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強欲な愚者、天罰招く9-5

 (きら)めく黄金で施された廊下に、設置された幾つもの黄金に銀の細工を施された照明が照らし、これ以上必要無い程の煌めく黄金の廊下をより輝かせる。

 そんな(いや)しい強欲に満ちた黄金輝く広く大きな廊下を、ガイアはガウスパーの後に続きながら歩き進んでいた。

 ガイアの前を歩くガウスパーは非常に上機嫌の色を浮かべており、魔獣が自分の思い通りに従っていると勘違いを今もしている。

 ガイアは(おもて)に表情は出さないが、内心は周りに広がる黄金の卑しい強欲に満ちた世界に嫌悪感(けんおかん)を抱きながら歩いていた。

 続く黄金の廊下の途中にある金に銀の細工を施した扉の前に、ガイアの前を歩くガウスパーは一度止まった。

 此処(ここ)にも金ぴかの騎士が居た。

 何処(どこ)彼処(かしこ)と、屋敷中に居る騎士は全員同じ黄金の全身鎧(フルプレート)を身に(まと)う者しか見当たらなかった。

「開けろ」

 ガウスパーの命令に、金ぴかの騎士は従い扉を開いた。

 此処の扉だけでなく、此処に来るまで視界に映った扉も全て、ガイアよりも何故(なぜ)かサイズが大きい金と銀で作られた扉ばかりだった。まるで屋敷にある物全てを、屋敷全体と一緒に大きくしたかの様に思えてくる。

(落ち着かないな~…)

 何処(どこ)を見ても煌めく金と銀、美術展の様に飾られている数々の種類の宝石や、それを金よりも高価な白金(プラチナ)などの獅子を(かたど)った像などが幾つも何処彼処(どこかしこ)に置かれていた。

 獅子の像ばかり飾っているのはきっと強く気高い自分に相応しいと、強欲かつ傲慢(ごうまん)な感性によって像の造形を獅子にしたに違いないだろう。貴族にとっての強さは権力の高さとイコールする為か、貴族としての強い印象を見せ付けるには獅子が1番良いのだろう。

(まぁ…国中に悪名が知れ渡っている貴族家だから、それが皆により悪い印象を与えてるんだろうな)

 ガイアはこの無駄にお金を掛けた金銀輝き煌めくデベルンスの強欲が詰まった豪邸と、既に食堂に居るであろうダダボランと眼前に居るガウスパーに対し、嫌な場所、嫌な奴等と、冷徹に思うのだった。

 開いた扉の先、食堂部屋へとガウスパーは入り、ガイアはその後に続く様に扉の先に広がる空間へと大きな足を踏み入れた。

 足を踏み入れた先、ガイアは視界に広がる空間を目の当たりにし――――げんなりとする。

(此処もかよ……)

 視界全体に広がり目に映るのは、金だ。

 また金だ。

 上下左右、至る所に金の輝きが広がっていた。

 広大な食堂も他の屋敷内の場所と同じ、黄金尽くしで施されていた。

 食堂中央にある広く大きな食卓(ダイニングテーブル)()かれた洋卓掛け(テーブルクロス)までもが、金の輝きを放っていた。食卓(ダイニングテーブル)の周りに置かれた数脚の椅子(イス)も純金で極め細やか芸術的細工を施され、純金の椅子に真紅の上質で滑らかな革は背凭(せもた)れと()に取り付けられていた。

 その煌めく椅子は玉座か何かか? と呆れてしまう物だった。

 煌めく黄金の食堂の食卓(ダイニングテーブル)の一番奥の純金製の椅子に、ダダボランが既に座っていた。彼の表情に浮かぶ上機嫌の色は、解り易い程に輝いていた。

 ガイアが食堂を見回している間に、ガウスパーも決まった場所の純金製の椅子に座るのだった。

「あら、これがガウスパーの言っていた魔獣ですの?」

 後ろから聞こえてきた高慢な女性の声に、ガイアは思わず振り向いた。

 振り向き視界に映った女性を一目見て、ガイアは面には出さない様に内心で引いた。

(うわっ! けばっ!)

