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衰亡辿りし魔導学院15-1

 (はる)彼方(かなた)の地平線から朝日が顔を出し、天の(いただき)へと少しずつ昇る毎に、ほんの僅かに薄暗い世界を少しずつ明るく照らし出す。

 その朝日の光に照らされ、心地良い眠りから目覚めた存在が居た。

(ん……朝か…)

 フォルレス侯爵家の敷地内――――屋敷の外の芝生(しばふ)の上――――で巨岩の如く鎮座(ちんざ)していたガイアが大きな目を開き、天を(あお)ぐ。

(今日も良い天気だ)

 充分に熟睡しガイアの気分はスッキリし、眠気という重石の無い(まぶた)はとても軽く、難無くと開けた。

 今日もまた、新たな1日が始まる。

(今日は…学院に行く日だっけ)

 ガイアは昨日聞いた学院に関する内容を思い出す。

 バーレスクレス魔導学院の現状、是迄(これまで)の結果の無さ、そこから繋がる学院の必要性の無さ、そして教師勢は王の約束の期限から4ヶ月経った今も返答せず、更に彼等の不正発覚といった内容。

 そんなこの国の汚点と成ってしまった学院をいよいよ撤廃(てっぱい)する為に、今日其処(そこ)に行く事になっている。

 だが、貴族魔導師である教師達にとって甘い汁を(すす)れる都合の良い学院の撤廃に対して、必ず阻止しようと嫌と言う程足掻(あが)く筈だ。そんな彼等を黙らせ、学院撤廃に対し反論出来ぬ様にする為、模擬試合で教師達に生徒であったシャラナと決闘をして貰うのだ。

 教師として相応しいか、この学院をこの先も必要か否か、言葉ではなく、実力で示して貰う方法で学院を撤廃するかしないかを決める。

 真偽の判別が付かない言葉は、もはや不要。

 己の実力は言葉でなく、力で示せという事だ。

(ま、全員相手でも楽勝でしょ)

 正直、心配する必要が無いとガイアは確信していた。

 昨日、王城の玉座の間や王族専用食堂での晩餐で耳にしていた教師勢がしてくるであろう不正の予想を、ラウラルフ国王と賢者エルガルム達が話をしていた。

(学院の教師達が何かしようとしても、きっと王様とかが何とかしてくれるだろうし)

 隠密部隊の魔導師団が彼等の不正動向を監視してくれる。その上、同行する賢者エルガルムと魔女ベレトリクスの監視の目もある。それに――――

(――――流石に僕の出番は必要無いね)

 シャラナを心配する要素は無い。

 今回のガイアは、何もする必要が無い傍観者である。

(それにしても、昨日の晩餐(ばんさん)は美味しかったなぁ~)

 今日の心配など無いガイアは別の事を――――昨日の豪華な晩餐、至福の一時(ひととき)を思い返す。

 前菜の新鮮サラダにクリームスープ、メインディッシュの蒸し焼き魚料理に肉料理の霜降りステーキ、オリーブオイルを掛けた薄切り(スライス)チーズと薄切り(スライス)赤茄子(トマト)、数種類の柔らかな焼き立てパン、細かく切った焼きベーコン入りマッシュポテト、等々の幾種幾多の豪華な料理の美味を思い返す。

 瑞々(みずみず)しい新鮮野菜のシャキシャキ感、クリームスープの(ほの)かな甘み、蒸し焼きされた魚と焼いた肉から立ち上る旨味の香り、どれもこれも美味だったあの豪華な料理を浮かべ味を思い出す度、また食べたいという欲求が膨らむ。

 そして更なる〝食〟の贅、嗜好品(しこうひん)の中で高級嗜好品である甘味、食後のデザートの甘美を思い出し、ガイアは実に幸せそうな笑みを浮かべる。

 柔らかなシフォンケーキに真っ白生クリームをふんだんに塗り、瑞々しい真っ赤な(イチゴ)が幾つも()ったショートケーキ。焼いた生地にカスタードと生クリームを()き、その上に数種の果実を飾り載せたフルーツタルト。そして雪の様に白く、舌の上で蕩けて口全体に濃厚な甘美が広がり、芳香(ほうこう)なバニラの香りがそのまま鼻腔(びこう)にまで広がるアイスクリーム。

