新たな変化12-1
ルースン村、テウナ村、ニニカ村、フォボット村、ナウバ村の計5箇所へ赴き、食糧不足と農作物の不作による飢饉問題、出現した魔物の殲滅、今後の魔物の出現に対する防壁造りを約1週間程で解決し終えた。
賢者エルガルムの転移魔法で王都へと帰還したその後、セルシキア騎士団長は今回の一部始終を報告に挙げた。
無事解決し終えた報告に、ラウラルフ国王は喜々の色を浮かべ、安堵した。
そして後日には、1日足らずで王都アラムディスト中に今回の件―――デベルンス家の過去の悪事が瞬く間に流れ伝わった。
自領内の各村に関する警備兵の派遣や村の農作改善支援、徴税など全ての情報を隠蔽、農作改善支援を一切せず食糧不足により起こっていた飢饉問題の放置、時折出現する魔物による大きな被害が出た各村への無関与、裏で雇った犯罪組織の者達を徴税官と偽り名乗らせ、貧困状態の村から僅かな金品と食糧を強奪させたという、数々の不当不正の事実。
そしてその事実から犯罪者組織〝背徳の金鼠〟との繋がりが判明し、裏工作員や違法マジックアイテムの裏取引をしていた証拠映像を大々的に王都中に流し、デベルンス家が犯罪者である事実を王都の全民に見せた。
更にはダダボランが口にした国王陛下に対する反逆声明映像や、一部分ではあるが、王との謁見での反逆行為を行った証拠映像も貴族平民問わず、世間に流した。
この事実を見聞した国民達は、正当な理由でデベルンス家を嫌悪を抱きながら無慈悲に罵った。
私欲を肥やし続けた強欲な犯罪者。
権力で金を巻き上げ貪る貪欲な略奪者。
王座を狙い、国王陛下の命を狙った薄汚い反逆者。
特に国民達が激怒したのは、国税と自領税を横領していた事実についてだ。自国に住まい自国に庇護して貰う際の義務として、民達は国に税を支払っていた。しかし、その税を私欲目的で好き勝手使われたのだ。これには激怒して当然である。
そんなデベルンス家は永遠に汚名を、貴族以前に人間の屑だと黒歴史として語り継がれるのだった。
だが、報道の内容は悪い事ばかりではない。それを上塗りする嬉しい事実も在る。
それはデベルンス家の粛清と村に関する事だ。
これまで行ってきた全ての不当不正と犯罪者組織との違法取引という重罪により、莫大な財産、爵位、地位、権力、領地の全てを剥奪され、更に国王陛下に対し反逆行為を行った重罪により反逆者として、無期懲役を科された。残りの人生は、永遠に惨めで苦しくも貧しい労働を強いられる事に成るのは間違い無い。
そしてデベルンス家が残した飢饉問題を、普通なら1ヶ月や2ヶ月では解消かつ安定にするのに膨大な時間が掛かる計5箇所の村を、たった約1週間程で全ての村を救済したという常識では有り得ない驚愕の事実だ。
だが、何より一番驚愕の事実は全ての村を飢饉から救った存在、大いなる恵みを司りし大地の化神―――幻神獣フォルガイアルスの存在であった。
王都アラムディストに住む全都民が、噂を耳にし、実際に遠くから見た岩石の動像の様な魔獣だと思っていた存在が、まさかの幻神獣という神に等しき最高位の存在である事実に、驚愕の衝撃が王都中を走り伝わったのだ。
幻神獣フォルガイアルスが本当に幻神獣である事実を、ルミナス大神殿を管理する責任者にして、国王と同等の地位を有する最高位聖職者――――ソフィア・ファルン・シェルミナス教皇が自ら全都民の前で直接公表をした。
全ての村を飢饉から恵みを与え救った幻神獣フォルガイアルスの奇跡といえる一部始終の偉業を、英雄にして最強の魔導師――――賢者エルガルム・ボーダムが監視目の下げ飾りというマジックアイテムで記録した映像を介しながら、その事実を報せた。
王都中の民達は歓喜した。
平民、特に農民にとっての敵である悪徳貴族が、遂に罰を受け没落したと。