 その女性の第一印象は、派手過ぎる。

 ボリュームのある長い髪の毛に、少し濃い目の化粧の所為(せい)で白く見える肌は不自然に感じる。着ている見るからに派手なドレスには散りばめられた極小の宝石が幾つも付けられ、両手の全ての指にはダダボランとガウスパーと同じ様に、其々(それぞれ)違う種類の宝石1つ1つを白金(プラチナ)製の指輪に()め込んだ高価な装身具(アクセサリー)を嵌めていた。そして頭には大粒の紅玉(ルビー)を嵌め込んだ金の頭飾り(ゴールドサークレット)が乗っていた。

 その女性の名は、メゼベンリア・ガアネ・デベルンス。

 ダダボラン・ボズド・デベルンスの妻にして、ガウスパー・ドウブ・デベルンスの母親である。

 彼女も強欲に満ちた女性貴族で、高価な化粧品や香水に、金や銀に白金などの貴金属で作られた指輪(リング)首飾り(ネックレス)に大振りの宝石などの装身具(アクセサリー)、更には派手さを重視した高価なドレスを買い漁り、己をより美しく、誰よりも美しくなろうと莫大な財産を躊躇(ためら)い無く使う。綺麗な物、自分を美しくする物を求め続ける美の欲望を持つ女だ。

 容姿は決して悪くは無いが、整っている顔には高慢に満ちた人を見下す様な目付きの所為で、美しさが余り見て感じられないものがあった。

 あの高慢さが無くなれば、目付きも改善されるのではないだろうかと、ガイアは思う。

 そこそこ綺麗な容姿が勿体無い程だ。

如何(どう)です母上! この魔獣は私が手懐けたのですぞ!」

 ガウスパーは胸を張り、自慢げにガイアをこの手で手懐けたという勘違いを自分の母親に言う。

「流石、私の息子ですこと! やはり貴方(あなた)は天才だわ!」

 それを聞いたガウスパーの母親は、上機嫌に自分の馬鹿息子を褒め称えるのだった。

(あー…駄目だこりゃ。この家族、馬鹿にも程がある)

 天才ですらない馬鹿息子を天才と褒め称えている時点で、デベルンス家が如何(いか)に酷い貴族なのかがはっきりと理解出来る。

 これまでの悪行を悪いとも一切感じずに私利私欲の(まま)生きてきた彼等は、生まれながらにしての悪徳貴族なのだ。

 きっと彼等は、最後の最後まで悪い事を悪いと一切思わず、己の内から駄々漏(だだも)れる強欲の意の儘、私利私欲の赴く儘に生き続けるのだろう。

 ガイアは純金の椅子に座る彼等を見ながらそう悟るのだった。

「さぁ早く! 料理を持って来い!」

 純金椅子に座るダダボランは近くに居た使用人に命令を下し、()かさせる。

「はい! 只今!」

 仕える主人の命令に少し気持ち悪いニヤけた笑顔で返事をし、そそくさと食堂から厨房(ちゅうぼう)へと向かって行った。

 その男性使用人も、デベルンスの様な何か強欲めいた雰囲気を感じるものがあった。

(もしかしたら……彼奴等(あいつら)だけじゃなく、此処の騎士や使用人全員もが此奴等(こいつら)と同類なんじゃないか?)

 ガイアは此処まで来る途中で出会(でくわ)した、騎士や使用人の視線や雰囲気に違和感をずっと感じていた。

 此処の騎士なら高価な武具という武力で相手を見下すのは納得するが、此処の使用人の瞳にはまるで自分が貴族の様に下の者を見下す黒い優越を秘めている様に見えるのだ。

(主人が(よこしま)なら、その主人に仕える人達も同じ邪な奴なんだな…)

 つまりは、類は友を呼ぶという事だ。

 そう悟ったガイアは、この黄金豪邸とその周りの敷地内と門の外に居る全ての人間が、強欲に満ちた〝敵〟だという認識に改めた。

「所で貴方、この魔獣を従属魔獣(ペット)にするのだから首輪は如何(どう)するの? 幾ら何でもこんな大きな魔獣を放し飼いにするのは危ないじゃない?」

 最後に純金椅子に座ったメゼベンリアが夫のダダボランに、これから従属魔獣(ペット)として飼うガイアを如何するのかと訪い掛けた。

「なぁに、心配無いとも。最近〝背徳の金鼠〟の連中から隷属の首輪を買ったんだ。それなりに値が張った物だが、良い買い物をした」

(隷属の首輪…!? ……なるほど、手懐けられなかった時の保険か最終手段用だな)

 相変わらずガイアが居るというのに、堂々と(たくら)みをダダボランは機嫌良く喋るのだった。

「おお! 流石は父上! 裏から犯罪組織と取引し貴重なマジックアイテムを手に入れるとは!」

(やっぱり裏で犯罪組織と繋がったか。それと〝背徳の金鼠〟ね。憶えたからな)

