学びと成長の成果13-4
訓練場に響き渡っていた硬質で煩い音は治まり、静寂が訪れた。
辺りは荒々しい戦闘による幾多の痕、撒き散らされた多量の砂埃、所々には水浸しの床、停止した11体の動像。
空中に浮かぶ異様な造形の動像の六腕の内、1つの掌にガッチリと捕まり、ぐったりとした状態のシャラナ。
(捕ったどおおおおおおおぉぉっ!!)
そして、内心で勝利の雄叫びを上げながらガッツポーズをするガイア。
戦闘訓練はガイアの勝利で幕を閉じた。
(あ〰〰〰……メッチャ疲れた~。頭も少し痛いや…)
太陽光に当たり続ければ、ひたすら体力魔力を回復し続ける特殊技能〈光合成〉を有するガイアでも、今回はかなりの精神的疲労が頭に溜まり、闘いが終わった直後に溜まった疲労感が一気に全身を広がるのだった。
「もう……無理…。動けない……。あと怖かった……」
シャラナは見ての通り心身ともに疲労し切り、力無く異様な動像の掌の中でぐったりとしていた。
「ホッホッホッ、儂が止める必要も無かった様じゃな。お互い良く頑張ったのう」
エルガルムは笑いながら、シャラナの下へと歩み寄って行った。
「シャラナよ、今回の訓練試合の中でまた更に成長したのう。儂等から見ても規格外の動きをする動像相手に、良い立ち回りをしとったぞ。戦力差を埋める為に召喚したのは最善の判断じゃった。最初に魔導の大天使に〈濃霧〉発動の指示し、姿を晦ました後に〈魔力隠蔽〉を施して貰い、最後は自身で〈不可視化〉を施す流れも実に良かったぞ」
(あっ! その魔法かぁ!)
ガイアは2つの魔法を聞き、ハッと思い出した。
(それでかぁ~。その2つの魔法の所為で姿が見えなかったり魔力が感知出来なかったのかぁ~。そりゃあ分からない訳だ~)
何故視認する事も感知する事も出来なかったのか、その原因を知ったガイアは理解の色を浮かべる。そして内心で「いやぁ、うっかりうっかり」と暢気に笑うのだった。
「あ…ありがとう…御座います……」
シャラナはぐったりとしながらも、師の称賛に感謝を告げる。
(おっと、降ろして上げなくちゃ)
ガイアはゆっくりとシャラナを空中から地上へと降下し、異様な動像の掌を開き解放した。
地面に降りたシャラナは疲労困憊だった為、脚に力が入らず、地面に降ろした際にへたりと座り込むのだった。
「で…ですが…、やはり私は未だ未だ…魔導師としては未熟……です…」
「そう謙遜するな、シャラナ。寧ろ今回は誇っても良い闘い振りだったぞ」
ぐったりとするシャラナに歩み寄ったセルシキアも、かなりの善戦だったと称賛を送る。
「そうじゃぞ、セルシキアの言う通りじゃ。正直な話、儂もあのガイアが操作する動像を相手にすれば、少なくとも劣勢状況に追い遣られたかもしれん」
「まぁ…あれは明らかに動像とは思えない逸脱した動きしてたからねぇ。強化魔法に加えて武器まで作っちゃうし…。あれに対抗出来てたんだから、私から見てもかなり上出来の立ち回りだったわよ」
ベレトリクスは映像を記録するマジックアイテム――――監視目の下げ飾りの機能を止め、動像の下へと近付く。
品定めでもするかの様にまじまじと、全身鎧の様に形造られた動像とその動像達が持つ巨大武器を観る。
特に六腕の有する異様な造形の動像に関しては、まじまじと観察するのだった。
「しっかし凄い豪華な光景ねぇ。まさか上位級の動像を7種類も見れるとは思わなかったわ。オマケにこの動像の意匠、そしてあの遊撃性能、もうこれは各国が欲しがる代物ね」
