衰亡辿りし魔導学院15-6
「はい、それまでー」
13人の教師達が全員倒れ伏した後、エルガルムは模擬試合を止めた。
「勝者、シャラナ!」
そして告げられた勝者宣言が、この場の訓練所に居る全ての者の耳に響き伝わる。
模擬試合の終了し、宣言を告げたエルガルムはシャラナの下へと歩み寄り声を掛けた。
「疲れてはいないだろうが、一応お疲れさん」
「はい。仰る通り全く疲れていませんが、ありがとう御座います」
怪我無く疲労も無く余裕で勝利したシャラナは、師であるエルガルムからの労いの言葉に対し、礼儀正しく返答する。
「楽勝だったわねぇ~。ぜ~んぜん闘いにもならなかったし」
観戦していたベレトリクスもシャラナの下へ歩み寄り、つまらない模擬試合が終わった事に喜びの笑みを浮かべていた。
彼女に続きガイアやライファも、シャラナの下へと歩み寄る。
「冷静な対処、御見事でした。御嬢様」
「ンンンンンー」(お疲れー)
「ありがとう、ライファ、ガイア」
「しかし御嬢様、気絶する程度に手加減なさるのは如何なものかと。やはり致死と重傷の程良いラインの威力が、彼等に実戦の危険性をその身に刻み教えられると思います」
「え…いや、ライファ、多分そのラインでも死んじゃうと思うから…」
ライファの冗談に聞こえない言葉に、シャラナは若干笑みを引き攣らせた。
「不正をした相手に、その様な心配はする必要はありません」
(おぅ…何という無慈悲……)
彼女の意見には同意はするが、その無慈悲さにはガイアも若干引き攣った笑みを浮かべ、後退りしたくなる思いを抱くのだった。
ふとガイアは、場外を含む訓練所全体を見渡した。
視界全体に映る観戦者達――――貴族生徒達は顔を真っ青に染めた絶望の表情を浮かべていた。
上級魔導師である魔導教師13人がシャラナたった1人に敗北した光景を、一部始終全て観た彼等は頭でそれを嘘だと何度も幾度無く否定し続けるが、心は否応無しに彼等が敗北したという結果を深く刻み込まされていた。
「さて……最後の締めに掛かるとするかの」
エルガルムは倒れ伏している13人の内の1人――――ルードン学院長の下へと歩み近寄り、持っている杖で頭を小突き起こそうとする。
「ほれ、とっとと起きんか」
幾度も声を掛けながら小突くが、僅かな呻き声を口から漏らすだけで、中々気絶から覚まさなかった。
「参ったのう、これでは話が進まん」
「もうちょっと手加減すべきでしたでしょうか…」
「如何じゃろうなぁ…此奴等は脆いからのう。さて、如何手っ取り早く起こすか…」
「じゃぁ〈過剰加熱〉で軽く焼いてみる?」
「ベレトリクスさん、それは軽くじゃ済まない上位級魔法ですから。焼死体が出来ちゃいます」
(そんな軽いノリで焼いちゃアカンて……)
「え~。じゃぁ〈高圧感電接触〉で起こしてみる?」
「その魔法も流石に威力が有り過ぎるので駄目かと」
(電気ショック的な気付け方法は悪くないんだけど、流石にその魔法は死んじゃう……)
ベレトリクスの拷問的な起こす方法に対し、シャラナは口から、ガイアは内心でそれは絶対にやっちゃ駄目だと冷静に言うのだった。
「ベレトリクスよ、此奴等は脆弱なのじゃから流石に直ぐに死んでしまうぞ」
「でも起きて貰わないと話が進まないし終わらないじゃない」
エルガルムにも止められ、なら如何するのよ、と言いたげにベレトリクスは僅かに頬を膨らませる。
(ん~……)
ガイアも呆気無く倒され気絶した教師達を如何やって起こそうか、思考する。
(………あれで起きるかな? まぁ物は試しだ)
少し思考した後に思い付いたある起こす方法を試そうとしたガイアは、それを実行する前にエルガルムの袖をクイクイッと軽く引っ張った。
「ん? 如何したガイア?」
(耳、ちゃんと塞いでて)
ガイアはエルガルム達に自身の耳を塞ぎ抑える身振り手振りを見せて意図を伝えた。
(特殊技能〈豊穣の創造〉)
そして特殊技能で自身の背にある植物類を生み出した。
生み出されたその植物は人参や大根の様な根菜系で、幾枚の葉を背という地面から生え、茎の頭上部分を少し覗かせていた。
ガイアが自身の背に生み出したその植物が何なのか、エルガルムとベレトリクスは僅かの観察で理解する。
そしてガイアがその植物を生み出したその意図も。
「おっと、そうくるか。ならちょいと待っとくれ」
エルガルムは後ろへ振り向き、ある者達に声を掛ける。
「ほれ! 御主等も此方へ来なさい!」
「えっ!? え、は、はい…!」
ガイアが半ば強引に連れて来た平民の男子生徒と、模擬試合開始前に集まって居たその他の平民出身の生徒達をエルガルムは手招きする。
賢者の呼び掛けに、平民の生徒達は慌てて駆け寄り集まって行った。
「これで全員じゃな。では、〈防音障壁〉」
エルガルムは自身を中心に音を隔てる防音結界魔法を展開し、ガイア、ベレトリクス、教師13人、他の貴族生徒達を除く集った者達を囲い包み込んだ。
「これで良し。何時でも良いぞ!」
当然、外側だけでなく内側からの音を伝える空気の振動も防いでしまう為、ガイアとベレトリクスにはエルガルムの声は一切伝わらない。無論それを知っているエルガルムは親指を立てた握り手を高く上げ、ガイアとベレトリクスに合図を送る。
「オッケー」
エルガルムの合図を視認したベレトリクスも親指を立てて了解の意を伝え返した後、ガイアの下へ近寄る。
ベレトリクスはガイアの背に生えたある植物に手を伸ばし、引き抜こうと――――。
「おっと、その前に」
――――する前に、自身とガイアに〈防音膜〉を施し、予防を張った。
「そんじゃ、行くわよ~」
ベレトリクスはニヤッと悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、躊躇い無く引っこ抜いた。