 予想していた為か、実際に聴いた事実にガイアは驚かなかった。

 寧ろ、ダダボランなら犯罪に手を染めていても可笑しくはないと納得するのだった。

「幾つ買ったの? 貴方」

「ん? たった1つだが?」

「1つじゃ足りないわよ。もうちょっと買っても良かったじゃない」

「1つしかなかったのだよ。隷属の首輪は違法マジックアイテムなのだから、裏でもそう中々出回らない貴重な代物なのだから仕方ないのだよ」

(おいおい此奴等、犯罪に手を染めている事すら当たり前みたいに家族団欒(だんらん)で喋ってるよ)

 自分が得を得られるのなら犯罪にまで平然と手を出す。彼等にとって悪徳そのものは正しい行いと同意儀であり、それがデベルンス家にとって当たり前の事なのだ。

「大丈夫ですぞ、母上! 私がこうして手懐けたのですから!」

「そうだとも、ガウスパーの言う通りだ。こうして強力な魔獣を手懐けたのだから、この魔獣さえ居ればこの国を支配するのは夢ではないのだからな!」

「それは良いわ。この国を支配出来たらドレスも宝石も、好きなだけ権力で思いの儘に手に入れられるわぁ。何て素敵なのかしら」

「そうだろう、そうだろう。我々がこの国を支配した暁には、私が国王、お前は女王、そしてガウスパーは王子だ!」

「私が王子! そう成れば間違い無く、愛しのシャラナを妻として迎え入れられるぞ!」

「良いわ! 凄く良いわガウスパー! これでフォルレス家との繋がりも作れる事間違い無しよ!」

 ダダボラン、メゼベンリア、ガウスパーのデベルンス3人家族は満面に満ち下卑(げび)た笑みを互いに交しながら黒く汚い欲望を口にし、強欲に満ちた幸せの未来を其々妄想を思い浮かべるのだった。

 だが、3人の黒く汚い強欲に満ちたそれ等の幸せの未来は叶わない。(ただ)の夢という妄想で終わる運命なのだ。

 その理由、根拠は彼等の近くに居た。

 幻神獣フォルガイアルスの存在だ。

 彼等は今も、ガイアを力の強い只の魔獣だと思い込んでいる。

 たかが魔獣の目の前で何を喋ろうと、如何せ我々の会話内容は理解出来ないだろうという、傲慢から来る必然的な油断によって、彼等の未来は罰を受ける事となってしまった。

 デベルンス家にとって、1番重く、心に苦痛を伴い、人生で初めての喪失感を味わい涙する未来を――――。


 少し暫くの時間が経過した時、大きな黄金の扉が開いた。

 開いた黄金の扉の先から金のワゴンや銀のワゴンに数々の料理を乗せて運んで来る使用人達が、次々と広く大きな食卓(ダイニングテーブル)へと近付き、金や銀で作られた大きな皿や小さな皿に乗せた料理を次々と食卓(テーブル)の上を飾るかの様に置いていく。

 前世の世界に居る海蝲蛄(ロブスター)に似たこの異世界に居る海老(エビ)の様な生き物、もしかすると海に生息する水棲の魔物なのかもしれない茹でた物。見た事が無い魚を小麦粉で(まぶ)しバターで焼いたであろうバターの良い匂いを漂わせる魚のムニエル。沢山敷き詰められた萵苣(レタス)、細長く千切りされた人参(ニンジン)、一口で食べられる様に切り分けられた赤茄子(トマト)、新鮮な野菜のサラダの上には帆立貝(ホタテガイ)らしき魚介類が幾つか乗っていた。

 琥珀色(こはくいろ)のスープの中には具材は一切入っていないが、スープから漂う匂いから魚介類特有の旨味が鼻腔(びこう)を刺激する。そのスープは魚介類を中心の材料を煮詰めて、旨味を溶け込ませているのだろう。食後のデザートとして食べるであろう果物は、大きく広い金の皿に様々な種類の果物を敷き詰める様に乗せられていた。まさに果実(フルーツ)の盛り合わせだ。

 そして、本日の晩餐(ばんさん)のメインとなる料理が食卓(テーブル)に置かれた様々な料理よりも1番に目立っていた。それは多くの誰もが好む料理であり、見るだけで食欲を刺激されてしまう肉料理――――霜降りステーキだ。

 何の肉かは分からないが、おそらくは牛の様な魔獣の肉なのだろう。その焼けた厚い肉から染み出る油の良い匂いが、黄金で煌めく食堂全体に漂う。大きい上に噛み切るのに苦労しそうな分厚い肉は、不思議と柔らかそうに見えてしまう。間違い無くこの霜降りステーキは最高級の肉を使っているだろう。

