冒険者集いし大都市16-1
世界の各地に存在する迷宮――――ダンジョン。
洞窟、地下、海底、塔といった様々な姿形で構築された迷宮。
場所が判明し今も探索が続けられているダンジョン、そして未だ場所も存在も知られていない未開ダンジョンの数は幾多も存在し、各地の場所によってダンジョン内は決まった環境が構築されている。
海が広がる場所なら海の環境、砂漠地帯であるならば砂漠の環境といった特定の環境に適応した生態の魔物や魔獣、妖精や精霊などが生息し、その環境に適し群生している薬草や、そのダンジョンの地殻にのみ産出される鉱石や原石といった特色がある。
そして全てのダンジョンに共通する特徴は、何と言ってもダンジョン内の何処かに点在している宝、言わば金銀財宝が眠っている事が目玉である。
ダンジョンとは、この世の全ての者にとって未知に溢れた富の宝庫と言える場所である。
しかしそれと同時に、其処は死の危険という未知を孕んでいる弱肉強食の領域でもある。
しかし、その死の危険を潜り抜け、跳ね除け、打ち倒し、生還した者には強者という名声を得られる。
その死の危険が大きければ大きい程、強者という名声がより上がり、箔が付く。
富を求め、名声を求め、力を求め、ダンジョンを探索し挑む者達――――。
――――それが冒険者である。
テウナク迷宮都市。
幾多も点在するダンジョンの内1つ、ラウツファンディル王国領の境界に添い、更にダウトン鉱山国から東の国境線上に位置する地下ダンジョンを中心に造られた大都市。
他国の大都市に劣らない幾多の人口で溢れ返る大都市であり、その人口の半分近くは冒険者達で埋め尽くされている大規模な街である。
幾多の人が様々な目的で広大な都市内を行き交い、冒険者は未知の冒険と富を求め、依頼を請け負いダンジョンへと潜り金銭を稼ぐ。そして1日の締めは都市内に多く点在する飲食店――――主に酒場で麦酒を呷り心身に溜まった疲労を洗い流し、美味い料理を食い生きる喜びを噛み締める。
各地各国からやって来る商人達は冒険者がダンジョンで手に入れた品の高価安価に問わず、日常で必ず使用する消耗品の素材から一般其処等の商店や商人が取り扱わず出回らない珍しい希少価値の代物といった幾種の素材や武具、魔道具等を求め冒険者組合から適正価格で買い取り、此処迷宮都市は勿論の事、各地各国へと赴き仕入れた商品を売り、得た大きな利益で更に世界の経済を動かし循環させる。
そうやって迷宮都市に住まう者達は、意識しなくとも互いの経済面を知らず知らずに助け合っているのだ。
テウナク迷宮都市中心区に幾つか点在する宿屋の内、平均よりも中の上に位置する宿屋の1つ――――〝白銀の止り樹亭〟。最高級宿屋と迄はいかないが、内装は非常に清潔で1部屋1部屋は広く幾つもの調度品が設けられ、一般的な宿屋には無い浴槽付きシャワー室まで完備されている。宿泊費を含む生活費が余裕である者なら、文句を付け様が無いとても快適な生活空間である。
そんな〝白銀の止り樹亭〟の21部屋の内の1部屋、一般宿屋に設けられている寝床よりも寝心地の良いフカフカの寝台で横になっている冒険者の男が1人居た。
身長は一般男性より高く筋骨隆々な身体をしており、それは他者から見れば身体全体が本来よりも大きく見えてしまう鍛え抜かれた屈強な肉体だ。黒色の短髪に顔付きは若干強面よりだが、筋骨隆々の身体に見合った30代前半の顔立ちである。
「クァ〰〰〰っ、ふぁー」
心地良い睡眠から目を覚ました男――――ダムクは寝台から上半身を起こし欠伸をした。充分に熟睡を取った事により微睡は一切無く、頭の中はスッキリとした状態だ。身体もとても軽い。宿屋専用の室内スリッパを履き寝台から降り立ち上がり、両腕を上に上げながら背伸びをする様に全身の筋肉をグッと伸ばす。
大きい戸棚の中から取り出した清潔な衣服を着込み、室内スリッパから半長靴に履き替える。そして上半身のみの木製等身大に着せ掛けられている蒼色を基調とし作られた全身鎧――――兜は無し――――を手に取り、手慣れた手付きで己の身に装着する。
その全身鎧は堅固なる鎧と呼ばれ、使われている金属はオリハルコン――――別名〝神秘の銅〟と呼ばれる貴金属が使われている。そしてその鎧は魔法を込められた特別な防具であり、断熱、断冷、対酸防止の魔法に加え、硬質化、魔法防護、電気抵抗の上位級強化魔法が鎧全体に施されている。更に籠手には筋力増強、装甲靴には俊敏性強化の上位級魔法が施されおり、着用者を常時強化してくれる魔法の防具だ。
鎧を装着し終え、次は腰に上質な革製小袋――――大収納小袋を身に付ける。これは空間魔法の〈収納空間〉が施されたマジックアイテムで、見た目とは相反する大容量の小袋である。生物以外なら何でも入れられ、入れられる物の体積は最大で約43立方メートルであり、大きな素材類を楽々収納する事が可能にしている。更に収納した物の重量の影響は無い為、物の持ち運びを簡易にしてくれる代物である。
