新たな変化12-2
「さてさて、早速始めましょうかね!」
ベレトリクスは満面な笑みを浮かべながら開始を告げた。
空間魔法の〈収納空間〉から取り出された立派なアイテム製作作業台が、シャラナとガイアの眼前にドンと置かれた。広い作業台の上には数枚の羊皮紙と数種類の鉱石、主に銀鉱石の塊がゴロリと置かれていた。
羊皮紙はベレトリクスが用意した物で、鉱石は当然ガイアが生成した物だ。
ガイアが鉱石と原石を生成出来る特殊技能を獲得した為、早速小さな草原の背に突き出し生えた煌びやかな素材の宝を、ベレトリクスは主に魔法を用いた手段で採掘を始めた。勿論、エルガルムもその採掘作業に加わった。
ガイアも何か手伝えないかと思い自分の背に生えた鉱物を掴み思いっきり引っ張ってみたら、簡単に丸ごと引っこ抜く事が出来たのだった。引っこ抜いた際に出来た穴ぼこの様な凹み跡は直ぐに元に戻り、特殊技能で再び其処から鉱石や原石を難無く生やし生成する事が出来たのだった。
如何やら引っこ抜いたり魔法によって切り取られる際の感覚は感じるが、生やした鉱石と原石を引っこ抜かれても痛くも痒くも無い様だ。
「さっきも言ったように魔法の巻物を製作するのに必要な物は、基本的に羊皮紙と最低でも銀と金の鉱石ね。下級の魔法の巻物製作するにも、威力や持続力を高めた低位級魔法を込める際には銀じゃ収まりきらないから、その場合は最低でも金も必要よ。これは必ず憶えといて。この原理は中位級以上にも適応されてるから」
「魔法の位階の高さ、威力、効果持続力、効力範囲によって、製作する為に必要な皮紙と鉱石の希少度が上がっていくという事ですね」
「そゆこと。流石、理解が早いわね」
(なーるほどー。込める魔法が総合的に高ければ高い程、製作に使用される素材はより貴重な物が必要になるのかぁ)
ガイアはベレトリクスの魔法の巻物製作説明と、その説明の補足を言うシャラナの言葉に対し、頷きながら理解を示す仕草を無意識にするのだった。
「製作に使う鉱石の量は大量に使うって訳じゃないから。基本はコイン1枚分程の塊で作る物だから」
「込める魔法は威力と持続力によって、鉱石の必要量は増えるのでしょうか?」
「それに関しては未だ完全に解明しきれていないのよね~。まぁ、解っている事は、最上位級になると製作に使う貴重な鉱石の量が増えるのは確かね」
(余り解っていない事って何だろう?)
ガイアは首を傾げ、解明しきれていない事とはいったい何だろうと疑問を浮かべ、興味を抱く。
「では、解明されていない原因は何なのですか?」
ガイアが疑問に思っていた事を、透かさずシャラナが質問をベレトリクスに投じた。
「ん~…。何度かね……最上位級の魔法の巻物を製作していた事があってね、その時使用した素材は輝焔竜の竜皮紙とアダマンタイトで、私が使える炎系統での最上位級魔法〈破灼の巨焔弾〉の魔法の巻物を作ろうと試みたんだけどね…」
(試みたけど?)
