いざ、ダンジョンへ20-2
岩石広がる地下空洞。
其処は不規則に広狭な空間が、何処までも続き広がる空無き地下迷宮。
魔物や魔獣達の巣窟であり、素材の宝庫。
そして、隠れた富と未知の脅威が眠る、夢と悪夢が入り混じる広大な領域である。
そんな世界へと踏み入れたエルガルム一行と堅実の踏破の一党が、土が混じる石の地面が続く地下空洞を進んで行く。
(不思議だなぁ……。ダンジョンの造りは地下洞窟なのに、それなりに明るいなんて…)
彼等と共に列を成して歩くガイアは、地下ダンジョンの空洞内をキョロキョロと見渡す。
此処ダンジョンに潜り始めてから通った空洞内に燭台は1つも無く、辺りを照らす魔法の〈魔法照明〉や魔道具の魔法照明角灯が無くても、普段通りに視界が通る明るさだ。
周囲の岩や土が、空間に光を照らしている訳では無い。目に映るそれ等は何処にでも在るただの土石である。
昔の一説では、ダンジョン内に生じている魔素が空間内を照らしているのではと唱えられていたが、それは全く関係無かったと証明され、その一説は否定された。
しかし、何故こうも視界が通る明るさが在るのかは未だに解明されず、現在もそれは謎の儘である。
謎と言えば、この地下ダンジョンの造りもそうだ。自然に出来た物なのか誰かの手で造られた物なのか、判断が付かない。
未だ潜り始めたばかりだが、ついつい辺りを見渡したくなる。
だが、全く警戒していない訳ではない。
地下ダンジョンに潜り始めてから、ガイアは特殊技能〈魔力感知〉を常時発動させており、前方に限らず左右後方と、視界が届かない広範囲の警戒をしている。
ガイアに限らず、エルガルム、ベレトリクス、シャラナも〈魔力感知〉を常時発動させ、ミリスティも同様に〈魔力感知〉と〈気配感知〉の特殊技能で魔物種の存在を常に探り冷静に警戒している。
ヴォルベスも〈気配感知〉を常時発動させてはいるが、感知力が高いミリスティ等に任せ、感知系特殊技能を擦り抜け奇襲して来る存在に対する警戒を担当する。
感知系特殊技能を持たないダムクは後衛職を護る盾役として、大型の盾を構えながら先頭を歩く。
ミュフィとライファは斥候役としてダムクの更に先へと先行し、自身の気配を殺しながら進行方向の先の様子を窺う。
ダンジョン上層部とはいえ油断は持たず、だが気は余り張らず平静を常に保つ。
そんな彼等は今回かなり気合が入っており、その証拠となる装備を身に着けていた。
ダムクが普段装備する神秘の銅製の大剣に加え、腰の左右其々に広刃の直剣と大型短剣を差していた。その2本も大剣同様に神秘の銅製であり、鋭利性や頑丈性、酸や高熱への耐性付与魔法が施された魔法の武器である。
彼が大剣以外にも2本帯刀するのは、狭い場所での戦闘が出来るようにする為である。
広い場所での戦闘なら威力が高い大剣が発揮するが、狭い場所となると大剣を思うように振れず、逆にそれが邪魔に為ってしまう。
故に大剣1本では対処出来ない狭い場所の場合、刀身が短い直剣や短剣の方が力が入った剣撃を繰り出し易い。特に至近距離での戦闘の場合は短剣が一番有効である。
そして鎧の下で視認出来ないが、首に上位抵抗の首飾りを下げ、腰には上位膂力の革帯を身に着けている。
ミリスティも弓に加え魔化された真の銀製の短剣を腰に差し、頭部には魔導精神の頭飾りと呼ばれる小さな翠玉が嵌め込まれた真の銀製の魔法装身具に、長い両耳には聴器保護の耳飾り、そして毛皮鎧の上から風纏いの守護外套を羽織っている。
ヴォルベスは両腕両脚と首、腰に身に着けている魔法装身具に加え、普段着ていた革製胴着から替え、不撓闘士の黒革胴着と呼ばれる背中部分に力強さを印象付ける意匠の紋様が真銀糸で刺繍された上質な黒革製の胴着を着用している。
現在先行し偵察しているミュフィも普段の装備に加え、防衛の護符首飾りと呼ばれる緊急防御用の魔法が込められている魔法装身具を首に下げていた。
そんな冒険者一党よりも、エルガルム一行の装備の方はもっとはっきりと変化していた。
シャラナは異世界に転生し始めて遭遇した時の装いとは違い、以前見た装備よりも品質上げしていた。
動き易さを重視し伸縮性に優れた白地襯衣の上から守護の魔導衣、体力持続の革鎧、そして手には魔力盾の革手袋を付け、肌にぴっちりと吸い付く履き心地のある伸縮性抜群の長洋袴の腰に気力保持の革帯、脚には真の銀製の脛当てが付いた飛翔の長靴を履いている。
