王との謁見、粛清の時10-1
今日の澄んだ青空には大きめの雲の塊が幾つも浮かび、どの雲も同じ方向へと流れていく。
大きめの雲が幾つも在るといっても、天に昇る太陽の日差しをそんなには遮っていない。時々雲の日陰が出来るくらいだ。
今日も気持ちの良い天気だ。
フォルレス侯爵家の敷地内に在る魔法で生やした立派な樹木から一定の距離を離れた場所で、ガイアは日向ぼっこをしていた。
(あ~。日差しが暖かくて気持ち良いなぁ)
硬い岩石の背中から生えた、小さくも立派な樹木と無数に付いた緑の木の葉に太陽の暖かな光を浴び、そこから暖かな心地良い熱が岩石の身体全体へと伝わっていく。冷え切った身体を、サウナでじわりじわりと温める様な心地良い感覚だった。
この日向ぼっこも、日常生活での一部となっていた。
(それにしても…昨日の夜、彼処から帰って来た後に皆から何か言われるんじゃないかと思ってたけど、何にも聞いてこなかったのが妙だったなぁ。…何かそれが逆に怖いけど)
昨夜はデベルンス伯爵家の金銀財宝という豪華な晩餐を殆ど喰らい尽くし、黄金の豪邸を後にした時、ガイアはうっかり迷子になっていたのだった。そんな時に何処から現れたのか分からないフォルレス侯爵家の仕える侍女―――ライファが、ガイアをフォルレス家の屋敷まで案内する形で連れてってくれたのだ。
ガイアはその時の彼女の表情に、僅かな違和感を視認し感じ取っていた。
何か、笑っていた。
笑いを堪えている様にも見えた。
まるで何か面白可笑しな出来事でも見て、それを思い出して思わず笑ってしまうのを堪えているか様だった。
彼女からのそんな違和感は、今も分からない儘だった。
屋敷に戻り、フォルレス一家と賢者エルガルムが外で待っていた。明かりを灯し円卓の上に料理が並べられているその光景は、何とも静かで暖かな雰囲気があった。そんな雰囲気と同じ暖かな表情で、ガイアの帰りを待っていてくれてたのだ。
正直、少しは怒られるのではないかと、門限を破り夜遅くに帰って来た子供の様な心境を抱いていた。しかし、ガイアがたった1人―――いや、たった1体でデベルンス家の屋敷に行った事を咎める者は誰も居なかった。
が、それが逆に怖い。
優雅な夕飯を堪能し、ガイア以外の全員が屋敷の中へと入った後、屋敷の2階辺りからエルガルムの笑い声が響いてきたのだった。ただの笑い声ではない、あれは間違い無く爆笑だ。
ガイアは、賢者エルガルムが爆笑する理由や心当たりが全く無かった。
(いったい、何に対してあんなに爆笑してたんだろう?)
昨日のライファの様子とある物を思い返す。
(そういえば、何か下げ飾りを渡していたなぁ。何か特別な下げ飾りなのかな?)
少し遠くから視認した綺麗な下げ飾りを思い出し、考察はしてみたものの、結局それも分からない儘だった。
(まぁ、何れ分かるか)
ガイアは深く考えるのを止め、もう暫くの間、日向ぼっこを堪能し続けた。
そんな時、遠くから門が開く音が聞こえてきた。
(おや? 誰か来たのかな?)
ガイアは視線を遠くの門へと動かし、ある人物を視界に捉えた。
日の光に当たり艶のある輝きを放つ薄紫色の長い髪、少し気怠けそうな表情ではあるが、綺麗に整った顔立ちである為、その気怠げな表情は愛らしく見えてしまう。肌は白く、濃い紫色の瞳はまるで紫水晶。そして、妖艶で異性を惹き付ける魅惑的な容姿を持つ美女。
〝錬金の魔女〟ベレトリクス・ポーランだ。
今日も素材をガイアから貰いに来たのだ。
「やっほー、ガイア。随分気持ち良さそうにしてるわね」
「ンンンン~」(いやぁ~、今日も日差しが気持ち良くって)
彼女に挨拶を交わす野太く鼻に掛かった少しだけ高い声を発するガイアは、暢気でのほほんとした緩さが醸し出していた。
そんな気の緩んだ声を、ベレトリクスは何だか愛らしく感じるのだった。
今度は屋敷の扉が開く音がした。開いた屋敷の扉からは賢者エルガルムが姿を現した。
「おぉ、来たか。ベレトリクス。丁度良いのう、ちょっと面白い物が入ってな」
「ん? 面白い物って?」
(面白い物?)