 金の洋卓掛け(テーブルクロス)を敷いた大きく広い食卓(ダイニングテーブル)の上は様々な豪華な料理が置かれ、食卓(テーブル)上を、黄金の食堂をより豪勢に彩ってゆく。

 誰もが食卓(テーブル)に並ぶ豪華な料理に目を奪われ、食欲と味に対する好奇心を刺激され、食べたいという欲求に従い飛びつくだろう。


 普段通りのガイアであったら――――そうしていた。


 だが今回だけ、ガイアは視界に映る豪華な料理に対し、食欲も、味に対する好奇心も刺激されず、代わりに(くすぶ)る苛立ちが更に熱を増していた。

 ガイアが内心で苛立ちという不快感を抱く理由、それは食卓(ダイニングテーブル)に並ぶ豪華な料理に使われている数々の高級食材が原因だ。それ等はデベルンス伯爵家が所有する土地の幾つもの村から、不当な多額の徴税(ちょうぜい)という形で奪って()き集めた村民達の税を使って手に入れた物だからだ。

 高級食材だけではない。屋敷の外装と内装、調度品、宝飾品(ほうしょくひん)、衣服、指輪、首飾り、デベルンス家に仕える騎士達の武具などの全てに莫大な資金を自分の為に、デベルンス家の繁栄の為だけに村の民達から徴税で掻き集めた金を使っているからだ。

 その事実を知りながら、眼前に並べられた豪華な料理を口にしようなどと、ガイアは決して思えなかった。

(……今まで何年何十年もの間、民の金を権力で奪ってこうして自分等は贅沢に使ってきたのか…)

 不快だった。

 非常に不快の思いだった。

 自分の領地に住まう村の人達を不幸に(おとしい)れ、その不幸を自分の幸せの(かて)にしながらこの世をのさばって生きてきたのだろう。

 デベルンス家にとって、自分の領地に住む村の民達の不幸は甘い(みつ)。その不幸という甘い蜜をずっと(すす)り続けて黒く(にご)った甘い幸せを味わい続けていたのだろう。

 ガイアの内に燻る苛立ちから不快感という炎が少しずつ大きく燃え上がっている最中、食卓(ダイニングテーブル)には豪華な料理が飾る様に全て置かれていた。

「さぁ! 今日は我々がこの国の支配者と成る前祝いだ! 強力な魔獣を手懐け、魔獣で国王を玉座から引き()り落とし、遂に私は念願の王に成れるのだ!」

 自信に満ちた下卑た笑みを浮かべながら、これから先の未来、デベルンス家の栄光の未来をダダボランは家族の前で、ガイアの前で堂々と喋るのだった。

「流石は父上です! 私もこれで王子と成れば、愛しのシャラナと結婚が叶うぞ! 王子と成った私と結婚するシャラナもさぞ喜ぶだろう!」

 ガウスパーは実の父親に敬意と賞賛を贈り、頭の中でシャラナと結婚式を妄想し、それを口に出すのだった。

「素晴らしいわ! 女王になれば、女王の権力で欲しい物が何でも手に入れられるわ!」

 メゼベンリアは数多のドレスに宝石、首飾り(ネックレス)に指輪といった自身に飾りより美しくなる事ばかりを考えていた。

 3人の黒く自分勝手な欲望を直に聞いていたガイアの心は、燻っていた苛立ちから不快の小さな炎が顔を出し、遂にその小さな不快の炎は怒りの大きな炎となり激しく燃え上がる。

 ガイアはその怒りを面に出さない様に内に秘める。

「さぁ、我々がこの国の支配者となる前祝い――――祝杯からいこうか! おい、其処の魔獣にも(さかずき)を渡しなさい。今回は特別に金のゴブレットを持って来なさい」

 近くに居たさっきの使用人に、ダダボランは上機嫌に命令を下す。

 命令された使用人は予想していたかの様にサッと前以(まえもっ)て用意したのであろう金のゴブレットを取り出し、ガイアの下へと近付き、そのまま渡すのだった。

「お前は今日から我々の従属魔獣(ペット)と成ったのだから、此方(こっち)へ来て共に祝杯しようではないか」

(ペット言うな)

 ダダボランの言葉に内心イラッとするも面に出さない様に、受け取った金のゴブレットを片手に彼の下へと近付き、従った振りをする。

「今日は特別な晩餐だ、先に葡萄酒(ワイン)を注いでやろう。おい、葡萄酒(ワイン)を」

 今度は別の使用人を呼び、葡萄酒瓶(ワインボトル)を持った使用人が、ガイアの下へ近寄る。そして葡萄酒瓶(ワインボトル)のコルク栓を外し、ガイアの手に持つ金のゴブレットに葡萄酒(ワイン)を注ごうとする。

