探索前の下準備19-2
場所は特別待合室から再び試験場へと戻る。
其処で明日の探索に向けて、エルガルム達と堅実の踏破一党、そして身体を縮小化した儘のガイアが協議を始める。
「さて、次は特殊技能と系統魔法の把握と行こうかの」
探索と戦闘での互いが出来得る術について、エルガルムは開口する。
「先程は御主達の方から先に職業を聴かせて貰ったから、今度は儂等側から先に教えよう」
先ずは自分からと、エルガルムが最初に自身が出来得る術の詳細説明を始めた。
「儂の使える系統魔法は炎・水・風・土・氷・電気・自然・神聖・無系統の8つじゃ。魔法1つ1つの詳細を言うてもキリがないからザックリで言うぞ。上位級の強化と弱体化の付与魔法に加え、忌避・障壁・隠蔽の結界魔法、探知系と視覚補強魔法。未だ未だ有るぞ、毒・麻痺・催眠・盲目といった状態異常魔法に敵の魔法の妨害と破壊、拘束・束縛による移動と行動制限、更には幻術による五感幻覚作用や幻影分身を創り出せる。後はそうじゃな…、対環境と対感知の防護と結界魔法と高位精霊獣や高位天使の召喚、上位級までの治癒魔法と浄化魔法、蘇生の魔法に関しては中位級の〈死者復活〉止まりじゃ」
ザックリとした説明にしては長いが、本人は数多の魔法を習得しており、それ等全ての魔法を1つ1つ言うのはかなりの時間が掛かってしまう。そこに魔法効力の詳細説明まで加わればもっと掛かるのは間違い無いだろう。
「それと転移魔法に関してじゃが、御主達に〈置換転移〉での戦術を知っておいて貰いたい」
「〈置換転移〉? それは如何いった転移魔法なんですか?」
知らない魔法を初めて聞いたダムクは質問をする。
「簡単に言えば、互いの場所を入れ替る魔法じゃ」
「ほう、入れ替え転移か。中々面白そうな魔法ですな」
ヴォルベスは好奇心を疼かせる。
「まぁ、説明するより、実際に見せた方が早いわ」
ベレトリクスはそう言い、片手をガイアに向けた。
(え、何? 僕に何するの?)
「〈置換転移〉」
ガイアのちょっとした困惑など御構い無く、ベレトリクスは転移魔法を発動し、瞬時に互いの場所を入れ替えた。
あっという間ではあるが、その魔法の効力に堅実の踏破一党は感心の声を上げた。
(ふぁっ?! あれっ!? 入れ替わってる?!)
そんな彼等を他所に、ガイアは突然場所を入れ替えられた事に驚いていた。
「こんな感じに、対象二者の位置を瞬時に入れ替える転移魔法よ」
「そしてその対象は自身と人に限らず、大抵の物とも入れ替える事も可能じゃ。戦況に応じて味方の立ち位置を入れ替えるに加え、回避や奇襲といった巧みな戦術を作り出す事を可能にする。しかし、戦況に応じてこの魔法を巧く扱うには、互いの出来得る術の把握と連携、何より多くの実戦経験が必要とするのじゃよ」
「なるほど。確かに入れ替え転移はかなり便利だが、常に戦況が変化する中での発動タイミングがかなり難しい魔法だ」
エルガルムの説明を聴いたダムクは、入れ替え転移を活かす難しさを理解した。
「入れ替えのタイミングを計る術者もそうだが、味方も術者からの入れ替え転移を即判断しなければならない。謂わば、阿吽の呼吸が必要不可欠になるという訳だ」
ヴォルベスもダムクと同様に、入れ替え転移での戦闘の困難さを理解した。
「賢者様、その入れ替え転移は魔法其の物にも有効ですかぁ?」
2人の後にミリスティは生徒の様に手を挙げ、エルガルムに質問をする。
「大体は可能じゃ。もう一つ実演しよう」
エルガルムはそう言った後に、1人と1体に声を掛けた。
「シャラナ、ガイア、ちと手伝っとくれ」
「はい、先生」
(ほえ?)
実演の手伝いを頼まれたシャラナとガイアは、エルガルムの指示に従い少し離れた場所に移動する。
「良し、適度に互いの距離が取れた所で」
両者が位置に着いたのを確認し、エルガルムは魔法を発動する。
「〈水球の牢獄〉」
エルガルムは水属性の性質に変換した魔力で多量の水を生成し、敵を捕らえ閉じ込める大きな水球を自身の直ぐ傍に創り出した。
「では、この水球とシャラナを入れ替え、ガイアの突撃から退避させて見せよう」
(あ、なるほど。そういう使い方か)
それを聴いたガイアは〈置換転移〉の応用方法を理解した。
「シャラナは其処から動かぬ様にな」
「はい、先生」
「ではガイア、程々の速度で頼むぞ」
「ンンンン」(オッケー)
エルガルムの指示に対し、両者は了承の返事を返した。
(良ーし、じゃあ行っくぞー)
ガイアは返事を返した後直ぐにシャラナに向かって発進し、一般人の全速力より少し速い速度で軽く走った。
ガイア自身は軽く走っているつもりだが身体能力の高さ故、互いの距離は直ぐに縮まり、3秒程でシャラナの目の前に辿り着く。
(わー!)
「わ、わ、わ」
目の前まで迫って来たガイアが子供の様に飛び掛かり、それを視界に映したシャラナは少々身を竦ませる。
「ほい、〈置換転移〉」
ガイアがシャラナに衝突する直前にエルガルムは魔法を発動させ、シャラナは瞬時に師の傍に転移した。
そしてシャラナが居た場所には大きな水球が突如と現れ、ガイアはそのままの勢いでそれに突っ込むのだった。
「こんな風に魔法と入れ替わり、迫り来る敵にそれをぶつける戦法も出来る」
実演の結果に、堅実の踏破一党の4人は「おお!」感心の声を上げる。
感心の声を上げた後、今度はヴォルベスが質問を投げ掛けた。
「〈置換転移〉で対象を取れる数は3つ以上可能であろうか?」
「この魔法は1つの対象を指定した空間に移動する〈転移〉と違い、2つ以上の対象を並列認識し、互いの対象の空間を指定し同時移動させる事で成立する。理論上は数に応じて相応の魔力があれば多数の存在を入れ替える事は可能じゃ」
「入れ替える可能の数は空間認識力と技量による、という事ですか?」
ミュフィも質問を投げ掛ける。
「その通り。まぁ儂とベレトリクスなら、この場に居る全員を同時に入れ替える事も可能じゃ」
「ほほう。それを複数の敵のみを対象にすれば、同士討ちや陣形崩しといった連携妨害が出来るな」
ヴォルベスは顎に手を当て〈置換転移〉ならではの戦術を頭の中で思い浮かべながらニッと笑う。
「うむ、今度は特殊技能じゃが、〈魔力感知〉や〈生命感知〉に加え、魔物や不死者の識別感知、扱える魔法に関する操作制御と動像の操作制御、強化と弱体化の効力強化とその延長、魔力自己回復の〈精神統一〉、そして魔法・死霊・邪悪属性と、毒・麻痺・気絶・催眠・恐怖・肉体苦痛・精神苦痛・精神操作・精神汚染・幻覚・呪詛の耐性を持っておる」
「む? 想像していたより属性耐性が少ないですな」
エルガルムの属性耐性が3つという事実に、ヴォルベスは意外そうに少し驚く。
「ホッホッホッ。強化魔法で自身の防御力や耐性を上げるとな、それに応じた耐性系特殊技能が獲得し辛くなるからのう。魔法技術を鍛えれば自然と魔法属性に対する耐性は徐々に得られるし、聖職者としての研鑽を積み重ねれば不浄や呪いに対する耐性が自ずと得られるものじゃよ」
「魔導師は戦士と違って肉体が丈夫じゃないからね。状態異常ならそれなりには可能だけど、多量の損傷喰らって耐性を獲得するのはかなり酷だらかねぇ」
ベレトリクスは肩を竦め、少し困った様な笑みを浮かべる。
「特に物理攻撃は無理ねぇ。あたしみたいなか弱い女には耐えられないわ~」
「ベレトリクスよ、御主はもうか弱い女と言える歳では――――」
「んん~? 何か言った~?」
「アイダダダダ! 何でも無いっ、何でも無いから、髭を引っ張らんでくれ」
エルガルムの口から言い掛けの禁句を耳にした直後、ベレトリクスは恐怖を漂わせる満面な笑みを浮かべながら、彼の白い髭を強く引っ張る。
「あのぉ~…」
そんな遣り取りをする偉人2人に、ミリスティは声を掛けた。
「ん? なぁに?」
ミリスティの声掛けに、ベレトリクスは彼女の方に視線を向け、引っ張っているエルガルムの髭を放した。
「神獣様、あの儘だと溺れちゃうんですけど」
ミリスティは少々困惑気味な表情を浮かべながら、神獣が居る方へと指を差す。
「ゴボボボボボボボ」(あのー、そろそろ出して下さーい)
水球の中に全身すっぽりと入っているガイアは、全く焦りの無い暢気な様子だった。
「ガボボボボボボボボボ」(水中だとあんまり聴き取れないよー)
水球の中で声を発するが、ゴボゴボと水中で泡が噴き出る音しか出ない。
それ以前に、声が伝わっても言葉が伝えられないので意味が無い。
「ああ、ガイアには〈酸素生成〉という特殊技能が有っての。体内で酸素を創り出し、放出せずにそのまま吸収出来るから溺れる事は決して無いから大丈夫じゃよ」
「空気吸わなくても生きれるのか。便利だなぁ」
ダムクは面白い生態を持つ生物を観察するかの様に、水球の中の神獣を観た。
「ガボボボボボ」(出ーしてー)
「ああ、ゴメンゴメン。今出して上げるから」
ガイアが出して欲しいと訴えている事にベレトリクスは理解し、水球から出して上げる為に魔法を発動させた。
「〈液体気化〉」
魔法発動の直後、ガイアを捕らえ包む水球は一瞬にして白煙――――水蒸気へと変化し、ほんの数秒程で霧散した。
(わぉ! 一瞬で水が蒸発した!)
視界に映っていた水中が一瞬で真っ白な靄へと変化する。そんな魔法ならでの不思議な現象を体験したガイアは心を弾ませた。
「あれが錬金魔法……初めて見た」
「あら、錬金術師の魔法を見るのは初めて?」
ミュフィの控えめな声音の言葉に、ベレトリクスは彼女の方へと振り向く。
「知識は嗜む程度。冒険者で錬金術師の人、中々居ないから、実際に錬金魔法は見た事無かった」
「錬金術師は何方かと言えば生産職寄りだからねぇ。冒険者稼業よりも魔法薬とか魔法装身具とかの魔道具生産稼業をするのが普通だから、錬金術師の冒険者があんまり居ないのも当然よ」
ベレトリクスの言う通り、錬金術師という職業は基本的に生産職に部類されるものである。
錬金術師が扱う魔法は物質の三態変化を自在に操り、物質の合成、混合物の分解といった、物質に対する作用を人為的に起こす技術であり、その魔法技術を錬金魔法と呼ぶ。
そして歴史上、その技術で最初に生み出されたのが魔法薬である。
それを切っ掛けに冶金や鍛冶、細工等のあらゆる製作技術が錬金技術に応用され、魔法の武具や装身具等の多種多様な魔道具が生み出されたのだ。
「さて、今度はあたしだけど、使える魔法とか特殊技能はエルガルムと殆ど一緒だから言う事あんまり無いわねぇ。まぁエルガルムと違うのは、神聖系統の代わりに死霊系統が扱えるって事ぐらいなんだけどねぇ」
「死霊系統って事は、やっぱ死体を使って不死者を造り出し操るんですか?」
そうダムクは質問をした。
「あたしは造らないわよ。そういった類のものは召喚はするけど」
「え? でも確か、ベレトリクス様が修めてる心霊呪術師って死霊術師の上位職業なんですよね?」
「あんた達が良く知る死霊術師は死者を冒涜する、謂わば自ら生命の外道に成り下がった奴の事よ。死体使って不死者を造り出す魔導師に碌な奴が居た例が無いわ」
「ならば魔女殿、その様な死霊術師を識別する方法は在るだろうか?」
その内容に対し、ヴォルベスは真剣みのある声音でベレトリクスに訊ねた。
「あんた達はこの都市のダンジョンで不死者との戦闘経験は有るでしょ? 碌でもない死霊術師ってのは不死者特有の不浄に類似した気配が有るのよ。その気配が強ければ強い程、其奴の魂は穢れてる証拠よ。あんた達なら感知系特殊技能が無くても、一定距離から不浄な気配を感じ取れる筈よ」
ベレトリクスから死霊術師に関する内容に、堅実の踏破一党の4人は各々その知識を頭の中にしっかりと刻んだ。
(ほうほう、死霊術師の善悪は気配で判別出来るのか)
ガイアも彼女の話をしっかりと聴き、知識を頭の中に取り込む。
「あの、ベレトリクスさんは死霊系統魔法を扱えながら、如何して穢れてないのですか?」
それに関してシャラナは生じた疑問をベレトリクスに投げ掛けた。
「あたしは自我や意志の情報を入れずに霊魂を造り出しているのよ。だから霊媒物質だって穢れてないやつを創り出せるわ」
(エクトプラズム……。えっとぉ……何だっけ、確か……霊媒とかに関わるヤツだったっけ? 良くは知らないけど、心霊現象関連のものだったような……)
ガイアは前世で聞いた事はあるが、霊媒物質が如何いった物なのか流石に詳しくは知らなかった。
「エクトプラズムって何ですか?」
シャラナに続き、ミリスティも質問を投げ掛けた。
「別の言い方だと霊媒物質って言うんだけど、霊魂の姿形を形成する為に必要な物であると同時に、霊が物理世界のこの世に干渉や影響を与えるのに必要な依代なのよ」
「なるほど。死霊の類はそれを纏っているから、この世に存在出来てるって訳か」
霊媒物質の説明から、肉体を持たない死霊が如何やってこの世に留まっているのかをダムクは納得した。しかし、そこから新たな疑問が彼の頭の中に生じる。
「ん? でも動く死体とか動く死骸骨の場合は?」
「それは単純よ。依代の死体と魂を霊媒物質が繫ぎ止めるからよ。魂の無い死した肉体に本人、若しくは別の魂を無理矢理宿し繫ぎ止めると不浄化が起こるのよ。そうして肉体は不浄に塗れて正の魂が負の魂へと歪んで死者が生き返る。それが不死者よ」
「ならば、不浄な死霊が出来る条件とは?」
ダムクに続き、ヴォルベスも疑問を投げ掛けた。
「魂の性質――――心魂によってその魂が不浄か否か分かれるわ。〈不死者創造〉の魔法で死者の霊魂に直接干渉して不浄な霊媒物質を直接与えて浸蝕させれば不浄化が起こり、生者を襲う死霊が出来上がるって訳」
「ふむ。穢れ無き心は清い魂にし、穢れし心は魂を不浄にする、という事か。死体から不浄なる生命を造り出す行為とは、己自身をも不浄にする道義外れし愚行なのだな」
「そゆこと。そうやって生命の冒涜行為を続けた死霊術師は穢れていって、その不浄の力を利用して死霊系統魔法の効力を強化していくのよ」
「でも、逆に代償として、神聖属性に対して脆弱に為る、でしょうか?」
ミュフィはその内容から、自身を不浄化し強化する際の欠点を導き出す。
「当たりよ、黒猫ちゃん。不浄化した奴は大体不死者に近い存在に為っちゃうから、生者でありながら不死者と同じ弱点が出来るのよ」
(うわー、生きたまま不死者みたいに為るのかぁ。って事は、其奴が復活したらヤバい不死者に成るんじゃないか)
ガイアもその内容から、不浄な死霊術師が死した後、強力な不死者として復活するのではと考察する。
「じゃあ本来の正しい死霊系統魔法は如何いうのか教えて上げるわ」
ベレトリクスは片手を胸辺りまで上げ、天に向けた掌に薄っすらとした緑色の小さめな球体を創り出した。
堅実の踏破一党とシャラナ、そしてガイアは彼女が創り出したそれに注目する。
(何だこれ? 何か魔力とは違った不思議な感じが…)
ガイアは興味津々にその球体を間近で観ようと顔を近付ける。
(ん? この感じ、ついさっきに感じた様な…)
そしてその小さな球体から、身に覚えのある力を感じ取る。
「これは霊子と言って、錬金術用語では〝エーテル〟と呼ぶわ」
「エーテル? 霊媒物質とは違うんですか?」
ミリスティは直ぐに質問をした。
「ええ、霊子は霊魂を構成する要素の1つであって、精神の作用を司っているのよ」
「精神の作用を司るってのは如何いう事ですか?」
(僕も解らん。どゆこと?)
