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村人と不思議な魔獣2-4

 本日のフォラール村は、良い意味で大騒ぎとなっていた。

 村中の広大な畑は、今迄(いままで)に無い程の大豊作が起こっていたのだ。

 原因は勿論の事、何処(どこ)から来たのか分からない岩石の身体をした不思議な魔獣だ。

 その魔獣は村人達の願いを聴き入れながら、畑の農作物を次から次へとポンポン大量に生やしては実らせていた。

 今迄で過去一番でも、これ程までに大量の作物を収穫出来た事など決して無かった。

 そうでなくても、食事に困る事は無かった。(むし)ろ、普段通りの収穫量であっても裕福な方だ。

 それが今起こっている不思議な光景は、招き入れた魔獣が起こしている。

 まるで、恵みの祝福をこの村に(もたら)しに来てくれたようにさえ思わせてしまう。

 その御蔭(おかげ)で村中は大忙しになった。


 まさに今日は―――大収穫際と言うべき日となっていた。


「おーい! 此方(こっち)も頼むよ!」

(はいはーい)

 岩石の魔獣は、村中の畑を縦横無尽(じゅうおうむじん)に行ったり来たりで引っ張り(だこ)状態だった。

 特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉で畑の農作物に栄養を与えて、また別の畑に行って栄養を与え、また別の畑へと彼方此方(あちこち)駆け回った。彼方此方の畑を回る度に「ほら! 食ってくれ! お(すそ)分けだ!」と農作物を分けてくれるのだ。

 非常に嬉しかった。

 村の人達が、自分という存在を受け入れてくれた事がとても嬉しかった。

 そんな村人達の笑顔を見れて心から感謝した。

 僕を受け入れてくれてありがとう、と。

(次は彼方(あっち)かな?)

 岩石の魔獣は村中を走り、苦も無く駆け回った。


 充分以上に農作物を満作にした後、岩石の魔獣は村の中心に位置する広場を歩いていた。

 此処(ここ)の広場は村の皆で食事をしたり、ちょっとした(うたげ)の様な事などをする場所で、大抵はこの広場で食事を作るのがメインだそうだ。よく見れば地面に大きな(くぼ)みが幾つか在り、其処(そこ)(なべ)を置ける作りに成っているのが確認出来た。

 そして、簡素ではあるがしっかりとした作りをした大きな木のテーブルが幾つも在った。横長のテーブルに丸いテーブルが置いて在った。そして木作りのベンチが置かれている。とても清潔感のある綺麗なテーブルとベンチだ。

 岩石の魔獣は広場をキョロキョロと見回し、視界に映ったある場所に集まる村人達へと視線を向けた。

 広場に在る井戸で、村の婦人達が水汲(みずく)みをしていた。

 小さな(かめ)に水を入れては家の大瓶(おおがめ)に水を移し入れて、また井戸から水を汲み上げる作業を何度も行っているようだ。

何時(いつ)もあんなに往復しながら水を運んでるのか…。大変だなぁ)

 前世の昔の人は何時もこんな大変な作業を往復しながらやっていたんだろうなぁ、と岩石の魔獣は村の婦人達に対し関心するのだった。

(! そうだ!)

 頭の上に豆電球がピコーンと擬音がなり、(ひらめ)いた。

 特殊技能(スキル)以外にも役に立つ力が有る事を思い出した。

 早速広場の井戸に集まっている村の婦人達の下へ向かった。

 岩石の魔獣が此方(こっち)に近付いて来た事に婦人達は気が付いた。

「あら、なぁに? 如何(どう)したの?」

 村の婦人達は誰も怖がっている様子は無かった。寧ろ、歓迎してくれる様に微笑(ほほえ)んでいた。

 未だ半日どころか昼の時間にも為っていないにも関わらず、短い時間の間で村の人達と友好関係を結ぶ事が出来たのだ。

 岩石の魔獣は視界に入った水瓶に近付く。

 そして何も無い中空に手を(かざ)した。

(水よ、出ーて来い)

