王との謁見、粛清の時10-4
氷の拘束から解放されたデベルンス一家は、騎士達に拘束され、手枷を付けられる。
ダダボランは絶望の余り、抵抗する事を諦めていた。完全に意気消沈し、自分で歩こうとする意思も無く為り、騎士達にその贅沢で溜め込んだ贅肉の重い身体を引き摺られるのだった。
メゼベンリアは必死に自分は無実だと、関係無い等と苦しい言い訳を泣き叫びながら、地下牢獄に行くまいと抵抗する。だが、彼女の膂力の弱い為、騎士達の拘束を振り解く事は叶わず、易々と連行された。
ガウスパーも必死に抵抗し、シャラナに手を伸ばし助けを求めるのだった。私を愛するシャラナなら助けてくれると、そう思い込み僅かな希望を抱くが、当然シャラナは助けようなどしなかった。
冷徹な目で一瞥され、外方を向かれるのを目にしながら、両親と共に連れて行かれるのだった。
デベルンス一家が地下牢獄へと連れ出された後、玉座の間は安堵の空気へと変わった。
漸くあの迷惑者の悪徳貴族を粛清出来た、という達成感から来るものだ。
「ふぅ。これでもうあの馬鹿共に悩まされる事が無くなる」
安堵の溜息を吐きながらラウラルフ国王は呟く様に言う。
「同感です。これで娘は今後、あのデベルンスの馬鹿息子に付き纏われなくなるので安心です」
レウディンは、自分の愛娘が二度とあのストーカーに付き纏われずに済む事に、草臥れた笑みを浮かべ内心は大喜びをしていた。シャラナもうんうんと頷き同意をする。
「しかし、先程のは流石に肝を冷やしましたぞ」
タルカドスはレウディン達の前にずいっと迫る様に近寄り、変わらず張った声で話すのだった。
「神獣様が隷属の首輪を嵌められた時は、己の命を犠牲にする覚悟をしてしまいましたぞ。此処に居る者全員で掛かっても、間違い無く勝てる見込みが無いと直感しました」
タルカドスは防御力に関して、この国の誰よりも異常と言える程に硬く強靭だ。
だが、幻神獣フォルガイアルスに対し、タルカドス自身の全力の身体的肉体的能力と身に纏う全身重鎧に巨盾で防ぎきれるか。
タルカドスはあの時、考察する以前に直感していた。
――――絶対に勝てない。絶対に防げない。
恐らく、己の率いる重装騎士団を全て投入しても防げないだろうと、恐怖してしまった。
もし闘っていたら、間違い無く大惨事では済まない恐ろしい事態になっていただろう。
だからタルカドスは、その最悪な事態が起こらずに済んで良かったと心の底から安堵していた。
「ゴルベルク重装騎士団長の言う通りだ。私も正直、如何なるかと恐怖したぞ、賢者殿」
「ホッホッホッホッ、いやぁ済まん済まん。せめて奴等に関する案件が全て終わってから、じっくり話そうかと思っておったんじゃがのう」
「私も流石にタルカドスの言う通り、己の命を犠牲にする覚悟をしてしまいました。賢者様」
「ホッホッホッ、済まんな。セルシキア」
セルシキアもラウラルフ国王と同じ草臥れた笑みを浮かべていた。
(あ~…。何か……ごめんなさい)
ガイアは自分にもその原因となっていたのではと思い、心の中で謝るのだった。
「さて、これで奴等を牢獄に放り込めた。後は各村の問題だけじゃな」
「ああ、そうだったな。後は奴等が残した問題についてだな」
奴等―――デベルンス家が長い間ほったらかしにし、好き放題なだけやって大きく膨らませていた問題についての事だ。