(あ~。あの甘さは忘れたくても忘れられないな~)

 ガイアこと白石大地は、前世で余り甘味を食べる事をしなかった。

 いや、〝食〟の贅沢に手を出す余裕が余り無かった。

 決して困窮する程貧乏ではなかった。(むし)ろ、生きていく中で金銭や衣食住は一般より細やかながら裕福よりな方だった。仕事もちゃんとこなして、それに見合った相応の給料も適度に節約しながらしっかり貯金をしていた。

 しかし、仕事が忙しい所為(せい)か、贅沢に対し無頓着(むとんちゃく)だった所為なのか、心の余裕が余り無く、無意識に保守的思考で必要最低限以上にお金を使おうとはしなかった。

 使っても必要最低限を少し超えるだけで生活に支障は一切無い。元居た世界の甘味類は、貯金さえしっかり貯めていれば誰でも買える物だ。

 しかし、この異世界での甘味の嗜好品の価値はとても高く、一番値の低い嗜好品でも平民には中々手の出せない高級な代物。()わば、貴族にしか食べれない嗜好品なのだ。

 そして昨日の晩餐で出された嗜好品は高級の中の高級品であり、前世で誰でも買えるお手頃なスイーツの味しか知らない一般人だったガイアの舌でも、それ等全ての高級嗜好品がお手頃お値段のスイーツ何かよりも比べ物にならない甘美だと即座に理解してしまう高級品である。

(また何時(いつ)か、食べたいな~)

 もはや今日の事など頭の中からすっぽ抜け、晩餐で出た豪華な料理の味を、特に甘味類の高級嗜好品の甘い味の記憶で頭の中を埋め尽くすのだった。

 そんな昨日の幸せに思い浸って10分か20分位経過した時、屋敷の扉が開く音がし、ガイアはその方向へと首を回し顔を向けた。

「おはよう、ガイア」

「ンンンンンンン」(おはよう、シャラナ)

 屋敷から出て来たシャラナはガイアに朝の挨拶を交わし、ガイアも野太くキーンと優しい高音の混じった不思議な声を発し、シャラナに挨拶を交わし返した。

「朝食もう直ぐ出来るから、中に御出(おい)で」

「ンンンンー」(はーい、今行くー)

 ガイアは屋敷の中に入る為に特殊技能(スキル)で自身の身体を小さくした。そしてのそりのそりと脚を動かし、今日の朝食を食べに屋敷の中へと彼女と共に入って行った。



 屋敷内の廊下をシャラナと一緒にガイアは歩き進み、食堂へと入る。

「おお、おはようさん」

「おはよう、ガイア」

「おはよう」

 食堂の席には(すで)にレウディンとフィレーネ、そして賢者エルガルムが座っていた。

「あら、おはようさん」

(あれ? 昨日王城で別れたよね? 何時(いつ)来たん?)

 そして何故(なぜ)か、昨日王城の自室へと帰った筈のベレトリクスも当たり前の様に居た。神出鬼没の如く現れた彼女に対し、シャラナとガイア以外は一切気にしていなかった。

 そんな疑問を頭の片隅に置きつつ、シャラナは自分の決まった席に座り、ガイアは椅子の無い空いたスペースに移動し、食卓(ダイニングテーブル)の高さに合わせて身体の大きさを特殊技能(スキル)で調整し、その場に座り込む。

 それが合図であるかの様に扉が開き、侍女(メイド)のライファが食堂に入って来た。

「おはよう御座います、ガイア様」

 ライファは笑みを浮かべ、背筋をピンと伸ばし綺麗な御辞儀をしながらガイアに挨拶を交わした。

 因みに、此処(ここ)フォルレス家に仕える騎士や使用人達は皆、ガイアの事を「神獣様」と敬意を込めて呼ぶ。ライファだけはガイアの事を「ガイア様」とバランスの取れた敬意と親しみを込めて呼んでいる。

