眠りし闘争心の目覚め18-4
「せぇえええええあああああああ!!!!」
「オォオオオオオアアアアアアア!!!!」
人狼と神獣の雄叫びと共に、怒涛熾烈な拳の猛連撃が幾度も大衝撃波をけたたましく試験場内全体を轟かせ、空間を幾度も揺るがす。
ヴォルベスは超高速による拳の猛連撃を、ガイアは六腕から繰り出す拳の猛連撃を、互いの金剛の如き拳を粉砕する破壊力を以て激突させ続ける。
その光景はまさに――――暴虐の嵐の如き猛攻の応酬である。
「さて、張るとするかのう!」
エルガルムは溜めに溜めた膨大な魔力によって構築した術式による強大な大結界魔法を発動させた。
「〈至剛魔力大障壁〉!」
膨大にして強力な魔力が広範囲の結界を構築し、闘技場全体を半球状に包み込む。
「念を入れて三重結界じゃ!」
更に追加で大結界を重ねて展開し、物理と魔法に対する絶対防御を備えた結界障壁をより堅牢にした。
「〈上位硬質化付与〉!」
エルガルムに続きベレトリクスも魔法を発動し、試験場全体を硬質強化させる。
「〈上位魔法防護付与〉!」
そして更に上位魔法耐性の魔法効力を試験場全体に付与を施した。
「あ~、しんどい。流石に広範囲一帯に強化付与するのは骨が折れるわ。久々に魔力かなり消費したし」
「ホッホッ、儂もじゃよ。今回はかなーり強めの三重結界を張ったからの。魔力がごっそりと消費してしもうたわい」
ベレトリクスとエルガルムは久々に膨大な魔力を消費し、精神的疲労を生じた。
あらゆる強烈な攻撃―――主にガイア―――による飛び火に対してはエルガルムの大結界。
熾烈な闘いで生じる構造物の大損壊―――これも主にガイア―――に対してはベレトリクスの付与強化魔法による補強。
魔導師の偉人2人による魔法によって、試験場全体は絨毯爆撃されようとも亀裂も損壊もしない堅牢さと化した。
それはまさに、難攻不落の要塞である。
「おお…、凄え! 三重の大結界に加えて試験場全体を魔法で補強…! 何つう膨大な魔力量だ!」
絶大な結界を広範囲に三重展開させ、試験場という構造物全てを硬質化・魔法耐性の効力を付与した2人の膨大な魔力量に、ダムクは驚きと称賛の声を上げる。
「こ…、これなら、俺達に被害は受けない上に、試験場の損壊も防げる! 流石はエルガルム様とベレトリクス様!」
グルエドは自身を含むこの場に居る者達の安全と、試験場の大損壊に対する防備を偉人2人によって施された事で、肺に溜まっていた不安の息を吐き心の底から安堵する。
「いやぁ~……、如何じゃろうなぁ……」
しかし、エルガルムは困っている様な表情を浮かべ、何とも微妙な声音を発するのだった。
「今回は国1つを囲う以上の魔力で結界を張ってみたが、如何も妙な不安が在ってな。ちと危険な予感がするんじゃよ。御主は如何じゃ、ベレトリクス?」
「あたしも同じよ。なーんか嫌な予感というか、とんでもない事が起こりそうって予感がするわ」
「……え」
そんな2人の不穏な言葉に、グルエドの安堵感は直ぐに消え失せてしまうのだった。
結界が張られた事など一切気に留めず、ガイアとヴォルベスは互いの拳という圧倒的な暴虐を叩き付け合い、強烈な大衝撃波を発生させ続ける。
超高速で拳同士を打ち付け合い連続で鳴り響かせる重い騒音は、まるで機関銃の如き連射速度。そして、拳同士の激突する際に生ずるけたたましい重低音は、まるで大砲の砲撃音である。
何方も一歩も退かず、正拳突きの猛連撃による純粋な真っ向勝負を繰り広げる。
(もっとだ! もっと力を込めろ! もっと速度を上げろ! もっと気を練り上げろ! 現在の限界を超えろ!! そして、更なる高みの境地へ!!!)
ヴォルベスは己を鼓舞し、現在の力量の限界値という高く巨大な壁に立ち向かう。
幾千幾万以上も限界という壁を力の限りに殴り付け、見えぬ遠き頂へとひたすら登り続ける。
待ち望んでいた、この時を。
己の定められた限界を打ち破り超える又と無い――――千載一遇の機会を。
ヴォルベスの抱く歓喜は極まる。
(神よ!!! 偉大なる神々よ!!! 俺に偉大な試練を、偉大なる神獣様を遣わし下さり深き感謝を祈り申し上げます!!!)
そして、偉大なる神々に深き感謝の念を心から送り、拳を放ち続ける。
拳を放つ速度はヴォルベスが一枚上手ではあるが、それに対しガイアは少し下回る速度を六腕による拳の数で補い、岩雪崩の如き拳の猛連撃で対抗する。
(強い…! 本当に強いや、この人! この世界はこんな強い存在が他にも未だ未だ居るのか!?)
ガイアの燃え滾る闘争心が、未だ知らぬ自分と同等の力量を秘めた猛者の存在に対する好奇心を大きく膨らませる。
白石大地こと神獣フォルガイアルスは言う迄も無く、赤子とはいえ規格外の強さを秘めた存在である。そんな強大な存在は俗世でそう沢山は居ない。
地上世界に点在する――――人が住まう地帯から限り無く遠方の危険地帯や最下層部ダンジョンに巣くい闊歩する幾多の危険度S級の魔物、未だ特定も発見も出来ていない幾つか存在する神秘の地帯に住まう高位の妖精や精霊などを含めれば、この異世界には強大な力を有する存在が多く居る。
だが、人と人外を比べれば、強大な力を有する数は人外の方が多いと言っても良いだろう。
(さぁて、このままじゃ戦況が進まないし何方にも傾かないだろうから――――)
ガイアは生やした4本の腕を魔力で操作するとは別に、猛連撃する最中で魔力を込め出す。
(もう一手、僕が先に打たせて貰うよ!)
そしてガイアは追撃の魔法を発動させた。
(〈硬質な大枝鞭〉!!)
今度はガイア自身の背に宿る樹木を媒体にせず、ヴォルベスの背後の地面から樹木を生やした。魔法によって生えた樹木はまるで生き物の様に全体が蠢き、太い幹から太く長く生やし伸ばし幾十もの大枝を撓らせ、ヴォルベスに向けて大枝の鞭を打ち付けようと勢い良く振り抜く。
「特殊技能〈制空領域〉!!」
背後からの追撃を開始直前に危険感知したヴォルベスは、神獣の猛連撃に対抗しながら特殊技能を発動させた。
ヴォルベスの身体の感覚が自身を中心に円を描き、不可視の領域を作り出す。
(何だ? この人の周囲が何か変わった様な…)
ガイアは直ぐに違和感を感じ取ったが、彼が発した特殊技能が何なのかは分からなかった。
そして背後から撓る大枝の鞭がヴォルベスを叩き付けようとギリギリ迄に迫った直前、ヴォルベスは武技を行使した。
「武技〈流水万状術:無逆流排〉!!」
ヴォルベスは行使し続けていた〈砕破金剛瞬連正拳〉から一瞬で切り替え、前方の猛攻と背後から迫る大枝の鞭の攻撃を同時に往なし出す。
先程の真正面からの殴り合いと相反し、自身に襲い掛かる全ての暴威を超高速で払い、逸らし、往なしていた。己が展開した感覚―――〈制空領域〉に入ったあらゆる全ての攻撃を瞬時に感知し、攻撃の流れを感覚のみで判断し、様々な攻撃に応じての回避術を行う。
だが、ただ払い、ただ逸らし、ただ往なすのではない。全ての攻撃の流れに対し逆らわず、その流れに合わせ全身を使った体捌きである。それも全ての動き1つ1つが精密巧みで、非常に洗練された流水が如くの体捌きである。
(うおっ、何だあの体捌き!! というか何ちゅう速さで捌いてるんだよ!!)