ダムクは理解が余り出来ず、ガイアも同様に首を傾げながらベレトリクスの方に顔を向けた。
「精神は魂と同義よ。自我や性格といった情報では精神は動かないの。霊子は精神を動かす為に必要な駆動力なのよ」
「つまり…魂が動くのに必要な活力って感じか?」
「簡単に言っちゃうとそう」
ダムクの答えに対し、ベレトリクスは肯定する。
「さっきの試合でイケメン狼くんが使っていた気の力、あれ霊子の塊なのよ」
「何と! 気の力とは霊妙なものだったのか!」
ヴォルベスは気の力の正体を初めて知り驚愕する。
(えっ、マジか?! ……道理で似た感じがする訳だ)
試合で感じ取ったヴォルベスの気とベレトリクスが生み出した霊子が非常に似た力を感じる理由に、ガイアは納得を得た。
「その霊子の集合体を幽体――――錬金術用語で〝エーテルボディー〟と呼ぶのよ」
「そして人に限らず、この世の生命の身体に宿る幽体は肉体への影響を及ぼす性質を持っておる。武技と特殊技能による特殊な攻撃や肉体強化がそうじゃ」
エルガルムの補足説明に誰もが非常に納得を抱いた。
「〝病は気から〟という東邦の言葉が在っての、病は気の持ち方次第で良くも為り悪くも為ると言う。つまりは気力次第で宿る肉体に良し悪しの影響が起こり得ると言う訳じゃ」
(あ、それは凄い解るかも。病は兎も角、肉体の状態は精神の持ち様と密接してるのは凄い解る。やる気が無いと身体を動かすのも億劫に為るし、逆にやる気が高いと力が湧き起こる高揚感が不思議と出て来るよね)
ガイアは前世での人生を思い返し、スッキリとした時や気怠かった時の体感を思い出し、肉体と精神、又は肉体と気力は密接に関係している事を改めて納得するのだった。
「あのあの、霊魂を構成する他の要素は何ですか?」
ミリスティは更に質問をした。
「もう1つは星幽子と言って、錬金術用語で〝アストラル〟と呼ぶわ」
ベレトリクスは掌にもう1つ薄っすらとした青色の球体を創り出した。
「さっき言った自我や性格といった情報を記憶する魂の形質を持ってるのよ。そしてその集合体を星幽体――――錬金術用語で〝アストラルボディー〟と呼ぶの」
そう言いながら、ベレトリクスは掌に浮かべる霊子と星幽子を其々一定の量を増やし、幽体と星幽体を創り上げる。
「この幽体と星幽体を合わせたのが――――」
そしてベレトリクスは、その2つを1つに合わせ造り上げた。
「――――霊魂って訳」
(おお、人魂だ!)
幽体と星幽体から造られたそれは、薄い緑色が混じる蒼く淡い光が灯った丸い水晶の様だった。
「そしてこの霊魂が霊媒物質を纏うと――――」
ベレトリクスは透明な白い靄――――霊媒物質を創り出し、それを造り出した霊魂に纏わせた。
すると、霊媒物質は人造の霊魂を覆い隠し、膨れ上がる様に大きく為る。そしてそれは、脚の無い人の形を模った。
「――――星幽体に在る情報を基に、霊は形を成すって訳」
そんな実演に堅実の踏破一党の4人とシャラナは感心の声を上げた。
(おお、凄い! 魔法で幽霊が出来た!)
無論、ガイアも内心で感心の声を上げた。
「あれ? でもそれって死霊を造る事になるんじゃ?」
ダムクは霊が出来上がる流れに対し、死体から不死者の類を造り出す行為なのではと疑問を生じる。
「あぁ、これは大丈夫よ。構成要素の星幽体には姿形の情報しか組み込まれてないから、あんた達の知る死霊の類に分類しないわ。例えて言うなら、物理的実体を持たない動像って所かしらね」
「なるほどなぁ、魂は3つの要素で成り立ってるなんてなぁ。内容は難しいが、不死者の類の成り立ちと死霊術師に関しては大体理解出来ました」
ダムクは納得の表情を浮かべる。
「うむ、死霊系統魔法に関して深く知る機会は中々無い故、実に興味そそる専門的な話であった」
「私もこの話聞かなかったら、死霊術師にずっと偏見持ち続けてたかも」
「うん。でもこれで、危険な死霊術師の判別が出来る」
他の一党3人もダムクと同様、其々が口にする。
(物理的実体が無い動像か……)
ガイアはベレトリクスが造り出した人造霊体をジッと観ながら思考し出す。
(星幽子……だっけ? それで〈動像創造〉の要領で造れたりしないかな? そんで魔力と共に霊子を活力源にすれば動かせるんじゃないか? 後は造り出す大きさに応じて一定量の霊媒物質を纏わせれば、星幽体の情報を基に形成されるかも)
自我や性格といった情報を宿し記憶する星幽子の性質にガイアは着目し、物理的実体の無い動像を造れるのではと頭の中で開発をするのだった。
「ま、あたしのはこんな所かしらね」
ベレトリクスはそう言い、造り出した人工霊魂を消した。
「では、次は私です」
そして今度はシャラナの番となる。
「私が使える系統魔法は炎・水・風・土・神聖・無系統の6つです。魔法の水準は未だ中位級ですが、基本の探知系魔法は一通り、強化付与や治癒、天使の召喚による支援が出来ます。ただ…、未だ復活魔法は習得出来ずの未熟者です」
「いやいや、未熟者だなんてとんでもない」
シャラナの謙虚さに対し、ダムクは宥める様に笑う。
「その歳で6系統も扱える時点で凄え魔導師だよ。しかも治癒を含む神聖系統まで使えるんだから、寧ろ立派なモンさ。内のミリスティなんかよ、魔法の才が有る森人族なのに神聖系統魔法が未だ習得出来てないんだぜ。森人族なのに」
「んもう! 私だって使える様に頑張ってるんだよ! 神聖系統の適正値が低めなの知ってるでしょ~!」
ミリスティは頬をむくっと可愛く膨らませ、ダムクを両手で引っ掴み揺さ振るのだった。
「あははは。それに復活魔法の中で一番下の〈死者復活〉だって使える聖職者は中々居ないさ。だから気にする必要は無ぇさ」
ダムクはそう言いながらも、ミリスティに揺さ振られ続けられるのだった。
「然り。冒険者の中に居る魔導師は幾多存在するが、その中に上位級魔法を扱える者は余り居ない。扱える系統魔法も多くて3つが良い所。しかし、御令嬢殿は神聖系統を含む6系統を扱える上級女魔導師にして女神官だ。その様な者を未熟者と卑下するものか」
ヴォルベスは両腕を組んだ後に頷き、シャラナを評価する。
「そう言って頂けるのはとても嬉しい限りです」
彼等からの評価に、シャラナは若干気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「えっと、特殊技能の方ですが、強化魔法の効力強化と延長と、感知系特殊技能は〈魔力感知〉1つのみで、魔力回復特殊技能の〈精神統一〉、扱える6系統魔法の操作制御と動像に関する操作制御、魔法・死霊・邪悪属性と精神操作・精神汚染・呪詛の耐性系特殊技能を持っています」
「へぇ、動像も操れるのか。ホントに大した御令嬢さんだ」
ダムクは感心の言葉を口にする。
「次は私奴の用いる術について御伝え致します」
シャラナに続いて、今度はライファの番となる。
「私が扱える系統魔法は炎系統と無系統の2つ、魔法水準は御嬢様と同様に中位級で御座います。探知系魔法は〈魔力探知〉と〈毒探知〉の2つのみ。そして生命・魔力の隠蔽、攻撃・束縛・転移の影魔法に加え、設置型の魔法を扱えます。特殊技能に関しましては攻撃速度を重視した斬撃・刺突・連撃の基本的な武技と暗殺武技による刹那の奇襲、〈気配感知〉〈殺意感知〉〈気配隠蔽〉〈暗視〉の斥候特殊技能と〈気配識別〉〈気配痕跡感知〉の追跡特殊技能、機動系の〈縮地〉や〈疾風走駆法〉等に加え、影魔法の鍛錬によって特殊技能へと昇華し習得した〈潜影移動〉や〈潜影転移〉が使えます。そして毒・麻痺・催眠・気絶・恐怖・肉体苦痛・精神苦痛・精神汚染・精神操作と魔法属性に対する耐性系特殊技能を有しております」
「ほう! 申し分の無い斥候と追跡の特殊技能に加え、影の魔法に影の特殊技能か!」
ヴォルベスは影に関する特殊技能に興味を惹いた。
「はい、この様に自身の影や他者の影、あらゆる影に干渉し操る事が出来ます」
ライファは自身の足元の影を広げ、其処からグニャリと形に決まりが無い立体化した影達を出現させた。
(うわぁ、凄っ! 立体で出現してるのに平面に見えちゃう! やっぱ真っ黒だからそう錯覚しちゃうんだろうなぁ)
漆黒の平面から立体と為って出現しているが、漆黒の不定形全てが平面にしか見えず、そんな光景にガイアは新鮮な驚きを抱く。
「そして戦闘と為った際に良く使用する影魔法が此方です」
ライファは片方の掌を下に向け、魔法を発動する。
「〈暗影分身〉」
魔法の発動直後、彼女の影から人の形を模した影が出現した。
その姿形はライファの纏う侍女の衣服を模ってはいるが、どの方向から見ても真っ黒平面にしか見えなかった。
「おお! 影の分身体か!」
ダムクは出現した影の分身体に興味を惹かれる。
「はい。此方は私の所持する武器や飛び道具、身体能力と攻撃・防御・機動・感知系特殊技能を反映させた実体の在る分身体です。生命体では無い故に毒や麻痺、精神に及ぼす状態異常が効かないのが長所的特徴です。逆に短所的特徴は損傷に対する低耐久面であり、物理と魔法による一定の損傷を受けた際に形を保てず消滅してしまいます」
「その分身体は魔法を使えぬのか?」
ヴォルベスは生じた疑問をライファに投げ掛けた。
「扱えますが、影魔法のみに限定されてしまいます」
「なるほど。しかし扱える魔法が影魔法のみとは言え、分身体としては充分な性能を有しているな」
〈暗影分身〉という魔法の性能に対し、ヴォルベスは感心の言葉を口にする。
「それともう1つ、先程エルガルム様が御説明為された〈置換転移〉に類似する転移魔法を扱えます」
「ほう、それも影に関する魔法か?」
「はい」
ライファはヴォルベスの問いを肯定した後、魔法を発動させた。
「〈暗影分身置換〉」
魔法の発動後、ライファの身体は漆黒へと塗り潰される様に染まり、それと同時に影の分身体の身体は肌や服の色等の色彩に染まり、ライファ自身へと変わった。
(うわっ! 何かお互いの色を入れ替えたみたい!)
