明日に向けての充実な日14-1
本日も美しい青空が、天を全て染めていた。
そんな美しい青空に浮かぶ幾つかの真っ白な雲が気流の流れに身を任せ、広大で何処までも続く青空をゆっくりと漂う。
そして美しい青空の下、何処までも続く広大な大地が、静かにどっしりと鎮座する。
ラウツファンディル王国。
王城を中心に造られた都市――――王都アラムディスト。
その王都内の貴族区画のとある場所、由緒正しき名門貴族――――フォルレス侯爵家の大きな屋敷外の敷地内にて、5人の人間と1体の幻神獣が、何かを試行錯誤しているのだった。
「もう……魔力が無くなった…。ガイア、御願い…」
(オッケー。ほい〈魔力譲渡〉)
何かの作業で魔力がスッカラカンに為ったシャラナに対し、ガイアは特殊技能〈魔力譲渡〉で自身の膨大な魔力を流し込み回復させた。
「わ…儂も頼む…」
(ほいほーい)
珍しく賢者エルガルムも何かの作業で膨大な魔力がスッカラカン状態と為り、ガイアに魔力供給を御願いする。
「もっと……私にも…もっと…!」
(お…おぅ……)
特にベレトリクスは何かの作業で魔力をスッカラカンにした後、目を見開き怖い顔を浮かべながらガイアに迫り、魔力供給を強請るのだった。
そんな彼等3人が魔力をスッカラカンにしてまでしている作業――――それは動像の作製である。
それも動像の素体となる金属素材を使用して、〈動像錬成〉による魔法的創造だ。
〈動像創造〉による無から創り出した動像とは違い、有から造り出した動像は魔力切れを起こしても消滅せず残り、動力源に魔力を補充すれば再び動かす事が出来る。
そんな動像作製に必要となる大量の金属素材を、いったい何処から仕入れ、若しくは手に入れたのか。
答えは彼等の直ぐ傍に居た。
幻神獣フォルガイアルスだ。
正確に言えば、幻神獣フォルガイアルスの背に生え出ている幾種もの鉱石と原石からである。ガイアの背からは、鉱石と原石が幾らでも生やせる為、動像作製に必要な金属素材の量は充分に確保出来るのだ。
しかし現在、彼等は動像を大量作製しているという訳ではない。
「自動型の動像作製で、こんなにも動作設定を組み込むのが難しいとは思いませんでした」
「直に操作するのとは訳が違うからのう。動作設定を組み込んでない自動型は、只の動かぬ金属の塊じゃからな。こうして細かな行動設定を組み込まなければ、機能しないからのう」
彼等が今行っているのは1体のミスリル製動像に〈機能術式作製〉の魔法で動像に動作術式の設定を組み込み、それを〈魔力回路作製〉によって魔力回路を動力源に繋ぎ合わせ、設定した動作が機能出来る様にする為の、所謂自動型動像の機能作製である。
「此処は攻撃前の周囲状況に対する探知術式を……情報を超高速処理と反射的攻撃行動は……超高速処理術式で動作を円滑化………戦士同様の動作イメージを……ん~、此処は如何するかなぁ……」
そんな彼等の内、ベレトリクスは今も目を見開き妙に怖い顔を浮かべ、ほんの少しだけ狂気に近い不可視の悍ましいオーラを漏らしながら、ミスリル製動像の動力源にひたすら〈機能術式作製〉を行使し続ける。
作り上げた機能という術式を組み込んでは消し去り、また組み込んではまた消し去り、何度も何度も試行錯誤を繰り返し続けるのだった。
(ベレトリクスのお姉さん……メッチャ怖ぁい…)
ガイアはそんな彼女に全く恐怖はしていないが、内心ちょっとだけ困惑気味の笑み顔を引き攣らせるのだった。
「如何だ、シャラナ。自分専用の自動型動像の出来具合は?」
シャラナから少しだけ離れた場所、樹木の下で椅子にゆったりと座り、動像作製に奮闘する愛娘の様子を父レウディンが観ていた。
「物凄く難しいです…。如何しても納得がいく機能設定が思う様に出来ないです…」
シャラナは初めての動像作製――――基盤と言える動像の行動機能の設定を組み込む作業に苦戦するのだった。
