善者と悪漢の茶番試合17-1
テウナク冒険者組合内に設けられた試験場の地面は綺麗に整えられており、周囲を分厚い壁が囲い、壁上から闘いの様子が見られる様に観戦席が幾多設けられている。そして他の冒険者組合にも在る試験場と比べ、面積は他を凌ぐ広さである。
撤廃――――現在は撤廃中――――されたバーレスクレス魔導学院の無駄に広大だった訓練所とまではいかないが、強力な魔法を放っても大きな損壊が無い様に広く造られている。
テウナク冒険者組合に設けられている訓練所とは違い、訓練用具が無い此処は物1つ置かれていない真っ新な風景だった。
そんな広い試験場の中央に5人が立って居た。
其処に居るのはシャラナとヴォンボと取巻き2人、そして冒険者組合職員の試験官である。
上の観戦席にはエルガルムとベレトリクス、ライファ、堅実の踏破と呼ばれるS等級冒険者一党の4人、そしてガイアが居た。
「それではこれより、シャラナ侯爵令嬢様とヴォンボ組の模擬試合を始めます。両者、所定の位置に着いて下さい」
試験管の指示に従い、お互いは決められた開始前の立ち位置へと移動する。
「試合を始める前に規則を再度確認致します。魔法の武具と魔法の使用は有りとし、魔法装身具類の使用も許可しますが、それ以外の魔道具を使用した際は使用者を失格と見做します。何方かが戦闘不能か負けを認めるかが敗北条件となります。そして互いの状況・状態に応じて此方で判断を致します。但し、相手を殺害する事は禁止ですので、万が一相手を殺害してしまった場合は殺害した者を失格と見做します」
そして試験官はシャラナに顔を向ける。
「今回の模擬試合で侯爵令嬢様が勝利した場合、試合中での戦闘に於ける技量や特殊技能、扱える魔法を総合評価し、冒険者組合から評価に応じた等級の冒険者証を御渡しします」
「おい、それは如何いう事だ! 其奴だけ優遇し過ぎだろ! 私には無いのか!?」
それを聴いたヴォンボは依怙贔屓だと騒ぎ出し、試験官はジロッと嫌忌の視線をヴォンボに向け、冷徹な言葉を告げる。
「お前達が負けた場合は即収容所行きだからな」
「なっ、何だと!!? な、なら私が勝ったら、冒険者証剥奪は取り消してくれるだろうな!!?」
「そんな都合の良い条件お前に在る訳無いだろう。そもそも、お前達の処遇は既に収容所行きに決定してるんだぞ。今まで散々迷惑振り撒いた癖によくそんな事言えるな。そんなお前達に今回の模擬試合で勝ったら収容所行きを取り消しする事にしてるんだから、その辺は感謝しろよ」
ヴォンボに対してだけ試験官はガラリと態度を変え、嫌そうな呆れ口調で勝利報酬を伝えた。
「そ、それは本当だろうな!? 私達が勝てば収容所に収監されないんだな!?」
「はぁ…。勝てたらな」
「冒険者証は返してくれるんだな!?」
「返す訳無いだろ。しつこいぞお前」
ヴォンボのしつこさに試験官は僅かばかり苛立つのだった。
「さてさて、彼奴等がシャラナにとって良い戦闘経験を積める相手じゃと良いのう」
「あんたねぇ、〈鑑定の魔眼〉で覧れるんだから、彼奴等がシャラナの相手にならないの解って言ってるでしょう」
最初からエルガルムの口にした内容の裏を理解していたベレトリクスは悪戯めいた微笑を浮かべていた。
そう。エルガルムは端から、ヴォンボ達の実力を余り期待などしていない。既に特殊技能〈鑑定の魔眼〉でヴォンボとその取巻き2人の修めている職業と有している特殊技能、戦士系の場合は主に武技、そして力量によって決まるその人自身の等級を知り得ており、現在のシャラナの総合的力量と比べれば大した事の無い力量なのだ。