「さて、もう1つの本題について話を再開しよう」
ラウラルフ国王は1回深呼吸してから、もう1つの本題―――デベルンス家が所有していた領地内の計5箇所の村での問題について話が始まった。
「現在各村で問題となっているのは4つ、食糧不足、農作物の凶作、魔物による被害、そして徴税だ。その中で先ず、必ず最初に解消しなければ為らないのは食糧不足だ」
ラウラルフ国王は玉座から立ち上がり、前へと歩を進ませた。
低い階段を降り、彼は幻神獣フォルガイアルスの前へと歩み寄った。
「神獣様。サイフォン騎士団長から貴方様の持つ、恵みの力を御聞きしております」
そして、ラウラルフ国王の取った行動に皆、驚きの声を上げるのだった。
「如何か! 飢饉に苦しむ民達に、豊穣の恵みを分け与えて頂けないでしょうか!」
ラウラルフ国王が頭を下げ、嘆願を告げたのだ。
一国の王が頭を下げるという行為は、滅多に無い。彼は国王という最上位の地位と権威を持つ人物だ。この社会に於いて王が頭を下げる機会は、同じ地位の者―――他国の王に対し非礼を詫びる時ぐらいだ。
しかし、ラウラルフ国王が頭を下げ嘆願する相手は、己よりも遥か上――――神に等しき存在だ。
大いなる恵みを司りし大地の化神、幻神獣フォルガイアルスに祈りを捧げる様にラウラルフは嘆願する。
ガイアは背の樹木に引っ掛けていた紙が載ったボードと羽根洋筆を取り出し、さらさらと紙に羽根洋筆を走らせる。頭を下げたままのラウラルフ国王を大きな岩石の人差し指で優しくツンツンと突き、顔を上げたラウラルフ国王に書き綴った文字を見せた。
〝勿論です、国王陛下。僕に出来る事であれば協力します。〟
ガイアは端から協力する気は満々だった。以前にセルシキアに協力すると伝えていたので、たとえ言われなくても付いて行くつもりだった。
ガイアの書き記した内容を目にしたラウラルフ国王は、感嘆に満ちた声で感謝を告げる。
「おお…! 何という慈悲深さ…! 感謝致します、幻神獣フォルガイアルス様!」
再び頭を下げたラウラルフ国王に続き、騎士団や魔導師団、セルシキア騎士団長にフォビロド魔導師団長やタルカドス重装騎士団長も深々と頭を下げ、幻神獣フォルガイアルスに感謝と敬意を示すのだった。
(ぉ…おぅ……)
ガイアは彼等の感謝と敬意に驚き戸惑い、何だか恥ずかしく落ち着かなかった。
元々は何処にでも居る只の一般人だったのだから、この状況には戸惑って当然である。
「ラウラルフ、そろそろ顔を上げて話を進めた方が良いのではないか? それにガイアは未だ生まれて約1ヶ月後の赤子じゃから戸惑っておるぞ」
(中身は青年男子なんだけどね!)
戸惑っているのは事実だが、赤子なのか青年男子なのかは、正直、何方が正確なのか曖昧である。
「そうだな、賢者殿の言う通りだ。急ぎ決めなければならない案件だからな」
ラウラルフ国王は賢者エルガルムに顔を上げるように促され、ラウラルフ国王が顔を上げた後に他の面々も一斉に顔を上げた。
そして玉座に戻り腰掛け、本題を再開した。
「よし。先ずは各村へ行く際に村1つに付き最低半年分の食糧を提供、そして警備兵の派遣に関しては、サイフォン騎士団長に人選を御願いする。冒険者も含めても構わないが、時間は掛けられん。信頼性と実力をしっかり吟味してくれ」