「頑張って、シャラナ。ちゃんと設定出来れば貴女を護ってくれる緊急時の戦力になるのだから」
夫の隣で椅子に座る母親のフィレーネも、娘の奮闘を見守っていた。
(……何か、親が自分の子供の様子を観に来る授業参観みたいだなぁ)
両親と娘――――レウディンとフィレーネがシャラナの奮闘を観るそんな様子を、ガイアは前世で幾度かあった授業参観の様子と重ね合わせて見るのだった。そして内心では授業参観で親に観られている子供の心境は如何なんだろうと、ポツリと思うのだった。
(まぁ、それはさておき。次は、と)
ガイアはフォルレス家の親子から視線を戻し、自分の動像製作を再開する。
(此処は敵の攻撃に対する単純な防御だけじゃなくて、回避と受け流しの機能も追加してみるか)
ガイアは奮闘し苦戦する3人とは違い、動像の細かな動作設定を余り苦も無く次々と組み込んでいた。
(此処はこうして……あ、こうすると駄目だな。じゃぁこうかな)
魔法に関して熟練者以上の熟達者である2人――――賢者エルガルムと魔女ベレトリクスですら膨大の魔力を消費しかなり苦戦しているのに対し、何故ガイアは他の3人よりも次々と動像の動作機能をスムーズに設定出来るのか。
ガイアと3人の違い。それは組み込む動作機能での想像の仕方が大分違うのだ。
3人は今迄見て来た記憶――――今回は戦士の動作に関する想像を思い浮かべ、それを頭の中で理論的な文章の様な術式へと変換し、ひたすら組み上げては不要かつ不具合を起こす一部分の機能術式が在ればそれを消し去り、繰り返す。
つまり、膨大な様々な動作1つ1つを細かく術式で組み上げ、長時間もの間で動像の動作機能を作り上げているのだ。
しかし、ガイアは理論的な文章から術式に変換する工程を頭の中では一切していない。
実はガイアは、動像の動作機能の作り方は想像ではなく、感覚から作っているのだ。
今迄見て記憶した他者の動きを自身の感覚に変換し、それを更に術式へと変換し、動力源に組み込んでいる。
そう。ガイアは今迄経験し得た事を頭では無く、身体で記憶した己の感覚をそのまま投影しているのだ。
頭で考え、膨大な言葉を幾つも選択するのではなく、身体で感じ憶えた感覚のみで様々な動作を、まるで動像というロボットに出来上がった動作設定というプログラムソフトをただ入れるだけで、作り上げた動作機能をインストールするかの様に、時間も掛からず簡単に組み込んでいるという訳だ。
ガイアは膨大な言葉から幾多も選択して膨大な一連の動作を機能させる文章を一切組み上げず、己に蓄積された感覚的経験をそのまま想像し、それを術式へと投影している御蔭で難無く細かな動作機能を組み込めているのだ。
もっと簡単に言ってしまうと、動力源という脳に動作機能という動作感覚を記憶させ、組み込まれた各機能全てが作用するように魔力回路という神経を全身に張り巡らせているのだ。
(うん、回避動作機能の設定はこんなものかな?)
そう内心で頷くガイアに、迫り寄る者が居た。
「何で……何で…あんたはそんなにスムーズに出来るの~…」
未だに目を見開き、妙に怖い顔を浮かべた儘のベレトリクスがガイアに迫る様に近寄り、ガイアが造った動像をまじまじと観察するのだった。
(おぅ……。お姉さん…、すんごい顔怖いんだけど…)
そんな彼女を間近で目にするガイアは、また内心で顔を僅かに引き攣りながら困惑するのだった。
「儂もその辺ずっと気になってた所じゃよ。見た感じじゃとしている事は儂等と変わらんが、その動作機能の組み込みが随分違う様に感じるのう」
動像動作機能の設定を一時中断したエルガルムも、ガイアの動像をまじまじと観察しながら考察をする。
「ふむ…。ガイアの動像がどれ程の物か、ちょいと観てみようかの」
エルガルムは顔をある人物の方へと向けた。
「レウディンよ、御主の動像でちょいとガイアの動像の相手をしてくれんか?」
