーファー達が、遊んでいる。
朝、ライフセーバー達が浜辺にいた。
何度も注意を受けた、サーファー達だが、聞き入れない。
遊んでいるサーファー達が、浜辺を見ると、セーバーがいない。慌てる、サーファーが、セーバーに言った。
「俺達の、命を?守るのが仕事だろう。」
「アホねぇ。私達、ボランティアなの。だから、あんたを助ける事、ないのよ。」
「遊泳禁止なんだ。それを無視して、楽しんでいるんだ。」
「子供じゃないんだから、遊ぶのは勝ってよ。」
「あんた達、自分の命。自分で守りなさい。」
手を振って、消えた、セーバー達。
「なんだよ。あいつら!」
怒る、サーファー達に、おじいさんが、言った。
「昔、セーバーが死んだからな。」
「生きていたいのなら、セーバー達に、金を渡せ。」
「お前達の命の金を。」
言った。
「いくら?」
「レスキュー隊、一日で、いくらだったかな?」
「親不孝に、死んで、家まで売らないと、言う者を、見て来たが。」
「さぁ。お前が決めたらいいだろう。」
言ってどこかに行く。
買い物袋を持っている、お姉さん、ふたり。
サーファー達を見ている。
「ねぇ!遊ばない?」
「イヤ!」
「はやく帰ったら!」
言って、店の中に、入っていった。
「誘うか!」
行く兄ちゃん。
「ハイ。」
「あっ!この前の兄ちゃんだ。」
子供たちが、来た。
ひきつる、兄ちゃん。
「ねぇ、今日の車、大きい。」
聞いた、子供たち。
お姉さん、ふたりは、キッチンに。
ピアノを弾いている、女の人も。
そして、キレイなお姉さん方が。
子供のひとりが、鼻を押しつけた。
「き!きたねー。」
子供を押し倒した、兄ちゃん。
「コラ! うちの子になにするのよ。」
「なんだと。コラ!」
お姉さんを叩いた男。
倒れた、お姉さん。
「なんだ。子持ちかよ!」
その男に、お玉が、降った。
「痛いだろう!コラ!」
「子持ちで、悪かったな。」
「あんたより子供が痛いんだ!」
言った。女の人。
「てめえ!」
殴る男。に、お玉が。
「なにするんだ!」
と、周りを見ると、女の人達が、お玉を持っている。
ピアノから、レクイエムが流れてきた。
シズカの背中が、大きく小さく、揺れている。
女たちに囲まれた、男ども。
「どうしたの?」
ライフセーバーのお姉さん達が、入ってきた。
汗が流れている、男ども。
「へぇ。そんなことをしたの。」
セーバーのお姉さん達は、ビール瓶を持っている。
「マ、マテ!」
「話合おう。ナ。」
「そうね。でも、子供を殴ったの、誰?」
シズカが言った。
男どもは、ひとりの男を見た。
「私達の仲間を殴ったの、誰?」
シズカが言った。
指を指した。男ども。
「見ていたの、誰?」
シズカが言った。
シズカの手には、馬の鞭が。
笑う、シズカ。
「月の女神に代わって、お仕置きよ!」
シズカの合図で、お玉が。
シズカは、カウンターで、コーラを飲んでいる。
「シズ姉、しないの?」
アリサが。
「これで叩いたら、けがするよ。」
言った、シズカ。
「でも、シズカがしっているとは。」
「ムーンレディ。」
逃げ出した、男ども。
お姉さん達は。
「あぁ。スットした。」
近所の親と、子供達が、非難している。
「アリサ、なんで、店にくるんだ。」
ショーが、聞いてきた。
「それはね。」
アケミが話してくれた。
「アリサが小さい時、台風で非難指示がでたの。」
「でも、子供たちを連れて、非難場所までなんて、無理だった。」
ママが。
「パパ、レストランを非難所にしたのよ。」
「そんな事があったんだ。」
「アリサは、知らないことだけど。」
「なに、話しているの。」
スタッフのお姉さんが、入ってきた。
「台風の話。」
「私もある。」
言うお姉さん。
「台風の中、電車に乗っていると、台風通過って、動かないの。」
「あらまぁ?」
「パンタ何とかも、」
「パンタグラフ。」
「そう、それ。」
「降りて、エアコンも、止まって……。」
「で?」
