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明日に向けての充実な日14-2

「よく来てくれた。わざわざ呼び出して済まないな」

 荘厳(そうごん)さが(かも)し出している豪華絢爛(ごうかけんらん)な広い空間に、賢者エルガルム、魔女ベレトリクス、レウディン侯爵、フィレーネ侯爵夫人、シャラナ侯爵令嬢が玉座の間に居た。

「神獣様も、再び我が王城に起こし下さり感謝します」

(どうもー、またお邪魔しますー)

 そして、身体を小さくした幻神獣フォルガイアルスも玉座の間に居た。

 そう。彼等5人と1体はラウツファンディル王国の国王――――ラウラルフ・ディウズ・フルード・ベレガルズに呼ばれ、此処(ここ)アルドカスト城に招かれていたのだ。

「今回は公式の場ではない。楽にしてくれ」

 玉座に座るラウラルフは、穏和な態度で招いた者達に告げた。

 今回の謁見(えっけん)は非公式である為、前回の公式な謁見の雰囲気とは違い、玉座に座る王を含むたった6人と1体しか居ない所為(せい)か、玉座の間という広い空間が少し物寂しさを感じさせるのだった。

「はい。それでは国王陛下、本日我々を御招き頂いた御用件はいったい何なのでしょうか?」

 楽にして構わないと国王陛下に許しを得ていても、レウディンは背筋を伸ばし姿勢を正したまま会釈をし、今回王城に招いた理由をに(うかが)う。

「ああ。実はな、今回呼んだのはエルガルム殿に頼まれたバーレスクレス魔導学院に関する案件についてだ」

(あ、それって前にシャラナが通ってた学院の事か)

 何度か聞いていたその学院の内容を、ガイアは記憶の中からポンと直ぐに思い出し浮かび上がった。

 無論、その内容は悪いものだらけである。

「おお、そうじゃった。御主に頼んだ案件、ちと忘れてたわい」

「いやいやいや…勘弁してくれエルガルム殿」

「いやぁ済まん済まん。最近は楽しい程充実していての。特に今日は自動型(オートタイプ)動像(ゴーレム)の新たな動作機能の組み込む方法を発見してのう。魔導の探求に夢中になってしまって頼んだ事をつい忘れてしまったわい」

 エルガルムは頼んだ案件をうっかり忘れてたと笑い、ラウラルフ国王は困った顔に笑みを浮かべ「まぁ、別に良いんだがな」と口にし開き直るのだった。

 そしてピタッと一瞬思考が一時停止し、思考が別の道へと無意識に寄り道し出すと同時に、その原因の言葉に好奇心という名の疑問が浮かんだ。

自動型(オートタイプ)動像(ゴーレム)の……新たな動作機能の組み込み方法だと…?」

 ラウラルフ国王は魔法に関する知識はそれなりに得ている。その知識の中には動像(ゴーレム)も含まれている。

 それ故か自動型(オートタイプ)動像(ゴーレム)の新たな動作機能の組み込み方法という言葉に、つい反応していまうのだった。

「そうじゃ。自動型(オートタイプ)動像(ゴーレム)の新たな動作機能の組み込み方法が、今日発見したのじゃよ」

「そ、その新たな方法といったいどの様な技術なのだ!?」

「それはじゃのう――――」

「ちょっと、エルガルム。それは後回しで良いでしょ。ラウラルフも、其方(そっち)の案件が先でしょ」

 話が脱線しそうになった所をベレトリクスはストップを掛け、話の方向を修正させるのだった。

「おっと、済まん済まん。つい」

「う…うむ、そうだな。その非常に興味深い話は、今回の案件を終えてからじっくり訊くとしよう」

 ラウラルフ国王は一度だけ咳を鳴らした後、今回の案件についての話を始めた。

「デベルンス家の粛清(しゅくせい)後、奴の多大な被害を受けた各村の復興と改築を進めている間、魔導師団の隠密部隊に是迄(これまで)の過去の全生徒の実績調査と、学院側の全教師共の動向を探らせた」

 現在はバーレスクレス魔導学院に規制を幾つか(もう)け全ての貴族魔導師の意識を改善させる方針と、提示した規制を受け入れない場合は魔導学院()(もの)撤廃(てっぱい)する方針という、今後の学院の有無を言及している。