ガイアは入れ替わるライファと影の分身体の不思議な光景に目を見開く。
エルガルムとベレトリクスが使用した〈置換転移〉の転移過程は、転移対象二者が一瞬姿を消した直後、互いを転移先へと姿を現す。一方で〈暗影分身置換〉はそれと違い、術者と分身体の姿は消えずに、まるで表裏一体の如く繋がり、互いの実体其の物を移し替える様な転移過程である。
「この様に、私と分身体を入れ替え転移する事が出来ます」
「その転移魔法は術者以外とは出来ないのか?」
ダムクは〈暗影分身置換〉の効力について生じた疑問をライファに投げ掛けた。
「残念ながら、自身の分身体を限定とした入れ替え転移ですので出来ません」
ダムクからの疑問に対し、ライファは不可能だと答える。
「私の用いる術はこれで以上で御座います」
ライファは説明の終わりを告げ、礼儀正しく御辞儀をした。
「さて、御主達の番の前に、次はいよいよガイアについてじゃな」
エルガルムのその言葉に、堅実の踏破一党の4人は「待ってました」と言わんばかりの表情を浮かべ、視線を神獣へと向けた。
「今回の特別試合で観た通り、魔法水準は儂もビックリ最上位級。水・風・土・氷・電気・自然・神聖・無系統の8つを扱えるのは言う迄も無いな。強化付与に探知系魔法と、殆どは基礎的な魔法ぐらいじゃ。因みに治癒魔法は教え立てじゃが、中位級までなら扱える」
「いや、重力魔法は基礎的な魔法じゃないからね。もしかしたら、まだ他にも重力魔法並みの魔法を習得してるかもよ。其処の所は如何なの? ガイア」
「ンー……」
ベレトリクスはガイアにチラッと視線を向け、視線を向けられたガイアは惚ける様に顔と視線をゆっくり逸らした。
「あら、他にも有るって顔ねぇ」
「まぁ、ガイアは儂等の目に入らぬ所でも色々学んでおる様じゃしの。儂とベレトリクスが扱える魔法は大体扱えると考えて良いじゃろう」
エルガルムはガイアに歩み寄り、その硬い岩石の頭をぺちぺちと2度叩く。
「次は特殊技能じゃが、非常に特別な特殊技能を持っておる」
「ほう! 神獣様ならではの特別な特殊技能とは!?」
それに対し興味津々な4人の中、特にヴォルベスは目を輝かせていた。
「恵みを司る神獣と言わしめる力――――〈豊穣の創造〉という特殊技能じゃ」
「〈豊穣の創造〉!? それって村を救ったやつですか!?」
全く聞いた事の無い未知の特殊技能を聴いたダムクは、好奇心を大きく躍らせた。
「そうじゃ。試合中にちょいと説明したから分かるじゃろうが、実演を観て貰う方が理解し易くなるじゃろう」
エルガルムはそう言った後、ガイアに実演を頼み出す。
「という訳でガイア、ちょいとマナルディマッシュを出してくれんかの」
「ンンー」(はーい)
エルガルムの頼みに対し、声を発し承諾の返事をしたガイアは特殊技能を発動させた。
(特殊技能〈豊穣の創造〉)
特殊技能の発動により、ガイアの全身が明るい緑色光が纏い、その光はガイアの一定周囲に広がった。そしてその直後、青色を若干薄めた茸が地面から大量にモコモコと生え出す。
「おいおい、マジか…!!」
「何という光景か…!!」
ダムクは思わず驚愕の声を上げ、ヴォルベスは驚嘆の声を上げる。
「凄い…!! 何これぇ…!!」
「………!!」
ミリスティは大きな感動を抱き、ミュフィは驚愕で目を見開くのだった。
掌サイズで大きめな傘は丸みを帯びた綺麗な形、茸の傘全体に白色の細い線の不思議な模様をした特徴から、地面から生え出たそれ等全ては間違い無くマナルディマッシュであると、4人は直ぐに判断出来た。
「これが飢饉の村を救った力…!」
「そうじゃ。この特殊技能が飢饉の村全てを救い豊穣の恵みを齎した、神獣フォルガイアルスだけの力じゃ」
ミュフィの口にした言葉に対し、エルガルムはその通りだと肯定する。
「これが特殊技能なのか…!? もうこれ魔法の類じゃないか!?」
目の前で起こった現象が特殊技能による効力だという事実に対し、ダムクは驚愕の理由を口にする。
ダムクだけではない。彼の一党仲間の3人にも限らない。神獣が行使した特殊技能は誰から見ても、魔法による現象の様に見えてしまうのも無理は無い。
「ホントに凄ぇ……、って神獣様の背中も凄ぇ事に為っとる?!!」
ダムクは視線を上げ正面に向け戻した直後、視界に映った神獣の背中の変容に驚愕する。
「この特殊技能って薬草類も作り出せるんですか!?」
ミリスティは瞳を感動で輝かせながら尋ねた。
「植物類なら基本何でも創り出せるわよ。ガイアの御蔭で不足気味の魔法薬用素材が確保出来て、あたしもう大助かりなのよぉ~」
ベレトリクスは機嫌良くそう言いながら、ガイアの背中に生え出たマナルディマッシュを手際良い速さで採取し、そのまま〈収納空間〉へとポイポイと放り込んでいた。
「それともう1つ、〈豊穣の創造〉と同等の特殊技能が有るわよ」
「なぬ!!? これと同等の特殊技能が更にもう1つとな!!?」
ベレトリクスが口にした内容に、ヴォルベスは目を見開き驚愕の声を発した。
「ベレトリクスよ、正確には2つじゃよ、2つ」
「あ、そうだった」
「2つ!!?」
訂正された答えに対し、堅実の踏破一党の4人は驚愕の声を上げた。
「これよ、これ」
ベレトリクスはガイアの背に生えた鉱石を指差す様にコツコツと数度突っ突く。
「え…、まさか…」
ミュフィはそれを見た直後、直感で理解した。
神獣が持つもう1つの特殊技能がどの様な力なのかを。
「それじゃあガイア、ちょっとちょーだい」
(うーん…そのちょっとの割合が結構デカいんだけどなぁ。まぁ良いけど)
ガイアは内心で彼女に緩いツッコみを入れ、手を背に回す。
(よいしょ)
そして背に突き出し生えている鉱石を掴み、いとも簡単に引っこ抜く。
「!?」
(ほいっと)
更に原石も引っこ抜く。
「!!?」
次々と背に生えている鉱石と原石を引っこ抜く神獣の行動に、4人は目を丸くする。
だが、驚きはそれだけに留まらなかった。
(特殊技能〈金属物質生成〉〈宝石物質生成〉っと)
背に生えた鉱石と原石を全て引っこ抜いた後、ガイアは特殊技能を発動させ、幾種もの煌びやかな鉱石と原石を背に生み出した。
そんな光景を目にした4人は驚愕を通り越し、仰天するのだった。
「まさか、創り出してるのか!!? 鉱石と原石を!!?」
ダムクは信じられないと言わんばかりの声を上げる。
「まぁ正確に言うと喰らった金属と宝石を体内に蓄積させて、それを細胞分裂の様に増やして生成する特殊技能よ」
「おいおい…、俺達本当にマジでとんでもない神獣様に出会っちまったんだな…!」
もう笑うしかない、そんな事実にダムクは驚愕を通り越し、引き攣った笑みを浮かべる。
「何と素晴らしき特殊技能――――いや、神の御業と言うべき力か…!」
ヴォルベスは驚喜に満ちた表情を浮かべ、感動の言葉を口にする。
「こんな凄いのを山小人族達が見たら、絶対群がって来るよぉ…!」
(え、マジで?)
ミリスティの口から出た内容を耳にしたガイアは、大勢の山小人族が一斉に群がって来る光景を頭の中で思い浮かべる。
(……髭を沢山蓄えた小さな小父さん達が一斉に……何かちょっと怖いなぁ…)
何時かは出会すかもしれないそんな出来事を予想し、ガイアは困った表情を浮かべるのだった。
「でも、この事知れ渡ったら、神獣様を狙う輩が絶対出て来る」
ミュフィは神獣の特殊技能を見て、ある懸念を口にし出す。
「金属は武具以外にも様々な用途に使うから何処でも欲しがる。無限に手に入る金属で欲しがる所に売り付ければ、幾らでも金銭を手に入れられる。宝石は特に多くの財産を有する貴族に売り込める。売り付ける宝石も無限に手に入るなら、それを欲しがる貴族が居る限り、何時でも幾らでも多額の金銭が手に入る」
「ふむ……確かに。資源を創造する神獣様は謂わば金の成る樹と言えよう。神獣様に対し余りにも不謹慎な喩えではあるが、邪な強欲者にとっては喉から手が出て当然と言える力だ」
ミュフィの懸念を聴いたヴォルベスは驚喜から一変し、真剣な表情を浮かべる。
「もっと不味いのは、国に狙われる事」
「確かにそれは不味いな。神獣様のこの力が有れば、武具の量産や兵器の開発で国の武力強化が幾らでも出来ちまうからな。食糧に関してだって無限に作物を創れちまうんだ。善悪関係無しに、何処の国でも欲しがるのも無理は無ぇだろうな。問題は狙って来る国だが、この事を知って直ぐに狙って来る国で一番の候補として上げられるのは―――」
「ゴルグドルグ独裁国、だな」
ダムクが言おうとした候補の国が何なのか、ヴォルベスは頭の中から即座にその答えを引き出し口にした。
「あぁ。それに神獣様の存在は賢者様と教皇様が公表したんだ。ラウツファンディル王国から波紋の如く世界中に知れ渡る。ゴルグドルグ独裁国とラウツファンディル王国はアルシャス山脈で隔たれてるが、何れは近い内に知られちまうだろうな」
「フン。あの国の愚王の事だ、姑息にして外道な手段を用いて神獣様を捕らえようとするだろうな」
ヴォルベスは不快そうな表情を薄っすら浮かべ、ゴルグドルグ独裁国の王に対する嫌忌を口にする。
「そういえば、前にその独裁国の兵達が此処に来たよねぇ」
ミリスティも少々不快そうな表情を薄っすら浮かべる。
「ほう、それは何時程前かの?」
エルガルムはミリスティが口にした内容に、訝し気な表情を浮かべながら尋ねる。
「えっとぉ、4ヶ月程前に来ました」
「ふむ、4ヶ月程前か…。其奴等は如何いう目的でこの都市に来たのじゃ?」
「私達冒険者を独裁国の兵にしようとしたんですぅ。B等級からS等級の冒険者全員を」
「何? 冒険者を徴兵じゃと?」
その内容にエルガルムは眉を僅かに顰めた。
(冒険者を自国の兵士に?)
ガイアも無い眉を顰め、その話の内容に違和感を抱いた。
「冒険者を徴兵!? それは全ての冒険者組合と全国家との間で定めた兵役法を破る行為じゃないですか!」
ゴルグドルグ独裁国の兵達が冒険者を徴兵しに来た事実に対し、シャラナは驚きを口にした。
徴兵は本来、自国に属する領地の平民を兵士にし、一定期間の訓練をさせ戦時前に要員を備える制度である。徴兵させる平民の基準は国によってある程度違いは在るが、徴兵する者は自国の平民である事は各国共通である。
しかし、その兵役法で徴兵する事が出来ない者達が存在する。
それは冒険者だ。
冒険者は基本何処の国にも属さない自由な者達が殆どであり、貴族出の者だろうが農村出の者だろうが、身分とは関係無いに等しい存在だ。簡単に言えば、自国の民でもない者を徴兵する事は法的に出来ないのだ。
だが、それは冒険者を徴兵する事が出来ない小さな理由の1つでしかない。
冒険者を徴兵する事が出来ない――――いや、正確にはしてはならない大きな理由が存在する。
それは各国同士の戦力均衡が極端に崩れない様にする為と、冒険者組合に属する冒険者を損失させない為だ。
そして最も重要な理由は、何処の国にも属していない冒険者を戦力として取り合い、無理矢理に徴兵させる事態を防ぐ為である。
「そうなの~。いきなり冒険者組合にやって来て、ゴルグドルグ帝国の兵に為れー何て言ってきたのよぉ。それを聞いた冒険者は皆怒ったよぉ」
ミリスティは可愛い顔にちょっと怒った表情を浮かべる。
「その当時の場に居合わせてたのですか?」
「あぁ、俺達も当時その場に丁度居たぜ。独裁国の連中、俺達にかなり付き纏って来たしな」
シャラナの訪いに対し、ダムクは当時の事を思い出しながら話した。
「S等級冒険者ならば我が帝国の兵として生涯を捧げるべきだって、凄い上から目線だった」
ミュフィは当時の事を思い出し、明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
「ホントだよぉ。あれホント嫌い」
ミリスティは更に頬をぷくっと可愛く膨らませた。
「その時、冒険者組合側は如何対応したのですか?」
「無論、奴等全員打ん殴って追い出した!」
「えっ!?」
ヴォルベスは腕を組み得意気な表情を浮かべながら口にし、その内容を聴いたシャラナは思わず可愛い頓狂声を出してしまうのだった。
(ちょっ、無論で打ん殴ったんかい!)