ガイアとベレトリクスは其々違う向きに首を傾げ、面白い物とは何かと疑問を浮かべる。
そしてガイアは、エルガルムの表情にも疑問を感じた。
(何か、随分と良い笑顔だなぁ。何か良い事でもあったのかな?)
普段の笑顔よりも良い笑顔を浮かべるエルガルムにガイアは昨日と同じ違和感を感じた。
「なぁに、ちょっとした映像資料というやつじゃよ」
「あら、それは何か面白い物が映ってるって事かしら」
(映像資料?)
ベレトリクスはその映像資料に興味を抱き、ガイアは再び疑問を浮かべ首を傾げるのだった。
(ん? 映像資料? この世界にもテレビの様な物が在るのか?)
この異世界は前世での世界と比べ、機械、工学、薬学、文明の形が魔法の存在が有るか無いかの違いで似てはいるが、決して高度文明とは言えない。
機械に関しては村は勿論の事、王都アラムディスト内の街を見ても、それらしき物は見当たらなかった。そういう物は普及されていないだろう。もし在ったといても、前世の世界とは雲泥の差だろう。
工学に関しての場合、前世の世界では科学技術、今居るこの異世界では魔法技術という技術、簡単に言ってしまえば電気か魔力というエネルギー源が違うだけで、その技術を何らかの生産に応用する事は何方の世界でも一緒のようだ。
薬学も科学か魔法かの技術の形の違いではあるが、正直、化学医薬品より、この異世界の魔法薬の方が効能が優れているのではないだろうか。深手の傷を負ったら治癒魔法薬を飲めば直ぐに治癒されるし、毒だって錬金技術で作られた解毒魔法薬を飲めば即回復だ。前世の世界の薬品ではそんな即効性は無い。
文明はこの異世界を見れば大体理解が出来る。この世界は大自然に溢れた広大な世界の中に国を造り、都市や町などを造り、国を統治し、民を護り、友好な他国との貿易等をし、裕福な暮らしをしている。村は都市と比べようがなく小さいが、囲まれた大自然の恵みから生きる糧を貰い、畑を耕し、農作物を育てる。小さいながら裕福な暮らしをしている。
それに対し前世の世界、ガイアもとい白石大地が生き暮らしていた国は、敷き詰められた建築物とアスファルトで敷き詰められた硬い大地、自然という風景が殆ど見当たらない高度文明の世界だった。ただ、文明が発展し過ぎた所為か、それに伴い多くの大自然を建築物やアスファルトで塗り潰すように減らし、生活環境が良くなると同時に自然環境が悪化するといった、高度な文明や技術を得る代わりに恵みある多くの大自然を失う形で時代は進んでいった世界だ。
何より、裕福と貧困の差が極端であり、表向きでは平和で裕福な国であると同時に、実際、裏という事実は飢饉に晒されている貧困が表向きと同じ――――いや、それ以上に多く大きく広がっていた。
(う~ん…。少なくとも、前の世界のテレビとは違う物なんだろうな)
流石にこの異世界にテレビ局の様な物がある訳が無いだろうと、ガイアは映像資料という言葉から考察する。きっとマジックアイテムという道具関連だろう。
「うむ。ある意味、面白い内容じゃぞ」
「ほほぅ? あんたがそう言うんなら、見せて貰おうじゃないの」
賢者エルガルムの言葉に、ベレトリクスは笑みを浮かべながら答えた。もし、ある意味面白い内容という言葉をエルガルム以外が言ったなら、ベレトリクスは興味も笑みも浮かべなかっただろう。
「じゃぁ、素材の方は後で貰うとしましょうかね」
そう言った後、ベレトリクスは屋敷の中へと入って行き、エルガルムも再び中に戻り扉を閉めるのだった。
(しかし何なんだろう? ある意味面白いって、いったいどんな資料映像何だろう?)