 それを良しと思わない全教師、そして彼等に共感し属する(ほとん)どの貴族生徒は、苦渋の選択を迫られ各々が危機感を抱いたいるのだ。

 ラウラルフ国王は、学院の責任者である教師達の返答を待っていた。

 しかし、約束の1週間後に国王の規定した方針を受け入れ改善するか、国王の規定した方針を受け入れずに魔導学院を完全撤廃するかという返答が来ず、約束の既定期限が過ぎ4ヶ月経った今現在も、学院の教師側からの返答は一切来なかった。


 現在の魔導学院に対する規制の内容は以下の通り。

 1:貴族という立場と権力の利用と貴族平民差別を禁じる。

 2:賢者エルガルムの提示した正しき魔法適性理論を認め、誤った魔法適性理論を正す事。

 3:学院に通う者は地位や権力を求めず、魔導師としての研鑽(けんさん)に目を向けよ。

 4:学院全教師は魔導師の実力基準を一から見直し、提示された基準で正しく評価をすべし。

 5:これ等の規制を破った生徒は学院で勉学を励まぬ魔導師と見做(みな)し、学院から永久退学とする。教師も同様に規制を破った場合、魔導師教員の地位と資格を剥奪(はくだつ)し、学院から永久追放とする。


 規制内容は少ないが、魔導学院側が国王からの規定を素直に飲むのであれば、後々増やしていく方向である。

 だが期限は大分過ぎている為、最早その必要は無くなるだろう。

「生徒に関しては平民出身者と、一部を除くほぼ全ての貴族生徒は実力不足以前の問題だ。低位(クラス)魔法を良くて3つか4つ使えるだけの、実力はF等級(ランク)冒険者の魔導師にも劣る貴族生徒達ばかりだ。そんな彼等が必死に努力をする平民の生徒と一部の身分が低い貴族生徒を、今も迫害しているとの事だ。その所為で数少ない真面(まとも)な生徒が魔法勉学の妨げを受けているそうだ」

(うわぁ……それは酷いなぁ…)

 前の世界で少なからず必ずと言って良い、学校でよくある生徒同士の(いじ)めと今回の内容をガイアは重ねた。しかし、更にラウラルフ国王が続けた言葉は、ガイアは心の奥底にある憤怒(ふんど)(くすぶ)らせる事実だった。

「そしてそれを抑止し正す役目である全教師までもが、そんな彼等を迫害してたそうだ」

(な…!)

 バーレスクレス魔導学院に通い必死に魔法を学ぼうとする数少ない生徒が、大多数の地位と権力とういう数の暴力に晒されている嫌な事実にガイアは顔を(しか)めた。

「それは聞き捨てならんのう」

 エルガルムはその事実を聴き、眉を(ひそ)める。

「そして此方からの言及に対する返答は今も無く、学院の教師共は必ず1日に最低2回は集っては、私の提示した学院での規制を取り下げと魔導学院を存続させる不毛な会議ばかりをしていたとの事だ」

 彼等全教師側は王命を無視し、更に国王陛下の出した提示を取り下げさせて、何が何でも魔導学院を存続させようと躍起(やっき)になっているのだ。

 彼等の私利私欲の人生を護ろうとするその行為は(すなわ)ち、国王陛下に対する愚かな反逆行為をするのと同義である。

「あーらま。随分と必死に無駄な足掻きをしてるのねぇ、あのお馬鹿達。努力をする方向を完全に間違えてるわねぇ~」

 ベレトリクスはそんな私利私欲の名ばかり教師勢に対し呆れると同時に、そんな彼等の無駄に必死に足掻く滑稽(こっけい)さに嘲笑(あざわら)うのだった。

「ベレトリクス殿の言う通り、奴等は努力する方向を間違えてる。そしてその教師等の魔導師としての実績記録を調べた結果、上位(クラス)の魔法を扱える等というあからさまな虚偽の実績記録である事が判明した」

「実績記録は魔導学院の教師として就くには、必ずその実力を実戦で試される筈。彼等に偽装工作をする(すべ)を持っているとは思えないな…。誰かの手引きによるもの、という可能性が一番に上がりますね」

「正解だ、フォルレス侯。その偽装の主犯はあのダダボランだ」

彼奴(あいつ)か…」

 実績記録の偽装主犯の名を聞いたレウディンは、呆れた表情を浮かべながら、内心に僅かながら生じた苛立ちを抱くのだった。

(彼奴かい…)

