学びと成長の成果13-2
(え!? サモンって…まさか召喚魔法!?)
ガイアは知識としては学び得てはいたが、生まれて初めて召喚魔法の光景を目の当たりにしながら驚愕する。
シャラナの周りに幾つもの光り輝く召喚魔法陣が浮かび上がり、其処から現世の存在では無い神聖な存在が出現した。
全身は真っ白な鎧を纏い、神聖な光を仄かに放っていた。右手に握られたバスタードソードの刀身も白く、神聖な力を宿していた。そして後ろの背から美しい純白の天翼が生え、頭上には光輪が添えられた様に浮いていた。
それは天界に存在する神々の御使い――――天使。
シャラナの召喚に応じ、地上界へと顕現した神の使者は天界の騎士――――騎士の天使である。
そして更に顕現するは、左手には神聖な護りを宿した純白のカイトシールドを装備する守護の騎士――――守護の天使。外見と右手に握る武器のデザインは、騎士の天使と似た様相である。
召喚魔法により、天界から地上界へと召喚された天使は5体。
空中に浮いたまま、召喚者であるシャラナの前に留まる。
そしてシャラナの隣に召喚された1体の天使は、騎士の天使の外見をより美麗に格好良くした姿だ。
その天使の名称は――――騎士の大天使。
天使よりも1つ階級が高い存在――――大天使である。
全身が真っ白であるのは一緒だが、他の騎士の天使とは違い純白の全身鎧に、赤色の煌めく美しく微細な細工が純白な鎧全体を芸術的な紋様が施されていた。手に握られているバスタードソードにも赤色の極細線の芸術的な細工が施され、剣に宿る強い神聖な力によって更に美しく輝いていた。
「そうじゃ、それで良い」
天使が召喚された光景に、エルガルムはそれが正解だと頷く。
「大天使を召喚出来る様になったのだな。流石シャラナだ」
暫く見ない内に成長したシャラナに対し、セルシキアは微笑を浮かべ嬉しそうに言う。
「確かにあれなら、修めている職業が女神官だと見て判る。ソフィア教皇猊下もこの事を知れば、さぞ喜ぶだろう」
キルセミーゼも微笑を浮かべ、彼女の将来が楽しみだと大きな期待を抱き頷くのだった。
シャラナの召喚魔法により顕現した計11体の天使によって、互いの戦況はほぼ五分五分となった。
「これは益々楽しみになってきましたな」
ゼルクルスはニッと笑みを浮かべ、新たな闘いの展開に期待を抱く。
「……何かガイアの様子が可笑しいんだけど」
「ん?」
ベレトリクスの少し気怠そうで困惑気味の言葉に、全員が頭の上に疑問符を浮かべながらガイアの方へと視線を動かす。
(おおー!! 天使だ!! 天使だー!!)
その純白で美麗かつ神々しい姿の天使達を、ガイアは生まれて初めてその瞳に映し、純粋な驚きと喜びが入り混ざり、入り混ざった2つの感情が心を満たし、心は感動という黄金色の煌めきへと彩られた。
(うわぁ……! あれが天使かぁ…! 何て綺麗なんだろう…!)
ガイアは完全に召喚された天使達の姿に目を奪われ、動像達の操作を完全に手放していた。
「……あの子、初めての天使に見惚れちゃってるわね…」
今のガイアは、頭の中にあった戦意が完全に何処かへとすっぽ抜け、その瞳は溢れんばかりの好奇心でキラキラと煌めき輝かせていた。
「……あんなに嬉しそうにしちゃって」
そんな好奇心を輝かせている純粋な子供状態のガイアを観て、ベレトリクスは困った表情に笑みを浮かべるのだった。
天使達を召喚した事により、シャラナは召喚された天使との精神的な繋がりを感じ取り、その繋がりを通して己の意思を伝達させると同時に、命令を下す。
「全敵動像の攻撃と動きを封じて下さい! 動きを封じた後、迅速に迎撃を!」
天使達は彼女の意思に従い、前列に守護の天使と、後方の遊撃役の騎士の天使が一斉に前進する。
1体の守護の天使が純白の盾を前方に構え、ガイアからの操作が途切れ完全停止状態と為った1体の岩石の動像に勢い良く突進しながら、盾による強打を噛ます。
突進による盾の強打によって後方へと崩れ倒れる岩石の動像に、透かさず1体の騎士の天使が上空から急降下し、その手に握られた神聖な力を宿すバスタードソードで硬い岩石で出来た岩石の動像の身体を難無く斬り裂いた。
斬り裂かれた1体のストーンゴーレムは機能を完全停止し、全身が石塊へと崩壊し、無数の光の粒と為り跡形も無く消滅するのだった。
(あっ)
それと同時に、ガイアは我を取り戻し気が付く。
(あっ、しまった!! 操作忘れてた!!)
