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眠りし闘争心の目覚め18-1

 試合とは程遠い2つの模擬試合は終わり、本当の試合へと移される。

 試験場内の闘技場に神獣フォルガイアルスとS等級(ランク)冒険者ヴォルベスが向かい合い、その間に冒険者組合長(ギルドマスター)のグルエドが審判役として立ち会う。

 そして上の観戦席場にはエルガルム達とダムク達が座り、下の闘技場を見下ろす。

「いやぁ、実に楽しみじゃな。ガイアが本格的に闘うその姿をこの目で拝めるのは」

 エルガルムは童心に帰ったかの様に、これから始まる試合にワクワクしていた。

「ホントねぇ。魔法だけでも凄いんだから、この試合がどんな凄いものに成るか楽しみだわぁ」

 ベレトリクスも彼と同じ心境を抱き、紫水晶(アメジスト)の様な瞳を溢れんばかりの期待で輝かせる。

「私は逆に、この試合がどれ程熾烈(しれつ)なものに成ってしまうか凄く不安です…」

 そんな偉人2人とは反し、シャラナはこの試合が想像を超える程に激化し、下手すれば死人が出てしまうのではと危惧(きぐ)を抱いていた。

「ガイアはその場から動かず魔法のみで圧倒するから凄い強いですし、魔力の質が先生達以上に高いから上位(クラス)魔法が想像付かない威力になる筈です。幾らS等級(ランク)冒険者の()(かた)でも正直心配です」

「そこは余り心配無いですよ、御令嬢さん」

 そんな彼女の不安な様子に、ダムクが軽快に声を掛けた。

彼奴(あいつ)は見ての通り、強敵相手と闘いを好むんだが、先を見据(みす)えない無謀は絶対しない奴さ。内の一党(パーティー)じゃ一二(いちに)を争う攻撃力を誇る攻守共に優秀な前線役(アタッカー)さ」

「そうそう、ヴォルって異常に頑丈だから心配無いよぉ。大岩の下敷(したじ)きとか多少高威力の魔法を雨霰(あめあられ)に受けても生還出来るんだぁ」

「えっ!? 大岩の下敷き!? 魔法の雨霰!?」

 ミリスティの言う内容にシャラナは半信半疑ながら吃驚(ビックリ)する。

「ヴォルベス、身体凄い頑丈。しかも耐性系特殊技能(スキル)を複数持ってるから、凄いしぶとい」

 ミュフィも話に参加し、シャラナに仲間の異常な耐久力を伝える。

「つっても、防御力に関しちゃあ(タンク)役の俺が上だけどな」

「ホッホッホッ。やはりあの若いのが相手で正解じゃのう」

 それを聞いてたエルガルムは嬉しそうに口にする。

「正解って、神獣様を相手するには俺達の中でヴォルベスが一番適任って事ですか?」

 ダムクはそう問いを掛け、それに対しエルガルムは正解の内容を答える様に語り出した。

「ヴォルベス・ディバーヌという名じゃったな。あの若いのは修めとる職業(クラス)武術士マーシャルアーティストの上位職業(クラス)である武術匠マーシャルアーツ・マスター、そして修行僧(モンク)の上位職業(クラス)である熟練の武僧伽(エキスパート・モンク)も修めた〝気〟の遣い手なら、ガイア相手に近接戦闘出来る力量が有ると判断した訳じゃ」

「おっと、既に〈鑑定の魔眼〉で()てましたか」

「うむ。彼に限らず、御主等も中々の上位職業(クラス)を修めとるのう」

「いやぁ、賢者様にそう言って貰えるのは光栄です」

 エルガルムとダムクはお互いに笑い合いながら楽しそうに話し合う。

修行僧(モンク)は確か、格闘士(インファイター)聖職者(クレリック)を合わさった様な戦士職ですよね? 先生」

「そうじゃ。修行僧(モンク)は戦士職の中では特殊な部類での、戦士職の者が扱う武技と特殊技能(スキル)は身体に内在しとる魔力とは別の力――――〝気〟を体外に出し、武器や己の身体に(まと)わせる事で強化し闘う。その中で修行僧(モンク)は〝気〟を扱う事に(ひい)でた戦士職であり、自身の身体強化も他より優れ、〝気〟を砲弾として敵に放ち、己が〝気〟を他者に流し込み治癒する(すべ)を持つ職業(クラス)じゃ」