うっかり訊きそびれてしまったガイアは、エルガルムの笑顔の違和感とある意味面白いという映像資料について、分からない儘となってしまった。
(むぅ~。身体がもう少し小さければ屋敷の中に入れるのに…)
昨日わざと誘い込まれた振りをして入り込んだデベルンス家の巨大な黄金豪邸はスペース的に難無く入れたが、あれは人が住む屋敷としては異常な大きさだ。本来は人の大きさ高さを基準にした屋敷の大きさ、人が通れる程度の扉が普通だ。言い換えればガイアが入れず通れない大きさと高さだ。
(はぁ…。僕も見たいなぁ、そのある意味面白い映像資料とやらを)
何だか仲間外れにされた様な気分になり、ガイアはちょっとしょんぼりするのだった。故意的じゃないと分かっていても。
しかし数分後、ガイアは屋敷から発する声にのほほん気分が一瞬で霧散する程に吃驚するのだった。
「アハハハハハハハハハハハハ!!!」
フォルレス家の屋敷内、広い客間に爆笑の声が響き渡っていた。
その爆笑を発する人物は、ベレトリクスだった。
「なにこれ!! あのデベルンスの馬鹿一家の顔、酷いったらないわ!! アッハハハハハハハ!!」
彼女がこれ程までに爆笑する理由、それはフォルレス家の専属侍女のライファ・ベラヌが賢者エルガルムから借り受けたマジックアイテム―――監視目の下げ飾りに昨日記録したデベルンス家の豪邸での出来事の映像を見ているからだ。
特に彼女が爆笑している一場面は、ガイアに獅子の白金像の頭を丸ごと噛み砕かれ悲痛の絶叫を上げ絶望するダダボランの歪んだ表情や、宝石や装身具類を容赦無く喰われ泣き叫ぶメゼベンリアの今にも白眼をむきそうな程の絶望と喪失感に満ちた、まるでムンクの叫びの様な顔。ガイアに関しての一場面は、相手の魔法が発動から放たれるまで待ちながら金貨や銀貨をおつまみ感覚で喰らうという、何とも言えない可笑しくも愛らしい姿が映されていた。
「ホッホッホッ、中々良い食べっぷりじゃろう」
「うわぁ…。凄い豪快に宝飾品やら金属物を食べていますね」
エルガルムは関心しながら、シャラナは瞠目しながらガイアの豪快な食事場面を見入っていた。
「こ…これは凄い光景だ。まさか本当に金属を喰らう事が出来るとは。しかも宝石まで…」
「本当に凄いわねぇ。あんな山の資金を全部平らげるなんて、見た目に合わずとても胃袋が大きいのねぇ」
レウディンとフィレーネもその食事場面に瞠目し、素直な感想を其々述べる。
エルガルムは既に昨日の夜にこの映像を観ており、レウディンにフィレーネ、シャラナとベレトリクスは今日初めて昨日起こった出来事の記録映像を見聞きしているのだ。
「胃袋というよりは身体其の物に蓄積されるそうじゃから、あれだけの膨大な金銀財宝を喰らい平らげる事が出来るのじゃろうな」
「えっと…確か〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉の2つの特殊技能ですよね」
「そうじゃ。しかし、こうも丁度良い恰好の食事に在り付けられたのは実に運が良い。こうして幻神獣フォルガイアルスの有する特殊技能を調べる事が出来るし、それに」
「ええ! 神獣様の御蔭で奴等の莫大な財産をほぼ失わせる事が出来た! これで奴等はもう何も出来まい!」
伯爵という爵位と財務相という地位を私利私欲の儘に振りかざす、強欲にして悪徳貴族であるデベルンス家。そんな厄介な貴族家を、幻神獣による裁きで、不当不正の徴税で掻き集め山の様に積み上げてきた金銀財宝が殆ど失った。これで逃げる汚い手段も失った彼等を完全に追い詰めた。一番の強みと言える莫大な財産はほぼ無い為、多額の賠償金の支払い能力は皆無。よって治めている領地は返還、全ての地位は剥奪、平民に堕ちるのは確定だ。
だが、デベルンス家は犯罪歴が多い。平民に堕ちるだけで済む筈が無い。
それが間近に迫っている事に、レウディンは歓喜の表情を浮かべていた。
「やっとだ…。これでやっと彼奴等に処断が下せる」
「本当に随分と苦労したのう、レウディン。これであの強欲一家の貴族位を剥奪と同時に、犯罪者にして反逆者として牢獄に幽閉されるじゃろうな」