話の途中で、ベレトリクスの表情は少しげんなりと変化するのだった。
その表情を見たシャラナとガイアはその先が如何だったのか容易に予想が付いた。
「…失敗したのよね~」
「失敗とは、いったいどの様な結果が出たのですか?」
ガイアもその失敗がどの様な形で成ったのか、その失敗の原因を聞きたかった。
「それがね~…。竜皮紙は燃えずに済んだけど…、アダマンタイトが最上位級魔法に耐え切れずに消滅しちゃったのよ~。最初はコイン1枚分で作ろうとしてなんだけど、失敗する毎にアダマンタイトの使用量を増やして製作を試みたんだけど…、コイン5枚分でも耐え切れずに消滅しちゃったのよ~」
最上位級魔法を込めた魔法の巻物を製作する条件素材の1つ、竜皮紙は問題無い様だが、鉱石の中で非常に貴重なアダマンタイトの量を増やしても、最上位級魔法に耐えられず消滅する所為で作り出せないらしい。
そしてベレトリクスは、これ以上貴重なアダマンタイトを無駄に消費させる訳にはいかないと、途中で最上位級の魔法の巻物製作を一時断念したそうだ。
「アダマンタイトでも最上位級の魔法の巻物を製作出来なかったのですか」
シャラナは少し驚愕の表情を浮かべ、その結果が信じられない思いを抱くのだった。
「出来なかったのよ~。私の知る中で一番貴重な鉱石を使用したのにも関わらず作れなかったのよ~。魔法の巻物の製作理論通りなら作れる筈なんだけどね~」
(ん? 一番貴重な鉱石がアダマンタイト?)
ガイアは鉱石に対し、些細な疑問が浮かび上がった。
(この世界でアダマンタイトが一番貴重な鉱石であるにも関わらず、最上位級の魔法の巻物が製作出来ないのは何か引っ掛かるなぁ…。そもそも、本当にアダマンタイトっていう鉱石がこの世で存在する一番貴重な鉱石なのか?)
ガイアはその疑問を紙に羽根洋筆を走らせ文字を書き綴った。そしてベレトリクスに質問をする為に挙手をした。
「ん? なぁに? 質問?」
質問の許可が下り、ガイアは書き綴った質問をベレトリクスに見せた。
〝アダマンタイトよりも貴重な鉱石って無いの?〟
とても簡単な質問内容だ。
それを見たベレトリクスは少しだけ見開き、少しげんなりしていた表情が僅かな驚愕を浮かべた後、何かを考察し始めた。少し考察した後にベレトリクスはエルガルムに問い掛けた。
「ねぇ、エルガルム。伝承やら伝説やらの記録で、アダマンタイトを上回る希少な鉱石って確か在ったわよね? あんたならその手の事に詳しいでしょ」
如何やら、何かしらの心当たりがある様だった。
その心当たりに関しては、ベレトリクスよりもエルガルムの方があるようだ。
「ふむ、なるほど。アダマンタイトよりも貴重な鉱石か…。数少ない記録に書かれていた書物で読んだ記憶はあるのう」
エルガルムは白い髭を扱きながら、その僅かな記録を頭の中の記憶から探り出そうと掘り返す。
「その鉱石の名称は確か……〝アポイタカラ〟だったかの」
(アポイタカラ?)
ガイアは首を傾げた。
「あぁ! 確かそんなのが在ったわね!」
ベレトリクスはその金属の名称を思い出し、スッキリとした表情をパッと明るく浮かべた。
「それはいったいどんな金属なのですか?」
「アポイタカラとは、現在で最も硬く丈夫で高品質な魔法の武具といったあらゆる製作素材として誰もが欲しがる、アダマンタイトよりも貴重な鉱石と言われる幻の鉱石じゃよ」
「その幻の鉱石は、先生は見た事無い物なのですか?」
「あくまで記録上だけじゃがの。実際に存在しているのかは儂でも真相は判らん。しかしベレトリクスよ、先程の魔法の巻物製作での話を聞いて儂は思うのじゃが……もしかすると、その幻の鉱石は実際に存在している可能性があるやもしれんのう」
「あぁ~…。なるほど…確かにその可能性、在るかもね…」
