冒険者集いし大都市16-2
時刻はおよそ9時過ぎ。
蒼天の頂へとゆっくり昇る太陽は、白き光で世界を充分に明るく照らし出す。
王都アラムディスト内の貴族区画のある大きな一画、フォルレス侯爵家の敷地内に複数の人と1体の人外の姿が在った。
フォルレス侯爵家当主レウディン・レウル・フォルレスとその妻であるフィレーネ・ルウナ・フォルレスが居り、その2人の前には娘であるシャラナとその師である賢者エルガルムと魔女ベレトリクス、シャラナの護衛として侍女のライファ、そして特殊技能で岩石の身体を縮小させている神獣フォルガイアルスが隣に並び向かい合っていた。
「遂に、この日が来たのだな…」
レウディンは不安気な表情を薄っすらと浮かべていた。
今日は大事な愛娘が、人生初のダンジョンに挑む日である。
そんな新たな旅立ちの日が訪れ、レウディンの内心に生じた不安は薄っすら浮かべている表情とは比べようが無い程に溢れ返っているのだった。
「貴方、一緒に行くだなんて言い出さないでね?」
妻であるフィレーネは彼の抱く暴走しそうな気持ちを直感で理解し、優しい声音で暴走させな様に抑止の言葉を夫に掛ける。
「分かってるさ、フィレーネ。しかし、それでもだな……」
頭では、お節介という過剰の愛情がシャラナの成長の邪魔になる事は分かってはいる。しかし、心情はそう簡単に受け入れる事は難しいものであり、心配してしまうのが善き親というものだ。
「なぁに心配するな、御主の娘の命はこの儂が保証する」
そんなレウディンに対し、エルガルムは微笑を向けながら言う。
「今回はベレトリクスも居るし、御主の所の優秀な護衛も居る」
エルガルムは魔導師系職業を幾つも修めた世界屈指の実力者。そしてベレトリクスも同様に多くの魔導師職業を修めたエルガルムと肩を並べる実力者。何方も最高峰の力量を有している魔導師だ。
シャラナの護衛でとして伴うライファは、盗賊系のある特殊な職業を修めている。そしてエルガルムから魔法をシャラナと共に教わり、魔導師系職業も修めている。
この3人だけでも充分な戦力であり、これから向かう冒険者組合で一番等級が高い一党を雇わなくても良い程の力量を有した面子である。
そして、その3人をも超える強大な戦力が此処に居る。
「それに神獣も一緒じゃしな」
そう。その3人をも超える力を秘めた存在、大地の化神である神獣フォルガイアルスだ。
魔導師関連の特殊技能と己の生まれ持った特殊技能を幾多も有し修め、幾種の系統と幾多の低位級や中位級を初め、上位級の魔法をも修めている。それを抜きにしても、非常に高い身体能力での高い戦闘力を有している。攻撃系特殊技能は未だ習得してはいないが、間違い無くこの中で最強の存在である。
そして、ガイアには成長する膨大な余地も――――。
「そうそう、ガイアも一緒なんだから大丈夫よ」
ベレトリクスは微笑の表情を浮かべ、相も変らぬ少し気怠そうな声音で言う。
「冒険者だってS等級の一党を雇う予定なんだから」
(S等級の冒険者か…。それなら過剰に心配する必要は無いと思うけど)
現在世界に存在する最高位冒険者――――S等級冒険者と呼ばれる数少ない存在、そんな英雄級を戦力兼護衛として雇うのだから命を落とす危険の確率はかなり低くなる筈、そうガイアは思う。
「……エルガルム様、ベレトリクス殿、実力もそうですが人間性の重視を御願いします! 特に男性冒険者の人間性の厳選を! 決してシャラナ目当ての卑しい男を近付けない様に、如何か御計らいを!」
「あー…、其方ね」
(其方かー)
シャラナが落命する可能性が低くなった事によりレウディンの心の内に在る不安が小さくなったが、代わりに美麗で可愛い愛娘が卑しい男共の毒牙に掛かる不安が生じ、それは大きく膨張するのだった。
