学びと成長の成果13-1
サイフォン家が所有する敷地内の訓練所。
此処は代々サイフォンの家系の者だけでなく、サイフォン家に仕える者達が己が剣の技術を鍛え、磨き上げ、強大な悪しき者達から力無き多くの無辜の民達を護る為に戦士として―――いや、此処サイフォン家では騎士としての力、技能、そして戦闘の経験をその身に刻み付ける場所である。
バーレスクレス魔導学院に設けられている広大な訓練所より範囲は狭いが、10人や20人程度が此処で訓練をしても、スペースには全然余裕がある充分な広さだ。
何より、今回は1対1による戦闘訓練の為、広い訓練所の全てのスペースが使い放題だ。とは言え、1対1ではあるが、戦闘訓練が始まれば1対複数へと即変わる。
因みに、1がシャラナであり、複数がガイアである。
シャラナとガイアは互いに一定の距離を離れ、其々の定位置に着く。
そして互いに離れた場所から、相手の姿を視界に映し合う。
「さて…訓練試合ではあるが、お互いどの様な力と闘いを見せてくれるか楽しみだ」
キルセミーゼは視界に映るシャラナとガイアに、令嬢の成長と幻神獣の未知を期待を抱きながら口にする。
「師である賢者エルガルム様から見て、今の彼女の実力は如何程で?」
「未だ実戦経験は浅いが、魔導師としての実力は中の上といった所じゃ」
その隣に並び立つゼルクルスの質問に対し、同じく隣に並び立つ賢者エルガルムは返答する。
「冒険者の等級で言えばC等級、もう少し実戦経験を積み重ねればB等級、魔導師団に入団しても問題無い程じゃ」
「それにルミナス大神殿に属した場合なら、聖職位階制度での階級は上級助祭か、良くて神官でしょうね」
現在シャラナの実力に対し上々だとエルガルムは語り、同じく隣で立ち並ぶベレトリクスは彼のシャラナに対する評価を補足する。
「そんな彼女に相対する大地の化神様は、動像創造の土系統を含め幾つ程の系統魔法を扱えるのでしょうか?」
「現時点で判明しておるのは5系統じゃ」
「5系統!? 確か、大地の化神は未だ生まれて間も無い赤子の幻神獣と聞いてはいたが…」
キルセミーゼは、幻神獣フォルガイアルスの現時点で扱える系統魔法の数に驚愕した。
しかし、驚愕したのは5系統の魔法を扱える事実ではない。
生まれて間も無い約1ヶ月の赤子の幻神獣が、5系統もの魔法を短期間で習得した事実に対してである。
「では、土系統を除く残りの4系統は何ですか?」
同じく賢者エルガルムから幻神獣フォルガイアルスの扱える系統魔法の数を尋ね、妻と同じ理解に至ったゼルクルスも驚愕の色を浮かべていた。
そして興味が湧く。
いったい後どの様な系統魔法が扱えるのかを、ゼルクルスは賢者エルガルムに問い掛ける。
「今それを教えても良いが、それはこの模擬戦でのお楽しみという所じゃ」
エルガルムはニカッと笑い、ゼルクルスからの問いに対し、見てのお楽しみだと告げるのだった。
「お互い、魔法に対してかなり熱心に励んでるらしいからねぇ。今扱える系統別でどの程度の魔法が行使出来るか、結構楽しみねぇ」
同じくエルガルム達の隣に立ち並ぶベレトリクスも、これから発動され飛び交う魔法に対し非常に期待と楽しみを抱いていた。
「さて、そろそろ始めるとしよう。お互い準備は良いか?」
「はい! 何時でも行けます!」
シャラナは気合のある返事を師のエルガルムに返しす。
そしてガイアは特殊技能〈縮小化〉を解除し、縮めた身体を大きくし元の身体の大きさへと戻した。
「ンンンンンン」(此方も何時でも)
顔をエルガルムに向け、野太く鼻に掛かった様な声にキーンと優しく響く高音質を発しながら頷き、此方も準備は出来たと意思を伝える。
「ほぉ…! あれが本来の大きさか」
ゼルクルスは本来の幻神獣フォルガイアルスの大きさに目を見開く。そして隣に居る妻のキルセミーゼも夫と同じ様に目を見開き、その威圧感のある巨体を視界に映す。
「さてさて、いったいどんな戦闘訓練になるのかしらねぇ」
普段の少しだけ気怠そうな顔をしているベレトリクスの口元は、楽しみという期待で笑みを浮かべていた。
「訓練内容は解っておるな? 時間制限は無制限じゃが、儂の判断で今回の戦闘訓練を終了させて貰う。互いに学び得た事を存分に振るい、己が実力を認識し、その力をこの闘いで更に高みを目指し続けよ」