小袋を身に付け、彼は壁沿いに立て掛けられた神秘の銅製の大剣と大型の盾を手に取り背負う。
大剣は堅強なる大剣と呼ばれ、全身鎧と同様に魔化されており、魔法の武器化、刃の鋭利化、硬質化の上位級強化魔法と対酸防止の魔法が施されている。そして盾は堅牢なる盾と呼ばれ、には硬質化、魔法防護の上位級強化魔法と、断熱、断冷、対酸防止の魔法が施されている。
そして最後に冒険者の認識票――――S等級の証である神秘の銅製の小さな金属板を首に下げ、出掛ける身支度は整った。
「さてと、朝飯朝飯っと」
ダムクは朝食を食べに自分の宿泊部屋から退出する。
階段を下り、宿屋内のエントランスホールへと向かった先には、其々種族が異なる3人の冒険者が居た。
1人は薄い緑色を基調とした金糸で美麗で芸術的な模様を刺繍された衣服を着ており、その上に毛並みが上質の毛皮鎧を着用している。その毛皮鎧は上位の魔獣種である黙音の暗殺狼――――サイレント・アサシンウルフの毛皮を鞣し作られた代物であり、金属防具品より軽く、毛皮から作られたとは思えない硬度を誇る。それはミスリル――――別名“真の銀”――――で作った鎧と同等の強度である。
手には革手袋が肘辺りまで覆っており、手の甲部分には魔法陣の様な模様が銀糸で刺繍が施されていた。そして脚には太腿半分まで覆う長靴を履いており、革手袋と同様に靴全体にも銀糸で芸術的な模様を縫い描かれていた。毛皮鎧とは違い艶やかな焦げ茶色だが、それも素材は黙音の暗殺狼の毛皮から――――毛を取り除き加工した物――――で作られた革製防具である。
其々の防具名称は、隠密の毛皮鎧、俊敏の革手袋、無音の飛翔靴と呼ばれる。どれも黙音の暗殺狼が有する特殊技能〈気配隠蔽〉と〈鋼鉄の肌〉の力が秘められ、其処に魔法による強化と防止が施された魔法の防具である。
そして背には、美麗で芸術的な弓と矢筒を背負っている。その弓は隠者の静寂弓と呼ばれ、ダムクの所有する大剣と同じ神秘の銅で作られた武器である。
弓弦には無音化の魔法が施され、射撃する際に鳴る弓弦の弾き音は一切鳴らず、射った矢も無音化され空を切る音を鳴らなくなる。その恩恵によって敵に聴覚で気付かれる事無く、狙撃による遠距離暗殺を可能にする魔法の武器である。
そんな弓と一組で背負っている真の銀の細工が施された矢筒もマジックアイテムであり、大収納矢筒と呼ばれる大収納小袋の矢筒版である。
それ等を装備し身に纏う女性は森人族と呼ばれる種族である。髪は腰まで流れ落ちた美しい薄緑色、パッチリとした瞳は蒼玉の如く透き通った青色で、森人族の特徴である長い耳、顔は非常に整った美麗で可愛らしい顔立ちをしている。一般女性より少し長身で身体付きはすらっとしており、見た目が華奢に反して少し胸は大きく、身に纏う衣服と毛皮鎧の胸部を突き出していた。
もう1人は程々の肌の露出度のある黒み掛かった紫色の衣服――――東邦に伝わる忍び装束と呼ばれる衣服を纏っていた。その装束の下には金属特融の艶が無く、光を反射し煌めかぬ様に黒く染色された鎖着を着ていた。後ろ腰には鞘に収まった片刃の短剣と3つの革製小袋、両腕には漆黒の籠手、両太腿には投げナイフが両方合わせて6本収まっているナイフホルダー、脚には艶消しを施された上質な黒革製の半長靴を履いていた。
鞘に収まった短剣は破貫の漆黒短刀と呼ばれ、刃の鋭利化に加え、魔法による防御力強化や防護に対する貫通力を与える魔法が施された神秘の銅製の武器である。
そして艶の無い黒い鎖着は無響の鎖着と呼ばれ、断熱と断冷の防止魔法と硬質化の上位級強化魔法に加え、無音化の魔法により金属同士がぶつかり擦れる僅かな音すら響かない軽防具である。しかも神秘の銅製である為、一般的な鉄製の鎖着より比べてとても頑丈かつ軽い。機動力が高い反面で防御面が薄い盗賊系職業を修めた者にとって、非常に重宝する防具である。
漆黒の籠手は魔糸紡ぎの籠手と呼ばれ、魔力糸を作り出し操る事が出来るマジックアイテムであり、その魔力糸には硬質性・粘着性の2つを持っている。魔力糸は太くも細くも変えられ、硬質性の強度や粘着力の強さを調節する事が出来、2つの性質を組み合わせる事により、束縛、罠、武器として、時には縄替わりとして使用する事が出来る特殊な魔法の防具である。
黒革製の半長靴は機動力と跳躍力を高める世間で良く知られている常時強化のマジックアイテム――――飛翔の靴である。
それ等を身に纏う彼女は猫人族と呼ばれる獣人族の女性である。
身体付きは華奢で膨らんだ胸は慎ましく、成人女性の平均身長程の高さである。整った綺麗な顔立ちに金色の猫目、艶やかな黒髪のショートヘア、頭には可愛い大きな猫耳と腰下に長い尻尾が生えていた。