彼の単なる強者の領域すら逸脱した動きに、ガイアは驚愕した。
視界に映るその光景――――ヴォルベスが繰り出す幾百幾千の手の残像は圧倒的な迫力をガイアの心に叩き付ける。
(千手観音かよ…!!)
此方は阿修羅の如き猛攻に対し、彼方は千手観音の如き守護。戦況の形が変われど、熾烈な拮抗状態は続くのだった。
(なら更にもう二手だ!!〈高速魔力貫通弾〉〈高速氷穿弾〉!!)
ガイアはヴォルベスを挟む様に左右に魔法陣を展開し、無数の魔力の貫通弾と穿つ尖鋭な氷弾を容赦無く放った。
更なる追撃――――被弾すれば肉体を貫き抉る容赦無い高速弾幕がヴォルベスの左右から迫り来る。
だが、〈制空領域〉へ僅かに入り込んだ瞬間――――ヴォルベスの動きは更に加速した。
(マジでかっ?!!! これでも未だ捌けるのかい!!!)
四方からの猛攻をも全て捌く彼にガイアは目を見張った。
(だったら、これは如何だ!!)
ガイアは更に追撃の魔法を発動させる。
(〈雷霆の一撃〉!!!)
天井に巨大な魔法陣を展開し、直後に膨大な魔力から繰り出す雷霆の柱をヴォルベスの頭上へと放ち落とそうとする。
「えっ、ガイア!? その位置じゃ…!」
魔法陣が展開した瞬間に、シャラナは思わず声を上げた。
ガイアとヴォルベスの距離は近く、〈雷霆の一撃〉の効力範囲に入ってしまっているのはシャラナに限らず、誰から観ても一目瞭然である。にも関わらず、発動させたガイアは効力範囲外に退避しようとせず、眼前のヴォルベスをひたすら殴り続けるのだった。
このままではガイア自身も、自らの雷霆で大ダメージを喰らってしまう。謂わば道連れ行為である。
だがその愚行は――――ワザとである。
たとえ自ら落とした雷霆の魔法を喰らおうと特殊技能〈光合成〉で回復する事が出来、結果的にヴォルベスだけが大ダメージを負う事に成る。
しかし、ガイアはそんな考えは浮かべていない。
ガイアは考えて魔法を放ったのではなく、信じて放ったのだ。
彼ならこの熾烈な現状を打破するに違いないと、彼の卓越した強さに期待と信頼をして。
(さあ!! 四方からの連撃に加えて頭上から雷の一撃、如何捌く!!)
空を揺るがす重い雷鳴を轟かせ、巨大な雷霆の柱が範囲内に在る全てを超高圧電流で焼き焦がそうと落ちる。
その瞬間、ヴォルベスは新たな武技を瞬時に炸裂させた。
「武技〈闘気炸裂波〉!!!!」
身体に纏う〈闘気〉を炸裂させ、全方向に気の衝撃波を一気に大放出する。落ち迫る雷霆、魔力の貫通弾、尖鋭な氷弾、打ち付ける大枝の鞭、そして六腕から繰り出される拳の猛攻を全て弾き、神獣ごと豪快に吹き飛ばした。
その過程で生やした4本の腕は強烈な衝撃に耐え切れず、幾十の岩石へと砕け散った。
(何て威力だ…!! 今のも武技なのか!!)
ガイアの視界に映ったその光景は、武技というより魔法なのではと思えてしまうものだった。
「〈縮地・瞬〉!!」
ヴォルベスは息継ぐ事せず、即座に神獣に急速接近する。
「〈砕破金剛瞬昇拳〉!!!」
(そら来たぁっ!!!)
ガイアは彼から一切目を放さず、動き出す僅かな動作を捉えていた。
ヴォルベスが動き出すと同時にガイアも瞬時に頭と身体を傾け、超高速の突き上げ正拳を紙一重で躱した。
(〈砕破金剛迅速正拳〉!!!)
透かさずガイアは拳を振るい反撃する。
「〈砕破金剛瞬転蜻蛉脚〉!!!」
神獣の反撃に対し、ヴォルベスは超高速回転による遠心力から繰り出す宙返り蹴りで神獣の急速で迫る拳を弾く様に上へと蹴り飛ばす。そして流れる様に更なる武技で反撃をし出す。
「〈闘気掌波〉!!!」
(〈大衝撃波〉!!!)
ヴォルベスの気の衝撃波とガイアの魔力衝撃波が衝突し、空間が大きく歪む。
「くはははは!! 防がれたか!!」
ヴォルベスは愉快そうに笑い、次は何を繰り出すのかを期待する。
(良ぉし、じゃあちょっとこれを試してみようか!)
ガイアは右手に電気属性の魔力のみで構成する大きな杭を創り出し、それを握り締めた。
(〈電光の大杭〉!!)
感電によるダメージを負うにも関わらず、膨大な電気エネルギーが溜まり形作った大杭を右手で握ったまま、ヴォルベスに大杭の尖鋭部分を向けて勢い良く叩き付けようと振り下ろす。
「ほう!! 先の雷とは違う電気系統魔法か!!」
ヴォルベスは瞬時に後方へ退き、振り下ろされる〈電光の大杭〉を回避する。そしてガイアが振り下ろした大杭は地面に深く打ち付けられた。
「〈闘気掌――――、むっ?!」
反撃の武技を放とうとした直前、既に神獣が直ぐ近くまで迫り、左手に握る雷の大杭を振り下ろそうとする光景がヴォルベスの視界に映っていた。
(そぉらもう一丁!!!)
ガイアは更に〈電光の大杭〉をヴォルベスに向かって容赦無く打ち付ける。
「おっと! …むっ?!」
ヴォルベスは再び後方へと回避したが、更なる追撃が襲い掛かる。
(それそれそれそれそれぇーっ!!!)
ガイアは次々と電光の大杭を振り下ろし打ち付け、ヴォルベスは打ち付けて来る大杭の猛連撃を躱し続ける。
互いはひたすら、縦横無尽に駆け巡る。
(良しっ! この位で良いだろう!)
ガイアは突如と魔法攻撃を止め、上空へと高く跳躍する。
「跳んだ…!?」
ヴォルベスは見上げ、跳躍した神獣を目で追った。
突如高く跳躍したのは何故かと、疑問が浮上した。
その時、耳に入ったある音に反応し、上げた視線を下へと戻した。
「これは!」
ヴォルベスの周囲には先程打ち付けられた幾多の電光の大杭は消えておらず、地面に突き刺さった儘ビリビリッと短く鳴らしていた。
(〈連鎖する烈雷〉!!)
ガイアは新たな電気系統魔法を発動させ、地面に突き刺した雷の大杭に向けて雷撃を放った。
「そういう事か!! 武技〈流水万状術:――――」
雷撃が放たれた先――――幾多の電光の大杭の1本を見た瞬間、ヴォルベスは直ぐ先の未来に起こる現象を直感し、武技による防御を行使した。
雷撃の魔法が打ち付けられた電光の大杭に衝突した瞬間、雷撃は新たな上位級魔法へと昇華し発生した。
(奔れ!!〈連鎖する迅烈雷〉!!)