「ほい」
ガイアの背に生えた植物が引っこ抜かれた直後――――
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー!!!!」
大絶叫の如き超大音量の金切り声が、魔導学院全体に響き渡る。
「ぎゃあああああああああー?!!!」
超大音量による強烈な金切り声に、教師達は堪らず気絶から覚まし、反射的に耳を塞ぐ。
意識を無理矢理起こされた教師達に限らず、貴族生徒達も超大音量で響き渡る金切り声に堪らず耳を塞いでいた。
「おお、こりゃあ凄い凄い。まさに阿鼻叫喚じゃな」
エルガルムは防音結界魔法の中から、精神に支障を来たす程の金切り声に苦悶する彼等の様子を暢気に傍観する。
そんな彼とは別に、平民出身の生徒達はその苦界の如き光景に、顔を引き攣らせる。
無論、シャラナも「うわぁ…」と哀れみの呟きを漏らし、同様の表情を浮かべていた。
凄まじい金切り声を上げているもの正体――――それはマンドレイクと呼ばれる魔物に部類する薬草物である。
ガイアによって生み出されたマンドレイクは、ベレトリクスに引っこ抜かれた際に反射的絶叫を上げたのだ。
「いぎゃああああああああああもう止めてくれええええええぇぇぇ!!!」
未だ響き続く何かの大絶叫に教師勢と貴族生徒達は力の限りに手で耳を塞ぎ、叫ぶのを止めてくれと必死に願い叫ぶ。しかし、その叫びは何かの金切り声によって掻き消され、願いは誰にも届く事は無かった。
「ほんじゃ、ちょっとした薬草学でも教授しようかの」
そんな中、エルガルムは講義を始め出す。
「あの奇怪な根茎に目と口が付いた薬草は、マンドレイクと言う。名称だけでも聞いた事がある者も居るじゃろう。マンドレイクの根には複数の毒性が含まれており、興奮や錯乱、幻覚や昏睡、呼吸障害などの様々な症状を起こし、少しでも過剰に摂取すれば死に至ってしまう。じゃがその毒性も使い方次第で薬にも成り、古き時代では解熱や鎮痛などの薬用として使われておった。今では様々な効能を持つ魔法薬の材料として幅広く使われておる」
突如と始まった賢者エルガルムの講義に、平民出身の生徒達は少しまごつくが、滅多に聴けない有意義な講義に誰もが身を入れ聴き入るのだった。
「そしてマンドレイクを採取する際の注意点じゃが、あの様に引っこ抜くと精神的苦痛を齎す絶叫を上げるから、引き抜く際は防音性の良い耳栓や〈防音膜〉といった魔法をしてからする様に。何方も無い場合は長ーい縄に括り付けて、遠くから引っこ抜けば大方大丈夫じゃろう。ああそれともう1つ、マンドレイクは植物系の魔物に属しておる。時折地中から這い出てうろついたりする。その時に遭遇しても絶叫を直ぐには上げないが、自身を害する敵だと判断すれば、即座に絶叫を上げるから気を付けるようにな」
エルガルムのちょっとした講義が終わる頃に、マンドレイクの金切り声は治まり、静寂がその場の空間を支配する。
マンドレイクは叫ぶ事に疲れたのか、将又は満足したのか、不気味なくらいに大人しく為り、ベレトリクスの手中でくたっと脱力状態と為った。
教師達は目が覚めたものの、ふらふらとした状態である。
何とか立てた者や、両膝を付け思う様に立てないといった者達で溢れ返っていた。
肉体的というより、精神的疲労感に苛まれてる状態だ。
そしてそれは教師勢だけでなく、マンドレイクの絶叫に巻き添えを喰らった貴族生徒達も同じ状態であった。
そんな教師達と貴族生徒達が視界に広がる光景は、例えて言うなら呻き声を漏らす動死体の群れと言うべきか。
(ん~……凄い威力…)
変な意味で悲惨な光景を視界に入れるガイアは、硬い岩石の頭をポリポリ――――いや、ゴリゴリと掻くのだった。
(まぁ、いっか。おーい、皆起きたよー)
ガイアは後ろへと振り返り、エルガルム達にもう結界を解いても大丈夫だと手を振り知らせる。
ガイアのその様子を視認したエルガルムは、防音結界を解いた。
「いやー凄い凄い。効果は覿面じゃのう」
エルガルムは笑いながらガイアとベレトリクスはの下へと歩み、気絶から覚めた教師達へと視線を動かす。
「さて、勝敗の結果は言うまでも無かろう」
聞き入れたくない言葉を耳にした教師達は、絶望の表情を浮かべる。
「ま…まっ、待ってくれ…! いや、待って下さい! エルガルム様!」
自分の杖にしがみ付く様に己の身体を起こそうとするが、力が入らず、両膝を地面から未だに上げる事が出来ずのルードン学院長が必死に嘆願を乞う。
「わ、我々は…そ、そう! 我々は手加減していたのです!」
明らかな嘘だと判る虚偽の言葉を口にし出したルードンに対し、エルガルム達は僅かに顔を顰める。
「手加減しなければ彼女の身が危険だった! そう、つまりは上級魔導師である我々が、彼女に敗北する事は本来有り得ない事なのです!」
必死な顔に引き攣った笑みを浮かべ、自分達は本気など出していないと苦しい言い訳をルードンは口にする。その他の教師達も引き攣った笑みを浮かべ、学院長の言う通りだと何度も頷く。
結局、彼等は敗北を認める気は無かった。
しかし、彼等の明らかに嘘の言葉は非常に脆い。
そんなルードンの言葉を砕く言葉が飛んで来た。
「あんた等は兎も角、シャラナは最初っから手加減してたわよ」
「……え?」
ベレトリクスから発せられた言葉に、教師達は表情を引き攣った笑みのまま固まった。
「だから、シャラナは手加減してたって言ってるのよ」
「そ、それは幾ら何でも嘘である事ぐらい判りますよ。ベレトリクス様」
「そうですとも。あれ程の威力の魔法が手加減しているなど、流石に有り得ないでしょう」
自分達の都合の良い見解で口にする教師達に対し、ベレトリクスは苛立ち僅かながら殺意を抱くのだった。
