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強欲な愚者、天罰招く9-2

(お帰り下さいませ、ストーカー野郎!!)

「アアアアアアアアアアァァァァァァァァー!!!」

 フォルレス家の敷地内に侵入したキンキラキンの衣服で身を包んだ馬鹿貴族が1人、大声を叫びながら綺麗な放物線を描き空中を飛んでいった。

 正確に言えば飛んでいるのではなく、飛ばされているのだった。

 更に正確に言えば、投げ飛ばされたのだ。

 そして響き渡る大きな声は絶叫だ。

 空中へと投げ飛ばされ絶叫を上げている人物の正体は、フォルレス家の貴族令嬢シャラナを一方的に気持ちの悪い愛を押し付けるストーカー、悪徳貴族デベルンス伯爵家の子息―――ガウスパー・ドウブ・デベルンスだ。

 そんな彼が敷地内に侵入し、シャラナに声を掛ける暇も無く即座に飛ばされたのは、最近フォルレス家の敷地内に住まっている大きな岩石の存在によるものだ。

 大地の化神にして恵みを司る幻神獣――――フォルガイアルス。

 皆からは〝ガイア〟と呼ばれている。

 白石大地ことガイアは、不法侵入者にしてシャラナのストーカーである馬鹿子息(ガウスパー)を問答無用で投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたガウスパーは、また貴族区画の何処(どこ)かへと飛んで行く。

 飛んで行った不法侵入者が見えなくなった事を確認したガイアは、フスンと鼻を鳴らした。

(相変わらず()りない奴だなぁ。此処(ここ)だと不法進入回数はいったい何回目なんだ?)

 諦めもせずに不法侵入し続けるその意志を、もっと正しい別の方に向けられないのだろうかと、ガイアは呆れた気持ちを投げ飛ばしたガウスパーに向けるのだった。

「ホッホッホッホッ。相変わらずの飛ばされっぷりだのう、あのデベルンスの馬鹿息子は」

 敷地内のガイアが生やした立派な樹木の方から、老人の笑い声を耳にする。無数の緑鮮やかな木の葉を付けた樹木の木陰(こかげ)の下、円卓(ラウンドテーブル)には幾つもの書物が置かれ、其処に賢者エルガルムが椅子(イス)に腰掛けていた。

「あの馬鹿坊やは学習能力というものが無いのかしらね」

 別の椅子にはベレトリクスも座っていた。

 彼女は幻神獣であるガイアについて、エルガルムと共に行使出来る系統魔法の種類や保有している特殊技能(スキル)を解明する為に、最近は此処(ここ)へ毎日通う様になっていたのだ。

 前にエルガルムが初めて不法侵入したガウスパーがガイアに投げ飛ばされる光景を目にした時は呆然とした表情をしていたのに対し、ベレトリクスはかなりの爆笑をしていたのだった。

「あれは学習能力以前の問題です」

 更に別の椅子に座っているシャラナは呆れた表情で溜息を()き、投げ飛ばされたストーカーから読んでいる書物へと視線を戻す。

「あんなのと関わるのは時間の無駄でしかありません」

 そう。彼女の言う通り、ガウスパーとの対話は真面(まとも)に成り立たない。

 対話をしようとするだけ無駄なのだ。

「全くじゃな。あの様な迷惑者と関わり続けるのは、一生に一度しかない人生が無駄になるわい」

 エルガルムは椅子の背凭(せもた)れに()っ掛かり、円卓(ラウンドテーブル)に置かれたティーカップを持ち、ティーカップに注がれた上質な紅茶を口に含み、(のど)(うるお)す。

「無駄っていったら大半以上の無能貴族の存在もそうじゃない? 真面に魔法を使える奴は居ないし、国王がわざわざ大金出してまで設立した魔導学院だって、自分の事しか考えない無能貴族共の所為(せい)で意味が無くなってるじゃない。エルガルムぅ、()い加減あの学院潰さない?」

 さらっと恐ろしい事をベレトリクスは平然と提案するのだった。

 だがその提案は、現在のバーレスクレス魔導学院に対して正しい意見である。

「賛成です!」

 そんな提案にシャラナは迷い無く賛同する。

「儂も前々からそれは考えていたとも。じゃが、彼処(あそこ)の連中を黙らすには正攻法で行かねば為らんからのう」

「面倒ねぇ。あの名ばかり魔導教師達は永年に渡って真面な結果を何1つ出してないっていうのに、(いず)れはだの何時(いつ)かきっとだの、現実性が全く無い言い訳ばかりしかしないじゃない。もうその時点であの学院を潰す充分な理由でしょう」