 ガイアも呆れた表情を浮かべるのだった。

 ダダボラン・ボズド・デベルンスが彼等教師勢に実績記録の偽装を手助けしたのは、息子のガウスパー・ドウブ・デベルンスを常に魔導学院の生徒として優秀だという虚栄を作らせる為に裏取引をしていたのだ。

 というよりは、自分の息子は既に優秀だから、(しか)()き相応の待遇を貰って当然だという考えによる動機だ。

 更にはバーレスクレス魔導学院に在籍していた教師という肩書きだけの古参勢の実績記録をも、高実績という虚栄に塗り変えていたのだ。

 魔導学院の全教師は悩む事も躊躇(ためら)う事も一切無く、彼との取引に応じたそうだ。

 魔法が使えるだけという虚栄の(きら)めきを放つ綺麗な鍍金(メッキ)で、魔導師としての質の悪さを隠す為に塗り潰し、己を手練れの魔導教師という偽りの地位と薄汚い権威を私利私欲の為だけに利用し、黒く甘い裕福な魔導師人生を堪能していたのだ。

 そして彼の息子であるガウスパーが魔導学院に入学した際、教師全員は全力で彼の馬鹿息子を過剰な(まで)に優秀だと持ち上げ、彼のやる事為す事全てを正しいと讃えた。

 そこにシャラナという神聖系統を使える出世する為の素晴らしい駒が学院に入って来た時期は、絶頂に達する程の幸運が転がり込んで来たと、彼等は黒く薄汚い歓喜を上げた。

 しかし、現在の彼等教師勢は人生崖っぷち状態へと一気に転がり落ち、後1、2歩後ろに退()いてしまえば、二度と這い上がれない不幸のどん底人生へと転落してしまう現状に追い込まれているのだ。

 そして彼等は、魔導教師としての実績記録の偽装が完全にバレてしまっている事など今も知らぬ儘、無駄な抵抗という間違った努力をし続けているという訳だ。

「なるほどのう。それで前にガイアについて調べに行った時に、馬鹿共の内の1人がしつこくシャラナの事について催促してきた訳か」

「それはつまり、私の娘を学院存続の為の道具として利用しようとしていた、という解釈で宜しいのでしょうか…?」

 エルガルムから聞かされた内容に、レウディンは心の奥底にある憤怒を(おもて)に浮かべ、怒りに満ちた声音で静かに口にする。

「間違い無いじゃろ」

「ほぅ……」

 そして更に殺気のオーラをじわじわと全身から漂わせ、憤怒の目を更に鋭く非常に恐ろしい目付きへと変えた。

「私とフィレーネの娘を道具として利用しようとするとは良い度胸だ……能無しの教師共め…!」

(ひぇ~……滅茶苦茶(こえ)ぇ~…)

 レウディンの怒りの殺気はまさに業火だった。そんな彼のが放つオーラを業火の様だと幻視したガイアは恐怖を感じ、確信のような理解を抱く。

 娘を溺愛する父親を怒らせると、滅茶苦茶恐ろしい存在に為るのだと。

「でも良かったわ、あんな学院から娘を連れ出して貰って本当に助かりました。エルガルム様には本当に感謝しきれません」

「なぁに構わんともフィレーネよ、寧ろ御主等の娘じゃから助けるべきじゃと連れ出したまでじゃよ。とは言っても、シャラナ以外にも連れ出すべき真面な生徒等は居たがの…」

 エルガルムはシャラナを学院から連れ出した時に見掛けた、真面な生徒の(わず)かながらの陰鬱(いんうつ)な表情を思い返す。

 彼等も連れ出す事は出来なくは無かった。

 しかし、エルガルムでもそんな彼等全てを抱え込める訳ではない。

 最優先で連れ出すべき者を1人連れ出す事で精一杯だったのだ。

 そして最優先で連れ出したシャラナを真に優秀な魔導師として鍛え上げ、魔導師としても貴族としても立派な存在にすれば、腐った貴族達を淘汰(とうた)する事の出来る。そう考え、エルガルムはシャラナを連れ出したのだ。

「正直、今も罪悪感を抱いておる。考えてもみよ、儂はシャラナを他の馬鹿な貴族共を牽制出来うる正しき貴族魔導師に育てる為に連れ出し、他の数少ない真面な生徒を見捨てた。じゃから儂も、御主の娘を利用しようとした様なものじゃよ」