「朝食の準備が整いました」

 料理を載せた銀のワゴンを押して行くライファに続き、3人の使用人が同じ銀のワゴンを押しながら部屋へと入って来る。

 そしてワゴンに載せた料理を次々に食卓(テーブル)へと移していく。

 今日の朝食は甘藍(キャベツ)人参(ニンジン)を千切りにしたサラダに玉蜀黍(トウモロコシ)の甘味が溶け込んだコーンスープ、フワフワな食パンを1枚1枚に切り分け、程良く熱を通して焼いた後にバターを塗り、ほんの少々塩を振り掛けた塩バタートースト、薄切りにしカリカリに焼いた焼きベーコンやしっかり火を通した腸詰(ソーセージ)、そして溶きほぐした卵を濃厚なバターを使用して絶妙な火加減と焼き時間により、外側はふんわりと、内側が半熟状のとろりとした食感のオムレツだ。

(お、今日はオムレツだ。美味しそう)

 昨日の晩餐の方が断然に良いが、こういった定番の様な毎日食べても飽きない食事の方が大切だという、食事の価値観をガイアは大事にしている。

 贅沢な食事は(たま)に食べるから美味しく感じられ、特に嗜好品は毎日食べ続ければ飽きてしまい、美味な物が余り美味しく感じなくなるものだ。

「さぁ、(いただ)こうか」

 レウディンの一声で全員が其々(それぞれ)目の前にに並べ置かれていた食器を手に取り、朝の食事を取り始めた。

(戴きまーす)

 ガイアも銀製のフォークとナイフを手に取り、朝の食事を始めた。

 ()ず最初に選んだのはオムレツ。

 ふんわりオムレツにフォークで突き刺し固定して、ナイフで食べ易い大きさに切り分ける。切り分けられたオムレツは、とろとろ半熟の中身を(あらわ)にする。そしてそのまま大きな口の中へと運び入れ食す。

(ん~! とろふわ~)

 舌の上で半熟のオムレツが広がると同時に、卵とバターの濃厚な味も口の中全体に広がる。そして口の中から喉へと滑らせる様に飲み込む。

 次に塩バタートーストを片手で手に取り、(かじ)り付く。

 齧り付くと同時にサクッと食パンの焼けた表面が音を鳴らし、トーストの香ばしい匂いが鼻腔を通り抜ける。焼けた表面の内側のモチっとした食感、そして僅かに振り掛けられた少量の塩が塗ったバターを引き立てた丁度良い塩加減の濃厚な味が、咀嚼(そしゃく)する度にじわりじわりと口の中を広がっていく。

「ンンンン」(もう1枚)

 身体を縮めても口が大きいガイアは、一口か二口で1枚のトーストをあっという間に食べてしまう。流石に物足りないのでガイアは声を発し、もう1枚トーストを要求する。

「はい、直ぐに焼きますので少々御待ちを」

 ガイアの発した声の意図を即座に理解したライファはワゴンに載っている食パンを切り出し、断熱性の把手(とって)が付いた金属製の網を取り出し、切り出した食パンを網の上に載せ、そして片手を(かざ)す。

「〈加熱(ヒーティング)〉」

 ライファは炎系統の熱を発生させる魔法陣を2つ出現させ、食パンを挟む様に魔法陣を展開し、適度な熱を発生させ表面を焼いていく。

 食パンの表面が適度に焼かれ、香ばしい匂いが漂う。

 焼き終わりと同時に魔法陣を消し去り、焼いた食パンの表面をバターで塗り、最後に少量の塩を振り掛け、ガイアの眼前の皿へそっと置いた。

「どうぞ」

「ンンンンン」(ありがとう)

 ガイアはライファに御礼の意の声を発した。

 今度は焼いた食パン(トースト)に焼きベーコンやサラダを載せ、むしゃりと(かぶ)り付く。間を挟んで口直しにコーンスープを口の中に流し込み、口の中に広がった塩味を流す。そしてまたオムレツを食べる。