「3時間も、電車の中で、電車が、ゆれて、揺れて、」
「で?」
「台風、通過した後、点検だって。」
「自動車や、バイクが走ってンのに。」
「大変な目にあったんだ。」
「オイ!」
ライフセーバーのお兄さん、お姉さんが非難してきた。
アリサの手作りの爆弾おにぎりを取って、
「テレビの中継しているぞ!」
言った。
セーバーのお兄さん、お姉さんは、ママの用意してくれた、バスタオルで、拭いている。
「テレビに出られるかな?」
お兄さんが。子供たちは、DVD に夢中でいる。
「おとなしいな。」
「でも、ないよ。」
アリサが。
アニメのエンディングが、騒音合唱が、聞こえている。
「凄い!」
「俺は、台風の時、デパートに閉じ込められた。」
ショーが。
「おふくろと、買い物に行った時、台風が通過して、シャツターが、閉まって、」
「ショーは?」
「上のレストランで。」
「そしたら、トラックが、横倒しになって。」
「えっ?」
「ええ~。」
「見てたの?」
「見えた。」
台風が、荒波が、強くなっていく。
子供たちは、ママに、しがみつく。
「凄い、雨音!」
「大丈夫かな?」
セーバーのお兄さん、お姉さんが、テレビの中継を見ている。「こんな日だったな。」
ママが言った。みんなが見ている。
「サーファーが、外車できていて、看板が、」
笑いだした、ママ。
「車の屋根に落ちたの。」
スタッフが、笑いだした。
「で?」
「それで?」
店に怒鳴り込んだけど、相手にされなかったの。
テレビを見ている、セーバーのお兄さん。
「お天気お姉さん。好きなんだ。」
「そうなんだ。」
冷たい目が、突き刺さる。
「サイン、ほしい。」
呆れた。セーバー仲間。
「で、台風の話。もうないの?」
子供たちが、聞いてきた。
「台風ではないけど、」
言う、セーバーのお姉さん。
「寒い冬の朝。」
「さむい、ふゆのあさ。」
お姉さんが、笑った。
「あさ……。」
唾をのみ込む、子供が。
「地面が氷っていて、大きいトラックが、一回転したの、見たことある。」
「……。!」
「凄い!」
「で?」
「止まったけど。見た私でも、凄いと思った。」
「お化け!好き?」
お姉さんが、言った。
「嫌い!」
「好き!」
声を上げる子供たち。
「なんなの?」
「教えて?」
「あのネ。私がお化け嫌いになった話なの。」
「子供の時、親戚のお兄さん、お姉さんと、遊園地に行ったの。」
わくわくする、お姉さん達。
「で、お化け屋敷に入ったけど、おもしろい!」
「って、2回入った。」
「で?」
「その晩、ゆめに出て、『また、遊びにおいで。』って。」
手が、あのかたちになっている。
お姉さん達が、子供たちの後ろで、懐中電灯を。
ある子供は、泣き出して、ママに。
悲鳴を上げる子供も。
背中に氷をいれた、ママさんが。
みんな、青くなったり、笑いそうになったり。
「昨日の朝の番組見た?」
「どんなの?」
「お化け嫌いの、女の人が、お化け屋敷で、レポートするの。」「かわいそう。」
「で? どうなったの?」
「入る前から、ダメで、もうひとりの人に押されて……。」
「途中動けなくなって。」
「かわいそう。」
「って、笑っているの。この子は。」
「でも、よくよくある話よね。」
「この前のテレビ、廃棄の屋敷に入った人が、怖さの余り、逃げだしたの。」
「カメラ、投げだして。」
「そのあと、行ったら、お化け、映ってたって。」
「人よ。人。」
「かな?」
「でも、アイツ、許さない。」
ビールを、イッキ飲みした、セーバーのお姉さん。
「思い出した。よけい、ハラたつ。」
「この前、遊園地のお化け屋敷に入ったの。」
「で?」
「怖がって、抱きついて、女の子らしくして、と、思ったけど。」
「うん、うん。」
「男が、怖がって、」
「で?」
「お化け、殴って、逃げだしたの。」
「お気の毒。」
「御愁傷様。」
「で?そのあとは?」
アリサが。
「もう、口、聞いてない。」
テレビは、各地の台風中継に入っている。