デベルンス家の粛清は、平民にとって大きな安寧を齎す影響であった。それとは逆に、大半以上の貴族にとっては非常に悪い影響を齎されたのだった。
今回のデベルンス家の粛清を切っ掛けに、ラウラルフ国王は全ての貴族に対する法律を厳しいものへと改正し、罰則金及び賠償金制度は見直され、罪を犯した貴族には慈悲無く現時点での爵位の降格や領地の没収、たとえ多額の罰則金や賠償金を払ったとしても、降格や領地没収、爵位剥奪の取り消しを無くしたのだ。
よって、デベルンス家の様な殆どの高慢で傲慢な貴族達は、今迄の様に下手に権力を振り翳す事が出来なくなった。
特に貴族出身である魔導師が、その影響を酷く受けていた。
大々的に流された映像で、デベルンス家――――没落した元貴族のダダボランとガウスパーが、ゴブリン4匹に嬲り痛め付けられる非常に無様な姿を全都民の目に晒された事により、平民の前では魔法が使えるという威張り脅しの文句を口に出来なくなってしまったのだ。
そして、魔導師として自身の実力を偽る事も出来なく為り、肩身が狭い思いをする様に為った。
魔法が使えるから権力があるという高慢な価値観は大きく崩れ落ち、殆どの貴族の魔導師が如何に無能であるかを平民達の目に晒されたのだ。今迄の様に振る舞うものなら、世間から除け者として扱われるだろう。
そんな貴族達はラウラルフ国王によって、高慢な意識を抑制される形となったのだ。
因みに、デベルンス家は各村に連れ回され、幻神獣フォルガイアルスによって活力を取り戻した村人全員に各村毎にボコボコにされるという罰の1つを受け、そのまま帰還した後は即地下牢獄に放り込まれたそうだ。
それも向かい側の牢獄に投獄された犯罪者組織の〝背徳の金鼠〟全員と、徴税記録の偽装隠蔽を行った共犯者である貴族5名と共に、惨めな思いを別々の牢獄部屋で過ごしながら、これから科される罰を待つのだった。
賢者エルガルムの転移魔法で王都に帰還した後、ガイアは各村の飢饉を無事に救済し終えた事に安堵し、フォルレス侯爵家の敷地内で心地良い太陽の暖かな光を浴びながら暢気に眠っていた。
未だ正午ではない為、昼寝ではない。
朝食を食べた後、再びのんびりと眠りについているのだ。
決して普段からそういった生活をしてはいない。
今日はちょっとだけ、怠惰寄りの過ごし方をしているのだ。
偶には何もせずに、心身共に休ませ、のんびりと1日を過ごす事は必要だ。ちゃんと心身を休ませないと、仕事にしろ勉学にしろ、何かに取り組む事に支障を来してしまうのだから。
前世では生きる為に、必死に1日での永い時間仕事をして人生を送ってきた為、心身をしっかり休ませる事の大事さを身を以て知っている。
なので、休める時はしっかり休む。
ガイアこと白石大地は、前世の頃からそう決めているのだ。
適度に眠った後、再び目を覚まし、微睡がスッキリと抜けた頭の中の意識は冴え渡る。
鎮座した儘、白い雲が幾つか浮かぶ綺麗な青空を見上げた。
(相変わらず、良い天気だなぁ)
この異世界に転生してから、この青空広がる天気しか見ていない。未だ空を覆い尽くす曇天や雨天を見た事が無かった。
今日は如何過ごそうかと、ガイアは浅く考える。
また魔法関連の書物でも読み耽るか、迷惑を掛けない程度に魔法の練習をするか、若しくは新たな系統魔法の習得をするか、頭の中でグルグルとゆっくり回すのだった。
(やっぱり外に出て街の散策がしたいなぁ…)
しっかり休むといっても、退屈な休みは好んではいない。
やはり、気晴らしするなら外に出掛けるのが一番だ。
しかし、勝手に外に出掛ける事は現時点では出来ない。
理由は自身が人外であるからだ。
人外であるガイアが街中を堂々と闊歩すれば、街中の民達が大恐慌を起こし兼ねないからだ。