急に模擬試合をさせる理由は、シャラナの冒険者証をただ発行するよりも、それなりの等級の冒険者を相手に試験という形式で闘えば、一番下のF等級をすっ飛ばし、実力に応じた上の等級を認めて貰うという寸法である。
そしてシャラナの相手となるヴォンボとその取巻き2人は、その為の噛ませ犬である。
その為にエルガルムは、ヴォンボ達に敢えて挽回の機会という条件を提示したのだ。
「ほう、噂に聞く賢者殿が有する上位特殊技能〈鑑定の魔眼〉ですか。あの迷惑者はどの様な鑑定結果ですかな?」
ヴォルベスは興味津々にエルガルムの特殊技能とその鑑定結果を訊ねる。
「ヴォンボという奴、力量は冒険者等級よりも1つ下のD等級じゃよ。職業も上級魔導師ではない上に扱える魔法が炎系統しかない。特殊技能に関しても〈炎系統魔法制御〉は修めておるが、それだけじゃ。他の2人も同じD等級じゃが、修めておる武技はたった3つ4つと少ないのう」
「あー、やっぱりな」
エルガルムの鑑定結果を聴いた堅実の踏破一党は非常に納得といった表情を浮かべるのだった。
「前々から戦士職の俺でも何となく判ってたんですけど、彼奴、上級魔導師だなんて誇張してたのか」
「私は〈魔力感知〉が使えるから上級魔導師じゃないのは直ぐ判るけどねぇ」
「C等級だった癖に扱える魔法は炎系統だけ、特殊技能は制御系たった1つのみ。そんなんで上級魔導師を名乗るのは烏滸がましいとしか言えない」
「全く以て然り」
4人は各々思った事を口にする。
「して賢者殿、失礼を承知で御訪ねしますが、侯爵令嬢殿は如何程の力量なのでしょうか? 特に職業の方はどの様なものを修めておるのですかな?」
迷惑者の事なんかよりも侯爵令嬢であるシャラナの総合的な力量を知りたいと、4人の中でヴォルベスが代表するかの様にエルガルムに訪い掛けた。
「現在のシャラナが修めとる職業は上級女魔導師、女神官、上級強化術師、上級付与術師、召喚術師、錬金術師の6つじゃ」
エルガルムから告げられた事実に、堅実の踏破一党は感嘆の声を上げた。
「女神官!! 数少ない逸材じゃないですか!」
「凄ーい! 6つも職業を修めてるの!」
「補助特化の回復役、しかも召喚術師、一党に誰もが欲しがる後衛職」
「という事は、最低でもC等級は確実ではないか!」
中々修める者が居ない聖職者系の上位職業に加え、手数と威力を誇る魔導師の上位職業に補助系の職業、戦力を召喚する事の出来る職業、そして錬金術師の職業を合わせた計6つの職業を修めている事に、4人は其々驚きと感心を口に出すのだった。
「戦闘経験に関してじゃとC等級辺りになるが、総合的力量じゃとB等級はいけるじゃろ」
そして更に感嘆の声が上がる。
「それは是非、我々の一党に加入して頂きたい逸材ですな!」
「おいおいヴォルベス、流石にそれは無理だろ。相手は侯爵家の御令嬢様だぞ」
「アハハハ、でも正直私も内の一党に入って欲しいなぁ。ねえミュフィ」
「うん。内は後衛と補助役がミリスティだけだけだし、何より本職の回復役が居ない」
「お前等なぁ…」
一党仲間3人がシャラナを自分達の一党に欲しいと言い出し、代表のダムクは困るのだった。
「ホッホッホッホッ。そりゃあ誰だって一党に最低1人欲しいわな。回復役の有無で生存率がかなり違ってくるからのう」
そんな彼等に対し、エルガルムは鷹揚に笑う。