「本当にです、賢者様。しかし、あのダダボランが国王陛下から王位を簒奪しようとしていたとは…。何と馬鹿で身勝手、己の強欲に忠実な奴だ」
「全くじゃのう。まさかガイアを利用して、ラウラルフを脅そうとまで考えていたとは。幻神獣を己の欲望に利用しようとするなど愚か極まりないというに」
「まさにそうですね。奴等にとっても、我々から見ても、これは神罰と言うべきでしょう」
「そう! まさに幻神獣フォルガイアルスの神罰と言って過言ではない!」
「そういえば、あの神話の歴史書にそんな一説が書いてあったわね」
爆笑で疲れたベレトリクスは、エルガルムとレウディンの会話に入り込んできた。
「〝決して幻神獣の慈悲に付け込む事なかれ。幻神獣の慈悲に付け込む強欲者、幻神獣の怒りを受ける愚者と化すだろう〟ってね」
「そして〝幻神獣怒りし時、幻神獣の心は世界の大地と繋がりて、強欲で愚かなる者達に大地の牙を衝き立てるだろう〟とな。今回がその強欲で愚かな者がデベルンス家という事じゃな」
ベレトリクスとエルガルムが神話の一説を言った後に続く様に、シャラナもその後に続く一説を口にする。
「〝幻神獣の怒りは即ち、大地の怒りなり。無辜の善人には、恵みを贈りし幻神獣なり。私利私欲の愚かな悪人には、災害を与えし幻神獣なり〟ですね」
「そうじゃ、シャラナ。私利私欲の愚かな悪人、今回の場合はデベルンス家がガイアを己が欲望を叶える為に利用しようとした結果、それを知ったガイアが奴等に罰を与えたという事になるのう」
そう。神話の一説から比べれば規模は小さいものの、デベルンス家に対してそれが再現されたのだ。
「あの子が此処に来てからは本当に驚く事が起こるわねぇ。良い意味で」
「全くだ。フィレーネ。ガイアとの出会いは我々にとっても、この国や奴の所有する領地の村の者にとっても素晴らしいものだ。寧ろ、ガイアが居なければ、デベルンス家の問題を解決する事が出来なかったと言って良いくらいだ」
レウディンは今迄に無いくらいの穏やかな笑みを浮かべていた。まるで、長い間背負いに背負い続け、時が経つ度に大きく重く為っていた頭の抱える案件から、漸く解放されたかの様な爽やかさがあった。
「本当にあの子との出会いは、奇跡の出会いであると今では思います」
シャラナは初めてガイアと出会った時の事を思い返しながら言う。
今でもシャラナの頭の中に鮮明に記憶された豪快かつ衝撃的な一場面。D等級の大口の剛獣を、太く大きな岩石の拳から放たれた強烈な突き上げ一撃で葬るガイアの勇ましいあの姿を。
「いやはや、本当にその通りじゃ。ガイアが幻神獣だと判明した時の感動は、たとえ死んでも決して忘れられん一生の思い出じゃよ」
エルガルムは非常に良い笑みを浮かべながら頷く。
「しかし丁度良かったわね。彼奴等の御蔭で幻神獣の特殊技能を調べる事が出来たし、財産殆ど潰せたし、一石二鳥ってやつね」
「確かにのう。これでガイアに新たな特殊技能が得られると良いのじゃが……見た所、未だその様な前兆も見受けられんな。鉱物の種類は充分に思えるが、未だ何か足りないのかのう?」
「もしかしたら、後は量の問題じゃないかしら」
「だとすれば、後どれ位の鉱物を食わせれば良いのかが不明じゃな」
エルガルムとベレトリクスは考察する。
特殊技能〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉による、身体への数ある種類の金属と宝石を大量蓄積する事によって派生するであろう新たな特殊技能――――そう、〝山の如し岩石の身体、数多の鉱物を宿し鉱山なり〟という幻神獣フォルガイアルスに関する一説による、エルガルムもベレトリクスも知らない未知の特殊技能を獲得するのではという仮説だ。
しかし、あれだけの莫大な金銀財宝を殆ど喰らい尽くしたにも関わらず、ガイアには特に何か変化もその前兆も無かった。フォルレス家の敷地から出てった時とデベルンス家の屋敷から帰って来た時の姿形は、変わらない儘だった。
つまりは、新たな特殊技能は派生し得ていないと判断出来た。