「何を(おっしゃ)いますかエルガルム様。娘を立派な魔導師へと育てて頂いた事には深く感謝しています。王都内で今の殆どの貴族達に対し、娘が影響力のある立派な魔導師に成らなければ、私利私欲な貴族達(奴等)に如何利用された事か。ですからフォルレス家の当主として、そして父親として、娘が何方の意味でも立派に成る事は嬉しくも望ましい限りです」

 レウディンは慌てて己を自責するエルガルムに対し、それは決して間違いでは無いとフォローする。

「そうですよ先生! 私は生まれながらの貴族の1人です! ですから(むし)ろ、先生の言った影響力のある立派な由緒正しい魔導師として、そして魔法を民を護る為の力であるのが本来の魔法を扱いし貴族である事を、教えて頂いた事に感謝しています! 利用されただなんて思いません!」

 シャラナは自分を無能な学院から連れ出し、本当の魔法学を教授してくれた師であるエルガルムに真っ直ぐな思いを伝えた。

「済まんのう、シャラナよ」

 エルガルムは笑みに申し訳ないという複雑な思いを浮かべ謝罪する。そして彼女の精神的な成長に嬉しく思い、そして確信した。

 この子は間違い無く、全ての民と王に信頼される立派な貴族魔導師に()るだろうと。

「実に良き立派な貴族令嬢だな、フォルレス侯よ」

「はい…! 私も娘の成長を嬉しく思います!」

 レウディンは娘の成長ぶりに感激と嬉しさの余りに涙を流すのだった。

「本当に立派に成長したな…シャラナ。父さんは嬉しいぞ」

「ほら、貴方(あなた)。国王陛下の前ですよ」

 そんな夫のレウディンの顔に、フィレーネは綺麗な手巾(ハンカチ)で涙を拭うのだった。

(本当に善い子だなぁ、シャラナは)

 ガイアはそんな彼女の立派な姿を大きな瞳に映し、内心でうんうんと頷き関心するのだった。

「あらあら、これはシャラナの将来が本当に楽しみねぇ」

 ベレトリクスは普段の僅かに浮かべる気怠そうな顔に、愛らしいニヤニヤした表情を浮かべる。

 ラウラルフ国王は頭の中でシャラナを魔導師としてだけでなく、貴族としても高く評価しながら彼女の将来という今後の未来を考えていた。だが、流石に()だ早過ぎると思い、捕らぬ狸の皮算用を途中で止めた。

 しかし、何もして上げないのも如何(どう)かと思い、せめて彼女の将来に繋がる布石を与える事が出来ないだろうかと思案する。

(…! そうだ、今回の件なら)

 ラウラルフ国王はシャラナに送る将来への布石を閃き、今回の案件を交えて話し出した。

「フォルレス侯よ。今回の魔導学院の案件だが、彼女に手伝って貰おうと考えている」

「シャラナにですか? それはいったい如何いった理由でしょうか?」

「うむ。フォルレス侯も知っているとは思うが、奴等は決して己の弱さと愚かさを余り認識しない連中だ。それ(どころ)か、(いま)だ魔法が使える貴族であるが故に、己は強者であると間違った自己解釈をする。まぁ、デベルンス家を粛清(しゅくせい)した事によって奴等の傲慢(ごうまん)さはかなり萎縮した。御蔭で今なら、魔導学院を撤廃させる事が可能だろう」

「お、(ようや)く取り潰せそうか」

 エルガルムはあの無能学院を潰す日が(ようや)く訪れたと嬉しく思い、パッと明るい表情を浮かべた。

「まぁな。しかし、先程学院の現状を話した通り、学院教師の奴等は今も此方(こちら)の提示に対する返答を未だに先送りしていてな。魔導学院をこれまで通り存続させようと無駄な悪足掻きをしている所為で、撤廃決行の段階にまで中々進まなくてな、後少しの所で停滞しているのだよ」

「なーんだ、じゃあもう後少しなら今から直接実力行使で潰した方が手っ取り早そうね」

(おぅ……その実力行使、絶対魔法的な何かで潰す気だ…)

 物騒な事をサラッと発言するベレトリクスに、ガイアはそれを決行する未来という予想を頭の中で浮かべ、学院の悲惨な未来を想像した。

「ならば私も全力を(もっ)て実力行使します!」

(わー、この人も潰す気満々だー)

 レウディンの迷いも躊躇いも無い真っ直ぐな学院撤廃宣言をする。それを聞いたガイアは彼が学院を徹底的に潰す――――いや、学院を完全に灰に成るまで灼熱の業火で焼き尽くす彼の姿を想像するのだった。