「ま、今回の依頼に限りだけど、あの娘も一党の一員になるけどね」
「ほう! 誠ですか魔女殿!」
「ベレトリクスで良いわよ、イケメン狼さん」
ベレトリクスは妖艶な微笑を浮かべ、魅惑な声音で言う。
「詳しい話はこれが終わってからするから、待っててね」
「うむ! それは実に待ち遠しいですな!」
ヴォルベスは依頼内容に楽しみだと期待を誰よりも膨らますのだった。
「あの…、凄ーく訊きたい事があるんですが…」
「ん? 訊きたい事って?」
ミリスティは問い掛けた後、視線をある存在へと移した。他の一党仲間も釣られ、彼女の向ける視線の先へと顔を向けた。
視線の先にはガイアが居り、少し低い胸壁を攀じ上る様にしがみ付き、顔を覗かせシャラナが居る試験場内の闘技場を俯瞰していた。
「あの生き物っていったい何ですか?」
冒険者組合に入って来た時からずっと気になっていた謎の存在の正体、その答えを知っているであろう賢者と魔女に4人は顔を戻し向けた。
「おお、ガイアの事か。ガイアの事についても後で話してやるとも」
そんな問い掛けに対し、エルガルムはニカッと笑い、後のお楽しみと言うのだった。彼の隣に座るベレトリクスもニコリと愛らしい微笑を浮かべていた。
「で、では、せめてあの精霊獣か聖獣らしき生き物の等級は如何程か教えて頂けないだろうか?」
ヴォルベスの喰い付く様な質問に、エルガルムから驚愕の答えが飛んで来た。
「種族と名称以外は鑑定不能じゃったが、最低S等級じゃよ」
「最低S等級!!?」
堅実の踏破一党4人は目を大きく見開き、驚きの事実に声を上げた。そしてもう一度ガイアの方へと顔を向けた。
「おいおいおいおいマジかよ…! 最低でS等級って……!」
ダムクは視界に映すガイアの最低等級の水準値に驚愕を通り越し、無意識に引き攣った笑みを浮かべしまうのだった。
「そうそう、ガイアも今回の依頼で一緒に付いて来るわよ」
「え!!?」
ベレトリクスからの追い打ち発言に、4人は更に驚愕の声を上げるのだった。
最低S等級の力量を秘めた謎の存在も一緒に付いて来る仰天の内容に、堅実の踏破一党は頭が少しばかり混乱気味となる。
しかし、どの様な魔法や特殊技能を有しているかは不明ではあるが、これ程頼りになる存在は賢者エルガルムと錬金の魔女ベレトリクスに並ぶ事間違い無いと内心喜躍していた。
「お、そろそろ始まる様じゃの」
話は一旦中断と為り、全員は始まろうとする模擬試合へと視線を移した。
「両者、準備は宜しいですか?」
「はい、私は何時でも行けます」
「おい宜しくないぞ! 何故その小娘が勝てば冒険者証発行であって、私の場合は収容所への収監の取り消しなんだ! 不公平だぞ! 私のは冒険者証剥奪の取り消しに変えろ!」
「うっさい。もう始めるから黙れ」
騒ぎ立てるヴォンボに試験官は対応するのも面倒臭くなり、適当にあしらう。
「それでは、模擬試合――――」
そして試験官は片手を上に上げ――――
「おいちょっ、待てぇ! 勝手に始めるな!」
「――――始め!!」
ヴォンボの慌てる様子も完全に無視し、上げた手を下ろし試合開始を宣言した。
開始宣言直後にシャラナは瞬発力のある疾走をし出し、ヴォンボ達に接近を開始する。
「ああもう糞! お前等、あの小娘を叩き潰して来い!」
ヴォンボは投げ遣りの様な命令を取巻き2人に下し、そんな命令に取巻き2人は従い武器を構え、シャラナへと走り迫った。
シャラナとヴォンボの取巻き2人が互いに走り迫る為、あっという間に互いの間合いは1、2メートルとなった。