訓練とはいえ、今は実戦の真っ最中に初めて拝んだ天使の姿に見惚れ、うっかり動像達の操作を無意識に手放し忘れてしまった事にガイアはあんぐりと口を開け、驚愕したかの様な「やっちまった!」と言わんばかりの間抜け顔を面に晒すのだった。
そんなガイアのうっかりに、シャラナは暖かい目で見るのだった。そして大体の理由を理解した。
(ああー…)
シャラナも初めて召喚した天使の姿を目の当たりにし、呆然としながらも内心は歓喜に満ち溢れ、初めて見る天使の美しさに見惚れていた時があった。
だからガイアの天使を初めて見る心境に、シャラナは共感出来た。
しかし、今は実戦訓練の最中。シャラナは直ぐに戦闘意識を戻すのだった。
「けど、今は戦闘訓練! 手加減は出来ない!」
シャラナは再び天使達に命令を下す。
「岩石の動像を優先に撃破を!」
精神的繋がりによる命令に従い、大天使を除く天使達は残り3体の岩石の動像に一斉攻撃を開始する。
(ちょっ、わわわっ! ちょっと待ってぇ!)
ガイアは慌てて放置してしまった動像達を急いで再操作し、陣形と態勢を整えながら、迫り来る天使達に反撃の拳を繰り出す。
動像達の大きく硬い強烈な拳が天使達に迫り、それを守護の天使達が盾で攻撃を受け防ぐ。そして騎士の天使達が上空から召喚者の指示通りに、岩石の動像を優先に透かさず遊撃して行く。
今度はガイアの戦況が、拮抗から劣勢へと傾き始めていった。
強化された岩石の動像は全て倒され跡形も無く消滅し、残った5体の強化された鋼鉄の動像が天使達に向かって鋼鉄の拳で応戦し続ける。
しかし、鋼鉄の動像の重く強烈な拳を幾度無く守護の天使が防ぎ続け、騎士の天使が再び上空から、そして左右から縦横無尽に素早く空中を飛び、神聖な力を宿した剣で鋼鉄の身体を斬り裂く。
(は…速っ! 上位級の俊敏性強化魔法を掛けてるのに…追い付けない!)
確かに〈上位俊敏力強化〉のよって素早さは増しているが、特段と俊敏に為った訳ではない。あくまで鈍足という欠点を補っているだけだ。
それに比べ、天使の素早さが高く、今の俊敏性を強化された鋼鉄の動像の機動力を上回っている。更には空中を自在に飛び回れる為、総合的俊敏性と機動力の面では天使の方が上である。
何より、序列階級で一番下に位置する天使であっても、その総合的攻撃力は強力であり、分厚い鉄の塊で構成された鋼鉄の動像の身体を容易に斬り裂く事が可能だ。
特に不死者や悪魔といった不浄や邪悪な存在に対し、天使が有する神聖な力が発揮され、通常以上の威力へと増すのだ。
ガイアは全神経を集中させ、必死に鋼鉄の動像達を操作し、創造主の操作に応じ鋼鉄の動像達は天使達の剣撃をギリギリを超えるか超えないかの境目で防ぎ、払い、回避し、そして鉄拳の猛攻を繰り出す。
しかし、鋼鉄の動像の動き――――鋼鉄の動像の操作が若干ながら、天使達の動きに対応が遅れを生じつつあった。
(つ、辛い…! 最初の20体同時操作よりはし易いけど、ここまで押されると同時操作での対応が難しい…! 何より、さっきよりも頭が重い…!)