ガイアは独裁国兵達の追い返し方が、余りにも大雑把過ぎる事に驚く。
「組合長殿を筆頭に冒険者全員でな! 傲岸不遜な奴等が慌てて尻尾を巻く姿は実に滑稽だった!」
「ああ、兵だからって偉ぶってた割に随分弱っちかったしな。次にまた俺達を徴兵しようってんなら|手前等の国を総出で潰しに出向いてやるぞ! ってグルエドさんの恐喝文句に凄えビビってたモンな」
ヴォルベスとダムクはそう言いながら愉快そうに笑う。
「それにしても、他国の領域に入り込んでまで冒険者を徴兵しようだなんて妙な話ねぇ。独裁国の連中は何を企んでるのかしら?」
ゴルグドルグ独裁国の不可解な行動内容に対し、ベレトリクスもエルガルム同様に訝し気な表情を浮かべる。
「ああ、その事に関しては内のミュフィが以前に情報収集してますよ」
ダムクはそう言い、ミュフィに視線を向けて説明を促す。
「うん。独裁国は以前、ラウツファンディル王国との侵略戦争での大敗で、主力を中心に兵力を大半以上失った。その戦争以降、国の防衛力もかなり低下も相まって、魔物に侵入され易く為った」
「なるほどのう。その現状を解消する為に以前の侵略戦争で失った兵力を取り戻し、国の防衛力を含め、あわよくば当時以上の兵力増強をしようとしとる訳か。しかし、独裁国の王は目の付け所が随分と悪い様じゃのう。独裁者とはいえ兵役法くらいは知っておる筈じゃろうに、実に阿呆としか言えんな」
ミュフィからゴルグドルグ独裁国に関する情報を聴き、エルガルムはやれやれと呆れた顔を浮かべた。
「でも最近、独裁国領土内の各地で魔物を捕獲している兵達の姿が目撃されてる」
ミュフィのその言葉に、エルガルムとベレトリクスはほんの僅かに顔を顰める。
「捕獲した魔物を兵力にして、侵略戦争の準備を進めている噂も在る」
「ほう、それは実に不穏な噂じゃのう」
それを聴いたエルガルムは、直ぐとは無いが近い内、ゴルグドルグ独裁国が侵略戦争をラウツファンディル王国に仕掛けて来るだろうと懸念を予想する。
「確か連中が此処に来る随分前に、ダウトン鉱山国にも行ってたらしいんですよ」
「なぬ? まさかダウトン鉱山国の山小人族達を徴兵なんぞ馬鹿な事をしに行ったのか?」
ダムクが口にした内容に、エルガルムは少々呆気な表情を浮かべた。
「あぁ、山小人族の製作技術が目的ね」
独裁国の兵達が何を目的にダウトン鉱山国に訪れたかをベレトリクスは直ぐに理解し、それを口にする。
「うん。山小人族のあらゆる製作分野の職人全員を独裁国に徴集と、鉱山国に在る全ての武具や魔道具、兵器の開発資料の献上を強要した。それを聴いた鉱山国の王、相当怒ったらしくて衛兵や近衛兵を総動員で追い出した」
(ちょっ、国の武力を総動員で追っ払ったって、メッチャ怖っ!!)
ガイアはギョッと驚き、兵力を総動員という遣り方から、鉱山国の王がどれ程迄に憤怒したのか想像が出来た。
「職人を含む国内の山小人族の民も全員参加して、独裁国兵を完膚無きまでにボコボコにしたらしい」
(うわぁ……何それ、容赦無~い…)
更には職人の山小人族までもが、自国の兵と共に独裁国兵達を容赦無く叩きのめし追い出したという経緯に、ガイアは驚きを通り越し恐怖を抱くのだった。
「職人だからって力が無い訳じゃないのにねぇ。元々山小人族は武闘派にも属する種族な上、男も女もそんじょ其処等の戦士や兵に負けない身体能力を持ってるってのに、独裁国の連中は馬鹿よねぇ」
(あー……何か想像が付くー。……ん? も、もしかして、山小人族の女性もゴリマッチョなのか…!?)
更には男も女も武闘派という言葉から、未だ見た事の無い女性山小人族の容姿をガイアは予想し、内心動揺をするのだった。
「何にせよ、侵略準備を進めているならラウツファンディル王国に限らず、他の各国にとって脅威であるのは違いない。その脅威も何時侵攻して来るかも判らん以上、直ぐにでも対策を講じ備えておく必要があるじゃろうな。ミュフィとやら、他に独裁国に関する情報は有るかの?」
「これといった新しい噂といった情報は特に」
エルガルムの問いに対し、これ以上情報は持っていないとミュフィは数度顔を横に振る。
「そうかそうか、教えてくれてありがとうのう。御蔭で国王に今の事について用心する様に伝えられる」
それに対しエルガルムは笑みを浮かべ、ミュフィに感謝の言葉を送る。
「さて、後で独裁国の現状を書状で伝えるとして……話が大分逸れてしまったの」
そして話の内容を戻し、続きを話し出す。
「先程言った3つの特殊技能じゃが、発動に必要な前提特殊技能が在っての、〈栄養素譲渡〉〈植物記憶蓄積〉〈金属物質蓄積〉〈宝石物質蓄積〉と呼ばれる特殊技能じゃ」
「ほう、先程のといい、全く聞いた事の無い特殊技能ばかりですな」
新たに耳にする4つの特殊技能に対し、ヴォルベスは知識欲を刺激される。
「儂とベレトリクスも聞いた事が無かった特殊技能での、これ等もおそらくはガイアだけの特殊技能なのだと儂は思っとる。〈植物記憶蓄積〉〈金属物質蓄積〉〈宝石物質蓄積〉の共通点は特定の対象物を喰らう事で、喰らった対象物の性質を記憶し身体に蓄積させるだけという、単体では余り役立たない妙な特殊技能じゃ」
(それな。生成系の特殊技能を獲得する前は僕もそう思ってたなー)
単体では余り役立たないという事に関し、ガイアは以前に抱いていたその疑問を懐かしみながら同感する。
「〈栄養素譲渡〉って、そのまんま栄養素を他者に譲渡する特殊技能なんですか?」
ダムクは4つの中で一番気になる特殊技能についてエルガルムに尋ねる。
「まぁの。対象は生物に限らず、植物類にも譲渡し成長を促進させる事も出来る。しかし、その特殊技能には使用者に対する危険性が在ってな、自身の栄養素を消費し分け与えると、その分だけ生命を維持する自身の栄養素が減ってしまうのじゃよ」
「それって譲渡し過ぎると死んでしまうって事じゃないですか! ……何か意外と危険な特殊技能ですね」
ダムクは、もし自分が〈栄養素譲渡〉を有し、それを使い過ぎた挙句に干乾びる自身の姿を想像し、苦笑を浮かべるのだった。
「その点に関しては〈光合成〉という特殊技能でちゃんと補われておる」
「あ、知ってる! 一部の上位怪植物種が持ってる自己回復系の特殊技能ですよね!」
ミリスティは〈光合成〉の事は知っていると手を上げ、無邪気に自己主張する。
「そうじゃ。日光に当たり続ける事によって栄養素だけでなく、魔力も体内で生成し回復する事が出来る。更には余剰生成した栄養素や魔力はそのまま体内に蓄える事も出来るのじゃよ」
「なるほど、それなら〈栄養素譲渡〉の危険性を補う事が出来るって訳か。魔力なら兎も角、自分の生命力を削って渡す特殊技能を習得する奴は普通居ないもんなぁ」
「ホッホッホッ、確かにのう。もし儂が使えたら、使った瞬間に即干乾びて天に召されてしまうわい」
ダムクの意見にエルガルムは共感し、冗談を口にし笑う。
「まぁ簡単に纏めると、内在する物質を使って情報を基に創り出せて、逆に創り出したい物質の情報が無いと創造出来ないって訳よ」
その後にベレトリクスが、ガイアのみが有する特殊技能の情報を解り易く纏めるのだった。
「うむ。その他の特殊技能は〈魔力感知〉に〈魔力譲渡〉、強化系の〈鋼鉄の肌〉、魔法に関する操作制御は扱える系統全て、複数の動像の同時操作制御、毒・石化・精神操作の無効と、麻痺・呪詛・邪悪に魔法・死霊・邪悪属性に対する耐性系特殊技能、そして〈収縮化〉〈聖なる気〉〈神聖浄化領域〉〈灼熱環境適応〉〈極寒環境適応〉を有しておる。攻撃系のは言う迄も無いじゃろう」
「ほう。毒に石化、精神操作の無効を有しているのか。その他の状態異常や属性の耐性系特殊技能の数はそれなりにという所。それに環境に適応化出来る特殊技能を2つも有しているとは驚きですな」
ヴォルベスは環境適応化特殊技能を2つ同時に有している珍しい事実に対し驚きを抱く。
「そう驚くのも無理ないわ。魔物や魔獣、妖精や精霊種などが持つ環境適応化の特殊技能は基本1つ、そしてそれに応じた属性に対する無効化特殊技能が必ず一組で持ってるのが普通だからねぇ」
(え、そうなの? じゃあ僕の場合、炎と氷の属性攻撃を受けたら如何なるんだ?)
ベレトリクスが口にした内容に、ガイアは疑問を生じた。
環境適応化とは環境耐性が最終的に到達した特殊技能であり、属性に関する耐性系特殊技能の効力と大体似ている。
属性耐性とは、損傷といった自身に害を及ぼす攻撃に対する防御力を備わせるもの。
環境耐性とは、特定の環境が起こす現象の影響に対する順応力を備わせるもの。
例として〈炎属性耐性〉と〈灼熱環境耐性〉を比較してみた場合はこうだ。
〈炎属性耐性〉は炎系統魔法を含む火や高熱による火傷を抑えるのに対し、〈灼熱環境耐性〉は高熱に対し身体を順応させ不調をある程度防ぐ。
つまり、前者は損傷を防ぐが高熱を完全には防げず、後者は高熱を防ぐが損傷を完全に防ぐ事が出来ないという事だ。
そしてガイアが有している〈灼熱環境適応〉は、肉体が自然発火を起こす程の過剰な超高熱を無効化するだけでなく、自身の体温と、自身を中心とし半径約1メートルの空間範囲――――ガイアは巨体の為、効力範囲はもっと広がる――――を適温状態にし、常にその状態を保ち続ける事が出来るのだ。
その事について、ガイアは未だ知らぬ儘である。
「とまぁ、ガイアについてはこれで全てかの。では、今度は御主達の番と行こう」
ガイアの扱える術を説明し終え、エルガルム側からダムク側の番へと移る。
「良し、先ずは俺から、っといっても説明する程の大した武技と特殊技能は持って無いですけど」
一党4人の内から、ダムクが最初に話し出す。
「見て判る通り、俺は剣と盾を主流とした武技を扱う盾役です。現在扱える最高威力の武技は〝砕破金剛〟水準です。斬撃と刺突、高速斬撃、旋回斬撃、遠距離は斬撃や刺突を飛ばす〈真空波斬〉や〈真空穿衝波〉、そしてそれ等を剣術に昇華し放つ武技を幾つか修めています。此処迄は剣による武技です。盾の武技と特殊技能は勿論防御ですが、盾での打撃技も有ります。そして〈防盾受流〉での攻撃受け流しや、打撃に限らずある程度の攻撃魔法も弾き返す〈防盾反射〉も使えます」
(おおー、斬撃を飛ばす武技かぁ! 良いな、格好良い!)
斬撃を飛ばすという武技を耳にしたガイアは、通常の斬撃から放たれる鋭利な衝撃波を想像し、男心が擽られる憧れの様な気持ちを抱いた。
「そして敵対する存在の敵意を自分に引き付ける〈敵意挑発〉と、受けた損傷の度合に応じて力を身体に蓄積させる〈損傷撃力蓄積〉、魔法による損傷の場合は〈損傷魔力蓄積〉、盾で受けた物理攻撃の威力に応じて力を身体に蓄積させる〈防盾撃力蓄積〉、魔法攻撃に対しては〈防盾魔力蓄積〉、そして蓄積した力を倍にして放つ〈撃力報復反撃〉と〈魔力報復反撃〉の反撃型の武技が使えます。後は筋力強化の〈強靭金剛腕〉と〈強靭金剛脚〉、吹き飛ばし抵抗力強化の〈不動不屈〉、武器に気の力を付与させる〈武器気功纏〉といった良く知る強化系特殊技能に加えて、毒・麻痺・催眠・気絶・恐怖・肉体苦痛・精神苦痛・精神汚染・精神操作の状態異常耐性と肉体苦痛・精神苦痛・殴打・魔法・炎・土に対する耐性系特殊技能を有してます」
(損傷を受けて力を溜める特殊技能と、その力を倍にして放つ武技かぁ。…この先、大損傷を免れない事態が無いとは絶対に限らないし、如何にか習得出来ないかなぁ)
損傷から力に変換しそれを蓄えるの特殊技能と反撃型の武技の詳細を聴いたガイアは、自分も習得する事は可能なのか、そして習得する方法は何なのだろうかと思考する。
「折角なんで、盾の武技をちょいと実演でもしましょう。すみませんが、動像とか的替わりになる物なら何でも良いので創ってくれますか?」
「構わんとも。シャラナには様々な武技と特殊技能を知って貰うには、実際に見聞するのが一番じゃからのう」
エルガルムは鷹揚に頷いた後に、動像の創造魔法を発動させた。
「〈動像創造〉」
何も無い中空に鉄塊が出現し、鉄塊は質量を急速に増しながら人の形を構築し、1体の鋼鉄の動像と成った。
「ちと大きめに創ったが、これで如何かの?」
「問題無いです。次は放出系の攻撃魔法を俺に向かって撃って来て下さい。出来るだけ強力なのを御願いします」
「よし、では無難に――――」
エルガルムは杖をダムクに差し向け、魔法を行使する。
「〈魔力砲弾〉」
エルガルムが放った魔力の砲弾はダムクに向かって急速飛来する。
それに対しダムクは防御態勢を取らず、盾を振り被る構えを取り待ち構えた。
「武技〈防盾反射〉!」
目の前まで飛来した〈魔力砲弾〉を、ダムクは殴り付ける様に盾を振る。
振り被った盾に着弾した魔力の砲弾は跳ね返され、反射し軌道を変えられた魔法は盾による振り被りの力が加わり、術者が放った魔法攻撃速度よりも更に速度を増し、鋼鉄の動像に向かって飛来する。
そして鋼鉄の動像は見事、魔力の砲弾によって粉砕されるのだった。
(おおー! 凄い、弾き返した!)