「まぁ、何れ近い内に2つの特殊技能から派生して、新たな特殊技能を獲得出来るじゃろう」
ガイアの保有する幻神獣フォルガイアルスの代名詞とも言えると特殊技能―――〈豊穣の創造〉と同等の未知の特殊技能の派生と獲得条件は、完全とまでは言えないが半分仮説と半分確信によって理解している為、エルガルムとベレトリクスの2人は燻る探求心を内に秘めるも焦る様子は無かった。
「デベルンス家の問題を解決すれば、後は奴の領地内の各村落の改善のみです」
洋卓に置かれた紅茶が注がれたティーカップを持ち、口の中に紅茶を流し込み、レウディンは自身の喉を潤し一泊を置く。そして話を続けた。
「奴等が貴族の地位を剥奪された後、奴の領土全てをフォルレス家の領土として譲渡して貰えないか国王陛下に謁見しようと思います。更に各村の被害状況に応じての復興修繕費用、農作改善、警備兵の派遣、賠償について相談し、早急に村の飢饉の救済に当たる準備も進めなくては」
「そうじゃな。デベルンス家の馬鹿共は永い間、自身の領地内の村民から不当な徴税以外は何もしておらんから、相当な飢えに瀕している筈じゃ。急ぐべき案件じゃな」
「ええ。なので、書面をセルキシア騎士団長殿宛に送り、彼女に国王陛下との早急な謁見の御願いして貰う予定です」
「ならば儂が直接ラウラルフに伝えておこう。急ぐべき案件じゃ、早い方が良かろう」
「それは非常に助かります。賢者様」
「おお、そうじゃ。ついでにガイアの事もラウラルフに伝えんとな。連れて紹介すると取り敢えず伝わって聞いている筈じゃしな」
「え。本当にあの子を王城に連れて行くんですか、先生」
エルガルムのガイアを紹介しに連れて行くという事に、シャラナは一瞬身体が硬直し、心配そうな表情でエルガルムに訊ねる。答えは分かり切っていたが。
「勿論! 既にガイアの事は伝わっておるから、後は実際の姿を見せておいた方が良いじゃろう」
あー、やっぱりそうですよねー、と思いながらシャラナはガックリと頭を落とすのだった。
「何よりガイアの力が必要不可欠。じゃろう、レウディンよ」
「ええ、飢饉に見舞われる村を早急に救うには、ガイアの恵みの力以外では不可能でしょう。農作物は主にガイアに御願いし、我々は食糧の提供と警備兵の派遣を第一に、その後は大工組合と土系統魔法の得意な魔導師団員を各村への派遣を国王陛下に進言しようと思っています」
「ならば善は急げじゃ。直ぐに儂がラウラルフに会って謁見の許可を取って来よう」
話が決まりエルガルムがその場で転移魔法を発動し、王城の門扉前に転移しようとした直前、扉を開けて入って来たライファが彼を止める様に、ある知らせをこの場に居る全員に伝える。
「失礼します、レウディン様。国王陛下の使いの者より伝言を賜りました。急遽、アルドカスト城に来訪するようにとの事です。賢者エルガルム様も御一緒との御願いです」
これ程に無いくらい非常に良いタイミングで、ラウラルフ国王陛下に王城に来るようにとの伝言が来たのだ。流石の皆も目を丸くし、良い意味での驚きの色が浮かんでいた。
「迎えの馬車が門の前で御待ちになって居ります。急ぎ支度をする様にとの事です」
「何と良いタイミングだ! 分かった、直ぐに支度する。フィレーネ、急ぎ支度して一緒に来てくれ」
レウディンは喜色の表情を浮かべ、勢い良くソファーから立ち上がった。
「ええ、分かったわ。貴方」
妻のフィレーネは、夫のレウディンに続く様にすっと立ち上がる。
「あらまぁ、随分と良いタイミングだこと。なら折角だから、私も行こうかしら」
ベレトリクスもよっこらしょと気怠るげに立ち上がり、一緒に同行する事にした。
「それとシャラナ。丁度良い機会だ、私達と一緒に行こう」
「わっ、私もですか!?」
シャラナはまさか自分も国王陛下との謁見の場に赴く事など予想すらしていない為、心の準備が一切出来ておらず焦り、緊張が身体全身を奔るのだった。