そして最後の1人はダムクよりも背の高く大柄で、獣人族男性の特徴である全身に生えた毛の色は灰色で、瞳は金色、顔立ち以前に頭全体は狼其の物である彼は人狼族である。
防具らしい防具は身に纏っておらず、身に付けている衣服類は革製胴衣を肌着を着ずにそのまま羽織り、上質な繊維素材で作られた伸縮性が優れた洋袴だけである。その代わりに両腕に上位硬質の腕輪、両足首に上位迅速の足首飾り、首には弱化解除の首飾り――――黄金色に染色された神秘の銅を基調とし、美麗な白銀色の光沢を放つ真の銀の芸術的な細工が施された――――といった貴金属製の装身具、腰には上位抵抗の黒革帯と大収納小袋、そして空衝歩行の短靴を身に付けており、武器は何1つ所持していない。
彼等3人もダムクと同じ神秘の銅製の金属板を首から下げていた。
そう。彼等もS等級の冒険者である。
「あ、おはよー〝リーダー〟」
階段から降りて来たダムクをリーダーと呼ぶ森人族の女性――――ミリスティ・フィム・ララナ・トミスティアがふわっとした声音で朝の挨拶を交わす。
「おう、おはよう」
ダムクもミリスティに朝の挨拶を交わす。
「や、おはよ」
「おはよう」
猫人族の女性――――ミュフィ・ニニスは声量控えめな声音で、人狼族の男性――――ヴォルベス・ディバーヌは男らしい威厳のある声音でダムクに朝の挨拶を交わした。
「おう、おはよう。今日も俺が最後か」
「何時も通りだねぇ」
ミリスティは花が咲いた様なふわふわとした可愛らしい笑みを浮かべる。
「ホントお前達は早いな」
「そりゃあ私とミュフィは女の子なんだから、身嗜みを整える時間は必要だからね」
「まぁ女の私生活事情は充分理解してるから口出ししないが、ヴォルベスは何時も朝早くから何してるんだ?」
「ん? 言ってなかったか? 肉体の柔軟性を高める為の柔軟運動だ」
「相変わらずお前は意識高いなぁ」
「当然! 柔軟性は筋肉の命とも言えるからな。武術士である俺には欠かせない事だ」
ヴォルベスは戦士系職業の己の肉体を武器として闘う格闘士から派生する上位職業の1つ、武術士を修めている。
単純な力による殴る蹴るといった大雑把な攻撃ではなく、戦士職の特殊技能――――武技と呼ばれる様々な技による洗練された高威力の攻撃を繰り出し、敵の攻撃を往なすバランスの良い攻守と高めの機動力が特徴の前衛職業である。
そんな彼は習得し修めた武技の威力と精度をより高める為、不意な戦闘が発生した時の為に何時でも最高の状態を保つ努力を常日頃から行っているのだ。
「…しかし、最近は何というか、停滞感が続いて気が湧いて来ないのがここ暫くの悩みだな」
「確かに、それは同感」
ヴォルベスの言葉にミュフィは共感する。
ヴォルベスの言う通り彼等は此の所、これといった大きな依頼は無く、依頼抜きでのダンジョン探索も何かしらの新しい発見といったものも無い。
簡単に言えば、変化の無い冒険者稼業の日々が続いていた。
高難易度の依頼をほぼ毎日問題無く達成し、一般人や他の冒険者達より生活に困らない多額の金銭報酬は得ている。高難易度の依頼が無い日でもダンジョン下層部へと潜り、危険度A等級の魔物や魔獣種から獲れる食用の肉や武具の素材となる皮や爪に牙に角、上層中層には無い貴重な薬草類や鉱石に原石を採取採掘、時折発見した宝箱から得た必要性の無い魔道具等を冒険者組合に買い取って貰い、高難易度の依頼の報酬額と同等、時にはそれ以上の多額金を得ている。
彼等の一党は程良い贅沢をしても、生活費に困苦する事の無い安定した冒険者稼業人生を謳歌しているのだ。
しかし、安定し過ぎている所為なのか、マンネリとした精神的停滞が随分前から続いている状態である。
「何かこう、遣り遂げた後に更に力量が増す様な、何か刺激のある依頼が在れば良いのだがな」
ヴォルベスは報酬より、自身をより強く高められる環境を求めていた。
「中層の汚染毒沼の領域みたいな場所は嫌ダよー」
「私も嫌」
女性陣は嫌そうな顔を向けながら前以て牽制の言葉を投じる。
「いや、あれは退屈だから暫くするつもりは無い」
「いや退屈って…。お前ホントよく遣ってたよな、あの〝苦行〟」
ダムクの言うヴォルベスが過去に行っていた苦行、それは毒沼や強酸湖に自ら浸かり、魔物や魔獣からの重症を負う程の攻撃や様々な属性の魔法攻撃を自ら受け、それに応じた耐性系特殊技能を獲得するという〝苦難苦行〟の行為である。
普通は永年の闘いと経験によって受けて蓄積された痛痒・状態異常の度合や数によって耐性特殊技能を獲得する事が出来、既に得た耐性は強化する事が出来る。
ヴォルベスは己の命を自ら危険に晒すという狂人的行為をひたすら続けた事により、〈猛毒耐性〉〈上位麻痺耐性〉〈上位石化耐性〉といった状態異常耐性特殊技能や強酸や炎・水・土・風・電気属性と魔法に対する耐性特殊技能、そして全身の皮膚を鋼鉄の如く硬化させ、自身を堅強な鎧と化させる防御系特殊技能〈鋼鉄の肌〉を短期間で上位互換の〈金剛の肌〉へと極め強化したのだ。