「お…、御父様…」
そんな父親の様子に、娘のシャラナは少々困った表情を浮かべていた。
「レウディンよ、其処は心配無い。冒険者は等級昇格する際には実力や実績だけでなく、その者の人間性も審査基準になっとる。S等級冒険者で人格破綻者は先ず居らんよ」
(へぇー、冒険者の等級昇格ってちゃんと人柄も審査されるのかぁ)
審査と聞いたガイアは前世での記憶――――就職面接をしていた頃を思い出し、懐かしさを感じるのだった。
(等級昇格審査って就職面接とは違った感じなのかな? やっぱ実技とか模擬戦するよね、冒険者だし)
冒険者の等級昇格審査の内容とその光景を、自分なりにガイアは想像を膨らます。
「そんな人格破綻者なんぞ冒険者組合が冒険者登録させんよ。まぁ、低等級辺りはそれなりに柄の悪い連中が居るがな」
「ま、沢山居る訳じゃないしね。居ても程々って所よ」
エルガルムとベレトリクスにそう説明を聴かされるが、レウディンは卑しい男共が愛娘に寄って集って来る不安を拭う事は出来ない様子だった。
多分、この人は来ちゃいけない。
もし一緒に付いて来て、万が一でもシャラナに卑しい男が近寄り、ほんの僅かでも彼女の美麗な柔肌に触れば、其処は業火の海が広がるだろう。そうガイアは予想し、灼熱地獄と化した光景を目に浮かべるのだった。
「でも貴族令嬢だからこそ、経験しといた方が良いわよ。そういった面倒な連中をあしらう方法はとっとと覚えちゃった方が、この先物事を進める時に役立つわよ。特に容姿も顔も魅力的な子にはね」
「む……」
流石のレウディンもこれ以上の心配事は口にしないだろうとガイアは思ったが、今度はライファへと念押しに主人としての命令を伝え出す。
「ライファっ! もし男共がシャラナ目当てに近寄って来たなら、迷わず即駆除する様にっ!」
(いや、それは流石に駄目だって)
ガイアは内心で彼にツッコみを入れた。
「畏まりました、レウディン様」
(ライファさん!? 受諾しちゃ駄目でしょ! そこ止めなきゃ!)
今度はライファの即答に対し、ガイアはぎょっと驚きながら内心でツッコむ。
「御父様…、それは流石に駄目ですよ。ライファも悪乗りしないで断って下さい」
「御心配無く、御嬢様。駆除する際は決して誰の目にも届かぬ場で致しますし、証拠も一欠片たりとも残しませんので」
(…如何しよう。多分冗談で言ってるとは思うけど、この侍女さん、ホントに遣り兼ねない気がしてならないんだけど)
ライファの口にした言葉が冗談なのか本気なのか、何方にしろ「この人、ホントに遣りそ――――、あ、違う、殺りそう」とシャラナとガイアは内心でそう思い、困り気味の表情を浮かべるのだった。
「駄目よライファ、そんな事したら冒険者組合側に迷惑が掛かるわよ」
其処にフィレーネが優しい声音で抑制の言葉を掛けた。
「はい、軽率な行動は慎みます」
見事、ライファの意志に制御という楔を打ち込んだ。
そんな2人の短い遣り取りに、フィレーネは夫のレウディンや侍女のライファに対する数少ないしストッパー役なのだとガイアは理解した。
「まぁ悪人の部類相手なら基本社会的に、殺人とか遣った犯罪者なら容赦無く殺っても良いけどねぇ」
(お姉さーん、折角止めたのに促さないでー)
折角のフィレーネの抑制に対し、ベレトリクスは逆に促し掛けるのだった。
「ま、まぁ兎に角、信頼性が高く人格の善いS等級冒険者を雇うから心配するな」
「はい、如何か娘を宜しく御願い致します」
「任せておけ。魔導師としての力量を更に鍛え上げてやるとも」
エルガルムはレウディンにニッと笑みを向けながら鷹揚に答えた。
「では時間も惜しい、早く行かねばな。冒険者達が皆ダンジョンに潜ってしまう前に」