流石にガイアはそれを望んではいないので、未だ暫くは諦めているのだった。
だが、それでも外に出掛けたい気持ちは捨てられなかった。
何時かは自由に街の中へ堂々と歩ける事を、ガイアは願っているのだった。
(……そろそろ来る頃かなぁ)
青空を見上げた儘、ガイアは心の中で呟く。
そして少しだけ時間が経過した後、予想通り、遠くの門の扉が開く音が聞こえて来た。
その開く音に反応し、ガイアは顔を空から遠くの門へと向けた。
門から入り、堂々と遠くから此方に向かって歩いて来る人物を視界に捉える。
非常に目立つ大きな魔導帽子、胸元が開いた色気のある魔導衣、何方も赤紫色を基調とした作りだ。肩に掛け羽織った腰間丈の外套も赤紫色で衣服を統一していた。脚に履いているのは上質な黒革で作られた長靴。
「やっほー、また来たわよ」
魔法薬と魔道具の製作と研究を生業とする錬金術師であり、賢者エルガルムと並ぶ魔導師としての実力をも兼ね備えた美女。
〝錬金の魔女〟ベレトリクス・ポーランである。
少し気怠けそうな表情をしてはるが、綺麗に整った顔立ちに浮かべるその表情からは、愛らしさを感じられるものがあった。肌はとても白く、瞳は薄紫色の髪とは違い濃い紫色をしており、日の光で輝くその瞳の煌めきは、まるで紫水晶の様だ。身体付きは異性を惹き付けるのに充分な豊かな胸に、腰の括れが相俟って胸辺りが大きく開いている衣服によって、かなりの色気を醸し出ていた。
彼女は今日も植物系の素材をガイアから貰いにやって来たのだ。
「今日はライフリーマッシュとマナルディマッシュの2種類だけで良いから、その代わりに大量に御願いねぇ」
(はいはーい)
ガイアは早速特殊技能〈豊穣の創造〉で、自身の小さな草原の背中に大量の素材茸をポンポンと生やすのだった。種類がごちゃ混ぜにならない様に、最初にライフリーマッシュから大量に生やし、その後にマナルディマッシュを大量に生やすのだった。
別に背中でなくても其処等辺の地面でも生み出す事は出来るが、勝手に敷地を何かの栽培所にするのは流石に不味い為、それはしない事にしている。
大量のライフリーマッシュとマナルディマッシュをガイアの背中から次々と採取し、ベレトリクスは〈収納空間〉を発動し、空間に開いた黒い孔へと仕舞い込んでいく。
(やっぱその魔法は便利だよなぁ。僕も早くその魔法を覚えときたいたいなぁ)
ガイアは彼女の〈収納空間〉を見ながら羨ましく思い、より魔法の勉学に対する励みを無意識に高めるのだった。
暫くベレトリクスが魔法薬の素材となる茸を採取している最中、屋敷から扉が開く音が聞こえてきた。開いた扉から外に出て来たのは2人――――1人は老人の男性、もう1人は美少女。
〝賢者〟エルガルム・ボーダムと、侯爵令嬢のシャラナ・コルナ・フォルレスである。
シャラナは本日の午前の座学を終えて、気晴らしに外の空気を吸いに来たのだ。
「あ、ベレトリクスさん。来ていたんですね」
「やっほー。授業は終わったそうね」
ベレトリクスはひらひらと手を振り、少しだけ気怠そうな口調で挨拶を交わすのだった。
「はい。ベレトリクスさんは相変わらずですね」
「いやぁ、予備用の魔法薬は出来る限り作っておきたいからね。幾ら有っても困らない物だし」
そう言いながらベレトリクスは、ガイアの背中に生えた茸を手際よく、次から次へと採っては魔法の空間の中へと入れていくのだった。
「ホッホッホッ、相変わらず面白い光景じゃのう」
そんなベレトリクスとガイアを見ながら、エルガルムは笑うのだった。
「後はこの子が鉱石とか原石を生み出せる様に為れば、魔法の巻物製作とかも教えられるんだけどねぇ」
「おお、確かにそうじゃな。そろそろ其方もシャラナにも教えねばならんしのう」
(マジック・スクロール?)
