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眠りし闘争心の目覚め18-5

 試験場内の空間を支配するが如く、覆い尽くす聖なる光輝が静かに消失し、僅かな空振すら無い静寂が訪れた。

「……皆、無事か?」

 エルガルムはこの場に居る全員に安否確認の声を掛ける。

「は…、はい…、何とか」

「はい…、存命しております」

 シャラナとライファは顔を上げ、無事である事を伝える。

「…此方(こっち)も何とか生きてます」

 ダムクは一党仲間(パーティーメンバー)の様子を一瞥(いちべつ)し、生きている事を伝えた。

 ただ、一瞥した2人の心境は完全にガクブル状態であり、ミュフィは転がった石像の様に固まり、ミリスティは身体を小刻みに震わせていた。相当怖かったのだろう。

「……生きてる。……試験場も無事だ」

 グルエドはゆっくりと周囲を見渡し、試験場が崩壊していない事に深く安堵(あんど)した。

「あ〰〰〰……。ホント死ぬかと思ったぁ〰〰」

 ベレトリクスは張り詰めた緊張が一気に弛緩(しかん)し、床に(うつぶ)せた(まま)ぐったりとする。

七重張りの結界障壁(あれ)を破壊するって、威力が出鱈目(でたらめ)にも程があるわよ……」

「じゃが、あの出鱈目な威力は納得出来きてしまうのう」

 全員は各々(おのおの)ゆっくりと立ち上がる。

「立てるか、2人共?」

 ダムクはミュフィとミリスティに声を掛けた。

(ごわ)がっだよぉ~…」

「………」

 ミリスティは案の定半泣き、ミュフィは言葉に成っていない声を漏らしていた。

「死んじゃうかと思ったぁ~…」

「そりゃまぁ、あんな大魔法が迫って来れば普通誰でもそう思っちまうのも無理ねぇさ。俺もマジで死ぬかと思ったし」

 幾ら神聖という力でも、敵を滅する力は有る。それが己の身に降り掛かって来れば当然恐怖を抱く。そして降り掛かるその力が強大であればある程、生じる恐怖は巨大に膨らむものである。

「けど、賢者様と魔女様の御蔭(おかげ)で、こうして全員無事で済んだ――――」

 巨大な危機が去り安堵していたダムクは突如、重大な事に気付き、驚愕(きょうがく)めいた不安の表情を一瞬で浮かべ声を上げた。

彼奴(あいつ)は!!? ヴォルベスは無事か!!?」

 ダムクは慌てて胸壁から上半身を乗り出し、闘技場全体を俯瞰(ふかん)する。

 そんな彼に続き、他の全員も胸壁から上半身を乗り出し、大魔法炸裂後の現状を確認しようと俯瞰する。

 彼等の視界に映る闘技場は、熾烈な戦闘で地面に刻まれた幾多の痕跡は跡形も無くなっており、それ等を塗り潰す様に大魔法による広大な痕跡のみが残っていた。そして神獣(ガイア)が出現させた巨大樹も、強烈過ぎる大魔法の炸裂によって跡形も無く消滅していた。

 そんな更地と化した闘技場の中に1人と1体――――ヴォルベスとガイアの姿が在った。

 神獣(ガイア)は立ったまま今居る場所から一歩も動かず、ヴォルベスに視線を向けていた。

 そして神獣(ガイア)に視線を向けられているヴォルベスは、白眼を剥いた儘、仰向(あおむ)けで地面に倒れていた。

「ヴォルベス!!!」

 ダムクは急ぎ胸壁を乗り越え飛び降り出す。

 ミュフィとミリスティも慌てて彼の後に続き、観戦席場から飛び降り出した。

「シャラナ、彼の治療(ちりょう)を頼む」

「はい、先生!」

 シャラナは(エルガルム)の指示に従い胸壁を乗り越え飛び降り、ライファも彼女の後に付き従い観戦席場から飛び降りた。



 ガイアの視界全てを塗り潰す強大な神聖に満たされた光輝の支配が終わり、空間全てを染め上げた純白の輝きは消失し、闘技場の光景という色が戻った。

 ガイアは視線を少し下ろし、ヴォルベスを視界に映した。

 視界に映した彼は仰向けに倒れ、白眼を剥いていた。

(………()り過ぎた…!!!)

 ガイアは初めての闘争心から我に返り、不安と困惑に襲われる。

(ヤバい、あの人動かないぞ! 死んでないよね!? 死んでないよね!!? 如何(どう)しよう、僕初めて人殺しちゃったのか!!?)

 大きな動揺を抱きながら、彼の様子を少しジッと観た。

 ピクリとも動かない。

(如何しよう……!!)