エルガルムが手を蒼天の空に伸ばすかの様に上げる。
彼の手が上がった後、訓練所という空間は静寂に支配された。
誰も声を発しない。
互いを見合うシャラナとガイアも。
セルシキアも、ゼルクルスも、キルセミーゼも、ベレトリクスも、今回の訓練試合を拝見しに来た幾人かの騎士や使用人達も、その場に居る誰もが声を発さず、これから始まる前代未聞の戦闘訓練をする1人の貴族令嬢にして魔導師と1体の神に等しき存在である幻神獣フォルガイアルスを視界全体で映すのだった。
「それでは――――」
両者は同時に構えた。
そして、エルガルムの上がっていた手が振り下ろされた。
「――――始め!!」
エルガルムの開始宣言直後、最初に魔法を発動したのはガイアだった。
(〈動像創造〉!)
其々の場所に土と岩石が出現し、土系統の魔法により出現した土と岩石は、質量を急速に増やすと同時に不定状態から人型へと形造られていく。
土は粘土の動像へ、岩石は岩石の動像へと形造られた。
粘土の動像は6体、小型の粘土動像は10体、そして岩石の動像は4体、その数合計20体の動像が創造された。
動像創造系魔法の発動から動像創造完了までの時間は―――僅か3秒。3秒で20体の動像達を、ガイアはあっという間に創り出す。
「…! 速い…!」
キルセミーゼは思わず呟く。そして土系統魔法〈動像創造〉の発動から完了までの過程を視界に映したその光景を即脳へと伝達し、幻神獣フォルガイアルスの有する特殊技能を見抜いた。
「あの魔法発動速度……〈魔力操作〉に〈魔力制御〉、更に〈土系統魔法制御〉の特殊技能は間違い無く有しているな」
「流石キルセミーゼ、御名答よ」
キルセミーゼの回答にベレトリクスは正解だと告げ、回答されていないガイアの特殊技能の一部を補足し、続けて口にする。
「更にガイアは〈動像操作〉と〈動像制御〉の特殊技能も有してるわよ」
「ほう、土系統魔法に特化しているのか」
ベレトリクスの補足にから、幻神獣フォルガイアルスは土系統魔法が最も得意であるとゼルクルスは理解する。
動像を計20体創造し終えたガイアは、自身の魔力を己の意思を込め、20体の動像達に同時に電気信号を伝達する様に魔力を〈魔力操作〉と〈魔力制御〉を駆使しながら送り、〈動像操作〉と〈動像制御〉の特殊技能で己の意思を流し込み、己の身体を動かす様に動像達を操作し始めた。
(先ずは攪乱して、その間に四方から取り囲む。そして間合いを詰めてみよう)
創造主であるガイアの意思的操作に従い、10体の小型の粘土動像は小柄な身体を活かし攻撃に当たらぬ様素早く動き回り、6体の粘土の動像は囲み、4体の岩石の動像は追撃として、其々が同時にシャラナへと接近し、間合いを迅速に詰め迫って行く。
(う……!? 20体同時操作となると、こんなにキツいのか…)
操作し始めたと同時にガイアは僅かな頭痛が起こり、頭は精神的な何かの重石でも乗せられた様な重い感覚が生じた。
「20体を同時に…。〈動像並列操作〉も有してるのか」
「いや、並列操作も並列制御も未だ持っとらんぞ」
賢者エルガルムの回答にキルセミーゼは目を見開き、驚きの色を浮かべた。
「何!? 何方の特殊技能も無しに、20体を同時に操作してるのか?!」
大抵複数の動像を使役する場合、単純な行動しか出来ない自動操作で使役するのが基本だ。優れた魔導師が使役しても、精々3体か4体を意思的操作をするのは困難である。賢者エルガルムや魔女ベレトリクスなら20体以上を使役する事は可能だか、そんな魔法に優れ、それに応じた特殊技能を習得し有する2人でさえ、意思的操作で多数を同時に操るのは非常に困難な事である。
「凄い集中力ね……ガイア」
現時点のガイアが有している特殊技能を知っているベレトリクスも、ガイアの20体同時の動像操作に驚愕が隠せず表情に滲み出ていた。
小型の粘土動像達があっという間にシャラナに接近し、粘土の腕を伸ばし捕まえて拘束しようと一斉に飛び掛かる。
「〈突風炸裂〉!」
シャラナを中心に風系統魔法によって発生した強力な突風が周囲へと炸裂し、周囲から飛び掛かって来た小型の粘土動像達を、強力な分厚い風圧で弾き飛ばすかの様に吹っ飛ばす。
(うおっ! 吹っ飛ばされた!)