 ベレトリクスは以前、学院の教師勢に何度も引っ付かれる様に胡麻擂(ごます)りされ続けられた経験があった。余りにもしつこかった為、そんな魔導師として無能な強欲者達を魔法で吹っ飛ばし、「二度と近寄るな」と脅し文句を言い放った事がある。それ以降は教師勢を含めた無能な貴族の誰もが、彼女に近付こうとはしなくなった。

 ベレトリクスはそんな事を思い出しながら、軽い苛立ちを内に(くすぶ)らせながらも、平然に喋るのだった。

「無駄じゃよ。潰すなら言い訳すら出来ぬ事実を奴等に突き付けなければ、認めようとせんよ。まぁ、()(みち)、あの学院が潰れるのは時間の問題じゃよ。じゃからほっといておれば良い。そんな下らん物よりも…」

 不法侵入者を投げ飛ばし終え、のそりのそりと此方(こちら)に歩み戻って来る幻神獣フォルガイアルスに、エルガルムは視線を動かす。

「ガイアについて調べる方が実に有意義じゃよ」

「それには同感ね」

 ベレトリクスも視線を幻神獣へと動かし、エルガルムの意見に同意する。

「ンンン~」(終わったよ~)

 ガイアは木陰に居る彼等の下へと戻り、ゆっくりとシャラナの隣に座り込む。

「ありがと、ガイア」

 シャラナはガイアに(ねぎら)いの言葉を笑顔で(おく)った。

 そして今日もベレトリクスは、ガイアの岩石の身体全体を凝視する。

 その原因は神話の歴史書に書かれた一説によるものだった。

「ん~……。やっぱりこの子が持ってる特殊技能(スキル)〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉がこの〝山の如し岩石の御神体、数多(あまた)の鉱物を宿し鉱山なり〟って一説に関係してるんじゃない?」

「その可能性は非常に高いのは間違い無いじゃろう。〝宿す〟という言葉から蓄積した鉱物を基に、生成する能力を差しているのじゃろう。しかし未だ生まれて間も無い赤子の故か、その能力は目覚めておらんからのう」

 エルガルムとベレトリクスは幻神獣に関する神話の一説と、2つの特殊技能(スキル)について仮説を立てながら談義するのだった。

 ガイアは博識のある2人に現在自分の有する特殊技能(スキル)を全て教えてみた結果、〈栄養素譲渡〉〈植物記憶蓄積〉〈金属物質蓄積〉〈宝石物質蓄積〉、そして豊穣の女神から贈与された〈豊穣の創造〉の5つの特殊技能(スキル)は聞いた事が無いという驚愕の声が上がったのだ。数多の存在する特殊技能(スキル)を記録した書物にさえ記されていないという事実には、ガイアも驚いた。

 ガイアの気に入っている特殊技能(スキル)〈光合成〉に関しては2人は即座に理解と納得をしていた。〈光合成〉は上位の植物系の魔物や妖精、精霊の類が有する上位特殊技能(スキル)であり、日の光がある限り体内に栄養素を作り続け魔力を回復し続け、おまけに自己再生という回復まで出来る敵相手では非常に厄介な特殊技能(スキル)だという。

 しかし、特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉に関しては全く聞いた事が無いという。

 ガイアは上位の植物系の魔物や妖精、精霊が持っている特殊技能(スキル)じゃないのかとエルガルムとベレトリクスに質問の文字を書き(つづ)り見せるが、2人からは最上位の存在であっても〈栄養素譲渡〉という特殊技能(スキル)は持っていないと断言された。更には幻神獣フォルガイアルスのみに有する事が許された、特別な特殊技能(スキル)ではないかとエルガルムは言う。

 だからこそ、恵みを司る幻神獣なのだと。

 ガイアは〈栄養素譲渡〉の効力を教えただけで、その特殊技能(スキル)が〈光合成〉と相互関係によって発揮している事に2人は直ぐに気付いた。

 流石は博識のある〝賢者〟と〝魔女〟だ。とても理解が早かった。

 次に教えた特殊技能(スキル)〈植物記憶蓄積〉に関してはかなり謎めいた。

 この特殊技能(スキル)は自分が知識として得る事、実際に食す事、自分の身体に植える事で、薬草、果実、担子菌(たんしきん)類、花といったあらゆる植物の詳細情報を直接脳に送り、完全記憶するという植物に関する知識を脳に蓄積する特殊技能(スキル)だ。