「畏まりました。直ちに謁見が終了の後、直ぐ人選致します」
「国王陛下。僭越ながら私の兵も村に赴く際、騎士団といざという時の戦力として、同行させる事の許可を頂けないでしょうか?」
セルシキアの了解の意の後に、レウディンは自分に仕える騎士達を王城の騎士団に加え、いざという時の戦力増強を進言する。
「うむ。それは此方にとっても騎士団にとっても有り難い。後で君の屋敷の兵達に召集の文章を届けるので、謁見が終わったら書状を書いておいてくれ」
ラウラルフ国王は、レウディンの貴族としての誠意ある進言を快く承諾した。
「そして次は農作物の凶作に関しては……神獣様、大量の農作物をどの位の時間で実らせられるのか御教え下さいますか?」
ラウラルフ国王の質問にガイアは紙に答えを書き綴り見せた。
〝掛かっても30秒は掛からないよ。何だったら、何かその村に無い農作物とか果実を新しく実らせる事も出来るよ。〟
「おお! たったそれだけの時間で! しかも新たな農作物に果実をも与えて下さるとは、村に住む民達もさぞ喜ぶ事でしょう!」
ガイアは更に別の事を伝える為に新たに文字を書き綴り、ラウラルフ国王に見せるのだった。
〝もし、農作物等を栽培する畑の土壌の栄養が枯れているのなら、それも僕が改善しておきますので。〟
「何と! 実に願っても無い事です! 農作の改善までもして下さる事、心より感謝致します!」
(う~ん…。何かさっきから王様に敬語使わせている様で、何か違和感というか……罪悪感が…)
ガイアへ向けるラウラルフ国王の言葉は、まるで臣下の様な口調であり、幻神獣というだけで酷く気を遣わせてしまっているのではと、ガイアは困った。しかし、国王といえど人間であり、幻神獣であるガイアとは天と地程の差のある王位や権力など無意味と言える存在な為、如何しようも無いのだ。
「では、ルミナス大神殿から神官6名と上級助祭10名を派遣致します」
ソフィア教皇から教会所属の聖職者を派遣させる理由は、各村に着いた際に魔物の被害による怪我や病気を即座に治癒する為によるものだ。食糧提供だけでは意味が無い。飢餓による死よりも、魔物の被害で受けた怪我が重症だったり、重度の病気、たとえ重度の病気でなくても長期間に亘る病気で身体を蝕まれ衰弱し、最悪苦しみながら死んでしまう場合もある。所謂、聖職者は被害地に於ける医療班といった所だ。
「出来れば私も共に赴きたいのですが、教皇の立場上、王都から離れる訳にはいかない事、大変申し訳なく思います」
「何を仰る。上級助祭に神官を同行させて貰えるだけでも非常に助かる。私だって同じ立場の身だ、ソフィア教皇殿。後はそうだな……各村に柵の修繕と補強を、いや、いっそ魔物が入り込めない頑丈な壁を建設した方が村がより安全になる。クロクタス魔導師団長」
「はっ」
「君の魔導師団から土系統魔法が得意な魔導師を、出来る限り人選し集めて欲しい。先ずは簡単な防壁造りで構わん。頑丈さを優先して魔導師団員に造って貰いたいが、頼めるか?」
「無論です。御任せを」
ラウラルフ国王の言葉にフォビロド魔導師団長は御辞儀し、返事と共に了解の意を示した。
(防壁……村を囲って村人の安全面を確保か。…でも村といってもやっぱり時間は掛かっちゃうだろうし…。…なら!)
