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強欲な愚者、天罰招く9-4

 茜色(あかねいろ)に染まった貴族区画の何処(どこ)かの道。

 ガイアはわざと、ガウスパーの落とした誘いの果物を拾って食べながら辿り進んでいた。

 道端(みちばた)に落ちた果物を拾い喰いをする行為は、(はた)から見れば意地汚い行為だ。

 しかし、だからといって、新鮮な果物をそのまま道端に放置するのも勿体無い。寧ろ、ガイアにとっては丁度良かった。

 未だこの世界では食べていない果物があれば、それを食した時に特殊技能(スキル)〈植物記憶蓄積〉で完全記憶され、特殊技能(スキル)〈豊穣の創造〉で創り出せる果物が増えるのだ。

 なのでガイアは、次々と落ちた果物を有効活用する意味で一口で平らげる。

 都民区画よりは範囲が狭い貴族区画だが、それでも広い区画の為、何処に在るか分からないデベルンス伯爵家の屋敷までの道程(みちのり)は長い。何処に在るか分からないデベルンス伯爵家までの唯一の道標(みちしるべ)は、長い道程の先に続くガウスパーが落としていった果物達だ。

(しかし、どんだけの量を持って来たんだ彼奴(あいつ)

 視線の先に続く様に落とされた果物と、それを遠くで1つ1つ落として先を進むガウスパーの姿が視認出来てた。

 (しばら)く歩いてはいるが、後どれ位の距離でデベルンス家の所に辿り着くのか未だ分からなかった。

彼奴(あいつ)の屋敷に着く前に、果物全部無くなるんじゃないか?)

 その事を計算に入れているのだろうかと、ガイアは今も遠くで美味しい道標を落とすガウスパーを視界に映しながら思う。

(まぁ、そこまで考える必要は無いか。途中で全部無くなっても此方(こっち)は困る事無いしね)

 その時はただ黙ってあの馬鹿(ガウスパー)に付いて行けば良いだろうと、難しく考えない事にしていた。

()ずはデベルンスの屋敷に着く事が出来れば良いんだし、着かないとお邪魔する事が出来ないしね)

 ガイアはひたすら拾い食べながら、遠くに居るガウスパーの後を追う様に歩き進む。


 茜色の黄昏(たそがれ)空がだんだんと暗さを増していき、茜色に染まっていた空が、刻々と暗みが侵食するようにゆっくりと染め替えてゆく。茜色の太陽が地平線へと沈み始めているのだろう。

 予想よりも随分長い距離を歩いた。

 今は貴族区画のどの辺りなのかは分からない。

 只々(ただただ)、落とされた果物という道標を頼りに進んでいるのだから。

 そもそもガイアは貴族区画や都民区画以前に、王都アラムディスト全体の道や場所の詳細を(ほとん)ど知らない為、今どの辺りに居るとかなど判る筈がなかった。何せフォルレス侯爵家の敷地内から、勝手に自由に出入りする事は止められているのだからだ。その為、王都アラムディスト内の簡単な詳細図すら知らない。

 それならばと、取り敢えずわざと誘いに乗り、餌付(えづ)けに成功したと勘違いしたデベルンスの馬鹿子息の後を付いて行く。折角の機会を生かす為に、デベルンス家の屋敷に堂々と入れるチャンスに乗ったのだ。

(あ~……流石にもう果物は飽きたな~。しかし、未だ着かないのかな~?)

 ずっと落とされた果物を食べ続けたガイアは、果物の味に飽きていた。長時間と言える程時間は経っていないが、果物という甘味と酸味ばかり食べ続けるので飽きて当然だ。

(甘味はもういいや。塩気のある物が食べたい…)

 口の中が甘味(まみ)れになった所為で味覚が少し変になり、美味な果物が美味しいと余り感じなくなってきた。ガイアの口の中は甘味と酸味以外の物を欲していた。

(お邪魔し終わったらとっとと帰ろ。……はぁ、無性にお肉が食べたい)

 そんな事を思いながら、もう飽き飽きした果物を拾い喰いし、ガウスパーの後を追いながらデベルンス家の屋敷に向かい進むのだった。


 もう暫く歩き続け、遠くに居るガウスパーが門の前に立ち止まった。

 門の側に居る騎士と思われる2人も視認出来た。

(おっ? やっと着いたのか?)