 だが、それだけだ。

 ただ植物に関する知識が増えるだけの特殊技能(スキル)である。

 これに関してはエルガルムとベレトリクスは、「いったい何の意味があるんだ?」と首を傾げるのだった。

 ガイアも2人と同じ疑問を抱いていた。

 (ただ)し、今迄(いままで)は、だ。

 そう。ルミナス大神殿の礼拝堂で豊穣の女神から贈られた特殊技能(スキル)、恵みを司る神獣フォルガイアルスしか持たない恵みの力。

 特殊技能(スキル)〈豊穣の創造〉だ。

 この特殊技能(スキル)は〈光合成〉〈栄養素譲渡〉〈植物記憶蓄積〉が揃って初めて強大な効力を発揮する事が出来る、上位(クラス)の自然系統魔法を超えた特別な特殊技能(スキル)であり、自分の知る植物類を特殊技能(スキル)〈栄養素譲渡〉の効力で何も無い地面から生み出したい植物類を実らせる事が出来るのだ。

 因みに、神話のある一説には、自信の背中からも生み出す事が可能だという。

 しかし、生み出したい植物は自分の植物に関する知識の依存によるものである為、それに関する知識が全く無い場合は生み出す事は不可能である。

 そこで、一見単体では無意味と思われた特殊技能(スキル)〈植物記憶蓄積〉が〈豊穣の創造〉に作用するのだ。

 ガイアは〈植物記憶蓄積〉が〈豊穣の創造〉に作用している事を伝え、以前旅路の途中で大量に増やしたマナルディマッシュを1つこっそり食べた事があったので、試しにその(キノコ)を生やしてみようと特殊技能(スキル)〈豊穣の創造〉を発動した。

 そして見事にガイアの背中から生え、大量のマナルディマッシュ(まみ)れと成ったのだ。

 特殊技能(スキル)〈豊穣の創造〉の起こした現象には此処に居る3人だけでなく、フォルレス夫妻もその現象を目の当たりにし、驚愕と興奮が沸き起こった。

 他にも以前フォラール村で食べた葡萄(ブドウ)如何(どう)だろうかと思い付きで更に試してみた結果、背に根付き生えた樹木に1粒1粒が大きな紫の実がぎっしりと集まった葡萄(ブドウ)の房が見事に実ったのだった。全員興味本位でガイアの背の樹木から実った葡萄(ブドウ)を試食してみた結果、かなりの高評価の美味しさだった。勿論、ガイアも試食してみた。

 特殊技能(スキル)〈豊穣の創造〉と〈植物記憶蓄積〉の関係性を知ったベレトリクスは、次の日には様々な薬草や貴重な花といった植物素材を大量に持って来て、ガイアに全部半ば強引に喰わせ、何時(いつ)でも喰わせた植物素材を創り出せる様に記憶させたのだ。

 損傷を癒す治癒魔法薬ヒーリング・ポーション製作の必須素材である赤色茸―――ライフリーマッシュ。

 状態異常で定番な毒の効力を消す解毒魔法薬アンチドーテ・ポーションの素材となる濃い紫色をした苔―――ポズメヌ苔。

 一時的に鎮痛作用を(もたら)す青緑色の丸みがある葉身(ようしん)が特徴の薬草―――ペチカイン草。

 引火させると視界を遮る大量の煙幕を発生させる灰色の細い葉身が特徴の薬草、目眩(めくら)ましや逃走用の煙幕玉の材料であるモクフォス草。

 他にも火薬の素となる火薬草に、非常に強力な粘着性の液を実の中に蓄えている食べれない果実、更には歪な形をした人参の根に当たる部分には君の悪い両目と口が付いており、根の一番下の部分は脚の様に二股分かれ、両腕と思しき部分は長さに違いがある貴重で奇妙な薬草―――マンドラゴラまでガイアに喰わせたのだ。

 ガイアは初めて見たマンドラゴラの醜い見た目に、心中で顔を引き()らせた。ベレトリクスはそんな事は御構い無しに、ガイアの口の中へ突っ込んだのだった。

 かなり刺激のある非常に不味い薬味だった為、ガイアは思わず奇妙奇天烈な声を唸らせるのだった。それも小一時間、口に突っ込まれたそれが如何に不味かったかが見て取れる程の。

 それ以来、彼女は此処に来る度にガイアは特殊技能(スキル)で植物素材を背中に創り出し、それを彼女は空間魔法の〈収納空間(スペース・ストレージ)〉に仕舞い込み持ち帰るのだった。

〈豊穣の創造〉と〈植物記憶蓄積〉の特殊技能(スキル)詳細が判明し、エルガルムとベレトリクスは其々(それぞれ)特殊技能(スキル)の効力を細かく記録した。

 そして次は現在、〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉の2つの特殊技能(スキル)についての談義をしているのだ。