更に首には聖十字架の護符下げ飾り、魔導衣の上から中位抵抗の外套を羽織り、左の革手袋の手首には熟練魔導師の腕輪を身に着けている。
短杖ホルダーに差している物も以前と変わり、白木の如く純白な色彩に真の銀の小さな十字架が嵌め込まれ、それを中心に木蔦の意匠を真の銀で再現し細工が施された短杖――――神官の聖短杖を身に着けていた。
それ等全ての装備品は師であるエルガルムやベレトリクスから、B等級冒険者と成った祝いの品として貰った物である。
それには正直羨ましいとガイアは今も思っている。
衣類や鎧といった防具類は流石に無理でも、大型の武器や盾、短杖や杖、装身具といった魔道具類は身に着けてみたいという子供の様な心境は抱いてしまうものだ。
いや、実際子供に限らず、大人だって魔法の力が宿った武具や装身具を身に着けたくなる欲求は起こるだろう。
そんな様々な特別の武具や装身具を装備する彼等の中で、賢者エルガルムと魔女ベレトリクスのは桁違いの品質である。
エルガルムが装備するのは、全身を賢聖の守護衣、その上に金剛の柔革鎧、両手には賢聖の魔導革手袋、脚には自由なる羽妖精靴を履いている。
更に頭には叡智の魔導帽子を被り、肩には元素精霊の守護外套を羽織り、腰には不屈抵抗の革帯を巻き、首には壮健の神聖護符首飾りを下げ、右腕には魔導真髄の腕輪を、左腕には祓魔の神聖腕輪を身に着けている。
そして叡智の元素精霊杖と呼ばれる魔力触媒の主力武器を手に持ち、それを幾度も硬い地面を突きながら歩いている。
その杖以外に、はっきりと視認出来なかったが腰の短杖ホルダーにも幾本か短杖を差していた。賢者エルガルムの事だ、きっとその短杖も特別性の逸品に違いない。
ベレトリクスの装備も一新されており、心霊の守護衣で身を包み、腰には上質な黒革製の不屈抵抗の腰装具を、両手には薄生地でありながら鎖着の如く丈夫な心霊護法の長手套、脚には徐縛の大鴉靴を履いている。
更に頭には神秘の魔導帽子を被り、肩には元素精霊の守護短外套を羽織り、首には守護霊の護符下げ飾りを下げ、右腕には魔導真髄の腕輪を、左腕には錬金変性の腕輪、右手には騒霊操者の指輪、左手には呪詛祓いの指輪を身に着けている。
そして主力武器である魔力媒介物は神秘の錬金杖と呼ばれる杖を手に持ち、エルガルム同様にそれで地面を突きながら歩く。
魅惑的な腰に付けている短杖ホルダーにもエルガルムと同様に、幾本か特別な逸品であろう短杖を差していた。
3人の魔導衣は特殊な糸と貴金属の糸を使用し、特殊技法で織った布で作られた防具であり、上質な絹の如く柔らかな肌触りで軽く、刃を通さぬ鋼鉄の鎧を凌駕する頑丈性を有している。
特にエルガルムとベレトリクスのは真の銀と神秘の銅、そして金剛鉄を混ぜ合わせた合金糸を使用されている為、もはや衣服とは思えない防御性能を有している。
更に衣服を含む防具、装身具、短杖、杖にも希少性の高い素材が使用され、美麗な刺繍や細工に幾種もの煌びやかな宝石が嵌め込まれた芸術品の如く意匠の逸品である。
特に魔導師の偉人であるエルガルムとベレトリクスの装備品は、意匠も細工も豪華絢爛であり、どれもが無意識に目を惹かれる超高級品である。
「あ、2人戻って来たみたい」
空洞内を進み続ける中、ミリスティは先行していた2人が此方に戻って来るのを感知する。
彼女の言葉を耳にしたガイアは〈魔力感知〉を前方に集中してみる。
ほんの少しした後、薄っすらとした魔力の気配を2つ感知する事が出来た。
そしてその2つの気配は高速で此方へと近付き、視界内に姿を現した。
「先で何かあったのか?」
ダムクは目の前に現れた2人の内1人――――ミュフィに問い掛ける。
「うん。視認で小鬼が16匹」
「視認16か。数は少し多いが、戻って来た理由は小鬼達の行動だな?」
そうダムクに確認の質問を掛けられ、ミュフィともう1人――――ライファは1度頷き肯定する。
(ミュフィさんもそうだけど、ライファさんも装備がマジで忍者だよなぁ)
そんな短い遣り取りを他所に、ガイアは彼女2人の格好を改めて観た。
早朝シャラナと一緒の部屋に入って来た時のライファの格好には、一番驚いたものだった。
ノックされた扉を開けば、全く見た事が無い黒尽くめの装束姿の彼女が目の前に現れたものだった為、ガイアは思わず素頓狂な驚き声を短く発してしまったものだった。