その苛立たせる表情を恐怖に染めてやる、と。
「…じゃぁ嘘じゃないって事を見せて上げようじゃない。シャラナー、系統は何でも良いから攻撃系の魔法見せて上げなさーい。出来るだけ威力が高い魔法ねー」
「あ、はい。んーっと…」
ベレトリクスに高威力の魔法を行使するように促されたシャラナは、何を発動ささせるか少し思考し、習得し有している幾つもの魔法から選択する。
「これで良いかな? ―――〈竜巻〉」
取り敢えず得意な風系統で中位級魔法を頭の中から選択し、人が居ない開けた場所へと魔法を発動させた。
「………!!!」
教師達や多くの貴族生徒達、そして幾人かの平民生徒達は声にならない驚愕の声を発し、眼球が零れんばかりに目を見開き、シャラナが魔法で作り出した渦巻く巨大な風を視界全体に映す。
ごうごうと大気を重く鳴り響かせ、暴風の如き荒れ狂う風力で渦巻く気流の柱――――竜巻が突如として発生した。
因みに、この強烈な旋風を発生させる魔法は中位級であり、上位級魔法ではない。あくまで旋風がより強力な旋風と成ったもので、中位級の中では上位の威力を誇る広範囲型魔法である。
「如何ぉ? 馬鹿なあんた等でも流石に理解出来た? 試合中に使った〈暴風〉と比べる迄も無いでしょ」
酷く驚愕している教師達に対し、ベレトリクスはニヤニヤと悪戯っ子の笑みを向けた。
「あんた等が今此処でアレ出来たらさっきの手加減してたって空言、信じて上げても良いわよ」
出来るものなら遣ってみろという嫌みたらしい言葉を、教師達はベレトリクスから投げ付けられた。
しかし、ルードンが口にした言葉を証明しようと、彼女が発動させた魔法を自分も発動させようとする者は誰も居なかった。というよりも、出来る者が誰1人居ないのだ。
故に教師達は証明すら見せる事が出来ず、言い返す事も出来ず、ただ黙るしかなかった。
「あらぁ~? もしかして出来ないの~? 上級魔導師なのに~?」
ベレトリクスは言い返せず黙り込んだ教師達を、容赦無く嘲り嗤う。
「さっきの試合中ずっと手加減してたんでしょ~? だったら本気出せば中位級の魔法くらい使える筈よねぇ~? 上級魔導師なんだから~」
痛い所を突かれ抉られる教師達は顔の表面に冷や汗を滲ませ流し、もうこれ以上は止めてくれと、心の底で悲鳴を上げるのだった。
「証明出来ないって事は…さっき言った事は嘘って事ね~。ヤダ恥ずかしー。魔導教師なのに元生徒に負けた事実が認められなくて、手加減した何て嘘吐いちゃうんだ~」
「う……く……」
嘲笑による正論を浴びせられる教師達は、色濃い苦悶の表情を浮かべる。言い返したいという悔しさと苛立ちが沸々と内心から湧き出るが、言い返す事が出来なかった。
もし言い返せたとしても、その言葉は余りにも薄っぺらく、脆く、反論としての強みは皆無である。
「それで不正までして負けたんだから、余計恥ずかしいわよねぇ~」
「…!!!」
教師達はゾクリと背筋を凍らせ、苦悶の表情に恐怖の色が混じり込んだ。
「ふ、不正などしていないっ!!! 証拠も無しに…そ、その決め付けは如何なものかとっ!!!」
そこにポルゼが声を上げ、必死な形相で不正に対し強く否定をする。
「そっ、そうだ! 我々は不正などしていない!!」
「模擬試合での規則は何1つ破っていない!」
「杖だって、今回に限っては使用して良いとされてるから、これも不正ではない!」
ポルゼの強い否定の言葉に勇気付けられたのか、他の教師達も次々と傲慢で怠慢な威勢を取り戻し、我々は不正などしていないと吐き出す。
彼等は愚かにも気付いていなかった。
その否定が自らの首を絞める言動である事に。
「皆の言う通り、我々は不正などしていない! する訳が無い!! 魔導教師の誇りに賭けて誓っても良いでしょう!!」
そして遂にルードンは、墓穴を掘る言葉を口にしてしまった。
それも誇りに賭けてと誓ってしまった。
それが自ら逃げ場を捨てるかの様に消してしまうのだった。
ルードンは自ら墓穴を掘った事に気付いていない。そして他の教師達も、ルードンが言い放った言葉が墓穴を掘る言動である事に気付く事は無かった。
「そうか……決して不正していないと誓うのじゃな?」
「勿論です!! エルガルム様!! 嘘など一切有りません!!」
エルガルムの真偽の問い掛けに、ルードンは愚かにも言い切ってしまうのだった。
「……ではその真偽を明らかにしようかの。おーい、出て来て良いぞ!」
エルガルムが誰かを呼ぶ為に声を上げた直後、訓練所場外から幾多の人が突如と現れた。
「魔導師団…!!? 何時の間に…!?」
魔導師団の登場に、エルガルム達を除く訓練所に居る全ての者達がどよめき騒めく。
「全て観させて貰ったぞ、ルードン」
「クロクタス魔導師団長…!」
魔導師団長までもが現れた事に、ルードンを含む教師全員は驚愕の表情を浮かべた。
現れたフォビロドは外套に身を包み、顔が見えない位に頭巾を深く被る2人を伴い、教師達の下へと近寄って行く。
「上級魔導師と自ら名乗って置きながら、彼女1人相手に13人がかりで挑んだ挙句敗北し、その敗北すら認めないとは……何と不快な事か」
冷徹な視線を向けながら冷徹な言葉を、フォビロドは教師達に浴びせる。
「低位級魔法の発動が余りも遅い。威力も弱過ぎる。発動出来ても不安定。上位級以前に中位級の魔法すら使えないとは、それでよく堂々と上級魔導師と名乗れるものだな」
そしてフォビロドは、更なる冷徹な言葉の槍を教師達に投じ突き刺す。
「しかも不正をしても勝てず、無様に敗北するとはな」
「でっ、ですから我々は不正などしていない!!」
「言っただろ、全て観させて貰ったと」
そう告げた後、フォビロドはある魔導師団員8人をこの場に呼び出した。