「さて、今日は学院の教師共に引導を渡す時だ」

 そんなガイアが朝食を夢中で食べる中、レウディン達は食事をしながら今日の予定を話し始めていた。

「あの学院が撤廃されれば、他の高慢(こうまん)怠惰(たいだ)な貴族達を完全に無力化する。これを機に国王陛下が全貴族に対する意識改革を宣言すれば、この国の民達が不当不正な権力による被害が無くなる筈だ」

 そしてレウディンは視線をシャラナへと向ける。

「シャラナ、学院の教師勢(奴等)の事は気にせず、力の限りにあらゆる魔法で躊躇(ちゅうちょ)無く叩きのめして良いからな」

 シャラナに語る内容の大半が物騒な言葉を、レウディンは爽やかな笑みを浮かべながら口にするのだった。

「お…御父様…そんな爽やかな笑みで物騒な事を言われると逆に怖いです」

 父親の表情と言動が真逆で一致しない所に若干恐怖を感じながらも、シャラナはそんな父親に対しちょっとだけツッコむのだった。

「ははは、いやぁ(ようや)く私利私欲な貴族達とその貴族魔導師達という多くの悩みの種が無くなると思うと、ついな」

「ホッホッホッホッ。確かにあのダダボランに限らず、奴と同類の貴族とその魔導師がようやっと粛清(しゅくせい)出来るのじゃからな。じゃがその代わりに改革の仕事が大変になるじゃろう」

 国の為に、王に対し忠誠を尽くそうとしない無能な貴族達を粛清すれば、残る有力貴族は指で数えられる程しか居なくなる。

 悩みの種を全て取り除く事で国は改善されるが、代わりにその後の改革の仕事がフォルレス侯爵家を含む残った有力貴族の下へと大量に雪崩(なだ)れ込む事になるのだ。

 特に国王へと雪崩れ込む改革の仕事量が一番多いのだが。

「ええ、間違い無く改革の仕事で多忙には為りますが、不正や犯罪などの不始末を()らかす無能な貴族達の対応よりずっとマシです」

「まぁ、そうじゃな。この先このまま、私利私欲な貴族とその魔導師がのさばるよりずっとマシじゃな」

 ただ形だけの高慢で無能な貴族――――特にこの国への貢献をせずひたすら私腹を肥やそうとする者――――は必要無い。地位と権力は国の為にあって、己の欲望の為のものではない。それでも己の利益の為だけにというのなら、貴族という地位も権力も慈悲無く剥奪、場合によっては国外追放である。

「これでこの国の魔導師の質も良くなるというものじゃよ」

「なぁに言ってるのよ、()だ何もしてないでしょう」

 既に今日の予定が終わったかの様にこの国の未来を語るエルガルムに対し、ベレトリクスは普段通りの少しだけ気怠(けだる)そうな声音でツッコむ。

「まぁそうじゃが、奴等の実力の低さを御主も知っておろう。奴等が束になって来ようともシャラナの敵ではないわい。勝ちは確定しておる」

「んー、まぁそうね。後は卑怯な手を叩き潰せば勝ち確定は絶対になるわね」

 よくよく考えてみても、学院の教師全員とシャラナとの実力差は圧倒的にシャラナの方が上だ。そんな彼女が(ろく)に魔法を使いこなせない名ばかりの全魔導教師相手に、実力で負ける要素など無い。そして卑怯な不正行為に関しても、今のシャラナなら対応が出来る。

 なので心配する事は1つも無い、そうベレトリクスは確信する。

「でも撤廃した後の真面(まとも)な生徒は如何するのよ?」

「その生徒に関しては、国王陛下が思案して下さる筈です。身分問わずに、是迄の在学期間に応じた学費全額を利子込みでの返金は既に決定されてます」

「うむ、それは金銭の少ない平民の生徒に対し当然必要な処置じゃのう」

「確か、遠くの村落から学びに来ている生徒も居た筈です」

「冒険者になる為に魔法を学び身に付けに来たか、故郷の村の為に魔法を学びに来たかの何方(どちら)かじゃのう」

「若しくは、その両方ですね」

「ふむ……、折角学びに来とるその者達が余りにも不憫(ふびん)じゃのう…。是迄の無駄な在学期間分を如何にか出来んもんかのう」

「そうですね……今後のこの国の魔導師育成の未来についても、国王陛下と議論しなければならない改革案件ですね」

 レウディンは今後の改革の1つである貴族の意識改善で、是迄の間違った魔法適正理論を正し、ラウツファンディル王国に属する魔導師とそれを目指す者の力量(レベル)を上げる方法を、少しばかり頭の中で思案しながら(うな)るのだった。