大きく雷鳴が響き、迅雷が奔り出す。
「――――無逆流排〉!!!」
ヴォルベスは襲い掛かる迅速の雷撃を常時発動中の特殊技能〈制空領域〉で感知する。しかし、余りにも速過ぎる速度の雷撃に躱し切れず、僅かに身体を掠らせた。
「くっ…!」
掠っただけだが、強烈な電気属性の魔力の為、ヴォルベスはそれなりのダメージは伴う。
打ち付けられた電光の大杭から電光の大杭へ、幾度も一閃を引きながら奔り、迅雷は次々と数を増殖させていく。
「ぬぉおおおおぉぉ…!!」
迅雷の直撃は免れてはいるが、増え続ける電光石火の如き速度の雷撃を捌き切れなくなり、攻撃が次々と掠り出していた。
ヴォルベスは特殊技能〈闘気〉による魔法耐性強化に加え、〈外気功鎧纏術〉と〈内気功防練術〉で肉体の外側と内側を練り上げた気で防御するが、強大な魔力を有する神獣の魔法はヴォルベスの強化した魔法耐性と気による防御を上から削りダメージを与えていく。
一撃でも直撃すれば大ダメージ。そしてそれが連鎖の引き金と成り、増殖した無数の迅雷に一気に襲い掛かられれば膨大な大ダメージは免れない。
そんな劣勢の彼に対し、ガイアは無慈悲といえる追撃の魔法を発動する。
(〈魔力砲弾〉!!)
複数の魔法陣を展開し、強大な魔力がギッシリと詰まった魔法の砲弾をヴォルベスに向けて連射し出した。
「ちょっ、容赦無さ過ぎでしょ!!」
ベレトリクスは思わず息を吹き、ガイアが放つ暴威に恐怖と驚愕を抱いた。
迅雷の猛攻を必死に捌き、その場から退避が出来ない状態のヴォルベスに幾多の魔力砲弾が降り注ぐ。
その光景はまさに、投下される無慈悲な爆撃である。
ガイアの魔法はヴォルベスを中心に周囲を絨毯爆撃し、けたたましい重低音と共に生じた衝撃波が電光の大杭を介し奔る迅雷地帯ごと豪快に吹っ飛ばす。
「ぐおぁぁぁっ!!」
ヴォルベスは降り注ぐ強烈な魔力砲弾を真面に喰らい、全身に重く強烈な大ダメージを幾度も受けた。
「ぬぅおおああああ!!!〈闘気炸裂波〉!!!」
このままでは不味いとヴォルベスは武技を発動させ、気の炸裂で強引に降り注ぐ魔力の砲弾を消し飛ばした。
(〈砕破金剛迅速拳鎚〉!!)
ヴォルベスの周囲が一掃されたその後、頭上から神獣がそのまま落下の勢いで武技による巨拳を繰り出す。
「〈縮地退行・瞬〉!!」
今も常時発動中の〈制空領域〉の感知範囲に神獣の拳が僅かに入った瞬間、ヴォルベスは後方へ急速に滑る様に回避した。そして神獣の巨拳は空振り、そのまま地面を殴り付ける。
(やっぱ単発攻撃の範囲が狭いと避けられるか!)
ガイアは透かさず、退避後のヴォルベスに向けて魔法を発動させる。
(〈砂漠の大波〉!!)
ヴォルベスの後方に膨大な量の砂を創り出し、広大な砂の大波を発生させた。
(からの〈大竜巻〉!!)
更に前方には渦巻く巨大な竜巻を発生させ、大気をごうごうと鳴り響かせながらヴォルベスへと迫らせる。
「これは厄介……、ならば!!」
ヴォルベスは構えを取り、力を右脚へと一気に集め凝縮させる。
そして大竜巻との距離が10メートルに迄迫った瞬間、ヴォルベスは右脚を――――爆発するが如く吹っ飛ばされたかの様に前へ一気に動かし、強力な発条以上の弾力で跳ねるが如く――――高く真っ直ぐ突き上げた。
「武技〈颶風空覇術:斬空烈脚刃波〉!!!」
重く鋭い空を裂く音が短く鳴ると同時に、大竜巻は真っ二つに裂かれた。そして更にその直後――――
「グアァッ?!!」
ガイアは衝撃と共に、身体に深い創傷が生じた。
(えっ…!!? 斬った…!!? 今斬られたのか…!!?)
突如視界に映った現象と自身に起こった現象に、ガイアは驚かされた。
いったい如何やって斬ったのかと、視線をヴォルベスへと向け更に驚く。
(脚…!!? 蹴りで斬ったのか!!?)
柔軟な身体によって為せる縦180度の開脚蹴り、そして刃など無い脚によって繰り出した斬撃波。ヴォルベスの放った蹴りは、まるで抜刀による斬撃と思わせる強烈にして鋭利な一撃であった。
「〈縮地・瞬〉!!」
ヴォルベスは膨大な砂の大波に飲まれる前に特殊技能で急速発進する。
「〈転瞬走駆法〉!!」
そして限界移動距離に到達する直前に機動系特殊技能を常時発動化させ、斬り裂いた大竜巻の先に居る神獣の元へと真っ直ぐ駆け抜ける。
(ならこれは如何だ!!〈真空弾丸〉!!!)
ガイアは無数の小さな真空の弾丸をヴォルベスに向けて撃ち放つ。
高速で飛来し迫る肉眼では視認し難い――――空間が僅かに歪む無数の弾丸を、ヴォルベスは強化した動体視力ではっきりと捉えた。
迫り来る弾丸は空気を圧縮し固めた物ではなく、空気や物質を完全に排除し形成した真空という空間を隔たる塊である。
そんな無数の迫る真空の弾丸に対し、ヴォルベスは躊躇い無く真正面から立ち向かう。
「武技〈流水万状術:流明操送〉!!」
ヴォルベスの腕全体が千手観音の如き無数の残像を作り出し、真空の弾丸に超高速で手を伸ばす。伸ばした手は直接触れず、特殊技能〈外気功術〉で瞬時に真空の弾丸を気で包み込む。包み込んだ真空の弾丸の勢いを殺さず手繰り寄せ、軌道を小さな円を描く様に曲げ、神獣の居る方向へと流し返す。
それを飛来する無数の真空弾丸に対し、残像が留まり続ける程の超高速で反射するかの様に流し返す。
余りにも速過ぎる手捌きで、ヴォルベスの腕が撓る鞭の如く湾曲しているかと錯覚してしまう、常人を逸脱した動きであった。
1秒間に平均20発もの真空弾丸を流し返し、流し返された弾丸は飛来する弾丸と衝突し相殺されていく。
「せぇええあああああああああっ!!!」
ヴォルベスは神獣へと真っ直ぐ走り迫り、飛来する真空の弾丸を全て流し返し続ける。
その最中、流し返された3発の真空弾丸が衝突相殺せず、ガイアの硬質な岩石の身体を撃ち貫いた。
「ガハァッ…!!」
(な…、何だあれ!? あんな武技も在るのか!)
自身の魔法を返された事実に対する驚愕と撃ち貫かれた際に伴った激痛でガイアは苦悶を浮かべ、怯みで放ち続けていた魔法を解除してしまった。
「好機!!〈縮地湾曲・瞬〉!!」
神獣の隙が生じた今が好機と、ヴォルベスは特殊技能で一気に距離を詰める。
「武技〈砕破金剛瞬腕鞭打〉!!!」
ヴォルベスは腕骨ごと蛇の様に腕を撓らせ、神獣の身体を鞭の如く手と前腕全体で殴打する。
(ぐぁっ! 何の…!!)