「喰らえや、武技〈剛斬撃〉!!」
取巻きの1人――――剣士の男が振り上げた刃無しの模擬試合用大剣をシャラナに向けて、武技による袈裟斬りを仕掛ける。
しかし、その斬撃はシャラナにとっては簡単に見切れる速度であり、後ろへ退く事無く最小限の動きで躱されるのだった。大剣の重量の所為か、その大剣を扱う男の膂力が戦士として低い所為か、何方の要因にしろ、その剣士の男はシャラナの敵ではない。
「チッ、1回避けれただけで調子に乗るなよ!!」
舌打ちした剣士の男は続け様に武技を使用し、大剣を振り回す。
しかし、何度振り回しても大剣の刀身はシャラナに掠りもしなかった。
眼前のシャラナは顔色一つ変えず軽快に斬撃を躱し続け、大剣を振り回す男は焦燥に駆られるのだった。
「侯爵令嬢だからって手加減しねぇぞ! 武技〈剛拳〉!!」
更に格闘士の男もシャラナに接近し、武技によって威力を上昇させた拳と握り締めた拳当てで殴り掛かる。
しかし、大剣の剣撃速度よりも速い連続の拳撃も掠りもせず、全て躱され続けられる。
剣士と格闘士から同時に連続攻撃を仕掛け続けられているシャラナは冷静かつ余裕な表情を浮かべた儘、軽戦士の職業を修めているのではと思わせる程の身のこなしで回避し続ける。
「ほぉ! 魔導師でありながら近接戦での身のこなし、実に見事!」
「凄ぇな。相手は力量的にD等級2人とはいえ、ああも無駄な動きをせずに避け続けるとは。大した御令嬢様だ」
観戦席から俯瞰するヴォルベスとダムクは、シャラナの洗練された近接回避力に称賛の言葉を口にする。
「糞、何で当たんねぇんだ! 盗賊でも無ぇのに何だあの速さは!」
確かに、盗賊系は前衛職の中では俊敏さと回避に特化した職業ではある。しかし、魔導師系職業の修める者は近接戦闘が身体能力的に不得意な後衛職である。にも関わらず、明らかに魔導師とは思えない軽快な身のこなしで2人同時の近接攻撃を躱し続けている事に、彼等の内心に疑問が生じる。
そんな2人の攻撃速度はシャラナにとって、この大都市に訪れる前にしてきたガイアとの訓練に比べれば、全く大した事の無いものであるのだ。
剣士と格闘士の2人は、自分達の攻撃が全く当たらない事に更に生じた焦燥が熱を増し燻る。
「何やっているのだお前等!! たかが小娘1人だぞ! とっとと叩き潰せ!!」
何もせず傍観しているヴォンボから苛立ちがたっぷり含まれた命令が取巻き2人へと飛ぶが、それを耳にした2人は苛立った表情をヴォンボへと向けながら怒鳴り返す。
「煩え!! 何もしてねぇ奴が命令してんじゃねぇよ!!」
「テメェも闘えよ!! ただ突っ立ってねぇで魔法使って援護ぐらいしろよ阿保が!!」
(え~、一党仲間なのに仲悪ぅ~。まぁ、あの2人の言ってる事は正論だけど)
ヴォンボとあの2人は上下関係的な仲なのかと思いきや、互いを罵り合う一党としては酷い関係性にガイアは呆れるのだった。
「ならそのまま抑えてろ! 御望み通り、援護してやる!」
そう怒鳴り返したヴォンボは短杖を前に突き出し、魔力を一気に短杖の先端に込め出した。
「え、ちょっ、馬鹿テメッ、今それは放――――!」
「〈火炎球〉!!」
放たれた魔法の火炎球は勢い良く飛んで行き、地面へと着弾した瞬間に弾け、内部に溜め込まれた炎が一気に広がり辺りを焼き焦がした。
「ギャ―――――――ッ!!」
取巻きの男2人は急ぎ慌てて回避しようと地面に潜るかの勢いでダイナミックダイブし、ギリギリ焼かれずに済むのだった。
