いざ、ダンジョンへ20-4
「良ぉし間に合った!」
転移した先での小鬼の槍をダムクは間一髪防ぎ、4人の冒険者を護った。
何も無い虚空から、突如として出現したエルガルム達に小鬼達は驚愕し、攻撃の手を止め思わず数歩後退してしまう。
「良いなシャラナ、彼等の治療の前に小鬼の掃討じゃ」
「はい、先生!」
エルガルムの指示にシャラナは素直に了承する。
「行くぞ!! 小鬼の掃討開始だ!!」
転移直後、ダムクは気合の入った声を上げると共に大剣を抜き、流れる様に斬撃を眼前の小鬼8匹に放つ。
「武技〈剛斬撃〉!!」
剣士の武技による一太刀が横一線閃き、眼前の小鬼を防具ごと容易く一刀両断する。
それと同時に、小鬼の弓手がほぼ同時に頭を射抜かれ、更には次々と恐ろしい速さで首が掻き斬られ、呆気無く即死する。
ミリスティの刹那の射撃と、ミュフィとライファによる刹那の暗殺だ。
「ハッハァ!! 如何した如何した小鬼共!! 先程までの威勢は!!」
ヴォルベスは縦横無尽に暴れ回り、野蛮な狼ごと小鬼の騎手を拳や脚で瞬殺する。
小鬼達は阿鼻叫喚と言わんばかりに悲鳴を上げ、慌てて逃げようとする。
指揮官である大柄な小鬼も急な展開に動揺し、逆転した現状を立ち往生しながら見るしか出来なかった。
そんな大柄な小鬼の前に、ガイアが立つ。
(どうもー、大柄な小鬼さーん)
眼前に現れた見た事の無い奇妙な生きる岩石に、大柄な小鬼は目を丸くする。
な、何だ此奴は?
急に現れた人間の仲間なのか?
にしても小さい。配下共に近い大きさだ。
――――もしかして、此奴弱いんじゃないか?
そう見解した大柄な小鬼は、手に持った鉄製の大棍棒を高く上げ、大きな濁声を上げながら眼前のガイアに向かって勢い良く振り下ろした。
鉄製の棍棒が直撃すれば、身体の構成が岩石なら粉砕するのは容易い。
杞憂だったと大柄な小鬼は嗤い――――。
「ゲギャッ!!?」
しかし、殴った直後に殴打の衝撃が大柄な小鬼の手と腕に伝わる。
伝わる衝撃は痛みと生じ、手は痺れを来す。
そして殴打した眼前のガイアは僅かな罅割れすら全く無い。その上、まるで何もされていないかの様な平然とした様子だった。
これには大柄な小鬼は驚愕し、目を大きく見開く。
(良ーし、じゃあ今度は僕の番だ)
ガイアは常時発動している〈縮小化〉の特殊技能を解除し、己の身体の大きさを元に戻した。
大きく為った――――いや、大きく戻ったガイアの身体は大柄な小鬼を超え、見下ろす側と見上げる側が入れ替わる。
大柄な小鬼は醜い顔を引き攣らせ、無意識に数歩下がってしまう。
(武技、軽ーく〈剛拳〉)
そんな大柄な小鬼に、ガイアは初歩の武技を使用し軽々と殴り飛ばす。
軽々とは相反する重い打撃音、砕ける鉄鎧、そして壁に叩き付けたけたたましい音がほぼ同時に轟いた。
大柄な小鬼は自身が殴られた事すら認識出来ず、瞬くが如く、呆気無く即死した。
その瞬間を、その光景を目の当たりにした4人の冒険者は愕然の表情を浮かべる。
そして小鬼達も、自分達よりも強者である指揮官が一撃で瞬殺された恐ろしい光景に愕然とし、身体を硬直させてしまった。
ほんの僅かな静寂の直後、数匹程残った小鬼達の絶叫が響き渡る。
醜い下劣な笑みを浮かべていた顔が恐怖で歪んだ小鬼達は、慌てて逃走し出した。