エルガルムとベレトリクスは何か辻褄が合ったと納得をしていたが、シャラナとガイアは2人の会話を理解出来ず、首を傾げながら疑問符を頭上に浮かべるのだった。
「あの、可能性が在る、とは如何いう事でしょうか?」
シャラナは素直に2人の会話内容に対し質問を投じた。
「さっき私が言った魔法の巻物の製作での失敗についてなんだけどね、アダマンタイトを使用してでの失敗が、もしかしたら更に上の鉱石素材であるそのアポイタカラが実際に存在する可能性に繋がるんじゃないかっていう仮説よ」
「もし、実在すると仮定すれば、何処かのダンジョンの儂すら行った事が無い奥深くの階層の何処かにある可能性が在るやもしれん、と思ったのじゃよ」
ベレトリクスとエルガルムの可能性という仮説と仮定を聴き、シャラナとガイアは理解した。
つまり、アダマンタイトでは最上位級の魔法の巻物を製作するのに見合わないなら、それよりも上の希少度の高い幻の鉱石であるアポイタカラを使えば製作が可能である事と同時に、その幻の鉱石であるアポイタカラがこの世の何処かに実在している可能性も在るという事だ。
(なるほど、鉱石ってダンジョンにも在るんだ)
ガイアはエルガルムの説明で出ていたダンジョンに関する一部分の知識を頭の中に刻み記した。
「まぁ、今は製作方法の教授の時間だから、それは又の機会で話すとしましょ」
ベレトリクスは幻の鉱石の話への脱線を修正し、本日の魔法の巻物の製作教授へと戻すのだった。
「先ず最初は簡単な低位級魔法での製作基礎から覚えて貰おうかしら」
彼女は作業台に1枚の羊皮紙と、その上にコイン1枚分の銀の塊を置いた。
「ここで無系統魔法の〈魔法封印〉を行使する際の注意点は、封印術式の魔法陣を創り出してその中に魔法を仕込む通常の使い方ではなく、銀で封印術式を創り出し、その中に別の魔法を込めなきゃいけないの。そして封印術式は鉱石其の物に投影されて、その鉱石で魔法術式を羊皮紙に描かれるんだけど、〈付与魔法〉は出来る? 封印術式を込めた鉱石を魔力操作で羊皮紙に〈付与魔法〉を行使しながら魔法陣を描けば付与出来るわ」
(お…おぅ……銀で封印術式を描いて……で、封印術式を込めた銀の中に別の魔法を込めて……魔力操作で魔法陣を描く…? ん? あれ? 鉱石で封印魔法を描いてから付与だっけ? 魔法を封じ込めた後に描くんだっけ? あれ~??)
ガイアは必死にベレトリクスの説明内容を整理しようとするが、少々こんがらがってしまい理解が余り追い付かなかった。
(あれ? 何かこんがらがっているみたい。覚えが早いこの子がこんな様子を見せるなんて)
こんがらがっているガイアの様子を横目で見たシャラナは、内心クスリと笑い、そんな子供の様に純粋に頭を抱えこんがらがる様子を不思議と微笑ましく思うのだった。
「如何やらガイアは頭の中がごちゃごちゃになってるみたいね。なら私が実際に製作する所を見せて上げる」
ベレトリクスは作業台の上に置かれた羊皮紙と銀の鉱石に向けて両手を翳し、製作の実演を始めた。
「〈魔法封印〉」
発動した魔法は銀を通し、魔法封印の術式の形成を始めた。
1人と1体は魔法効力が銀に込められ、魔法陣を形作る短い一連をまじまじと凝視する。
「んで、銀で形成した〈魔法封印〉の魔法陣を崩さない様に制御しつつ、羊皮紙に付着させる。その後は仕込みたい魔法を込めれば、込めた魔法に合わせて勝手に術式が再形成されるわ。今回は低位級魔法で良く使われる強化魔法の1つ、〈下位敏捷力強化〉の魔法の巻物を製作してみましょ。―――〈下位敏捷力強化〉」
次にベレトリクスは低位級の強化魔法を発動すると同時に、銀で形成した魔法を封じ込める陣と起動させ、同時に発動させた〈下位敏捷力強化〉の魔法を込めた。強化魔法の術式を転写する様に銀の魔法陣は再形成し、込められた魔法を取り込んだ。
(おお…!)