ガイアは初めて聞いた魔法の巻物に対し好奇心を抱き、興味を惹かれた。
「羊皮紙に込めた魔法を一度切りだけ使用出来る、使い捨てのマジックアイテムですね」
「そうじゃ。そして魔法の巻物の最大の利点は、誰でも使用する事が出来る点じゃ。特に魔法を扱わない純粋な戦士系職業にとってはかなり重宝する代物じゃ」
魔法の巻物とは、魔導師が羊皮紙に魔法を封じ込めて製作する、誰もが常識として広く知られているマジックアイテムである。
極端な話、赤子でも巻物の中に封じ込められた魔法を解き放つ事が出来る代物である為、戦士だけに限らず、特に冒険者達が好んで所持し、緊急時として使えるかなり有用性の高いマジックアイテムである。
「でもね~、一般の羊皮紙なら兎も角だけど、製作に必要な鉱石とかがねぇ~、そう簡単に手に入らないのよ~」
ベレトリクスは溜息混じりに気怠そうに言うのだった。
魔法の巻物は、使い捨てマジックアイテムの中では高額な部類に入るマジックアイテムである。流石に低位級の魔法が込められた巻物は格安で売られてはいるが、中位級以上の魔法となると一気に高値となる貴重なマジックアイテムとなるのだ。
そして多くの魔法の巻物が高額な代物である理由は、製作に使用される素材が要因しているのだ。
魔法の巻物を製作するのに必要な材料は大まかに2つ――――羊皮紙と鉱石だ。
そして製作過程で、魔導師に必要な技術は2つの魔法―――その内の1つである〈魔法封印〉と呼ばれる魔法である。
「確か、使う鉱石で鉄と銅は製作に使えないのですよね」
「そうなのよ~。低位級魔法を鉱石に宿しながら巻物に封じ込められるのは、最低でも銀じゃなきゃ作れないのよね~」
細かい部分を抜きに簡単に分けると、低位級魔法は銀、中位級魔法は金、上位級魔法は白金とミスリル、最上位級魔法になるとオリハルコン以上の貴金属が必要になってくるのだ。
細かい部分に関しては、例えば低位級魔法の魔法の巻物を製作する際、低位級魔法の基本的な威力を底上げする為により多くの魔力を込めて製作しようとすれば、魔力量によって銀では収まり切れず、砕けて霧散してしまうのだ。よって、威力の高い低位級魔法を込める場合になると、金も使う必要性がある。
そして、魔法の巻物を製作に必ず使われる羊皮紙の質も関わってくるのだ。
正確に言えば、皮紙の元となる生き物のから取った皮素材の質や種類も関わってくる、だ。
一般的に必ずと言って良い程使われているのは柔和綿羊と呼ばれる家畜であり、その羊の皮を剥ぎ取り、丁寧に鞣して作られた上質の羊皮紙だ。ミークシープは皮以外にも、羊毛、肉、乳にも利用出来、生産性が高い。故に世界中で一番使用されている。
他にも魔獣の皮から作られた獣皮紙も多く使われている。そして最も上質で丈夫な竜の皮は、最上位級の魔法の巻物を製作するのに、必須の貴重な素材である。
ベレトリクスは魔法の巻物の製作費用と、それ等の素材を収集する困難さに頭を抱えているのだ。
「羊皮紙とか獣皮紙は幾らでも有るとはいえ、銀でさえ量を確保するにも費用が馬鹿にならないし。そう易々と大量に収集する為の労力を費やすのも面倒なのよねぇ~」
充分に魔法薬の素材となる茸を採り終えたベレトリクスは、ガイアの岩の身体に寄っ掛かりながら気怠い口調で言うのだった。
「まぁ、儂もそれには同感じゃな。魔法の巻物製作を教授するのには、如何しても素材の量と費用が掛かるからのう。特に鉱石類は」
「教授にしろ研究にしろ、魔法の巻物の製作は費用と労力がかなり掛かるから大変なのよねぇ~」