その一連の流れの中で、魔力の砲弾を弾き返す光景にガイアは目を輝かせた。
「ほう、この威力を容易く弾き返すか。ならば――――」
エルガルムは再び〈動像創造〉を行使し、鉄よりも硬質な真銀の動像を20体創り出した。
「次はこれじゃ」
そしてその直後に、杖を天に掲げながら魔法を発動させた。
「〈雷霆の一撃〉」
(えっ、ちょっ?!)
選択された魔法が最上位級である事にガイアは驚愕するも、エルガルムは御構い無しに巨雷をダムクに向けて天から撃ち放つ。
ダムクは再びその場から待ち構え、今度は前以て盾を上に向けて構える。
「〈防盾反射〉!」
巨雷が直撃する直前、ダムクは盾の角度を瞬時に調整する。
「フンっ!」
その直後に直撃した巨雷を防ぎ受け、武技の力で真銀の動像が居る方向へと反射させる。そして反射された〈雷霆の一撃〉は真銀の動像を4体同時に穿つが如く、一撃で一遍に粉砕する。
だが、それだけでは終わらなかった。
ダムクは巨雷を受け止め続けながら盾の角度を変え、反射し続けている巨雷の軌道を変え出す。そのまま軌道を変えながら、薙ぎ払う様に反射し続けている巨雷で残り14体の動像を殲滅した。
それはまるで、鏡に照射された光が反射する現象であった。
「凄い…! 先生の最上位級魔法を跳ね返した!」
巨雷を跳ね返すその光景にシャラナは驚愕する。
(ええ―――っ!!! 跳ね返した―――っ!!!)
ガイアは先程と一変し、内心で愕然の声を上げるのだった。
「あら凄ぉい、あれを反射出来るなんて大した男ね」
ベレトリクスは驚愕せず、彼の優れた力量に称賛を送る。
「ほう、遣りおる」
エルガルムはニッと笑みを浮かべる。
「ふぅ、あんな威力の攻撃を跳ね返すのは久々だなぁ。腕がかなり痺れた」
ダムクは盾を持つ腕を上下に振り、強烈な衝撃によって生じた痺れを解す。
「次は防御から反撃の武技を遣って見せます。動像の物理攻撃と魔法攻撃の何方でも良いので、また俺に向けて――――」
「それならばリーダーよ! 神獣様の拳を受け防ぐのは如何だ!」
ヴォルベスのとんでもない提案にダムクは固まり、言葉が途中で停止するのだった。
「ちょっ、おまっ?! まさか全力の拳を受けろとかじゃないだろうな!?」
「無論、そうだが」
「うぉーいっ!! 俺を殺す気か!!」
ヴォルベスはニカッと笑みを浮かべながら嫌味無くそう言い、それに対しダムクは勘弁しろと声を上げるのだった。
「何を言う、リーダーは俺よりも防御に関しては優れているのだ。全力で防げば大丈夫の筈だ!」
ヴォルベスはそう言いながら親指を立てる。
「リーダーなら出来る! 頑張れー!」
「リーダー頑張れー」
「チクショーっ!! 俺の一党誰も擁護してくれねーっ!!」
ミリスティとミュフィからも促されるダムクは更に声を上げるのだった。
(おぅ……厚い信頼が仇となっとる)
ガイアはそんな様子のダムクに同情を抱く。
「……あー仕方ねえ。ヴォルベスが闘ったんだ、なら俺も一党の代表として覚悟決めて挑まねぇといけねぇな」
ダムクは諦めながら盾を神獣の方へと構え、下手に喰らえば重傷以上の一撃を受け防ぐ覚悟を決めた。
「良し来ーいっ!!」
いや、覚悟というよりは自棄気味と言うべきか。
(お、おう…。それじゃあ…)
本当に全力で攻撃して良いのだろうかと、ガイアは少々躊躇いを抱く。
だが、彼はヴォルベスと同じS等級冒険者である事から、全力とはいえ一撃だけなら防いでくれる筈、最悪防ぎ切れなかったとしても死に至らないだろうとガイアは思い、抱いた躊躇いを振り払い、拳を構えた。
(特殊技能〈強靭金剛腕〉)
「……えぇ…、強化するんかい」
ガイアの片腕全体が一気に太く筋肉が盛り上がった様な造形に成り、それを見たダムクは顔を引き攣らせた。
(からの、武技〈砕破金剛正拳〉!)
そしてガイアは強化した片腕を振り抜き、拳をダムクに向けて放つ。
「うおおおおおおっ!! 武技〈不動金剛防盾〉!!」
その瞬間にダムクは危機迫る思いで武技を即座に発動させる。
「〈防盾撃力蓄積〉!!!」
更に神獣の強化された圧倒的な腕力による拳が盾に直撃する直前、ダムクは武技を発動させた。
ガイアの拳がダムクの盾に直撃した瞬間、重く強烈な衝撃音が轟くと同時に、衝撃から生じた風圧が周囲を吹き荒れる。
「ぬぅうおおおおおおおお…!!!」
ダムクは歯を食い縛りながら圧倒的破壊力の一撃を受け防ぎ、生じた膨大な衝撃力を身体に急速蓄積した。
「………うっし!!! 防ぎ切ったぞーっ!!!」
見事ガイアの一撃を不動で受け防いだダムクは、皆から称賛の感嘆と拍手が送られた。
(……ちょっと待って、防御メチャメチャ堅過ぎない?!!)
但し、ガイアだけは彼の防御力に驚愕していた。
(ヤバい…! この人、防御に関しては狼さん何かより格段に上だ…! 何だろう、盾を殴ったというより、鉄よりも硬質な金属で造られた分厚い巨大な壁でも殴ったみたいだった…! 狼さんの頑丈さとは桁が違う!)
殴った彼の盾は一切凹みが生じていない。
更には殴り飛ばす事も出来なかった。
強化を重ねに重ねたあのヴォルベスですら負傷する程の威力で攻撃したにも関わらず、強化系特殊技能は一切使わず防御武技1つのみで防いだのだ。
その防御力はまさに――――鉄壁の如き。
だが、そんな彼がヴォルベス同様に強化系特殊技能を重ね掛けたなら、ただ防がれるだけで止まらず、吹っ飛ばすが如く弾き返されただろう。
それはもはや鉄壁を超えた防御力――――金剛堅固の如しである。
「流石はリーダー! 防ぎ切ったではないか!」
「いや、マジで焦って防御する事しか頭になかったから、身体強化するの忘れちまったよ!!」
(ええーっ!! 忘れてたんかーい!!)
敢えて純粋な膂力で挑んだのかと思いきや、まさかの強化するのを忘れてた事実にガイアは驚くのだった。
「それより、これ程莫大な量の力を蓄積したのは初めてだ…! 何かこう、身体強化に似てるけど違う、凄ぇ熱が身体の内から噴き出し続けて、それが勢い良く身体全体を廻っている感じがする」
ダムクは是迄〈防盾撃力蓄積〉で力を蓄積した経験の中、これ程迄に感じた事の無い桁違いの質と量の力に驚きを抱いていた。
「この膨大な力を長くは留められそうにないな。ちょっと俺から離れて下さい、蓄積した力を全部出すんで結構な衝撃が起こりますよ」
「うむ、分かった。となると的は如何するかのう。巨大な動像を複数体創るのは少々きついしのう」
(それなら)
エルガルムの言葉を聴いたガイアは片手を誰も居ない開けた場所へと向け、魔法を発動させた。
(〈巨樹の暴威なる災害〉、出ーて来い)
先程の試合で創り出した半身人型の巨大樹が地面から5体出現した。
(後は〈上位硬質化〉で物理防御力の強化っと。お爺ちゃーん、動像じゃないけどこれで如何?)
ガイアは創り出した巨大樹5体に上位物理防御力強化魔法を施し、その後エルガルムに手を振る。
「おお、これは丁度良い巨大さじゃ。強大な一撃を振るう的として打って付けじゃな。では念を入れて、障壁を張るとしよう。〈至剛魔力大障〉」
エルガルムはガイアとヴォルベスの試合で使用した魔法で、ダムクと巨大樹5体を大障壁で大きく囲い張った。
「障壁は5重にした。これなら被害は出んじゃろう」
「助かります。それじゃあ行きますよ」
ダムクは背負う大剣を抜き、大きく振り上げ構える。深く一呼吸をした後にもう一度深く息を吸った後、全身に力を入れると同時に剣を振り放ち、武技を発動させた。
「武技〈撃力報復反撃〉!!」
ダムクの内に蓄積された膨大な力が剣へと伝い、振り放つ瞬間、全ての蓄積した力が剣から迸り炸裂する。
炸裂した強大な一撃は、上位の物理防御力強化を施された堅固な巨大樹を一瞬で消し飛ばし、そのまま障壁に激突する。
放出された一撃は障壁によって進行方向を防がれ勢いが落ちるが、余りの強大な威力は殺し切る事が出来ず、5重に張られた障壁は一気に亀裂を奔らせ、耐え切れず崩壊した。
だが、放出された力の炸裂範囲は闘技場を囲う壁に迄は至らず、試験場の損壊は回避された。
膨大な力の炸裂後、5体の人型巨大樹は跡形無く、けたたましい痕跡だけが地面に広がっていた。
「ヤ……ヤベェ――――――ッ!!! こんな威力打っ放したの初めてだーっ!!!」
予想だにしなかった強大過ぎる破壊力にダムクは驚愕し、あんぐりと口を開けるのだった。
ミリスティとミュフィ、そしてシャラナも同様に驚愕し、口を半開きのまま絶句していた。
ライファは驚愕を通り越したのか、身体も表情も、口を閉じたまま固まっていた。
「凄いぞリーダー!! 是迄の〈撃力報復反撃〉の威力を遥かに上回った最高威力だったぞ!!」
そんな中、ヴォルベスは驚愕よりも喜悦が勝り、愉快そうに笑うのだった。
「あちゃ~、五重張りは強度不足じゃったかぁ」
「まぁ、あの即死級の一撃を倍にした威力だしねぇ。流石は神獣の膂力、未だ赤子なのに末恐ろしいわぁ」
「ホッホッホッ、全くじゃわい」
そしてエルガルムも軽快に笑い、ベレトリクスは悟ったかの様に呆れた笑みを浮かべる。
(え……)
ガイアはというと――――
(えげつな――――――――っ!!!)
ダムクと同じかそれ以上に驚愕し、内心で絶叫の様に声を上げていた。
(ええっ、何あの破壊力?!! 防御力強化込みの人型巨大樹が一瞬で消し飛んだ!!!)
ガイアはこの場に居る誰よりも口をあんぐりと開け、目の当たりにした強大な一撃に恐怖する。
(狼さんも超人的に強過ぎるけど、下手したらこの人の方が強いんじゃないの!!?)