「まぁ落ち着け、フォルレス侯よ。私の権限で取り潰す事は可能ではあるが、ただあの学院を強引に潰しては教師側は納得しない上に、それを横暴だと必ずこじつけてくる。だから奴等が決して否定しようが無い現実を突き付ければならない」

 そしてラウラルフ国王は、シャラナの方へと視線を動かす。

「そこでシャラナ嬢の出番だ」

何故(なにゆえ)…私なのでしょうか?」

 シャラナはそこで何故(なぜ)自分なのかを、余り理解出来ていなかった。

 そんな彼女以外は、その理由を直ぐに理解をした。

(ああ! そういう事か)

 ラウラルフ国王の語った内容に、ガイアも理解をした。

「なるほどのう、正式な決闘の場で実力行使をする訳じゃな」

「その通りです、エルガルム殿。これ以上の言葉を交えるのはもはや無意味。ならば、魔導学院を存続するに値する教師か否か、実力で示して貰うまでだ」

「ああ、要は教師勢の馬鹿共をシャラナが実力で叩きのめせば良い訳ね。それ良いわねぇ」

 それは面白そうだと、ベレトリクスはちょっと悪い笑みを浮かべた。

「実力を示して貰うというよりは、()()()()()()()()()()()()、という所でしょうか」

「そういう事だ、フォルレス侯」

 ラウラルフ国王とレウディンも、ニッと悪巧みの笑みを浮かべた。

「つまり、私が魔導学院の教師全員に模擬試合で勝てば良いという事ですね」

「その通りだ、シャラナ嬢よ。元生徒であった君が教師共に圧勝すれば、流石の奴等でもこれ以上の言い訳は出来なくなる筈だ。君が奴等に勝った事実と奴等の不正の証拠をその場で同時に突き付ければ、納得がいかなかろうと学院撤廃が正式に決定出来る訳だ。これで異を唱えるなら、反逆の意思有りと見做(みな)し捕らえる事も可能だ」

 そしてそれは、貴族魔導師の意識改革の最初の一歩となるのだ。

「エルガルム殿の下で修業を積んだのだ、負ける事は無いだろう。しかし、奴等が下らぬ卑怯な手を使わないとは限らんからな。それを前提に、教師共を模擬試合という正式の場で完膚なきまでに叩きのめしてくれ」

「は…はい! 御任せ下さい、国王陛下!」

 シャラナは頭を下げ、国王陛下から今回の大役を引き受ける意を示した。

「うむ、頼んだぞ」

 ラウラルフ国王は笑みを浮かべ頷く。

「では今日は、此方で晩餐(ばんさん)を用意をしよう。急に呼び出した僅かながらの詫びと是迄(これまで)の礼を含めてな。晩餐後の帰り迄は王城内で自由に過ごしてくれ」

「ありがとう御座います、国王陛下」

 レウディンは代表として頭を下げ、ラウラルフ国王からの温情を受け取る意を示した。

「おお、それはありがたいのう。ならばシャラナよ、魔導学院の教師共との模擬戦に向けて早速練兵場を借りて修行といくかのう」

「はい! 先生!」

「ではガイアよ、またシャラナの相手を頼む」

「ンンンンンー」(勿論やるやるー)

 ガイアは声を発し、シャラナの修行相手を承諾の意を示した。

「あっ、そうだ。ならフォビロド呼ばなくっちゃ。前に約束してたからねぇ」

「なら丁度良い。今日発見した自動型(オートタイプ)動像(ゴーレム)の動作機能の組み込み方法を伝えるつもりじゃったからの」

「じゃぁ先に行ってて。私がフォビロド呼んで来るから」

「うむ、頼んだ」

 ベレトリクスは先に1人で玉座の間から堂々と退出し、フォビロド魔導師団長を呼びに行った。

「さあ、儂等も行くとしようかの。ではラウラルフよ、また晩餐での」

 エルガルムはラウラルフ国王にそう言い残し、残りの全員を引き連れて玉座の間を後にしようとした。

「あーそうだ、エルガルム殿。最後に1つ訊きたい事がある」

「ん? 何じゃ、訊きたい事とは?」

 ラウラルフは何かを急に思い出したかの様に、エルガルム達を引き止めた。

 そしてラウラルフは、彼等が玉座の間に訪れた時から、いの一番に訊きたかった事を口にした。

「今更なんだが、神獣様の姿、何か凄い変わってないか?」

(え、今それ訊く!?)