序盤は20体も同時操作したとはいえ、単純な同時操作だった為、そこまでは辛いものでは無かった。しかし、今は5体の鋼鉄の動像の同時操作ではあるが、天使達の鉄壁の防御に機動性を活かした攻撃の対応で、ガイアは鋼鉄の動像の細かな動作を必死に同時操作を行っていた。
例えるなら、5つのコントローラーを同時に使い5人のキャラクターを同時操作し、多数の敵を相手に応戦するという常識的に出来ない無茶な事を行っているに等しい。
そんな無茶を、ガイアは頭の中で必死に意識的操作を行っているのだ。
時間が経つにつれて頭は更に重くなり、生じる頭痛はより強くじわじわと脳全体を締め付ける。
過熱しそうに為りつつある頭を必死にフル回転させながら鋼鉄の動像達を操作するも、僅かな動作の遅れという隙を突かれ、鋼鉄の動像が1体倒され消滅させられる。
――――残り4体。
強引に鋼鉄の動像の剛腕で守護の天使の盾を引っぺがそうと掴むが、騎士の天使がそれを許さず、鋼鉄の動像の動力源に狙いを定めて斬り裂く。
――――残り3体。
ガイアは残り3体の鋼鉄の動像を操作し、互いの背を合わせる様に向け、周囲の飛び回る天使達に対応出来る様に陣形を整える。
それを観たシャラナは強化魔法を発動する。
「〈中位筋力増強〉!」
シャラナから放たれた中位級の筋力強化魔法が天使全員に掛かり、天使達は更に物理的な攻撃力が増幅した。
その直後、5体全ての守護の天使が3体の鋼鉄の動像を囲み、純白の盾を構る。そして一斉に目標に目掛けて急速発進し、突進による盾強打を噛ます。
(なっ!? ちょっ! し、しまった! 動かせない…! 封じられた!)
挟み撃ちによる盾強打から、そのまま押し込まれる形で鋼鉄の動像が抑え付けられてしまった。
シャラナの強化魔法によって、全身の筋力が強化された守護の天使の膂力が鋼鉄の動像を上回り、膂力の有る鋼鉄の動像は強化された守護の天使に抵抗するも、純白の盾の包囲から逃れる事は出来なかった。
そんな3体の鋼鉄の動像に容赦無く、上空から3体の騎士の天使が剣を真っ直ぐ向けながら、標的目掛けて急降下し、3体同時に鉄の身体に剣を突き刺し、そのまま動力源を貫き破壊する。
その直後に天使達が後退した後、残り3体の鋼鉄の動像は力無く崩れながら倒れ、無数の光の粒と為って散り跡形も無く消滅した。
(むぅ~。鋼鉄の動像も全滅させられた…)
ガイアはこの世界に転生して、初めて悔しい思いを抱いた。
しかし、悪い意味では無い。
妬みや苛立ちといった負の感情は一切無い。
ガイアが抱いた悔しさはポジティブな感情から来るものだ。
ガイアはその悔しさを糧にし、前向きに次なる手を考える。
次はどんな動像を創造するか、その動像にどの様な魔法を仕込むか、天使達の対処方法は如何するか、あの魔法を試してみるかと、企みに近い思考を頭の中に高速で回転させるのだった。
(あの天使だけは他の天使達より間違いなく上だよね…)
1体だけ存在する大天使――――騎士の大天使は召喚者であるシャラナの傍から離れず、先程の攻防を傍観するかの様に戦況の様子をずっと観察していた。
未だ自分は前に出る必要が無い、と。
おそらく拮抗状態になるか、若しくはシャラナの方が劣勢に為った時に動き出すのだろう。
(……更に辛くなるけど、動像のレベルをもう1段階上げて、強化魔法だけじゃなくちょいと色々仕込んでみようかな。後は武器も創って対抗だ!)
ガイアは幾つもの考えを実行に移す為、新たな動像を創造し始めた。
(更に魔力の大盤振る舞いだ!〈動像創造〉!)
更に膨大な魔力を使用し、金銀銅に加え、氷の塊を其々複数同時に創り出し、質量を増大させ、人型の姿形へと精巧に造り整えた。
1種類目は一般の動像より腕や脚などの体軀が細めではあるが、ひょろひょろとした見た目では無く、まるで無駄を削ぎ落とし引き締めた様に細く、赤茶色の金属光沢が煌めく大きな図体である純銅製の動像だ。
2種類目も一般の動像よりは全体の体軀が細めではあるが、純銅製の動像よりはまだ太めである。しかし、其方と比べれば一般よりの体格であり、細かな細工が施された白銀の全身鎧の様な美しさを醸し出す純銀製の動像である。
3種類目は見た目通りの輝く黄金色に一般的なガッチリとした大きな体格、頭上から爪先までに至る全ての部位は無骨な見た目では無く、細部まで綺麗に整えられ美麗な細工が施された全身鎧と言っても良い、煌めく純金製の動像だ。
赤銅の動像、白銀の動像、黄金の動像、其々が2体ずつ。
そして煌めく3種類の金属製動像の前列には、霜で全身殆どの表面が白い氷で構成された動像――――氷属性魔力による〈動像創造〉で創造された氷塊の動像が7体。
合わせて計13体の動像が出現した。
「ほぅ、氷属性魔力による〈動像創造〉か」
5つ扱える系統の内の1つが氷系統だと判明し、ゼルクルスは残り3つの不明な系統魔法が判明する事を楽しみにするのだった。
「これは中々見れん面白い光景じゃのう。今度は金に銀に銅の動像、そして氷塊の動像と来たか。ガイアの奴め、かなりの大盤振る舞いをしよる」
新たな種類の動像の出現に、実戦でも中々見れない面白くも珍しい光景にエルガルムは刺激され、じわじわと興奮が滲み出るのだった。
そして動像を創造し終えた直後、ガイアは即座に7体の氷塊の動像に強化魔法を掛けた。
(〈上位俊敏力強化〉!)