因みに、シャラナはヴォンボが魔力を込め出した直後に即座に退避し、ある程度離れた場所から誤爆という茶番の様な光景を呆れた目で傍観していた。
(え~…、仲間御構い無しかよ…)
わざとなのか真面目でやったのか、何方にしろ一党としては余りにも愚か極まりない行為にガイアも呆れる。
ガイアに限らず、それを観てたシャラナや観戦席で俯瞰しているエルガルム達に、堅実の踏破一党も更に呆れるのだった。
「おいテメェ!! 俺等を殺す気か!!」
「援護しろと言ったから放ってやっただけではないか!!」
「普通味方も居る乱戦状態で広範囲魔法撃つ奴があるか!! 使う魔法ちゃんと考えて選べよ、この馬鹿!!」
「馬鹿!!? 私が馬鹿だと!!?」
模擬試合中にも関わらず、ヴォンボ達は口喧嘩を始め出す。
明らかに一党としての信頼関係の無さが不和を助長させていた。
(今度は喧嘩始めちゃってるし…。あれで良く一党として成り立ってたなぁ)
一党の代表は間違い無くヴォンボではあるだろうが、自分勝手で傲慢な性格である為、信頼が築けている訳が無い。その所為でちょっとした愚行で軋轢が簡単に生じてしまう薄っぺらな関係なのだろう。
ギャアギャアと口喧嘩で騒ぎ完全に隙だらけの彼等に対し、シャラナは呆れた目でその様子を傍観する。
「……おいお前等。下らない喧嘩してないでとっとと試合続けろ」
そしてそれを見兼ねた試験官は呆れた口調でヴォンボ達に模擬試合を再開しろと促すが、そう言われたヴォンボ達は試験官に対しギロッと睨み付ける。睨まれた試験官は一切怖気付かず、気圧される事も無く、溜息を吐いた後に続けて口にする。
「見ろ、侯爵令嬢様がわざわざ待ってくれるんだぞ。喧嘩して隙を晒してるお前達に攻撃を仕掛けずに」
既に始まった試合中に隙を晒した相手に攻撃を喰らわせるのは違反ではない。寧ろ、隙を晒した方が悪い。
しかし、シャラナは敢えてそうはせず、呆れながらも待っているのだ。
「煩いぞ貴様!! 平民の分際で私に口出しする気か!!」
聞く耳すら持たないヴォンボの態度に、試験官は彼等限定のある抑止力と強制力が合わさった言葉を口にする。
「…収容所」
その言葉にヴォンボ達は時が停止したかの様にピタッと固まった。
「闘う意志が無いなら今直ぐ収容所に――――」
「よーし行くぞお前等!! 私が魔法を放った後に叩きのめせ!!」
「おー!!」
(えー……)
試験官の言葉は抜群に効き、先程迄の口喧嘩は無かったかの様にヴォンボ達は試合を続行した。ヴォンボ達のその変わり様はまるで茶番劇である。
「喰らえぇ、〈火炎球〉!!」
勢い任せにヴォンボは再び魔力によって形成し発生させた火炎球を放ち、その直後に取巻き2人も走り出しシャラナに迫る。
「〈水の弾丸〉」
シャラナはホルダーから短杖を瞬時に引き抜き、冷静に水系統魔法を即座に放ち、飛来する火炎球を圧縮した水の弾丸が粉砕するかの様に消火させた。
「何!?」
ヴォンボが自身の放った魔法を打ち消された事に驚いている間に、シャラナは魔法を放った直後に再び前方へと疾走し出していた。
「〈剛斬撃〉!!」
「〈剛拳〉!!」
再び互いは迫り、取巻き2人から繰り出される剣と拳の連続攻撃を躱し続け、シャラナは反撃の魔法を放つ。
「〈高速空気弾〉」
最初に格闘士の男の迫り来る左拳を圧縮し固めた空気の弾丸で弾くかの様に吹き飛ばし、更に右拳にも即撃ち、体勢が崩れ無防備状態と為った直後にも即撃ち込む。その一連、僅か1秒弱で早撃ちガンマンの如き〈高速空気弾〉3連発を見事に為すのだった。
