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村人と不思議な魔獣2-3

「いやぁ、こりゃあビックリした! まさかこんな魔獣が居るなんてなぁ!」

 村の男の1人が笑いながら生きる大きな岩をバシバシと叩き、その生きた謎の岩に付いている目を見た。

 先程の混乱と驚愕(きょうがく)がまるで何事も無かったかの様に、すっかり和んだ雰囲気へと変わっていた。

 そんな中、岩石の魔獣は村の人達に囲まれていた。

「本当だ。全く襲おうともして来ないな」

(しないしない)

「言葉も理解してるのか! こりゃあ、ホント珍しいな!」

(やっぱ僕って珍しい?)

此奴(こいつ)って何食うんだ?」

(取り敢えず食べれる物なら何でもー)

「お前、いったい何処(どこ)から来たんだ?」

(森の何処(どっ)かからとしかー)

 様々な問い掛けが魔獣へと向けられるが、言葉を発する事は出来ない事は此処(ここ)に居る皆は理解している。

 それでも友好的に声を掛けてくれる事に嬉しさを感じる。

 とても善い人達だ。

 岩石の魔獣は、彼等の()き心を感じ取っていた。


(良し! 折角(せっかく)友好を示したんだから、村の中に入れてくれるかも!)

 石の壁の向かうを見ようと顔を上に向けた。自身よりも高い為、流石に壁の向こう側は見えなかった。

 いったいこの中はどんな風景が広がっているのだろう。

 畑も在るのだろうか。

 在るならどんな農作物を作っているのだろうか。

 村の家はどんな造りなのだろう。

 そんな様々な好奇心が湧き出てくる。

「もしかして、村の中に入りたいのか?」

 村の1人の男が壁の向こうを見る様な様子を見て、内心を読み取ってくれたのか、村に入るかと(たず)ねてくれた。

 これはかなり嬉しい申し出だった。

 直ぐに頷き肯定した。

「えっ! 大丈夫か? 村の皆が驚く所か、怖がっちまうぞ」

(あー、確かにそれもあるなぁ)

 此処に居る人達は分かってくれているが、村の中の人達は未だ魔獣の事は知らない。それは当然の心配だ。場合によっては村中が大混乱になるだろう。

「なら、一緒に付いて行けば良いだけだろ」

 ロノタックと呼ばれていた弓持ちの男が、ニカッと満面の笑みを浮かべながら提案した。

(おっ、同伴者付きか。それなら多少なりと村の人達の不安は和らぐかも)

 岩石の魔獣は彼の提案に心の中で即賛成した。

此奴(こいつ)はちゃんと俺達の言葉を理解してるんだ。だから側で教えてやれば良いだけの話だろ?」

(教えて教えてー)

 此処に居る村の人は少しだけ悩んだ後、その提案に賛同してくれた。

 同行してくれるのは最初に出会ったロノタックを含んだ3人となった。

 これなら村の人達は多少は安心するだろう。

 そして、岩石の魔獣はこの異世界で初めて、村に足を踏み入れる事になった。

 それは別として―――

(あれ? 門番とかは如何(どう)すんの?)

 誰も門の外に残らなかった事に疑問を感じたが、如何やら此処は魔物が来ない為、基本的には余り必要が無いのだと後に知るのだった。



(おお! これが村かぁ!)

 名も無き岩石の魔獣は、初めての村の光景に感動していた。

 彼方(あちら)此方(こちら)に建てられた村の家は簡素な造りではあるが、しっかりとしたとても丈夫な造りに成っている様だ。2階建ての家や1階建ての大きく広い家もある。

 そして、広大な畑が幾つも在り、様々な農作物が実っている。

 何より驚いたのは、葡萄(ブドウ)畑が在る事にだ。この世界にも葡萄(ブドウ)が存在している事に感動までした。未だ葡萄(ブドウ)は実ってはいないらしいが、それでも歓喜(かんき)の気持ちで溢れた。