「ええ、構いませんよ。私の所持する動像で宜しければ」
了承したレウディンは椅子から立ち上がり、敷地内の開けた場所へと移動する。その後、レウディンは自分の所有する動像を〈収納空間〉――――基本的な道具からマジックアイテム等を収納している空間とは違う別の亜空間―――――から召喚し出した。
「〈動像召喚〉」
収納別空間に通じる召喚魔法陣を開き、それに応じて魔法陣から1体の真銀の動像が出現した。
「よし。ではレウディンは動像を操作で、ガイアは操作せず動像を自動にしとくれ。念の為に被害が出ぬ様、障壁は張っておく」
(なるほど。まぁ、未だこれ試作途中だけど、ただ動く分なら問題無いかな)
ガイアは未だ動作機能が組み込み途中である自分の真銀の動像を自動起動させた。
(相手を傷付けずに抑え込めば良いから)
ガイアは精神的繋がりで自分の動像に命令を下し、意思を持った動像は頷き了解の意を示す。そして開けた場所へと独りでに歩き移動をした。その動像は機械的な固い動きではなく、まるで人間の様に悠々とスムーズな足取りで配置場所へと歩いて行くのだった。
レウディンの動像とガイアの動像が其々一定の距離を保ち配置に着いた後、エルガルムは2体の動像を囲い閉じ込める様に防御系魔法を発動させた。
「〈魔力大障壁〉」
2体の動像の周囲を広めに囲い、魔力で構成した隔壁を半球状に形成する。
前の訓練試合でシャラナが使用した中位級の防御系魔法だが、熟達な魔導師であるエルガルムが行使すれば、通常以上の効力を発揮させる事が出来る。故に、隔壁内のガイアが造り上げた動像の力にそう容易く破られる事は無い。
「では、始めてくれ」
「はい。では久々に、やってみましょうか!」
開始の合図の後、レウディンは特殊技能も使用した操作と制御で自分の動像を動かし、ガイアの自動型動像に向かって勢い良く迫る。
レウディンの動像が右拳を振り被り、ガイアの自動型動像に向けて拳を一直線に突き出し殴り掛かる。
攻撃の直前、自動型動像は余り動かずに身体を傾け、相手動像の右拳をいとも簡単に躱したのだ。それも拳による攻撃が当たるか当たらないかのギリギリな境目で。
「何と!」
「うっそ」
エルガルムとベレトリクスは、その最小限の動きによる回避行動に瞠目し、驚愕を面に浮かべた。
しかし、未だそれだけでは終わらなかった。
ただ躱したのではなく、迫り来る拳を手で払う様に逸らし、重心が完全に前に傾いた所で腕を掴み、そのまま前へ押し倒すと同時に背後に回り込み、空いた左腕を掴み抑え、動かせない様にガッチリとレウディンの動像を見事に拘束するのだった。
「こっ、これは! 格闘士の動き!」
あっさり自分の動像が拘束され無力化された事よりも、自動型動像が流れる様な体捌きの動きに、レウディンも驚愕した。
「いや、単なる格闘士の動きとは違う! あの動きは武術士のものじゃ!」
エルガルムは驚愕の後、緑色の瞳を探求心で輝かせ、動像の新たな強化の可能性を歓喜に近い思いを抱くのだっだ。永年の魔導探求人生で決して自動型動像では出来ないだろう動作機能の設定を、今目の前で幻神獣フォルガイアルスが証明してくれたのだ。決して不可能ではないという事を。
「それまで! それまでじゃ!」
そして両者の動像はピタリと動きを止めた。
エルガルムは慌ててストップ宣言をした後、魔法による隔壁を解除し、速足でガイアの自動型動像に近寄った後に再び観察し出した。
そんな彼の表情は、好奇心に満ち溢れた笑みを浮かべていた。
「自動型にこの様な動作を実現出来るとは…! いったいどの様に組み込んでおるのじゃ!? 頼む、ガイアよ! 教えてくれ!」
エルガルムは探求心に満ちた新発見に対し、無意識に浮かべる笑みをガイアに向けながら〈機能術式作製〉での設定方法を教授して欲しいと、ガイアに熱意の込もった嘆願をするのだった。
(えっ!? お、おぅ……そんなにこれ凄かったの?)