ガイアはある提案を思い付き、急いで紙に提案内容を書き綴り、書き終えた後に玉座の前にまで近寄る。急に近寄って来た幻神獣にラウラルフ国王とフォビロド魔導師団長は少し驚く。
「ど、如何かなさったかな?」
(変に敬語を使わなくても良いのに…。後で気楽に話しても大丈夫ですよって伝えとこ)
ラウラルフ国王の使う敬語に違和感を感じ、何だか互いの距離が遠く感じるなぁと、ガイアは思いながら書き綴ったちょっとした提案を見せた。
〝村の大規模の壁造りなら僕が遣ります。僕の造った壁の細かい設計などを、魔導師の皆さんに御願いするのは如何でしょう?〟
「もしや、神獣様は土系統魔法も扱えるのですか」
フォビロドの好奇心溢れる疑問に、ガイアは頷き肯定した。
更に賢者エルガルムから大きな補足情報が語られた。
「以前遭遇した時に見た、ガイアの魔法の発動速度と魔法範囲の規模は途轍もないものじゃ。規模によるが、儂の見立てじゃと村1つ囲うに、10分か15分程で頑丈な壁でしっかり囲える筈じゃ」
「おお! それは是非、この目で拝見したいです! 国王陛下、私も各村への同行の許可を頂けないでしょうか」
「構わないとも、クロクタス魔導師団長。君には魔導師団員の指導を御願いする」
「畏まりました!」
(何か凄く嬉しそうだなぁ…)
国王に畏まる魔導師団長のその顔には、何やら喜色を浮かべていたのだった。恐らくは、幻神獣フォルガイアルスの魔法を行使する所が見れるからなのだろう。
「では最後に、徴税の件についてだが、現時点では各村の徴税は5年間免除とする。そしてフォルレス侯爵よ、頼みがあるのだが良いか?」
ラウラルフ国王からの問いに、レウディンは何を頼むのかをズバリと言い当てた。
「国王陛下、その先は予想が付いております。デベルンスの元領地の所有権ですね」
「おお、流石だ。話が早い。フォルレス侯爵よ、奴から取り上げた全ての領地を君に譲渡しようと考えていたのだ。更に苦労を掛けるかもしれんが、新たな領地の管理を如何か頼めないだろうか?」
「勿論です! 国王陛下!」
「よし。では、今日を以て譲渡した領地の各村の徴税に関しては5年後から開始してくれ。とはいえ、状況に応じ、免除期間を延長する事も視野に入れる様にしておいてくれ」
「はっ! 畏まりました!」
着々と物事は進み、各々遣るべき役割が決まっていくのだった。
「最後に賢者エルガルム殿。貴方の転移魔法で各村へと大人数による迅速な移動を御願いしたい」
「勿論構わんよ。大量の食糧に大人数での移動じゃと〈転移門〉での移動が手っ取り早いのう」
「転移による移動は任せます。出立の準備が整い次第、配下の者を呼びに行かせる。それまでは王城でゆっくりしていて欲しい」
「そうさせて貰おうかのう」
後は村に派遣する警備兵の人選と村に提供する大量の食糧の準備、6名の神官と10名の上級助祭、騎士団と魔導師団の人選を待つだけだ。
「陛下。私も各村へ赴く際、娘のシャラナの同行を許可を頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「えっ!? 私もですか!? 御父様!」
父親のいきなりの発言に、シャラナは驚くのだった。
「ほぅ。何故、娘を同行させるのだ?」
「はい。今回の件で、娘に貴族としての経験を積ませ、見聞を広げるには良い機会だと考えています。我がフォルレス家が国王陛下の命により治め管理する土地を、そして己の領地を治める者として何が必要か、どういった知識が必要かを学ばせたいと思っておりました」
「なるほど。何れは必要になる領地の管理に関する知識を、早い内に肌で感じ学ばせるか。分かった、許可しよう」
実の所、わざわざ許可を求めなくても大丈夫なんだけどなー、とラウラルフ国王は内心笑っていた。
(あ~。所謂、社会科見学みたいな感じかな)
ガイアは前世での記憶、小学生時代のお菓子工場見学を思い浮かばせるのだった。
(ん~……流石に僕の経験した社会科見学のレベルは低い気がするけど……まっ、大体一緒な感じだよね)
取り敢えずは同じ社会科見学だろうと、ガイアはざっくりと簡単に纏めるのだった。
「ありがとう御座います! 国王陛下!」
「良い良い。シャラナよ、今回は色々と奴等が蒔いた問題は大きいが、これを機に学べると良いな」
「は、はい! ありがとう御座います! 国王陛下!」
シャラナは慌てながらも、貴族令嬢としての佇まいを崩さずにラウラルフ国王に御辞儀をした。
「うむ。ではフォルレス侯爵よ、準備が整うまで、家族と共に我が王城でゆっくりしていってくれ。使用人にお茶も用意させよう」