「わぁ…!」
シャラナとガイアは、魔法の巻物の製作に於ける一部始終の工程に、驚きで瞳を輝かせた。
コイン1枚分の銀塊が液状化し、まるで生きているかの様に液化した銀が羊皮紙の上で動き広がっていった。
しかし、ただ動いているのではない。ただ広がっているのでもない。
光沢のある液状の銀は自ら細く伸び、円を描き、文字を描き、羊皮紙という真っ新な表面世界に不可思議な模様を描く。そして真っ新だった羊皮紙の表面に描かれた銀の魔法陣は、強化魔法を封じ込めた事により紋様が変化した。
「これで〈下位敏捷力強化〉が込められた下級魔法の巻物の完成になるわ」
術式によって構成し描かれた銀の魔法陣は、芸術と言って良い神秘的なものを感じさせた。
(おおー! 凄い! 銀が魔法陣を描いた! 流石は魔法だ!)
ガイアは魔法の巻物の製作過程で、最も目を惹いた銀が液状化し魔法陣を描く工程に、知識欲が刺激された。知識欲だけでなく、感性にも刺激を与えられ、より大きな瞳を輝かせた。
「さて、今度はシャラナとガイアの番だよ。込める魔法はさっきと同じ〈下位敏捷力強化〉でやってみなさい」
「はい!」
(よーし! やるぞー!)
今度はシャラナとガイアの番となり、目の前に置かれた羊皮紙と小さな銀塊に向けて手を翳し、魔法を発動させた。
「〈魔法封印〉」
(〈魔法封印〉)
因みにシャラナもガイアも、無系統魔法の〈魔法封印〉を使うのは今回が初めてであったが、説明を聴き、実際に観た事により、その魔法に関する脳内に浮かぶ術式を安定させる事が出来た。
〈付与魔法〉に関して、シャラナは賢者エルガルムから既に学び、ガイアはここ最近で魔法関連の書物をたっぷりと読み耽りながら魔法を幾つか試していた。その為、銀を魔法封印の魔法陣に形成し、それを付与する感覚は其々授業と独学で身に付けていた。
「ま…先ずは銀の魔法陣込めれました」
(良し! 僕も上手く出来たぞ)
シャラナとガイアは、最初の第一段階の工程を成功した。
「あら、中々上手く出来てるわねぇ。じゃあ次は、銀の魔法陣を起動させながら強化魔法を仕込む段階ね。此処の工程は魔力と魔法に関する制御技術が物を言うから、気を抜いちゃ駄目よ」
1人と1体はベレトリクスの助言をしっかり聴いた後、次の工程を開始する。
最初の工程で銀の魔法陣に込められた封印効力を起動しながら、そこに低位級強化魔法を発動させ、封印の術式に組み込む様に込める。受け皿である魔法封印と其処に仕込む魔法、何方かが不安定な状態であれば魔法の封じ込めは失敗する。
最初から別々の魔法を2つ同時に発動し、更にそれを制御するのは初心者には難易度が高い技術だ。だが、予め形成した魔法陣を起動させるので、魔法の巻物の製作では然程難しいくはない。
(良し…! 何とか出来たぞ!)
ガイアは有している特殊技能〈魔力操作〉と〈魔力制御〉の御蔭で、難しい工程を成功させた。
「|やはり、両方を同時に発動させながら制御するのが…難しいですね…」
シャラナも銀の魔法陣に強化魔法を仕込む事に成功するのだった。
「上出来、上出来。未だエルガルムから聞いてたけど、2つ同時の制御はちゃんと出来てるわね。〈付与魔法〉の方もバッチリ」
ベレトリクスはシャラナの結果を高く評価するのだった。
(初めてだったけど…魔法を2つ同時に制御するのは難しいな。其々別の事を同時にするのって、ある意味右を見ながら左を見るに近い事をしているんじゃないだろうか…)
2つ同じ魔法を同時に行使するなら未だ操作制御し易いが、2つ別々の魔法を同時に行使するのはかなり精神に負担が掛かる。それを更に制御するとなると、更に精神的負担が掛かる感覚をガイアも直に感じていた。
「じゃ、次は別の強化魔法を仕込んでみましょうか」
今度は別の魔法を封じ込めた魔法の巻物の製作に、シャラナとガイアは取り掛かる。
2回目は銀の魔法陣が円滑に形成出来、封印と強化の魔法を同時発動も安定し、羊皮紙の表面への付着もすんなりと出来た。
液状化した銀が魔法によって動き紋様を描く光景は、やはり不可思議であるが、それと同時に神秘的な芸術を感じさせるものだ。
「出来ました!」
(良し! 出来たー!)