ガイアは彼の迫り来る熱意に少し驚き、自分の設定した動像の動作機能がそんなに凄いのかと疑問に思い首を傾げた後、何時も通りに紙と試し書きの羽根洋筆を取り出し、大きな岩石の指で摘まみ器用に文字を綴る。そして書き綴った内容を見せた。
〝単純に言うと感覚。僕は今まで体感し記憶した感覚をそのまま想像して、それを〈機能術式作製〉で術式に投影させてから動力源に組み込んでいるだけだよ。〟
ガイアの書き記した内容を見ようと、他の4人も近寄った。
「感覚…。感覚…!?」
エルガルムはその内容に目を見開き驚く。
「え、まさか感覚だけって意味なの!? たったそれだけの想像であんなに速く正確に動作機能を組み上げられるものなの!?」
勿論、ベレトリクスもこの内容には信じられないと言わんばかりの表情を表すのだった。
それもその筈、今迄の動像に関する常識――――動像の動作機能の組み込み方がかなり違っていたのだ。その内容を見れば、今迄築き上げ培ってきた常識が覆されるのだから当然の反応である。
「〝今まで体感し記憶した感覚〟とは、如何いう事でしょうか…?」
シャラナはその内容を今一ピンと来ず、余り理解が出来ていない様子だった。
「こんな大雑把な方法であの様な自動型動像を造り出したのか…。う~む……体感し記憶した感覚を投影とは、いったい何なのだろうか?」
レウディンもその内容に頭を悩ませ〝体感し記憶した感覚〟という言葉から必死に考察をするのだった。
(……そうか。僕の遣り方と皆の遣り方って、かなり違うのか)
ガイアは、彼等が何故そこまで自分の動作機能の組み込み方に驚くのかを理解した。
(うーん…。ならこれじゃぁ、あんまり伝わらないかぁ)
言葉は通じたがその内容――――動作機能を組み込むコツに関する内容は余り伝わらなかった事に、ガイアは如何やって皆に教えようかと悩む。
「その〝体感し記憶した感覚〟を如何やって投影してるのかしら?」
皆と一緒に考察するフィレーネの疑問を耳にし、ガイアは閃く。
言葉で全てが伝わらないなら、実際に見せて伝わらなかった残りを伝えれば良いのでは、と。
(まぁ、やるだけやって見せるかな)
ガイアはもう1体の動作機能が組み込まれていないミスリル製の動像をみんなの前に出し、ちょっとした簡単な実演をしてみせた。
先ずは最初に動像と自身を、魔法で連動させる。
ガイアが右腕を上げながら前に出すと同時に、動像も右腕を上げながら前に出す同じ動きをして見せる。そして右腕を後ろに引きながら拳を握り、一気に突き出す、謂わば正拳突きの一連動作を見せた。
ここまででは未だ何を伝えようとしているのか、流石に誰も直ぐ理解は出来ていない。
その一連動作の後、ガイアは〈機能術式作製〉を発動させる。
大きな岩石の掌に魔法陣が浮ぶ。しかし、その魔法陣内には何の術式も描かれていない只の輪っかである。
ガイアは掌に浮かべた空っぽの魔法陣内に術式を組み込ませた。
「これは……今さっきの一連動作が組み込まれた動作機能の術式か!」
エルガルムとベレトリクスは、空っぽの魔法陣に浮かび上がった術式内容を瞬時に見抜き理解した。
「そうか!〝体感し記憶た感覚〟とはこういう事じゃったのか! 人は感覚で身体を動かしておるから、それをそのまま投影させれば簡単に組み込めるという訳か!」
「なるほどねぇ~。動作機能は体感で得た感覚経験をそのまま想像しちゃう方が速い上に、術式言語では表せない細かな動作も設定出来るって訳ね。盲点だったわぁ~」
是迄、魔法に関する膨大な知識を得て培ってきたエルガルムとベレトリクスは、ガイアの遣り方を見て直ぐに理解と納得を抱いた。それと同時に、今迄この様な簡単な方法に気付かなかった己の視野の狭さを自嘲するのだった。
「こんな方法があったなんて…。全く思い付きもしませんでした」
「私もだよシャラナ。こんな方法は私も今迄気付きもしなかったよ」
「そうよねぇ、こんな方法初めて見たわ」
フォルレス親子3人も揃って新たな動作機能の組み上げ方の発見に、驚きを含む声を其々が口にするのだった。
彼等がそこに気付かなかった理由、それは常識という固定観念による見方と考え方だ。それ故に彼等にとって、ガイアの方法に辿り着けなかったのだ。
「…本当にこの子は凄い魔法のセンスを持ってるのね」
シャラナはガイアの方に顔を向け、その天才を超える才能に対し、僅かながらの嫉妬がポツリと浮かぶ。
だが、ガイアは幻神獣だ。人とは異なった発想を持っているのは当然なのかもしれないとシャラナは直ぐに納得し、ポツリと浮かび出た極小の嫉妬はあっという間に浄化されるのだった。
「ふむ…。動作機能をより良く組み込む際に動作体感を投影するならば、動像操作での体感から得るのも1つの手かも知れん。良しシャラナよ、これを終えてから動像の操作制御を徹底的に訓練するぞ。更なる基盤固めじゃ」
「はい、分かりました」
「相手はやはりガイアが一番じゃな。互いに動像を操作し、1対1組手をやって貰おう。ちょいとまた御願いするぞ、ガイアよ」
(オッケーオッケー。任されたー)
ガイアは岩石の親指を立てて了解の意を示し、シャラナの動像操作訓練に付き合う事となった。
「さて! 動作機能を新たな方法で組み込んでみるとするかの!」
「ウフフフ……やるわよ~!」
シャラナの訓練が開始されると同時に、エルガルムとベレトリクスも再び動像の動作機能の組み込みを再開するのだった。
そしてあっという間に1時間が経ち、時間は既に正午と為った。
「やった…! 新しい特殊技能が修得出来た!」
シャラナは動像操作の訓練の末、〈動像操作〉と〈動像制御〉の特殊技能を2つ修得するに至った。更に感覚による自動型動像の動作機能の組み込み方も、基礎的な部分の作製を覚えた。
「ンンー! ンンンンンンンー!」(おおー! やったやった、おめでとー!)