ラウラルフ国王は微笑みながら言う。
(後は待つだけか。さて、待っている間に僕が創れる農作物を確認しておくか。……あっ、そうだ。今回村に連れてくべき奴も連れて行った方が良いかも)
ガイアは再びサラサラと紙に羽根洋筆を走らせ、この場で許可を取るべき人物、ラウラルフ国王へと歩み寄り、つんつんと軽く突っ突き、書き綴った内容を見せた。
〝今回の各村へ行く際、罪人及び反逆者のデベルンス家を連れて行くべきではないでしょうか。〟
その内容を見たラウラルフ国王は、キョトンとした表情を浮かべた。ラウラルフ国王だけでなく、レウディンにセルシキア、フォビロドにタルカドスも目を丸くしていた。
「な…何故、奴等を連れて行くべきだと御考えでしょうか? 神獣様」
当然の疑問が、ラウラルフ国王から投げ掛けられた。
それはそうだ。村の飢饉を救いに行く際に、その原因である元悪徳貴族を連れて行くのに何の意味があるのか、疑問に思うのも当たり前だ。メリットが無い上にただ邪魔になるだけだ。
ラウラルフ国王から投げ掛けられた疑問に対し、ガイアは新たに伝えたい内容を書き綴り、その回答を見せた。
〝各村を領地を形だけ治めてほったらかしにし続けていた元領主のデベルンス家が、地位と権威を剥奪された事を言葉だけでなく、その人物を村の民達に見せるべきだと思う。デベルンス家に対する罰の一環として。そうしなければ、もしかすると村民達の永い間溜まっていた不満と怒りが、これから救援援助しに行く自分達に八つ当たりの様な形でぶつけられる可能性があるんじゃないかと思います。その怒りをぶつけるべき相手を、引き摺ってでも連れて行くべきだと思う。非人道的だと思うけど、これもデベルンス家に対する罰の一環として必要だと考えます。〟
ガイアの書き綴った内容に、ラウラルフ国王は目を丸くした。
そして、その内容に関心もしたのだった。
「な…なるほど…! 確かに、村民達の溜まった不満と怒りが、救援援助しに行く我々にぶつけられる可能性は高い」
「そこで村民達が怒りをぶつけるべき相手を連れて行った方が良い。デベルンス家に下す罰の1つとしても丁度良いかもしれません。国王陛下、神獣様の案、これは採用するべきでしょう」
「勿論だ、フォルレス侯爵よ! サイフォン騎士団長! 君の騎士団に準備が出来次第、奴等を牢から出し連れて行くように伝えてくれ!」
「畏まりました、御伝えしておきます」
これでデベルンス家は、各村を廻る際に連れて行く事が決まるのだった。
全てを失った愚かな強欲者である元貴族のデベルンス家は、出立の準備が出来次第、己のどん底まで零落れた哀れな姿を、散々食い物にしてきた村の民達の前に晒すという刑罰の旅に連れてかれるのだった。
「彼奴等には丁度良い罰ね。他にはどんな罰を与えるのかしら?」
「罪が大きいからな、多くの刑罰候補から幾つか選ばなければ為らんからな。直ぐには決まらんさ」
ベレトリクスの問いに、ラウラルフ国王は肩を竦ませた。
「ま、散々自領地の民を食い物にしてたんだからねぇ。残りの人生は、彼奴等にとって想像以上の苦しみに為るでしょうねぇ。目に浮かぶわぁ」
ベレトリクスも同じ様に肩を竦め、デベルンス家に対する嘲笑を浮かべた。
「まぁ、それは追々考えれば良いさ。今は各村の村民達を救う事を考えるのが優先だからな」
レウディンの言う通り、今は今後の刑罰について、直ぐに定める必要は無い。デベルンス家が蒔いた問題を解決した後で、じっくり考えれば良いのだから。
「何より、我々の前に現れた幻神獣フォルガイアルス様に感謝をしなくては為りません。もしガイアが居なければ、村の飢饉を救う事は叶わなかった。それだけじゃない、デベルンス家の件もそうだ。我々の代わりに奴等に罰を与えてくれたのだから」
(あ~……。罰って…昨日の晩餐の事かぁ…)
レウディンの言う罰とは、ガイアがデベルンス家の金銀財宝を殆ど喰らい尽くした事だ。
「しかし陛下、まさか魔導師団員の方も潜入していたとは驚きました」
「ん? もしやフォルレス侯爵も、誰かを奴等の屋敷に潜入させていたのか?」
「はい。我がフォルレス家に仕える優秀な侍女を1人、潜入させて証拠映像を記録してました。まぁそれは無駄になってはしまいましたが、これはこれで良かったです」
レウディンは笑いながら、こちらも証拠映像をこっそり撮っていたのですよと、肩を竦ませながら言うのだった。
(えっ!? 此方も撮ってたの!? って、あの違和感はそういう事か!)