「わー! でっけー! なんだこれー!」

 村の中に入って少し進んだ後、村の子供達に懐かれた。

 そりゃそうだ。見た事も無いものに興味が湧くのは子供として当然だ。

 中には岩石の身体を()じ登る子供も居た。

「危ないわよ! 駄目でしょ!」

 そんな子供達を村の婦人達が止めようよする。

「大丈夫大丈夫。襲うなんて事はしねぇよ」

 ロノタックがハッハッハと笑いながら、子供達の母親である婦人達に告げる。

「でも、魔獣なんでしょう!?」

 母親達が心配するのは当然である。

 そりゃあ仕方ない。だって母親だもの。

 取り敢えずはその場でジッとするだけで、攀じ登ってる最中に落ちそうになる子は落ちる前に助けて上げる。胸中に不安を抱く母親達はその光景にホッと胸を()で下ろす。

 子供達はそんな母親達の心配を気にもせず、奇妙な岩石の生物に躊躇(ためら)い無く群がる。

(元気な子達だなぁ)

 恐らく、何処へ行こうとしても付いて来てしまうだろう。

 なので子供達を背中の上や両腕で抱える様に子供達を乗せて、そのままフォラール村を見て回る事にした。

「おおおおっ! たけええっ!」

 子供達ははしゃぐ。

「キャ―――ッ! うごいた―――っ!」

 歩き出すと更にはしゃいだ。

 まるで巨大ロボットが動き出す姿を見て興奮する子供の様だった。

(まぁ、僕はロボットじゃないんだけどね)

 それに自分は人間ではなく、人外の生き物である魔獣らしいのだから。

 そんな岩石の魔獣が子供達を乗せて歩くその光景は、(はた)から見れば、何とも和やかしい不思議な光景であった。

 

「ねえ。あれって何の魔獣なの?」

 心配しながら母親達の内の1人が3人の男に訪い掛けた。

「さぁな。全く見た事無い魔獣種さ」

「けど大丈夫さ。彼奴(あいつ)は俺達の言葉を理解出来るからな」

「それ本当なの?」

「間違い無いよ。あんな知能を持った魔獣は見た事も聞いた事も無いが、あの通りさ」

 母親達は3人の話を聞いても半信半疑の状態だった。

「安心しろって。何か()った時は俺達が対処するからよ」

 ロノタックは他の2人を連れて、魔獣の後をのんびりと歩きながら追った。

 それでも母親達は不安だった為、更にその後を追い掛けた。


(広いなー。のどかだなー)

 岩石の魔獣は子供達を乗せながら、のんびりと村の広大な畑を散策していた。

 そして直ぐ後ろには元冒険者タンタ、狩人のロノタック、兜を被った槍使いのカヌンが同行している。

 更に後ろには魔獣に乗った子供達の母親達が付いて来ている。

 畑で農作業をしている人達から見れば、何とも奇妙な光景であった。

 岩石の魔獣はある畑に歩みを止めた。

 其処(そこ)葡萄(ブドウ)畑だ。

 広大な畑には葡萄(ブドウ)(だな)が設置されており、其の棚の屋根には伸びた(つる)と葉で覆い尽くされている。屋根の下はちょっとした森を連想してしまう様な光景が広がっていた。

 岩石の魔獣が脚を止めると、葡萄(ブドウ)畑に居た村人達がビックリした表情を(あらわ)にするのだった。

(………そうだ! 折角だから()()を試してみよう!)

 上に乗せていた子供達を全員降ろし、葡萄(ブドウ)畑の近くまで寄った。

 降ろされた子供達はまた攀じ登る為に追い掛けようとしたが、母親達にガッチリと捕まり止めらるのだった。

 岩石の魔獣は葡萄(ブドウ)畑に向けて、岩石の手を(かざ)した。

「な、何だ? 何をしてるんだ?」

 畑に居た村の人達が魔獣の様子に困惑していた。後を付いて来た母親達も魔獣が何をしようとしているのかと不安と困惑の色を浮かべる。門の外からずっと同行していた3人は、妙な行動に疑問と興味が交差していた。