1人と1体は、別の強化魔法が込められた魔法の巻物の製作に成功する。
「良いじゃない。この出来なら、魔道具専門店や冒険者組合に商品として出しても大丈夫ね」
シャラナとガイアの製作した魔法の巻物は販売品としても合格だと、ベレトリクスは高評価の太鼓判を押すのだった。
「ふむ。もう暫く魔法の巻物製作を続けて、魔力制御の練度を上げてくと良い。先ずは低位級の物から続けて、慣れてきたら中位級に挑戦してみなさい」
「はい! 頑張ります!」
エルガルムからの助言に、シャラナは向上心を高めるのだった。
(よーし! 作るぞー!)
ガイアも同様に、先ずは基礎固めに自分が今扱える低位級魔法で、魔法の巻物製作を続けるのだった。
「ふぅ……。……流石に疲れました…」
暫くした後、シャラナは精神的な疲労が溜まり、魔法の巻物製作作業を中断し、休息を取る。
彼女は21枚もの下級魔法の巻物を製作し終えた時に、魔力の限界ではなく精神的限界でかなりの疲労を伴ったのだ。
その原因は、魔法を2つ同時に制御するという魔導師の高度な技術である。
「ンンンン?」(大丈夫?)
精神的疲労でぐったりしているシャラナに、ガイアは心配の声を掛けた。
「ちょっと頑張り過ぎたわね。でも、21枚とも良い出来よ」
「ありがとう御座います…」
「ホッホッホッホッ、その疲労は良い傾向じゃよ。2つの魔法の同時制御に慣れれば、余り疲労せずに制御が出来る様に為る。この調子ならば、近い内に慣れるじゃろう」
エルガルムはシャラナに対し、着実に成長しているという事を告げる。
「じゃから次に魔法の巻物の製作をするならば、中位級から始めてみると良いかもしれん。魔力の制御自体は、修行に行く前と比べてかなり上達したしのう」
「では…そろそろ〈魔力並列制御〉が修得出来るのも、後もう少しでしょうか?」
(〈魔力並列制御〉?)
初めて聞いた特殊技能に対し、ガイアは〈魔力制御〉と似たその特殊技能名の効力に興味を抱く。
「〈魔力並列制御〉の習得はかなりの修練が必要になるからねぇ。それに2つ別々の魔法を同時に制御する修行で習得出来てからが〈魔力並列制御〉の修練の本番だからね~」
ベレトリクスは悪戯っ子の様な悪巧みを考える良くも悪くも無邪気な笑みを浮かべながら、特殊技能〈魔力並列制御〉という魔法技術の高度さを告げるのだった。
「ま、エルガルムの言う通り、あんたなら近い内修得出来るでしょ」
(そうか……〈魔力制御〉を極めると、3つも4つも同時に行使出来る様に為るのか)
ガイアは〈魔力並列制御〉という特殊技能が〈魔力制御〉に関連する更なる上位の特殊技能だと知り、特殊技能というものについてある事を理解した。
特殊技能は時間を掛けて技術を学ぶ事による習得や、特殊技能から派生に応じてでの獲得、才能という生まれ持ってでの恩恵だけではない。
学び得た技術、習得した技能を更に極めれば、その特殊技能は熟練度を上げ、新たに上位互換の特殊技能を習得する事が出来る。
それが特殊技能という特徴だ。
「私とエルガルムでも、2つ以上を容易に制御出来る訳じゃないからねぇ。この特殊技能は修練の時間と質を要するから、3つ4つを同時に操れる様に為るのは大変だったわ」
魔法に限らず、特殊技能に関する技術面も共通している。
魔法が使えるのと使いこなすは、非常に大きく違う。
それは特殊技能という特殊な技術、若しくは特殊能力も同じなのだ。
ただ特殊技能を有しているだけでは意味が無い。
ただ特殊技能を使えるだけでは、本来の効力よりも余り発揮しない。
特殊技能も使いこなす事で、本来以上の効力を発揮したり、場合によっては更なる上位特殊技能を得られる可能性もあるのだ。