 最後に残ったラウラルフ国王も玉座の間から退出し、王城内の広く長い廊下をたった1人で歩き自室へと向かって行く。

(さてさて…これで漸く大きな悩みの種を全て取り除く事が出来る)

 ラウラルフは心からの安堵(あんど)を面に浮かべた。

(今迄は何方にもかなり手を焼き中々進展する事が無かったが、今は非常に順調に改正が進み出した)

 そしてその急進展の切っ掛けともいえる存在を、無意識に頭の中に浮かべた。

(やはり、この幸運は神獣様によるものなのだろうな)

 幻神獣フォルガイアルスが王都アラムディストに訪れた瞬間から、今まで停滞していた問題が良い方向へと急変し出した。

 悪徳貴族デベルンス家に対し、幻神獣フォルガイアルス自らが悪しき愚者に悲痛な罰を下すその記録映像を観た時は、ラウラルフを含む、その時その場に居合わせていたフォビロド魔導師団長と幾人の近衛(このえ)と共に目を見開き、今迄に無い驚愕(きょうがく)を味わった。

 その時は彼の者が神に等しき存在である事など知らなかった。

 幸運が我々に舞い降りた。

 その事にラウラルフは素直に歓喜した。

 漸くあの悪徳貴族を処断する事が出来ると。

 そして謁見の場で賢者エルガルムが、彼の者が偉大なる幻神獣にして大地の化神であると告げられた時、我々に舞い降りた幸運は偶然によるものではないと悟った。

 その幸運は、幻神獣フォルガイアルスから(もたら)されたものであると。

 そしてそれは無辜の民達にも齎され、生命(いのち)と恵みを救済されたのだ。

(幻神獣フォルガイアルス様に齎して下さったこの幸運、決して無駄にしてはならん)

 ラウラルフは幻神獣フォルガイアルスに対し、心の底からの深い感謝と敬意を抱く。

「父上!」

 父上と呼ばれたラウラルフは歩みを止め、声の主の方へと振り向く。

 振り向き視界に映ったのは男女2人だ。

 男の身に(まと)う上質な衣服は豪華ではあるが、決してキンキラキンな派手さは無く、それが逆に尊厳さを感じさせる上品な雰囲気を醸し出していた。

 太陽の光で煌めき金色の髪、そして女性の誰しもが振り向き見惚(みと)れてしまうであろう美しく整った顔立ちに、薄緑色の瞳が宿っている。

 そして彼の隣に居る女性は全身を、美しく清楚(せいそ)なドレスで身を包んでいた。長く(つや)やかな白金髪(プラチナブロンド)は、(くび)れた腰にまで流れ落ちている。

 頭には白金を基調とし金の美麗な細工を施され、真ん中に大粒の金剛石(ダイヤモンド)()め込まれた女性用の宝冠(ティアラ)を乗せていた。

 世の男性が必ず見惚れる美麗で優しく穏やかな顔立ちに、淡い水色の瞳が宿っている。

「おお、戻ったかバルディス」

 ラウラルフは笑みを浮かべ、自分の息子――――バルディス・ウィドネル・フルード・ベレガルズ王子の下へと歩み寄った。

「ダウトン鉱山国との外交は如何だった?」

「はい、対ゴルグドルグ独裁国の同盟はしっかり締結させました。ガウバル王は(こころよ)く承諾して下さいました」

「うむ、御苦労だった。済まないな、私の代わりに行って貰って…。それにリフェーナ、わざわざバルディスと共に赴いてくれて苦労を掛ける」

「良いのですよ、貴方(あなた)

 ラウラルフの妻――――リフェーナ・ミシュル・フルード・ベレガウス王妃は、柔らかな笑みを浮かべた。

「それにずっと王城に居るのは私もバルディスも退屈ですから、とても有意義な時間を過ごせたわ」

「母上の言う通り、私も同じです。あんな魔導学院へ通うよりもずっと有意義です」

 バルディスは腕を組み、ムスッとした表情を浮かべた。

 彼も魔導学院の生徒として、形だけ在籍はしている。

 しかし、入学初日で魔導学院の水準(レベル)の低さ―――いや、それ以前の酷さに呆れ、それ以降は外交で多忙という理由を実際に作り、それを正当な理由として学院に一切通わない様にしている。