そう言いながらエルガルムは身体全体を後ろへと向け、片手に持つ杖を掲げ魔法を発動させる。
「〈転移門〉」
最上位級の転移魔法が発動され、エルガルム達の前に大きな楕円状の孔が出現した。大きく広がるその孔は、先の見えない闇の様に暗く、漆黒に限りなく近い紫色が鈍い光を放っているかの様に揺らめく。
「ではな、レウディン。また暫くシャラナを預かるぞ」
「はい、宜しく御願いします。エルガルム様」
「では御父様、御母様、行って参ります」
「ああ、必ず無事に帰って来るんだぞ」
「行ってらっしゃいシャラナ。しっかり頑張るのよ」
「はい」
シャラナは両親に強く抱きしめられる。特に父親からの抱擁はとても強かった。
そんな大きく深い親子愛を観たガイアは思う。
必ず僕がシャラナを護るよ。
必ず無事に家族の元へ連れて帰るから。
ガイアはのそりのそりと、ゆっくり家族の元に歩み寄った。
「ガイア?」
両親の抱擁から解放されたシャラナは歩み寄って来たガイアに気付き振り向く。
ガイアはレウディンとフィレーネの元へ近寄る。
そして、2人に優しく抱き着いた。
「!」
レウディンとフィレーネを含むその場に居た全員は、ガイアのその不意な行動とその光景に驚いた。
それは何とも不思議な光景。
そして、それは人の心を温かくする、優しく、穏やかで素敵な光景であった。
「ンンンンンンン」(必ず、僕が護ります)
2人の腹部辺りに硬い顔を埋めたガイアは、野太く鼻に掛かった様な優しい高音混じる声を、静かに、そして優しく発し、シャラナは必ず護ると誓うのだった。
当然、ガイアの発した声の意味は誰にも伝わらない。
が、如何いう訳か勘違いという嬉しい捉え方をされた。
「良し良し、善い子善い子」
(ん?)
フィレーネがガイアの硬い頭を抱える様に抱き寄せ、和んだ笑みを浮かべながら撫で始める。レウディンも同じ様に和んだ笑みを浮かべ、ガイアの頭を撫で始めた。
「神獣様は未だ赤子ですものね、甘えたくて当然よね」
(え?)
ガイアは埋めている顔をポカンとした表情を浮かべる。
そしてもう1人の手がガイアの岩石頭を触れる者が居た。
「そうだよね、ガイアは未だ赤子だもんね」
シャラナまでもが和んだ表情を浮かべながら撫で始め、そんな微笑ましい状況に為った事にガイアは呆然となっていた。
(んん~?? 何で僕をそんなに撫でるん~??)
そんな微笑ましい様子をエルガルムとベレトリクス、そしてライファは見守るかの様に観ていた。
「やはり赤子じゃのう」
「そりゃぁそうよぉ。ねえ」
「はい」
3人も和みの笑みを顔に浮かべるのだった。
(んん~??)
頭を撫でられ愛でられているガイアは内心で首を傾げ、別に甘える行為をしていないのだが? と疑問を浮かべていた。
(……まぁ、いっか。少しだけ、甘えても良いよね)
浮かんだ疑問は注がれる温かな愛情によってあっという間に流され、ガイアは少しばかり、疑似的ではあるが両親と娘からの愛情という温もりを初めて味わった。
そしてガイアは内心名残惜しく思いながらもシャラナの両親から離れ、シャラナと共にエルガルム達の元へと戻る。
「さあ、行くぞ!」
エルガルムの一声に従い、シャラナ、ベレトリクス、ライファ、そしてガイアは転移空間へと向かい歩き出した。
最初にエルガルムが入り、次にベレトリクス、ライファと順に転移空間の孔へと入り、溶け込む様に姿を消す。
「御父様! 御母様! 行って来ます!」
そしてシャラナも両親に手を振りながら転移空間へと入って行った。
そして最後にガイアは入った後、〈転移門〉の孔は閉じた。
視界全体を覆う紫色の混ざった漆黒の景色が一瞬で別の景色へと移り変わる。
転移先は目的地から、そして道からある程度離れ目立たない場所。