 (ようや)く目的の場所に辿り着いたと思い、ガイアはやっと飽き飽きした果物の拾い喰いから解放される事に内心喜んだ。

 目的の場所に着いた時にはもう空は殆ど薄暗くなり、茜色の空は殆ど薄黒く染められていた。

 ガイアは落とされた残りの果物を拾い喰いしながら、門の前に居るガウスパーの所まで近付いた。

 空は殆ど暗く染まっていた為判らなかったが、ある程度の距離まで近付いて見ると、ガウスパーの眼前に居る2人騎士の身体を(まと)う武具を見て目を丸くした。

(な……何あれ…)

 視線の先に居る(きら)めく騎士。

 その煌めきの正体は――――金だ。

 金に(おお)われた騎士だった。

 (ヘルム)胸当て(ブレストプレート)肩甲(ポールドロン)籠手(ガントレット)脛当て(グリーブ)装甲靴(サバトン)と、あらゆる鎧部位が黄金の煌びやかさを主張した全身鎧(フルプレート)。更には大型の盾(ラージシールド)斧槍(ハルバード)までもが金色で、頭の先から足の爪先(つまさき)まで空は薄暗いのにも関わらずキンキラキンに輝いていた。

 それ等は全て金で作られた物なのか、何かの金属の上から金鍍金(メッキ)を塗ったくった物なのかは判断出来ない。

 全身()金々(きんきん)の騎士を見て、ガイアはその過剰な金のキラキラ主張に内心引くのだった。

(うわぁ~……。主張激し過ぎ…)

 その騎士を一目見て直ぐに理解出来る。

 この門の先の屋敷に居るであろうデベルンス家の当主が如何(いか)に強欲なのかを、視界に映る金の騎士が物語っていた。

「とっとと門を開けたまえ!」

 (はた)から聞けば嫌味のある言い方で、ガウスパーは門に居る2人の騎士に命令を下す。

 そんな言葉に対し2人の金の騎士は何も文句を言わず、門の扉を開けるのだった。

(これで最後っと)

 やっと残り1つの果物を平らげ終えた時に、2人の金ぴか騎士がガイアの存在に気が付き、慌てて盾と斧槍(ハルバード)を構え出す。

「な、何でこんな所に魔獣が!?」

「ガウスパー様! 早く屋敷へ!」

 2人の騎士からは当然の反応だった。

「手を出すな! この馬鹿者が!」

 ガウスパーは2人の騎士を怒鳴りつけ抑制させた。

此奴(こいつ)は私の従属魔獣(ペット)に成ったのだ」

 ガウスパーはニヤリと下卑(げび)た笑みを浮かべながら2人の騎士に勘違いを伝えるのだった。

(ペットって……)

 勘違いしているとはいえ、自分を従属魔獣(ペット)呼ばわりするガウスパーに対しガイアは内心苛立った。

「だから此奴も入れる。余計な事をするな」

 そう騎士に告げた後、ガウスパーはまるで偉大な事を成し遂げたかの様な満足そうな顔を、ガイアに向けながら手招きをした。

此方(こっち)だ、入りたまえ」

 中に入って良いと許可を告げ、そのまま先に門を潜り抜け行ってしまった。

 ガイアは内心で溜息を吐きながら、後を追う様に門に近付く。

 2人の金ぴか騎士は、近付いて来たガイアに畏縮する。

 ガイアはそんな様子の騎士を無視し、そのまま大きな門を潜り抜けるのだった。

 門を潜り抜けた先、ガイアの視界に真っ先に映ったのは屋敷だった。

 いや、屋敷というには余りにも大き過ぎる建築物だった。

 空は薄暗いにも関わらず、その大き過ぎる屋敷は大量の金や銀をふんだんに使った壁や装飾が煌めいており、己が持つ権力と財力を誇示(こじ)するかの様に―――いや、誇示しているであろうその威容な屋敷は豪邸と言うに相応しかった。

(……うわぁ…どんだけだよ…)

 その豪邸は無駄にでかく、見せびらかし自慢したいと言わんばかりに金や銀をふんだん以上に使った豪華さだった。豪華過ぎる所為で敷地内に在る豪邸以外が(かす)んでしまい、豪邸までの道や庭といった風景が全く視界の中に入らなかった。