彼はある意味、偉業と言える苦行を成し遂げたとんでもない人物なのである。
「防御・耐性系特殊技能は誰にでも必須だと俺は思ってるからな。攻撃系の特殊技能と武技も大事だが、いざという時の保険は持っておくべきだ。何より、そうすれば己に無い耐性をマジックアイテムで補う事でより生存率を上げられるのだから、得られる耐性系特殊技能は得られるだけ得た方が良い」
「んー、ヴォルの言う事は解るけど、わざわざ自分から苦痛を受けて特殊技能を得るのは嫌だよー、私」
「そう無理強いはしないとも。ミリスティは弓術士であり野伏なのだから、自身にとって必要な特殊技能を得れば良いさ」
「そうそう、自分の修めてる職業の戦闘スタイルに合わせりゃ充分さ。その長所を活かして互いを助け合えば良いんだからよ。それが一党ってもんさ」
一党の代表であるダムクの言葉に3人は同意の笑みを浮かべた。
「それじゃ、今日如何するか考える前に先ずは朝飯食いに行くか」
ダムクは3人に何時もの行き付けの店で朝食を取りに行くぞと促し、ミリスティはふわふわとした声で、ミュフィは変わらず声量控えめの声で、ヴォルベスは威厳ある男らしい声音で其々違う返事を返しダムクと共に〝白銀の止り樹亭〟を後にした。
太陽が地平線から顔を出し、所々に大小様々な形の雲が浮かぶ蒼天を昇り始め2時間程経過し、テウナク迷宮都市は幾多の人――――主に冒険者――――で溢れ返り、彼等は習慣の如く大都市内を流れる様に決まった場所へと赴く。
冒険者の食事は大体決まって都市中心に在るダンジョン入口と接しているテウナク冒険者組合内に設けられている食堂兼酒場で胃袋を腹八分目位までに満たし、それから冒険者組合の受付や掲示板に貼り出されている依頼書を受注し、装備を再確認し整えてからダンジョン内へと潜る。
そんな幾多の冒険者の内の彼等4人〝堅実の踏破〟一党は、冒険者組合から少し離れた場所の飲食店で必ず朝食を取るのが日課である。
彼等が何時も行く飲食店は、幾つも在る飲食店の中で内装は小綺麗で落ち着く雰囲気であり、少し値は張るが質の良い食材を使用した料理を出す上等な料理店である。
「ねぇリーダー、今日も高難易度の依頼を受けるの?」
その店内で既に注文した料理を彼等は食している中、ミリスティがダムクに今日の冒険者稼業の予定を訊ねる。
「んー…。それなんだけどよ…、お前達に確認…というか、相談? …違うな、これからの方針…てやつかな?」
「これからの方針についての相談?」
ミュフィはダムクの言いたい言葉を理解し言い直す。
「そう、それだ」
「これからの方針って、何か新しい事でも始めるの?」
「ああ、ある意味新しい事だ」
ミリスティの更なる質問にダムクは肯定する。
「ほう、その方針とは何かに挑戦するといった事なのか?」
ヴォルベスはニッと嬉しそうな笑みを浮かべ、ダムクの方針について期待をする。
「そうだ。その新たな挑戦の内容を聴いた上で、それに挑むか如何かの意見と賛否を聴かせて欲しい」
「良し解った。ならば聴かせてくれ、その新たな挑戦に関する内容を」
ヴォルベスは抱いた期待を膨らましながら、新たな方針内容の説明をダムクに促す。
ミリスティとミュフィもその内容に期待を抱き、長い耳と大きな猫耳を傾け、目線をダムクに向け固定する。
「…そろそろ――――」
3人は僅かに顔と上半身を前へと傾ける。
「――――最下層部に挑もうかと考えている」
「遂に挑むかっ!! 最下層!!」
待ってましたと言わんばかりにヴォルベスは喜楽の声を上げた。
「最下層って、最低危険度A等級以上の魔物や魔獣種が居る超危険階層の…!」
ミリスティは可愛い目を少し見開き、最下層に挑むという事に驚愕する。それと同時に僅かな不安の色を顔に浮かべた。
「そうだ。未だ殆ど探索されてないあの最下層だ」
ミリスティの言葉をダムクは肯定する。
「確か是迄聞いた情報だと、最下層部最初の階層に入って直ぐ異常な数の危険度A等級以上の魔物や魔獣が出現するらしい。その最下層部最初の階層に危険度S等級の魔物や魔獣種は未だ確認されてない儘だけど」
ミュフィは少しばかり険しい表情をしながらも、変わらず控えめの声量で最下層部に関する情報を3人に伝える。
「でも、全てじゃないけど唯一その最下層部を探索した人物は1人だけ居る」
「ほう、その人物とはいったい誰だ?」
「〝賢者〟エルガルム・ボーダム」
「おお! あの彼の英雄魔導師か!」
誰もが知る有名にして偉人の名に、ヴォルベスは驚きや尊敬に近い声を上げる。
ミュフィはこくりと頷き肯定を示し、知り得ている情報を続けて話した。
「うん、それも冒険者一党すら雇わずに。下層部踏破者の中でたった1人だけで、最下層部に到達して探索までした唯一の人物。冒険者組合にその下層部まで踏破した人物の記録が在る。冒険者組合職員なら知ってると思う」