強烈な殴打を受けたガイアは、肉薄したヴォルベスを捕まえようとする。
「〈砕破金剛瞬旋肘打〉!!!」
ヴォルベスは腕の殴打から流れる様に身体をそのまま高速横回転し、神獣の背後へと跳ねる様に回り込む。そして遠心力から繰り出す回転肘打ちを神獣の首筋辺りに打ち込み、岩石の身体表面を砕き深く凹ませた。
「ゴガァッ!!」
「〈砕破金剛瞬転烈踵〉!!!」
「クァッ…!!」
更にそのまま回転肘打ちから流れ、高速縦回転からの踵落としがガイアの岩石頭に炸裂する。
(痛ぁーっ!! 頭凹む!! 下手したら舌噛んでたよ今の!!)
常人ならば頭蓋骨が簡単に割れ、脳味噌ごと砕き潰される重い一撃を喰らったガイアは若干涙目を浮かべた。
ヴォルベスは踵落としの直後、流れる様に神獣の腕へと瞬時に移動する。
「ぬぅうりゃああああああっ!!!」
(えっ、ちょっ、ちょっ、でぇええぇぇぇ?!!!)
そして神獣の巨腕を両腕全体で掴み、勢いを加えた渾身の力で過重な神獣を投げ、地面に叩き付けようとする。
(二度目は喰らわんぞーっ!!)
ガイアは投げ倒される前に投げられる勢いの流れに自ら乗り、中空で全身を回転させ腕を掴むヴォルベスをそのまま持ち上げる。
「何っ!!?」
持ち上げられたヴォルベスは驚愕し、掴んでいる巨腕と強力な遠心力に押され地面に叩き付けられようとされる。
「オオアアアァァ!!!」(おりゃああぁぁ!!!)
「何のぉぉっ!!!」
地面に叩き付けられる直前、ヴォルベスは両脚の着地によって強烈な叩き付けを受け止める。
(ウェッ!!? 何つう態勢で受け止めてるんだよ!!)
彼の背は地面から僅か10cm程の高さで耐え留まり、伸し掛かる重い岩石の腕によって後ろに反った上半身を支える脚腰の強靭さにガイアは目を丸くする。
「未だ未だあああぁぁっ!!!」
ヴォルベスはそんな状態から神獣を渾身の力で持ち上げ、再び地面に叩き付けようと投げ倒し掛かる。
(ちょっ、また投げるんかーっ?!!!)
再び勢い良く持ち上げられ、ガイアは驚愕させられる。
(だったら此方も投げ返してやらぁ!!!)
ガイアは内心慌てるも、再びその勢いを利用しヴォルベスを投げ倒し返す。
「せぇああああぁっ!!!」
投げ倒し返されるヴォルベスも勢いを利用し、神獣を投げ倒し返す。
(またかい、こんにゃろうー!!!)
ガイアも更にヴォルベスを投げ倒し返す。
投げ倒し返し、投げ倒し返す。
互いは車輪の如く回転し、回転速度は更に加速し、地面を幾度も殴打しながら縦横無尽に闘技場を無茶苦茶に動き回る。
「何つう闘いだよ…」
視界全体で繰り広げる豪快な投げ倒し合いに、観戦席場から俯瞰しているグルエドは声を絞り出す様に呟いた。
グルエドに限らず、他の者の心境は同じである。
これ程迄に熾烈にして豪快、そして更に無茶苦茶な戦闘は中々観れない光景なのだから。
(むぅ~、このままじゃ埒が明かない!!〈石塊の拘束〉!!)
ガイアは自身の腕を掴むヴォルベスを取っ捕まえようと、岩石の身体を媒体とし魔法を発動させる。ヴォルベスが掴むガイアの腕から岩石が突き出す様に出現し、ヴォルベスを囲い拘束しに掛かる。
「拘束魔法か!」
ヴォルベスは透かさず掴む神獣の腕を放し、遠心力に身を任せ神獣から離れ石の拘束を回避した。
(あっ! 逃げられたっ!)
ガイアは身体の回転を無理矢理停止させ、両足を地面に着地した。
飛ばされたヴォルベスは遅れて着地した後、即座に神獣に向かって疾走し出す。
(やっぱただ単に拘束しようとしても捕まえられないか)
此方の攻撃は余り当たらない、そして捕まえるにしても常人離れの反射神経で直ぐ反応され瞬時に逃げられる。
その問題に対し、ガイアは直ぐに回答を閃かせた。
(じゃぁ、打っ付け本番だけど使ってみるか!!)
ガイアは両腕を大きく広げ、膨大な魔力を込めると同時に発動させる魔法の術式を構築し出す。
「この感じは…、まさか…!!?」
エルガルムは構築する見えざる術式を感じ取り、半信半疑めいた驚愕の表情を浮かべた。
そして術式を構築し終えたガイアは、込めた膨大な魔力を以て初めて使う魔法を発動させた。
(――――〈超重力場〉!!!)
発動した直後、闘技場全体の重力が支配され、標準の重力値が過剰上昇された。
「ぬおぁっ?!! こ…これは……?!!」
疾走していたヴォルベスは闘技場全体が超重力地帯と化した瞬間に体勢を超重力に押し崩され、押し潰されたかの様に前へ倒れ込み、叩き付けられるが如く全身が勢い良く地面に減り込んだ。
「まさか、重力魔法まで使えるとは…!!」
エルガルムは驚愕の声を上げた。
「ちょっ、エルガルム、あんた重力魔法なんて何時の間に教えたの!!?」
ベレトリクスも重力魔法を行使したガイアに驚愕し、エルガルムを問い詰める。
「いや、儂は教えとらんぞ!」
「はあっ!!? 教えてない!!?」
エルガルムの回答に、ベレトリクスは思わず驚愕の声を張り上げてしまうのだった。
「じゃあまさか、たった1人で重力魔法に関する知識ゼロで習得したって事!!?」
生じた驚愕の勢いでベレトリクスは騒ぎ出す。それも珍しく。
「それってこの世に無い魔法を新しく編み出す偉業に匹敵する事じゃないの!!! 神獣とはいえあの子未だ赤子よ!!!? 学習能力が高いってレベルじゃないでしょ!!! 如何なってんのあの子!!!?」
「そ、それは確かに一般的に考えたら有り得ないですけど、あの子は私達と出会う迄は感覚だけで覚えたって教えてくれましたよ」
何やら納得が出来ずに騒ぐベレトリクスに、シャラナはガイアの天性的な知性を知っている範囲を伝えた。
しかし、シャラナの伝えた内容は騒ぐベレトリクスを納得させ切れるものでは無かった。
「低位級の魔法なら未だ納得出来るけど、重力魔法は無系統の上位級魔法の中で最上位に部類するのよ……!!? あの子いったい如何やって重力元素を認識してるのよ……!!? 認識出来ても普通直ぐに魔力で操作出来ないわよ…!!」
軽く発狂しているかの様に、ベレトリクスはギャアギャアと更に騒ぎ立てる。
普段見る少し気怠そうで妖艶な彼女からは考えられない様子に、シャラナは困惑を抱くのだった。
ベレトリクスが騒ぎ立てる理由は何となく理解は出来るが、その内容――――重力魔法とそれの根本となる重力元素については殆ど知識が無い。そんなシャラナは視線を師に向け、彼女が騒ぎ語る内容について詳しい説明を求めた。
シャラナの視線の意図を直ぐに理解したエルガルムは解説を語り出す。
「重力元素はこの世の全ての物質に作用し、物質の質量によってその物質の重量を定める不可視の元素じゃ。そして空間内に存在する重力元素の密度によって、その場の空間に掛かる重力は変化する。密度が高ければ高重力場と成り、逆に低ければ低重力場、そして重力元素が全く存在しなければ無重力空間と成る。そしてそれを魔力で操作するのが重力魔法じゃが、魔素や生命力、物質元素や元素霊とは違って感知する事が出来ん。重力元素には魔素が宿っておらんから〈魔力感知〉の特殊技能では感知出来ず、それを認識し捉える事は非常に困難を極める別次元の元素じゃ」
賢者の重力に関する解説をダムク達も聴くが、専門的な難しい内容に一党一同は頭上に疑問符を浮かべるのだった。