「では、修行僧(モンク)の〝気〟の力は神聖系統魔法に類似するものなのですか?」

「属性に関しては同じじゃ、源力(げんりょく)が〝魔力〟か〝気〟という違いじゃよ。己が〝気〟に聖なる力を宿すには修行僧(モンク)の上位の更なる上位職業(クラス)を修めなければならんからのう。其処に到達するには相当困難な修練を積まねば、己が〝気〟に聖なる力を宿す術が身に付かん」

「神聖系統魔法を扱える聖職者と同じ、修めた人がとても少ない」

 其処にミュフィが修行僧(モンク)の数が世に少ない事を補足として言う。

「その通りじゃ。猫人族(キャットピープル)の娘さんの言った通り、修行僧(モンク)も含む聖なる力に関する職業(クラス)を修めた者は現在数が少ないのじゃよ」

 現在に限らず、この世界では昔から強大な魔力を保有する者よりも、神聖な力を保有する者が貴重な戦力、特に回復役(ヒーラー)として優遇される希少な存在である。そして聖なる〝気〟を宿す武技と特殊技能(スキル)を体得していない修行僧(モンク)でも、〝気〟による治癒が可能な点で優遇される貴重な回復役(ヒーラー)なのだ。

「やっぱり回復が使える人って羨ましいなぁ。私も神聖系統魔法使えたら不死者(アンデッド)相手するの楽になるしねぇ」

「ああ、確かに不死者(アンデッド)相手は意外と苦労するからな。下位(クラス)なら未だ良いが、中位(クラス)以上になると結構しぶといのが居るからな」

「うん。それ等の数が大量だと排除するの面倒、状況によっては厄介」

 堅実の踏破ステディー・プログラス一党(パーティー)の3人は神聖系統魔法の緊要性(きんようせい)不死者(アンデッド)の厄介性を口にする。

「リーダー、今からでも良いから聖騎士(パラディン)修めてぇー」

「いや無茶言うな」

 ミリスティからの無茶振り要望に、ダムクはツッコみでも入れる様に即答する。

「てか、お前が神聖系統魔法出来る様に成ってくれよ。今後の目標で決めただろ」

「はーい。頑張りまーす」

 ダムクにそう言われたミリスティはふんわりと返した。

其方(そちら)の…えっと、ミリスティさんは魔導師の職業(クラス)も修めているですか?」

「そうだよぉ。一党(パーティー)内で唯一魔法が使える弓術士(アーチャー)でーす」

 シャラナに訊かれたミリスティはニパッと浮かべた笑顔を向け、ひらひらと手を振りながら答えた。

「ねぇねぇ、それで神獣様とは何処(どこ)()ったの!? 遇ってからずっと神獣様と過ごしてたの!? 凄く聴きたいんだけど!」

 そしてズイッとシャラナに近寄り、神獣(ガイア)について興味津々に尋ね出す。

「神獣様って普段どんな感じ!? 普段何食べるの!? 御加護(ごかご)とか授かったりしたの!?」

「え、えっと、そのー」

 瞳を輝かせグイグイと質問して来る彼女に、シャラナはたじろぐのだった。

「おいおい、そういう質問は後にしな。そろそろ始まるぞ」

 ダムクのその言葉で会話は中断し、全員はこれから始まる歴史に残る熾烈な試合に視線を向けるのだった。



「ではこれより、神獣フォルガイアルス様との特別試合を始める!」

 神獣(ガイア)とヴォルベスが向かい合う中間に立つ冒険者組合長(グルエド)が、試合開始前に確認の声を掛ける。

「準備は良いか、ヴォルベス?」

「うむ! 何時(いつ)でも行けるぞ!」

 ヴォルベスは内に秘めた闘志が(たぎ)りに滾り溢れた声で返答する。

「フォルガイアルス様も準備は宜しいでしょうか?」

(うん。まぁ…取り敢えず大丈夫かな)