貴方(あなた)、そんなに先の事を焦って考えなくても良いじゃないの。今は今日の事、目の前の事を考えるべきじゃない?」

 妻のフィレーネは、先の未来の事を思案する夫に優しい声を掛ける。

「それに先の事だって焦る必要は無いわ。ゆっくり考えていけば良いじゃない」

「そうそう。前の村の時みたいに深刻なら焦る必要はあるけど、この先の事はそんな深刻な面倒事は無いんだから、全然焦る必要なんて無いわよ」

 ベレトリクスはフィレーネの意見に共感する。

「それよりも、とっととあんな学院を撤廃させてダンジョンに行きたいしね」

「ダンジョン? 何かの素材を取りに潜るのですか?」

 レウディンは彼女がダンジョンでどの様な素材を探しに行くのかを(たず)ねた。

 ダンジョンに潜る目的は主に2つ。

 1つは魔物から取れる部位、薬草類、鉱物といった様々な素材の採取採掘に狩猟で手に入れ、()れ等の素材で新たな武具を製作して貰う為と、魔法薬学の知識がある者は素材で魔法薬(ポーション)類を作るといった自分の為の使用目的。

 もう1つは前者と大体同じではあるが、冒険者組合(ギルド)の依頼によるダンジョン内での素材調達、そしてダンジョン探索という未開の下層探索・調査による金銭報酬ある。

 ベレトリクスの場合は、十中八九の理由がマジックアイテムの製作に使用する素材が目的だ。

「ええ、ちょっとテウナク迷宮都市のダンジョン最下層で未知の素材探しにね」

「最下層! それはまた恐ろしい場所へと……。ベレトリクス殿の(おっしゃ)るその未知の素材とは、いったい何なのでしょうか…?」

「アポイタカラっていう記録上にしか記されていない幻の鉱石よ」

「幻の鉱石! それはまた何故(なにゆえ)に存在するか如何か定かではない幻の鉱石を探しに?」

「んーっとねぇ、前にエルガルムとシャラナには話したけど、最上級魔法の巻物ハイエスト・マジックスクロールの製作でアダマンタイトを使っても出来なかったのよ。それでね」

 ベレトリクスはチラッと幸せそうな表情で食事をするガイアに視線を向ける。

「あの子から〝アダマンタイトよりも貴重な鉱石は無いの?〟って質問されてね、それでアポイタカラの存在を思い出したのよ。んで、現時点で最も貴重な鉱石であるアダマンタイトを(もっ)てしても、何故(なぜ)か最上級の魔法の巻物(マジックスクロール)が作れない事にずっと疑問に思ってた時に仮定が浮かんだのよ。最上級魔法の巻物(マジックスクロール)に適した現最高峰鉱石(アダマンタイト)より上の鉱石が存在するんじゃないかってね」

「製作不可能では無いと?」

「まぁ何方かと言われれば、不可能の方が断然大きいんだけどね。けど、それでも気になるからねぇ、探求する者としては探さずにはいられないのよねぇ」

 最後に「それに退屈だったし」とベレトリクスは本心を口にするのだった。

「折角ダンジョンに潜るのじゃから、これを機にシャラナも迷宮都市に連れて行く事にしておる」

「えっ!? ちょっ、ちょっと待って下さい!」

 エルガルムの発言に、レウディンは驚き少し大きな声を上げてしまった。

 流石のガイアも食事という夢中から覚まし、手を止め、驚き慌てるレウディンへと視線を移した。

「確かにシャラナは強く成ったとはいえ、ダンジョン最下層に潜るのは幾ら何でも早過ぎます!」


 ダンジョンの最下層。

 其処は想像が付かない強大な力を有する幾種幾多の魔物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する地獄の様な場所であり、そしてほぼ調査も探索もされていない未開の層。