「あらあらぁ逃げる気?〈石壁〉」
逃げ出す小鬼達に対し、ベレトリクスは杖の石突部分を地面に突き、魔法を発動させ退路を完全封鎖する。
「悪いけど、逃がさないわよ」
妖艶な笑みを浮かべるベレトリクスは、冷たく鋭い視線を小鬼達に向ける。
その視線には小鬼達の表情はより恐怖で歪み、背筋を凍て付かせた。
「ふむ、残りは7匹という所かの。ではシャラナ、遣ってみなさい」
「はい」
師に言われ、シャラナは短杖を小鬼達が居る前方へ突き出し、魔法を発動させた。
「此方へ来なさい。〈突風炸裂〉!」
通路を封鎖する壁付近に突風が炸裂し、小鬼達は逃走とは逆方向に吹っ飛び宙高く舞う。
「〈魔力の槍〉!」
其処にシャラナは魔力で構築した槍を5本を放ち、宙に舞う無防備状態の小鬼5匹を狙い穿った。
吹っ飛ばされた小鬼達は地面に転がり落ち、穿たれ死んだ小鬼は地面に血を撒き散らす。
「〈魔力の刀剣〉!」
シャラナは短杖を媒介に、魔力で構築された刃を創り出し、前へ走り出す。
慌てて起き上がろうとする小鬼の首を的確に狙い、魔力の刃で残り4匹の小鬼を速やかに斬り伏せた。
掃討劇は終幕し、小鬼の声は消え、この場の空間は静寂と為る。
「ミリスティ、周囲の気配確認」
「大丈夫、近くにも遠くにも居ないよ」
ダムクからの確認に対し、ミリスティは自分達が居る場所から広範囲内に魔物の気配が無い事を報告する。
「良し! 掃討と救出の完了だ!」
駆け付けてから掃討完了まで1分掛からず、あっという間に終わった。
「それなりに数が居たとはいえ、準備運動にもならんかったな」
「そりゃあヴォルにとっては赤子を捻る様な相手だもん。まぁ、私もだけど」
「人型の魔物は首、掻き斬り易い。小鬼の身体の構造、人と殆ど同じだから仕留め易い」
他の3人は其々、小鬼掃討後の感想を口にしながらダムクの下へ歩み寄る。
「ライファ、御苦労様です」
「はい、ありがとう御座います。御嬢様」
戻って来たライファにシャラナは労いの言葉を送り、それに対しライファは御辞儀をする。
「ンンンンン」(大柄な小鬼やっつけたぁ)
「はい、ガイアも御苦労様」
そしてのそのそと歩み寄って来たガイアにも、労いの言葉を送りながら大きな頭を撫でた。
「無事か、後輩諸君?」
ダムクは後ろへ振り向き、4人の冒険者にニッと笑みを向けながら安否を問い掛ける。
「は……はい…」
4人の冒険者は未だ呆然としながら、ダムクからの問い掛けに返事をする。
「す…凄ぇ…! S等級冒険者一党――――堅実の踏破だ…!」
剣士の男は尊敬の念が籠った声音で口にする。
「あぁ…! それにあの2人、賢者エルガルム様と魔女ベレトリクス様だ…!」
もう一人の男の剣士も同じ念を抱きながら驚嘆し、豪華な面子をその目に映す。
「御主ら危なかったのう。後僅か儂等が遅れれば殺られてた所じゃった。間に合って良かったわい」
エルガルムは負傷により腕が上がらない剣士に語り掛けた後、シャラナに声を掛ける。
「シャラナ、治療をして上げなさい」
「はい」
師の指示にシャラナは了承し、負傷する2人の剣士に対し魔法を発動させる。
「じっとしていて下さいね。〈中傷治癒〉」
シャラナの治癒魔法により、2人の剣士の負傷が見る見る塞がり消えていく。
(この人達、若いなぁ。シャラナと同年代か少し近い歳位かな?)
