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村人と不思議な魔獣2-2

 日差しが大地に差し込んできた。

 (いま)だ目は閉じたままだが、日の暖かさを感じる。

 とても心地が良い。

 ()だ少し眠いから、もう少しだけ眠ろうかと薄っすら考える。

(あぁ…。あったかいなぁ)

 目を閉じたままウトウトしていると、何やら誰かの話し声が聞こえてきた。

「何だあ、この岩!? こんなの昨日まで無かったよな? 何処(どっ)から転がって来たんだ?」

 男の声だ。何か騒いでいるようだ。

(うん? 岩?)

 その岩の事は何なのか直ぐ理解した。

(あっ、それって僕の事か)

 取り敢えずそのまま話し声を聞く事にした。

「いったい誰が? 魔物の仕業か? …それは無いな、こんな大きな岩を動かす事が出来る魔物なんて、この辺りには居ない筈だ」

(自分で歩いて来ましたー)

 その疑問に対し、心の中で暢気(のんき)に答えた。

(魔物か…。この世界のモンスターって魔物って呼ぶんだ)

 またこの世界の知識を1つ手に入れた。

 そのまま会話の続きを聞いた。

「まさか! この近くに居るんじゃ!?」

(せいかーい。此処(ここ)だよー)

 その問いに対して、また心の中で暢気に答える。

 何だかちょっとした寸劇(コント)をしているみたいで、内心面白がるのだった。

「流石にそれは()ぇんじゃねえか? もし居るなら直ぐに見付けられる筈だ」

(だから此処だよー)

 時間が経つにつれ、少しずつ眠気が取れてきた。

「そ……そうだな。けど、もしもの事も考えとかないとな」

(おっ、それは大事だ。偉い偉い)

 別の男の言葉に感心する。

 そろそろ起きようとした時、(ようや)く自分の存在に気付いてくれた。

「……これ、ホントに岩か?」

(おっ! やっと気付いた!)

 ちょっとだけワクワクしてきた。

 如何(どう)驚くのか楽しみだった。

 誰かが岩の身体をぺしぺしと叩く感触が伝わった。正直、岩の身体だから誰かに触れられても分からないんじゃないかと思ったが、如何やら大丈夫みたいだ。

「変な岩だなぁ」

(そうです、変な岩です)

 今日は何だか面白そうな1日になりそうな期待感が湧き出てきた。

「もうこれは後回しにしよう。先に森の調査だ」

 その言葉と後に続く様に、目を開き目視する。

 視界に入ったのは3人の男性だ。

 兜を被った槍持ちの男、弓と矢筒背負った男、そして鞘に収まっている直剣を腰に下げた男だ。他にも金属みたいな襯衣(シャツ)や革製の服、肩や脚に部分的な金属鎧を身に着けていた。

 そんな幻想世界(ファンタジー)ならではの格好が、この世界が異世界だと強く確信する事が出来た。

 目を見開いて僅か、目の前に居る1人は2人の方へ向いていた。

 そしてその直後の2人は、此方(こちら)を凝視していた。

 それも物凄い驚愕(きょうがく)の表情で此方を指差して見ていた。

「お……おい…それ…!」

(遂にこの世界の人と御対面だ)

 彼等の状況など全く気にしない。

「そっ…その岩っ! 生きてるぞ!!」

「……えっ!?」

 目の前に居る男が此方を振り向いた。

 振り向いた彼の目と自分の大きな目が合った。

 その男は一瞬固まった。

「………ヘッ!?」

 そして2人の男達と同じ驚愕の表情を(あらわ)にした。

(さてっ! そろそろ起きるかな!)

 彼等の心境は気にせず、岩石の身体を起こす事にした。

(よっこらしょ!)

 ゆっくりと重い岩石の身体を持ち上げる様に動かし、立ち上がる。

「うわっ、うわっ、うわたたたっ!!」

 目の前の男は岩が動いた事に驚き、慌てて離れた。

 ゆっくりと立ち上がり、先に顔を向けて、次に身体を彼等の方へと向き直した。

「なっ…何だ此奴(こいつ)!!? いったい何なんだ!!?」

(どうも、初めまして)