最上位級の魔法の巻物を製作するにも、竜皮紙を手に入れるには竜を探して倒さなければならない。その上、オリハルコン以上の希少な鉱石となるとダンジョン内のA等級やB等級の魔物が跳梁跋扈する下層奥深くまで潜り探し、採掘しなければならないという多大な労力が掛かるのだ。
(あ~、それでか。僕に鉱石やら原石やらを求めてたのは)
ガイアはベレトリクスの話の内容を理解し、納得した。
(確かに何かしらを作る際には、必ず素材が必要になるからねぇ。鉱石は基本的に武具の素材だし、マジックアイテムの製作材料とかにもなるしねぇ)
製作するにしろその技術を教えるにしろ、何の道必ず費用というものが掛かってしまう。
魔法の巻物の製作技術を習う為の授業料は、それ等を込みで高いという訳だ。
(素材ねぇ……)
ガイアも魔法の巻物の製作をしてみたい気持ちが有った為、必要な素材を如何やって調達すれば良いのか考えた。
(う~ん……)
しかし、考えてもこの異世界について、ガイアは未だ様々な面で知り得ていない為、思い付く事は無かった。
(……あっ。そういえば…)
ガイアは不意にある物を思い出し、背中に生えた樹木に手を伸ばし、そのある物を手に掴み取り出した。
「あら? それってあのデベルンス一家の物じゃない」
ガイアの手―――というより、岩石の親指と人差し指で器用に挟み摘まんでいた物は、2本の笏状のタイプの短杖だ。その短杖は2人の馬鹿――――ダダボランとガウスパーから取り上げた物だ。
1本は白金を基調とし金の細工が施され、先端部分には大粒の紅玉が嵌め込まれた短杖。もう1本は上質な木に金を塗ったくったかの様に細工が施され、木の表面が殆ど隠れており、これにも大粒の紅玉が先端に嵌め込まれた短杖。
前者はダダボラン、後者はガウスパーのだった高価な短杖だ。
(これ要る?)
ガイアは自分に寄っ掛かっているベレトリクスに、2本の短杖を差し出した。
「私は要らないわ。自分のが有るし、それ以前に彼奴等の物なんて貰っても嬉しくないしね」
ベレトリクスはデベルンス一家の物なんて欲しくないと、2本の短杖に対して拒絶するのだった。
(じゃぁ…シャラナは?)
次にシャラナに差し出した。
「うーん……私も要らない。今は自分の短杖で充分だし、彼奴の物だから絶対に使いたくない…」
上質な木製に少しの銀の細工を施された指揮棒タイプの短杖を手に取りながら、シャラナも2本の短杖、特にガウスパーの短杖に対して拒絶するのだった。
(お爺ちゃんは如何?)
最後はエルガルムに差し出してみた。
「儂も要らんのう。持っていても、ただ邪魔な荷物にしかならんからのう」
エルガルムは2本の短杖に対して、邪魔になる荷物だと切り捨てる様に言うのだった。
(ありゃりゃ、全員要らないか…。まぁ、僕も正直要らないんだよねぇ。というか、彼奴等のは使いたくないってだけなんだけどね)
ガイアもこの2本の短杖は欲しいとは思わなかった。
一生欲しくない訳ではない。ガイアはこの魔法が溢れる異世界で、短杖や杖などの様々なマジックアイテムが欲しいという気持ちは充分に有る。ただ、あの強欲まみれの2人が持っていた短杖は欲しくないというだけだ。
(これ、如何しようかなぁ…。何処かのお店とかに売り飛ばして金銭に代えちゃおうかなぁ~)
要らない高価な短杖2本を如何するか、ガイアは少し考えた。
(う~ん……。あっ! そうだ!)
ガイアはとても単純な答えを閃いた。
(食っちゃお!)