それを他所にガイアは彼等4人の冒険者の全体を観察し、彼等の首に下げている金属板を目にする。
(銅の金属板………えーっとぉ、金がC等級だから……銀がE……、F等級の冒険者か!)
F等級を示す銅の金属板を下げているという事は、彼等は駆け出しの冒険者であるとガイアは理解した。
「治癒は終わりました。もう大丈夫です」
治療魔法が施された2人は負っていた怪我の箇所を直に触れ、腕を動かし痛みが生じるかを確認する。
「ありがとう、助かった。しかし驚いた、君は聖職者だったのか」
先程の使用した系統魔法を観て、如何やらシャラナを純粋な魔導師と思っていたようだ。
初見でだと、そう思うのは無理も無いかもしれない。
「今の治癒魔法……もしかして神殿の高位聖職者の方なんですか?」
剣士2人の後ろから出て来た女の魔導師が近寄り、恐ず恐ずとした感じでシャラナに尋ねた。
「いえ、私は神殿に所属する聖職者ではありません」
「え!? そ、そうなんですか? 中位級の治癒魔法を使ってたから、てっきり神殿で信仰と修練を積んだ御偉い聖職者様だと思いました」
階位級が高い神聖系統魔法を扱える聖職者は、大抵自国の神殿に所属し、其処で神々を信仰し、聖なる魔法と治癒の魔法を学び、精神と魔力を高めた道徳心を有する者達を指す。
そんな常識の様な認識が故、彼女はシャラナが神殿関係者なのではと思ったそうだ。
「シャラナは儂の弟子でな。全てでは無いが、神聖系統を含むあらゆる魔法の術を儂が教授し育てたんじゃよ」
「賢者様の弟子!!?」
そのエルガルムの言葉に4人の冒険者は驚きの声を上げた。
「いえ、あの…、私は未だ未だ未熟者ですので」
「いやいやいやメッチャ凄ぇよ!! 賢者様に弟子入り出来るなんて、魔導師にとって誉れってやつだよ!! なぁニーファ!!」
ニーファと呼ばれた女の魔導師は、幾度頷き同意を示す。
世の全ての魔導師にとって賢者エルガルムの存在は偉大であり、そんな彼に弟子に成るという事は名誉の様な物なのだろうと、彼等4人の駆け出し冒険者の反応を観るガイアはそう思った。
「良いなぁ。やっぱり魔導師の誰かに教えを請いた方が直ぐ上達するのかなぁ?」
「あら、魔法の腕が中々上がらなくて行き詰ってるって感じかしら?」
悩む彼女にベレトリクスは妖艶な微笑を向け、そう訊きながら歩み寄る。
絶世の美女を目の前にした4人の駆け出し冒険者は、ベレトリクスのその美麗な顔立ちと煽情的な身体のプロポーションに見惚れる。
「……デカい…!」
特に男2名は彼女の大きな双丘に。
「おいコラ男子…!」
剣士2人の視線がベレトリクスの胸に向いているのに気付いた女の弓使いは、彼等2人を睨み付け叱責する。
「あらあら、見惚れちゃった? 可愛い子達ね」
ベレトリクスは一切気にしてなかった。
「あんた、使える系統魔法は?」
「え、は、はい! えっと、土系統しか……」
「なるほど。じゃあ魔導師の特殊技能は幾つ修めてる?」
「特殊技能は〈魔力操作〉と〈土系統魔法制御〉しか……」
「自信を無くす事じゃないわ。あんた未だ魔導師に成って月日は浅い方でしょ。寧ろ、それで使える系統魔法の制御系特殊技能を修めてるのは上出来な方よ」
自分の力に対し自信が余り持てなかった彼女に、ベレトリクスは褒める。
「あんたなら魔力量を増やせば、自然と覚えられる魔法の数が増えるわ。その為には先ず特殊技能〈精神統一〉を修得しなさい」
「〈精神統一〉……?」