「複数の敵相手に1つ1つ魔法を行使し放つ手間は、敵に隙を与える様なものじゃ。かといって、広範囲攻撃魔法を放てば良いという訳でもない。無策かつ無闇に広範囲型の魔法を放てば、味方は疎か自身に被害を及ぶ。状況や場所に応じて魔導師が複数を相手にするには、魔法を最低でも2つ同時に行使しながら上手く立ち回わらなければならんからのう」
「それが出来るように成ってから、一流の魔導師としての一歩を踏み出せたって事になるわ。貴族平民問わず、近頃の魔導師は2つ同時に魔法を行使出来るのが非常に少ないからねぇ。今の時代って…戦闘をこなせる魔導師って世界規模で観ると少ないのよねぇ」
エルガルムの説明を補足するように、現在の魔導師が余り戦闘に向かない事をベレトリクスは肩を竦めながら、更に半分愚痴の様な説明を続けた。
「魔導師の中で真面な部類の冒険者でも、単純に魔法を放つだけの闘い方しか出来ない奴が多いのよねぇ~。大多数の敵を単純に即殲滅する為だけの威力重視ばかりだったり、何かと回りに自分の印象を強く魅せたいからって派手でかつ豪快な魔法ばかり重視するのよねぇ。それで有名に成れば名指しで依頼されたり、より高額報酬のある依頼が回って来るから、自分を強く魅せたい連中がそれなりに多いのよ。まぁ、無能な馬鹿貴族の魔導師よりは随分とマシなんだけどね」
(うーん…。気持ちは解らなくもないんだけどねぇ…)
そんな冒険者の魔導師事情を聞いたガイアは、共感はするものの完全に共感はしなかった。
(そういう考えは自分だけじゃなく、周りにも迷惑で危ない行為な気がするんだけど…)
威力のある魔法を行使出来る魔導師は、一党にとってかなりの高戦力である事は間違い無い。しかし、逆にそれしか出来ないとなると話は違ってくる。
それはあらゆる戦況に対し、応用力が無いという事だ。
高威力広範囲の魔法ばかりでは敵に囲まれた際に使う事が出来ず、下手に行使すれば周りはおろか、自身も自分の魔法に巻き込まれるという大被害に遭う。特に洞窟などの幅が狭い限られた空間で放てば、其処でどの様な大被害が起こるかは想像が付く。
派手かつ豪快な魔法の中には威力が高いものは多いが、それを使えるだけでは意味が無い。ただ使っているだけでは、決して強くはなれない。
目立つ事は間違い無いが、悪い意味でしか目立たないだろう。敵から見れば恰好の的であり、同業者である他の冒険者から見れば悪い意味しかない変人であり、邪魔な存在でしかないのだ。
そんな冒険者に名指しの依頼や高難易度に見合った高額報酬の依頼など回って来る訳が無い。というより、任せられないと言った方が解り易い。
しかし、それでも魔力の操作と制御の技術に関しては、少なくともラウツファンディル王国の大半以上の貴族魔導師と違い、しっかり出来ているのだ。
「まぁ……冒険者らしいですね」
シャラナは前からそういった事情を知っていた為か、納得というより悟ったかの様な反応だった。
「居たのう、そんな冒険者。儂が未だ独りで修行の旅をしていた若い頃に、決まってダンジョン内で何人も見掛けたものじゃ」
(決まってって…。必ず居たんだ、そんな冒険者)
それを聞いたガイアは、その冒険者達って大丈夫なのか? と不安を過らせるのだった。
「で、其奴等は大抵必ず失敗して、何にも成果を得られずに逃げながらダンジョンの外に脱出してたの」
(あらら、いったいどんな風に失敗したのかな? その冒険者さん達は)
ガイアはそんな冒険者達の失敗する様々な光景を頭の中で想像するのだった。