ライファの全身を包む装備は静寂の暗影装束、その下にはミュフィと同じ無響の鎖着を、顔下半分を秘匿の暗影覆面で覆い隠し、手には接触不感知の手套を嵌め、脚には足跡無痕の暗影靴を履いている。
首には中位抵抗の短首飾り、右腕には中位魔法防護の腕輪、左腕には魔力触媒の腕輪を身に着けている。
そして武器は麻痺の短剣ともう1本――――鋼斬りの大短剣を腰に付けている鞘に収めている。
装備品の殆どが隠密特化――――まさに暗殺者の武装である。
「恐らくは何かを追っている行動でした」
「その何かの予想は2つ。魔物か冒険者の何方か」
ライファとミュフィの短い予想意見に、ダムクは一度頷きミリスティの方を向く。
「ミリスティ、2人が先行した更に先の音を拾えるか?」
「遣ってみる」
ミリスティは短く了承の意を口にし、神経を聴覚に集中させる。
〈聴覚大活性〉
特殊技能による強化で、ミリスティの聴覚は大広域の微弱な音を感知し、発する音から目の届かぬ長距離先に居る存在を足音から数の把握する事が出来るように為る。
「裸足の軽い足音………うん、合ってる。小鬼16匹。それと別の足音は4……靴と金属が擦れる音………うん、冒険者だね。追われてる」
(え、凄っ! 全然聴こえないんだけど)
ガイアは無い耳を空洞の壁にくっ付け耳を澄ませてみるが、ちょっとした何かしらの音は聴こえてこなかった。
「俺達が追い付く迄の距離で、他の魔物は?」
「大丈夫。居ないよ」
「うん。先行して小鬼を発見する迄、他の生き物の姿も気配も無かった」
ダムクの問いにミリスティは即答。そして彼女の返答を補足するようにミュフィも即答する。
「良し」
ダムクは頷き、後ろへ振り向く。
「すいません、ちょいと緊急で走りますが大丈夫ですか?」
「心配は要らん。こんな老い耄れでも容易に疾走出来る特別の靴を履いておる」
その問い掛けに対し、エルガルムは問題無いと笑う。
「走るの得意じゃないけど、あたしも特別な靴履いてるから問題無いわよ」
ベレトリクスも微笑を浮かべ、問題無いと告げる。
「御令嬢さんは大丈夫か? 結構な距離を走るけど」
「大丈夫です。この体力面を補助してくれる革鎧と移動速度を上げる靴が有りますので」
シャラナの返答に、ダムクはニッと笑みを浮かべた。
ガイアに対しては――――言う迄もなかった。
「良し、それじゃ走るぞ。全員一定の速度を保って戦闘での体力を温存するように」
ダムクの指示に全員が頷き了承を示す。
「ミュフィ、ライファさん、先導を頼む」
「うん」
「はい」
そして全員は一斉に駆け出し、地下ダンジョン内の更なる奥へと進行した。
斥候役の2人の先導に従い、エルガルム一行と堅実の踏破の一党は列を崩さず、軽快に疾走する。
魔導師であるエルガルム、ベレトリクス、シャラナの3人は靴の魔道具による恩恵により、俊敏な戦士に引けを取らない軽やかさを感じさせる疾走をし、難無く堅実の踏破一党の速度に追従する。
だが3人よりも――――いや、この中で一番驚くのはダムクである。
彼は兜無しの全身鎧を身に纏い、大剣と大型の盾を背負っている。全員の装備の中で一番の重装備だ。
しかし、装備する武具の重さを感じさせない走りをしており、息も僅かすら乱れていない余裕のある表情である。
ヴォルベスもそうだが、彼の身体能力も底が知れない。
「リーダー、さっきより増えてる」
疾走する中、ミリスティは感知した小鬼とは別の存在を感知する。
「別の小鬼か?」
ダムクは透かさず問う。
「小鬼以外も居る」
「纏めて何匹だ?」
「足音だけでなら17匹。四足の魔獣種も居る」
「もしかして、小鬼の騎手が居るのですか?」
そんな2人の遣り取りにシャラナも参加する。
「その可能性は高い。そんで此処の小鬼の騎手が乗る魔獣は、大体決まって野蛮な狼だ。駆け出し冒険者なら多くて4匹倒せるが、何方も10匹以上になると危ねぇ水準だ」
小鬼の危険度はF等級以上のE等級以下であるが、野蛮な狼の危険度はE等級と確定されている。だが危険度が低くても、数が多ければそれに比例し討伐難易度は上がる。それは冒険者なら誰もが知っている当たり前の常識である。
「それとリーダー、その中に重い足音が1匹混じってるよ」
「デカいのが1匹………まさか大柄な小鬼も居るのか?」
(大柄な小鬼…!)