 ガイアの内心は、冷や汗が滝の如く流れ出す。

 困惑と混乱の境を彷徨(さまよ)っていたその時、遠くから人の声が飛んで来た。

「ヴォルベス!!!」

 ガイアは反射的に顔を飛んで来た声の方向へ向けた。

 視界に映った声の主はダムクだった。観戦席場から飛び降り、着地して直ぐに駆け出し、此方(こちら)に向かって来た。そして彼に続きミュフィとミリスティも飛び降り、着地後直ぐに彼の後を追う様に駆け出す。

 彼等3人に遅れてシャラナも飛び降り、着地する4,5メートル程の高さで風系統魔法〈空噴の推進足プロペルフット・エアジェット〉を発動する。揃えた両脚の裏からの空気噴射によって落下を急停止させ、地面から30センチメートルの高さをほんの僅かの間だけ滞空した後に安全着地をした。ライファも彼女の後に続き飛び降り、音を立てず軽やかに着地をした。

「ヴォルベス、生きてるか!!!?」

 先に3人の冒険者が一党仲間(パーティーメンバー)であるヴォルベスの元へと駆け付け、ミュフィは手をヴォルベスの口元と鼻孔(びこう)に近付け呼吸の確認をする。

「……大丈夫、微かだけど息してる」

 ミュフィのその言葉にダムクとミリスティは安堵の息を吐く。

(良かったぁ~! 生きてたぁ~!)

 そしてガイアも内心で深く安堵するのだった。

 ヴォルベスが辛うじて生きていると判明した後に、シャラナとライファが駆け付けた。

「直ぐに治癒(ちゆ)魔法を掛けます。中位(クラス)ですので完治するまで少し時間が掛かりますので、御容赦下さい」

「ああ、頼む」

 シャラナは倒れているヴォルベスに両手を近付け、治癒魔法を発動させた。

「〈中傷治癒マドレート・ウーンズ・ヒーリング〉」

 シャラナから放たれる温かな癒しの魔力がヴォルベスの肉体全体に流れ廻り、内外の損傷を治していく。

 治癒魔法を掛け始めてから少し経過したその途中――――

「ひゃっ!」

 白眼を剥いていたヴォルベスが突如と意識を取り戻し、不意でも突くかの様に上半身を勢い良く起こした。

「くはははっ! 流石に死ぬかと思った!」

 目を覚ましたヴォルベスは平然と笑うのだった。

「いや気付くの(はえ)ぇよ!」

 そんな治療途中で未だ全身重症状態なヴォルベスに対し、ダムクは少し呆れた様にツッコんだ。

(ええ~、もうピンピンしてる~)

 ガイアは彼の異常な頑丈さに呆然としてしまうのだった。

「おお、御令嬢殿! 治療して下さり感謝致す」

「いえ…御気になさらず。しかし本当に無事で良かったです」

 ヴォルベスに感謝を告げられたシャラナはそのまま治療を続行する。

「しっかし、今回はとんでもねぇ激烈な試合だったな。本気に為ったお前を見たの随分久々だったしよ」

「ホントホントー、ヴォルがここまでボロボロに為ったのも初めて見たぁ」

「うん。でも、相手した神獣様、魔法も凄かったけど、ヴォルから戦闘技術を模倣(もほう)したの、凄い」

「ああ、あれはマジで驚いたよ! まさか武技(スキル)まで模倣して習得するなんてな!」

 堅実の踏破ステディー・プログラス一党(パーティー)の一同は顔をガイアに向ける。

「流石は神獣様、圧倒的過ぎだったぜ」

「だねぇ。魔法も凄いのばっかりだったし」

「特に最後の大魔法、凄まじ過ぎる威力」

「おお、最後の魔法か! あれは実に凄まじき強烈さだった!」

 人生の中で喰らい実感した最大級の大ダメージに対し、ヴォルベスは感激の言葉を口にする。

「だがあの瞬間、呑み込まれたあの瞬間、神々しき力が直接心身に流れ込み満たされた様だった。あの感覚…、あの感覚をもう一度体感すれば、新たな何かを掴めそうな気がしてならん!」