 ガイアは初めての強者――――S等級(ランク)冒険者を相手にする事に、内心少しばかり生じた緊張を抱きながら頷く。

「試合での規則(ルール)単純(シンプル)に、何方(どちら)かが降参するか気絶するかで勝敗を決める! 互いに武技と特殊技能(スキル)、魔法の使用制限は無し! (ただ)し、即死性の有る攻撃、瀕死状態と為った相手に止めを刺す攻撃をした場合は即座に試合を止めさせて貰う!」

(そ…、即死性の攻撃かぁ……。大丈夫かな……)

 ガイアは試合の規則(ルール)を聴いた後に不安が(しょう)じた。

 その不安の理由は実に単純で分かり易いもの。

 ――――それはガイア自身が強過ぎるからであり、更に神獣としての未知の力が未だ解らないからだ。

 先程の試合と言うには程遠過ぎた試合でも、限り無く手加減しなければ即死、運が良くても瀕死状態にさせてしまう程の怪力を有している。攻撃魔法も行使する際に使用する魔力を敢えて少量にして弱めなければ、相手をいとも簡単に木端微塵(こっぱみじん)にしてしまう程の強大な魔力を秘めているのだ。

 今回の相手がS等級(ランク)冒険者という強者に対しても、何処まで力を出しても良いかとガイアは悩み思考するのだった。

(う~ん……。()ずは軽く殴ってみるかな…)

 少なくとも、デコピン一発で伸びたりは流石に無いだろうと思い、試合開始の初撃を頭の中で決めた。

(S等級(ランク)かぁ…。何か想像が付かないや)

 S等級(ランク)というからそんじょ其処(そこ)らの強者とは比べ者にならない猛者(もさ)である事は聞いて何となくは解る上に、そんな彼の風格を観ればそうである事も解る。

 だが、それは漠然としたものであり、流石に底は全く視えない。

 ガイアは今、不安とは別に彼がどれ程の力量なのかという期待も抱いていた。

 そして(わず)かづつではあるが、その期待がゆっくりと膨らんでいくのだった。

「ヴォルベス、お前本当に良いのか?」

 そんな一方で、グルエドがヴォルベスにある事について問い掛ける。

「今回は装身具(アクセサリー)類の魔道具(マジックアイテム)を使用着用しても良いんだぞ」

 グルエドの手には真の銀(ミスリル)製の装身具(アクセサリー)――――2つの腕輪(ブレスレット)と2つの足首飾り(アンクレット)首飾り(ネックレス)、そして黒革帯(ブラックベルト)革製の小袋(ポーチ)が収まっていた。

「それ等は依頼の達成率とダンジョン等の探索に()ける生存率を上げる為の保険だ。この神聖な試合は己が身に付け培ってきた力のみで挑んでこそ意味の在る闘い! ()わばこれは試練! 神獣様との神聖な決闘に、仮初(かりそめ)の力を持ち込むのは(もっ)ての(ほか)というものだ!」

 ヴォルベスは試合で魔法装身具(マジックアクセサリー)の力を使用する事を好まず、その理由から身に着けていた装身具(アクセサリー)類をグルエドに預けたのだ。

 グルエドは彼の性格は充分知っている為、内心で「やっぱり、そうだよな」と悟るのだった。

「相変わらずだな、お前は…。分かった、これ以上の御節介(おせっかい)は言わん。思う存分闘って来い」

「うむ!!」

 ヴォルベスはニッと闘志に満ちた笑みを浮かべる。

 そしてグルエドは一度大きく深呼吸をした後、掲げる様に片手を高く上げた。

 その瞬間、試験場内に居る全ての者達に緊張が(はし)った。

 これから始まる試合に、是迄(これまで)に見た事の無い壮大な闘いが始まる未来が直ぐ其処へと訪れる瞬間と、繰り広げられるであろう熾烈な闘争の行く末を僅か一場面すら見逃さぬ様にと思い見届ける者達。

 そして、これから互いに己が力をぶつけ合い、未知の闘いにその身を投じる1人の人狼族(ワーウルフ)と1体の幻神獣。

 この地に、この都市に、偉大なる新たな歴史が刻まれようとされていた。

 グルエドが上げた片手を振り下ろし試合開始の宣言をした瞬間、それは永遠に語り継がれる新たな歴史が誕生する事と成る。

「それでは! 特別試合――――」

 ガイアとヴォルベスは同時に戦闘態勢を取る。

 そしてグルエドは、上げた片手を振り下ろし宣言の声を上げた。


「――――始め!!」


 開始宣言直後、ガイアは瞬時にヴォルベスの眼前へと急速接近した。

「む!」

 いきなりの先制行動に、ヴォルベスは驚きの声を僅かに漏らした。

(先ずは一発!)