しかし、強化魔法はたった1つだけで、その他の動像に強化魔法を掛けるどころか、それで打ち止めするのだった。
それに対しシャラナに限らず、他の者達も疑問が浮かんだ。
――――何故、氷塊の動像だけに強化魔法を掛けた?
そんな彼等の疑問を他所に、ガイアは俊敏性を強化した氷塊の動像達に命令を下した。
(天使達のあらゆる行動、手段、機動を妨害し時間を稼げ!)
創造主であるガイアの命令に氷塊の動像達は一斉に天使達に迫り行く。
今度の創造された氷塊の動像達だけは自動操作型として創られた為、意思的操作による負担が無くなった。しかしその分、細かな動作や攻撃といったものが、単純かつ大雑把なものとなる欠点が付いてくる。
巨軀とは思えない速さで迫り来る自動操作型の氷塊の動像達に対応する為、シャラナも天使達に命令を下す。
「氷塊の動像の行動を封じ、後方の動像を優先に撃破を!」
天使達は召喚者から下された命令を遂行する為、守護の天使達は盾を構えながら迫り来る氷塊の動像達へと迅速に向かい、あらゆる行動を妨害する様に攻撃を防ぐ。そして騎士の天使達は空中を飛びながらその上を越え、不動状態の動像6体に目掛け、剣を構えながら一直線に飛び迫る。
あの6体――――3種類の動像を後回しにすると不味い、シャラナはそう直感していた。騎士の天使達を其方に向かわせたのもその直感による理由だ。
守護の天使達の妨害によって足止めを喰らっている氷塊の動像達を無視し、そのまま不動の金属製動像6体を撃破するべく、騎士の天使達は速く迫り行く。
しかし、迫り行き辿り着く前に、ガイアから魔法による妨害で阻まれる。
(それ!〈石壁〉!)
ガイアお得意の魔法で出現した巨大で分厚い石壁が、騎士の天使達の進路を妨害する。
だが、騎士の天使は空中を自在に飛べる為、出現した石壁は大した妨害にはならない。
正面が駄目なら、上から飛んで越えて行けば良いだけの事。
騎士の天使達は石壁を越えようと急上昇する。
壁を飛んで越えて来る事は既に想定していたガイアは、騎士の天使達の上空から強烈な風を発生させる。
(〈下降噴流〉!)
ガイアの魔法発動と同時に、急上昇し石壁を飛行し越えようとした騎士の天使達の真上から突如と激風が発生し、空中を飛行する騎士の天使達は不自然に発生した激しい気流に容赦無く真下へと押し飛ばされ、地面に叩き付けられてしまう。
「今度は風系統魔法か。それも強力な下降気流を発生させ進行妨害するとは……これでは天使の飛行による接近は困難になるな」
ガイアの風系統魔法で発生した重い風圧を叩き付けて来る下降気流に対し、自分だったら如何対処するべきかとセルシキアは思案しながら、模擬戦の様子を観察し続ける。
(――――この位の魔力で暫く持続させてっと。良ーし! この時間稼ぎの間に!)