「重力元素を認識し、掌握し、操作制御するというのには余りにも高度過ぎて、本来は人に扱える力ではないんじゃよ」
「では、どの様な方法でその重力元素を発見したのですか?」
シャラナは誰もが浮かべる疑問を師に問い掛けた。
「空間魔法よ」
シャラナの問いに対しエルガルムではなく、先程まで騒ぎ立てていた状態からある程度落ち着きを取り戻し、騒ぎ立てた所為で疲労気味と為っていたベレトリクスが答えた。
「偶然による発見なんだけど、切っ掛けは空間と転移の魔法に長けた魔導研究者が転移魔法〈転移門〉を発動した事から始まったの」
「空間魔法の発動がですか?」
空間魔法と重力元素が如何関係しているのか、シャラナは当然疑問を浮かべる。
「魔法で認識出来る空間に魔力で干渉すると、空間の変化に応じて干渉地点を中心にほんの一時的に重力の上昇変動が起こるのよ。その変化が自身にも当然起こったのを感じ取ったその研究者は、更に〈転移門〉の出入口を大きく開けて、より強く空間に干渉すれば重力に大きな変化があるんじゃないかって敢えて単純に考えて、空間に孔を大きく開いたのよ。んで結果は考えた通り、空間に大きく干渉するとそれに比例して重力が大きく上昇したのよ」
「えっ? ちょっと待てよ? じゃぁ、重力魔法は空間魔法に属するって事なのか??」
彼女の専門的な説明内容に対し、ダムクは殆ど理解出来ない状態だった。ダムクに限らず一党仲間のミュフィも、魔導師の職業を修めているミリスティでさえ殆ど理解出来ていなかった。
「その疑問、さっきの話の続きで起こったのよ」
ベレトリクスは更に続きを語り出す。
「巨大な〈転移門〉の発動による重力上昇の発生と同時に、衝撃波に似た波動が発生して周囲の空間が歪んだのよ。その波動はほんの一瞬だったらしいけど、空間其の物が波打ち歪んだ現象をはっきりと視認出来たのよ。その結果から空間の一時的歪みと重力変動の2つは空間魔法に関連していると仮説を立てて、数人の研究者に協力を仰いで発生した空間を歪ませた波動を検証と観測をし続けた。そして永年の末、高密度の重力から魔力とは違ったエネルギーを意図的に作り出し、留める事に成功。それをあらゆるエネルギーを視覚化する魔導顕微鏡で観測した結果、重力を司る新たな元素を発見されたのよ」
「それが重力元素ですか」
「そう。そしてその後は重力元素の操作による実験を幾度も検証した事で、無系統魔法に属する上位級魔法――――重力魔法が編み出されたのよ」
「それなりに魔法に関する知識は心得ているつもりですが、専門的過ぎて私には如何も……」
冒険者として多くの知識と経験を積み重ねた冒険者組合長でも、その内容を殆ど理解が出来ず顔に難色しか浮かべられなかった。
「その重力元素と空間魔法と如何関係してるので?」
「重力元素は全ての物質に重力を作用させるに限らず、空間其の物に影響を及ぼす元素なのじゃよ」
グルエドの口にした疑問に、今度はエルガルムが答える。
「空間其の物にも影響とは、先程の空間が歪んだ事ですか? 先生」
「そうじゃ。その場の重力元素の密度を急激に上げると波動が発生し、触れられる物質だけでなくその場の空間を歪ませ、一筋の光をも捻じ曲げる性質を持っている特異な元素なんじゃよ」
理屈に関しては余り理解出来ない。しかし、その内容――――永年の間探り研究による発見と解明、その末に重力魔法が編み出した魔導研究者達の偉業が如何に凄い事か、聴いていた者全員は理解出来た。
「あたしやエルガルムも使えるけど、習得するのにそれ等が記録された古い研究書を読み漁って何度も試して、重力元素を認識するのにも1ヶ月以上は掛かる習得難易度がかなり高い魔法なのよ」
そしてベレトリクスは草臥れた様な表情を浮かべる。
「それを知識ゼロで習得出来るって、幾ら神獣だからって常識外れの度を越えてるわよ~」
しかもあれ〈超重力場〉だし~、とその後にベレトリクスは呟く。
「まぁ……ガイアじゃからのう」
エルガルムの理屈も根拠も無い答えに、ベレトリクスを除く者全員は不思議と納得してしまい、悟るかの様に内心で頷くのだった。
「ぐぅ…!! ぬぅううああぁぁぁぁ…!!!」
ヴォルベスは倒れた自身を起こし立とうと全身に力を限界まで入れ、必死に伸し掛かる超重力に抗う。
(かっ…、身体が、重過ぎる…!! これは、ほんの僅かでも気も力も抜けば、二度と動けなくなる…!! いや、下手をすれば圧死か…!!)
そこいらの強者でも指1本すら動かす事すら出来ず、大抵の人ならば超重力に潰され、身体の肉と内臓を大地に引き摺り込む強大な力。ヴォルベスの様な超人めいた屈強にして強靭な肉体でなければ、超重力に抗うどころか圧死してしまうだろう。
(何という魔力だ…!! この闘技場一帯全てを支配するとは…!!)
ヴォルベスは両手を地面に付け、膂力で頭と上半身を起こし持ち上げる。
(だが、この重力場は全体に及んでいる!! 身体も重量も大きい神獣様には俺より数十倍以上の影響が――――)
状況は互いに同じ、そう確信していた。
その時、けたたましく内臓の芯まで響く重々しい――――まるで超巨大な金鎚が大地を叩く様な音が聴こえた。
ヴォルベスは顔を上げ視線を重低音の発生源へと向け――――。
「な……!!」
――――そして、神獣を視界に映し、驚愕の色を浮かべた。
自らも超重力の影響を受けているのにも関わらず、ゆっくりとではあるが、大きな岩石の脚を動かし、大地を踏み締め、着実に歩を進めていた。
神獣の歩くその様は、絶対的強者の如く猛々しく、そして圧倒的な恐怖を刻み付けられる威圧感が溢れていた。
「何という膂力…!! まさか、この重力場の中を動けるとは…!!」
超重力場の影響下で歩き此方に迫る神獣を見たヴォルベスは内心焦りを生じ、急ぎ立ち上がろうとする。
ガイアは超重力の影響によって過重化した脚をゆっくり動かし、伸し掛かる超重力に抗うヴォルベスへと少しずつ迫って行く。
(うおー……! メッチャ重ぉ…! 超重力場ってこんな感じなのか…。指すら動かし辛いや…)
実の所、ガイアもヴォルベスと同様に必死に抗っていた。
興味本位で重力魔法の効力を体験してみようと発動させた結果、予想よりも遥かに掛かる強い重力にガイアは驚かされたのだった。
(う~ん。この魔法も要練習だな…。これじゃあ味方まで巻き込んじゃう……)
初めての使用なので、単純に重力を上昇変動させるしか出来ない。しかし、効力がガイア自身だけに伸し掛かるなら未だしも良いが、その効力に抵抗出来ない味方を巻き込んでしまうのは非常に不味い。
(というか、重力強過ぎるってレベルじゃないよね、これ。普通の人なら確実に潰れて死ぬレベルだこりゃ)
効力を把握する為に初めて試したとはいえ、この重力魔法は安易に人に向けて放つのは生命の危機に関わる事だ。
重力魔法は完全に操作制御が出る迄は発動を極力控えようと、ガイアは反省をした。
(けどこれで、何となくだけど重力魔法の使用感覚は掴めた)
そして今度はどの魔法を発動させようかと、ガイアは思考しながら歩をゆっくりと進ませる。
「ぬぅぁぁあああああああ!!!!」
そんな時、ガイアの視界に映るヴォルベスが突如と力強い雄叫びを上げた。
雄叫びを上げる彼の移り行く状態を観て、ガイアは目を見開いた。
(……マジか…!)