 ガイアは岩石の拳を作り、試しの初撃をヴォルベスの腹筋に叩き込む。

(えっ、あれっ?)

 ガイアの硬質な拳は直撃した。手応えはあったが、少し違和感もあった。

 軽く殴るとはいっても一般人相手なら瀕死状態、それなりに鍛えられている戦士なら良くて激痛で動けなくなるか、悪ければ骨が砕け()し折れる重症に成る程の威力だ。

 しかし、ガイアの一撃を受けたヴォルベスは不動であり、痛痒(つうよう)すら皆無だった。

「ふむ、これは中々の威力。B等級(ランク)の冒険者や魔物等が相手ならば一撃で落ちる膂力(りょりょく)。しかし、俺には痛痒を与えない一撃(なり)

(マ、マジか。……なら!)

 ヴォルベスの頑丈さに少し驚愕(きょうがく)したガイアは、次は少し思い切ってやってみようと常時発動中の特殊技能(スキル)――――〈縮小化〉を解除した。

「デ、デカく為った!〈巨大化〉の特殊技能(スキル)か!」

 観戦席場で観ていたダムクは、ガイアの身体が大きく変化した現象に驚く。

「ホッホッホッ、あれは逆じゃよ。縮小した身体を本来の大きさに戻したんじゃよ」

 エルガルムはダムクに、ガイアの変化を楽しそうに教えた。

「ほぉ…!〈巨大化〉…いや、それが本来の大きさか」

 ヴォルベスは自身の倍程の高さ(まで)に為った――――いや、元の大きさに戻ったガイアの威圧感溢れる巨体を見上げる。そして視界に巨大な岩石の拳を振り上げるガイアの姿を映す。

(それなら、この位のは如何(どう)だ!)

 ガイアは不安を抱きつつ、初撃を超えた威力の拳をヴォルベスに向けて振り抜き、彼の真正面全体に巨大な拳を叩き付けた。

 最初の叩き込みよりも重い打撃音が試験場内を響き渡った。

(え…?! 嘘でしょ?!)

 しかし、ヴォルベスは吹っ飛ぶどころかその場から微動だすらせず、痛痒も生じた様子も無い。

 ガイアの巨大な拳を真正面から全身で受け止めた彼の堂々たるその姿は、山の如し不動である。

(何だこれ…?! 幾らこの人が強いっていっても、今のは流石にほんの軽くでも吹っ飛ぶ威力だよ!? 最初に違和感は感じたけど、何だこの硬さ!? この人ホントに人なの!?)

 初撃で(ヴォルベス)から感じた違和感、それは獣人といった種族以前に、人という生物としては余りにも肉体が堅硬(けんこう)過ぎる事にガイアは驚き動揺した。感触からみて、少なくとも鋼以上の硬さである事は間違い無いと直感で理解出来てしまう。

 前の試合で相手した剣士の胸当て(ブレストプレート)をデコピン一発で軽々と(へこ)ませた時の感触を覚えている為、簡単に一般の鉄鎧よりも明らかに硬いと理解出来てしまう。

「うむ、先の初撃よりも遥かに高威力の一撃、これは実に素晴らしい。しかし、(いま)だ全力に在らず。俺の命を気遣い手心を加えて下さってるそうですな」

 未だ全力ではないとはいえ、小細工無しに防御態勢を一切取らず、ガイアの強力な拳を真正面から受け止めたヴォルベスはニッと笑みを浮かべていた。

「だが、遠慮も手加減も無用也! 存分に秘めたる力を御振るい下され!」

(え、あ、う~ん、そう言われましてもー…)

 そう言われるも不安を抱くガイアは、全力でなくとも更に威力を出す事に躊躇(ためら)うのだった。

「ふむ、ならば俺の力量を示し、神獣様の抱く不安を払拭(ふっしょく)しようぞ!」

 そう言ったヴォルベスは右拳を強く握り締める。

 その直後、一瞬でガイアの(ふところ)へと潜り込む。

(え!!?)