 すると何も無い中空に水が出現したのだ。

 そう、水の魔法だ。

「ええっ!?」

 婦人達は驚きの声を上げていた。

 彼女達が驚いたその理由は魔法ではなく、魔法を使った魔獣に対してである。

 人間から見れば、魔物が魔法を使うのは上位の存在であり、そんな魔物は此処フォラール村の外周辺には生息して居ない。

 しかし、岩石の魔獣は婦人達の驚く理由を勘違いしていた。

 創り出された水の塊を小さな滝の様に流し、空の水瓶へと注いでいく。水の塊は水量を増やしながら水瓶の中へと流し込む。

 そして物の数秒で水瓶の中は充分に満たされた。

 並々と満たされた水瓶を「はい、どうぞ」と目の前に居る1人の婦人に丁寧に差し出した。

 その場に居る婦人達は、目をパチクリと瞬きをしていた。

(ありゃ? 相当驚いてる?)

 如何したんだろうと疑問に思い首を傾げた。

 もしかすると、村では魔法自体が珍しいものだったのかと岩石の魔獣は考えていると、村の婦人達から良い意味での驚きの声が上がった。

「凄いわ! この子魔法を使えるのね! 本当に不思議な魔獣ねぇ!」

 驚いた理由が何となくだが理解出来た。

 魔法自体が珍しいのではなく、魔法を扱える魔獣が相当に珍しい部類なのだと。

 だが、ちょっと疑問にも思う事があった。

 特殊技能(スキル)を使った時に、そういった反応が無かった事に疑問があった。

(あれ? 〈栄養素譲渡〉を使う光景だって魔法を使ってる様に見えても可笑しくないと思うけど、何でだろう?)

 正直、特殊技能(スキル)と魔法の見分け方が判らないのだ。

 そんな疑問を浮かべている時、婦人達が一斉に御願い事を頼む声が上がってきた。

「そうだわ! ねえ、家の大瓶に魔法で水を入れて欲しいの! 御願い!」

「私も御願い! 何時も重い水瓶を持って行ったり来たりするの大変なのよ!」

「ちょっと(ずる)いわよ! 私が最初よ! 家から遠いんだから!」

「ほらほら、順番に御願いしましょう! ちゃんと効率良く回れる様に順番決めなくちゃ!」

 思いの他、水の魔法は大盛況だった。

 婦人達はあーだこーだと順番を揉め始めていた。

(よっぽど運ぶの大変だったんだなぁ)

 婦人達が揉める理由が良く分かった。

(まぁ、時間は未だ未だあるし、気長にやっていこう)

 そんな婦人達のちょっとした言い争いを、その場でジッと待つ事にした。

 時間はたっぷりとあるのだから。

 焦る必要なんて無い。



「本当に助かったわー! 本当にありがとう!」

 (ようや)く最後の大瓶を水で満たし終えた。

 思ったよりも早く終わらせる事が出来た。1時間どころか30分も掛からなかった。

 村の婦人達は満足そうに満面の微笑みを浮かべていた。

 相当にご満悦の様子だった。

(もしかすると、水系統魔法ってかなり重宝されるものなのかも)

 考えてみれば、水の魔法を使えれば最低限の水の確保は容易なのが分かる。特に暑い季節には持って来いの魔法だ。農作物を育てる為に必要な水も(まかな)える事だって出来るのだから。

 水の魔法の価値観について思案していると、婦人の1人が話し掛けてきた。

「ねぇ、もし良かったらお昼の食事に来ない? 貴方(あなた)の御蔭で今迄の倍以上の作物が収穫出来たのだから、その御礼も兼ねて何だけど、如何(どう)?」

 実際の所、倍どころか3倍以上の農作物が収穫されているのだ。しっかり収穫した作物を保管すれば、この先の冬の季節は心配する事は無い量だ。少しの贅沢も出来る程に。

「ンンンン? ンンンンンン!」(えっ、良いの? 食べる食べる!)

 嬉しさの余り、何度も頷きながら思わず声を出してしまった。

 野太く、鼻に掛かった低音にほんの少し優しい高音が混じった声が響いた。

 そんな魔獣の声を聞いた婦人達は、驚くどころか怯える様子も無かった。寧ろ魔獣の純粋な嬉しい感情を読み取ってくれたのか、そんな様子を微笑んで見ていた。

「あらあら、相当嬉しそうねぇ。待っててね、貴方(あなた)からの恵みで腕によりを掛けて作るから。待っててね」

「ンンンンンンン」(うん、待ってる)

 婦人の言葉に了解の意を返事で答えた。

 そして婦人達は外の調理場へと行き、調理の準備に取り掛かり始めた。

(ワハー! 楽しみだなー!)