「大丈夫だ。ちゃんと礼儀正しくしていれば問題は無い。シャラナは貴族令嬢としての正しい立ち振る舞いは、普段から出来ているから難しい事じゃないさ。寧ろ、今回はシャラナにとっては滅多に無い機会だ。今の歳で国王陛下との謁見の場に行けるのは、他の同じ歳か近い歳の貴族にはそうはいない。これはシャラナにとって、とても大きな経験になる。一度経験してしまえば、それはシャラナの成長の大きな糧に成る筈だ」
「そうよ、シャラナ。大丈夫よ」
シャラナは父親のレウディンと母親のフィレーネに励まされる。が、それでもやはり不安になり緊張してしまう。
無理もない。これから行く場所はアルドカスト城であり、そしてその王城の主であり、ラウツファンディル王国の統治者である国王陛下に会うのだから。
「わ……分かりました。直ぐに支度をします」
心の準備は完全にと迄は出来てはいないが、シャラナは覚悟を決めるのだった。
「ホッホッホッ、心配せんでも大丈夫じゃよ。シャラナはフォルレス侯爵家の由緒正しい貴族令嬢に加え、儂の教えを受けた魔導師なのじゃからの」
エルガルムもシャラナの肩をポンポンと軽く叩き励ますのだった。
「おっと、そうじゃ。ラウラルフの所に行くのじゃから、ガイアも連れて行かんとな」
「…やっぱり連れて行くんですね。先生…」
「ホッホッホッホッ、もしかすると儂が連れて行かなくても付いて来るかもしれんぞ?」
「あ~。あの子なら付いて来そうですね…」
シャラナはエルガルムの言う事に、納得した様な、諦めた様な、何とも言えない気持ちになり悟るのだった。
(いったいあれは何だ? 門の前に止まってる馬車は何処の何だろう?)
ガイアは敷地の外側が気になり、門近くの敷地の格子柵沿いから土系統魔法〈石柱〉を足元から発動し、創り出した石の柱で軽々と上昇し、門から離れた位置でこっそりと格子柵の上から顔を覗かせ、外側の様子を窺っていた。
(かなり豪華な作りの馬車だなぁ。何処かの貴族? 流石に彼奴等じゃないよね。昨日僕がメッタメタに壊したし。だとすると…いったい何処の誰の馬車なんだ?)
暫くの間、再び日向ぼっこをしていた時に、門の方から此処では少し聴き慣れない音が聞こえ、遠くから門の警備をしている騎士と見慣れない騎士を遠くから視界に映った。見慣れない騎士が何かを伝えた後に、警備をしていた騎士が急ぎ駆け足で門から屋敷へと向かって走り、そのまま屋敷内へと入り、少し暫くしてから彼は中から出て来て、また駆け足で門へと走り戻り、何かを伝えた事を訪問して来た見慣れない騎士に伝えたそうだ。
そして現在、何処かの幾人の騎士達は、そのまま門の前で馬や馬車の御者に乗ったまま待機して居るという状況だ。
(此処の人達に何の用なんだろう?)
彼等が此処に来て今も待ち続ける理由が解らず、ガイアは疑問に浸るのだった。
屋敷から扉の開く音が遠くから聞こえ、それに反応したガイアは岩の柱を跡形も無く綺麗に解き消し、屋敷の方へと歩き戻って行った。
(おや? 家族総出でお出掛け? 賢者のお爺ちゃんもだ。ベレトリクスのお姉さんも)
屋敷からフォルレス一家と賢者エルガルム、そして魔女ベレトリクスが出て来た。衣服は随分と気合の入った、普段見ない高価な物を着用していた。其々ちょっとした装身具を身に着け、適度なお洒落でより気品さが醸し出していた。エルガルムとベレトリクスは何時も通りの格好だった。
考えても分からないので、ガイアは彼等の下へと歩み寄って行った。
「おお、ガイア。丁度良かった」
「ンンン~?」(何処かにお出掛け?)
エルガルムに声を掛けられたガイアは、声を発し言葉が伝わらない問いを掛けた。
「今から国王陛下に急ぎ会いに行くのじゃが、御主も一緒に来とくれ」
(え? 国王陛下に会う?)
ガイアは目をぱちくりさせ一瞬困惑するも、直ぐに理解した。
(そうか! あの騎士達は国王陛下に仕える騎士で、あの馬車は迎えの馬車という事か)
「それで済まんが、急ぎ馬車で王城に向かう。後ろから走って付いて来て欲しい」
(うん、分かった)
ガイアは大きな岩石の親指を立てて、分かったと了承の意を示した。
そしてフォルレス一家と賢者エルガルムに魔女ベレトリクスの後ろに付く様に歩き、アルドカスト城へ、ラウツファンディル王国の国王に会いに赴くのだった。
(王様かぁ。どんな人なんだろう)