彼女の特殊技能習得という成長に、ガイアは称賛の声を送った。
「ありがとう、ガイア! 貴方の御蔭よ!」
シャラナは不思議とガイアが何を言ったのか理解し、それに対し感謝を告げた。
「出来たぁあああ――――――っ!!!」
(うおっ! ビックリしたぁ!)
ベレトリクスの歓喜極まり狂った様な大声に、ガイアとシャラナは同時に全身ビクッと竦ませ驚いた。
「やっと出来た…!! 遂に出来た…!! 純粋な戦士の戦闘技術の動作機能を組み込んだ動像が遂に出来たわよぉおおおおっ!!!」
そんな歓喜極まった彼女の表情は、キラキラと煌めき輝く満面の笑みが浮かんでいた。
「おお……遂に…儂も遂に新たな自動型動像を造り出せたぞ!」
エルガルムも全力を尽くした後の様な、非常に良い表情を浮かべていた。
だが、未だ2人はそれで満足した訳ではなかった。
「動作機能は組み込めるだけ組み込んだ。後は動作機能試験で確かめて、機能の不具合の有無を確認するだけじゃな」
「じゃぁ、早速試して見ましょうかしら」
ベレトリクスはニヤリとより笑みを強め、早く性能を確かめたいと言わんばかりの表情をエルガルムに向けるのだった。
「勿論じゃとも。何方の新たな自動型動像の性能が上か勝負と行こうではないか」
「へぇ……言ったわねぇ。なら折角の良い機会だから、私の方が動像製作技術が上だって事を思い知らせてやろうじゃない」
ベレトリクスは浮かべる笑みを、何かしら悪巧みを企む様な悪い色を浮かべた。
「良いじゃろう。儂もただ伊達に年を食っとる訳ではない事を教えてやろうぞ」
エルガルムもニヤリと不敵の笑みを浮かべるのだった。
「さぁ、始めようか!」
「さぁ、始めるわよ!」
2人が同時に自分の動像に命令を下し、2体の動像は命令に従い配置に着いた。
先程のシャラナとガイアの訓練に入れ替わり、今度はエルガルムとベレトリクスのちょっとした動像製作技術の優劣勝負が始まるのだった。
互いの自動型動像が同時に動き出し、攻撃を仕掛けようと接近する。更に同時に互いのミスリルの右拳を素早く引き絞り、直後に勢い良く突き出す。そして身体を最小限に傾け互いの拳を同時にギリギリ躱す。
この一連だけで終わらず、互いの動像は軽く後ろへと跳躍して一定の距離を取る。そしてまた互いは同時に接近し、今度は拳や脚などの打撃による近接格闘が始まった。
格闘士の構えから繰り出す無形の拳による連続打撃に対し、東邦の格闘技術――――武術士の独特な構えで、連続猛攻を全て流れる様な体捌きで逸らし躱す。
そして今度は攻防を無理矢理入れ替える様に、正拳突き、掌底、上段蹴り、回し蹴り、裏拳、膝蹴り等の近接無手攻撃の基本的格闘技を流れる様にかつ重い一撃を連続で繰り出す。
その流れる連続攻撃に対し、両腕を盾の様に前方に構え身体を少し丸め、両腕の防御以外の当たり判定を小さくし攻撃を最小限の動きで的確に防ぐ。
そんな攻防を入れ替えながらの一連が何度も繰り返されるが、遅めの昼食時間と為り、エルガルムとベレトリクスの勝負は決着付かずに終わるのだった。
「やっぱり格闘士型だと、近接対応力の広い武術士型に対して今一決め手が欠けるわねぇ」
敷地内の外――――庭の樹木の下で、5人と1体が遅めの昼食を取りながら会話を弾ませていた。
「じゃが、御主の格闘士型は正直厄介じゃったぞ。下手な小細工よりも純粋な無形攻撃方法に絞り込む事によって、相手を牽制し易いからのう」
当然、会話の内容は自動型動像についてだ。
「いやー、何方の自動型動像も、もはや動像とは思えない。まるで巨大な戦士同士の決闘でも見ているかの様でした。しかしエルガルム様、今回の自動型動像の動作機能組み込みに関する新発見には驚きました。まさかこんな簡単な方法があったとは、気付く所か思いも付きませんでしたよ」
レウディンは、今回のガイアから教えて貰った自動型動像の動作機能組み込み方法に対する驚きを含んだ言葉を口にする。
「儂もじゃよレウディン。〝賢者〟と讃えられていながら、こんな簡単な事に気付かなかった己が恥ずかしい程じゃよ」
「それは私も同感。常識っていう固定観念に囚われ過ぎてた所為で、そういう見解が出来なかった私も魔導研究者としては情けないわ。考察視野が狭くなっちゃったかしら?」