 その直前、ガイアは手に持ったゴブレットを高く上げ、使用人がゴブレットに届かない様に持ち上げ拒絶した。

 その光景にデベルンス貴族一家は理解出来なかった。勿論、葡萄酒(ワイン)を注ごうとした使用人もガイアの謎の行動が理解出来なかった。

「お…おい、乾杯は()だだぞ? 未だ葡萄酒(ワイン)は入っていないぞ?」

 ダダボランは、ガイアがゴブレットを高く持ち上げる(さま)が乾杯の行動なのではと思う。

 しかしこの後、ガイアの起こす行動によって、ダダボランの考察が安易である事だと、ガウスパーは岩石の魔獣を完璧に手懐けられた事が勘違いだと、彼等デベルンス貴族一家にこれから起こる悲劇と共に理解をするのだ。


 バギャンッ!


「………え?」

 いきなり金のゴブレットが(かじ)り取ったガイアの行動に、この場に居る全ての人間が目を丸くした。

 バギャッ、ガリッ、ギャリッと、口の中から齧り取られた金のゴブレットが噛み砕かれる硬い咀嚼(そしゃく)音が、誰もが声を発さない静寂が支配した黄金の食堂に響き渡る。

 手元に残った持ち手部分だけのゴブレットだった物を、ガイアは口の中に放り込み、バキバキと噛み砕き、金のゴブレットは1つの欠片残さず平らげた。

 次にガイアは、彼等の直ぐ近くに置かれているワイングラスを大きな岩石の手で器用に奪い取る。最初に1番近くに居たダダボラン、その次にガウスパー、最後にメゼベンリアと順に近寄り、其々のワイングラスを砕き割らない様に奪い取る。

 そんなガイアの行動を、この場に居る全員は呆然としながら見るだけだった。

 彼等は今起こっている状況に対し、理解が出来ていなかった。


 この魔獣はいったい何をやっているんだ? と。


 そんな彼等を無視し、ガイアは奪い取った3つのワイングラスを同時に丸ごと口の中へと放り込む。

 口の中に放り込まれたワイングラスは噛み砕かれ、バキャンッ、バリンッと音を立て、ガリゴリと咀嚼し、飲み込む。


 未だ誰もが理解が追い付いていなかった。


 3つのワイングラスを平らげたガイアは食卓(ダイニングテーブル)から離れ、黄金の壁の方へと歩いて行った。

 壁の前に脚を止め、手を上に伸ばし出す。

 呆然とした表情の儘、その様子を見ていた全員がガイアが伸ばす手の先に設置された黄金の照明へと視線を動かした。

 この時まで、彼等は理解が出来ていなかった。

 難無く黄金の照明に手が届いたガイアはそれを掴み、バキンッ! と思いっきり壁から引き千切るかの様に照明丸ごと豪快に引っこ抜いた。

 ダダボランはその瞬間、漸く理解が追い付き動揺し、それと同時に顔を青ざめるのだった。


 この魔獣は我々の金銀財宝を喰らう恐ろしく厄介な魔獣だ、と。


 ガウスパーはこの魔獣は金属を喰らう生き物だと理解は出来たものの、動揺し困惑をする。手懐けた筈なのに何故、あの魔獣は我々に対し牙を向くのか、未だ理解が出来ていなかった。

 メゼベンリアは何が何だか分からず困惑するが、ただ1つ、従属魔獣(ペット)と成った筈の魔獣が特別に使用人が渡した金のゴブレットを喰らい、自分を含む家族のワイングラスを喰らうという勝手な行動を起こした事だけ理解出来た。

 3人のデベルンスが浮かべていた傲慢に満ち下卑た笑みは消えていた。下卑た笑みから動揺と困惑の表情へ、そして遂に動揺と困惑の色がガイアの次の行動によって別の色へと侵食されるのだった。


 べギャンッ!


「ウワァアアアアアアアアア!!!」

「エェエエエエエエエエエエ!!!?」

「イヤァアアアアアアアアア!!!」

 ガイアが黄金の照明を喰らう光景を目の当たりにし、3人は理解が追い付いたと同時に絶叫を上げるのだった。

 その絶望に満ち溢れた絶叫は食堂だけに収まらず、大きな屋敷全体に響き渡った。

 

 悪徳貴族デベルンス一家は人生初の悲劇が起こり、絶望の色へと侵食される様に染められていくのだった。


(さぁて……折角の晩餐に招待してくれたんだから、遠慮無く戴こうじゃないか!)

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