ガイアは魔力の追加で下降気流の持続時間を伸ばし、ある様々な仕込みを始め出す。
「! えっ、ちょっと、嘘でしょ!?」
ベレトリクスはガイアの様々な仕込みの様子を視界に映し、その驚く光景――――ガイアのその仕込みの技術に驚愕の表情を面に浮かべてしまうのだった。
巨大な石壁と上から叩き付ける様に吹く強力な下降気流に阻まれ、仕方なく7体の氷塊の動像を優先に倒す為、5体の騎士の天使を下降気流の壁から引かせ、迅速に氷塊の動像全てを倒した。
しかし、氷塊の動像全てを撃破しても状況は一転しない。
大きく分厚い石壁が地上からの進路を邪魔し、上空からは容赦無く吹き荒れる強烈な気流が、飛行する存在に重く分厚い風圧で空中から地面へと叩き付け邪魔をする。
(〈石壁〉にしろ、〈下降噴流〉もそう…。あの自動操作型の氷塊の動像達もやっぱり何かの時間稼ぎとしか思えない)
シャラナは石と風の壁の先に居る3種類の動像を思い返す。
「…あの子、あの動像達にいったい何をする気なのかしら? けど今はこれを何とかしなくちゃ」
あの煌めく金銀銅の動像は気になるが、先ずは2つの障害を取り除き突破しなければ、その先の気になる事が見る事も知る事も出来ない。
「〈上昇噴流〉!」
シャラナは下から強烈な上昇気流を発生させ、ガイアの発した下降気流を相殺し打ち消す。
それを好機と捉えた天使達は一斉に聳える石壁を飛び越え、目標へと向かおうとした。
その直前、聳える巨大な石壁が突然崩れ出し、崩れ落ちる落石がまるで意志を持ったかの様に天使達に向かって落下して行く。守護の天使達が落石に対応し、盾を持たない騎士の天使達を庇いながら防ぐ。
雪崩る様に崩れる石壁は役目を終え、跡形も無く消えていった。
天使達は全員無事。未だ1体も倒されていない。
シャラナは崩れ消え去った石壁の先へと視線を定め、その後、視界に映った存在を目にし、見開き驚愕した。
――――シャラナの直感は正しかった。
赤銅の動像の肩や脚、手の甲には最初に見た時には無かった魔法陣が刻み付けられていた。
その他の動像にも、何かの魔法陣が幾つか刻み込まれていた。
しかし、その他2種類の動像はそれだけではなく、新たな物が増えていた。
白銀の動像の手には、光沢のある青い線で彩られ、中心には人の顔よりも大きく巨大な翠玉を中心に嵌め込まれた巨大な盾と、魔力を宿し仄かに光る白銀の騎士槍。
そして黄金の動像には、鍔の中心に人の顔と同じ位大きく巨大な紅玉が嵌め込まれ、緑色の光沢線の紋様で彩り、魔力が宿った仄かな光で煌めく金色の刀身は3メートルをも超える黄金の巨剣が装備されていた。
「……あの子、武器作っちゃったよ…」
ベレトリクスはガイアの様々な仕込みの一部始終を視界に映し、ガイアの生まれながらの魔法センスに驚愕し、目を零れそうなくらいに見開き固まるのだった。
ベレトリクスだけに限らず、その場に居るほぼ全ての者達が目を見開き、驚愕していた。
――――しかし、ベレトリクスの驚愕の理由は、ガイアが自身に生えている金属を使用して武器を作った事ではない。
(良~し、出来たぞ~)
様々な仕込みを終えたガイアは1種類に2体ずつ――――計6体の動像に魔力を送信し、意思的操作を開始した。
操作開始と同時に、ガイアはくわっと目を開きながら気合を入れた。
(それじゃ! 行ってみようか!)
赤銅の動像が2体同時に急速発進し出し、白銀の動像と黄金の動像は各々武器と盾を構え、追撃の準備行動を取る。
「速い…!」
2体の赤銅の動像はあっという間に、前列に並ぶ守護の天使達へと疾風の如く接近する。純白のカイトシールドを掴む様に手を掛け、体操選手の様な跳躍するが如く、軽やかな動きで頭上を越え背後に回り込み、透かさず赤茶色の光沢を放つ片腕を瞬時に天使の首へと伸ばし、標的を掴んだ。
掴まれた2体の守護の天使は手にするバスタードソードで振り払おうとした直前、ガイアは刻み込んだ仕込みを遠隔操作で起動させた。
(〈高圧感電接触〉起動!)
赤銅の動像の手の甲に刻まれた魔法陣が光り出した瞬間、掴んだ守護の天使が全身に雷撃を纏わされ、高圧電流が全身を廻り奔り、ガクガクと痙攣を起こし出した。
「仕込んだのは〈高圧感電接触〉か! ふむ……あの短い時間で魔法陣と動力源を繋ぐ魔力回路を作り出すとは、いやはや驚きじゃ」
エルガルムはその光景を実に楽しそうに観戦するのだった。
「いやいやいや……戦闘の最中で動像に魔力回路を作って魔法を仕込むって…。私でも余りしないわよ…。ガイアのセンスっていったい如何なってるの?」
ベレトリクスは驚愕の表情を今も浮かべた儘、独り言でも言ってるかの様に心に浮かぶ有りの儘の感想を口にするのだった。
シャラナも赤銅の動像に仕込まれた接触系の魔法に驚愕したが、現状を飲み込みながら平常心を取り戻し、反撃指示を即座に下す。
2体の赤銅の動像は迎撃に迫り来る騎士の天使達に向けて、感電状態に陥っている守護の天使を前に突き出し、そのまま迫り来る騎士の天使達に向かって守護の天使を盾にしながら突進をした。
盾替わりとして突進で突っ込まされた守護の天使が騎士の天使達に追突し、接触する事によって感電状態の天使から別の天使へと強力な電流が流れ奔り、押し込まれれば押し込まれるほど感電が伝わり広がるのだった。
2体の守護の天使と5体の騎士の天使が押し込まれ一塊と為ってしまい、接触連鎖による感電で痙攣を起こし、思う様に動けなくなってしまった。
(良し、ここだ!)