 懐に潜り込まれた事にガイアは気付くも、視界に映る彼は既に拳による突きの構えを取り、何時でも腕を引き絞り握り締めた拳を放てる状態だった。

 そして彼の突きの構えの姿を認識した瞬間――――

「ヌンっ!!」

 腹部辺りに強烈な衝撃が伝わり、ガイアの身体は少しだが地面から離れ、宙に浮かされていた。

(?!!)

 ガイアは自身に起こった事に驚愕し、大きく動揺する。

 この異世界に転生し、神獣と成ってから、初めて身体を宙に浮かされた。

 常識的に、質量の大きさの差的に、ガイアは自身よりも小さい相手に宙に浮かされるとは予想だにしていていなかった。

 殴られ宙に浮かされた後に地面へと着地したガイアは、痛痒が生じなくとも打撃による強烈な衝撃を受けた事により、今迄(いままで)に無い驚愕をその身に刻まれた。

「え!!? ガイアが浮かされた!!」

 あの超重量にして不動堅強なガイアが宙に浮かされた光景に、シャラナは思わず驚愕の声を上げた。

「ほっほう! やるのう、あの若いの! ガイアを殴り浮かすとはの!」

 エルガルムはヴォルベスの常人離れした膂力に感心の声を上げた。

「相当驚かれた御様子、俺の力量を理解して頂き嬉しく思います! しかし、今のは未だ全力に在らずの拳也!」

(え! 今の全力じゃないの!? ホント如何なってるのその身体!?)

 質量的に自分よりも小さい彼は吹っ飛ばず、逆に大きい自分が殴り浮かされるという物理的法則を反する結果が起こったのだ。それに対してガイアが驚愕してしまうのも当然、生まれて初めての出来事なのだから。

「ふむ…。この感触、〈鋼鉄の肌〉の特殊技能(スキル)持ちか」

(え!? 今ので判るの!?)

 更には拳一発による感触から、保有する強化系特殊技能(スキル)を言い当てられ事にガイアはギョッと驚いた。

「では更にもう一発!」

 そしてその直後にしてその瞬間、ガイアの視界からヴォルベスの姿がほんの僅かに残像を残し、土煙を立てると同時に姿形を消え失せた。

(うぇっ!? また何時の間に――――)

 再び懐に潜り込まれた事にガイアは直ぐに気付くが――――。

「せあっ!!」

(――――ふおぁっ?!!)

 再びヴォルベスの拳を喰らい、先程の一発よりも更に威力が増した強烈な打撃により、更に高く宙に浮かされるのだった。

(え、ちょっ、え!? あの人マジで筋力如何なってるの!?? 人って此処まで鍛えられるものなのか!??)

 痛痒(ダメージ)は無い。しかし、先の一撃よりも威力が増した強烈な正拳突きである事を直に受けて理解させられ、ガイアは更に驚愕し動揺した。

 だが、ガイアは直ぐ様に生じた動揺を振り払い、反撃をし出す。

(だったらもっと力を込めて…!)

 ガイアは自身の重い巨体を支える両脚に力を込めた後、瞬時にヴォルベスの前へと急速接近した。

「何とっ!?」

 巨体に反したガイアの恐ろしい程の速度に、ヴォルベスは不意を突かれた様に驚く。

 そしてその直後、気付けばヴォルベスの視界は迫り来るガイアの巨大な拳で(ほとん)ど埋め尽くされていた。

(せあ!)