空気の弾丸を打ち込まれた男は何をされたのか理解出来ず、3発目が腹部に入った瞬間に強烈な殴打でもされたかの様な激痛を感じながら吹き飛ばされ、低空飛行をした後に地面を転がりそのまま倒れ伏す。
更に間髪入れず剣士の男に〈高速空気弾〉を3連発――――1発目は大剣を握る両手、2発目は大剣其の物、最後の3発目は防護されていない腹部へと流れる様に速連射を繰り出し、剣士の男も大剣と共に吹っ飛ばす。
「んなっ!!?」
前衛の2人が魔導師1人相手に、接近戦であっという間に倒されてしまった光景にヴォンボは驚愕した。
そして前衛2人を吹っ飛ばし倒したシャラナは、ヴォンボに向かって真っ直ぐ走り迫って行った。
「フ、〈炎槍〉!!」
迫り来る敵にヴォンボは焦り炎の槍を放つ。
しかし、それをシャラナは容易く軽快に回避しながら迫って行く。
「く、糞!〈発火〉!!〈火柱〉!!〈放火〉!!」
ヴォンボはひたすら炎系統魔法を放ち続け、中空に炎を発生させ、地面から炎が噴き上がらせ、視界全体に炎をばら撒く様に放射する。
しかし、彼女には直撃どころか、飛び散る炎が掠り衣服をほんの僅かに焼き焦がす事に至らせる事すら出来なかった。
「何で当たらないんだ!? 魔導師じゃないのか彼奴は?!」
軽戦士なら納得出来る軽快な身のこなしではある。
しかし、迫り来るシャラナは女魔導師だ。
そんな彼女の力量に対し、ヴォンボは己の中で決め付けた魔導師の身体能力は低くて当たり前という主観的常識に縛られている為、納得も理解も出来なかった。
焦燥に駆られるヴォンボは、幾度も炎系統魔法を放ち続ける。
炎系統魔法の発生位置をシャラナは感覚のみで即座に予想し、回避しながら前へと走る。
そして、目の前へと迫ったシャラナはヴォンボに短杖を突き出し、突き付けられたヴォンボは思わず身体を硬直させてしまう。
「私が今まで観てきた傲慢な貴族魔導師よりかは幾分マシな方ですが、魔法の制御が余り出来ていないですね。魔力操作に限らず、魔力制御もこなせる様になってから出直して来た方が宜しいですよ」
「な、何だと…!」
「それにさっきから貴方、炎系統ばかりしか使ってないですよね。他に使える魔法は無いのですか?」
シャラナは冷徹に指摘や疑問を問い掛け、ヴォンボは眉間に皺を寄せ悔しそうな表情を浮かべる。
「貴方もただ上級魔導師だと誇張し名乗るだけの、平民を軽視する無能な貴族と同じですね」
「無能……! 無能だとぉおおっ!!」
ヴォンボは貴族としての大きな傷入りの誇りに泥を塗る発言に激怒し、そして感情的に魔法を発動させた。
「小娘がぁああ!! 恥辱を晒して負けるが良い!!〈火炎――――」
その直前、シャラナは彼に対し何もし掛けず、瞬時に疾走し出し後ろへと通り過ぎた。
「――――球〉!! え」
魔法発動可能となった直後に眼前に居た筈のシャラナの姿が消え、ヴォンボは呆気にとられる。
時は既に遅く、ヴォンボはその場に魔法を放ってしまった。
放たれた火炎球が直ぐ近くの地面に着弾し、球体に溜め込み留めていた炎は着弾した場所を中心に弾け、周囲を一気に広がりながら撒き散らされ、当然ヴォンボはそれに巻き込まれ全身が炎に包まれた。
間抜けな事に、ヴォンボは自爆行為を為出かしてしまったのだ。
「ギャアアアアアアアアァ!!!」
火達磨状態と為ったヴォンボは絶叫を上げ、慌てふためきながらも必死に全身を纏わり付く灼熱の炎を消そうと無様に地面を転がり回る。