魔物の名称を耳にしたガイアは、以前飢饉を救う為に訪れた最初の村に襲来して来た大柄な小鬼を鮮明に思い出す。
「未だ上層部の浅瀬辺りにしては珍しいな。俺達が知らぬ間に、小鬼共は鳴りを潜めて数を増やしてたのか」
ヴォルベスは仮説を口にする。
「その可能性も充分有り得るだろうな」
そんな仮説に対し、ダムクは肯定を口にする。
暫く疾走を続ける中、ミリスティはある音を感知し僅かに不穏な色を表情に浮かべた。
「リーダー、何方も脚が止まった。冒険者4人が追い込まれたかも」
「ミュフィ、小鬼を見た場所までどの位だ?」
ミリスティの状況報告を聴いたダムクは、先導のミュフィに問う。
「今の速度でざっと6分、追い付くのは9分。全力疾走なら間に合う距離」
「なるほど…。だがそうなると……」
ダムクは少し迷いが生じた。
自分達は長時間全力疾走しても体力面で問題は無いが、後ろの魔導師3人に暫く全力疾走をさせるのは酷だ。魔道具によって持久力と速度を向上させてはいるが、此方が本気で走ってしまうと彼等を引き離してしまう。仮に付いて来られたとしても体力の方がガンガン消耗してしまう。
如何したものかとダムクは悩む。
「シャラナよ、早速出番じゃぞ」
「はい、先生」
師に助力して上げるよう言われたシャラナはホルダーに差した短杖を引き抜き、魔法を発動させた。
「〈助力の大追風〉〈敏速な脚〉」
シャラナの魔法により、全員の身体に自身の意思により背後から吹き押してくれる強風が纏わり、脚による移動速度上昇の強化魔法が施された。
「これなら着くまで体力が持つ筈です」
「お! こりゃあ良い、普段より脚が軽い」
ダムクは魔法によって、走る際の脚運びが軽く為った事に嬉々の色を浮かべる。
重装備のダムクにとっては、とても大きな恩恵である。
「おお、これは良い! 脚が羽の如く軽やかだ!」
「わぁ、走るのが凄い楽ぅ!」
ヴォルベスもミリスティも、その恩恵によって余り力を入れずとも前へ楽々走れる感覚に歓喜する。
「うむ、これなら年寄り2人でも長時間楽に走れる。遠慮せずに速度を上げても良いぞ」
「おいこらエルガルム、年寄り2人って後1人は誰なのかしらぁ?」
「アイダダダダダダダ! 済まん済まんっ、間違った1人でした! 年寄りは儂1人でしたっ!」
そしてダンジョンに来てまで、またエルガルムはベレトリクスに髭を引っ張られるのだった。
(……お姉さんってホントに歳幾つなんだろう?)