「他に賢者様以外で最下層部に入った事のある下層部踏破者は居ないの?」
ミリスティは他に最下層部に入った者は居ないのかミュフィに質問をする。
「賢者と並ぶ〝錬金の魔女〟ベレトリクス・ポーランと、王都アラムディストのルミナス大神殿を治める最高位聖職者の〝教皇〟ソフィア・ファルン・シェルミナスの2人も下層部踏破者。僅かだけど、最下層部に入った事があるらしい。因みに錬金の魔女も賢者様と同じ様に1人で潜ってたみたい。教皇様は大神殿所属の聖騎士数人伴ってA等級一党を雇って下層制覇を成したけど、雇った一党が勝手に最下層部に踏み入れて命の危機に陥ったらしいよ。それで教皇様と神殿聖騎士が急いで最下層部に入って駆け付けて、大量の魔物と魔獣からその一党を護りながら帰還の巻物で全員無事脱出したんだって」
「マジか! 何方も有名な女傑じゃねぇか!」
ミュフィから聴かされた最下層部に入った下層部踏破者の更なる情報にダムクは驚く。
「凄い! あの教皇様も下層部踏破者だったんだ!」
ミリスティも驚き、青い瞳を憧れという感情で輝かせる。
「うん。でもそんな偉人3人の内、錬金の魔女と教皇様の2人は最下層部を探索する事を危険だと判断して止めた。唯一、最下層部探索の経験のある賢者様も1度切り以降、ダンジョン最下層部に潜った記録は無いらしいよ」
「なるほど。つまり話に挙がった3人の偉人ですら何度も挑戦しようとはならない程、最下層部は想像を超えたあらゆる危険が在るという事だな」
ヴォルベスの確認の言葉に対し、ミュフィは頷き肯定する。
「うん。だから正直に言うと、私は未だ最下層部に挑戦するのは早いと思う」
「やっぱ俺達の実力だと未だ無理か?」
未だ無理だという答えを予想していたのか、ダムクは肩を竦めながらミュフィに挑むには早い理由を訊ねた。
「決して私達は弱くは無いよ。寧ろ、最下層部に挑める力量は其々持ってる。けど、無事に帰還出来る程の実力は持っていない。私達4人を合わせても」
「俺達4人でもか……。それを聴くと、1人で最下層部を探索した賢者様っていったいどんだけ強いんだよ…。想像出来ねぇ…」
ダムクは僅かに引き攣った笑みを浮かべ、最強の魔導師の想像の付かない実力に内心驚きと畏敬の念を抱いた。
「ミュフィの意見に私は賛成。挑みたい気持ちは少なからず有るけど、やっぱり未だ行くには早いよ」
ミリスティは最下層部に挑むという方針に反対する。
「むぅ…、2人は反対か…」
ヴォルベスは最下層部に挑む事には端から賛成ではあったが、ミリスティとミュフィが反対を示す。
一党を組まずにたった1人で冒険者稼業をしているのなら好きな様に挑めるのだが、組んでいる仲間を蔑ろにし、自分だけの都合や考えで振り回してはいけない事だ。
残念そうに思いながらも、ヴォルベスは反対という仲間の命を優先に従うのだった。
「2人が反対となるなら最下層部に挑む方針は無し、という事になるのか」
「いや、今回は直ぐに挑むか如何かの確認ってだけで、最下層部に挑む事に関しては諦めるつもりは無いさ」
「それってつまり、今後は最下層部に挑む為に実力を上げる方針でいくって事?」
「今回の反対意見でそうなるな」
ミリスティの確認に対し、ダムクは微笑を浮かべ肯定する。
「うむ! それは賛成だ! ならばその方針に従い、各々の職業の特殊技能と武技の習得と強化の計画を練ろうではないか!」
己を強くする事ならば大歓迎のヴォルベスは、ふさふさの尻尾を振りながら嬉しそうに声を発する。
「んー、そうだなぁ…」
ダムクは其々自分達の実力を上げる方法やその場所を少し思考する。
「…先ず、是迄に習得してきた特殊技能と武技を再確認だ。それから俺達の各職業別で習得可能の特殊技能と既に持ってる特殊技能の強化だ」
「となれば、特殊技能習得方法の把握からだな!」
「ああ、特殊技能無しでの基礎戦闘技術だけじゃ必ず戦闘に限界が出るからな。何れ最下層部に挑むなら強力な特殊技能と武技は必須だ」
「じゃぁ、今日は最初に冒険者組合に行って職業別の〝特殊技能詳細書〟を借りて調べなくちゃね」
ミリスティの言葉にダムクは頷く。
「そういう事だ。その後は何時も通り、依頼受けて資金稼ぎだ」
「ん、解った」
ミュフィは控えめの声量で短く答えた。
「場所は如何する、リーダー」
久々の特殊技能習得という己を高める方針に、向上心が高まるヴォルベスは若干急かす思いでダムクに催促する。
「場所は各自習得する特殊技能を決めてからだな」
そして4人は朝食を終えた後、銀貨と銅貨を数枚支払い飲食店から出て、冒険者組合へと向かった。
大都市の中心の地下ダンジョン入口に建てられた巨大で立派な建造物――――テウナク冒険者組合。