「ぬおっ!」

 巨大な岩石の拳が直撃する迄のほんの極僅かな時間の流れ、ヴォルベスの目はその瞬間を体感的にゆっくりと、そしてはっきりと瞬間的超速度で迫り来る拳を捉える。

 そして避ける暇も無く、三度(みたび)と真正面全体をガイアの拳で(おお)()くされ、強烈な打撃の衝撃が全身を奔り、遂に殴り飛ばされた。

 宙に浮かされ後方へ殴り飛ばされたヴォルベスは、体勢を崩さずに両脚を地面に着地させた。

 その後、ヴォルベスは最も衝撃が強かった胸部と腹部の間辺りに手を当て、攻撃を喰らうと同時に浮かべていた驚愕の表情を闘争心から生じ出す笑みへと変化していた。

「素晴らしい…! 何という威力…! この身に奔り響き渡る強烈な衝撃…!」

 未だ痛痒は生じる事は無かったが、久方振りの強烈な攻撃によってヴォルベスの内に沈殿し固まっていた倦怠感(けんたいかん)が粉砕された。

 それは実に清々しい解放感だった。

 それと同時にヴォルベスは、期待と高揚感が増した。

「この威力でも未だ全力ではないとは! いったいどれ程の力を秘めておられるか!」

 ヴォルベスは歓喜の声を発し、闘志溢れる瞳をガイアに向ける。

「神獣様の秘めたりし力、人狼(ワーウルフ)族の誇りに賭けて全て引き出させようぞ!!」

 そう高らかに宣言したヴォルベスはその後、武術士マーシャルアーティスト特有の構えを取る。

 その構えを見たガイアは、内心少し慌てながらも次の攻撃に対応する為に身構えた。

「〈縮地(しゅくち)〉!!」

(――――え!?)

 瞬間、其処に居たヴォルベスは消え――――

「〈剛力(ごうりき)正拳(せいけん)〉!!」

 ガイアの腹部辺りに、初撃と二撃目とは比べようが無い強烈な衝撃が一気に全身に奔り、勢い良く殴り飛ばされた。

「ンア?!!」

 そしてガイアは、神獣として生まれ変わって初めての痛みを生じ、それは衝撃と共に全身へと伝わった。

 後方へと勢い良く殴り飛ばされた直後の瞬間、ガイアの視界に再びヴォルベスの姿が映り込み、彼との距離が一気に遠退くと同時に、全体を収縮されるかの様に視界に映った彼の身体が一気に小さく為る。

(――――え? 嘘、僕、吹っ飛ばされてる?)

 殴り飛ばされ宙に浮く中、ガイアは今自身に何が起こったのか理解が追い付かず、困惑気味に驚愕する。

 そして宙から地面に幾度豪快に転がりながら不時着するも、直ぐに態勢を立て直す。

 そして、自身に起こった事をはっきりと理解し驚愕した。

(嘘でしょ?! 僕、殴り飛ばされたのか! 何ちゅう怪力だよあの人?!!)

 重く巨体である自分を宙に浮かせ吹っ飛ばせる程の、常人離れという言葉では表現が乏しいと言える程の異常な膂力から繰り出された正拳突きをガイアは(じか)に喰らい、体感し、理解させられた。

 これがS等級(ランク)冒険者――――。

 これが、彼の力量(ちから)――――。

 だが、今の攻撃が全力の拳撃ではないと、ガイアはそう直感する。

如何(いかが)か! 洗練された正拳突きの威力は!」

 ヴォルベスはガイアを殴り飛ばした拳を掲げる様に頭の高さに上げ、誇らしげに――――というより、非常に嬉しそうな声を張り上げる。

「だが、先の一撃もほんの一部! 俺の力、更に見せようぞ!〈縮地〉!!」

 再びヴォルベスは特殊技能(スキル)〈縮地〉でガイアとの距離を一瞬で詰める。

(来たっ! 今度は此方(こっち)も反撃だ!)

 ガイアは即座に反応し、自身の懐に潜り込んで来たヴォルベスを視界に捉え、同時に透かさず拳を構えた。

 動きを捉えられた事にヴォルベスは嬉しく思い、闘争心溢れる笑みを色濃く浮かべた。

「では!! 更に力を出そうぞ!!」

 ガイアとヴォルベスの拳が同時に振り抜かれる。

「〈剛烈(ごうれつ)正拳(せいけん)〉!!」

(せあ!!)

 そして、拳と巨大な拳が激突する。

 けたたましく重々しい打撃音、激突により生じた大気を揺るがす衝撃波が試験場内全体に広がり響き渡る。

 拳同士による僅かな時間の拮抗(きっこう)の後、相手の拳を殴り弾き返し、制したのはヴォルベスだった。

(くぅ…! これでも押し負けるのか…!)