シャラナは〈火炎球〉の効力範囲に入らない様に充分に離れた距離から、ヴォンボが自爆する一部始終を観ていた。
憐れみも無く、軽蔑も無く、嘲りすらない。
ただ呆れ果てた目で彼の無様な姿を観るのだった。
「熱い熱いぃいいぃぃ熱いいぃぃ!!」
ひたすら転げ回り消火しようとするヴォンボに、シャラナは冷徹に指摘を告げ出す。
「周りと自身の状況を確認しないからそうなるのです。至近距離で広範囲魔法を放てば、自身にも被害が及ぶ事など普通判る筈ですが」
「ウアアアアァァ、消してくれえぇぇ!! 早く誰か消してくれぇええぇ!!」
「………聞いている訳無いですか」
シャラナは溜息を吐いた後、彼の要望に応え魔法を発動し放った。
「〈滝波〉」
上空に魔法陣を瞬時に形成し、魔法陣から大量の水を発生させ一気に真下へと流し落とした。
水系統魔法によって創られた疑似的な滝にヴォンボは全身を打たれ、少しの間打ち付ける滝波が重く圧し掛かる。
魔法の効力が切れ、打ち付ける滝波から解放されたヴォンボは全身ずぶ濡れと為り、地面に伏していた。
「…勝負ありだな」
倒れ伏しているヴォンボ達の状態を敗北と認識した試験官は、片手を上げると同時に張った声で宣言を告げる。
「そこまで! 勝者、シャラナ・コルナ・フォルレス!」
模擬試合は長引く事なく、呆気無く終わ――――
「勝手に終わらすな……」
――――ったと思いきや、ヴォンボはずぶ濡れた衣服をびちゃびちゃと鳴らし、ゆっくりと立ち上がりながら顔を上げた。
「何だ、未だ意識あったのかお前…」
「当たり前だ…! この私を誰だと思ってる…!」
「冒険者組合にとって迷惑な没落貴族」
試験官にスパッと正論を告げられたヴォンボは言い返せず、屈辱の言葉で顔を苛立ちで歪ませた。
「あのなぁ。お前がさっきやった自爆行為、あれ侯爵令嬢様が消してくれなかったらそのまま焼け死ぬ所だったんだぞ。今のは勝敗を決めるに充分な要因だよ」
「ふざけるな!! さっきのは小娘に攻撃されたからではないのだから、敗北の要因に成る訳無い!!」
「成るわ、ド阿保」
ヴォンボは明らかに筋違いな言い訳を試験官に怒鳴り散らすが、試験官は呆れながら短く罵り返した。
「こんのぉお~……! オイ貴様等!! とっとと起きろ!!」
燻る苛立ちが更に熱を増したヴォンボは倒れ伏している取巻き2人の元へと近寄り、苛立ちという感情の赴くまま、力の限りに蹴り起こし出した。その行為は余りにも非道徳的であり、それを観る者達は内心に不快が生じさせるものであった。
乱暴に蹴り起こされた2人は顰めっ面をヴォンボに向け、ギロッと睨み付ける。
そんな2人の事など気にもせず、シャラナに向けて指を差し、続けて怒鳴る。
「小娘!!! この私に勝ちたければ、私以上の魔法で倒してみるがいい!!!」
そしてニヤリと嗤い、勝ち誇った様な高慢な態度を取りながら嘲る。
「まぁ、貴様如きが使えたらがな」
先程まで無様を晒していた奴が如何して余裕振っているのか、彼の口から出す軽蔑と嘲笑の言葉に対し、シャラナは怒りも苛立ちも一切起こらず、只々呆れるのだった。
「……なるほど、そうですか。其処まで仰るのでしたら御望み通り、そうさせて貰います」
シャラナは短杖をヴォンボ達に差し向ける。
「折角ですから、序でにそのずぶ濡れた身体を乾かして上げましょう」
「……へ?」
冷徹に告げた後に魔法を放ち、ヴォンボ達に敗北を送った。