普通はそんな答えを閃く人間など居ないのだが、人外とはいえ元は人間だったガイアが短杖を食べるという発想を閃く事に関しては、ある意味異常だった。
ガイアはそのまま2本の高価な短杖を開けた口の中に放り込み、口を閉じると同時に放り込んだ短杖を躊躇いも無く噛み砕き始めた。
ベキバキと、口の中から硬質な咀嚼音が鳴り響く。
「あぁ、そういう使い道があったわね」
短杖を噛み砕き喰らうガイアを、ベレトリクスは微笑を浮かべながら間近で観察をするのだった。
「こりゃあ丁度良いのう。不要な金属品はガイアの足しに成るから、余計な荷物が無くなるわい」
「そういえば、この子の味覚って如何なっているんですかね? 色々な金属によって味とか違いがあるんでしょうか?」
「お! 確かにそれは気になるのう」
決して鉱物という金属物質を食べない人間にとっては如何でも良いちょっとした雑学ではあるが、3人は金属を喰らうガイアを観て、ちょっとした興味を持つのだった。
(いやぁ……特に変わった味とかしないからなぁ…。ほんの僅かだけ苦みはあるけど…)
美味しくはないが、不味いという訳でもない。
ほんの僅かな金属の苦み以外はほぼ味は無いと言って良い。無論、宝石もだ。
例えるなら、何も味がしない硬い焼き菓子を食べるという、心に食という満足が満たされない虚しい感覚だろうか。
(僕みたいに金属を食べる生き物って、この世界に居ないかなぁ? 居たら見てみたいなぁ)
ガイアはボリボリと咀嚼しながら、自分と同じ様に鉱石などを喰らう魔物、そして妖精などは居ないだろうかと思うのだった。
そして、ガイアは充分に噛み砕き咀嚼した後、口の中で大体粉々に為った短杖を飲み込んだ。
飲み込んだ金属物質と宝石が、特殊技能〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉によって岩石の身体に蓄積された事を感覚で確認した。
――――その直後だった。
――――特殊技能〈金属物質生成〉獲得――――
――――特殊技能〈宝石物質生成〉獲得――――
――――特殊技能〈縮小化〉贈与――――
(え? ……!)
久し振りの無音声の特殊技能獲得通知にガイアは目を大きく見開き、驚きと困惑を浮かべるのだった。
そんなガイアの様子に、エルガルムは逸早く気付いた。
「如何した? 何に驚いておるんじゃ?」
エルガルムは訝しげにガイアの身体全体の様子を観察する。
「え? 如何したの? 何かあったの?」
ベレトリクスはエルガルムの言葉に反応し、寄っ掛かっていた身体を直立に起こした。
「ンン……ンンンンン……」
ガイアは僅かながら疼き、言葉すら乗っていない声を発するのだった。
「…やはり様子が可笑しい! 何かの前兆か!?」
「ンンンンンンン……!」
ガイアも自身に何かが起こりそうな前兆に、何が何だか分からず困惑し続けていた。
(え!? 何…!? 何か身体の内側が…変だ……!)
ガイアは身体の内の奥深くから何かが湧き出て来る様な、今まで感じた事の無い奇妙な感覚に襲われるのだった。
「先生! もしかして、今さっき短杖を食べたからじゃないですか!?」
シャラナの言葉にエルガルムとベレトリクスはハッと気が付き、そしてガイアの様子が何の前兆かを確信に近い予想が出来た。
「まさか! 新たな特殊技能を獲得したのか!」
見開くエルガルムの瞳には、新たな発見に対する未知への期待と勢い良く注がれている感動で輝いていた。
「という事はつまり…!」
ベレトリクスはその直ぐ先の未来を垣間見たかの様に、非常に高価で貴重な、滅多に手に入らない物を間近で見る様なパアッと煌めき輝く笑みを浮かべた。
(んぁああぁあ~何だ何だ…!? 何か背中が凄い違和感感じるし何か勝手に身体の中から出そう痛くは無いけど何か凄い変な感じがするぅあぁあああああ~!)