 拳を弾き返されたガイアは、手に与えられた強烈な激痛に内心少しばかり苦悶する。

「未だ未だ参りますぞぉ!!〈縮地湾曲(しゅくちわんきょく)〉!!」

 再びヴォルベスは消えるかの様に其処から瞬時に移動する。

(! 今度は見逃さない、後ろだ!)

 ガイアは特殊技能(スキル)〈魔力感知〉で背後に回り込んだヴォルベスを捉え、反転すると同時に拳を振り抜く。

「〈剛烈旋脚(ごうれつせんきゃく)〉!!」

 ガイアの振り抜く拳に合わせ、ヴォルベスは武技(スキル)によって強力になった後回し蹴りを繰り出す。

 巨岩の拳と鋼を超える強度の蹴りが激突し、更なる強烈な力同士から生じる打撃音と衝撃波が再び広がる。

「ぬぉおおあああぁ!!」

「オォオオオォ!!」

 再び起こる拮抗は豪快、そして今度は互いの攻撃が弾かれ合う。

(つっ…、強…!)

 更に威力を出したが、(また)もや弾かれたという結果にガイアは驚愕する。

 一方のヴォルベスはその結果に対し、非常に嬉しそうな表情を浮かべていた。

「未だ未だああっ!!〈迅縮剛烈正拳じんしゅくごうれつせいけん〉!!」

 僅かに態勢が崩れたガイアにヴォルベスは瞬時に間合いを詰め、武技(スキル)による強烈な正拳突きを突撃するが如く打ち込む。

「ンアッ?!」

(ま、また威力が上がった!?)

 ヴォルベスの正拳突きを真面(まとも)に喰らい、更に強烈な衝撃と激痛が岩石の巨体全体を響き伝わり、ガイアは殴り飛ばされた。

「〈縮地〉!!」

 殴り飛ばした直後にヴォルベスは透かさず、更なる追撃を加えようと宙に浮きながら飛ばされるガイアの真正面へと瞬時に接近した。

(やっ、やば…!)

 ガイアは追撃に対応しようと慌てて防御態勢を取ろうとした。

 しかし、それを観たヴォルベスは更に超速移動し、ガイアの右側へと回り込むと同時に正拳突きを叩き付けた。

「〈剛烈正拳〉!!」

(ぐあっ!)

 横腹辺りを殴られたガイアは地面に着かず、別方向へと吹っ飛ばされる。

 そしてヴォルベスは殴り飛ばしたガイアを〈縮地〉で瞬時に追い越し、吹っ飛び不時着するであろう場所へと先回りをした。

「〈烈震掌(れっしんしょう)〉!!」

「カハァッ?!」

 更なる追撃の一手、武技(スキル)から繰り出されたヴォルベスの掌底が、ガイアの巨体を弾くが如く飛ばす。

 武技(スキル)による掌底を喰らったガイアは、打撃とは違う内臓全てに激痛を伴わせる強烈な衝撃が主に体内に広がり、幾度も不規則に起こる大きな震動が不快感を(もよお)すのだった。

(何だこれ…!? 体内が揺れ――――)

「〈肘突剛烈破(ちゅうとつごうれつは)〉!!」

 今度は一瞬で背後に回り込み、ガイアの背中に強烈な肘打ちを槍突撃(ランス・チャージ)の如く打ち込む。

「ゴガァッ!!」

 武技(スキル)による肘打ちを打ち込まれた背は少しの凹みと亀裂が生じ、更なる強烈な衝撃と激痛にガイアは思わず声を上げ、また別方向に吹っ飛ばされる。

(ヤ、ヤバい…!! この人、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)強い…!!)

 吹っ飛ばされるガイアは、今迄に無い程に混乱し焦り出す。

 硬い岩石の身体を砕き貫かれたと体感的に錯覚させられる程の衝撃と激痛と、それを成すヴォルベスの圧倒的身体能力に驚愕させられる。

「〈剛烈正拳〉!!」

 特殊技能(スキル)で彼の位置は捉えてはいるも、反応が間に合わず、更なる追撃を喰らい飛ばされる。

「〈剛烈旋脚〉〈肘突剛烈破〉〈烈震掌〉〈剛烈正拳〉――――」

(ちょっ、(イダ)ッ、ぐえ!)