 正直、こんな異様に目立つ豪邸には住みたくない。

 こんな豪邸に住んで落ち着けられないだろう。

 (うらや)ましいという気持ちなど、これっぽっちも湧かなかった。

 内心嫌々ながらも、ガイアは視界に煌めき映る豪邸に向かって歩き進んだ。

 豪邸前に辿り着き、改めて豪邸全体を見る。

 やはり、大き過ぎる。

 貴族が住むにしても余りにも大き過ぎる。

 視線の先にある屋敷の扉も大きかった。その扉は人間の倍以上の大きい身体をしたガイアでも無理なく潜り抜けられる程だった。しかも、その扉も金と銀で作られていた。

(扉もでかっ! しかもほぼ金ぴかじゃん! 此処には体格がでかい人でも住んでるのか?)

 何故(なぜ)扉の設計が大きいのかさっぱり解らなかった。人が通るのにここまで大きな入口にする必要が無い筈だろうと、ガイアは疑問に思うのだった。

 素材が金や銀なら豪華さを(かも)し出せるからか、大きければ尊厳さを醸し出せるからなのか、何方(どちら)にしろ両方にしろ、これはやり過ぎだとガイアは思う。

「開けたまえ」

 屋敷の扉前にも立っている全身が金で身を纏った別の2人の騎士がガウスパーの命令に従い、大きな屋敷の扉を開けるのだった。

 開いた大きな扉の先へガウスパーは悠々(ゆうゆう)と入って行き、ガイアはその後に続く様に、金と銀で煌めく扉の先へと足を踏み入れた。

 金や銀で煌めく豪邸、デベルンスの豪邸の中へと足を踏み入れたガイアの視界に広がり飛び込んできたのは、更に金と銀の煌めき続けている屋敷内の光景だった。

(………ホント…ナニコレ……)

 ガイアは屋敷内までもが金や銀で隅々(すみずみ)まで施された床や天井、高級調度品に美術館に展示されてそうな硝子(ガラス)細工に金の極め細やかな装飾を施された杯、純金や純銀だけでなく、純白金で作られたゴブレットに小振りの宝石を埋め込んだ宝飾品といった高価な物ばかりが目に入り込む。

 右を見ても金と銀、左を見ても金と銀、前に向き直しても主に金と銀が視界全体に映り込む。

 目が眩む。この光景を長時間見ていたら、目が痛く為りそうだ。

「父上! 只今戻りましたぞ!」

 ガウスパーは張りのある嬉々(きき)の声を響かせ父親を呼んだ。

(さて…いよいよ御対面だ)

 ガイアはデベルンス伯爵家の当主の姿を拝む心の準備をし、心の中で身構える。

 そして2階に繋がる階段を下りて来る人物が遠くの視界に捉えた。

「おお! 我が優秀な息子よ! 待ってたぞ!」

 流石、親子なだけあって顔は良く似ていた。

 体型はガイアが予想していた通り、全体が太めの身体をしていた。

 そして太い体型に纏う室内の明かりで煌めき輝く高価な衣服、贅肉(ぜいにく)が溜まり出っ張った腹に巻き付いた上質で高級な革で作られた(ベルト)には幾つもの宝石が埋め込まれ、黒い高級革靴(ブーツ)を履いていた。更に両手の全ての指には1つ1つ種類が違う大振りの宝石が()め込まれた白金(プラチナ)製の指輪が嵌められていた。

 彼がガウスパーの父親にしてデベルンス伯爵家の当主であり、国内有名な悪徳貴族。

 ダダボラン・ボズド・デベルンス伯爵だ。

 ありとあらゆる高級品を身に纏わせ、ギンギラギンに自身を輝かせながら登場したダダボランの容姿を見て、理解を通り越し悟ってしまった。

(あ~。此奴、間違い無く悪人だぁ)

 その傲慢(ごうまん)な笑みを浮かべるダダボランの顔は、まさに悪人として相応しい表情だった。

 身形だけでなく、贅沢をふんだんに盛り込んだ豪邸、そして自分より下の者を見下す様な傲慢に満ちた笑み。

 彼を一言で言い表すなら、まさに強欲者というのがぴったりだ。

 そしてその強欲者が住まう金や銀などの過剰な豪華絢爛(ごうかけんらん)を詰め込んだ豪邸を題するなら、〝強欲邸〟と呼ぶのが相応しいだろう。

 そんな強欲者は階段を下り、息子のガウスパーの下へと歩み寄る。

「父上! 私は魔獣を手懐けるという偉業を成し遂げました!」

(成し遂げてないから)