 彼等は目の前の出来事に混乱する中、此方(こっち)は心の中で聞こえない挨拶を暢気に交わすのだった。



「いったい何処(どっ)から来たんだ!? この魔物は!」

 兜を被った男が槍を此方(こちら)に向け、動揺しながらも攻め込まれない様に警戒をする。

「こんな魔物、森で見た事()ぇ! 此処いらのモンじゃねぇぞ!」

 弓を持つ男が何時(いつ)でも矢を放てる様に準備していた。

「魔獣種…なのか!? いったいどれ程の危険度(ランク)なんだ!? ヤバいだろこれ!」

 目を開けた時に目の前に居た男が直剣を鞘から抜き取り、剣の柄を握り締め剣先を此方に向けていた。

 危機迫る様な状態に(おちい)っている彼等とは逆に、岩石の生き物は暢気にその場に立って3人の男達を見ていた。

(魔物? そうか、僕は魔物として分類されるのかぁ)

 自分の存在の謎が1つ解けたのは嬉しかった。人間では無いなら、じゃあ自分はいったい何なんだと、ずっと疑問に思ってた事だからだ。

(それに〝ランク〟って何の事だろう?)

 謎が1つ解けた後に新たな謎が現れ、クエスチョンマークを浮かべながら首を傾げた。

〈それに魔獣種か……。魔物にも種別が在るみたいだ)

 これは前世の世界でいう、哺乳類(ほにゅうるい)とか猛禽類(もうきんるい)といった種別ごとの総称なのだろう。

(まぁ、それは後ででいいや)

 取り敢えずは、ランクや魔獣種という言葉については後回しにする事にした。

 3人の男達と岩石の魔獣はその場で固まった(まま)、互いは動かなかった。

 完全に互いの出出(でだ)しを(うかが)っている状態になってしまった。(ただ)し、岩石の魔獣はただジッと見ているだけであるが。

(う~ん。如何するかなぁ。彼方(あっち)何か警戒しているみたいだし)

 正直、敵対したくない。

 (むし)ろ友好的に接したい。

 岩石の魔獣は少し悩んだ。

(何かされる前に此方(こっち)から何か友好の意思を伝えたいけど………喋れるかなぁ?)

 取り敢えず、声を発してみた。

「ンンンンンンンン」

 その声はとても野太く、鼻に掛かる様な、そしてほんの少しだけ低音の中にキーンと優しい高音が混じった声が響いた。

(あー、やっぱ喋れないかぁ。しかし…面白い声帯に成っちゃったなぁ)

 自分でも初めて発した声に驚いた。

 そんな声に驚いたのか、彼等は驚愕から困惑の表情に変わっていた。お互いの顔を見合わせ、何か相談をしているみたいだった。

 顔を見合わせ終わり、槍を持つ男が前に出て来た。

 近付いて来るのかと思えば、槍の刃が無い長柄(ながえ)の端っこ部分を両手で握り、槍の穂先(ほさき)を向けてゆっくりと距離を詰めて来た。何だか子供が棒で危ない生き物を突っ突く様な姿を彷彿(ほうふつ)してしまうようだ。

(……何か遠くない?)

 かなり遠くからの位置で突っ突こうとしていた。

 彼方(あちら)はかなり真剣であっても、(はた)から見れば何とも間抜けな光景であった。

(……まぁ、仕方ないよね。僕人間じゃないし。怖がるのも無理ないよねぇ)

 岩石の魔獣は寛大な気持ちで迎えようと頑張る事にした。

 槍の穂先が手の届く距離に迫って来た。

 さて、如何(どう)しようかと悩む。

 何もせずにジッとしてみるか、此方(こっち)も突っ突いてみようか。

 2つに1つの選択。

(じゃあ此方(こっち)も)

 岩石の指で槍の先端を突っ突いた。

 コツンコツンと金属と岩の当たる音が軽く響く。

(如何かな?)

 彼等の反応を見てみる。

 また驚愕の顔になり、目を丸くしていた。そしてまた3人で顔を見合わせる。

 そして今度は、直剣を持つ男が前に出て来た。

 男は直剣を(さや)にしまい、右手を前に出しながらゆっくり、ゆっくりと前に、恐る恐る進んで来た。

 如何やら相当な勇気を振り絞り、此方(こちら)に近付こうとしているのが(わか)る。

(やっぱり怖いんだよねぇ…。仕方ないよね。なら今度は動かないようにしよう!)

 ここは近付いて来る彼の勇気を無駄にしない様に、その場でジッと待つ事にする。

 ゆっくりと、ゆっくりと、互いの距離が縮まっていく。

 そんな岩石の魔獣に近付く光景を、2人は恐る恐るの胸中を抱き見守っていた。

 少しずつ、少しずつ、1人の男が未知の魔獣に近付いて行く。

(頑張れー! ちゃんと待っているからー!)