 白石大地がこの異世界に転生して得た特殊技能(スキル)〈光合成〉は、日光を浴び続けていれば永遠と栄養素を身体の中で生成し、生命力や魔力を回復し続ける。そしてそれ等を身体の中に際限なく蓄える(ストックする)事が出来る特殊な能力の1つである。

 実はこの特殊技能(スキル)から派生した、もう1つの特殊な能力を彼は持っていた。

 特殊技能(スキル)栄養素譲渡(えいようそじょうと)〉。

 特殊技能(スキル)名の通り、自身の栄養素を受け渡すだけの技能である。

 栄養素を渡す事が出来る対象は植物だけでなく、息とし生きるものにも栄養素を与える事が可能なのだ。植物であれば、たとえ干からびていても(うるお)いを取り戻し、更には成長の促進を促す事も可能だ。人間に対しても不足している栄養を分け与える事だって可能であり、スカスカな骨すら丈夫な骨へと修復する事だって出来てしまう。

 (ただ)し、〈栄養素譲渡〉は特殊技能(スキル)〈光合成〉がある事で、初めて有用が可能になる特殊技能(スキル)なのだ。もし〈光合成〉が無ければ、自身の栄養素を譲渡し過ぎによって栄養欠乏状態に陥り、下手をすれば死に至ってしまう危険性を孕んでいるのだ。

 だが〈光合成〉によって溜め込んだ膨大な栄養素を持つ岩石の魔獣にとっては、(いく)らでも渡す事が可能かつ危険性がほぼ無い特殊技能(スキル)と成っているのだ。

 岩石の魔獣は特殊技能(スキル)を発動させた。

特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉!)

 特殊技能(スキル)の発動と共に、全身が薄緑色の優しい発光が起き始めた。

 その場に居た村人達全員がその光景に目を奪われた。

 そしてその光は、葡萄(ブドウ)畑全体に広がっていった。

 光は葡萄(ぶどう)畑全体を優しく包み込んだ。

 その光景は誰から見ても、とても神秘的な光景であった。


 そして光に包まれたその後――――更なる神秘が起こった。

 

 葡萄(ブドウ)畑全体が、一斉に無数の実が付いたのだ。

 そして小さな緑の果実は一気に大きく膨らみ、見事な紫色の房が出来上がった。

 その有り得ない神秘的な光景は、まるで恵みの祝福かの様に思えてしまう。

 あっという間に葡萄(ブドウ)畑全体には、大きく膨らみ熟した大量の葡萄(ブドウ)の房が埋め尽くしたのだった。


(やった! 出来た出来た!)

 成功だ。

 見事に特殊技能(スキル)で農作物を実らす事をを実証出来て、その結果に岩石の魔獣はとても満足した。

 村人達は当然驚愕していた。中には零れ落ちてしまいそうなくらいに目を見開いている者も居た。

 そして後から来る感情が、感動が村人全員の心の中から溢れ出てきた。

「き……」

 誰かが言おうとした。この光景に相応しい現象を。

「き……奇跡だ…」

 此処に居る村の人達の思いを代弁しようと。

「奇跡だ!!」

 村の人々は歓喜した。

「恵みの奇跡だ――――!!!」

 歓喜の声は村中に響き渡り、それを聞き付けた村中の人達が集まり出した。

 奇跡の光景を。

 恵みの奇跡を。

 それを目の当たりにした全ての者は驚愕し、歓喜した。

 まさに大豊作だ。

 そして村人達は一斉に葡萄(ブドウ)の大収穫を歓喜による勢いで始め出した。そんな人々の目がキラキラと輝いてさえ見えた。

「いよっしゃー!! 葡萄酒(ワイン)造り放題飲み放題だー!!」

 そんなお酒好きな人も、一緒に手伝いをしていた。

 岩石の魔獣は葡萄(ブドウ)を一房()ぎ取り、口の中に含み食した。

 葡萄(ブドウ)特有の瑞々(みずみず)しい甘味と酸味が広がる。

(あ~、葡萄(ブドウ)美味しい~)

 前世の人生も含めた、久し振りの果実の味を堪能した。

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