(え? そうなの? お爺ちゃんとか使ってるかと思ってたけど、初めてなんだこれ)
異様な動像に対する彼女の言葉は、ガイアにとって意外なものだった。
そんな意外な言葉にちょっと驚くガイアに、エルガルムがある特殊技能に関する質問を投げ掛けた。
「ガイアよ、最後の辺りで魔力に関する並列操作制御と、動像に関する並列操作制御の特殊技能を習得したのではないか?」
(うん。何方も修得したよ)
エルガルムの確信めいた質問に対し、ガイアは親指をグッと立てて強く肯定の意を示した。
「やはり…! 最後の動像達の動作に速さと精密さが急激に増したのはその影響か」
「それに別系統の魔法を2つ同時に発動し続けてたからねぇ。にしても、それ等の特殊技能をもう習得しちゃうなんてねぇ…。流石は幻神獣って所かしら」
(ん~、そうなのかなぁ? ……そうかもしれないな)
特殊技能の習得速度の高さは幻神獣であるが故かもしれないと、そんなベレトリクスの言葉にガイアは内心で同意する。
何せ今回習得出来たのは特殊技能〈魔力操作〉〈魔力制御〉と〈動像操作〉〈動像制御〉の上位互換であるのだから。
「それであの動像の動き…。あれは流石に大天使では厳しかったです…。せめて…〝権天使〟を召喚するべきでした……」
(〝けん……天使〟?)
初めて聞く天使の名称に、ガイアは首を傾げる。
「おお、確かに〝権天使〟なら未だ未だ行けたかもしれんのう」
「互角に渡り合うなら〝能天使〟が良い所でしょうか」
(の…〝のう……天使〟??)
ゼルクルスから出た新たな天使の名称に、ガイアは頭の上に疑問符を浮かべる。
「私は神聖系統魔法は使えないから、天使の召喚は出来ないのよねぇ。あんたは召喚出来たわよね? 階級はどの位の天使まで呼べたっけ?」
「儂は〝能天使〟までしか呼べん」
「本職が聖職者って訳でもないのに、よく能天使まで呼べるわね」
「そりゃあ、天使階級についても調べていた事もあったからのう。じゃがやはり、より上位階級の天使を召喚出来る様になるには聖職者としての修行をし、己の信仰力を高め、神聖系統魔法を極めねばならんからのう」
ガイアは少々天使に関する話に付いて行けず、頭の上に浮かべる疑問符を更に浮かべ増やすのだった。
「しかしこの動像……いや、神獣様の操る動像達は実に素晴らしい。出来れば暫くの間、我が騎士団と魔導師団の訓練相手として王城の練兵場に来て頂きたいのだが…。如何だろうか、エルガルム様。神獣様の少しの時間を頂ける許可を貰えないだろうか?」
どんなに厳しく過酷にした訓練でも、実戦と迄には及ばない試合の様なもの。互いに武器を交えても、如何しても無意識に手加減してしまう。
ならば手加減無用の相手――――動像ならば、特に幻神獣フォルガイアルスの常識離れの操作制御による動像ならば、ほぼ実戦に近い訓練が出来き、1人1人の質をより向上させられるのではとキルセミーゼは思案し、エルガルムに王城内練兵場訓練に幻神獣フォルガイアルスの参加の許可を頂けないかと私案を告げる。
「まぁ、その辺はガイアに訊いてみよう。今迄外に出れる機会が無かったから、了承してくれると思うがの」
「偶にで構わない。予定が何も無い日に、騎士団と魔導師団の相手をしてくれるだけでも非常に有り難い」
「分かった。ガイアよ、話の通りじゃが良いかの?」
(ん? まぁ、それ位は全然構わないよ。普段、暇な方だし)
ガイアはエルガルムの訪い掛けに対し、頷き肯定の意を示す。
「大丈夫そうじゃな。ではキルセミーゼよ、その時はシャラナにも参加させても良いかの?」