ガイアは2人のそんな遣り取りを初めて見てから、ずっと疑問を抱いていた。
ベレトリクスの見た目は如何観ても年寄り不相応の若さだ。エルガルムに年寄り呼ばわりされるそんな彼女の年齢は、いったい幾つなのだろうか。
今も全く予想が付かなかった。
「良し! それじゃあ速度上げるぞ!」
ダムクの指示に全員が其々返事をし、疾走速度を更に加速させた。
目的の冒険者が居る場所に向かって迷う事無く走り続けて凡そ2分経過。
奥から人や魔物の声、硬質な音などが鳴る争いの音が空洞内を反響し、聴覚が常人のシャラナにも届く距離まで近付きつつあった。
「ミリスティ、数と種類!」
ダムクは短くミリスティに確認を問う。
「小鬼は27、野蛮な狼は9,最後は大柄な小鬼が1!」
短い問いに対し、ミリスティも手短に情報を伝える。
「冒険者4人の状況は!?」
「未だ無事! けど完全に逃げ場無しの状況! 中に魔導師が1人、魔力が尽き掛けてる!」
「その場所を周囲に他の魔物は!?」
「居ない! 其処から一番近くの魔物が気付いても時間はかなり掛かるよ!」
「良し! 現場に着き次第救助と掃討の開始だ! ミリスティ、ミュフィ、ライファさんは遠距離攻撃する奴を優先に! ヴォルベスは敵陣地内で搔き乱せ! エルガルム様達は俺と一緒に冒険者の防衛を御願いします!」
ミリスティの〈気配感知〉による情報を基に、ダムクは瞬時に決定した最善の役割を皆に伝える。
「うむ、ではシャラナに余裕が有れば魔法援護もさせよう。良いかね、ダムクよ?」
「勿論です! 御令嬢さん、聞くまでも無いが接近戦は行けるか!?」
「はい! 行けます!」
「良し!」
歯切れ良いシャラナの返事に、ダムクは握り拳の親指を立てる。
「ンンンンン?」(僕はぁ?)
自分だけ役割が決まってないガイアは声を発し、自分は何すれば良いのか問う。
言葉は解らないが言いたい事が何なのか、話の流れ的に理解出来たダムクは困った表情を浮かべる。
「ん~、神獣様は如何すっかなぁ……」
「リーダーよ、神獣様には物足りないが大物の相手をさせてみては如何だ!」
少し悩むダムクにヴォルベスは提案を口にする。
「良し採用! という訳で神獣様も御願いします!」
「ンンンンー!」(りょうかーい!)
そんな提案にガイアは声を発し了承の意を示した。
役割が決まったその後、ミュフィは微かな血の匂いを感知し、ダムクに報告する。
「血の匂い…。リーダー、野蛮な狼の匂いがする」
それを聴いた後、走る先に地面を血で濡らし横たわっている野蛮な狼が視界に映った。
全員は立ち止まる事無く素通りし、次々と目に映る野蛮な狼の死体をダムクは数えた。
「野蛮な狼の死体が8匹、小鬼の死体は無しか。こりゃ間違い無く小鬼の騎手が居るな」
ダムクはそう確信する。
「ミュフィ、後どの位だ!」
そしてミュフィに残りの距離を尋ねる。
「もう直ぐ着く」
先導するミュフィから、目的の場所にもう直ぐ到着する事が報告される。
「ダムクよ、救助対象である冒険者の前に転移する。盾を構えといてくれ」
「了解!」
エルガルムの指示に、ダムクは背に有る大型の盾を走りながら手に取り構える。
疾走の速度は緩めず、魔物と魔獣の居る空間へと足を踏み入れた。
視界に映ったのは多数の小鬼と野蛮な狼、野蛮な狼に騎乗する小鬼の騎手、そしてそれ等を統率しているであろう大柄な小鬼が4人の冒険者を壁際に追い詰めていた光景だ。
冒険者4人の装備から見て、戦士風が2人、弓使いが1人、魔導師が1人と前衛と後衛が半々の一党構成のようだ。
彼等4人の目下には小鬼の死体が6匹転がっており、何とか小鬼の群れに奇しくも抵抗しているのが見て取れた。
しかし、ミリスティの〈魔力感知〉による情報通り後衛の魔導師は魔力が残り僅からしく、発動出来ても1,2回しか使えない魔法を現状使うべきかあぐねている様子だった。
弓使いの方も矢筒に有る矢の本数が後僅からしく、弓を構え矢を番えるが、どの小鬼を射れば最善なのか焦燥の表情を浮かべていた。
そして前衛で抗戦する戦士風の2人は剣を振り襲い掛かって来る小鬼に牽制し続けているが、腕や脚に矢傷を負っていた。つまりは小鬼の弓手も居るという事だ。
現状を察するに、前衛が殆ど無力状態の後衛を護っているという所だろう。
視界全体で状況を見た直後、戦闘慣れした者達はそれ等の情報を瞬時に把握した。
「さあ行くぞ。〈転移〉!」
そして更にその直後にエルガルムは魔法を発動させ、自身を含み、シャラナ、ベレトリクス、ダムクを同時転移させ、その場から瞬時に姿を消す。
それと同時にミュフィとライファは姿を消す様にその場から左右に散り、ミリスティも直進はせず別の方向へと跳躍し移動する。
最後にヴォルベスとガイアは共に大跳躍をし、豪快に敵陣中央へと殴り込みを開始する。