 ヴォルベスの武技(スキル)による猛攻追撃が宙を浮き飛ぶガイアを更に襲い続ける。

 複数の武術の強烈な打撃で幾度もガイアを打ち飛ばし、瞬時に飛ばした先へ幾度も回り込む。その一連の光景が目まぐるしい速度で繰り返し続く。

「せぇえあああああああああああ!!!」

 ヴォルベスの勢いは増し、高速の猛攻をひたすら打ち込む。

 ガイアは完全に手玉に取られている状態に(おちい)っていた。

(こっ、これはホントに不味(まず)いっ!! どんどん威力と速度を上げてきてる!!)

 幾度も縦横無尽に打ち飛ばされるガイアの視界は無茶苦茶に回り、体勢は思う様に立て直せず、抱いている焦りが大きく為っていく。

 流石にこの儘、豪快なお手玉をされ続けられるのは御免(ごめん)だとガイアは必死の抵抗をし出す。

「〈剛烈正拳〉―――、なぬっ!?」

(ふんぬぅああああっ!!!)

 ガイアは不安定な体勢から無理矢理攻撃に転じ、ヴォルベスの追撃の拳に対し岩石の拳で迎撃する。

 拳と拳が僅かな間だが激しく拮抗、そして、拳と拳が弾かれ合う。

「ぬおぁっ!!? こっ、これは強力…!!」

 ヴォルベスは驚愕した。

 武技(スキル)によって堅強(けんきょう)と化した拳に対し、武技(スキル)無しの純粋な膂力によるガイアの拳が己の拳に強烈な衝撃と痛みを与えられ、上から捻じ伏せられる様に弾かれた事に。

 そしてヴォルベスは浮かべた驚愕は笑みへと変えた。

(今度は此方(こっち)の番だ!!)

 ガイアは空いた拳を即座に振り抜き、反撃を開始し出す。

「おっと!〈縮地後退(しゅくちこうたい)〉!!」

 ガイアの反撃に対し、ヴォルベスは特殊技能(スキル)〈縮地後退〉で瞬時にその場から離れ回避する。

 振り抜かれたガイアの巨大な拳は空を殴り、既に居ないヴォルベスが立って居た地面を豪快に殴り砕く。

(逃がさない!!)

 ガイアは〈魔力感知〉による感覚が反応速度を促され、視線と身体は反射的にヴォルベスの方へと瞬時に動き出し、即座に追い迫り反撃の拳を放つ。

「速い!〈剛烈旋脚〉!!」

 ヴォルベスはガイアの反応速度と更に上がった移動速度に驚愕するも、動揺せずガイアの放った拳に強烈な回し蹴りで応戦する。

「〈縮地湾曲〉!!」

 透かさずヴォルベスは瞬時に回り込む――――。

「――――なぬっ!!?」

 しかし、ガイアの背後に回り込んだ筈のヴォルベスの視界は此方(こちら)を真正面で見据え、巨大な拳を放ち迫るガイアの姿が映り込んでいた。

「〈剛烈迅速正拳ごうれつじんそくせいけん〉!!」

 ヴォルベスは(ただ)の〈剛烈正拳〉では間に合わないと瞬時に判断し、攻撃速度を増して打つ〈剛烈迅速正拳〉で迫り来るガイアの拳を迎撃する。

 拳と拳が衝突し、重くけたたましい強烈な打撃音が響き、同時に生じた衝撃波が周囲に広がり大気を揺らす。僅かな時間の拮抗、そして互いの圧倒的な膂力は弾かれ合う。

「くお…! 更に上げて来たか!〈縮地湾曲・(じん)〉!!」

(更に上がった…! 負けるもんか!)

 互いの速度は更に加速し、攻撃の威力を更に上げ、闘技場を目まぐるしく高速で動き回り、堅硬で強靭な人狼の肉体と、堅硬にして堅強な岩石の肉体から繰り出される攻撃が幾度も激突し、その(たび)に生じ響き広がる強烈な打撃音と衝撃波は徐々に大きく増していく。

 神獣(ガイア)人狼(ヴォルベス)の闘いは激しさを増していった。



 だがこれは、未だ序章(じょしょう)でしかない。

 本当の闘いが始まる前の闘争の序曲(じょきょく)に過ぎないのだ。

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