「おいおい、あれをまた喰らう気か? これ以上は流石のお前でも死ぬぞ」

 ヴォルベスの自ら難行に身投げしようとする発言に、ダムクは呆れるのだった。

「ってかお前、何か新しい特殊技能(スキル)獲得したんだろ? どんな特殊技能(スキル)なんだ?」

「うむ!〈渾身不屈〉と言ってな! 身体のあらゆる動作に対する外的要因負荷を一定時間無効化する耐性系に似た強化系特殊技能(スキル)だ!」

「けど、掴みによる拘束と縛り付けによる束縛には効力無いみたい」

 ミュフィはヴォルベスの説明と試合で神獣に掴まれた状況から、〈渾身不屈〉の効力が及ばない状態を確信めいた予想を口にした。

「まぁな。だがこれで、機動力を削がれる要素は大幅に減らせる訳だ!」

 ヴォルベスはそう言いながら呵々(かか)と笑うのだった。

(ああ、それでか、急に動ける様に為ったのは)

 その会話内容を聴いたガイアは試合で生じた疑問が払拭され、納得した。

「流石はS等級(ランク)冒険者、ガイアを相手にあそこまで健闘するとは大した若者じゃ」

 其処へ偉人2人と冒険者組合長(ギルドマスター)が最後に遅れて歩いて来た。

「ガイアの相手をしてくれて感謝する。御蔭でガイアの力量を粗方(あらかた)把握する事が出来た上に、今回の特別試合の貴重映像も撮れたわい」

「俺も―――いや、私も賢者殿に感謝致します! 神獣様との手合わせさせて頂ける機会など、己が生涯全てを捧げても決して得られない奇跡の機会! 感謝極まる思いです!」

 ヴォルベスは胡坐(あぐら)をかいて拳を作った両手を地に付け、(こうべ)を垂れならが感謝の言葉を口にする。

「うむ。いやぁしかし、終盤辺りは儂等も肝が冷えたのう。最後に発動した魔法の炸裂が、儂の張った結界障壁を粉砕する瞬間は特にのう」

(ギクッ)

 エルガルムのその言葉にガイアは心臓を一瞬ドキッと大きく鼓動させた。

「まさか重力魔法だけでなく〈偉大なる神聖力の炸裂ディバインフォース・バースト〉をも習得していたとは知らんかったわい」

「ほう! あの最後の神聖な大魔法は〈偉大なる神聖力の炸裂ディバインフォース・バースト〉というのか!」

 ヴォルベスは初めて聞いた神聖系統魔法に対し、抱き向けていた関心が大きく膨らんだ。

「その魔法って、やっぱり上位(クラス)の神聖魔法ですよね?」

 ミリスティも知らない魔法に関心を抱き、エルガルムに問い掛けた。

「〈偉大なる神聖力の炸裂ディバインフォース・バースト〉は最上位(クラス)に位置する魔法であり、最上位の聖職者職業(クラス)を修めた者しか習得出来ない神聖系統魔法じゃ。そして、儂が知る中でこの魔法を扱えるのは現在この世でただ1人――――教皇ソフィア・ファルン・シェルミナスだけじゃ」

 それを聴いた堅実の踏破ステディー・プログラス一党(パーティー)は感嘆と納得の声を上げた。が、その中で1人――――ミュフィだけは疑問を生じていた。

「確か、賢者様も聖職者職業(クラス)を修めている筈。賢者様もあの魔法、使えても可笑しく無い筈」

 何より、全魔導師の中で頂点に君臨していると言っても過言ではない偉人だ。最上位(クラス)の神聖系統魔法を扱えても可笑しくは無いと、ミュフィはそう疑問を抱いていた。

「儂は司教(ビショップ)までしか職業(クラス)等級(レベル)を上げとらんからのう。じゃからあの魔法を含む最上位(クラス)の神聖系統魔法は使えん上に、現時点では習得出来んのじゃよ」

「エルガルムは魔導師(ウィザード)職業(クラス)等級(レベル)を中心に極めてたからねぇ。普通は複数修めた職業(クラス)を最上位(まで)に極められたとしても、生涯で大体2つが限度よ。まぁ、それは置いといて――――」

 そしてベレトリクスは視線をガイアへと向けた。

「あれはホントにヤバかったわぁ~。七重に迄張った結界障壁をああも容易に破壊するとはねぇ。正直死ぬかと思ったわぁ~」

(いやぁ……、そのぉ……)

 ベレトリクスの呆れながらも揶揄(からか)う様な視線を向けられるガイアは目を逸らし、再び内心でだくだくと汗をかき出すのだった。

「あれ程熾烈だったから、結界障壁に気付く余裕無かったんだろうけど」

(あー……、それはぁ……)

 実は最初から、結界障壁が張られた時から気付いていた。

 ガイアはその上で闘争心の赴くまま、思いっ切り炸裂させたのだ。

 結界が張られたから大丈夫だろうと思ってやりました、何て言ったら流石に怒られるだろう。実際の魔法の威力や効力範囲を知る為に確認の意味で発動してみました、何てそれなりの言い訳を言っても叱られるだろう。