装備している武具の関係上、機動力はヴォルベスよりは下である可能性は高い。防御面に関しては確実にダムクが上である事は確実。そして純粋な身体能力での攻撃力に関しては、大体五分五分だろう。
だが、先程の武技は敵の攻撃が強ければ強い程その威力を発揮する反撃技だ。場合によってはダムクの方が攻撃力を圧倒的に上に為る。
もし、試合での相手がヴォルベスではなくダムクだったら、敗北はしなくとも重傷以上の大損傷を負ったのは間違い無いだろう。ガイアはそう確信を抱くのだった。
「えーと……まぁこんな感じに防御と蓄積、2つの武技を併用して反撃武技で倍返しする一連です。……今回の威力は俺も想定外でしたけど」
ダムクは少々顔を引き攣らせた笑みを浮かべながらも、使用した武技の使用一連を簡単に纏めて説明した。
「後は重装備の都合上、機動力は余り無いのは御勘弁下さい」
「リーダーよ、機動力が余り無いのならせめて〈縮地〉くらい習得すれば良いではないか」
「無茶言うなヴォルベス。俺はお前達と違って装備が重いからそう速く動けねぇんだっての」
ヴォルベスからのちょっとした無茶振りに対し、それは無理だとダムクはツッコむ。
「えー、そうかなぁ? リーダー、重装備系戦士の割には結構脚速いと思うんだけどなぁ」
「うん。リーダーもうちょっと頑張れば、〈縮地〉習得出来ると思う」
ミリスティとミュフィはお互いを見合いながら、言葉の最後に「ねぇー」と可愛く付け足す。
「ホッホッホッ。確かに重装備の戦士は機動系特殊技能を習得するのは困難じゃが、儂の見立てじゃと御主の身体能力なら〈縮地〉以外も習得出来る可能性は充分あるぞ」
「えっ!? マ、マジですか!」
「うむ、御主は守護戦士に絶対必要とされる足腰の強さが抜きん出ておる。その基盤を更に鍛え上げ、走法などの脚運びを洗練させれば〈縮地〉と〈疾風走駆法〉を直ぐ習得出来ると儂は思うぞ。まぁ、何方を先に習得するかは御主次第という所じゃの」
エルガルムは習得可能である事をダムクに告げた。
「ほう! 聴いたかリーダーよ、賢者様からの御墨付の言葉を賜ったぞ! そうと分れば直ぐに習得だ、リーダー!」
「おいおい気が早ぇぞ! するにしても、未だ俺達の出来る術を教えなきゃいけねぇだろ!」
気を急かせるヴォルベスに対し、ダムクは困った表情を浮かべながら宥めた。
「おっとそうだった! くははは!」
ダムクに宥められたヴォルベスは笑う。
「では、次は俺の番と参ろう。神獣様との試合で大体見せてしまったが、再確認を兼ねて俺の扱える術を御伝えしよう。修めた武技の最高威力はリーダーと同様に〝砕破金剛〟水準だ。格闘士の単純な武技も使えるが、主流は武術士の武技だ。機動系特殊技能は全方位に瞬時移動可能の〈縮地〉と〈跳躍迅進〉、走る速度を上げる〈疾風走駆法〉と〈跳躍走駆法〉。修行僧の武技と特殊技能は敵の防御を無視し内側に損傷を与える〈発勁〉や気の力を集束し敵に放つ〈気功弾〉、気の力を堅く強靭な性質に変え鎧の様に身体の外側に纏う〈外気功鎧纏術〉、身体の内側に気を練り内臓を防護する〈内気功防練術〉、気の力で自身の自然治癒力を高め、又は他者に気を流し込み自然治癒を促す〈気功治癒術〉、そして己の気の力を活性化させ、それを全身に行き亘らせ物理・魔力の攻防力と気功による武技の威力と効力を大幅に高める〈闘気〉を扱う事が出来ます」
(そうか、あの全身に気を纏う特殊技能は物理と魔力の攻防力を一遍に強化してたのか)
ヴォルベスが自身の扱える術の説明内容から、特別試合で彼が纏っていた気の力が何の特殊技能で、如何いった効力を発揮していたのかをガイアは知る事が出来た。
「感知系は〈暗視〉〈気配感知〉〈気配識別〉〈殺気感知〉〈制空領域〉の5つ。強化系は〈強靭金剛腕〉の腕力強化と〈強靭金剛脚〉の脚力強化、〈全筋金剛〉と〈金剛鉄の肌〉の物理防御強化、動体視力強化の〈心眼通〉、嗅覚強化の〈嗅覚超活性〉、聴覚強化の〈聴覚超活性〉、直感力強化の〈超直感覚醒〉、吹き飛ばし抵抗強化の〈不動不屈〉、そして今回の試合で習得した〈渾身不屈〉。最後に耐性系は毒・酸・麻痺・催眠・気絶・石化・病気・恐怖・精神汚染・精神操作の状態異常と、肉体苦痛・精神苦痛・殴打・斬撃・刺突・魔法・炎・水・風・土・氷・電気の耐性系特殊技能を有しています」
(うわーぉ、この人マジでメッチャ頑丈過ぎるぅ)
試合で彼の頑丈さは直に体感して知っているが有している耐性系特殊技能を聴き、ガイアは改めて彼の尋常離れした身体の頑丈さを認識するのだった。
「はぁい! 次は私ぃ!」
ヴォルベスの説明が終わり、ミリスティの番へと移る。
「私が使える武技の最高水準は〝穿破金剛〟です。連射の早撃ちと4つの射撃軌道操作技が出来ます。機動系は〈疾風走駆法〉と〈跳躍走駆法〉、感知系は〈望遠眼〉〈暗視〉と〈気配感知〉〈気配識別〉〈気配痕跡感知〉〈殺気感知〉〈魔力感知〉の7つに、聴覚を強化する〈聴覚超活性〉と、〈精神統一〉の魔力回復特殊技能を持ってます。扱える系統魔法は水・風・氷・電気・無系統の5つで、魔導弓術士の特殊技能――――〈魔導弓術の熟練〉で〈魔力の矢〉系の魔法に弓武技を加える事が出来るよぉ」
(〈魔導弓術の熟練〉? ほぇー、そんな特殊技能が在るんだぁ)
初めて聞く魔法関連の特殊技能に、ガイアは興味を抱く。
「それじゃあ私も弓術の腕前、観て貰わなくちゃね!」
ミリスティはそう言いながら、背負っている弓を手に持つ。
「動像じゃなくても良いので、簡単な的を沢山欲しいです」
「それならあたしが用意したげる」
彼女の要望にベレトリクスが応え、魔法を発動する。
「〈樹木人形創造〉」
闘技場内の端側に無数の芽がひょこっと地面から生え、一気に背を伸ばし柔らかな薄緑の幹は硬い樹木と為る。そして樹木は人を模り、地中を張る根っこを自ら引っこ抜き脚を形成した。
ズラリと並ぶそれ等は実に奇妙な光景だ。
「最後は〈石壁〉っと」
更にベレトリクスは創り出した無数の樹木人形を地面ごと押し上げ、外側が高い順に3段の巨大な石壁を創り出した。
無数の樹木人形が其々の段差ごとに並ぶ光景は、まるで合唱コンクールか、楽器を持たせれば演奏会でも始めるのだろうかと少しばかり思わせてしまう。
「こんな感じで良いかしら?」
「はい。贅沢な位ですぅ」
ベレトリクスの確認に対し、ミリスティはニパァッと可愛い笑みを浮かべながら返答する。
ミリスティは射撃する位置へと歩み、他の者達は彼女の邪魔にならない様に適当な位置へと離れる。
前方150メートル以上に居並び立つ樹木人形をミリスティは見据え、弓の矢摺を握り締めながら矢筒から矢を1本取り出す。
(わぁ、綺麗な弓)
彼女が持つ弓を改めて目に映したガイアは、その全体の芸術的な造形と細工の美麗さに見惚れた。神秘の銅を喰らい生成する事が出来る故か、不思議と彼女が持つ弓が神秘の銅製であると一目で判断出来た。
「それじゃあ行きまーす」
ミリスティはニコニコと笑みを浮かべたまま慣れた手付きで矢筈を弓弦に番え、スッと音無く引き絞る。
(…あれ? 弓弦を引き絞る音が聴こえない?)
キリキリッと弓弦が引き絞られる僅かな音が全く聴こえて来なかった事にガイアは違和感を感じ――――。
(?!)
その直後、口元の笑みを変えず、可愛らしい目が鋭い目付きへと変貌させた彼女にガイアは不意を突かれたかの様に驚く。
「―――〈閃速連射〉」
引き絞られた弦は彼女の手から解放され、弦は強い弾力を以て番われた矢を射飛ばす。
しかし、弾かれた弓弦は一切音を鳴らさず、射られた矢は空を切る音も鳴らなかった。
ガイアは更なる驚きと共に、何故音が鳴らないのかと疑問が生じた。
だがその疑問は彼女の動作を観て、後回しにせざるを得ない程にガイアは驚愕した。
それは――――速過ぎた。
余りにも――――速過ぎた。
彼女は既に1射――――いや、10射を終え――――。
そう認識し終えた瞬間には更に20、30以上射飛ばし終えている。その証拠として弦音や矢音が無い代わりに、的の樹木人形が穿たれた音が間隔を置く事無く鳴り続けている。
そしてその異常な早撃ちの動作に、ガイアは愕然とする。
矢筒から矢を取り出す片腕は矢を番い弓弦を引き絞る構えの残像を起こし、僅かな射撃姿勢の変化で幾つもの残像を作り出していた。
射撃が開始されてから僅かたった2秒か3秒程の後――――終わっていた。
ガイアは見開いた目をミリスティから無数に立ち並ぶ樹木人形へと動かす。
視界に映した遠くに立つ樹木人形の頭部には、矢が途中まで貫いた状態で深々と刺さっていた。それも全て頭部のど真ん中だ。
(は……速過ぎない…? え、弓って機関銃みたいに連射出来る物だっけ……?)
そう。彼女が見せたその連射力はまさに機関銃の如くであった。
本来弓は連射性能が乏しい遠距離武器である。しかし、それを扱う弓術士の技量によってある程度は速い連射を可能にする事は出来る。
だが連射をするにも一般の弓――――一般の弓弦の弾力性では限界が在る。
それを可能にしているのは、彼女の使用している弓と同様に使われている神秘の銅製の弦である。
極細の糸状にした神秘の銅を幾本束ねて作られた希少金属製の弓弦は丈夫性や耐久性に富むだけでなく、固い弾力性による射飛ばす矢の速度は一般の弓と比べて各段に速くなる。そして弾いた弦も一般と比べ一瞬で張った状態に戻り、直ぐに次の矢を番え射る事を可能にする。
だが、金属製の弦の弾力性は固い為、弓弦の弾力性に応じた引く力が必要となる。引く事が出来なければ、番えた矢を射飛ばす事は出来ないという事。
彼女はそれを容易く高速かつ連続で、華奢な腕とは思えない腕力で行っていたのだ。
「ドヤァ」
あっという間に射撃を終えたミリスティは、可愛いドヤ顔を皆の前で浮かべる。手を腰に当て格好良く姿勢を取っているつもりなのだろうが、格好良さよりも可愛さが全面に醸し出していた。
「おお、見事な早撃ちじゃ! 実に素晴らしい!」
エルガルムはミリスティの卓越した矢継ぎ早に称賛と拍手を送る。
「あの弓、〈無音化〉が施された武器ね。そしてあれ程の高速連射は一般の絹糸性や金属製の弓弦じゃ耐えられない。使われている金属素材は神秘の銅ね。それによく見ればその弓弦、番えた矢に魔力を付与出来る様に〈上位魔法武器化〉も施されてるわね。付与されてる魔法の数は少ないけど、一級品の弓ね」
ミリスティが持つ弓に宿る魔法効力と使用された素材をベレトリクスは直ぐに見抜く。
ベレトリクスは武具は鍛冶の手法で製作する事は出来ないが、魔道具製作の専門家である彼女は魔道具に限らず、武具等の良し悪しや価値、保有されている魔法効力等を職業柄はっきり見知する事が容易に出来た。
「良ぉし! 次は軌道変化撃ちをやってみますので、今度は的を加えて適当な障害物を御願いしても良いですかぁ?」
ミリスティは新たな的とそれを隠し射撃の阻害となる障害物の要求を口にする。
「障害物ねぇ…。んー、じゃあこうしましょう」
ベレトリクスは短い思考で的と障害物の配置を決めた後に再び魔法を発動させた。
今度は樹木人形の数は30体と先程に比べ非常に少ない数を創り出し、更に地面から10メートル程の石柱と樹木人形の高さ程度の石壁が多数創り出した。
ベレトリクスは創り出した30体の樹木人形に魔力を電波の様に繋げ、一遍に操作し配置させる。30体も同時操作は精神力を酷使する事だが、単純に移動だけをさせるならベレトリクスにとってこの位は平気だ。
術者に操作される人形達は石柱や石壁へと移動し、狙撃手の視界に映らない影へと身体を隠す。
ミリスティの視界には乱雑な間隔に並び立つ石柱とその奥に防衛線を引く様に立つ石壁が映り、其処へ隠れる樹木人形の場所をざっと把握した。
「準備良いわよ」
「はぁい。それじゃあ行きまーす」
ベレトリクスから準備完了を聴きミリスティは再び弓を構える。
(柱は前方6体、右は7、左も7、壁の向こう側は10体、計30)
ミリスティは〈魔力感知〉で隠れて居る樹木人形の位置と数を捉え、永年の経験による鋭い感覚で石壁との距離や柱と柱の不規則な距離間隔を把握した。
それ等の情報から如何射撃するかを瞬時に決めた直後、流れる様に、しかしその流れは非常に速く、矢筒から矢を引き抜き弓弦に番い引き絞る迄の掛かった時間はギリギリ1秒満たない速度だった。
そしてミリスティは再び射る。
先ずは右に音無く7連射。先程の高速連射より連射速度は低いが、それでも其処等の弓術士と比べれば未だに速過ぎる連射速度だ。
発射された矢は急速かつ一直線に飛び柱と柱の間を通り抜ける。しかし、このままでは一直線上の先に在る柱に突き当たるのは明白。
だが、それは彼女の有する武技が無ければの話だ。
ガイアはヴォルベスとの試合をした御蔭か動体視力が以前よりも格段と上がっており、今発射された矢に限らず先程の高速連射された矢の軌道をもはっきりと視認出来てる様に為っていた。
(よ…よーし、今度は集中して観るぞ)
そんなガイアはこのままだと確実に衝突する矢が如何なるのかを観察しようと、神経を視力に集中させる。そして視界に映る矢の速度が過剰な迄にゆっくりと為る。
矢と柱との距離は約60センチメートル。コンマ1秒で鏃の切っ先が柱に衝突する距離。
その瞬間――――ガイアは物理的に有り得ない現象を目にした。
矢柄が急に左へと大きく撓り、軌道を変化させ前方の柱を横切ったのだ。そして進む毎に右へ左へと、まるで蛇行の如く柱の間を縫って行く。
そして柱の影に隠れた樹木人形を1体、2体と次々に頭部ど真ん中を矢が貫き刺さる音が鳴る。
次は左に弓を向け、即座に7連射。これも右と同様に蛇行し、隠れている樹木人形の頭部を貫き刺す。
前方もまた同様、6連射された矢は意思を宿したかの様に柱を避け、隠れている樹木人形の頭部目掛けて突貫する。
「最後10体」
ミリスティは弓を斜めに上げ、左から右へと放物線を描く様に照準を動かしながら10連射を放つ。
斜め上へと射飛ばされた矢は高さ10メートルの石柱地帯を超える。しかし矢の軌道上は僅かも下を向いておらず、速度的にもそのまま飛んで行けば先の石壁の上を通過してしまう。
だが、それも武技が無ければの話だ。
射飛ばされた矢は石壁の上空線に入る2、30センチメートル手前で矢柄を大きく下に撓らせ、斜め下へと軌道を変え、真下へと急降下し樹木人形の頭上を貫き刺した。
全て命中。狙いは一寸のブレも無く。
(曲がった…!? えぇ、如何なってんの…!? 間違い無く武技によるものなのは判るけど、如何やって曲げてるんだ…!?)