場外から呼ばれた魔導師団員8人が、縄で縛った貴族生徒を其々引っ張り出し、フォビロド魔導師団長の下へと集い、連行した貴族生徒8人を教師達の前に突き出す。
「今回の模擬試合で場外から拘束系魔法〈石塊の拘束〉〈鉄鎖の束縛〉〈拘束魔法陣〉を放ち、彼女を妨害しようとしたお前達の協力者だ」
教師全員は協力者の貴族生徒8人を目の前に出され、追い詰められてしまう。
しかし、それでも教師達は言う。否定する。
「我々はしていない!! 証拠が無い!! それにもし彼等がやったとしても、我々は無関係だ!!」
「なら証拠を見せよう。お前達の不正を」
フォビロドは先程呼んだ魔導師団員8人に指示を出し、それに従い魔導師団員8人は首に身に付けている下げ飾りを片手に取り、一斉に起動させた。
下げ飾りから映し出された其々8つの映像には、連行して来た貴族生徒――――1つの映像に付き1人――――が映り、場外から妨害支援をする様子がはっきりと撮られていた。
「これは完全な妨害行為だな、ルードン」
「しっ…しかし、これが我々が不正をしたいう証拠にはならない! 無関係だ!」
「では、これは如何説明する?」
フォビロドは冷徹に言った後、もう1人の団員に監視目の下げ飾りで撮った不正証拠を映し出せと促し、促された団員は下げ飾り型マジックアイテムを起動させ、教師達の少し前の映像を見せた。
それを見せられた教師全員は顔を青ざめ、否定の言葉が失うのだった。
何も無い中空に映されたのは、教師達が貴族生徒に協力を頼み込む様子であった。そして教師達と貴族生徒の音声が流れ、不正に関する会話内容が、この場で駄々洩れバラされるのだった。
「如何見聞きしても、此処に連行した貴族生徒に不正の協力を求めてるな。そして不正支援による妨害行為をさせた」
これで不正が1つ、完全に発覚された。
「如何だ? これでも未だ不正をしていないとほざくか?」
教師達は色濃い絶望の表情を浮かべ、嘘という否定の言葉を発せなくなった。
「後もう1つの不正も、この場で見せて貰うぞ」
絶望に打ち拉がれる教師達の様子など構わず、フォビロドは魔導師団員達に命令を下す。
「魔導教師全員を取り押さえろ!」
「はっ!」
フォビロドの団長の命令に、団員達は教師全員を迅速にその場で取り押さえた。
「なっ、何をする?! 放せ!」
取り押さえられた教師達は必死に抵抗する。しかし、魔導師団員達と教師達との身体的能力の差を比べれば、教師達の方が圧倒的に脆弱である為、殆ど動く事など出来る訳が無かった。
「良し、では確認しろ!」
団員達は次の命令に従い、教師達の身体検査を開始した。
「やっ、止めろっ! 放せ!」
教師達の乱暴な嘆願など聞き入れずに無視し、団員達はある物を探る。
そして時間は30秒も掛からず、教師達から不正の証拠と成る物が晒された。
衣服の下には下げ飾りと腕輪の魔法装身具、そして腰の後ろに付いていた革製小袋からは魔法薬と魔法の巻物が入っていた。
(うわ~、思ったよりも結構隠し持ってる~)
不正などしていないと誓っていながら、煌びやかな不正を身に付けていた教師達に対し、ガイアは軽蔑の視線を送る。
「先程エルガルム様にお前はこう言ったな。我々は不正などしていない、する訳が無い、魔導教師の誇りに賭けて誓っても良い、と」
フォビロドは蔑みの感情を込めた冷徹な目で、取り押さえられた状態の教師達を睨む。
「これは魔法速動化の下げ飾りか。此方は魔力増幅の腕輪。魔力回復薬に魔力活性薬、中位級魔法の巻物もか」
フォビロドは次々とマジックアイテム類を1つ1つ手に取り、全て確認し終えた後、再び蔑みを込めた冷徹な視線を教師達に向け直す。
「何が誇りに誓ってだ。完全に不正しているではないか」
冷ややかな声音でフォビロドは、教師達に正当な侮蔑の言葉を送る。
「発動速度を上げてあの遅さ、魔力を増幅させてもあの低威力、永年自らを一流魔導師と名乗っていながらあの実力。あの反逆者と同様、魔導師として実に無能だな。魔力が無くなる事を想定して魔力回復薬を持ち込んだのか? フン、魔力が尽きる前に遣られるのだから意味が無いだろう。それに魔力活性薬と魔力増幅の腕輪の効力と重複しようが、碌に魔力の操作制御が出来んお前達では僅か程しか魔力は強化されないだろう。しかも、よりにもよって魔導師同士での試合で魔法の巻物を持ち込むとは、恥知らずにも程がある。魔法を競う目的での試合で魔法の巻物の使用は論外であるのも知らんのか?」
そして次に送る言葉には、静かな怒りが込められていた。
「お前達は不正などしていないと…エルガルム様に誓ったな。エルガルム様に先程の偽りの誓いを口にするとは良い度胸だ! この愚か者共が…!」
冷ややかで静かな声音ではあるが、その声に怒りが込められている事は教師達だけでなく、観戦者としてその場に居合わせていた貴族生徒達にも理解し感じ取れていた。そしてフォビロドの威圧感のある眼力に教師達は恐怖し、決して受け入れたくない無様な敗北の結果に苦悶するのだった。
これで2つの不正が発覚した。
敗北に加え2つの不正、もはや教師達は何も反論する事は出来ない。
敗北という結果と2つの不正発覚――――無様と卑怯者という汚名が、彼等教師に生涯付き纏う。
それをどんなに認めないと否定しようが関係無い。
それ等の結果全てが、この場に居る全ての者の記憶に刻まれるのだから。
卑怯な敗北者がどんなに自分が選択し招いた結果を否定しても、関係無いのだ。
「じゃっ、約束通りこの学院は撤廃させて貰うからな」
エルガルムはノリの軽い口調で、教師達に黒く甘い人生の終わりを告げた。
しかし――――
「………認めない」
「何…?」
「認めないぞっ!!! 我々は敗北などしていないっ!!!」
(……は?)