2体の赤銅の動像で捕まえ抑えている天使を離し、その場から素早く離脱させる。
赤銅の動像が離れた事によって〈高圧感電接触〉の効力が解除され、天使達は感電状態から解放され動ける様になった。
(――――突撃ぃ!!)
赤銅の動像が離脱した直後、ゴウッと空を強打した様な重い音が鳴り、強力な武器による突進によって2体の守護の天使と5体の騎士の天使の身体に巨大な風穴を開けられた。
そのまま豪快に吹っ飛ばされ、身体は無数の光の粒と為り消滅した。
「えっ!? 嘘っ!? 何、今の!?」
シャラナは一瞬で7体もの天使が一遍に粉砕されるが如く倒された光景に、驚愕と動揺が交差するのだった。
そして視界に大きく映った存在、天使達を一遍に屠った存在をシャラナは目にする。
――――理解をした。
1体の白銀の動像が、恐ろしい速度から繰り出した槍突撃で天使達を葬ったのだ。
その一瞬の単純にして豪快な攻撃を目にした観戦者達も、驚愕の表情を面に浮かべていた。一部は何やら嬉しそうな表情をする者も居た。
「素晴らしい…! あの威力…武技〈金剛迅烈穿突〉と同等と言える力と速度だ!」
特殊技能や武技をその身に有する事が出来ない白銀の動像が繰り出した俊足の槍突撃の威力を目にし、キルセミーゼが珍しく歓喜を思わず漏らすのだった。
(そぉらっ! 次はもっと重いぞ!)
シャラナの驚愕と動揺の様子に躊躇い無く、今度は此方の番だと言わんばかりにガイアは1体の巨大騎士の黄金の動像を操作し、追撃の逆襲を実行する。
逆襲をしに迫り来る黄金の動像を迎え撃つ為、残った3体の守護の天使が盾を構え防御姿勢を取り、シャラナの傍に居た騎士の大天使が一定の距離を保ち、守護の天使達の後ろへ移動し戦闘態勢を取った。
近くまで迫って来た黄金の動像が、両手で握り締める黄金の巨剣を守護の天使達に向けて、超重量の大鎚を振り抜くが如く豪快なフルスイングで斬り掛かる。
巨大な刃は純白の盾を難無く斬り裂き、守護の天使達もほぼ同時に容易く斬り裂さかれた。
力任せによる押し込みながら砕き斬り潰すのではなく、綺麗に断ち斬ったのだ。
フルスイングによる余波で、真っ二つに断ち斬り裂かれた守護の天使は勢い良く吹き飛ぶ。
豪快に斬り飛ばされた天使達は空中を舞い、最後は地面に落下せずそのまま消滅した。
全員、その巨剣による豪快な一撃の光景に、口を半開きにしながら驚愕の表情を面に晒すのだった。
そんな一連の直後、たった1体だけとなった大天使――――騎士の大天使が黄金の動像の剣撃後の隙を突く為、己の判断で即座に動き出し、目標の動力源を破壊しようと剣を構え迅速に接近する。
しかし、大天使の前に白銀の騎士槍を持った白銀の動像が素早く立ち塞がり、その動像がもう1つ有していた巨大な白銀盾が、大天使の刃を防ぎ妨害した。更にその直後――――
(悪いけど、吹っ飛んで貰うよ!)