超重力の影響下で彼は身体を完全に起こし、両脚で直立したのだ。
(いったい如何やって鍛えたらそんな超人的な肉体に成るんだ!?)
超重力に抗いながら立ち上がり、過剰な迄の肉体的疲労と超重力の負荷が彼の身体に伴わせていた。だが、そんな劣勢な状況に屈しない彼の姿は勇猛に満ち溢れていた。
「カハァァァァァー」
ヴォルベスは幾度も深く息を吐き、呼吸を整え、全身の筋組織をほんの僅かすら緩ませぬよう気を張り続ける。
(さて、この重力場を走るのは非常に困難、特殊技能による肉体強化が無ければ立つ事が出来なかった。〈闘気〉の効力を〈気功術〉で脚力に集中すれば神獣様より速く動く事は可能だが、彼方は魔法による遠距離攻撃手段が有る。だが、接近し切れば此方が有利に成る可能性は在る!)
特殊技能による効力に加え、一時的でも無理矢理限界以上の力を引き出せば――――本来の走力と迄は出せないが――――走る事は可能ではある。しかし、迅雷の様な攻撃速度が速い魔法を回避するのは現状かなりの体力を消耗してしまう。更に放たれる数が多ければ回避する事が非常に困難となり、神獣に接近する事が出来ない可能性も在る。
しかし、それでも近付かなければならない。
不利な状態であっても、劣勢な状況であっても、それ等を喰い破らなければ勝機は見出せない。
ヴォルベスはそう覚悟を決め、両脚に更に力を込め走り出そうとする。
だがそんな時、神獣が途中で歩みを止めた。
(やはり魔法による遠距離攻撃か!)
立ち止まった神獣が次に取る行動をヴォルベスは予測し、どの様な魔法が放たれるかを見極めようと目を光らせた。
(さあ!! 次はどの様な魔法――――)
――――その時、ヴォルベスは強大な危険を感じ取り、全身の毛が一気に逆立った。
(何だこれは!!? 魔力の感知技能を持たない俺でも…、いや、これは感知しなくとも感じ取らせてしまうこの圧倒的な魔力量は!!?)
それだけではない。神獣から溢れ出したその強大な魔力は余りにも膨大で濃密過ぎる為、肉眼ではっきりと見えてしまっているのだ。
そして神獣が両手を翳した直後、巨大な魔法陣が瞬時に神獣の目の前に展開された。
ヴォルベスはそれを視認した瞬間、予測を超えた強烈無比な大魔法が放たれると直感した。
「ねぇ、あれの下位互換教えたでしょ」
ガイアが展開した巨大魔法陣を観たベレトリクスはエルガルムに問い掛ける。
「……教えちった」
彼女の問いに対し、エルガルムは少し軽いノリの口調で肯定した。
「あれ、あんたの張った結界耐えられる?」
「ん~、ちと怪しいかのぅ」
「……やっぱりね~」
エルガルムは困った様な笑みを浮かべ、ベレトリクスは僅かながら口元に浮かべた笑みを引き攣らせ悟るのだった。
(さぁて、この超重力場の中だから思う様に速く走れないだろう。機動力を大幅制限させてからの広範囲魔法なら避けられまい!)
ガイアは展開した魔法陣の中心に凝縮させる様に超膨大な魔力を急速に集束させ、照準をヴォルベスに合わせる。
そして魔力を集束し切り、準備は完全に整った。
(それじゃあ、行ってみようか!!!)
ガイアは術式構築が完了した巨大魔法陣に秘められた膨大な力に干渉する。
その直後、ガイアの魔法が発動された。
――――〈魔力の大奔流〉
それは無系統の中では特別な効力は無く、ただ膨大な量の魔力を前方射出するだけの純粋な攻撃魔法である。しかし、その威力は圧倒的破壊力を誇る強力無比な最上位級魔法である。
炸裂するが如く魔法陣から膨大な魔力が一気に放出され、強大な魔力の奔流はヴォルベスを呑み込もうと襲い掛かる。
(不味いっ!!)
「〈縮地・瞬〉!!!」
迫り来る速度は速く、余りにも範囲が広過ぎる膨大な魔力の奔流が放たれた瞬間、あれは真面に喰らうのは流石に危険だと直感したヴォルベスは〈縮地・瞬〉で急ぎ回避行動を取った。
しかし、現状下でその特殊技能の使用は――――悪手である。
「…! しまった!」
ヴォルベスは僅かばかり慌てて〈縮地・瞬〉で瞬時に移動回避した直後、己が取った行動は安易的愚行だと後悔する。
現状は超重力場が闘技場全体に展開されているのだ。その影響下では地面に対する強い摩擦力が掛かり、〈縮地〉による地面滑動を制止させられ、本来の移動距離が大幅に減縮してしまうのだ。
結果、ヴォルベスの滑動による地面を深く削った痕跡が生じ、その過程で地面は掘り返され、盛り上げた土が両脚を引っ掛ける様に進行方向への移動阻害をしたのだ。
「〈転瞬走駆法〉!!!」
ヴォルベスは過重化された両脚を急ぎ動かし、迫り来る魔力の奔流から逃れようと力の限りに駆け出す。
(間に合え…!!)
特殊技能による強化補助が加わった脚力で必死に走りながら、ヴォルベスは迫る神獣の魔法との距離を横目で確認する。
青白い美麗な魔力の奔流は既に直ぐ其処まで迫って来ていた。
圧倒的脅威がヴォルベスの感覚を異常な迄に活性化させ、自身を含む視界に映る全ての動きがゆっくりと為る。
世界の時の流れが遅延している錯覚の中、己の意識だけは不思議と鮮明であった。
速く! 速く! もっと速く動け!