「ああそうだ。その学院なんだが、もう直ぐ撤廃する事が出来るぞ」

「それは本当ですか!」

 ずっと学院通いを回避していたバルディスは、そんな朗報にぱあっと明るい表情を浮かべた。そして直ぐに疑問の表情へと変え、父親であるラウラルフに尋ねた。

「でも如何やって? 以前父上が奴等に規制を提示してから既に約4ヵ月、今も一斉返答が無い筈ですよね? その所為で撤廃が中々進展していないのは存じていますが、学院撤廃が急進した要因はいったい何なのです?」

 息子の疑問に対し、ラウラルフはニッと笑い嬉しそうに告げた。

「そうだな、帰って来たばかりで未だ知らなかったな。今から2週間程前、あのデベルンス家の犯罪の証拠を掴み、処断する事が出来たのだよ」

「あの金の亡者の一家をですか!」

「ああ。奴を処断した事によって、私利私欲な貴族共に抑制としての大きな影響を与える事が出来た。無論、学院の教師共にもな。本当に随分と時間が掛かったものだ。これで漸く貴族達の意識改革の第一歩を踏み出せそうだ」

「父上、もしや学院の撤廃が今迄進まなかったのは、デベルンス家が関係していたのでは」

「流石は我が息子、鋭いな」

 バルディスは実に聡明な息子だ。本人にとって余り好まない帝王学はしっかりと学び吸収し、今では他国の王と外交を巧みにこなせる様にまで成長した。

 間違い無く彼は、生まれながらの王の素質を有していた。

 そして政治関係とは別に、バルディスは帝王学よりも魔法学の方が1番好んでおり、一流の魔導師を目指す事に力を入れている。

 魔法に関する知識を知り、1人練兵場で魔法を試し訓練するその姿は煌めき、何よりその輝く表情は夢に向かって真っ直ぐ突き進む意志が溢れ出ていた。

 そんな息子に対し、王としてだけでなく、父親として誇りに思うのだった。

「学院の教師共の実績記録は全て偽装であり、その主犯がダダボランだったという訳だ」

「なるほど。つまりその不正の繋がりと偽装の証拠を掴んだ故に、学院撤廃への方針が一気に進んだ訳ですね」

「その通り! そして後は奴等が反感を起こせぬ様、最後に正式な模擬試合で叩きのめした後に撤廃を決行する」

「模擬試合? その模擬試合は誰が闘うのです?」

 王妃のリフェーナが夫のラウラルフに問い掛ける。

「フォルレス侯爵家の娘であるシャラナ侯爵令嬢だ。1ヶ月程前、エルガルム殿の下での修行から帰って来たのだよ」

「え! シャラナが! シャラナが帰って来たのですか!」

 バルディスはシャラナの修行からの帰還に、純粋無垢な笑顔を浮かべ瞳を輝かせた。

 そんな嬉しそうな息子に、更なる嬉しい情報を告げた。

「今日フォルレス侯爵家を学院に関する件で王城に招いている。今はエルガルム殿の指導の下、練兵場で打倒魔導学院の教師勢に向けて修行を始めている頃だろう」

「おお! 賢者エルガルム様との修行!」

 バルディスは以前に1度だけ、魔導学院入学の初日でシャラナを学院内で見掛けた事があり、その時に彼はシャラナに対し密かに好意を抱いた。

 言い換えれば――――一目惚れである。

 他の傲慢な貴族とは全く違った由緒正しき貴族令嬢である彼女の態度と立ち振る舞い――――決して傲慢に為らず、欲に溺れず、魔導師として己が意志を貫き、たった1人で研鑽に励むその姿にバルディスは感心を抱き、より心の内に生まれた彼女への好意が大きく為った。

 そんなバルディスは、他の貴族連中に付き纏われる彼女の為に己の権力を行使し助けようと考えたが、それを直ぐに頭の中から追い遣った。

 何故バルディスは彼女を助ける事を止めたのか、理由は2つ在った。

 前者はシャラナの意志を侮辱(ぶじょく)する行為になると感じたから。

 後者は己の権力を個人的な感情と理由で行使する行為は、自ら傲慢な貴族達と同水準(レベル)へと堕とす事であるから。

 だからバルディスはその日以来、そんな彼女に恥じぬ様、王族として余り好まない帝王学を必死に学び、今では王子の身でありながら他国の王と外交をこなせる未来の国王として、己の精神を強く成長させた。