転移空間から出たガイアの視界には、目的地であろう大都市を囲う壁が映り込む。
(おおー、人が沢山居るー)
そして更にガイアの視界に映るのは、その大都市の出入口を幾多の人が出入りしている光景。
自前の馬車に乗る商人や、それに便乗し乗車する旅人らしき人、鎧を纏い剣を背負う傭兵じみた風貌など、様々な装いの人が大都市の門に設けられている関所――――若しくは検問所――――で警備員に所持品や装備品の点検、そして罪を犯した者を判別する魔道具でその者が犯罪者であるかを検査していた。
「行くぞ、シャラナ」
「はい、先生!」
「ガイアも儂等から離れない様にの」
「ンンー」(はーい)
シャラナとガイアは元気良く返事をエルガルムに返し、楽しみという子供の様な純粋な感情を抱き、エルガルムの後に続き歩む。
エルガルム一行は平原に引かれた幅広い一本道へと足を踏み入れ、大都市へと向かい進む。
途中擦れ違う人からは物珍しい以上に驚愕の色一色の視線を送られるが、エルガルム達は気にもせず大都市の門へと進んで行く。
(迷宮都市かぁー、どんな街並みだろう)
ガイアは重い岩石の脚を運びながら、頭の中で迷宮都市内の風景を、記憶したラウツファンディル王国内の街並みの風景を所々少し変えながら想像を膨らます。
門の関所に並ぶ幾人や荷が詰まれた馬車等の列はスムーズに進み、列に並んでいたエルガルム一行は僅か数分程度で門の関所前へと到着した。
「はい、次の者」
数名の警備員の内1人が商人の検問をし終え、流れ作業の様に次の都市入場する者の検問する為呼ぶ。
そして呼ばれた者が警備員の前に立ち、その警備員は呼んだ者の姿を視界に映した。その直後、警備員はぎょっと目を見開き驚愕の表情を一瞬で浮かべ、同時に驚愕の声で眼前の者の名を口にした。
「けっ、〝賢者〟エルガルム・ボーダム様?!!」
「うむ、如何にも」
そして賢者エルガルムの後ろから更に3名の女性が現れ、その内の1人を視認し更に警備員は驚く。
そして周りに居る他の警備員や検問中の者達も一斉にエルガルム一行へと視線を向け驚愕し、関所は騒めく。
「れっ、〝錬金の魔女〟ベレトリクス・ポーラン様まで?!!」
「そうだけど、幾ら何でも驚き過ぎでしょ」
「それは仕方ないじゃろうて。儂も御主も、大体の場所では知らん者は居らんからのう」
(おおー、さっすがお爺ちゃんとお姉さん。いっつもこんな感じに驚かれてるのかなぁ)
ガイアは偉人2人が尊敬という意味で驚愕される様子に不思議と親近感を抱いた。
「今回は連れが居る」
エルガルムは後ろに目を遣り、彼の背後からもう2人の女性が姿を警備員の前に現す。
「フォルレス侯爵家の娘、シャラナ・コルナ・フォルレスです」
「同じくフォルレス侯爵家に仕える侍女、ライファ・ベラヌです」
「フォルレス侯爵家の…! これは遠方から良く御越し下さいました!」
貴族という身分の高く、更に侯爵という爵位が高い者の登場に警備員は瞬時に背筋を伸ばし、即座に姿勢を正した。
「では、賢者エルガルム様方4名、テウナク迷宮都市入場ですね。検問の方は免除致しますので、どうぞこのまま御通り下さい」
(え、検問免除!? 凄いなー。そこまで優遇されるんだ、この人達って)
2人の偉人とフォルレス侯爵家はこの世の中でかなりの信用性を有している事に、ガイアは驚き感心するのだった。
偉人だろうが身分の高い貴族だろうが、普通は検問を免除される事は基本無い。例外としては王族くらいしか免除されない。つまり、ガイアと共に居る彼等は王族と同等、若しくは非常に高い信頼性をこの世の中から得ているという事だ。
それ程の信頼を得る為、いったいどれ程の善行という実績を積み重ねて得たのだろうと、ガイアは彼等の内に存在する人間性に感心する。