 最下層最初の所で魔物の難易度(レベル)は一番低くてもA等級(ランク)、そしてそれ以上の存在が数百数千など下らない数が徘徊(はいかい)しているのだ。

 たとえS等級(ランク)冒険者数人で構成された一党(パーティー)でも無事に帰還出来る可能性は非常に低い為、S等級(ランク)冒険者でも其処(そこ)に行く者は(ほとん)ど居ない。


 そしてシャラナの実力はBかC等級(ランク)相当の魔導師(ウィザード)にして女神官(プリエステス)。誰もが自分の一党(パーティー)に引き入れたい逸材であるが、最下層に挑むには余りにも実力が足りない。

 流石に自分の愛娘を異常と言える超危険地帯に行かせるのは反対だと言うレウディンの主張は当然だ。

「流石に最下層でシャラナを闘わせるつもりは無い。あくまで最下層前までじゃよ。それに儂とベレトリクスだけでは潜らん。潜る際には腕利きのS等級(ランク)冒険者一党(パーティー)を雇う予定じゃ。それに――――」

 エルガルムは視線をガイアへと移す。

「――――儂等の中で一番頼もしい戦力が居る。安心せい」

 エルガルムの視線に釣られる様に全員がガイアへと視線を向ける。

 そして周りから一斉に視線を向けられたガイアは「え? なに? なに?」とキョロキョロと見回す様に、全員の顔を困惑気味に見るのだった。

「……そうですね。神獣様が付いて行って下さるのなら安心ですね」

 先程の抱いた心配が嘘だったかの様に、レウディンは安堵(あんど)の笑みを浮かべるのだった。

「まぁ、今日の事を終えたら直ぐに行く訳では無い。潜る前の下準備をせねばならんから、明日(あす)明後日(あさって)にダンジョンには潜らんよ」

「そうよ、少なくとも私とエルガルムが必ず命の保証はするわよ」

 そしてベレトリクスはニンマリと悪戯っ子の可愛らしい笑みを浮かべる。

「何せ、王子様の未来の花嫁だからねぇ」

 そんなベレトリクスの揶揄(からか)い発言に、シャラナは顔を真っ赤にするのだった。

 昨日の晩餐の席で、リフェーナ王妃が息子のバルディス王子とシャラナの縁談を語り出し、その話に2人を除く全員が婚約に賛成という半ば強引な流れとなった。特にレウディンは歓喜に満ち溢れ、シャラナに約束された幸せな未来に涙を流した。

 そんなシャラナとバルディスは彼等の話に流され、話の流れを一時的に止める(くさび)すら打ち込む事すら出来なかった。

 しかし、そんな2人は恥ずかしながらも満更でもなかった。

 因みに、ガイアは傍観しながら2人の婚約には心の中で大賛成をしていた。

「ああ、これで娘に近付く貴族(害虫)共の心配をしなくて済む」

(が…害虫て……)

 もし、その貴族(害虫)達が(いや)しい思いでシャラナに近寄って来た時、彼はいったいその貴族達にどの様な恐ろしい手段を講じるのだろうかと、ガイアは想像力の限りにレウディンの怒れる恐ろしい表情を想像する。そして怒りの(おもむ)くまま、憤怒(ふんぬ)の業火で容赦無く無慈悲に害虫駆除をする怒れる親馬鹿(レウディン)の姿を想像するのだった。

「儂もこの国の未来の魔導師についての心配事が、今日で無くなる事にホッとしとる。これで善き魔導師が育ち増えてくれれば安心じゃ」

「エルガルム様の仰る通りです。騎士だけでなく、実力の有る魔導師がこれから先増えてくれれば、国力増強にも繋がりますからね」

「そうじゃな。じゃが国力増強の前に、この国の邪魔と為る無駄な枷を取り除かんとな」

 エルガルムとレウディンはニッと笑みを浮かべ、これから先の忙しくも明るい未来を楽しみにするのだった。


 そんな朝食の明るい会話の一時は、出発の時が来るまで続くのだった。

 今日の事の心配など1つもせず。

 ゆったりと――――。

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