普通射られた矢は真っ直ぐにか放物線を描き前にしか飛ぶ事が出来ない。そんな物理法則の常識を覆す異様な光景にガイアは驚愕し動揺する。武技による力だと納得する一方で、如何いう力の法則で急に軌道を曲げられるのか理解が出来なかった。
「ドヤァ」
そしてミリスティは再び可愛くドヤる。
「流石は森人族、弓術の技量には畏れ入るのう」
「感知系特殊技能も複数有るし、待ち伏せ相手に暗殺張りの先制射撃が出来るのは頼もしいわねぇ」
偉人2人は彼女に更なる称賛を送る。
「俺の一党の弓術士は射撃に優れているだけじゃないですよ」
そんな偉人2人にダムクが口を開く。
「ミリスティ、〈魔力の矢〉で良いから近接戦闘を披露してやれよ」
「え~、私近接苦手なんだけどぉ」
ミリスティはちょっとばかし嫌そうな表情をダムクに向ける。
「何時も通りにやれば良いんだよ。何時も通りに」
「むぅ」
ちょっと渋々ではあるが、ミリスティはほんの少しだけむくっと頬を膨らませダムクの言う事を了承する。
「何度も御手数掛けて済みませんが、今度は動像で攻撃しちゃって下さい」
「良し分かった。さて複数の動像を精巧に動かすとなれば」
エルガルムはガイアへと顔を向ける。
「ガイアよ、鋼鉄の動像1種類で構わんから複数創って相手してくれ。動像の大きさや形は好きな様にして良いぞ」
「ン、ンンンン」(は、はいはい)
エルガルムに声を掛けられたガイアは驚愕と疑問から覚まし、少し挙動気味な了承の意の声を発した後に少し思考する。だが直ぐに思考は終わり、ガイアは頭の中に浮かべた複数の図案を基に創造魔法を発動させる。
(〈動像創造〉)
何も無い中空に鉄塊が複数出現し、質量を急速に増大しながら形を成し、其々躯体の大きさや太さ、1体毎に少し異なった美麗な細工を形成する。
(んー、やっぱ武器が無いと味気無いな。〈武器創造〉っと)
そう思ったガイアは更に魔法を発動させ、様々な鉄製武器を創り出した。
小柄な動像には短剣、大柄な動像には大剣、双剣に槍、長柄の斧槍に棍棒、鎚鉾と体格に合わせ様々な近接武器を持たせたその姿は実に様に成っている。その中には無手の動像も少なからず居る。
その数は50体。圧巻の光景である。
「おお、これは中々見られん光景だ!」
そんな鋼鉄の動像の数を目にしたヴォルベスは楽し気に言う。
「確かに。大きさもそうだが、色んな武器を装備した動像をこうやって見るのは中々無ぇな」
ダムクは視界を徐々にずらしながら、鋼鉄の動像の姿形や武器の全体細部をざっと観る。
大抵の動像は高さも横幅も大きく、見た目もごつい物が多い。そういった動像は大きさと重量さによる単純な高い攻撃力と、頑丈さ――――動像を構成する素材による――――と面積の大きさによる防御、謂わば壁役といった運用しか出来ないのが一般的だと言って良い。
だが、神獣が創り出した動像の様々な姿形は、その一般的な運用から逸脱している物だと一目で見て取れる。
(〈上位敏捷力強化〉と〈迅速な脚〉で機動力を上げてっと)
ガイアは全ての鋼鉄の動像に敏捷力と移動速度の強化を施し、一般的な動像が持つ重鈍性を解消させる。
「ほう、敏捷力と移動速度強化の魔法か。これは大小問わず、高い速さを得た動像は脅威ぞ」
「だけど、自動型は動きが単調。素早いだけなら直ぐ見切れる」
ヴォルベスの言う通り、本来鈍重である人よりも巨体の動像が人並みの敏捷力と移動速度を得れば、味方としては心強いが敵としては厄介な存在と為る。だがミュフィの言う通り、一般に知られている自動型の動像は細かな動きは出来ない為、単調な攻撃さえ見切ってしまえば余り脅威には為らない。
「まぁ確かにそうだな。ミリスティにとってはちょっと物足りないな」
「えぇ~もう充分だよぉ!」
ダムクの言葉に対しミリスティは可愛い嫌々顔を向ける。
「あれ全部自動型じゃないわよ」
「……え?」
ベレトリクスの一言にダムク達4人はキョトンとする。
「あれ全部ガイアが操作するのよ」
「……え!?」
更なる一言にダムク達は驚愕の声を上げた。
「えっ、ちょっ、待って下さい! あれを全部操るんですか!?」
「そうよ」
「40か50くらいの数を!? 確か動像の同時操作は出来ても2体が限度って聞いた事があるんですけど!?」
「まぁ普通の魔導師ならそうね」
動揺するダムクの訪いに対し、ベレトリクスはあっさりと答える。
「動像の並列操作制御の特殊技能が有れば操れる上限の数も増えるけど、戦闘させるとなると高度な精密さが必要になるから難しいわねぇ。あたしとエルガルムもその特殊技能は持ってるけど、出来てせいぜい7体が限界よ」
「……複数の動像を同時に操作するってどんな感覚なんですか?」
魔法を行使する技術を持たない故に、魔法を行使する感覚を知らないダムクはベレトリクスに問う。
「簡単に言っちゃうと知恵熱みたいなものね。けど同時に操作する数が増えるとそれに応じて精神的苦痛が伴うのよねぇ」
そう言いながらベレトリクスは困った様な笑みを浮かべる。
「動像に限らず2つ以上の魔法を同時に操るという事は、同時に右を見て左を見る様なものじゃ。それに伴う精神的負担は耐性系特殊技能で緩和する事は可能じゃが、結局の所は操作と制御に関する技術水準が物を言う」
その後にエルガルムが補足を口にする。
「御主達もあの試合で観たじゃろう、ガイアが魔法を複数同時に発動させたのを。膨大な魔力を要する魔法の発動を継続させながら別の魔法を発動させる高度な魔力操作と制御、魔導の熟達者を修めた魔導師でも容易くは出来ん技術じゃよ」
「……因みに神獣様は上限どの位なんですか?」
ダムクは恐る恐るといった感じに尋ねる。
「ん~そうじゃのう、……ガイアがその気に為れば100体以上は出来るかも知れんな」
「ひゃ、100体以上…!?」
エルガルムの憶測に対し、ダムクに限らず他の一党仲間も驚愕する。憶測でしかないが、神獣ならば有り得ても不思議ではないという事を悟る。
「それ、国家が持つ近衛兵中隊規模、容易に蹂躙出来る脅威…」
「出来ちゃうわねぇ」
ミュフィの言葉に、ベレトリクスは肩を竦める。
「ガイアの動像操作制御に掛かれば、武技と特殊技能を持たないA等級以上でS等級未満の戦士と化すでしょうねぇ」
「えぇーっ! それはちょっと無理ぃーっ!」
それを聴いたミリスティは少々荒げた声を上げた。
「A等級以上でS等級未満の相手が50体は流石にきついよぉ~! 助けてリーダー!」
「なぁに言ってんだ、俺とヴォルベスより全然マシの方だぞ。お前ならこれ位の数捌き切れるだろ。何だったら直に神獣様に手解きして貰ってみるか?」
「あーん、意地悪ぅ!」
ダムクに助けを求めるも、今度は自分が擁護されない事にミリスティは嘆くのだった。
当然、その遣り取りは半分冗談の会話である。
「ホッホッホッ。まぁ相手は鋼鉄の動像じゃ、御主にとってはそれ程頑丈では無いから大丈夫じゃよ」
「そうだぞミリスティよ。只の50人組手だと考えれば良いのだ」
「それはヴォルだけだからぁ~! ミュフィ~代わってぇ~!」
「今はミリスティの番。出来る所、ちゃんと見せなきゃ駄目」
「ふえ~」
ミリスティは諦めショボくれた。
「儂等は邪魔にならぬ様離れて観るとしよう。シャラナも此方へ」
「はい、先生」
「んじゃミリスティ、良い所見せろよ」
ミリスティとガイア以外はその場から離れ、被害が及ばない所から見守る。
(さーてと、それじゃあ動作確認っと)
そんな彼等を他所に、ガイアは創り出した全ての鋼鉄の動像に魔力を通して接続をする。
魔力によって目に見えぬ明確な繋がりを感じ取った後、動像の可動部位全てを動かし出す。
全て鋼鉄の動像の腕、脚、腰、頭、手首、指と全身のあらゆる部位と関節を動かす。似たり寄ったりの動作や全く別な動作を同時にさせると、言葉では言い表せない奇妙な感覚をガイアは感じる。
それも50体。操作し制御する数が多ければ多い程、感じる奇妙な感覚は大きく重いものと為る。
(うーん。特殊技能が有るから出来るけど、今は楽に操作出来るのは20体って所だな)
50体も同時に操作するのは未だ多少は酷ではあるが、以前よりも格段に操り制御し易く為ったのをガイアは実感する。
「………あれホントに動像なのかなぁ…?」
ミリスティは神獣に操作されている動像の動作に目を奪われ動揺する。
1体1体が別々に動くその姿は――――まるで人の様であった。動像特有のカクついた動作は無く、1つ1つの動作に滑らかかつ細やかさが窺えた。如何考えても動像の動きではないと疑ってしまう程に。
「動像ってあんな風に動ける物だっけ?」
当然ダムクもそれを観て動揺し、今まで知り得た動像に関する常識を疑い呟く。
「まぁ1体に集中すれば並みの魔導師でも出来るっちゃ出来るけど、1人であの数は普通無理よ」
ベレトリクスは既に見慣れた光景を観ながらダムクの呟きに答える。
(並列操作感覚、並列制御感覚、共に良しっと)
ガイアは操作と制御の確認を終え、50体全て鋼鉄の動像を一斉に動かし配置に着かせる。
全ての硬質な足音は僅かにズレる事無く、規律の取れた歩の音が鳴る。
鋼鉄の動像達が歩く様はまさに――――兵隊の行進を思わせる光景だった。
半円状に広がり位置に着いた50体の鋼鉄の動像は身体正面をミリスティに向け、直後に一斉に戦闘態勢を瞬時に取る。
「わっ、凄い迫力」
巨体の動像なら兎も角、人の平均身長程の大きさやそれよりも小柄な動像の構える動作からすら、無機物とは思えない歴戦の猛者が放つ迫力が押し寄せて来た。そう感じたミリスティは驚く。
「さて、何方とも準備は出来た様じゃな。〈至剛魔力大障壁〉」
エルガルムは双方が何時でも始められる事を確認した後、ミリスティと50体の鋼鉄の動像を魔法障壁で囲う。
「さあ、思う存分に暴れて良いぞ」
エルガルムの声に応じる様にミリスティは弓を構え、ガイアは全神経を全ての鋼鉄の動像に並列集中し、意識と感覚を研ぎ澄ます。
「〈上位魔力矢〉」
ミリスティは矢を持たずに弓弦を引くと同時に魔法を発動し、魔力を集束し構築された矢を引き手で掴み、弓弦に番えた。
(…なるほど、普通の〈魔力の矢〉とは魔力の感じが違うな。更に高威力の〈魔力の矢〉って所か)
ガイアは彼女が創り出した魔力の矢を短く観察し、〈魔力感知〉で秘められた威力を感じ取る。
「何時でも良いですよ、神獣様」
ミリスティは弓弦を引き絞った状態を保ちつつ、視界全体で多数の鋼鉄の動像達を映し、僅かな進撃の初動を見逃さぬ様に待ち構える。
彼女の言葉に対し、ガイア自身は声を発したり身振り手振りで了承の意を示す代わりに、鋼鉄の動像達の腰を一斉に少し低く落とし突撃の態勢を取らせ、今から攻撃を開始すると示す。
(それじゃあ、行ってみようか!)
ガイアの魔力による操作で、全ての鋼鉄の動像は一斉に突撃を開始する。
「ええ!? 速っ、あれ本当に動像なのぉ!?」
魔法によって敏捷力と移動速度を強化されたとはいえ鋼鉄の動像とは思えない速度、そして1体毎に違った走り方にミリスティは驚愕の表情を彩る。良く見る戦士の重みのある走りや盗賊特有の疾走、無手に至っては陸上選手走りといった洗練された走り方、そんな迫力ある初めての光景に流石のミリスティも怯んだ。
当然、ダムク達もその迫力のある動像達の進撃に驚き、目を大きく見開くのだった。
ミリスティの心境など御構い無く、50体の鋼鉄の動像は彼女との距離を一気に縮め愚直に疾走する。
そして先に到達しようとしている最初の鋼鉄の動像は16体、小柄型である。短剣類はダガーを初め、十字架の形をし刀身が細く鋭いスティレット、戦闘用特化の大型短剣のサクス。片手剣類はショートソード、刀身が湾曲した曲剣に属するシミター、刀身の身幅が広めのブロードソード。片手斧のハンドアクス、片手鎚のメイス、槍のショートスピア、小型丸盾のバックラーや双剣といった重量が軽めの武器を装備している。
因みに、ガイアは安全面を考慮し相手を斬ったり貫いたりしない様、刃物系の武器の刃と切っ先は丸く作ってある。
最初に斬り掛かろうとミリスティの前に迫るはショートソードを右手に持つ動像。その背後からはハンドアクス持ちとスティレット持ちの動像が共に続く。
一番手のショートソード持ち動像はミリスティに対し、素早い袈裟斬りを初撃として繰り出す。
ミリスティはそれに合わせてその場から跳び退いて初撃を躱し、引き絞っていた魔力の矢を即座に放とうとする。
(さーせない!)