実際に目にした事の無い魔法に、ガイアは不意でも突かれた思いで驚愕する。
「〈聖なる光線〉!」
風系統魔法から神聖系統魔法へと流れる様にシャラナは素早く発動し、10体の小型の粘土動像を次々と聖なる魔法の光線で貫き、迅速に破壊し倒していく。
(倒すの速っ! ならこれは如何だ!)
シャラナの迅速な対応にガイアは少し動揺し慌てたが、直ぐに平常を取り戻し、取り囲もうと粘土の動像達を同時操作し、シャラナに襲撃を仕掛けた。
「えっ!?」
今度はシャラナが不意を突かれたかの様に驚愕した。
其々の方向から、粘土の動像達の腕が実際に伸長していたのだ。
硬い岩石の身体の岩石の動像とは違い、柔らかい粘土の身体である粘土の動像は自身の身体の形を自在に変える事が出来る長所を持っている。なので腕を自在に伸ばす事など造作も無い事。
捕まえようと素早く伸び迫る大きな粘土の手が急接近し、そのまま捕まえようと粘土の動像達の伸ばす手をガイアは操作し、シャラナの華奢な身体を掴もうとした。
(ありゃっ!?)
ガイアはシャラナの動きに驚愕する。それと同時に、シャラナの対応力に称賛を内心から送った。
(凄い…! 旅の途中でも見たけど、本当に魔導師とは思えない動きだ…!)
シャラナは前へと前進しながら、粘土の動像達の伸び迫る粘土の手をステップを踏む様に華麗に回避していた。その動きは軽やかかつ素早い身のこなしと言って良い、まるで経験を積み重ねて得た軽戦士の動きであった。
「良い動きだ。良く鍛えられてるな」
シャラナの未熟ではあるが、相手の攻撃に対する身のこなしの良さにキルセミーゼは頷きながら関心する。
「〈風の刃〉!」
回避から攻撃へと転じ、シャラナは魔法で空気を薄い形に固定し、そのまま勢い良く押し出し風を意図的に発生させ、粘土の動像達に目掛けて刃と化した魔法の風を飛ばした。
縦真っ二つに斬り裂き、輪斬りにし、6体の粘土の動像は風の刃で斬り裂かれた後、力無く倒れ、粘土の動像達の身体は崩れ、只の土塊へと還り跡形も無く消滅した。
(嘘ぉん! 全部1発で!?)
ガイアはまた驚愕する。
驚愕するその理由は、粘土の動像達への攻撃が的確な事についてだ。
「良い魔力感知の感覚だ。戦闘の最中で正確に動力源を狙える様に成長したか」
セルシキアは騎士であると同時に電気系統を扱う魔導師である為、シャラナの素の魔力感知能力の高さに関心を抱いていた。
それはシャラナが〈風の刃〉で斬り倒した粘土の動像達の斬られた箇所が、其々違う箇所である事だ。一見適当に斬り倒している様に見えるが、シャラナは魔力の動力源の箇所が1体1体違う粘土の動像を全て正確に感知し、其々1発で狙い破壊したのだ。
「ふむ…。あそこまで正確に感知が出来るなら、別の感知系特殊技能を習得出来そうじゃな」
エルガルムはシャラナの魔力感知感覚の正確さを観察し、次は新たな感知系特殊技能の習得させようと考える。
(なら動像追加だ! 〈動像創造〉!)