冒険者組合の建物内――――主にエントランスホール――――には駆け出しから歴戦の者まで、老若男女問わずに幾種の種族、そして様々な職業を修めた幾多の冒険者達で溢れ返っていた。
掲示板に貼り出された依頼書の難易度とその内容を見ながら自分と相談、若しくは組んでる仲間内と相談する者達。そして貼り出されていた依頼書を受付カウンターに居る受付嬢に渡し依頼を受注、若しくは掲示板に貼り出されている依頼書以外の依頼の有無の確認と難易度の相談をし、受注した者達がダンジョンへと向かう何時もの冒険者組合内の光景が広がっている。
幾つもの椅子やソファーに洋卓が置かれたエントランスホールのロビーラウンジで〝堅実の踏破〟一党の4人が椅子やソファーに座り、冒険者組合から借りた職業別の〝特殊技能詳細書〟の中身と睨めっこをしていた。
ダムクは戦士職、ミリスティは射手職、ミュフィは盗賊職、ヴォルベスは格闘職といった職業別関連の今の自分が修めていない特殊技能と武技を探しページを捲る。
「ん~…」
ひたすらページを捲るダムクは浮かない表情をしていた。
「……如何だ? お前達は何か良いの見付けたか?」
余り進展が無いダムクは、一党仲間に声を掛けた。
「ん~、見付からなーい…」
ミリスティは少々気疲れした様な声で答える。
「思ってたよりあんまり載ってないね~」
「うむ…、思ったより…特殊技能と武技の記載数が少ないな…」
ヴォルベスは僅かに顔を顰め、特殊技能詳細書を眺めながらそう言い、ページをまた捲る。
「…仕方ない、冒険者組合の特殊技能詳細書は大図書館のより特殊技能と武技の記載数が少ないから」
ミュフィは変わらず声量控えめの声で、冒険者組合が所有する特殊技能詳細書の補足を言う。
「あー、参ったなぁ。此処で早速躓くかぁ…。これじゃあ今後の方針が進まないなぁ…」
ダムクは困りながら先の事を考え込む。
「……ねえ、リーダー」
「ん? 何だミュフィ」
「思ったんだけど、職業に関するのじゃなくて、全ての特殊技能と武技が記載された特殊技能詳細書を覧た方が良いんじゃない?」
「え? 魔物や魔獣とか、妖精や精霊種が持つ特殊技能が載ったやつか?」
ダムクは疑問を抱き、ミュフィは続けて自分の思案を話した。
「うん。私達と同じ特殊技能を有してる魔物や魔獣、妖精や精霊から、何か特殊技能習得のヒントが得られるかもしれないと思う」
「なるほど、その発想と考えが有ったか」
ミュフィの思案にヴォルベスは希望を抱いた様な明るい笑みを浮かべた。
「んー…、弓の武技使う魔物とかって居るかなぁ?」
ミリスティは余り浮かない顔で3人に質問をする。
そんなミリスティの質問にダムクは答えた。
「いるだろうけど、其処等の魔物だと居なさそうだよな。やっぱ妖精か精霊辺りが上位特殊技能と武技を持ってるだろうな」
「ミリスティよ。弓の武技習得のヒントが得られぬのなら、この際新しい魔法でも習得しては如何だ」
ヴォルベスはミリスティに新たな魔法を習得する事を提案する。
「おっ、確かにそうだな。俺達の一党で唯一魔法が使えるのはミリスティだけだからな。個人的な希望としては、強化系の魔法が欲しいな」
「んー、そうだねぇ。付与術師と強化術師の職業を修めるのも良いかも。なら明日、大図書館で強化系魔法関連の本も探さないとねぇ」
「……私も魔法、習得してみようかな」
「おっ、マジか! それで何の魔法を取るんだ? ミュフィ」
「ミリスティが強化系なら、私は弱体化系にする」
「弱化術師か! それは実に良い! 戦闘での選択幅がかなり広がる!」
先程のつまらなそうだった空気は一変し、互いの意見による会話で4人は盛り上がった。
そして暫くの間は強くなる為の談義が続き、話に熱中した為か30分程の時間があっという間に経過した。
「さてと、これをあんまり永ったらしく読んでも時間の無駄に成りそうだ。そろそろ今日の仕事を取りに行くとするか」
ダムクは今日の方針についての談義は此処までと区切り、椅子からゆっくりと立ち上がった。
「はーい!」
「分かった」
「うむ!」
3人も一党代表のダムクに促され、座っている椅子やソファーから立ち上がろうと――――。
――――その時、エントランスホールに居る冒険者達が大きく騒めき出した。
「ん? 何だいったい?」
冒険者組合内の空気が是迄に無い変化に、そんなエントランスホールダムク達は見回す。
「ねえっ!! あれっ!! あれ!!」
ミリスティが驚愕の表情で冒険者組合の出入口へと指を差し、興奮気味にあれを見てと促す。
3人はミリスティが指差した方向へと顔を向けた。
そして、3人はとある存在を視界に映し、驚愕の表情を顕にした。
冒険者組合出入口から入って来たのは魔導師風の格好をした老人と女性、そして身形からして貴族であろう少女と、その少女に伴う侍女服を着た女性の計4人。
その4人内、魔導師の格好をしている老人と女性2人は誰もが知る存在だった。