ルードンは叫び、訴え出す。
ここまで不正を明らかにされたにも関わらず、為出かした不正に対しルードンは再び否定と訴えを叫び出した。
その往生際の悪さには、ガイアもエルガルム達もポカンとした表情を浮かべてしまうのだった。
「我々が敗北する事など有り得ないのだ!! 我々が勝利して当然の試合なのだ!!」
「そうですぞ! 寧ろ彼女の実力が余りにも強い事自体が不自然ですぞ!」
「その通りだ!! 上級魔導師である我々の魔法よりも威力が高いのは、明らかに怪しいぞ!!」
「そうとも! 才女といえど元生徒、あんな高威力の魔法を使える筈が無い! 何かのマジックアイテムによる恩恵によるものとしか思えない!」
ルードンの愚かな訴えに続き、他の教師達も無茶苦茶なこじつけを吐き出し、騒ぎ立て始めるのだった。
そんな彼等に対し、エルガルム達やフォビロドを含む魔導師団の者達は生じた苛立ちを燻らせた。
(嘘だろ……不正が発覚してる上で負けたのに、此処まで来て言い掛かりを付け始めたぞ、此奴等……)
醜く愚かな言い掛かりを恥ずる事無く吐き出す教師達の醜態を目にしたガイアは、苛立ちを通り越し、余りにも自分都合でしか愚考しない彼等に対しドン引きするのだった。
もはや貴族の気品というものは無い。
誇りも皆無。
有るのは強欲が混じった傲慢だけ。
彼等は地位という黒く濁った甘い人生を謳歌する事しか考えない。
彼等は有する権力を、薄汚い欲望を満たし続ける為だけにしか振るわない。
だから彼等は、己にとって都合の悪いあらゆる物事全てを受け入れず、認めようとはしない。
そう醜く騒ぎ立て無茶苦茶な抗議を吐き出す教師達に、とある人物の声が投じられた。
「見苦しいぞ! お前達!」
外套に身を包み2人の内1人が深く被っていた頭巾を脱ぎ、隠していた素顔をこの場に居る全ての者達の前で明かした。
教師達はその顔を見た瞬間、驚愕の表情を浮かべた。
「バっ…バルディス王子殿下…?!!」
教師達に限らず、全ての生徒がバルディス王子の登場に驚愕する。
「い…何時から此処に…!?」
「模擬試合が始まる前からだ。私も一部始終全て観させて貰ったぞ、ルードン学院長」
「ちっ…違うのですバルディス王子殿下! 我々が学院撤廃を反対しているのは、この国の未来の為を思って遣った事であり――――」
「口を噤め!!」
バルディス王子の一喝に、ルードンは口を閉ざされ委縮した。
「賢者エルガルム様に対し偽りの誓いをほざき、更には彼女に対し実力や不正の疑いを掛けるとは無礼にも程がある! 明らかな不正を為出かしたお前達に、その様な発言をする資格も権利も無い! この魔導師の恥晒しが!!」
バルディスの鋼の怒声に、教師達は面を恐れの色で染める。
「それに何だあの魔法発動の遅さは! あれでは敵にとって良い的ではないか! 発動する前に何も出来ず、あっという間に魔物共に蹂躙されるのが目に見えるだろう! しかもお前達が発動させた低位級魔法、あの余りにも低い威力も何だ! あんな脆弱な威力でゴブリンを一撃で倒せると思っているのか! 魔力の操作も制御も真面にこなせないで、よく上級魔導師と名乗れたものだな! シャラナよりも実力が劣る私1人でも、お前達13人に難無く勝ててしまえるぞ!」
バルディス王子の指摘される教師達は俯き、泣きそうな絶望の表情を浮かべながら、如何すれば、如何すればと、私利私欲に塗れた脳味噌で思考する。決して浮かばない己にとって都合の良い妙案を。
「お前達に魔導教師と名乗る資格は無い! そして父上が提示した学院に対する規定への返答規定期日を4ヶ月をも無視し続けたその行為、反逆とも取れる罪に値する! 更に今回の模擬試合で勝てば是迄通りに学院は運営、負ければ撤廃という条件をお前達は呑み、不正して尚敗北した! 最早この学院を撤廃する正当な理由も条件も得た! もうお前達の下らない言い分は聞き入れん! 学院撤廃は決行する!」
バルディスは学院撤廃の宣言を、この場に居る全ての者に鋼の声を以て告げた。
王子であるバルディスの発言力は比べるまでも無く、どの貴族よりも圧倒的に高い。
しかし、ただ宣言するのでは意味が無い。その場その時の状況に対応し、誰もが法的理論的に納得する材料が必要不可欠だ。そしてその発言力は、身分によって大体決まると言って良い。例えるなら、平民の発言では軍隊を動かせないが、貴族の発言でなら軍隊は動かせるといった単純な事だ。
そしてもう1つ発言力を強くするもの、それは発言者が信頼されているか如何かである。
世間で信頼の無い者の発言に対し、誰も耳を傾けてくれないものだ。たとえ高い地位や権力を有していても、逆にそれがマイナス要素と成り、世間からの信頼度がゼロを突き抜けたマイナスという悪い印象に成ってしまう。
元伯爵貴族だったデベルンス家が良い例だ。
バルディス王子は王族という身分の頂点に位置する存在であり、ラウラルフ国王と同様に国民達に充分と言える程の信頼を得ている。この2つのプラス要素が王子としての発言力を高めているのだ。
そんな彼の発言に対し、愚かな反論を口から吐き出す者は居る筈が無い。その様な反論を王族の前で口走る事は、内容次第では重罪と成り、場合によっては反逆の意志が有ると見做される。それは全ての貴族が知っていて当然の事である。
――――その筈だった。
「………横暴だ!」
「何だと?」
貴族である彼等教師達も、王族の発言に対する邪な反論は口にしてはいけない事を知っている。
だが、彼等の頭の中は私利私欲という濁りに濁り切った黒一色で全て染め上がっており、理性的な判断機能は壊れ、薄汚い欲望のみが思考を完全に支配してしまっていたのだ。
「横暴だぁああっ!!! 我々の意思を無視して学院撤廃するなど、横暴の極みだぁああっ!!!」
ルードンは逆ギレを起こし、王族であるバルディスに無茶苦茶な反論を口から吐き飛ばした。
「王権乱用だっ!!! これは明らかにバルディス王子の身勝手な独断だ!!!」
(……は?)
余りにも筋が通らない暴論を吐き出したルードンに、ガイアは呆然とし、その直後に苛立ちが芽生え僅かに顔を顰めた。
それはガイアに限らず、エルガルム達もガイア同様の心境を抱き、顔を僅かに顰め、軽蔑の眼差しを暴言者に向けた。
「そうだ!!! ルードン学院長の言う通りだ!!! 学院の撤廃決行など横暴だ!!!」
「幾ら王族だからといって、それは余りにも勝手だ!!!」
「この国の誇りである魔導学院を潰すなど、王子として有るまじき行為だ!!!」
ルードンだけでなく、他の教師達もバルディス王子に対し暴論を吐き飛ばし始めた。
教師達の暴論に釣られ、貴族至上主義の生徒達も騒ぎ立て、訓練所一帯の空間が学院撤廃反対の声が煩く響き渡る。
(此奴等……馬鹿過ぎる…。自分達の状況解ってて言ってるのか…?)