「ああいや、もう1体も居るぞ」
「え? もう1体、ですか?」
「うむ。ほれ、此処に居る」
エルガルムが視線を斜め下方向へと動かし、警備員もエルガルムの向けた視線の先に視線を向けた。
(やぁ)
警備員がガイアを視認した直後、眼球が零れるのではという程に目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべた。
「え…!? な、なん…!? え…!!?」
(うん、まぁ、そうなるよね)
先程のエルガルム達に対する驚きとは違った驚きに久しさをガイアは感じた。
そんな中、警備員はエルガルムと謎の生物を交互に何度も見ていた。
「ホッホッホッ。大丈夫じゃ、非常に善い子じゃから安心せい」
エルガルムにそう言われるも警備員は戸惑う。
「人の言葉を理解出来る上に物事の善悪も判断出来る。儂が保証する」
「そ……、そこまで仰るのでしたら…、分かりました。その…、えーっと…、何方が調教師系の職業を修めているのでしょうか…?」
実の所、魔獣種が都市を出入りしたり、街中を歩いている事はそこまで珍しい訳ではない。
その理由は調教師系職業――――魔獣使いと呼ばれる職業を修めた冒険者が存在するからだ。しかし、調教師系の職業を修めた冒険者の数は少なく、余り見掛けない存在である。
知識だけで知っている魔獣なら未だしも、視界に映るその生き物は今まで見た事も聞いた事も無い未知の存在だ。初めてガイアに遭遇したエルガルムでさえ驚愕したのだから当然の反応である。
魔獣にしろ妖精獣にしろ、その生き物を連れているのなら主人である調教師が居る筈だ。そう思い警備員はエルガルム達に尋ねたのだ。
「だぁれも調教師系職業を修めた者は居らんぞ」
「えっ!? 居ない!?」
当然、その事実にも驚く。
「も、申し訳御座いませんが、一応念の為に此方の鑑定水晶で職業確認させても宜しいでしょうか? 決して疑っている訳では御座いませんが…」
「なぁに構わん構わん。口だけでは証明にも成らんからな」
エルガルムは笑いながら鷹揚に確認の許可を許す。
そんな賢者から心の広い対応に、警備員は嬉しく思い安堵した。
「ありがとう御座います。では、此方の鑑定水晶に触れて下さい」
(鑑定水晶…。そういえば、あの時に1度だけ見て以来だな)
以前に王都アラムディストに訪れ、未だ自身が神獣である事すら知らなかった時に、エルガルムから特別な鑑定水晶による鑑定結果で自分が神獣と呼ばれる伝説上の類である事が判明した。
しかし、たったそれだけだった。
それ以外の鑑定結果の表示が全て不明と出ていた時の事を思い出す。
(あっ、そうだ! この人達の鑑定なら結果の表示が見れるよね!)
ガイアはエルガルム達の修めている職業や特殊技能、そして使用可能の系統魔法に興味を抱き、直ぐ横で鑑定水晶をジッと見詰め、その鑑定結果を楽しみにした。
本来通常の鑑定水晶は名前・職業・特殊技能・使用可能系統魔法・総合力量等級を調べ表示される魔道具であるが、今回はエルガルム達の中に調教師系の職業の有無を確認する為、職業のみを調べる下位級の鑑定水晶を使用される。
最初にエルガルムが鑑定水晶に手で触れ、青白く光り出した鑑定水晶が触れた者の名前と修めている職業を映し出した。
透かさずガイアはズイッと顔を前に出し覗き込んだ。
エルガルム・ボーダム 種族:人間
職業:〈叡智の魔導師〉〈暗影術師〉〈司教〉〈森林の信奉者〉〈強化術の熟達者〉〈付与術の習熟者〉〈弱化術の熟知者〉〈妨害術の熟知者〉〈召喚術の精通者〉〈幻想術師〉〈錬金の熟知者〉〈上級錬金医術師〉〈熟練の魔道具職人〉
(何これっ!! 何かメッチャ凄そうな職業だらけなんだけど!!)