無理矢理にでも全力で疾走しようと必死に走るが、思う様に脚が速く動いてくれない。余りにも前に進むのが遅い。
そんな錯覚を起こしているヴォルベスは、大きな焦りを抱きながら必死に走る。
そして魔力の奔流が、ヴォルベスに接触するギリギリにまで迫る。
「うぉおおおおおおおお!!!」
ヴォルベスが迫る脅威の範囲から抜け出したその瞬間、本来の感覚が戻り、自身を含む全ての動きが元の速度へと戻った。それと同時に遅延錯覚でゆっくりと迫っていた魔力の奔流は本来の速度に戻った瞬間、急速発進するかの如く一気に進み出し、彼の背後を豪快に流れ過った。
間一髪、かなりギリギリではあるが回避は間に合った。
だが、ヴォルベスの危機が去ると同時に、ある新たな危機が即座に訪れる。
ガイアが放った強大にして膨大な魔力の奔流はヴォルベスを逃すもそのまま流れ、闘技場を囲う分厚い壁の内側に張られた結界障壁に激突する。
そして結界障壁に巨大な亀裂が生じた。
「おっといかん! やはり耐え切れんか!」
エルガルムは急ぎ張った結界障壁に魔力を供給し、生じた亀裂を修復する。
しかし、激突し続ける魔力の奔流が余りにも強烈過ぎて修復が思う様に追い付かず、亀裂は更に少しずつ広がっていった。
そして数秒後、膨大な魔力の奔流は跡形も無く消え、結界障壁が破壊されずに済んだ。
「ふぅー、危うい所じゃった」
エルガルムは深い安堵の息を吐き、僅かに滲み出た冷や汗を拭った。
実際、本当に危ない所だった。
もし魔力を供給していなければ、ものの数秒で三重に張った結界障壁が破壊され、そのまま突き抜けて試験場内の大部分近くが損壊していたのは確実であった。
そしてそんな危惧を抱いていた冒険者組合長のグルエドと堅実の踏破一党の3人は、内心強烈な驚愕と恐怖で言葉など一切出せず、終始ガクブル状態だった。特にミリスティは何時泣き喚いても可笑しくない程に。
魔力の奔流をギリギリ躱す事に成功したヴォルベスは脚を止めず、そのまま神獣に向かって走り続けた。
超重力場は未だ解除されていない。少しでも勢いを殺してしまえば超重力に足を取られ、最悪の場合は再び動き出す事が出来なくなる。
ヴォルベスはそう思考し、このまま全力を以て走り続けるという1つしかない最善を選択した。
(むぅ! ギリギリ避けられたか!)
ガイアは放った魔法を避けられ、内心吃驚する。
(なら今度はこれだ!!〈天界の光線〉!!)
神聖系統魔法〈聖なる光線〉の上位互換魔法をガイアは発動し、走り来るヴォルベスに向けて立て続けに放つ。
一直線に放たれる光線をヴォルベスは避けながら、神獣に向かって必死に走り続けた。
距離が縮まるにつれ神聖属性を宿す光線が掠り出し、回避が徐々に困難と為っていく。
(更に加えて〈岩弾雨〉!!)
光線を放ちつつ、同時に上空から多数の岩石を生成し、ヴォルベスの頭上に向けて落とし出す。
「超重力場に落石か…! 相性の良い組み合わせだな…!」
超重力場の影響により落下速度は上昇し、それに相まって威力も上昇した多数の落石が次々と急速落下して来る中、ヴォルベスは力の限りにひたすら駆け抜けながら躱し続ける。
(やっぱ広範囲でも数じゃ殆ど当たらないか)
光線を幾度も放ち多数の岩石を落とすも、掠る程度で決定打には至らずだった。
(だったらもう一度だ、〈雷霆の一撃〉!!)
そしてガイアは再び、雷霆をヴォルベスの頭上に容赦無く落とそうとする。
今度は充分な距離が在る。自身が巻き添えに成る事は無い。
それに彼はかなりの体力を消耗し、それ以上の速度で走る事は出来ない。
この強大な雷の大柱による広範囲攻撃は確実に直撃する。
ガイアはそう確信していた。
その時――――
「キタァアアアアア!!!!」
(うぇっ!!? 何だいきなりっ!!?)
突如とヴォルベスが歓喜に満ちた大声を上げ出し、ガイアは困惑めいた驚愕をした。
その劣勢の状況で歓喜の声を上げ、浮かべている闘争心剥き出しの笑みを更に色濃くさせた理由はいったい何なのかという疑問が生じる。
そしてその疑問は、動揺を齎す驚愕の答えをヴォルベスが示した。
「特殊技能〈渾身不屈〉!!!!」
特殊技能を発動させた瞬間、ヴォルベスは急激に速度が増した。そして難無く雷霆の範囲外へと逃れた。
(えっ!!? 何で!!?)
ガイアは大きな目を丸くした。
彼が超重力場の中を超高速で走り、今も放ち続ける此方の光線と多数の落石を難無く躱せる様に為った事にガイアは動揺する。
先程迄は走る事が儘ならなかった筈が、新たな特殊技能を発動した直後に本来の機動力と走力を取り戻したのだ。
ヴォルベスが新たに発動させた特殊技能――――〈渾身不屈〉は自身の機動力や走力といったあらゆる動作に対する外的要因による負荷を一定時間無効化する耐性系に似た強化系特殊技能であり、彼が超重力場の中を本来の速度で難無く走れる様に為ったのは、この特殊技能の御蔭である。
では何故、超重力場が展開された時に発動させなかったのか。
その時に最初から発動していれば劣勢を強いられる事は無かった筈。
その理由、その答えは実に単純。
ヴォルベスは今さっき、その特殊技能をこの場で獲得したからである。
では、その特殊技能を獲得させた要因はいったい何か。
その答えも実に単純。
ガイアが展開した超重力場の中に居た事が要因である。
「新たな特殊技能、手に入れたぞ!!!」
久方振りに新たな特殊技能を習得したヴォルベスは歓喜溢れる声を上げながら、一気に神獣の目の前へと接近する。
(ちょっ、ヤバい!! これは流石に解除しないと…!!)
現状、ガイアはあらゆる動作が重力負荷で鈍く為っている。展開した超重力場を解除しなければ近接戦闘が真面に出来ず、魔法無しでの応戦はほぼ勝てない。
ガイアは慌てて超重力場を解除しようとしたが、既にヴォルベスが目の前に接近されていた。
「参る!!!〈砕破金剛瞬昇拳〉!!!!」
ヴォルベスの強烈な拳がガイアの懐に深々と打ち込まれ、重い衝撃音が響き渡った。
「ゴアァァ…!!!」
超重力による影響で身体を浮かされる事は無かったが、自身の重い身体に掛かる重力負荷がヴォルベスの拳を深く減り込ませ、それが逆に大ダメージを更に大きくする要因と成ってしまっていた。
重力場の解除は間に合わなかった。
だが、それはガイアにとって好機と成った。
(……此処だ!!!)
ガイアは強烈な一撃を喰らった直後、展開した超重力場を解除する。そして透かさず懐に居るヴォルベスを大きな左手で鷲掴みした。
「ぬぅっ!!? しまった!!」
(掴まえたーっ!!!)
神獣の片手に拘束されたヴォルベスは抜け出さそうと抵抗するが、頭を除く全身を圧倒的握力によってガッチリ握られ動く事が出来なかった。
特殊技能で超強化した強靭な肉体でもビクともせず。そして新たに習得した特殊技能〈渾身不屈〉は外的要因による負荷を無効にするが、拘束・束縛系に対しては効力を発揮されない。
折角取れた優勢が危機的状況へと急変してしまった。
(確かこんな感じだったかな?)
ガイアはヴォルベスを左手で掴んだ儘、右腕を引き絞りながら拳を作る。そして武技を放つ前に、ある特殊技能を発動させた。
(特殊技能〈強靭金剛腕〉!!)