特殊技能の獲得の直後に突然襲ってきた奇妙な違和感に、ガイアは冷静さを欠いてしまい、思考が思う様に回らなくなっていた。
気持ち悪い様で気持ち悪くは無い様な、それでいて胃袋に血が溜まった時の様な寒気が一瞬一瞬何度も感じ、その直後には全身が一瞬で高熱を帯びる感覚を何度も感じる。そして身体の内の中心がじわりじわりと熱を持ちながら、その中心から背中に向けて、何か硬い物を突き出そうと勝手に身体の内側で起こる。
獲得した特殊技能を確認する余裕が無い。
(あ、ヤバイ…! 出る…! 背中から何か出る…! 何か突き出そう!!)
「ンンンンンンァアアアアアアア!!」
背中の違和感が最高潮に増し、遂にガイアの新たな異変が身体の表面上へと突き出てきた。
「な……何と…!!」
3人の視界に映る幻神獣フォルガイアルスの背中の至る所から、様々な種類の鉱石と原石の塊が出現したのだ。
その変化はまさに、異様な光景である。
しかし、変化した幻神獣フォルガイアルスのその姿は、異様ながら神秘的な姿と為った。
背に突き出た宿りし鉱石と原石の大きな塊は一切の不純物が無く、精錬されたかの如く高純度の金属と宝石と言って良い遜色が無い物だった。
「うひゃ―――――っ!! これって遂に条件達成したって事ねぇ!!」
ベレトリクスは普段の気怠い口調が消え、歓喜の声を上げ、幻神獣フォルガイアルスの背中を視界全体で映し、紫色の瞳を爛々と輝かせた。
銅、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコンの鉱石の塊と、紅玉、蒼玉、翠玉、黄玉、藍玉、紫水晶、柘榴石、蛋白石、黒曜石、水晶、金剛石、そして更に貴重な白金剛石と黒金剛石の原石の塊まで突き出し生えていた。
幻神獣フォルガイアルスの背はまさに、宝の山と言って良い光景であり、宝を背負う生き物と呼ぶに相応しい姿だった。
「おお…!! 何と神秘的な光景と姿じゃ!! あの神話の歴史書に書かれていた通りの姿じゃ!! 実に素晴らしい!!」
エルガルムは幻神獣フォルガイアルスの覚醒と言える変化に歓喜し、幼き幻神獣の新たなる姿を心と記憶に刻み焼き付けようと全体を視界に映すのだった。
「わぁ……! 綺麗……!」
シャラナも幻神獣フォルガイアルスの背に在る小さな草原と樹木に、新たに日の光で煌めき輝く様々な鉱石と原石が生えた神秘的な姿に、驚愕に近い感動をするのだった。
だが、ガイア自身は未だ困惑している状態で、自身に何が起こったか把握出来ていなかった。
(お……治まった…。な……なに…何が起こったの…?)
感じた事の無い、如何説明すれば良いか分からない謎の違和感は治まったが、自分の視点からではよく分からない。
自身の身体に何らかの変化があったのは間違い無い。
ガイアを見ていた3人は歓喜と感動の表情を浮かべているのが、現時点での一番の証拠と言える。
(え? 何? 僕の背中に何か起こったの?)
ある程度の冷静を取り戻し、彼等が向けている視線の先、ガイア自身の背中をグイッと顔を動かし、その背に幾つも突き出した煌めき輝く光景を視界に映した。
(………え?)
一瞬、凍り付いたかの様に思考が停止する。
しかし、ほんの僅か2,3秒で凍り付いた思考が愕然という急発進をするのだった。
(どぁああああああああーっ!!! 何じゃこりゃあああああーっ!!!?)
ガイアは大きな目を零れそうになるくらい見開き、前にもあった様な愕然な現象に驚くのだった。
(何これ――――っ!!? 僕の背中が何か豪華な物で煌めいているんですけど――――っ!!?)
背中の小さな草原と樹木に鉱石と原石というミスマッチが、何とも不思議な神秘的さを圧倒的存在感を醸し出していた。
「遂に〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉から派生する条件を満たして、新たな特殊技能を獲得したのじゃな!」
(ファッ!? 派生!? 新たな……ってそうだ!! 特殊技能!! 新しいの3つ手に入ったんだった!!)