「台風の中、大変ね。」
「後で、おにぎり、もっていく?」
言った、お姉さん。「お、俺、いく。」
セーバーのお兄さんが、涎を出して言う。
「ハイハイ。連れていくから。」
言う、お姉さん。口が止まった。
「誰、わさび漬け、入れたの。」
涙が。
「やった!」
アリサが。
「アリサ!」
逃げる、アリサ。ショーのうしろにかくれる。
「アリサのイタズラ。変わってないンだから。」
テレビが、スタジオから、お天気お姉さんに変わった。
中継する、お天気お姉さん。
「好きなんだ。」
笑う、セーバーのお兄さん。
かわいそうな目で見る、セーバー仲間達。
「夢をかなえさせてあげようか。」
と、アイスコーヒーを、お茶を、サンドイッチにおにぎりを、カゴに入れた。
テレビを見ている、お兄さん達。
お天気お姉さんの前を、黒いものが、横切った。
ドアを開けて、走り出した、お兄さん。
「えっ!」
男共が……。
「ハヤ!」
あきれる、お姉さん。
テレビのキャスターが、「大丈夫ですか?」
と、聞いている中、
「ここは危険です。」
と、お姫様だっこして、レストラン【インファントに】、に運んだ。
キャスターは、
「なにが行ったの?」
と、パニックに。
「凄い!」
お姉さん達も、子供たちも、爆笑で、迎え入れた。
カメラが、追いかけて来る。
「大丈夫ですか?」
お兄さんに、うなずいた、お天気お姉さん。
「ここは?」
「中継の近くのレストラン【インファント】よ。」
アリサママが、おしぼりを持って、お姉さんの顔を拭いている。カメラが撮っている。
「チクショウ。」
お兄さんが、タオルをくわえて。
「大丈夫?」
スタジオの、キャスターのお姉さんが。
「大丈夫よ。」
「見て、わからないの。」
アケミと、アリサが、マイクを取り上げて、言う。
カメラがふたりを映している。
「あなたは、誰?」
「お天気お姉さんに代わって。」
「アホキャスター。この娘の前に、看板が飛んだのよ。」
「今、話なんかできないでしょ。」
アイスコーヒーを持って来た、シズカが、怒った。
まだ、セーバーに抱きついている、お姉さん。
セーバーのお兄さんが、
「うまくやりやがって。」
と、流した。
全国の、テレビの前の、ファンが、言った。
「恐かったでしょ。」
カメラを見ながら、言った。ママ達。
「お姉ちゃん。大丈夫?」
子供たちが、集まって来る。カメラを見る、子供たちも。
スタジオのキャスターに、コメンテーターは、見ているだけだった。
「大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫よ。」
立とうとする、お姉さんを、子供たちが、押し付ける。
「お姉ちゃん。お兄ちゃんが、助けてくれたのよ。」
と、お姉さんのとなりに座らせる、子供たち。
「お兄ちゃん。」
「なにか言いなさい。」
子供が、言う。
「あの、ファンです。テレビを見てて、おもわず、身体が動いて。」
真っ赤な顔をして、言う。セーバーのお兄さんに。
横に、ワタルと、シズカが。
「もう、この人は!」
シズカが、お兄さんの背中を、バシッと。
背中に、もみじの森を、作った、お兄さん。
「大丈夫ですか。」お天気お姉さんが、心配になって、聞く、場面も。
「クー。だ、大丈夫です。」
テレビに写っている。台風情報より、おもしろい、と、テレビ局に。
次の、台風情報の時は、セーバーのお兄さん達が、お姉さん達が、お天気お姉さんを守っていた。
台風の話を集めてみました。 自分の、仲間の、体験や、聞いたことを。 電車に、閉じ込められたのは、自分です。 凍結した道路で、大型トラックが、一回転したのを、見たのも、自分です。回りに、自動車がなかったことも、事故にならなかったのだと。 お化けの話も、自分です。幼稚園の頃、遊園地に遊びに行った夜、お化けが、出てきました。それ以後、お化けが、ダメになって。 お化けを殴ったのは、自分の仲間です。あれから、モテなくなったと、言ってました。