暴論を口にし騒ぎ立てる教師達と、それに乗っかり調子付く貴族生徒達の余りにも愚かさと醜さを目にし耳にし、ガイアは苛立ちと不快感、そして僅かな驚きが混ざった何とも言えない感情を抱いた。
(何処が横暴だよ。何が勝手な独断だよ。寧ろ不正してたお前達が何言ってるんだよ)
そんな彼等の醜い様と愚かな暴言に対し、バルディス王子は平静にこの場に居る全ての者に届く様に冷徹な言葉を発する。
「残念だが学院撤廃は正当な決定であり、横暴に該当しない! それに4ヶ月もの間、父上からの王命を無視し続けたお前達に勝手呼ばわりされる筋合いなど無い!」
「それは…!」
「学院の存続を賭けてシャラナと勝負し、敗北すれば学院を撤廃を認める事を容認しただろう! そしてお前達は13人掛かりで彼女に挑み、敗北した! 不正を為出かして尚敗北した!」
「違う!!」
「何がだ!! 不正の証拠と敗北、模擬試合の一部始終全て映像に記録しているのだぞ!」
「それは偽装された映像だっ!! その映像が偽りの無い証拠が無いではないか!!」
「ならば逆にこれが偽装映像である事を証明してみろ! そして証拠映像以前に、お前達が不正で隠し身に付けていたそれ等のマジックアイテムは如何説明する! それだけでもお前達が不正したという事実ははっきりと出ている!」
教師達の一切筋の通らない反論は、バルディスの威厳ある声から発せられる正論に尽く捻じ伏せられる。捻じ伏せられれば捻じ伏せられる程、教師達の苦悶の表情はより色濃く染まっていった。
「約束は守って貰うぞ! そして私から、父上からの王命をお前達に告げる! バーレスクレス魔導学院に提示した規制を設け、在籍する全ての貴族魔導師は貴族至上主義の意識を捨て、身分差別を改善し、魔導師としての努力と研鑽をせよ! しかし、この提示した規制を受け入れない場合は魔導学院其の物を撤廃する!」
バルディス王子から告げられた言葉は教師達――――いや、この場に居る貴族至上主義の貴族達にとって、それは己の黒くネットリとした甘い人生の崩壊を告げる絶望の言葉である。
「王命も敗北も受け入れないのならば、これ以上お前達の返答を待つ義理も聴く義理も無い!」
そしてバルディスは威厳満ちた声音を更に大きく上げ、全ての者に告げた。
「では直ちに、学院に在学する全ての者は此処から立ち去れ! 全員が去り次第、撤廃作業を開始する! これは命令として伝える! 今直ぐに全員此処から退去せよ!」
学院に在籍する全ての者は、バルディス王子の下した命令にどよめく。
貴族生徒達は此処から出ようとせず、動こうともしなかった。
明らかに王族の命令に従わない様子に、フォビロドは苛立ちを面に浮かべ、怒声を上げた。
「何をしている!! バルディス王子殿下の命令に背く気か!!」
フォビロドの憤怒の声を聞いても尚、彼等貴族生徒達はどよめき続け、嫌々な表情を浮かべ、未だに動こうとしなかった。
そして、余りにも愚かな発言がある人物の口から発された。
「……聴き入れられません! バルディス王子殿下!」
その発言者――――ルードンが身分の頂点である王族のバルディス王子に対し、謀反の言葉を俯いたまま吐き出したのだ。
「貴様!! それは反逆の意志有りと見做す発言だぞ!!」
王子に対する謀反の発言に、フォビロドは目付きを鋭くした憤怒の表情を顕にし、発言したルードンに怒声を浴びせた。
それに対し、ルードンは俯いていた顔を上げて反論を口にし出す。
「国王陛下の王命ならば聴き入れましょう…! ですが、王子殿下の言葉は王命ではありません! であれば、我々の先程の発言は謀反にならない! 真っ当な発言です!」
顔を上げたルードンの表情は引き攣った下卑た笑みが浮かび、自分達は何も悪くない、何も間違った事は言っていないと、開き直った様な不快感を抱かせる腹立たしい顔をバルディス王子に向けるのだった。
(うわぁ~、すっごいムカつく顔~)
ガイアを含むエルガルム達や平民の生徒達も、彼が晒している表情を見て大きな苛立ちや不快感を抱いた。
「国王陛下自らの王命でしたら勿論聞き入れましょう! ですが、未だ国王ではないバルディス王子殿下の命令は王命ではありません! ですから我々は、バルディス王子殿下の命令に従う義務など無いのです!」
(いやあるから)
完全に筋違いの発言を、ルードンは愚かにも僅かに混じる嫌味ある声音で正論だと吐き出す。
王子に対するその発言が暴言であり、重罪にして反逆の愚言である事を彼自身が理解しているか如何か判らないが、そんな事など御構い無しに躊躇い無く、恥すら抱かずに。
「そうだ!! 王子の命令を聴く必要は無い!!」
「そうとも!! 国王ではない王子の命令は王命ではないのだから!!」
他の教師達も同様に、そんな筋の通らない発言を恥じる事無く言い放ち出す。
そんな彼等の反論という愚かな発言が通るのか。
否。決して通らない。通る訳が無い。
バルディス王子は苛立ちを心の内に隠し、毅然とした態度を保ちつつ、平然と眼前に居る醜態を自ら晒している教師達に向かって冷徹な言葉を告げる。
「残念だが、お前達のその言い分は決して通らない。それに言った筈だ、下した命令は私自身の命ではなく、父上の王命であると」
「例えそうだとしても、王子殿下のからの言葉である事に変わりません! なので我々は従う必要は無いのです!」
バルディス王子の言葉に教師達は頑なに従わないと言い張り、己が私利私欲の人生を満たす薄汚く甘美な学院を護ろうと学院撤廃決行を阻止しようとする。
「……これが最後だ。もしお前達の前に父上自ら王命が下されても尚、背くというのだな?」
一瞬、教師達は僅かな苦悶を浮かべ言葉を詰まらせたが、直ぐに僅かに下卑た笑みへと戻す。
「例え、王命であってもです!」
学院の教師代表としてルードンは安易に答えてしまった。
「……重罪にして反逆者と成ってもか?」