ズラリと水晶に表示されたエルガルムの修めた幾種の各職業に、ガイアは目を丸くした。
「んじゃ、次は私ね」
次にベレトリクスが鑑定水晶に触れ、鑑定結果が表示された。
ベレトリクス・ポーラン 種族:人間
職業:〈叡智の女魔導師〉〈暗影術師〉〈心霊呪術師〉〈森林の呪術師〉〈強化術の熟達者〉〈付与術の習熟者〉〈弱化術の熟知者〉〈妨害術の熟知者〉〈召喚術の精通者〉〈幻想術師〉〈錬金の探究者〉〈錬金医術の名医〉〈魔道具の名工〉
(この人も何か凄っ!! 心霊呪術師って何!!?)
「では、次は私です」
更に続いて、シャラナが鑑定水晶に触れる。
シャラナ・コルナ・フォルレス 種族:人間
職業:〈上級女魔導師〉〈女神官〉〈上級強化術師〉〈上級付与術師〉〈召喚術師〉〈錬金術師〉
(おっ! 女神官の職業がある)
「最後は私ですね」
最後にライファが鑑定水晶に触れた。
ライファ・ベラヌ 種族:人間
職業:〈暗影の暗殺者〉〈偵影の斥候〉〈潜影の追跡者〉〈上級女魔導師〉〈潜影術師〉
(ヤベェーッ!! この人まさかの暗殺者だったーっ!! しかも職業構成が完全に暗殺特化型だよ! 暗影の暗殺者とか、めっちゃ怖ェーッ!)
薄々とは何となく気付いていたが、思っていた以上の恐ろしい侍女である事が判明し、ガイアは驚愕するのだった。
「おお…! これは凄い上位職業ばかりだ…! ふむ…、エルガルム様の言う通り、調教師系職業を修めている者は誰も居ないですね」
鑑定水晶による4人の職業確認は直ぐに終えた。
(す、凄いなー、色々な職業持ってて)
職業を修める事は、例えるなら称号を有する事と言って良い。それは主に冒険者にとって顔を売る際の重要な要因であり、他者に、世間に評価され、己の人生を有利にしてくれる資格と言えるものだ。
転生者であるガイアこと白石大地からして見れば、職業とは己が世間から評価され形作られる称号であり、それを幾つも修めるエルガルム達に対し、ガイアは羨ましさを抱いていた。
(……僕も何か修めてるかな?)
ガイアは自身が何かの職業を修めているのか如何かを知りたくなり、岩石の手を鑑定水晶へと伸ばし、壊さぬ様に触れる。
そして水晶は光り出し、ガイアに関する鑑定結果を表示した。
不明 種族:不明
職業:鑑定不可
(やっぱ出ないかぁ)
ある程度の期待は抱いていたが、この鑑定水晶は以前エルガルムが持っていた鑑定水晶とは違い、S等級の存在に対し鑑定が出来ない一般的な鑑定水晶である事を鑑定後に気付き、ガイアはちょっとばかりガックリとするのだった。
それを見ていた警備員は、鑑定表示された種族項目にこれまた吃驚と言わんばかりの顔を浮かべた。
「種族が不明…?! こんな事初めてだ…」
「それは仕方ない。冒険者組合が所有する鑑定水晶でもガイアを鑑定する事は出来んからのう」
「何と! そうなのですか。…鑑定が出来ない存在……」
警備員は鑑定出来ないその謎めいた生物をまじまじと観る。
奇妙にして神秘的な姿形から何方の部類に属するのだろうと考察し、その考察から導き出した答えが当たりか如何かは判らないが警備員はそれを口にした。
「では、えっと…、其方の妖精……いや、精霊獣? の入場を許可致します」
ほんの少しだけ時間は掛かったが、ガイアの入場許可が下りた。
「うむ、済まんの」
エルガルムは警備員に労いの言葉を送った後、シャラナ達と共に門を潜り抜けて行った。
警備員は大都市内へと進んで行く後ろ姿を視界に映す。そして視点は謎めく存在へと向け、ぼそりと呟く。
「ホントにあれ、何なんだ?」
自分で妖精獣か精霊獣かと予想を言ったものの、結局の所は正体が判らぬ儘で一時を終えたのだった。
「……つ、次の者」