「勿論です、エルガルム様。構わないな、セルシキア」
「勿論です、母上。訓練の参加には大歓迎です」
母娘共、嬉しそうに微笑を浮かべる。
「動像に関しては私も欲しいわねぇ。強力な上位級の動像が居れば、いざという時の防衛にもなるし、その場で創造するより魔力消費が断然少ないから、私にも1体分の材料欲しいわぁ」
「じゃったらベレトリクスよ、明日は〈動像錬成〉の実技授業でもしようではないか。儂も正直な所、数体程は確保したいしのう」
「やった! そうと決まれば明日は良い物造るわよ~」
実技授業というよりも、ただ単に上位級の動像が欲しいというちょっと違った方向にベレトリクスはやる気を出していた。
(あー……。大量の素材が僕の背中にあるからねぇ…。まぁ、良いけど)
実技授業より上位級の動像が欲しい方へと傾いているベレトリクスのやる気に満ちた言葉に対し、ガイアは「動像が欲しんかい」というツッコみが含まれた僅かな疑問を抱いたが、「まあ、別に良いか」という楽観から、抱いた疑問を頭の中からポイッと投げ捨てるのだった。
(あっ、そうだ。好い加減動像消しとこ。次いでに作った武器も全部食って処分しなくちゃ)
ガイアは最後に動像達を操作し、其々が持つ巨大武器をゆっくりと地面に下ろしてから動像達への魔力供給を止め、意図的に存在を消失させる。そして残った巨大武器を拾い上げ、喰らい始めた。
「あ、食べちゃうのぉ…。ちょっと勿体無かったなぁ…」
折角の巨大武器が躊躇無く喰らう様子に対し、ベレトリクスはちょっとだけ残念がる。
「おお…凄いな。ああも簡単に鉱物を喰らうとは、何とも言えん光景だ…」
ゼルクルスは直で初めて見る幻神獣フォルガイアルスが金属を喰らう光景に驚くのだった。
バキバキと硬質な音を響かせ、12も在った武器はあっという間平らげる。
(ふぅ。食った食った、と。……結構彼方此方荒らしちゃったなぁ)
ガイアは訓練試合後の荒れた訓練所の風景を見渡す。
(ん~…。出来るかな? まぁ、やってみるか)
ガイアは片手を地面に置き、殆どの魔導師が使う所か習得ようとしない魔法を発動した。
(〈物質修復〉)
魔法の発動と共に、訓練所一帯の床全体と瓦礫に一瞬淡い光を纏った後、まるでパズルピースの様に瓦礫が床の深い傷跡へと綺麗に収まる。そして床全体に幾多も生じた戦闘の痕が、まるで治癒魔法でも掛けられているかの様に徐々に小さく為っていく。
「ほぉ…〈物質修復〉か」
エルガルムはガイアの行動に感心する。
訓練所全体は最初から闘いすら無かったかの様に、綺麗な状態へと修繕されたのだった。
「おお! これは実に有り難い。わざわざ我が訓練所の修繕をして頂き感謝致します」
キルセミーゼは幻神獣フォルガイアルスの前へと歩み寄り、頭を下げ心から感謝の意を表した。
「ンンンンンンン」(これくらい全然構わないよ)
ガイアは彼女の感謝に対し声を発し答えた。意味は伝わらないが。
「大丈夫か? シャラナ」
「は……いえ…流石に、今回はかなり疲れました……」
シャラナはセルシキアに腕を引っ張って貰う事で立ち上がれたが、足取りはかなりの疲労でよろよろとしていた。
姿を消し、魔力反応を隠蔽してからもシャラナはずっと動き続けていた。それも荒れ狂う攻防の中、隙を見て魔法を放っては直ぐその場から離れ、別の場所へと何度も移動を繰り返し闘ったのだ。
(ありゃぁ…。シャラナ相当疲れちゃったみたいだなぁ)
そんなへろへろ状態のシャラナを見たガイアは、彼女の下へと歩み寄り特殊技能を行使する。