「魔導師ってのは攻撃に関しては手数が多い職業の筈なんだけど、2つ以上の魔法を行使して、状況に応じて臨機応変に闘うのが本来の魔導師の闘い方の1つなんだけどねぇ…。今はそれが出来る魔導師って少ないのよ~」
ラウツファンディル王国に限らず、この世界に存在する魔導師で〈魔力並列制御〉を有する者は少ない。賢者エルガルムと魔女ベレトリクスを含む上級以上の魔導師は存在するものの、その数も世界全体から見てまた少ないのだ。
「だから魔法の巻物に限らず、魔道具製作の職人も、職人の国である山小人族の国内でさえ数が少ないのよ」
マジックアイテムは基本的に高額な物が多い。平民でも買える格安で使い易いマジックアイテムも在るが、それ等を作れる魔道具製作者は少ない。それが世の中に流通しているマジックアイテムが高額である理由の1つでもあるのだ。
(なるほど…。魔法に関する技術は進歩しているけど、それ等の技術を持つ人が少ない所為、でそれ等の技術を教授されている人も少ないって所なのか)
ガイアは現在の魔導師だけでなく、魔道具製作に関する事情に頷き納得をした。
「他は兎も角、ラウツファンディル王国内には魔法に関する高い技術面を有している人間が余り居ないからね~。特に大半以上の貴族に関しては全滅と言って良いわ」
因みにだが、魔導師団員は全員最低限である魔法2つ同時制御技術はしっかりと身に付けている。
「それを改善する為に儂とラウラルフで魔導学院を設立したというに、今の教師は全員無能な魔導師じゃから、完全に無駄な場所と化してしまっとる。儂が数十年も前に正しい魔法適正の解明した後に学院の教師等が無能な魔導師である事が判明し、当時まだ若僧だったラウラルフがその事実を知った時は随分と頭を抱えてとったよ」
「先生が解明した魔法適正理論が世界に知れ渡ったにも関わらず、この国の大半の貴族魔導師だけがそれを認めなかったんですよね」
「そうじゃ。それが現在この国の貴族出身の魔導師共の現状じゃよ。全く嘆かわしいものじゃ」
(あれ? この国以外の所はちゃんと受け入れているんだ)
ガイアは疑問を浮かべた。
何故この国だけがそうであるのか、と。
豊かな生活が出来る環境が、貴族に怠慢を宿してしまうのだろうか。
逆に生きる為に必死になれば、正しい魔法適正理論を受け入れたのだろうか。
(もしかして、この国の貴族達って余り危機感というのが無いから向上心が湧かないのかなぁ?)
もしそうなら納得がいく。彼等大半以上の貴族達は、戦場以前に実戦というものを何1つ経験している者が殆ど居ないと言っていい。
つまり、彼等は闘う事自体考えていないのだ。
しかも魔法が使えるというだけで、頭の中で己が優雅かつ華麗に幾多の敵を魔法で屠る妄想を浮かべ、己に敵無しと勝手に思い込む始末だ。
そしていざ実際に闘ってみれば、当たり前の様に無様な醜態を晒すのだ。
「一層の事、其奴等全員ダンジョンに放り込んだ方が今よりは多少マシに為るんじゃないの?」
「そりゃ良い。一定期間毎にダンジョンに放り込んで無理矢理にでも修練をさせた方が、魔導学院での無駄な座学よりよっぽど効率が良い」
ベレトリクスはそんな無能な魔導師をダンジョンに放り込む方が魔導師としての成長に効率が良いとざっくりと告げ、エルガルムは白い髭を扱きながら彼女の意見に同意する。
(おぅ……怖い怖い)
ガイアは放り込まれるであろう無能共を他人事の様に思うのだった。
「確かに実践に関しましては、多少荒っぽくても問答無用で襲って来る魔物と闘った方が、間違い無く魔導師としての闘い方を学べると思いますね」
「流石は経験者であるシャラナが言えば説得力があるのう。未だダンジョンには入っとらんが」
(そっか。シャラナはちゃんと実戦経験を積んでいるんだっけ)