「どんなに言われようとも、我々は王子殿下から仰られた国王陛下の王命には従いません!」
何故ルードンはこうも安易に答えてしまったのか。
その理由は相手が国王ではなく王子である事と、王命は国王の言葉であり王子の言葉ではないからだ。
だからルードンは安易な思考で安易な答えを出してしまった。
国王ではない王子相手ならば、従う義務は無い。
だから王子が国王陛下の王命を自分達に告げても、王子のその命令に背いても重罪と見做されないと、最後まで都合の良い考えでしか物事を捉えていなかった。
そんな教師達にとって不穏な言葉が、バルディスから発せられた。
「――――だそうです、父上」
一瞬、教師達は困惑の表情を浮かべたが、フォビロドの隣に居るもう1人が頭巾を脱ぎ、隠していた素顔を明かした。
その者の顔を見た直後の教師達の表情は、驚愕の色へと一瞬で変化し、心に大きな恐怖を抱いた。
「こっ……国王陛下…!!」
「久しいな、ルードン」
ラウラルフ国王の登場に驚愕し恐怖する教師達に対し、ラウラルフは冷徹な目で彼等を睨みながら、冷ややかな鋼の声音でルードンの名を呼んだ。
「今回の件、全て観させて貰った。そして、今の言葉を含む全てを聴かせて貰った」
バルディス王子の言葉より重圧のある国王の言葉に、教師達は顔を真っ青に染め、抱いた恐怖は更に大きく膨れ上がった。
「我が王命に背くとは、随分と偉くなったものだな」
「ちっ…違うのです、国王陛下っ!! 先の発言は誤解ですっ!!」
ルードンは慌てながら、先程まで堂々と吐き出していた暴論を自ら強く否定する。
「先の発言を誤解とほざくか。ならばその誤解を如何説明するのだ?」
「そっ…それは……!」
しかし、自ら吐いた暴論の否定――――誤解を如何やって嘘の言葉で解こうかとルードンは必死に思考するが、頭の中は完全に恐慌一色に染まってしまい、国王が納得する嘘偽りの言い訳は何1つ浮かばなくなっていた。
いや、この状況で浮かんだとしても、それ等は何1つ通用しないだろう。
言葉を完全に詰まらせているルードンを含む教師達に対し、ラウラルフ国王は更なる言葉で、教師達の大きく薄っぺらな傲慢な精神に追撃する。
「国の未来の為とお前達は言ったな。ならば何故永年に渡り、この学院から優秀な魔導師が1人も輩出されてないのだ? まさかそれがお前達の言う国の未来の為なのか?」
国王の冷ややかで僅かに含み混じる憤怒の言葉に、教師達は何も反論が出来ず、ただ黙るしかなかった。
「王命を無視し背くだけでなく、エルガルム殿との約束をも破った時点でお前達は既に重罪だ。それに今回の件以外でも、お前達は既に罪人と決定なっているがな」
「我々が既に罪人!? それは如何いう事ですか…!?」
国王の告げられた事実に教師達は困惑する。
「クロクタス、例の物を見せてやれ」
「はっ!」
お前達は既に罪人だと告げられ困惑する様子の中、ラウラルフはフォビロドに説明するように促す。
そしてフォビロドは空間魔法で仕舞っていた紙の束を取り出し、教師達に突き出す様に見せ付ける。
「これが何なのか分かるか? 教師諸君」
「そ……それは…?」
「是迄の違法物の取引、己の実力記録の改竄などをしていたお前達の罪状だ」
それを聞いた直後、教師達は絶望で背筋を凍らせ、青ざめた顔をより真っ青に濃く染めた。
「お前達がダダボランと共謀していた事実は、捕らえた〝背徳の金鼠〟から全て聞き出した。そしてダダボランに限らず、在籍している生徒の各貴族家から賄賂を受け取り、実力試験をしないまま高成績として実力結果を改竄して入学させていた事実もな。そして受け取った多額の賄賂を違法物を含むマジックアイテム類、酒、女に使っているそうだな。違法物の取引はダダボランに〝背徳の金鼠〟を紹介して貰った事から始まったそうだな。酒と女に関しては酒場から、大多数の民の目撃情報と苦情証言が上がっている」
フォビロドは次々と教師達の不正の事実を告げ、教師達はもはや反論する気力すら失せてしまっていた。
絶望の表情を浮かべた儘、ただ棒立ちした儘、黙って聞き続けるしかなかった。
「ここまでの罪を犯している時点で、国王陛下の王命などお前達には関係無いのだよ。そんな罪人共を教師として任せられる訳が無い。解るか? 先の模擬試合すら、本来行う必要も無かったという事だ」
学院に対する改正規定という王命無視、模擬試合での不正行為、この2つの内何方か1つだけでも学院を撤廃する充分な理由になる。だがそれ以前に、是迄隠れて行っていた賄賂、改竄、違法取引、器物損壊、セクハラ等の罪を犯している。
彼等教師達には端から、学院撤廃に対して反論する権利など無いのだ。
「さて…これでお前達の今の現状は理解出来たかな?」
ラウラルフ国王の問い掛けられた教師達は、眼前に迫り来た真っ暗な未来を無意識に想像し、心を絶望で凍て付かせ、不安定な精神状態が全身を小刻みに振るわせた。
そして、ラウラルフは威厳ある鋼の声を以て彼等教師達に絶望の未来を宣告した。
「ルードン魔導学院長及び全魔導教師に告げる! 我が王命に対する反抗、裏での賄賂による実力記録の改竄、犯罪者組織〝背徳の金鼠〟との違法取引を行った重罪により、魔導教師の資格と権威、及び貴族地位を剥奪し、お前達を重罪人かつ反逆者と見做し、無期懲役を下す!」
「そ……そんな……!」
絶望の宣告に教師達は両膝を地面に付けながら俯き、己が黒く濁った甘い黄金人生が終わってしまう事を絶望し悟るのだった。
「そしてこの時を以て、バーレスクレス魔導学院の撤廃を決行する! 全魔導教師が反逆者と成り教授する者が居なくなった今、此処はもはや存在価値も必要も無い国の汚点だ! それは消さねばならない!」
ラウラルフは鋼の声を大きく響かせ、魔導師団に命令を告げる。
「各員、重罪反逆者を連行した後に学院の撤廃作業を開始せよ!!」
「はっ!!」
国王の命令に魔導師団員全員は了解の意の返事を発し、その後迅速に行動を開始し出した。