 この異世界に転生しての初めての食事に心を躍らせていた。

(そうだ、折角だから調理してる所でも見ながら待ってよ)

 そう思い付き、岩石の魔獣も広場の調理場へと向かった。


 広場で昼食の準備が着々と進められていた。

 今回大量に収穫した農作物が主役だ。

 大量の野菜を刻む音が彼方此方から響き、幾つかの大鍋からは湯気が立ち上っているのが見える。そして木作りのテーブルやベンチを綺麗に拭いている様子も見られる。皆せかせかと動いてはいるが、とても活き活きとしており、笑顔で作業をしていた。

 他にも、大量に採れた葡萄(ブドウ)を専用の大きな(おけ)に投入し、幾人かの婦人達が綺麗に洗った足で、何度も何度も葡萄(ブドウ)の果肉を潰している様子も見られた。そして桶に付いている筒の空洞から葡萄(ブドウ)の果汁が溢れんばかりに流れ出て来る。流れる先にある(たる)が置かれており、樽の中が満たされたらまた別の樽へ代え、何度も同じ作業を繰り返していた。果汁が満たされた樽は男達が丁重に運んでいく。そして倉庫で保管し、(しばら)くの間はそのままにし発酵させるのだ。

 (ちな)みに、(しぼ)り出した果汁は大人が飲む葡萄酒(ワイン)と子供が飲む葡萄果汁(ジュース)とちゃんと分けている。

 そんな忙しい広場の中、岩石の魔獣は子供達の面倒を見ていた。正確に言えば、子供達に群がられていたと言うのが正しい。

 最初に会った時の様に、子供達は魔獣の身体を()じ登って来る。岩石の腕にぶら下がったり、何故(なぜ)か必死に押し倒そうとする子も居た。

 初めての時は皆が、特に子供達の母親達が心配する様な光景に見えていたが、今は不思議な魔獣に群がる子供達の光景が何とも微笑ましい和やかなものと為っていた。

 こんなにも懐いてくれるので、ちょっとした物を魔法で創ってみた。

(ジャーン! 出来上がりー!)

 土系統の魔法で創り出した動く粘土人形。動像(ゴーレム)だ。

 子供達よりも小さめに創ってみたら、かなりの好評だった。

 更に6体程追加で創り出し、ちょこまかと逃げ回る様に動像(ゴーレム)達を操ってみれば、子供達は一斉に動像(ゴーレム)達を捕まえようと追い掛け始めた。

 如何やら気に入って貰えた様だ。遊び相手として丁度良い存在だ。

 ちょこまかと逃げ回る小さな粘土の動像(ゴーレム)達を村の子供達が追い掛ける。

 この光景もなんと微笑ましい事だろう。

 そんな幸せな光景を見ながら、岩石の魔獣は和んでいた。

 因みに、魔法で動像(ゴーレム)を創造した時と動像(ゴーレム)を操る時に、特殊技能(スキル)動像(ゴーレム)操作〉と特殊技能(スキル)動像(ゴーレム)制御〉をちゃっかり習得していた。

 特殊技能(スキル)動像(ゴーレム)操作〉はそのままの通りで、動像(ゴーレム)を操り易くする為の技能だ。

 そしてもう1つの特殊技能(スキル)動像(ゴーレム)制御〉は、動像(ゴーレム)の細かな動作や操作をより精密に扱える様にする為の技能だ。

 前者の特殊技能(スキル)よりも、後者の特殊技能(スキル)が重宝されている。理由は動像(ゴーレム)が魔力による暴走を食い止め抑える事が出来なければ、周りに被害が出るだけでなく、創った本人が暴走の脅威(きょうい)(さら)される事になるからだ。