ガイアは瞬時に更なる攻撃操作で、動像による初撃の袈裟斬りから流れる様に連撃を繰り出させ、ミリスティの射撃をさせまいと牽制する。
「うえぇ!? 操作精度高過ぎるんですけどぉ!」
動像のあらゆる動作の精度と速度の高さにミリスティは驚きながらも、素早い連撃を楽々と回避し続ける。
そこにガイアはハンドアクス持ちの動像を彼女の横へと回り込ませ襲撃を仕掛ける。
「おっとぉ!」
それにミリスティは即座に反応し、左から振り被るハンドアクスを華麗な側転跳躍で躱した直後、中空からハンドアクス持ちの動像の頭上に強力な魔力の矢を放ち、穿ち粉砕した。
ミリスティが着地した瞬間、背後に回り込んだスティレット持ちの動像が、刺突の構えで跳躍するが如く突撃を仕掛ける。
スティレットの切っ先が急速に迫る直前にミリスティは着地後即座に後退すると同時に、身体を横旋回しながら刺突を華麗に回避する。更にその直後に後ろへ跳躍すると同時に弓弦を引き、〈上位魔法矢〉を射飛ばしスティレット持ちの動像を穿った。
ガイアは矢を放った瞬間の僅かな隙を透かさず狙い、ショートソード持ちの動像を急速接近させる。そこに更に加えた3体――――ショートスピアとバックラー、ダガー、シミターを持った小柄型の鋼鉄の動像で追撃を仕掛ける。
直剣と曲剣による連撃の牽制維持、小盾を構えながら短槍による堅実な突き、僅かな隙へと滑り込む様に短剣での至近距離攻撃からの即離脱の繰り返し、それ等の動像をガイアは同時に操作し続ける。
だがその牽制から直ぐに脱したミリスティは近距離から魔法の矢を3連射し、3体の動像――――ショートソード、シミター、ショートスピアとバックラー持ちを一気に穿ち粉砕する。
(今だ!)
ガイアは矢を放ったその瞬間を狙い、ダガー持ちの動像を急速接近させ彼女の背後から襲撃させる。
そしてまたも急速接近する直前にミリスティは後転跳びし、迫り来た動像の頭上を跳び越え、流れる様に魔法の矢を放ち穿った。
(やっぱ死角からの奇襲は無理か。動像には魔力が通ってるから〈魔力感知〉でバレバレだよね)
ガイアは胸中で肩を竦めながらちょっとばかし反省をする。〈魔力感知〉が有れば自分でも死角からの接近攻撃は躱せると。
ならば死角からの攻撃は諦め、愚直に真正面から突撃のみにするか。
否。死角からの攻撃が躱される事を前提に更なる追撃をする迄だ。
(さあ、どんどん行くぞ!)
ガイアは残り全ての鋼鉄の動像でミリスティの周囲を囲い、本格的猛攻を開始する。
11体の小柄型の動像で連続攻撃や一撃離脱の繰り返しによる牽制、24体の人並みの大きさ型の動像で追撃、10体の大柄型の動像で重い一撃による強烈な追撃。
ロングソード、バスタードソード、エストック、バトルアクス、ロングスピア、クオータースタッフ、メイス、そしてグレートソード、グレートアクス、グレートメイス、ランス、ハルバード等、其々の体格に合う武器を所持する動像達はガイアの操作の下、巧みな戦士の如き動きでミリスティを攻め続ける。
「もうこれ絶対動像じゃないよぉー!」
もはや動像とはとても思えない逸脱した動きに対し、ミリスティは率直な感想を嘆く様に口にしつつも、華麗に跳躍し舞う軽業的な動きで、次々と襲い来る鋼鉄の動像達の猛攻を躱しながら魔力の矢で射抜いて行く。
「動像ってあそこまで動けるものなのか? 確かにミュフィの言う通り、あの数であの動きは中隊規模の兵を簡単に蹂躙出来ちまうな」
「うん…、でも実際に観てはっきり解った。さっき言ったの訂正、あれ、大隊規模も潰せる脅威」
「…だろうな。武技や魔法でなら対抗出来るだろうけど、数に加えて歴戦張りのあの動き、最低でもA等級の力量じゃ無ぇとあっという間に潰されちまう」
「ホッホッホッ。御主の言う通り特別な精鋭部隊でなければ太刀打ち出来んじゃろうな」
呆気に取られているダムクの見解やミュフィの訂正に対し、エルガルムは笑いながら同意を口にする。
「良いな。実に良いな、あれは!」
一方のヴォルベスは、猛攻する鋼鉄の動像達の光景を――――子供が玩具を欲しがる様な羨ましいという心境を宿した瞳で楽しそうに観ていた。
「お前こういうの好きだもんな」
「無論! 冒険者をやっている以上、多数の魔物や魔獣を相手取らねばならん戦闘も強いられるからな! 後で俺もあれに挑みたいものだ!」
ヴォルベスはそう言い心身共に戦闘欲求で疼かせるのだった。
襲い来る鋼鉄の動像達の猛攻をミリスティは新体操の如く華麗に回避し、あらゆる体勢から魔力の矢を放ち、鋼鉄の動像を1体1体確実に粉砕していく。
それに対しガイアも負けずと彼女の動きを見切り捉えようと、更に集中力と脳内情報処理の回転を高め、操作制御精度を更に向上させ全ての鋼鉄の動像で攻め続ける。
(――――凄過ぎでしょ、あの動き…!)
ガイアは称賛を含んだ驚愕を抱く。
弓術士は弓矢による遠距離からの支援攻撃を得意とし、接近戦は苦手とする職業だ。攻撃方法は非常に単純で、その場から動かずに射る敵を狙い矢を放つのが基本だ。移動しながらの射撃となると弓を構え難い上、狙いが余り定まらなくなる。敵に接近されれば弓を構える余裕など無くなり、最悪の場合は逃げるという手段しか取れなくなる。
そんな常識を覆す光景がガイアの視界全体で鮮やかに舞っていた。
軽戦士の如き俊敏な機動力、剣舞の如き華麗な舞い。
そんな可憐ながらも凛々しい彼女の姿は――――戦場を舞い踊る妖精と言うに相応しい美しさだった。
開始してから2分か3分程の短い時間経過後――――魔法障壁内にはミリスティだけとなった。
一部始終までの時は短いが、彼女の弓術士としての戦闘技術が充分に詰まった実演であった。
「実に見事な腕前! 弓での近接戦闘する際の高精度射撃、森人族の弓術士でもこれ程の技量を持った者は中々居らん!」
エルガルムは再びミリスティに称賛と拍手を送る。
「凄いです! 弓術士のあんな闘い方初めて見ました!」
シャラナはミリスティの華麗に舞いながら闘う姿に、理想の闘う女性像としての憧れを抱いた。
そして三度と彼女はドヤる――――
「ふえ~、全部倒した~!」
――――と思いきや、恐怖混じりの動揺を抱いていた様で、そんな感情から解放され脱力した表情を浮かべるのだった。
「御疲れ。神獣様の動像相手にした感想は?」
「思ったより怖かったんだけど~! 動きが完全に戦士張りだったよぉ!」
ダムクに感想を訊かれたミリスティは、若干荒げた嘆き声で言う。
「あれ位の数なら今迄も良く遭遇して倒してたであろう」
「それは皆一緒の時だから! 私弓術士なんだから1人だと凄い苦労するのー!」
ヴォルベスからの言葉に対しても同様に言い返すのだった。
「確かに、私もガイアの動像を複数相手した事ありますが、あの数は流石にかなり厳しいですよね」
シャラナは此処テウナク迷宮都市に来る前にやったガイアとの模擬戦を思い返し、ミリスティに同情を抱く。
「だよね、そうだよね! シャラナちゃんなら解ってくれるよねー! 動きが遅い筈の動像がとんでもない速さで迫って来るだけでも怖いよねぇ! しかも手練れの戦士並みの動きされたら余計怖いよねぇ!」
自身の心境を理解してくれるシャラナにミリスティは唐突のハグをし、思いに思った事を聴いてと言わんばかりに言う。
「ミリスティ、そういうのは終わってからにしとけ。残りの特殊技能が未だだろ」
「あ、そうだった」
ダムクにそう言われたミリスティはコロッと表情を普段の色を浮かべた。
「後は扱える系統魔法の操作制御系特殊技能に、耐性系は麻痺・催眠・気絶・恐怖・精神汚染・精神操作の状態異常と、精神苦痛・魔法・水・風の耐性系特殊技能を持ってます。周囲索敵と援護射撃は任せて下さぁい」
普段の調子に戻ったミリスティは自身の出来得る術を言い終え、ニパァッと可愛い笑みを咲かせるのだった。
「じゃあ、最後は私」
そしてミリスティからミュフィの番へと移る。
「私の扱える武技の最大威力は〝無影暗殺〟水準。使う武器は短剣だから斬撃と刺突、高い攻撃速度の武技が主流。んー…、在り来たりじゃない暗殺武技は……うん、敵の四肢の腱を瞬時に裂き動きを殺す〈四肢断殺〉とか」
(え?! 四肢の腱を裂く?! うわ怖っ!)
ガイアは〈四肢断殺〉の詳細を聴き、ゾッとする。
「他には敵の身体を斬り開き、瞬時に臓器を奪い取る〈斬開臓奪〉とかかな」
(臓器を奪い取るぅ!!? 何その武技、エグ過ぎない!!?)
〈四肢断殺〉よりもかなり凶残な武技の詳細にガイアは思わず、敵が彼女に内臓を奪い取られている惨たらしい場面を想像してしまうのだった。
「機動系はヴォルベスと同じのに加えて〈無音走駆法〉と〈無音跳躍法〉。感知系は〈暗視〉〈透明可視〉〈望遠視〉〈気配感知〉〈気配識別〉〈気配痕跡感知〉〈殺意感知〉の7つ。隠密系は自身の気配を絶つ〈気配隠絶〉、強化系は〈武器気功纏〉〈嗅覚超活性〉〈聴覚超活性〉〈超直感覚醒〉の4つ。最後に耐性系は毒・麻痺・催眠・気絶・病気・恐怖・精神汚染・精神操作・幻覚の状態異常と、肉体苦痛・精神苦痛の耐性特殊技能を持っています。実演の方はダンジョンに潜った時に見せた方が解り易い。だからこれで以上です」
最後の番であるミュフィが終わり、漸く互いの術についての説明は終了した。
「流石はS等級を与る冒険者じゃ。共に最下層部へ挑むには申し分ない武技と特殊技能を修めとるのう」
エルガルムは彼等に称賛を告げる。
「賢者様にそう言って頂けると、素直に嬉しい限りです」
エルガルムから送られた称賛に対し、ダムクは内心謙遜しながら素直に受け取る。
「さて、これで互いの出来得る術の情報は知った。後はそれを基に、戦闘に於ける立ち位置と連携を身体に覚え込ませるのみ。と、その前に―――」
エルガルムはガイアへと視線を向ける。
「先にガイアには重力魔法の操作制御を覚えさせんとな」
(およ? 僕?)
ガイアは自分自身に指を差し、エルガルムはニコッと穏和な笑みを浮かべて肯定する。
「おお、とするとあの超重力を発生させるのか。これは丁度良い」
ヴォルベスはダムクの片腕を掴み、半ば無理矢理引っ張り出す。
「ちょっ、おいヴォルベス? 何する気だ?」
「折角の機会だ。リーダーも超重力体験をしようぞ」
「な?!! 待て待て待て無茶言うな!!」
ダムクは引っ張られるのに対し、抵抗し途中で踏み止まる。
「身体強化したお前でも相当危なかっただろ! 俺の場合鎧着てるからメッチャ負荷が掛かるって!」
「それは良い。更に重力負荷が掛かれば、俺が今回得た特殊技能を得られるかもしれんぞ」
「得る前に潰れて死ぬって!!」
「何を言う。神獣様の一撃を防ぎ切れるのだから死にはせんだろう」
「流石にこれは遠慮させて貰うぞ!!」
「逃がさんぞリーダー!」
ヴォルベスは瞬時にダムクの背後を取ると同時に、両腕の自由を利かぬ様にガッチリと拘束する。
「さあ神獣様、今の内に!」
「ちょっ、おまっ、放せヴォルベス!!」
(ええー……。何この状況…)
ダムクとヴォルベスの茶番的様子は、まるで「今だ!! 俺ごとやれ!!」という映画やドラマの一場面でも観ているかのようだった。
本来なら緊迫した場面なのだが、それは視界に映る2人によって滑稽と化していた。
「ミリスティ、ミュフィ!! 此奴を止めてくれ!! …て、もう避難してやがるチクショーっ!!」
ダムクはミリスティとミュフィに助けを求めたが、そんな彼女2人は既に賢者達の元に避難していたのだった。
「言ってただろうリーダー。何れ最下層部に挑む為に新たな特殊技能の習得は必須だと! ならば滅多に訪れぬこの機会を有効に使うべきだ!」
「言ったけど!! 言ったけどあの超重力はヤバいって!!」
「俺がこうして無事なのだから、リーダーも耐えられる筈だ!」
「勘弁してくれぇ!!」
ダムクはその場から逃げ出そうと藻掻くが、ヴォルベスの拘束から抜け出せずだった。
「明日に向けての時間が惜しい! 構わず重力魔法を発動して下され!」
(えー……。はい…分かった)
ガイアは躊躇いを抱きつつ、魔法を発動しようと両手を前に翳す。
(じゃぁ……行きまーす…)
「や……止めろぉ…! 死にたくない! 死にたくない!! 死にたく――――」
(ゴメン、頑張って耐えて。〈超重力場〉)
ガイアの重力魔法が発動した後、ダムクは悲鳴を上げるのだった。