「いっ…嫌だっ! 嫌だあぁぁぁっ!」
魔導師団員達に土系統魔法による石の施錠を掛けられた教師達は悲痛の叫びを上げ、貧弱な身体で抵抗するも殆ど意味が無く、無理矢理引っ張られながら連行されるのだった。
それを遠くから見ていた貴族生徒達は、絶望の表情を浮かべていた。
その理由は、自身の貴族家の当主、謂わば親が教師だった反逆者達に賄賂を贈り、実力結果を高成績に改竄させた事を全て知っている。その不正事実がバレれば、己の家系が持つ現在の爵位や地位に権力が失う危機の可能性が有るからだ。
最悪の場合、貴族地位を完全に剥奪され、是迄味わい続けて来た甘い贅沢が全て失う。そうなれば地位と権力、そして大金だけが取り柄の傲慢にして怠慢な者は真面に生活する事が儘ならなず、貧しくも苦しい転落人生を歩まねばならない。
そんなお先真っ暗な未来に、貴族生徒達は危惧しているのだった。
「さぁ! 生徒諸君も直ちに此処から退去せよ! 平民出身の者には謝罪金を含む村への帰還と王都滞在の資金を後日提供する! 後の事は我々に任せよ!」
国王の言葉に平民出身の生徒達は明るい表情を浮かべ、今後から手持ちの少ない金銭で如何生活すれば良いかという不安が無くなり安堵した。
「いやー、漸く終わったのう」
「ええ、やっと終わらせる事が出来た」
エルガルムとラウラルフは国の汚点である学院という重荷から解放され、安堵の表情を浮かべた。
「永かった…。これで不正を行ってきた傲慢な無能貴族共を粛清する事が出来る。そうなれば貴族の悪徳不正問題は、今後起こらなくなるだろう」
「そうじゃな。これで後はこの国に、真面な魔導師が増えてくれれば良いのじゃがな」
「今後の課題の1つですな」
ラウラルフは肩を竦め、今後の国の改正が非常に忙しくなる未来に対し、困った表情を浮かべるのだった。
「フォルレス嬢、今回の件での協力に感謝する。模擬試合での闘いは見事であった」
「御褒め頂きありがとう御座います、国王陛下。しかし、見事とまではいかない見映えの無い模擬試合だと思いますが」
「ハハハ、確かに相手は話にならん程の脆弱者だったからな。君の実力が見映えなくなるのも仕方がない」
「しかし父上、奴等があそこまで実力の無さには呆れましたよ」
「ああ、同感だバルディス。我が国の魔導師の質が落ちている事実は知ってはいたが、まさかあそこまで酷いとは…驚きを通り越して呆れてしまったよ」
「まぁ、それは国全体から見て、質が落ちておるのは貴族層だけじゃろうから問題は無いじゃろう」
「確かに、エルガルム殿の言う通りだ。魔法に関し間違った価値観を変えぬ不正貴族共を一掃すれば、今後は正しき魔法の知識と術を身に付け魔導師と成る者達が邪魔されなくなるからな」
「ですが父上、我が国の魔導師の質を上げるのもそうですが、数を増やす為には多くの人を集めなければならない上に、魔法に関する知識技術を教授する者などは如何するのですか?」
「ふむ……そこはやはり魔導師団から選抜すべきだろうが、それは追々決めれば良いだろう」
どの様に人を集めるか、教授する場所は如何するか、魔導師団の中から誰が人に魔法を教授するのが適任か、ラウラルフは思案を巡らすが、今は目の前の事を処理する事が先決だと思考を切り替える。
「それが良い。学院撤廃、不正貴族の粛清、平民出身生徒への金銭支払い全て終わらせてからでも遅くはない。また1から基盤を築き固め、物事が落ち着いてから始めた方が進ませ易いじゃろう」
「ならば少しでも早く、この件を片付けなければいけませんね。私も王族の義務として改正の協力をします、父上」
「済まないな、バルディス。帰国したばかりではあるが、これからの多くの改正を頼めるか?」
「勿論です、父上! 御任せを」
バルディスは真剣な引き締まった表情で、父親である国王に返答した。
「うむ。ではクロクタス、直ぐに大工を手配し其方に向かわせる。撤廃作業の監督をクロクタスと大工達の棟梁に任せる」
「了解しました」
フォビロドも引き締まった表情で国王に了解の意の返答をした後、すべき事をしにその場から離れ立ち去った。
「あ~、やっと終わったぁ~。もう用は無いし、早く帰りましょ」
ベレトリクスは如何にも気怠く、早く帰りたげに猫撫で声混じりの非常に気怠い声音で言う。
(お姉さん、かなり退屈そうだったもんね)
彼女が相当退屈だった事が言葉と声音、態度から見て取れた。
正直な所、ガイア自身も今回はかなり退屈していた。
「そうじゃな、もう儂等の出る幕は無い。太陽は未だ未だ高いし、街中を寄り道しながら帰るとするかのう」
(おっ! 街中の散歩! 賛成賛成!)
初めての街中を散策出来る機会に、ガイアはパアッと明るい笑みを浮かべた。
「そうですね。折角ですから気分転換に、色々お店を見て回るのも良いですね」
(お店! 店内見たい! 商品色々見てみたい!)
ガイアは更に笑みを明るく照らし、シャラナはそんなガイアの表情を見てほんわかな笑みを浮かべるのだった。
「うむ。ではそういう事じゃ、儂等は帰る。後の事は頼むぞ、ラウラルフよ」
「ええ、後の事は国王が遣るべき領分ですから、御任せを」
エルガルムとラウラルフは別れの挨拶を交わした。
「では行こうか、シャラナ」
「はい、先生。ではラウラルフ国王陛下、バルディス王子殿下、御先に失礼致します」
「うむ。大儀であった」
「後の事は任せてくれ、シャラナ」
シャラナもラウラルフ国王とバルディス王子に別れの挨拶を交わし、エルガルム達と共に学院を後にした。
こうして、バーレスクレス魔導学院は今日を以て閉院され、全教師13名は王命に背いた重罪を背負い、反逆者の汚名を刻まれ牢獄に幽閉された。その後、13名の反逆者との不正に関わっていた多くの貴族は次々と粛清され、貴族という地位と貴族として有する全てを失うのだった。
因みに、バーレスクレス魔導学院が完全に撤廃されるのは、未だ少し先の明るい未来である。