「それにしても、如何してこんな方法をガイアはよく思い付くのかしら?」
特殊技能によって身体を小さくし、皿の上に載ったステーキをフォークとナイフを使い器用に切り分け味わい食すガイアへとシャラナは顔を向け、今回の事について問いを投じた。
「あれって如何いった発想からなの?」
問いが投じられたガイアは、丁度切り分けたステーキの1欠片を口に含んだ状態でピタッと静止した後、咥えた儘のフォークを抜き、フォークとナイフを皿の上に置いてから紙と羽根洋筆を手に取り、口に含んだ肉を咀嚼しながら紙に問いに対する答えを書き綴った。
〝身体や何かを動かす感覚から。最初は知識から遣り方を覚えるけど、その後は手探りしながら感覚で覚えていくものだからね。〟
「それって操作に関する事じゃないの?」
シャラナからもう1つ投じられた問いに、ガイアは答えを書き綴った。
〝身体で覚えた感覚をそのまま動像に反映させてるんだよ。簡単に言うと、自分の今まで覚えた動きの感覚を、そのまま動像自身に覚えて貰う感じだよ。〟
「そっか! つまり動像操作の技術を高める事が、自動型動像の動作機能の組み込み技術に繋がるのですね! 先生!」
「その通り。己が培ってきた感覚と経験が、自動型動像の自律意思や自律動作などに深く影響するという訳じゃ」
「もうこれはかなりの自動型動像の作製幅が広がるわよぉ。以前までのは単純な攻撃機能の組み込みだけでもかなり苦労して汎用性が無かったけど、これからはかなりの種類が造れるわよぉ」
ベレトリクスの少し気怠い声に含まれる嬉しそうな声調で語るのだった。
「戦士型は大体造れるし、これなら魔導師型も夢じゃないわよ」
「ホッホッホッホッ! それは実に良いのう! 儂もこれを機に他の型の自動型動像を何体か拵えておこうかのう」
2人は夢でも語り合うかの様に、どの様な型の動像を造ろうか楽しそうに思案するのだった。
「それは拝見出来る時が楽しみですね。そして今後のシャラナの成長が益々楽しみだ」
「ふふ、そうね。今日は2つの特殊技能も習得したのだから、シャラナがどんな魔導師に成るのかが楽しみだわ」
レウディンとフィレーネは最近のシャラナの急成長に嬉しく思い、自分の娘が親である自分を超えた立派な魔導師の未来を想像し、抱く期待を大きく膨らませる。
「未だ未だ魔導師としては未熟ですが、私も必ず御父様と御母様の様な貴族として、恥じない立派な魔導師に成ります!」
シャラナは今も自身の力量を謙遜するが、最近は以前と比べて向上心が大きくなり、それと同時に今迄小さかった自信は強く大きく成長し、決して過信も傲慢さも1滴も混ざっていない、一点の曇りの無い金剛石の如く煌めき輝く堅強な意志へと洗練されていた。
「おや? 儂じゃなくてか?」
「流石に先生の様には成れる気がしません」
シャラナは笑みに困った色を浮かべ、エルガルムの問いを返すのだった。
「あら、残念だったわね~エルガルム。あんたは目標じゃないって」
ベレトリクスは愛らしい悪戯っ子の笑みを浮かべ、エルガルムを揶揄う。
「煩いわい。御主じゃってそうじゃろうが」
「あたしは別に良いのよ。あんたと違って弟子を採る趣味は無いからね」
ベレトリクスは手をひらひら振りながらそう言う。
「何より、この子が一番の目標として既に決めてる人物が居るんでしょ」
「おお、そうじゃったな。ずっと前から彼女を目指してたからのう」
シャラナが幼い頃から目指す憧れの存在――――ソフィア・ファルン・シェルミナス教皇だ。
「はい! ソフィア様は私の一番の目標です!」
シャラナは蒼玉の様な瞳を輝かせる。
「何時か私も、神々に仕える最高位天使――――〝主天使〟を召喚出来る様な神官に成りたいです!」
(あ、また出た。天使の前に何かが付く名称)
ガイアは専用の大きなマグカップに入った上質な紅茶を口に含もうとする前にピタっと一時停止し、以前耳に入った天使の名称について耳を傾けた。
(今度は〝シュ天使〟かぁ。しかも最高位の天使…。何か凄そう……想像が付かないけど)
崇拝から来る憧れが込もったシャラナのある言葉に、エルガルムが否定ではなく訂正の言を口にした。
「シャラナよ、実は〝主天使〟は最高位天使ではないのじゃよ」
「え!? そうなんですか!?」
(あれ? 違うの?)