動像の数を一気に減らされ岩石の動像4体だけになり、ガイアは新たな動像を創り出した。
3箇所から土でも岩石でもなく、砂が出現し、大量に出現した砂は下から上へと盛り上がり、砂は己の身体をを形作る。
「ほぅ…真砂の動像か。中々面倒な相手じゃな」
見たまんま、細かい砂のみで構成された動像だ。他の動像とは違い脚が無い上半身だけの様な形状だ。
しかし、一般的な動像とは違い、ある特徴がある。
(真砂の動像を盾として先行! その後に岩石の動像で追撃!)
真砂の動像3体と岩石の動像4体を同時に操作し、シャラナへと急接近させる。
「〈疾風の騎士槍〉!」
1体の真砂の動像に対しシャラナは冷静に動力源を感知し、真砂の動像の体内に在る魔力が最も強い部分を正確に狙い、中位級の風系統魔法を即座に放った。
無系統魔法〈魔力の騎士槍〉の術式を基盤とし風属性の魔力で発動した魔法は、真砂の動像内の動力源に目掛けて、貫通力のある魔法で構成された疾風の槍が急速に飛び迫る。砂の身体を突き刺すと同時に、魔法の槍に宿り纏う魔法の疾風が、突き刺した周りの邪魔な砂を強力な風圧で一気に削り押し出し、魔法で構成された騎士槍の貫通力を強く促し、見事に貫いた。
この間、一瞬に近い光景である。
――――しかし、真砂の動像は消滅せず、即座に元の形へと修復し戻す。
「え!?」
正確に動力源を狙った。その筈なのに真砂の動像が消滅しない不測の事態に、シャラナは動揺した。
(良ーし! 上手く外せた!)
消滅しなかった理由、それは攻撃の直前に真砂の動像内の動力源の位置を移動させたからだ。
真砂の動像は砂のみで構成されているが故に、姿形に決まりがない流動性の身体であるのだ。その御蔭で中に在る動力源を自身の砂の流動により、好きな箇所へと移動させる事が出来る長所を有しているのだ。
つまり、シャラナの攻撃魔法は外したのではなく、ガイアが真砂の動像の内部を操作して外させたのだ。
(そしてこっそり〈動像創造〉)
ガイアは動揺するシャラナの隙を突き、彼女の背後に粘土の動像をバレない様に出現させる。
(背後、隙あり!)
至近距離の背後から創造した粘土の動像を操作し、拘束しようとし――――。
(つっかまーえ――――)
「〈魔力の弾丸〉!」
シャラナは一切後ろを振り向かず左手だけを後ろへ伸ばし、背後から迫る粘土の動像に反撃を放った。しかも、偶然なのか狙ってなのか、見事に粘土の動像の動力源を破壊したのだ。
(ぬぁっ?! バレた!)
直ぐにバレてしまった事にガイアは悔しがる。
(反応が早い! やっぱ〈魔力感知〉が有る相手には直ぐバレちゃうかぁ!)
やはり経験の浅さ故、攻めの詰めが甘く為ってしまう。
「うむ、良い反応じゃ」
シャラナの反応速度と即時対応に、エルガルムは感心し頷く。
この闘いの中で、弟子として成長したシャラナに親心の様な嬉しい心境を抱いて。
そしてシャラナの成長は、未だ終わらない。
「〈疾風の騎士槍〉!」
今度はシャラナが攻めに転じ、3体の真砂の動像に先程行使した中位級の風系統魔法を3連続発動し放った。
真砂の動像は砂の身体を貫かれると同時に、身体を構成する大量の砂が飛沫を上げる様に吹き飛び、最初の真砂の動像よりも大きな風穴を開けられた直後に霧散し、跡形も無く消滅した。
(あれ!? 何かさっきのより威力が増してる気がするんだけど!? 何で!? 魔力消費量は変わってないのに!)
ガイアは感じた違和感に困惑する。
最初に発動した〈疾風の騎士槍〉より、その後に発動した〈疾風の騎士槍〉の魔力精度が何故か上がっていた。
そんなガイアの疑問を察している訳では無いが、エルガルムからその答えが口から出て来た。
「良し良し、〈風系統魔法制御〉の特殊技能も習得した様じゃな」
(マジでかっ!?)