 つまり、〈動像(ゴーレム)制御〉は魔力によって生じる暴走を抑制する為の技能でもあるのだ。

 なので、最初は小さく簡単な動像(ゴーレム)を創って練習するのが一番だ。

 岩石の魔獣は、子供達との遊びを兼ねた動像(ゴーレム)操作の練習をしているのだ。

 遊びと同時に練習にもなり、まさに一石二鳥とはこの事だ。

(いやー、魔法って面白いなー。練習しといて良かった)

 今度は子供達が動像(ゴーレム)達に追い掛けられていた。

 とても楽しそうに―――。



「昼食出来たわよー!」

 報せの声が広場に響き渡った。

 その声を聞き、村の人達が広場へと集まって来る。

 子供達も声の発信源の方へと一斉に走り出した。それも待ってましたと言わんばかりの勢いだった。

(育ち盛りだもんね)

 岩石の魔獣も食事場へと向かった。

 食事場に着くと、とても良い匂いが漂っていた。

 その匂いは幾つもの大鍋の中から漂っており、沢山の野菜を煮込み、野菜から溢れ出る旨味の匂いが鼻腔(びこう)をくすぐる。何だか安心してしまう様なあっさりとした良い匂いだ。

 村の人達全員は木で出来た器を持ち、大鍋から野菜の具材たっぷりのスープを器に移し、其々(それぞれ)のテーブルに運んで行く。その光景は給食の配膳の様だと懐かしさを連想しまうのだっだ。

 かなりの大人数なので時間が掛かるのではと思っていたが、そんなに時間が掛からず、あっという間に全員に行き渡っていた。

「お前にはこれだな! それっ!」

 テーブルの近くでスープが行き渡るのを待っていた魔獣の所に、わざわざ村の男4人がかりで大鍋ごとスープを持って来てくれたのだ。大鍋な上に熱いだろう、よく持てたものだ。

「お前にはこれ位の量じゃないと満足しないだろ? 何より俺達ゃあ感謝してるんだ!」

「これは私達からの感謝の印よ。遠慮しないで食べてね」

 そう言いながら木製の大きなオタマを渡してくれた。

 人が使うには大きいが、岩石の魔獣からして見ればちょっと小さく見える。

 オタマを大きな親指と人差し指で摘み取り、早速スープを(すく)った。

「あら、器用! ホントに頭良いのね!」

 褒められているのは間違いないが、頭が良いのか如何かは微妙な所だった。

(まぁ、僕が元は前世の人間だったなんて知らないから仕方ないよね)

 大きなオタマの中には人参(ニンジン)馬鈴薯(ジャガイモ)甘藍(キャベツ)などがぎっしりと小さな山を作り、スープの中に浸っている。其処から立ち上る匂いが何とも堪らなかった。

(いただ)きます!)

 そのまま大きな口の中へ流し込んだ。

 ゆっくり、ゆっくりと、野菜たっぷりスープを味わう。

 口の中で新鮮な野菜の甘味が(ほの)かに広がり、そして野菜の旨味が溶け込んだスープの味が口の中全体に広がっていく。とてもシンプルな野菜スープだが、今迄で素材の味だけで作り上げたこんな美味しい物は、前世でも一度も無い経験だった。

(お……美味しい…)

 恵みの味だ。

 至福の味だ。

 恵みの至福だ。

 心は感動で溢れた。

「ンンンンンンンン~」(おーいしいいぃ~)

 思わず至福の声を漏らした。

 声を抑えずにはいられなかった。

 心に()み渡り、心がポカポカと温まる。

 この感動を押し殺さずにはいられなかった。

 岩石の魔獣の表情は、幸せに満ちた満面の笑みを浮かべていた。たとえ表情が分からなくとも、その目を見れば誰でも分かる程の、優しい微笑の目をしていた。

「嬉しいわ、そんなに気に入ってくれるなんて」

 そんな幸せな様子を見た村の人達も、満面の笑みを浮かべた。

 広場は幸せな空間となった。

 村の人達も、恵みの至福を共に味わうのだった。

 本日のフォラール村は忙しくも(あわただ)しく、驚愕(きょうがく)と歓喜が交差する不思議な1日が、世にも不思議な岩石の魔獣と共に訪れた。


 恵みの祝福を連れて。

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