「そう。その特殊技能は瞑想する事で、魔力の自然回復速度を高める事が出来る魔導師の特殊技能よ。修得方法は実際に瞑想し、己の内に在る魔力に意識を集中する事。口で言えば簡単に聞こえるけど、修得するのに結構苦戦するから1日や数日で直ぐに得られない事は覚悟しておきなさい」
ベレトリクスの助言に対し、ニーファは無意識に集中してしまう程に聴き入っていた。
魔導師の偉人からの貴重な助言だ。それを無駄にしたくないという思いからだろう。
「自力での魔力回復手段が修得出来たら、ひたすら魔法の修練よ。あと土系統魔法を扱う際に土や石、金属に関する知識を身に付けなさい。魔法で干渉したり創り出して操る物質の知識が有ると大分違って来るから。あ、金属の方は鉄からね。頑張りなさい」
「あ、あ、ありがとう御座います…!」
ベレトリクスからの助勢の言葉に、ニーファは花が咲いた様な感激の笑顔を浮かべるのだった。
「ところで、お前達は現在依頼の途中か?」
ダムクは4人の駆け出し冒険者に尋ねる。
「はい。野蛮な狼の毛皮を納品しに戻る所だったんですけど、皆さんが見た通り、帰りの途中で小鬼の群れに追われて現在に至ります」
「そうか、そりゃ災難だったなぁ」
ダムクは倒した小鬼達の死体をざっと観る。
「何奴も武装をしてやがるな。しかも大柄な小鬼まで」
武装した小鬼に遭遇するのは決して珍しい訳ではないが、それが多数となると話は違ってくる。
この上層部序盤で何かが――――いや、このダンジョン内の小鬼達に何かしらの異変が起こっているのではとダムクは予想する。
「なぁ、ちょいと確認で訊きたいんだが、ただ小鬼共に追われてた感じか?」
ダムクは後輩の冒険者4人に問う。
「ううん、違う。追われてた途中で小鬼の騎手に待ち伏せされた。統率的な行動はあの大柄な小鬼が居たからだと思う」
ダムクの問いに対し、女の弓使いが答えた。
「しかも彼処の通路が岩で塞がれて、それで私達逃げ場が失ったんです」
女の弓使いが指差した先に在る岩をダムクは目にする。
「なるほど、別の小鬼共が待ち伏せをしていたのか……」
通路を塞がっていた、待ち伏せをしていた、という所に引っ掛かったダムクはある確信を抱いた。
「こりゃあ大柄な小鬼とは別の上位種が居るな」
「え!?」
ダムクが口にした確信に、4人の駆け出し冒険者は驚きの声を上げる。
「群れで追い回すだけならその可能性は低いが、別の場所で待ち伏せなんてするのは、小鬼共の中に知恵が有る上位種が居るって事だ。大柄な小鬼はそこまで知恵は回らないからな」
「知恵が回る小鬼の上位種と言えば、魔法を扱える小鬼の魔導師ですね」
シャラナは師に教わった魔物の名称を口にする。
「そう。そしてこの数から見て、群れを成した小鬼共の巣が何処かに在る筈だ。規模はどれ程かは判らねぇがな」
「群れの指揮を執っておるのが小鬼の魔導師の可能性が在る他に、小鬼の邪教徒の存在も予想に入れておいた方が良い。群れの規模によっては魔法を扱える小鬼が複数居るじゃろうからな」
小鬼の邪教徒。
それは小鬼達にとっての聖職者であり、小鬼が持つ性質が故に邪悪な魔力を持った闇の魔導師。悪と邪が具現化した存在とされている悪魔、そして邪神を信仰する小鬼の上位種である。
小鬼の魔導師と同様に身体能力は他の小鬼と同じ水準ではあるが、卑劣な悪知恵と高い魔力を有している。
そして小鬼の魔導師とは違い、治癒魔法や精神干渉魔法を得意とする厄介な魔物でもある。
「そうなると…駆け出し水準の冒険者が危ねぇな。巣を見付けて潰した方が良いな」
ダムクはそう考え、エルガルムに今後の一時的方針を確認する。
「エルガルム様。ちょいと寄り道する事に為りますが、上位種が居る小鬼の巣の捜索と掃討しに行こうと思いますが宜しいですか?」