発動後、ガイアの両腕が強化系特殊技能の影響で腕全体が筋肉の様に盛り上がり、両腕を構成する岩石がまるで本当に筋肉の様な造形に変化した。
「これは〈強靭金剛腕〉?!! これも覚えていたか…!!」
ヴォルベスは自身の強化特殊技能を模倣された事実を視認し驚く。
そして突如、神獣に軽く真上中空に放り投げられ手の拘束から解放された。
(それじゃあ行くぞ~!)
ガイアは放り投げたヴォルベスが目線辺りに落ちて来る瞬間を見計らい、拳を強く握り待ち構える。
放り投げられたヴォルベスはそれを視界に映し、防御態勢を取りそのまま落下する。
(〈砕破金剛瞬速正拳〉!!!)
目線辺り迄ヴォルベスが落下した瞬間、ガイアは武技による強烈な正拳突きを放った。
ヴォルベスは特殊技能も含む渾身の力を以て直撃する神獣の巨拳を受け止め、可能な限り損傷を抑え、強大過ぎる衝撃を凌ごうと防御する。
しかし、それは叶わず。全力の防御が超強烈な一撃によって打ち抜かれ、超高速で殴り飛ばされるのだった。
斜め上空へと殴り飛ばされたヴォルベスは結界障壁に激突する。
「ゴハァ……!!!」
余りにも速過ぎる速度で激突し、ヴォルベスは高弾力性の球の如く跳ね返り、それと同時に結界障壁に大きな亀裂が広範囲に奔らせた。
跳ね返ったヴォルベスの勢いは緩まず、そのまま地面に激突する。
「ガハァッ…!! ハァ…、ハァ…、ハァ…!」
神獣の強烈過ぎる一撃を喰らったヴォルベスは血反吐を吐き、意識が吹っ飛びそうな激痛を伴った。
常時発動型の防御系特殊技能〈金剛の肌〉に加え〈全筋金剛〉による物理防御強化。そして〈闘気〉による更なる防御力強化の上乗せと〈気功術〉――――〈外気功鎧纏術〉と〈内気功防練術〉――――による肉体の内外防御保護。
それ等の特殊技能を用い過剰な迄の強化による防御特化を以てしても、受け止め切る事が出来なかった。
(何という…、強烈な一撃……!!!)
ヴォルベスは歯を食い縛り、今も燃え盛る闘争心で己の身体を無理矢理立ち上がらせた。
そんなボロボロの彼に対し、容赦の無い次なる追撃が襲い掛かる。
(出て来い!!〈巨樹の暴威なる災害〉!!)
地面から50メートルを超える樹木が出現し、人の上半身に近い姿を象る。そしてそれは独自の意志を宿しているのか唸り声の様な重低音を発し、眼下のヴォルベスに目掛けて太く硬質な樹木の巨拳を振り下ろす。
だが、振り下ろされるその拳は神獣の拳より速度は遅い為、強烈過ぎる大ダメージを負ったヴォルベスでも容易に躱す事が出来た。
しかし、追撃は未だ終わっていない。
ヴォルベスはその理由を視界に映していた。
(今度はこれだ!!)
ガイアは両手をバンッと叩き合わせる。そして両手を放すと同時に膨大な電気が左右の掌から発生し、両手の間隔が広がると共に発生した電気エネルギーが形を成していった。
ガイアが電気属性の魔力で投擲用の大槍を構成し、また感電によるダメージもお構いなしにそれを握り締め構えた。
(〈大稲妻の投槍〉!!!)
そして勢い良くヴォルベスに向けて擲ち、大きな稲妻の槍は雷の一閃を引きながら奔り飛ぶ。
その一瞬の直後、ヴォルベスは穿たれ全身を焼き焦がす程の強烈な電気が奔り暴れ回った。
「アガガガガガァァ…!!」
神獣が擲った魔法により全身が痙攣を起こし、少しの間だが行動不能状態に陥る。
(今だ、魔力集中!!)
ガイアはその隙に強大な魔法の発動をする為、身体の内に膨大な魔力を一気に練り上げ出す。
「喝!!!!」
そんな一方、ヴォルベスは咆哮を上げながら気合を入れ、暴れ回る膨大な電気を打ち払う。
それを隙と見做し、神獣が生み出した人に近い造形の巨大樹は再び、己の拳をヴォルベス目掛けて振り下ろす。
「遅いっ!!!〈斬空烈脚刃波〉!!!」
ヴォルベスは始めの構えから終わりの蹴り迄の流れを一瞬で行い、拳を振り下ろす巨大樹を真っ二つに斬り裂き撃退した。
(隙あり!〈縮地・迅〉!!)
その直後にガイアは一気に接近し距離を詰めた。
「何…!!」
神獣に急接近されたヴォルベスは驚き、隙を作ってしまった己を内心で叱咤する。
(さあ、思いっ切り行くぞ!!!)
ガイアは魔法を発動させようと、全身から清純な白光を放ち輝かせた。
あらゆる穢れを消し祓う美しい光輝を纏う神獣に、観戦席場に居る者達全員は見惚れた。
偉人2人だけは除いて。
「まさか、あれは…!!」
エルガルムは〈魔力感知〉でガイアの身に起こっている現象――――正しく言えば予備動作――――と魔力の属性、そして内へと一気に凝縮させたその膨大な魔力の濃密さを感じ取り、発動されるであろう魔法の正体を理解した。
――――あれはこの結界障壁を容易に破壊する最上位級の神聖魔法だ、と。
「いかん!! ベレトリクス!!」
「解ってる!! 術式構築急いで!!」
エルガルムの呼び掛けにベレトリクスは即座に特殊技能を使用し魔力を供給し始め、エルガルムは更に結界障壁を重ね張りする為に急ぎ魔法術式を構築し出す。
偉人2人の焦り様から、他の全員は我に返ると同時に理解してしまう。
――――まさか、〈魔力の大奔流〉よりも更にヤバいのか!!!?
そんな巨大な危惧を一瞬で面に浮かべるのだった。
ガイアが更に神聖属性の魔力を練り上げると共に、岩石で構成された巨体と背に宿る樹木の光度は増し、背に生えた煌めく幾種の鉱石と原石の輝きも更に増していく。
準備は完了。
ガイアの魔法が解き放たれる瞬間が訪れた。
「〈至剛魔力大障壁〉!!!」
ガイアの魔法発動直前にエルガルムとベレトリクスは急ぎ魔法を発動させ、三重結界障壁の上から更に上乗せ張りし、計七重結界障壁を創り上げた。
間に合った。そうエルガルムとベレトリクスは少しばかり安堵した。
その直後、神獣の強大無比な大魔法が放たれた。
(――――〈偉大なる神聖力の炸裂〉!!!!)
ガイアの全身から超強大にして超膨大な神聖魔力が大炸裂し、その瞬間、周囲全体を神聖なる光輝が一瞬で呑み込み覆い尽くすと同時に強烈な炸裂波が結界障壁全体に亀裂を与えた。
「いかん!!! 伏せろーっ!!!」
全体に亀裂が生じた結界障壁が悲鳴を上げる様な大きな軋みを耳にした瞬間、結界障壁は耐え切れず直ぐに破壊されると直感したエルガルムは焦りながら声を上げ、全員に避難を呼び掛けた。
既に巨大な危惧を抱いていた他の全員は反射的に、観戦席場の胸壁に身を隠し伏せた。
それとほぼ同時に、七重もの結界障壁は硝子板が砕かれたかの様に破壊され、僅かな間だけ防ぎ閉じ込めていた神獣の神々しき大魔法は更に広がり、空間は白く眩い聖光という力で満たさるのだった。