そんな時、ガイアは不意に思った。
(そういえば、未だシャラナが魔導師として如何いう風に闘うのか見た事が無いな)
シャラナに限らず、これまで出会って来た人達の中で魔導師が闘う様子をじっくり観た事がほぼ無かった。
あるにはあるが、初めての出会いで賢者エルガルムが行使した電気系統の上位級魔法〈撃砕の霹靂〉と、シャラナがその時に行使した低位級の強化魔法〈下位筋力増強〉、そして魔導師崩れの野盗から放たれた炎系統の低位級攻撃魔法〈発火〉だけだ。
魔法と魔法が飛び交いぶつかり合う様な、そんな見映えの在りそうな闘いは未だ見た事が無い。
(実戦経験も殆ど無いし、その時に使った魔法も4つ程度しかないんだよねぇ)
正直な所、ガイアは未だ闘い方というものをこの異世界に転生してから未だ身に付いていないと感じていた。
魔力の操作と制御の仕方から魔法の発動させる感覚、特殊技能の直感的な使用方法は独学と、本格的な知識は賢者と魔女から授かり、大抵は使いこなす事が出来る様には成った。
だが、実戦という経験の層は非常に薄い。
魔法に関しては操作制御の技術面は何度もこなし身に付けたが、これも実戦では使った事が無い。
王都アラムディストに来てからは、そういった機会が無い為だ。
ガイアは暫くの間、この王都内の何処かで魔法の実戦訓練が出来る場所は無いだろうかと考えていた。
そして今も、頭の中の片隅で考えていた。
「さて、今回の魔法の巻物製作授業はこれくらいにして、話に出てた実戦訓練でもしに行くかの」
そんな時、突如と機会が訪れた。
ガイアはエルガルムの言葉に素早く顔を向け反応した。
「シャラナよ、今回はガイアと闘ってみるといい」
「ええっ!? ガイアとですか!?」
(え? 僕と?)
賢者エルガルムから、幻神獣フォルガイアルスと戦闘訓練をやってみようと告げられたシャラナは驚愕した。
「あら、それは面白そうねぇ。折角だから私も見学させて貰おうかしら」
ベレトリクスはシャラナと幻神獣フォルガイアルスの模擬戦に興味を惹いた。
「待って下さい! 戦闘訓練相手の力量が高過ぎます!」
シャラナは慌てながら今回の戦闘訓練に対し、異議有りと言わんばかりにストップを掛けるのだった。
その理由は非常に簡単。
下手すれば、いとも簡単にシャラナが即死させられるからだ。
その事は重々承知している筈であろうエルガルムは、訓練試合での決め事をシャラナとガイアに述べ始めた。
「安心せい、流石にガイアには接近戦闘はさせない形でやるとも。ガイアには動像を創造して貰い、それをシャラナが倒す1対複数での戦闘訓練じゃ。ガイアは動像でシャラナを攻撃と捕縛、手加減出来るなら〈動像創造〉以外の魔法を使用しても構わん。妨害する感じでな。動像の強さも上げれるなら徐々に上げていってくれ。シャラナはをこれまで培ってきた魔法と実戦経験を全て使い、儂が良いと言うまで可能な限り多くの動像を倒し続けるのじゃ」
(あ、なるほどね)
ガイアもシャラナと殆ど似た心配をしていたが、エルガルムの述べられた決め事に理解と安堵をした。
「ですが先生、戦闘訓練をする場所は如何するのですか? 流石に魔導学院に訓練所は在りますが、私は其処で訓練はしたくありません。そうなると他に出来る場所は在るのでしょうか?」
「まぁ、ラウラルフに頼めば城内の練兵場を貸してはくれるじゃろう。が、今回は別の場所じゃ」
「別の場所とは何処ですか?」
(他にもそんな場所があるの?)
シャラナとガイアは一緒に首を傾げた。
シャラナの質問に対し、エルガルムはニッと笑みを浮かべながら目的地を答えた。
「サイフォン家の所にじゃよ」