エルガルムの訂正の言葉に、シャラナは初耳だと驚く。
一方ガイアは〝主天使〟が最高位天使ではないという事実以前に、天使の名称とその意味が未だ解らないまま首を傾げるのだった。
「それは私も初耳ですね。私は天使階級については詳しくは無いですが、〝主天使〟が最高位天使ではないのですか?」
レウディンもその事実には初耳だと、面は僅かながら驚きの表情を浮かべていた。
「あぁ、そういえばそうだったわね。私は神聖系統魔法が使えないから天使は召喚出来ないけど、天使階級に関しては色々と聴いたわ」
「天使階級に関しては、どれくらい御存じなのですか?」
フィレーネはベレトリクスに天使階級に関する問いを投じ、ベレトリクスは知っている範囲を簡単に説明し始めた。
「知ってるって言っても、全てじゃないわ。現在判明している天使階級は下から順に、天使、大天使、権天使、能天使、力天使、そして主天使。神殿や教会に属する聖職者は、必ず学ぶ事よ」
「しかしじゃな、以前ソフィア教皇から聴いた話じゃが、主天使の更に上の最高位階級の天使が存在すると言っておった」
「その天使の名称は何て言うんですか!?」
シャラナは興味津々に上半身を気持ち少し前に出し、エルガルムの説明を聴こうとした。
「それが未だ解らないそうじゃ。彼女が言うには、更に上の最高位階級天使の力と気配は感じるそうじゃが、姿形といった特徴が捉えられないと言っておった。ソフィア教皇は今も、主天使よりも最高位階級の天使を召喚可能にする為、聖職者としての信仰力を更に磨いておるそうじゃ」
「そんな……ソフィア様でも更に上の最高位階級の天使を召喚出来ないのですか」
「儂も最初聴いた時は驚いたものじゃ。主天使を召喚出来るソフィア教皇ですら、未だ届かぬ未知の最高位階級の天使が存在する事実に」
そしてエルガルムは腕を組み、頭を唸らせる。
「その主天使よりも更に上の最高位階級の天使が最高位なのか、それとも未だ更に上の最高位階級の天使が存在するのか、こればかりは聖職者職業を極めた者でなければ解らん未知の領域じゃな」
(なるほど。〝ケン天使〟とか〝ノウ天使〟って天使の階級名の様なものなのか)
ガイアはその天使の呼び方に関し、何となくは理解する事が出来た。
「主天使よりも高位の天使ですか……。いったいどの様な御姿だろうか」
レウディンは主天使よりも高位の天使の姿を、頭の中で想像を膨らまし考察するのだった。
「主天使様よりも上の存在なのでしょ。きっと想像出来ない程の美麗な姿じゃないかしら」
フィレーネも頭の中で、美麗で神々しい姿の天使を想像するのだった。
「主天使よりも上なんでしょ? それもう完全に化け物級でしょ。想像出来ないわねぇ」
「確かにベレトリクスの言う通り、あの主天使よりも上となれば、少なくとも確実にS等級を超える存在なのは間違い無いじゃろう」
(マ……マジか…)
S等級を超える強さ。
つまり、主天使よりも一つ上である未知の天使は幻神獣であるガイアと同等、若しくはそれ以上の強さを秘めた存在である事にガイアは一瞬肝を冷やし、内心僅かながら未知の天使に対する畏怖で冷や汗を流した。
だが、恐れる必要は無い。
強大な力を有するといっても、その未知は天使だ。
天使は善なる者の味方であり、悪行と罪を犯した愚か者から見れば天使は恐怖の存在だ。だが、善行を積み続ける善人にとって天使は、救いの存在にして奇跡の存在と言えるのだ。
特にガイアは、神々に等しき善なる幻神獣だ。
更にこの異世界に転生してからは、多くの無辜の人々に恵みを齎し救済するといった善行を行ってきたのだ。
その強大な力の矛先が自分に向く事は流石に無いだろうと、ガイアは安堵するのだった。
「あ、最高位階級の天使よりも力を秘めた子が此処に居たわね」
ベレトリクスは微笑を浮かべた表情で、チラッと視線をガイアの方へと向けた。