「構わんとも。寧ろシャラナにとっては中々得られん経験をさせられそうじゃ。何より、小鬼共に関するこの異変を放置する訳にはいかんしのう」
ダムクの問い掛けに対し、エルガルムは鷹揚に了承を口にした。
「方針は決まったか、リーダーよ」
話が終わりこの後の目的が決まったとヴォルベスは確信し、ダムクに問い掛けた。
「ああ。だがその前に、小鬼の死体から魔石を取り出して野蛮な狼は更に解体して毛皮を剥ぐぞ」
ダムクの指示に仲間3人は其々了承の返事をし、地面に転がる小鬼の死体を切開し、野蛮な狼の死体を解体し毛皮を剥ぎ取る。
「俺達も手伝います!」
4人の駆け出し冒険者も彼等に続き、小鬼から魔石を取り出し、野蛮な狼の毛皮を剥ぎ取りに掛かった。
堅実の踏破は手際良く小鬼と野蛮な狼を、4人の駆け出し冒険者は未だ手馴れない手付きで小鬼と野蛮な狼を、そしてシャラナはベレトリクスに毛皮を剥ぎ取る手法の説明を受けながら野蛮な狼の解体をする。
エルガルムは感知系特殊技能で広範囲の警戒、ライファはシャラナの近辺を護衛し、ガイアはシャラナの傍で解体の過程をジッと観ていた。
剥ぎ取られた毛皮の下からピンク色の肉が露わにし、生々しいそれを目に映したガイアは「う……」とグロテスクな何かを見た不快感を少し催す。
反射的に一瞬目を逸らしてはまた見てを、ガイアは幾度か繰り返す。
「………あの、訊いても良いですか?」
数体ほど解体した4人の駆け出し冒険者の代表であろう剣士の男が、念の為に周囲を特殊技能で警戒する賢者エルガルムに尋ねる。
「ん? 如何した?」
駆け出し冒険者4人の代表であろう剣士の男は、視線をある存在へと向ける。
「あの生き物は何なのでしょうか? 動像……ではないんですよね?」
見た目は岩石の動像の様だが、非生命体とは思えない自立性を感じる。大きな背には極小規模な草原が茂り、小さいながらも無数の木の葉を付けた立派な樹木が宿っている。更には背から突き出し生えた幾種もの鉱石と原石の煌びやかさは思わず凝視してしまう。
そして何より、大柄な小鬼を一撃の拳で瞬殺した圧倒的膂力には驚かされた。
「希少な魔獣か何かですか?」
「いんや、ガイアは神獣じゃよ」
「………え? ……………ええ!!!?」
エルガルムは愕然する事実をさらっと口にし、それを聴いた4人の駆け出し冒険者はポカンとした表情をした。そして僅かな時間経過後、彼等4人は愕然の声を上げてしまうのだった。
「え、ちょっ、し、神獣って、あの神竜バハムートとか神狼フェンリルと同じ……!!?」
「ホッホッホッ、まぁ口で言っても普通は信じられんじゃろう。じゃが本当じゃ。彼処に居るのは本物の幻神獣じゃよ」
4人の駆け出し冒険者は愕然の表情を固めた儘、視線を再びガイアに向ける。
普通なら誰も信じない事実であるが、賢者エルガルムの言葉なら彼等4人は信じる事が出来た。
「そりゃ驚くよなぁ。俺達も直ぐには信じられなかったし、その反応は当然だ」
作業を終えた堅実の踏破が彼等4人の下へと近付き、ダムクは同情を口にする。
「しかも此奴は神獣様だと知った途端に試合を挑んじまうしよ」
そして困った笑みを浮かべ隣に居るヴォルベスを親指で差す。
「神獣様に挑んだ!!!?」
当然、4人の駆け出し冒険者は愕然とする。
「くははははは。負けはしたが実に良い試合だった」
「あのなぁ、死に掛けた癖に良く言えるなぁ」
愉快そうに笑うヴォルベスに対し、ダムクは呆れた笑みを向ける。
(あのS等級のヴォルベスさんが死に掛けるって、いったいどんな試合をしたの!!?)