老人の方は年老いているにしては皺が少なく、長寿でありながら若々しさが有り、老人らしい特徴の白髪と綺麗に整えられた白く長い髭を蓄えており、瞳は翠玉の如く鮮やかな深い緑色である。
紺色を基調とした魔導衣を身に纏い、肩には太腿辺りまで覆う外套、頭には鍔が広く大きな魔導帽子を被っている。そして手には上質な木から作られた程良い金と銀の細工が施された杖を持っている。
威厳ある雰囲気を纏う老魔導師の正体は、ラウツファンディル王国の英雄魔導師にして〝賢者〟の二つ名を冠する偉人――――その名はエルガルム・ボーダム。
女性の方は絶世の美女という部類に入り、綺麗に整った顔立ちは妖艶さが醸し出ており、紫水晶の様に怪しく煌めく紫色の瞳が妖艶さを更に引き立たせている。
赤紫色を基調とした魔導衣を身に纏い、肩には腰丈の外套を羽織っている。そして賢者エルガルムとは違った意匠の鍔が広く大きな魔導帽子を被っていた。身に纏うその魔導衣は全ての異性を惹き付ける魅惑的な身体の輪郭線を強調しており、特に魔導衣の胸部分を大きく突き出した豊かな胸は異性の視線を釘付けにさせてしまう。そして彼女も上質な木で作られた杖を片手に持っているが、金と銀の細工模様は賢者エルガルムの杖とは異なっていた。
妖艶な雰囲気を醸し出す女魔導師の正体は、魔法薬を初めとし、魔道具研究と製作を生業とする玄人の錬金術師にして魔道具製作者。そして〝賢者〟と並び〝錬金の魔女〟と称される詳細が謎に満ちた女魔導師――――その名はベレトリクス・ポーラン。
そんな偉人2人が姿を現せば、大きな騒めきが起こるのも当然である。
「マジかよっ!! 〝賢者〟と〝錬金の魔女〟が2人揃って来たぞ!!」
ダムクは此処に居る誰もが言うであろう驚愕の言葉を口にする。
「凄ーいっ!! 賢者様と魔女様だーっ!!」
ミリスティは偉人2人の来訪に大はしゃぎするのだった。
「初めて見たーっ!!」
「おお! これは滅多に無い偶然! 先程話に挙がっていた偉人を御目に掛かれるとは、噂をすれば影が差すというやつだな!」
ヴォルベスは強者という偉人の出現に喜び、是非とも手合わせを心の底から願い抱くのだった。
ミュフィは目を大きく見開き口を半開きの儘、言葉は発していなかった。
「ん? 後ろの娘は……、貴族令嬢か? もう1人は間違い無く侍女だし」
偉人2人と共にやって来たもう2人の女性2人の姿をダムクは視界に映した。
1人は金色の綺麗な長髪で、幼さが未だ在る整った美麗な顔立ちに、蒼玉の様な煌めきを宿す青い瞳をしている美少女だ。華奢な身体に纏う純白の襯衣の上に蒼のブレザーを着用し、裾は膝が掛かるくらい迄の蒼いスカート、肩には太腿辺りまで覆う蒼い外套を羽織っている。
貴族の令嬢が身に纏う衣服にしては質素だが、使われている素材は上質な物であるとぱっと見で判り、身形から己を傲慢に主張しない謙虚さが在ると見て取れた。
そして腰には短杖が収まったホルダーを下げている事から、彼女は魔導師であると確信出来る。
もう1人は侍女である事は間違い無い。美しい銀色のショートヘアに、美麗で大人びた顔立ち、そして金色煌めく鋭さを秘めた瞳の美女。黒色を基調とした侍女服を身に纏い、頭には侍女の白い頭飾り、スカートは脚全体を覆われ、靴だけが下から覗かせていた。
そんな美女2人の容姿と身形を確認した後、ダムクはミュフィに問い掛けた。
「なぁミュフィ、あの2人が誰か知ってるか?」
「あ、うん。確かラウツファンディル王国、王都アラムディストに住む数少ない有力貴族、フォルレス侯爵家の貴族令嬢。神聖系統魔法が使える魔導師」
「フォルレス侯爵家ってあの〝豪焔の侯爵〟と〝幻水の貴婦人〟だよね!」
「うん。その2人の娘が彼処に居る彼女」
「ほほう。賢者と錬金の魔女に続いて、侯爵令嬢とその伴いの侍女か。これはまた中々御目に掛かれない者が此処に来るとは、今日は何とも驚く日だな」
「ヴォルベスの言う通り、今日は驚く日だなぁ」
ヴォルベスの感想にダムクも共感し頷く。
「まさか魔導師の偉人2人に加えて、侯爵家の御令嬢まで現れるなん――――」
視界に映る偉人2人と貴族令嬢1人と侍女1人が受付カウンターへ進み出した後、彼等は4人の背後に居た存在が視界に姿を現した。
「――――て……」
〝堅実の踏破〟一党の4人を含む、エントランスホールに居る全ての冒険者や冒険者組合職員はその存在を目にした直後、更なる驚愕を顕にし、まるで視線をその存在へと無意識に向け、視点を固定し凝視するのだった。
「な…んだ……あれ…?」
誰かがぼそりと呟いた。
その呟きは誰もが頭の中に浮かんだ言葉。
冒険者か冒険者組合職員の者かは知らないが、その誰かの呟きが先程までとは違った騒めきが起こり、先程の空気とは別の空気へと変わった。
その存在の姿は一言で言い表すなら――――小さく奇妙な岩石の動像だ。
しかし、その姿形や骨格、姿勢は岩石の動像とは異なっていた。