 そしてそんなバルディスに、与えて(しか)()き幸運がやって来た。

 今は此処王城内の練兵場で、バルディスが好意を抱く相手が自分の好きな魔法の修行をしているという、滅多に舞い降りて来ない幸運に喜び、今直ぐ会いに行きたいという焦る気持ちが溢れ出していた。

「ならば私も賢者様と彼女に御挨拶を、そして私も修行に参加しに早速行って参ります!」

「おお待て待て! もう1つ言わなければならん重大な事がある」

 シャラナの下へ急ぎ向かおうとしていたバルディスを、ラウラルフは慌てて止めた。

「重大な事? 先程申された2つの件よりもですか?」

 父親の呼び止められたバルディスは振り返り、デベルンス家の処断と魔導学院撤廃の件よりも重大な知らない内容に対し、疑問と少しながらの好奇心を抱き問い掛けた。

「そうだ、この世の誰もが驚愕する重大な事だ」

「その重大な事とはいったい何なのです?」

 王妃も疑問を抱き、夫に問い掛ける。

 2人の問いに対し、ラウラルフは驚愕の内容を告げた。

「1ヶ月程前にシャラナ嬢と帰還したエルガルム殿と共に、我が王都に神獣様が訪れたのだよ」

 王子バルディスと王妃リフェーナは目を丸くした。

「神獣……!?」

 流石に王である父親のその言葉を、バルディスは信じ切れなかった。というよりも、幻神獣という御伽噺(おとぎばなし)でしか耳にしない現実離れした夢幻の存在が現実に居て、しかもこの王都に訪れたなどと普通は信じられる訳が無かった。

 だが、目の前に居る父ラウラルフの表情からは、自分を揶揄(からか)っている様には見えない自身に溢れた笑みを浮かべていた。

「まぁ、いきなり言われても信じられんのは解る。私もエルガルム殿に()(もの)の正体を告げられた時は半信半疑だった。だが、それは一瞬で消し飛んだ。賢者エルガルム殿は信頼出来る御方だ。わざわざ謁見の場で私に対し、偽りを語る御仁ではないからな」

 ラウラルフは前の謁見で、賢者エルガルムの超弩級(ちょうどきゅう)の発言を思い返しながらうんうんと頷く。

「何より、ソフィア教皇殿も彼の者を幻神獣であると仰っていた」

「教皇猊下が!!? でっ、では父上! その神獣様は今何処に!?」

 信じ切れないから半信半疑へ、そしてバルディスは自分の父は訳の分からない空言を言う王ではない事を思い返す。何より決定的なのは、ソフィア教皇が断言したという事実によって、半信半疑は信ずるへと変わった。

「喜べバルディス! 神獣様も今、我が王城に居るぞ!」

「な…!!」

 父からの吃驚(ビックリ)爆弾発言にバルディスは思わず口を半開きにし、驚愕の表情を浮かべた。

 リフェーナも驚きで開けてしまいそうな口を両手で(おお)い隠す様に抑え、驚愕の表情を浮かべるのだった。

「そして神獣様も同じく練兵場に居るぞ!」

「れ…練兵場に…!」

「さぁ、行って来い! これは幸運や奇跡以上の滅多に無い機会だ! 私も後から様子を見に行く!」

 ラウラルフは笑みを浮かべたまま告げ、バルディスの好奇心を促すのだった。

「はい!! 行って参ります!!」

 シャラナに対し抱く好意と、幻神獣という偉大にして神聖な未だ見ぬ存在に対する好奇心を面に浮かべ輝かせながら、バルディスは父親と母親の下から離れ、全力疾走で王城内の練兵場へと向かって行った。

 彼の走り去る後ろ姿を見届けた後、リフェーナは夫の方へ顔を向けた。

「私も今から神獣様の下へ先に行ってみます」

 リフェーナも心の底から、幻神獣という未知の存在に対する好奇心が溢れ出すのだった。

「構わんとも、行って来なさい」

 夫に了承を得たリフェーナは息子と同じく、練兵場の方へと少し慌てながら歩き向かって行くのだった。

 そして息子の後を追う妻を見送った後、ラウラルフは少し一休みする為に自室へと再び歩き出した。

「さて、後で神獣様の為の晩餐料理を頼んでおかないとな」


 また1人、2人と、新たな(えにし)がガイアの下へと導かれ、幻神獣フォルガイアルスという優しく偉大な光の縁に1つ、また1つと繋がり、偉大な縁は小さな縁に(つむ)いだ祝福の糸を繋いでゆくのだった。

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