エルガルムの言葉に、ガイアは自身に起こった原因が今さっき2つ獲得の特殊技能によるものだと理解する事が出来た。
冷静さを取り戻したガイアは、獲得した特殊技能の効力を意識の中で確認してみた。
特殊技能〈金属物質生成〉は金属に加工される前の鉱石を、特殊技能〈宝石物質生成〉は宝石に加工される前の原石を自身の身体から生み出す事が出来る生成系の特殊技能だ。この特殊技能はただ鉱石や原石を生成する訳ではなく、その生成は精製と言い換えても良い程の純度の高い鉱石や原石を生み出す事が出来る特殊能力なのだ。
しかし、何方も共通点として、この世に存在する鉱石や原石を無から有を創り出す様に生成出来る訳ではない。〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉で身体の中に蓄積されていない鉱石や原石は生成する事が出来ない。簡単に言えば、喰らった事の無い鉱石や原石は生成する事が出来ないという事だ。
だが、この2つの生成特殊技能を有していれば、一度でも少し僅かな鉱石や原石の砂粒でも喰らい身体の中に蓄積していれば、蓄積した鉱石や原石の物質情報を素に、その質量を増やし生成する事が可能なのだ。
(うわぉ……! この特殊技能って〈豊穣の創造〉と同等の最上位特殊技能だよね…! まさかあの2つの蓄積特殊技能がこの2つの生成特殊技能を得る為のものだったとは…)
2つの特殊技能を確認したガイアは改めて驚愕した。
そして同時に、この先の不安が浮かぶのだった。
(これっていうか……僕、もしかしたらこの先、鉱石や原石目当ての悪い輩に付け狙われるんじゃないだろうか…。っていうか、絶対狙われるよ…)
そう。ガイアはこの2つの特殊技能を得た事によって、鉱石や原石、更には植物類などの素材を欲する者達に目を確実に付けられる存在となってしまったのだ。
特に――――
「やったー! ミスリルだけじゃなーい! オリハルコンもあるー! これだけあればマジックアイテム製作の費用も労力にも困らないわぁ~!」
特にベレトリクスみたいな、より貴重な素材を欲しがる黒い金銭欲が高い悪人に目を付けられるのは何が何でも避けたいが、ガイアは幻神獣以前に、必ずと言って良い程に目立つ存在の為、それは避けられないだろう。
(……まぁ、この人は悪い人じゃないから良いんだけど…)
ガイアは自分の背に生えたオリハルコン鉱石の塊に飛び付き、満面な愛らしい笑みでオリハルコン鉱石に頬擦りをするベレトリクスを見るのだった。
(ま、いっか)
ガイアはあっさりとこの先あるであろう浮かんだ不安に対し、考えるのを止めるのだった。
(もう成っちゃったものは仕方ないしね。折角獲得した特殊技能だし、有効に使わなくっちゃね)
ガイアはまた、何時も通りにのほほんとした普段の状態に戻るのだった。
(あ、そういえば、3つの内1つだけ獲得じゃない特殊技能があったな)
特殊技能〈縮小化〉。
その名の通り、自身の身体を小さくする事が出来るシンプルな特殊能力だ。
その特殊技能だけは違った得方をしていた。
(獲得じゃなくて……贈与なんだよねぇ…)
最近ではあるが前にも一度だけ、〈豊穣の創造〉という特殊技能を贈与された事を思い出し、もしかしたらこの〈縮小化〉も女神様からの贈り物なのではと、ガイアは考察する。
(もしかして……僕の不満、神様達に筒抜け…?)
まさか大き過ぎる自分の身体の悩みを聞いてくれるどころか、そんな悩みを解消する為に小さくなれる特殊技能をわざわざ贈ってくれるとは、思いにもよらなかった。
(……後で神殿に行って御礼を伝えなくっちゃ)
ちゃんと御礼を伝えないと罰が当たるだろうとガイアは思い、出来る限り早めにルミナス大神殿に赴こうと決意するのだった。