――――白銀の巨大盾の中央に嵌め込まれた翠玉が突如と光り輝き、強烈な爆風が発生した。
騎士の大天使は弾き返されるが如く、後方へと吹き飛ばされてしまう。
「ええ!!? 嘘ぉ!!?」
シャラナは思わず驚愕の声を上げるのだった。
そしてシャラナに限らず、その新たなる光景がその場に居る者全員に更なる驚愕を与えた。
「……只の武具じゃなくて、魔法を付与した武具をその場で作っちゃうって……そんなのアリ?」
――――ベレトリクスが驚愕していた理由、それはガイアが闘いの中で、魔法の武具を短時間で作り上げたという常識外れの行為である。
白銀の動像が装備する風系統魔法が付与された巨大な白銀の盾―――その魔法の中核を成す中央に嵌め込まれた翠玉には、風系統魔法〈疾風衝撃〉が封じ込められている。所有者の意思で内在する魔法が起動し、敵を吹き飛ばす強烈な風圧を発生させる魔法の巨大盾だ。
黄金の動像が装備する黄金の巨剣の鍔中央に嵌め込まれた紅玉には、斬撃系の武器限定の強化魔法〈上位刃鋭利化〉が封じ込まれている。その効力により巨大な刃は通常以上の鋭利さを増し、非常に頑丈で分厚い盾をも斬り裂く事を可能にさせている。その破壊力は、動像よりも巨大で頑丈な存在を屠る事も可能にする。
特殊技能を有する事が出来ない動像達に、ガイアは内在する魔力を遠隔操作し、それに応じた属性の魔法を使用出来る様に魔力回路を作り、更には自身の背に生える金塊と銀塊を使用し土系統魔法による金属形成魔法で巨大な剣と騎士槍、規格外な巨盾を作り出した。更に自身の背に生える紅玉と翠玉の原石を使用し、形成魔法で加工研磨し、美しく形成した大粒以上に大きな宝石に〈付与魔法〉と〈魔法封印〉の魔法を応用し、巨大な剣と規格外な巨盾に其々の魔法を宿した宝石を嵌め込み、魔法の武具というマジックアイテム化させ、武装を施したのだ。
そう。武具と魔法を装備し、より強力に為った動像6体が、シャラナの前に立ちはだかっているのだ。
(形勢逆転の始まりだ!)
驚愕と動揺でたじろぐシャラナを視界に映し、ガイアは内心でニッと笑みを浮かべる。
爆風の魔法に吹き飛ばされた騎士の大天使は空中で慌てて態勢を立て直し、急いで召喚者を護る為即座に空中を滑る様に後退する。
(逃がさないぞ! 〈絡み付く樹木〉!)
突然地面がボコリと盛り上がった直後、其処から樹木が突き出す様に生え、自然では有り得ない超急速成長をし出す。そしてそのまま真上上空に滞空する標的へと素早く伸ばし、脚を掴み、更に樹木を伸ばし絡み付き、捕まえた標的を無理矢理下へと引き込んで拘束する。
ガイアの発動した新たな魔法に、ゼルクルスとキルセミーゼは驚愕し目を見開いた。
「自然系統魔法…! 流石は〝恵みを司る〟神獣様だ…!」
ゼルクルスは神聖系統と等しく扱える魔導師が少ない自然系統魔法を行使した幻神獣フォルガイアルスの姿を目にし、驚愕の意と納得の意の言葉を口にするのだった。
不意に両脚を掴まれ騎士の大天使は、地表へと引っ張られ、慌てて翼をばたつかせながら脚に絡み付く樹木から逃れようと抵抗する。だが、直ぐに冷静さを取り戻し、その手に握るバスタードソードで更に絡み付いて来る樹木を斬り払った。
その直後、白銀の動像の弾き飛ぶ弾丸の如く、目にも留まらぬ速度の槍突撃が襲い掛かる。突き出された煌めく白銀の騎士槍は騎士の大天使を貫き、豪快に吹っ飛ばし屠る。
最後の大天使を倒されたシャラナは、無防備に近い状態に為ってしまった。
(後はまた召喚される前に捕まえるだけだ!)
ガイアは2体の赤銅の動像を疾走させ、シャラナを急ぎ捕まえようとした。
(召喚する時間を稼がないと…!)
「〈石壁〉!」
シャラナは疾走し迫り来る2体の赤銅の動像の足元に、高さ2メートル程の石壁をタイミング良く出現させた。そして見事に銅の足が石壁に引っ掛かり、前方に転倒すると同時に重い金属音が煩く響く。
(あらっ!? 土系統も使えたの!?)