ガイアは昨日の侍女ライファから感じた違和感の理由が、やっと理解が出来た。
そう。彼女だけでなく、フォルレス家と賢者エルガルムに魔女ベレトリクスは、昨日のガイアが何しにデベルンス家の屋敷に行ったのか、そして其処での出来事も知っていたのだ。
(優秀な侍女って言ったらあの人だよね…。もしかして、影の中からずっと見てたのか! あっ、昨日の夜の賢者のお爺ちゃんと今日の朝に来たベレトリクスのお姉さんの屋敷から聞こえたあの爆笑って、あの侍女さんが撮った証拠映像が理由だったのか!)
だから彼等は、ガイアを咎めようとはしなかったのだ。
寧ろ逆、称賛していたのだ。
(そっかぁ。そういう事だったのかぁ)
ガイアは感じた違和感の理由が解け、頭の中の隅に置いていた靄が晴れ、スッキリとしたのだった。
「私も謁見前に魔導師団員が記録した映像を全て見させて貰いましたが、何とも興味深い様子でした。まさか金属や宝石といった鉱物を食べるとは、実に驚きです」
フォビロド魔導師団長はマジックアイテム――――監視目の下げ飾りの記録映像を思い返しながら、瞳を好奇心で輝かせていた。
「それに関しては、ガイアの持つ2つの特殊技能が関係してのう。まぁ、案件を全て終わらせたらゆっくり説明しよう」
「おお! それは大変楽しみです」
一瞬、彼の表情が非常に楽しみだという好奇心が浮かび、直ぐにそれを内心に留めるのだった。
「方針はこれで決まったな。では、これで今回の謁見は終了としよう。各自、謁見終了後は速やかに各村への救援援助の準備を開始せよ!」
ラウラルフ国王の言葉に、賢者エルガルムと魔女ベレトリクス以外の全員が了解の返事を発し、其々が己の決められたやるべき事をする為に、ぞろぞろと固まる様に動くが、所々で止まる事無く速やかに移動をするのだった。
そして玉座の間は、あっという間にがらんとした寂しい豪華絢爛な空間となった。
玉座の間に残っているのは、ラウラルフ国王、レウディン、フィレーネ、シャラナ、エルガルム、ベレトリクス、そして幻神獣フォルガイアルスの6人と1体だけだった。
「さて、準備が出来るまでは暫くゆっくりしていってくれ。幻神獣フォルガイアルス様には、日の当たる広い庭に王城の使用人に案内をさせましょう」
(お庭かぁ。王城内を色々見て回りたかったけど、やっぱ身体が大きいから入れない所が多いよねぇ。入れても多分、僕の身体じゃ狭いだろうし…。仕方ないよね)
折角の王城なので色々と見て回りたかったが、身体が大きい為、建物内に関しては大半以上に制限が付き纏ってくる事には諦めは付いている。が、やっぱりそれでも純粋な子供の様な気持ちが湧き上がってしまう。
折角の異世界なのだから、探検がしたい。
この好奇心は偽る事は出来なかった。
そしてまた、ガイアは小さな悩みを心の中で呟くのだった。
(はぁ~…。何か小さくなれる方法って無いかなぁ…)