4人の駆け出し冒険者には、神獣とヴォルベスの試合が如何に熾烈だったのか想像が出来なかった。
「先生、解体終わりました」
そんな会話の他所に、野蛮な狼を解体していたシャラナも終え、ライファとベレトリクス、そしてガイアと共に皆の所へ集った。
「どれ、ちょいと見せて貰うぞ」
エルガルムはシャラナが手に持つ毛皮を手に取り、品質を確認する。
「ふむ……上手く出来とるな。これなら手順の説明無しで、危険度が低い狼系の魔獣種なら1人でも解体出来るじゃろう」
「先生、後これも」
エルガルムはシャラナからビー玉程の大きさの魔石を受け取る。
(あれが魔石かぁ)
魔石とは、ダンジョンから生まれた魔物などの体内に宿る魔力と生命力が混ざり固形化した物質であり、種類や個体によっては特別な魔力が宿っている魔石も存在する。主な用途は魔道具系の素材、そして簡易的な魔力供給源として使われている消耗資源である。
因みに、何故ダンジョンから生まれた魔物などにだけ魔石が宿っているのかは、未だ解明されていないダンジョンの謎の1つである。
ガイアは初めて見る不透明な紫黒の石を観察し、〈魔力感知〉の特殊技能で魔力が宿っているか如何か調べてみる。
(お、少しだけど宿ってる。けど何だろう、魔力以外にも何か宿ってる感じがする様な……)
ガイアは魔石に宿る魔力に、何かが混同している様な違和感を感じ取るが、それが何なのか解らず首を傾げる。
「良し、そんじゃあ素材を入れられる物を持っているな?」
ダムクは4人の駆け出し冒険者にそう問い掛ける。
「は、はい。冒険者組合で貸し出しされた収納小袋1つ」
「この魔石と毛皮はお前達が持って行きな」
「え!!? い、いやそれは倒した皆さんの物ですよ! 貰えても俺達が倒した小鬼6匹分の魔石ぐらいしか……!」
「このくらい何て事無ぇよ。冒険者は最初の内、駆け出しは金銭面に苦労するのは良く知ってるからな。これは俺達先輩から頑張る後輩への投資だ。つっても、小遣い程度にしかならねぇかもしれねぇがな」
ダムクはニカッと笑い、小鬼と野蛮な狼から取り出した魔石を全て後輩の冒険者に渡し、それに続き他の堅実の踏破の仲間も魔石と毛皮を譲渡する。
渡す、というよりも半ば強引に彼等の魔法の小袋に突っ込む形ではあるが。
「それに新しい武器や防具を買う金が必要なんじゃないか?」
ダムクは剣士2人の少し刃毀れした剣と壊れ掛けの防具を一目見て、彼等の冒険者業の現状の予想を口にする。
ガイアも強度が消耗した武具を目にし、駆け出しで苦労する彼等に何かして上げられないだろうかと少し考える。
(……そうだ)
僅かな思考の後、思い付いたガイアは背に有る鉄鉱石を掴む。
(んしょ)
そして掴んだ鉄鉱石を、細い焼き菓子の様に容易く圧し折る。
「!!!?」
そんな突如の光景に、駆け出し冒険者の4人は目を丸くした。
(ちょっとこれだと大きいな。もうちょい小さくして……)
圧し折った鉄鉱石の塊を小さく幾つかに分けようとガイアは更にべきべきと割った。
(良し、この位の大きさなら不自然に見えないでしょ。はいどうぞー)
採掘される鉱石の大きさ――――あくまでガイアの予想――――に合わせ幾つかに分けて小さく割った鉄鉱石を、ガイアは駆け出し冒険者の魔法の小袋に注ぐ様に全て入れるのだった。