まさかシャラナが試合の最中で特殊技能を修得した事実にガイアは驚愕し、口をあんぐりと無意識に開けてしまった。それと同時に理解と納得もした。
(そういう事か! 制御系特殊技能の〈風系統魔法制御〉の御蔭で風系統魔法が制御されて、より威力と性能を上げる事が出来たという訳か!)
ガイアは彼女の成長に驚き、高揚感が心の底から湧き起こり、内心でニッと笑みを浮かべた。
(そうだよ! こういうのを待ってたんだよ!)
今迄真面な実戦という機会が殆ど無かったガイアは、これ程自身の力を試し確かめる訓練が己の心を童心に帰らせ、今の力を更に高めようと向上心が湧き、拮抗する闘いで心に生じる高揚感が堪らなく、更にそこから煌めき輝く純粋なワクワクが溢れ出て来ていた。
(なら此方も、レベルを上げるとしますか!)
ガイアは両手を真正面に翳し、新たな動像を創造し出す。
(〈動像創造〉!)
何も無い5箇所の中空に5つ大きな金属の塊が出現し、その金属――――鉄の塊は急激に質量を増やしながら成長するかの如く大きく為り、それと同時に人型へと形成していく。大まかに人型の形へと整った後に、腕、脚、胴体、頭といった人体部位が繊細かつ細やかに形成され、鉄の身体其の物を1つの鎧へと細工が施され、より全身の造形が綺麗に整えられていく。
その全ての過程がまるで早送り再生でもしているかの様に速く、たった3秒で創り上げた。
(良し! 初めてながら上手く出来たぞ!)
鉄で創られた動く魔法の像――――鋼鉄の動像。
その姿形はまさに鋼鉄製の全身鎧であり、1体毎の造形は僅かに違えど、それは見事な細工を施された全身鎧を纏った巨大な戦士である。但し、内側は空洞では無い。
「ほぉ! 鋼鉄の動像を出したか! それも5体も一気に創造する上に、魔法行使速度も恐ろしく速いのう!」
「それだけじゃないわよ。無から創り上げたあの動像全ての造形と細工……あれはかなり明確かつ繊細なイメージを持っても出来る魔法技術じゃないわよ」
創造し完成された全ての鋼鉄の動像の全身鎧の様な図体を、全体に隅々まで施された細かな造形を、僅か3秒で創り上げたガイアの創造系魔法の高度な技術力に対し、ベレトリクスは畏敬に近い驚愕の色を浮かべるのだった。
(よぉ~し。此方も色々魔法関連の書物から学んだ魔法を試させて貰うよ~)
ガイアは両手を翳した儘、知識としては学び得たが1度も使った事が無い魔法を初めて発動した。
(〈上位敏捷力強化〉!〈上位魔法防護〉!)
未だ残っている4体の岩石の動像と創造し立ての鋼鉄の動像5体に、俊敏性強化の上位級魔法と魔法耐性の上位級魔法を掛けて強化する。
かなりの魔力量の大盤振る舞いだ。
何せ上位級の支援強化系魔法だけでなく、鋼鉄の動像を維持する為の魔力も常時送り、消費し続けているのだ。しかもその数は5体。魔力の消費量はとんでもない事になっている。
常人の魔導師や優れた高位の魔導師―――いや、たとえ賢者エルガルムや魔女ベレトリクスでも、無から創り出された5体もの鋼鉄の動像を常時魔力を送り続けながら維持し、更にそこに強化魔法を掛けるのは己の魔力残量が非常に厳しいものとなるのだ。
しかし、ガイアは圧倒的強力かつ膨大な魔力量を有するだけでなく、特殊技能〈光合成〉による恩恵で太陽の光に当たってさえいればひたすら魔力は回復し続け、全開状態で魔力を消費し続けても枯渇する事は無い。
故にガイアは、無から創造した鋼鉄の動像達を維持する魔力費用は、気にする必要が基本的に無いのだ。
新たな動像の追加と2つの支援系の上位級魔法で現在居る全ての動像達が強化された事により、シャラナは焦りの色が滲み出た。
「ど……如何しよう…」
物理的防御面がそこそこ高い岩石の動像相手なら〈風の刃〉、確実に一発で仕留めるなら〈疾風の刃〉で斬り裂き倒す事は可能だが、上位級の魔法耐性を付与された為、1体を魔法で倒すだけでも苦労する相手に為ってしまった。それも4体。
更には身体が大きく鈍重である岩石の動像に上位級の俊敏性強化魔法を付与され、鈍足という機動力に関しての短所が一定の間無くなり、巨体とは思えない機動性で襲い掛かって来るのだ。それも4体。
岩石の動像4体だけなら未だマシだった。
更には同じ魔法で強化された頑丈な鋼鉄の動像も控えて居る。しかも5体。
戦況はいきなり一転し、シャラナがかなり不利な状況となってしまった。
(そぉら、捕まえちゃうぞー!)