 岩石の魔獣は心の中から応援していた。


 そして男と岩石の魔獣の距離は、手の届く範囲に近付いた。

 この時、岩石の獣は自分の身体の大きさを漸く理解する事が出来た。

 自分は人よりも大きい存在だ、と。

 今度は手をゆっくりと近付ける。

 その手は僅かだが、恐怖で小刻みに震えていた。

(もうちょっともうちょっと! 頑張れー!)

 ゆっくりと、その手が岩の肌に近付く。

 そして遂に、男は岩石の魔獣に接触した。

 岩石の魔獣はジッとし続ける。

 何度も岩肌をぺちぺちと叩き、横に回ってはまた叩き、後ろに回ってまたぺしぺしと、何度も確認をする。

 男の表情に少しだけ安堵(あんど)が出た。

「……随分と大人しい魔獣だなぁ。敵意が全く感じないし」

 如何やら、此方(こっち)には敵意は無い事が伝わったようだ。

 岩石の魔獣もホッと胸を()で下ろし安堵した。

(良し。()ず1歩進んだぞ)

 心の中で距離が縮まった事に喜んでいる時に、男は話し掛けてきた。

「なぁお前、言葉は解るか? 俺達の話とか理解出来るか?」

 男の問いに、ゆっくりと大きく頷き肯定した。

 彼等はまた驚愕の表情へと変わり、また互いの顔を見合わせ、また此方に向き直した。

 今度の表情には恐怖が無いのが見て取れた。混乱も治まった様だ。

 如何やら無害な存在と理解してくれたみたいだ。

「はぁ~、(すげ)ぇな! こんなに知能が高い魔獣は初めて見たな!」

 弓を持った男が此方(こっち)に近付き、素直な驚きの感想を述べた。

「ホントに何なんだこの魔物? 何の部類に該当するか判らんが、間違い無く珍しい部類の魔獣だぞ」

 槍持ちの男はその魔獣をまじまじと観察しながら考察をしていた。

(良かった良かった。何とか友好を示す事が出来たぞ)

 とても幸先の良い1日のスタートだ。

 たとえ人外でも、ちゃんと真心を持って接していれば伝わるのだと、岩石の魔獣は心の中でうんうんと頷く。

「これ、解るかな?」

(これ?)

 目の前の最初に接触してきた男が手を差し出していた。

「よろしく!」

 握手を求めてきてくれたのだ。

 まさに友好の証だ。

 岩石の魔獣は、大きな岩の親指と人差し指で、彼の手を摘む様に握り、手を上下にゆっくりめに振った。

 彼等は更に驚いた。

 魔獣がこんなにも人間の様なコミュニケーションを取る事など見た事も聞いた事も無いのだ。

 そんな不思議な魔獣が、今目の前に存在する。

 数多(あまた)に存在する魔獣の中、その魔獣の目はとても穏やかで優しい、何とも不思議な気配を漂わせていた。

「すっ…凄いな…! ちゃんと言葉を理解出来るのか!」

(分かるよー。だって元人間だものー)

 岩石の魔獣は穏やかな表情で彼等を見ていた。


 そんな時、別の誰かの声が聞こえてきた。

「如何した! 何か()ったかー!」

 その声の主が開いた門の扉から出て来た。中から4人此方(こちら)に向かってやって来た。

「何か騒がしいから気になって来たんだが、何か遇った――――」

 出て来た彼は固まった。いや、彼等は固まった。

 その理由は単純明快だ。

 視界に入った、大きな岩石の魔獣だ。

 ほんの少しだけ、時間が凍り付くかの様に止まった沈黙が支配した。

 そして彼等は我に返るかの様に驚愕した。

「ウッ…ウワアアアアアァッ!!! 魔物だああああぁっ!!!」

(うん、ですよね)

 新たな混乱が生まれてしまった。

 彼等は此処の安全な土地で暮らしている故に、魔物の存在に慣れていない。当然の反応である。

 そんな混乱する彼等を武器を持った3人が必死に(なだ)め説明をするのだった。

(まぁ……こうなるよね) 

 取り残されたかの様にぽつんと突っ立っていながら、そんな光景を眺める。

(けど後は、あの人達に任せておけば大丈夫だろ)

 岩石の魔獣は暢気な事を思いながら、混乱が収まるまで余計な事は何もせず、ジッと待ちながら眺める事にしたのだ。

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