(ほい、〈栄養素譲渡〉)
特殊技能発動と同時に明るい薄緑色の光が発生し、発生した光はシャラナの全身を包み込む。そして役目を終えた光は静かに消えた。
「うん、身体が楽に為った。ありがとう、ガイア」
「ンンンンンン」(どう致しまして)
シャラナは感謝を告げ、ガイアは感謝に対する返事を互いに交わした。
「今のはあの〝奇跡の恵み〟による力か…!」
実際に間近で初めて見たキルセミーゼとゼルクルスは、少し目を見開く。
「そうじゃ。幻神獣フォルガイアルスのみが保有する〈栄養素譲渡〉という特殊技能じゃ」
「…なるほど。あの映像の見た通り、これがあらゆる生きとし生けるもの全てに生命力を与える恵みの力なのか」
キルセミーゼとゼルクルスは1度だけしか見ていないが、鮮明に記憶したあの公表された映像を思い出す。
荒れ果て、枯れ果てた村村落の耕地を一瞬で色鮮やかな豊穣を齎したあの奇跡の瞬間。大地が潤い、緑が生い茂り、広大な絨毯の様に広がる黄金色の麦畑、世界を恵み豊かな色へと彩るあの奇跡の光景。
――――美しい。
とても簡単な感想。それしか出なかった。
だが、その簡単な言葉には、心が溢れんばかりの感動が込められていた。
それ以外に言葉が見付からない程に――――。
「さて、今日はこれ位にしてそろそろ戻るとするかのう。今日は急で済まんかったな」
「とんでも御座いません。今回はとても貴重な訓練試合を拝見出来て、とても有意義な日と成りました」
エルガルムの来訪した時と同じ謝罪に対し、ゼルクルスも構いませんと首を軽く振り微笑を浮かべながら再びの謝罪に答える。
「今回は訓練所を御貸し頂き、ありがとう御座いました」
シャラナは御辞儀をし感謝を告げた。
「なに構わないとも。しかし、フォルレス家の令嬢がここまで成長するとはな。上級魔導師か神官か、何方にせよどの様に立派に成るかが楽しみだ」
キルセミーゼはシャラナの頭をわしわしと撫で回しながら褒める。その様子はまるで、ソフィア教皇の時とは違った母娘の様だった。
「今度またする時は、王城の練兵場で待ってるぞ。我が騎士団と魔導師団は皆、お前を歓迎してくれるから何時でも来てくれ」
「はい。また近い内に必ず行きます」
今度はセルシキアに頭を撫で回される。その様子はまるで仲の良い姉妹の様だった。
「じゃぁ私はこのまま城に帰ろうかしらね。帰った次いでに、今回撮った記録映像をフォビロドにでも見せとくわ。彼奴相当ガイアの詳細を知りたがってたし、早くても返却は3日後かしらね。良いでしょ、エルガルム」
「おお、構わんとも。フォビロドにはそういう約束をしとったからのう。その記録をフォビロドに渡すのは御主に任せよう」
「分かったわ。部屋に籠る前にちゃんと渡しとくわよ」
「うむ。さて…」
エルガルムはベレトリクスに頼みを告げた後、シャラナとガイアの下に近寄り告げる。
「では戻るとしようかの。シャラナ、ガイアよ」
「はい」
「ンンンン」(はーい)
シャラナとガイアは一緒にエルガルムに返事をし、本日の特別な訓練試合が終了した。
そしてベレトリクスと門の前で別れ、エルガルムとシャラナは馬車で、ガイアはその馬車を追う様に小走りし、各々帰宅をするのだった。
因みに、ベレトリクスが王城に戻り今回の映像記録をフォビロド魔導師団長に渡した後、その映像記録を見た彼は狂った様に歓喜したそうだ。
そんな歓喜する彼の様子を見たベレトリクスは「うゎぁ…」とぼそりと呟き、ちょっとだけ引いたとか。