 どや顔を決めるガウスパーの勘違いに、ガイアは心の中でツッコみを入れるのだった。

「素晴らしいぞ! 流石は私の優秀な息子だ!」

(素晴らしくないから。優秀でもないから)

 今度はダダボランに対し、心の中でツッコみを入れた。

「これならきっと、この魔獣を手懐けた私にシャラナは更なる愛を届けてくれるに違いない」

(無い無い。それは無い。絶対に無い。逆に奪われたって怒りを魔法的な何かで届けてくれるとは思うけど)

 相変わらずの自分勝手な思い込みに対し、ガイアは内心げんなりとしながらもツッコみを入れた。

「良いぞ。これなら我々の地位は更に上がり、フォルレス家との素晴らしい関係を築く事が出来るぞ!」

(いやいや、フォルレス家の皆さんはあんた等を迷惑がっているから無理だっての)

 ガウスパーの不法侵入行為を思い返しながら、ガイアは内心でダダボランの自信溢れる言葉を否定する。

「此奴さえ居れば、全ての連中は我々に逆らう事など出来なくなるぞ! 上手く調教して思い通りに言う事を聞かせられれば、我が最強の武力に成る。そうなれば…国王を脅して王座から地に引き()り落とす事など簡単だ。そしてこの私がこの国の王に成るのだ! 王の絶対権力が手に入れば、自国の金は全て我がデベルンス家の所有物となる! 欲しい物は好きなだけ手に入るぞ!」

 ダダボランは下卑た笑みを浮かべ視線をガイアに移し、堂々とこの国の王を引き摺り落とすという黒い欲望を口走るのだった。

(こっ…此奴、そんな事を考えていたのか! 何つう下種(ゲス)野郎だ!)

 聞き捨てならないダダボランの黒い欲望の言葉に、ガイアは面に出さない様に、今にも炎が燃え上がりそうな(くすぶ)った苛立ちを内心に秘め留めた。

(これは帰ったら直ぐ皆に知らせなくちゃ。完全に国王に反逆するなんて口走ってるし)

 ある意味、今回此処に来て良かったとガイアは心の底から思った。

 普通は人前で仕える国王に対し、反逆的言動をする筈が無い。

 しかし、このダダボランは身内と言葉が喋れない魔獣だからと完全に油断し、堂々と王位簒奪(さんだつ)を口にするのだった。

 これはチャンスの1つだ。

 今まで罪を犯していながらも、あらゆる不法不正の情報を改竄(かいざん)と隠蔽を続けてきた連中を問い詰める、大きな材料になるのだから。

「父上、今日の晩餐(ばんさん)の準備は出来ていますか?」

「勿論だともガウスパーよ! 今日の晩餐に出す物は全て最高級の食材で作らせた料理ばかりさ! 葡萄酒(ワイン)も最高品質の物を取り寄せたぞ!」

「良し! この最高の餌付けであの魔獣は必ず従順になる筈だ」

 どうやら前以てガイアをデベルンス家の従順な魔獣にする為に、最高級の食材で餌付けをしようと(たくら)んでいた様だった。

(結局餌付けかい…)

 自分が近くに居るのに、堂々とそんな企み事を喋って大丈夫かよと、ガイアは間抜けな強欲親子を呆れた目で見るのだった。

「さぁ、ガウスパー。魔獣を連れて来てくれ。早速祝いの晩餐といこうじゃないか」

「勿論ですとも、父上!」

 2人は上機嫌に言葉を交わし、先にダダボランは食堂へと向かった。

「ほら、此方(こっち)だ。とっとと付いて来い」

 ガウスパーはガイアに声を掛けながら手招きをし、食堂へと誘導しようとする。

 取り敢えずは言う事を聞いている振りをしながら、ガイアは誘導に従った。

(さてさて、その祝いの晩餐とやらを見せて貰おうか)

 ガイアは内心でニヤリと(わら)う。

 この先、自分が此処である事をするという、未だ起こしていない未来の出来事に――――。

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