その大きさは成人男性の平均身長の半分位の高さであり、全身は白色に近い灰色の岩石で構成されている。腕や脚は身体から生えているのか、それとも其々の身体の部位をくっ付けているのかは不明だ。大きな岩石の手は人と変わらない形で構成され、頭はこの世界の最強種である竜の頭に似た骨格で形成されている。
驚く点はそれだけでは無かった。
更に驚く点は、その生きた岩石の背中であった。
その背中からは小さな草原が緑鮮やかに生い茂り、小さな草原の背からは小さな神秘の樹木が生え、無数に付いている新緑の木の葉が神秘の樹木をより神秘的に引き立たせていた。
だが、その生き物の背に生えているのは小さな草原と樹木だけでは無かった。
その草原の背には、幾種もの煌めきを放つ鉱石や原石の塊が突き出し生えていた。そしてその鉱石と原石は一切の不純物が無く、まるで精錬されたか様な高純度の金属と宝石と言って良い上質な代物だった。
銅や鉄、銀に金、白金、更には真の銀と神秘の銅の貴重な鉱石が。
原石に至っては紅玉や蒼玉、翠玉に黄玉、藍玉、紫水晶、黒曜石、水晶、金剛石等といった幾種もの色鮮やかな煌めきが、その生き物の背に宿っているのだ。
これは誰もが目を奪われてしまうのも当然だ。
「あれ…、いったい何だ!? あんな生き物見た事ねぇぞ…!」
ダムクはその奇妙にして神秘的な生き物を凝視したまま口にする。
「おお……! 何と神秘的な…! あれは魔獣なのか? それとも妖精獣か?」
ヴォルベスも目を見開きながら凝視し、その姿形から魔獣なのか妖精獣なのかを考察する。
「見ろよあれ…! 背中のあの鉱石、真の銀だ! それに神秘の銅も在るぞ!」
「柘榴石…、蛋白石…、え、あれ、もしかして白金剛石!? 黒金剛石も在る!?」
ミュフィは幾種もの原石を視界に映し、1人の女性として煌めく原石に欲望が刺激され、金色の瞳を輝かせた。
「あれはまさに…〝生きた小さな宝の山〟と呼ぶべきか…」
ヴォルベスの感想に、ダムクとミュフィは頷き同感する。
しかし、ミリスティは可愛い目を大きく見開き、動揺した表情を浮かべていた。
「……嘘…! 何……あれ…!?」
「如何したミリスティ!? あれが何なのか判ったのか!?」
ミリスティの動揺した様子を見たダムクは、彼女は何かを感じ何かが解ったのではと直感し、その感じた事を聴こうと訪い掛けた。
「この感じ…、精霊獣…? 違う…、精霊獣でもない…!?」
「精霊獣でもない!? 如何いう事だ!?」
3人は一斉にミリスティに注目し、彼女の言葉に耳を傾けた。
「魔力の量と質が賢者様と魔女様を遥かに超えてる…! それも2人合わせても届かない程、圧倒的な魔力が…!」
「うっ、嘘だろ……!!?」
「何と…!! あの賢者と錬金の魔女を超える力を秘めているのか…!」
ダムクとヴォルベスは驚愕の事実に驚きの声を上げてしまう。
「でも、それだけじゃない…」
更にミリスティは言葉を続け、3人は彼女の言葉を聴き逃さぬ様に耳を傾けた。
「今迄感じた事がない魔力と気配……、凄く清らか…。神聖な魔力の気配がする…」
「えっ…!!? ちょっ、おいおいおいっ!! まさかあれ、聖獣なのか!!?」
謎の生物が神聖な魔力と気配を宿している事にダムクは更に驚愕し、ミリスティに問い掛ける。
ミリスティの修めている職業は野伏だけでなく、女魔導師の職業を修めており、野伏の特殊技能〈気配感知〉に加え魔導師の特殊技能〈魔力感知〉も有している。
その2つの感知系特殊技能の御蔭で感知対象の気配と魔力を感じ取り、大体の総合的な力量や使用傾向のある系統魔法を把握する事が出来るのだ。
故に、対象の魔力の性質と力量の感知力に関しては、同じく感知に優れた盗賊系の職業を修めているミュフィよりもミリスティの方が高く信頼性があるのだ。
「それはまさか、聖獣かもしれんあの存在はS等級程の強さを秘めてる可能性が有るという事か!!? ミリスティよ!!」
ヴォルベスも驚愕の声を上げながらミリスティに問い掛けた。
「魔力だけでもS等級は確実だよ。でも正直、あれが実際に何なのかは断定出来ないよ…。あんなの今迄見た事無いし、噂でも聞いた事も無いし」
ミリスティは困惑気味の顔をふるふると横に振り、詳しく種別の判別が出来ない故あれは何なのか断定出来ない事を3人に伝える。
「おいおいマジかよ…。有名人2人に侯爵令嬢、其処に謎の生き物が今日一度に現れるって…」
驚愕する存在が一度に今日現れた。
驚愕を通り越し、もはや笑うしかない。
そしてダムクはある予感を感じ、口を開いた。
「なあ、もしかしたらよ――――」
3人は一党代表の方へと顔を向け、ダムクはニッと笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「――――今日の予定、変わるかもしれないぜ」