「未だこの子は赤子だけど、生まれた時からS等級の強さを秘めてたからねぇ。成長したら間違い無く、未知の最高位天使なんて超えちゃうわよ。多分身体の大きさもだけど」
「ホッホッホッホッ! そうじゃな、確かにそうじゃ! 未だ赤子でありながら最低S等級の力を有した大地の化神じゃ! 成長すれば最高位天使なんぞ目ではないのう!」
エルガルムは此処にも未だ未知を秘めた最高位天使すら凌ぐ存在が居る事に、楽しそうに笑いながら口にするのだった。
元々、幻神獣フォルガイアルスは最高位天使すら超える、圧倒的強さを秘めた神々と同等の存在である。
現時点でのガイアは、幻神獣としての本来の力は未だ全て備わっていない。それは生まれたばかりであり、成長を始めたばかりなのだから当然だ。
だが、生まれたばかりで最低S等級という、赤子とは到底思えない破格の強さを有していたのだ。
そんなガイアが本来の大地の化神へと完全に成長すれば、もはや等級による強さの区分が意味を成さなくなる絶対的最強の存在――――神々の獣へと成る事は間違い無い。
「儂に寿命が未だ有る内に、この目で見てみたいものじゃ。未だ見ぬ最高位天使の存在、そして幻神獣として成長したガイアの神々しい未来の姿を」
エルガルムは自分で口にした願いが叶う可能性が低いだろうと、見届ける事も知る事も出来ずに寿命を全うしてしまうのだろうと、僅かながらの虚しさを面に出さず、内心に抱き秘めるのだった。
そんな会話の中、シャラナはふと浮かんだ疑問を口にした。
「そういえば、この子はどれ程の永い年月で完全な姿に成るのでしょうか?」
「ふむ。そうじゃのう……少なくとも儂が寿命を全うした後なのは間違い無いと思うが、少なくとも数百年単位ではなかろうか」
「え~、それって私達はガイアの本来の姿を見れないって事じゃないの~」
「仕方なかろうベレトリクスよ。儂等人と幻神獣では寿命の概念が全く違うのじゃから、こればかりは流石に如何しようもない」
(あー…。そっかぁ……僕…幻神獣だから人との寿命が全く違うのか……)
ガイアは人の一生と幻神獣の一生が違う事を耳にし、未だ遥か未来に対し、ジワリと心に悲痛が滲み出るのだった。
大地の化神――――原初の幻神獣フォルガイアルスは世界の誕生から、幾百幾千年と寿命の概念があるのか謎と言える遥か永き時を生き、世界を歩み続けた存在だ。
そしてガイアもその偉大な生命を持って転生し、この異世界に生まれた。
それを理解したガイアは待ち受ける永い永い先の未来で、必ず幾多の者達との寿命による〝死〟という悲しき別れをこの先何度も見る事になるのだ。
そう。何れは、彼等との死別の時がやって来る。
食事での楽しい会話は弾み続ける。
彼等は其々の思いや考えを語る。
自身の将来。
己が愛娘の未来。
国の未来。
未知への探求。
とても楽しそうに互いに語り輝いていた。
(………)
たった1体だけ、必ず訪れる絶対の別れの未来を密かに悲観し、僅かにギュッと心を締め付ける悲しみという痛みを抱き、輝く彼等の会話を聞きながら傍観する。
ガイアは心を悲しみの色で更に染め、そして悟る。
――――何時か、彼等との幸せの時が消え去ってしまうのだろう。
そう思い、面を微笑みの色で薄く染め、必ず訪れる別れの悲しみと虚しさを、心の中に隠し秘めるのだった。
そんな食後のティータイムの途中、遠くの門から1人の騎士が此方へと歩きやって来た。
「失礼します、レウディン様」
此処の主であり雇い主であるレウディンに、1人の騎士は御辞儀をする。
「如何した、客か?」
「はい。たった今、王城からの使いが門前に来ておりまして、今から王城に来るようにとの事です」
そしてティータイムという語らいの時が、騎士からの言葉によって終わりを告げるのだった。