ガイアは4体の岩石の動像と5体の鋼鉄の動像を、一斉に操作し出す。
俊敏性を大幅に強化された岩石の動像と鋼鉄の動像達の動きは、その巨軀とは釣り合わない恐ろしい動きと為っており、その素早い機動性で迫り来る姿は、宛らガイアが敵に急速に迫り行く光景を重ねてしまう程の恐ろしさを感じさせた。
「〈中位敏捷力強化〉!」
このままでは不味いと直感したシャラナは、即座に中位級の敏捷性強化魔法を自身に掛け、全身の素早さと機動性を上げた。
恐ろしく素早い機動力で迫る硬質な巨体がシャラナを捕まえようと一斉に掴み掛かるのに対し、シャラナは敏捷性を強化した事によって通常よりも素早く機動する事を可能にし、次々に迫り来る巨岩の手と巨鉄の手を華麗に躱し続ける。
「さてさて、このままでは厳しいぞ。さぁ、この状況を如何する?」
エルガルムの言う通り、シャラナの戦況は劣勢である。
中位級であるとはいえ、俊敏性を強化された動像達の手からギリギリ回避し、辛うじて逃げ回れているだけである。
1番の劣勢の原因は、動像達に掛けられたもう1つの上位級強化魔法――――〈上位魔法防護〉による強力な魔法耐性を付与だ。その所為で、此方からの魔法攻撃の損傷は思う様に通らないのがかなり辛い現状なのだ。
動像達の伸び迫る手をギリギリに躱しては擦り抜け、態勢を整えようと距離を離そうとするが、敏捷性を強化され鈍足では無くなった岩石の動像と鋼鉄の動像達が、直ぐに離した距離を一気に縮めて迫り来る。
(〈石柱〉!)
シャラナの逃走先にガイアは石柱を出現させ、シャラナは突然目の前の地面から石柱が出現に驚愕し、僅かな思考に混乱が生じてしまう。
そんな彼女に透かさず、鋼鉄の動像と岩石の動像が挟み撃ちで捕まえようと一気に迫り行く。
シャラナは慌てながらも素早く、その場から退避する。
その直後で挟み撃ちに失敗した鋼鉄の動像と岩石の動像は、互いに激突するのだった。
シャラナは上手く退避出来たが、直ぐにガイアが操作する別の動像達が恐ろしい速さで追い掛け捕まえようと迫り来る。そしてガイアから土系統魔法の〈石柱〉で、逃走経路の邪魔をされるのだった。
(むぅ~、逃がさないぞ~!)
逃げ続ける事によって徐々に逃走先を動像達に回り込まれ始め、シャラナは更に少しずつ焦りが生じ出す。
ガイアは彼女の動きを無意識ながら捉え、ある程度先読みをしながら動像達を同時操作し、逃げ回り態勢を整える時間を与えまいと、操作している動像達でしつこく追い掛け迫るのだった。
(このまま避け続けるのは意味が無い。だからといって今の私の魔法じゃ傷を付けれるか如何か…。今の儘じゃ強力な複数の動像を相手にし切れない)
シャラナは劣勢な全ての現状を即座に認識、理解し――――そして決意する。
(戦力を増員して劣勢から脱しないと!)
シャラナは新たな神聖系統魔法を発動させた。
「我が信仰の祈りに応え、顕現せよ! ――――〈天使召喚〉!」