 ……それ以前に、喋れないから弁解すら言えないが。

「あれを防げるのは先生とベレトリクスさんぐらいですからね」

(ホントね、お爺ちゃんとお姉さんが居なきゃ大惨事だったかもだし)

 本当に色々と恵まれている、シャラナの言葉を聞いてガイアはそう思った。

「ガイア、今回は周囲への被害が防げて対戦相手が死なずに済んだから良いけど、次からはちゃんと周囲を意識して魔法の全出力は極力控えるように」

「ンンー……」

(うぅ……、御免(ごめん)なさい。つい調子に乗っちゃいました)

 カンカンに怒ってはいないが、シャラナから(さと)す様に注意されたガイアは深く反省するのだった。

(……神獣様が女の子に注意されてる)

 先程の試合で観た圧倒的な威圧感と威厳さのあった様相は全く無く、巨体をしゅんと縮こませるその様子はまるで叱られている子供だった。

 叱る少女と叱られる神獣。

 堅実の踏破ステディー・プログラス一党(パーティー)から見れば、それは実に可笑しな光景である。

「まぁ今回に限ってはガイアの力量を知り、今後の探索の際に起こる戦闘の為に把握せねばならんかったからのう。特にガイア自身には、己の力量(ちから)を使いこなせる様にする為に必要な試合じゃ。とはいえ、儂等の想定を超えておったのには驚いたのう」

「想定を超えたっていえば、あたしは重力魔法が使えた事に驚きよ。もしかして、神獣としての生まれ付きで重力元素を認識出来るのかしら?」

(重力元素? 重力子じゃなくて?)

 ベレトリクスの疑問内容から重力元素という言葉に対し、ガイアは首を傾げ疑問符を浮かべた。

 ガイアは重力に関しては前世の世界でちょっとした雑学程度に知っているが、重力元素なんて言葉は前世の世界に存在しない。

 だが、おそらくは重力子と同じ物なのだろうとガイアは予想する。

「確かに、漠然とした仮説ではあるがその可能性は充分在りそうじゃのう」

 ベレトリクスの言葉を聴いたエルガルムは納得を口にする。

 しかし、その可能性は否である。

 ガイアは初めから、重力元素など認識出来ていないのだ。

 にも関わらず、重力魔法を発動し展開する事が出来た。

 発動出来たその理由――――それは重力子の事を知っていたからであり、それを重力魔法の術式として引用し、残りを仮説という感覚だけで構築(イメージ)出来たからである。

 そして結果、ガイアは重力魔法を発動させた後、現在(いま)は重力子と思っていた重力元素を認識出来る様に成っているのだ。

「はい、治療完了です。御身体の調子は如何(いかが)ですか?」

「うむ、傷も痛みも無い。身体も軽快。感謝致す」

 そんな中、ヴォルベスは完治し、治療してくれたシャラナに礼を告げる。

「あの重力魔法は実に強烈じゃったが、観た感じでは未だ操作も制御も(つたな)く粗削りじゃのう。ふむ……」

 エルガルムは何かを思考し出し、直ぐに方針が定まる。

「良し、ダンジョン探索での打ち合わせ後に重力操作制御を仕上げておこう。冒険者組合長(ギルドマスター)、済まんが後でまた此処(ここ)を使わせて欲しいが良いかの?」

「ええ、勿論構いませんが、……もう試合はしませんよね?」

「ホッホッホッ、流石にあんな熾烈な事はもうせんわい」

 その言葉を聴いたグルエドはホッと胸を撫で下ろした。

「さて、熾烈で豪快な手合わせは無事終えた。次は本題の打ち合わせと移るかの」

「おお、待ってました! 賢者様からの指名依頼!」

 本題というエルガルムの言葉にヴォルベスは反応し、尻尾を振りながら目を輝かせた。

「ホッホッホッ、待たせて済まんの。では、場所を移して今回の依頼内容を話すとしよう」

「ではエルガルム様、その今回の依頼内容を私も冒険者組合長(ギルドマスター)として同席し聴かせて頂きますが宜しいでしょうか?」

「勿論じゃ。御主に話を通しておいた方が、後々の手続きが円滑(スムーズ)に進むじゃろう」

「ありがとう御座います。では、詳しい内容は特別待合室で致しましょう。私が御案内致します」

「うむ。試合を終えて早々じゃが、早速打ち合わせと行こう」

 こうして、特別試合の終わりを無事に迎えた全員は試験場を後にし、グルエドの案内の下で打ち合わせする場へと向かい移動するのだった。

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戦闘模写が分かりやすく、面白かったです!最高にテンション上がりました!
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