「えっ、ちょっ、ええ!!?」
自由奔放的なガイアの善意に対し、駆け出し冒険者はその突然の事に動揺するのだった。
(後はあの娘だ)
そしてガイアは、女の魔導師ニーファに近寄る。
「えっ? えっ!? ええっ!?? 何ですかーっ!??」
何故近寄って来たのか解らず、女の魔導師ニーファはより大きく動揺する。
そんな彼女にガイアは手を翳し向け、特殊技能を発動させた。
(特殊技能〈魔力譲渡〉)
ガイアの身体から魔力が放出され、それはニーファの身体へと流れ込んだ。
(はい、終わり)
魔力の譲渡が終わった後、女の魔導師ニーファは自身の魔力が完全回復した事に呆気な表情を浮かべる。
「……あれ? 魔力が回復した」
「うっそマジか!!」
代表ではないだろう剣士の男は、その事実を聴き驚愕するのだった。
「今のって魔法!?」
女の弓使いも驚きの声を上げた。
「ホッホッホッ、今のは特殊技能〈魔力譲渡〉じゃ。ガイアは御主に魔力を分け与えたんじゃよ」
それを聴いた女の魔導師ニーファは、驚愕の余りに絶句してしまうのだった。
「良かったじゃねぇか。神獣様からの贈り物を貰えるなんて滅多に無いと思うぞ」
ダムクの言う通り、人が神や幻神獣から何かを下賜されるのは滅多に無い事だ。人の生の内でたった一度在るか無いか――――いや、数千か数万年の内、この世の幾億もの人の中からたった1人が選ばれ、施しを受けられる奇跡の瞬間と言って良いだろう。
しかし、ガイアは特別な事をしているつもりは全く無く、自分も今の彼等に見合った何かを上げるべきだろうと思っての事だ。
上げたのは上質な只の鉄鉱石、そして魔力が殆ど無い状態で帰る彼女には身を護る術が無いから危険だろうと魔力を分け与えただけ。
ガイアにとっては、当たり前の親切心による行動である。
「神獣様に祈り感謝しとくと良いぞ。きっと御利益がある」
「ははー! 有り難やー、有り難やー!」
ヴォルベスの言葉に4人の駆け出し冒険者はガイアに向かって感謝を込めた祈りを捧げ出し、祈られるガイアは「そこまで感謝される事はしてないんだけどなぁ…」と内心困った笑みを浮かべるのだった。
「お前達は一度冒険者組合に戻って依頼で指定された毛皮を納品した後、また違う依頼受注して潜るだろ? 小鬼共の巣は俺達が潰して、上層部序盤の危険度を戻しとくから安心して潜って良いぞ。依頼の方もしっかり遣れよ」
「はい! ありがとう御座います!」
「良し。そんじゃあ行く前に――――ヴォルベス、あの岩壊しといてくれ」
「応」
ヴォルベスはダムクの指示に従い、通路を塞ぐ岩に近付き殴り付ける。
殴られた岩はいとも簡単に粉砕され、塞がれた通路が開通した。
「す……凄ぇ膂力……!」
その人として圧倒的な膂力に2人の剣士は、憧れの眼差しを向ける。
俺達も何時か――――あんな風に強く成りたいという思いを抱き。
「さぁて、今度は小鬼共の巣の探索と掃討だ!」
そうして彼等は来た道を途中まで引き返した所で別れ、4人の駆け出し冒険者は毛皮の納品する為に出口を目指して冒険者組合へと一旦戻り、エルガルム一行と堅実の踏破の一党は小鬼の巣の探索しにダンジョン内を進むのだった。