シャラナが土系統魔法も使える事を知らなかったガイアはギョッと驚く。
しかし〈石壁〉だけで終わらなかった。
「〈石柱〉!」
更に残り4体の動像の後方から、石の柱が出現した。それも斜めに出現し、そのまま動像の両脚へと急速に伸ばし、勢い良く伸びる石柱は直撃し、ガツンと重低音を響かせた。
シャラナが発動した〈石柱〉が強烈な膝カックンの要領で動像の両脚を前に突き飛ばし、2体の槍白銀の動像と黄金の動像は其々引っ繰り返るかの様に、豪快に後方に転ばされるのだった。そして転ぶと同時に、更に煩く重い金属音が響き渡る。
「良し! 召喚するなら今!」
シャラナは最初の召喚に使用した魔力量よりも更に大量に消費し、召喚魔法を行使した。
「〈天使召喚〉!」
魔法の発動時、再びシャラナの周囲に幾多の召喚魔法陣が出現し、其処から幾多の新たな天使達が姿を現した。
騎士の大天使を含み、新たな大天使が呼び出される。
守護の大天使――――アークエンジェル・ガーディアン。
姿が守護の天使よりも美麗で、騎士の大天使とは違い彩る紋様は赤色ではなく青色であり、純白の全身鎧から剣、盾全体を青い煌めく美しく微細な細工が施されていた。
そして魔導の大天使――――アークエンジェル・メイジ。
その新たに召喚された大天使は純白を基調とし、黄色・青・緑と1体毎に違った色の美麗な紋様が施された祭服と思しき美しい衣服と頭巾付きの外套、顔は聖なる十字架を中心に、美麗な紋様が彩られた神秘的な白仮面で覆い隠している。
手に握られた杖は純白な特殊金属を基調に、金の細い線が杖全体を美しく彩り、柄頭には個体別ごとに違った種類の宝石を嵌め込まれていた。
騎士の大天使が10体、守護の大天使が10体、そして魔導の大天使が3体。今度は計23体の大天使達が召喚されたのだ。
(うぇえっ!!? さっきより増えた!! しかもメッチャ豪華メンバーなんだけど!!)
ガイアは新たな天使に加え、全てが上位の天使である事に驚愕をした。
それと同時に、新たな天使の美しい姿を見て感動もした。
(あの3体も上位の天使だよね? 多分、あの恰好に持ってる杖から見て魔導師タイプの天使だよね。やっぱり神聖系統魔法は使ってくるとして、他にどの系統魔法を使うかは闘って見ないと判らないな)
新たな大天使に対し、装備等の外見から他にどの様な系統魔法を扱えるのか、予想という名の想像を幾つも頭の中に浮かべるのだった。
召喚された大天使達は、自らの意思で即座に戦闘配置に着き、最前線は防御が特化した守護の大天使、一定距離の後ろに攻撃に特化した騎士の大天使、そして最後方にシャラナを護る様に囲う魔導の大天使と陣形を整えた。
大天使達は視界に映る6体の動像を召喚者との精神的繋がりによって敵だと理解し、盾を構え、剣を構え、杖を構え、戦闘態勢を取る。
ガイアも即座に操作で動像達の態勢を整え直し、意識をより集中させ身構えた。
(さてさて……此方も動像を更に増やすってのもありだけど、余り増やすと操作し辛くから止めとこう。とくれば…今居る動像を強化するのが最善かな)
ガイアは今の現状ですべき最善を実行し始めた。
(〈上位敏捷力強化〉〈上位硬質化〉〈上位魔法防護〉! 後は脚の速さが追い付けてなかったから…〈迅速な脚〉!)
敏捷力上昇、硬質化、魔法耐性の上位級強化魔法に加え、移動速度を上昇させる強化魔法を、6体の動像に施した。
「なら此方も―――〈中位敏捷力強化〉〈中位筋力増強〉〈中位硬質化〉〈防風化〉〈中位魔法耐性突破〉〈中位魔力上昇〉!」
シャラナもそれに対抗し、敏捷力強化、筋力増強、硬質化、風圧対策、魔法耐性突破、魔力上昇と中位級の強化魔法を全ての大天使達に掛けた。
「あら、お互い随分と強化魔法を使うわねぇ。シャラナの方は特に強化の種類が多いわね」
「ホッホッホッ、シャラナも随分と魔力を使用したのう」
「大量に魔力を消費してでも、召喚した大天使達を強化しなければ対抗出来ない強力な動像が相手ですから、そうせざるを得ないでしょう」
創造されたガイアの動像と武具に対する驚愕から解放されたベレトリクスは、エルガルムと楽しそうに観戦し、セルシキアは手に汗握る思いを抱きながらシャラナを見守る。
シャラナは魔力の大量消費によって残り魔力量が少なくなり、その影響で全身に倦怠感が大量に注がれ、心身ともに重くなり、疲労が表に滲み出す。
「そろそろ終盤戦に入る、という所か」
彼女の疲労具合を視認したゼルクルスは、この訓練試合が終盤戦に突入するだろうと予想を口にする。
「寧ろ、終盤戦からが戦闘が激化するだろう。これは中々の見物だ」
キルセミーゼはここからが最大の楽しみだと、抱いた期待を膨らませる。
ガイアとシャラナ、動像達と大天使達の両者が戦闘強化準備を終え、互いを見据え、一斉に戦闘を開始する。
訓練試合は終盤戦へと突入する。