「〝数多の鉱物を宿し鉱山なり〟という一説はやはり〈豊穣の創造〉と同等の能力――――特別な特殊技能(スキル)なのじゃろうな」

「じゃぁ、〈金属物質蓄積〉と〈宝石物質蓄積〉はその特殊技能(スキル)を取得する為に、必要な前提条件の1つって可能性もあるわね」

 エルガルムとベレトリクスの楽しげな談義は、知識欲という情熱が溢れていた。

「もしかすると、鉱物をある一定の量を喰らい蓄積する事が特殊技能(スキル)取得の条件ではないかのう?」

「量だけじゃなく、種類も必要じゃない? 〈豊穣の創造〉と同等の特殊技能(スキル)なら、幾つもの種類の鉱物を喰わせないと創り出せないんじゃない?」

「ふむ……幾つもの種類と一定の量か…。しかし、確かめるにしても鉱石類はそう大量に出回る物ではないしのう。何より、貴重な鉱石はより手に入り(にく)い」

「それ以前に資金が足りないわ。種類も量も揃えるには莫大な資金が必要になるし、貴重な鉱石を探しに行くにしても、そう簡単に見付けられる物じゃないからねぇ」

 エルガルムは鉱石の調達方法を思案する。

 アルシャス山脈の南側端に位置するダウトン鉱山国の都市――――王都ダウナレクに直接転移魔法で(おもむ)き、売り出されている鉱石を買い集めるか、テウナク迷宮都市の巨大かつ広大な地下ダンジョンに潜り、鉱石を探し採掘しに潜り、出来れば希少な鉱石を採掘するという2つの調達方法が浮かんでいた。

 前者は鉄や銅の値の安い金属や金や銀の値の高い金属といったダウトン鉱山国――――特に王都ダウナレク――――では多く出回る物ではある。しかし、たとえ安い金属でも、一般人から見ればそう易々と手が出せない代物だ。安い金属だけでも大量に買い込めば、かなりの金額になる。この調達方法は莫大な資金が無ければ容易に出来ないのだ。

 後者は広大かつ巨大な地下ダンジョンの深い階層には様々な鉱石が眠っている為、行く価値は充分にある。しかし、階層の下深くへ行く程希少な鉱石も更に希少な鉱石、オリハルコンやアダマンタイトといったかなり貴重な鉱石が眠っていると同時に、下深くの階層へ潜る程、その階層にはA等級(ランク)やB等級(ランク)の強力な力を持つ魔物が出現する為、命の保障が無い非常に危険を伴う調達方法だ。

「……久し振りにダンジョンにでも潜ってみるかのう」

 だが、エルガルム自身は軽くS等級(ランク)を超えた上級以上の魔導師としての力と実力を有しているので、よっぽどの不慮の事故や災難(アクシデント)が起こらない限りは、オリハルコンやアダマンタイトが眠る奥深くの階層まで辿り着く上に、A等級(ランク)等級(ランク)の魔物等が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する階層でも問題無く殲滅出来る。

 但し、それは魔力が尽きなければの話だ。

 常人の域を超えているエルガルムは膨大な魔力量を有してはいるが、無限ではない。限りが在る。

 ダンジョン内で襲い掛かって来る魔物等を倒すのに、魔導師は必ず魔法を行使しなければならない。魔力の消費を最小限で襲い掛かる脅威を撃退し続ければ、奥深くの階層に着いた時には魔力量の残量に余裕が無くなってしまう。更には地上への帰りも考慮しなければならない。おまけにA等級(ランク)にB等級(ランク)の魔物も出現する。

 たとえエルガルムであっても、ダンジョンに潜る際には1人ではなく、複数人でバランスの取れた職業(クラス)一党(パーティー)を構成し、ダンジョンに潜り込む。これがダンジョンに入る際の一般常識だ。

「冒険者でも雇ってみるかの」

「あら、テウナク迷宮都市に行くの?」

「直ぐには行かんさ」

 ベレトリクスの問いにエルガルムは即答する。

「此処でシャラナを魔導師としての力量と技量(レベル)を更に向上させなければならん予定があるからのう。その後に共に迷宮都市に赴くのも悪くない」

「なら、その時は誘ってよね。1人でダンジョン内の資源調達は苦労するから」

「そうじゃのう。御主が居るとダンジョン内の探索が(はかど)るから、その時は頼むぞ」

「もっちろん。何たってダンジョンはあらゆる素材の宝庫の様な場所だしね」

 エルガルムの先の予定に、ベレトリクスも入る事になった。

「でしたら! 一刻も早く魔導師としての力量と技量(レベル)を上げる為に、魔法の勉学と修練をより一層励まなくてはいけませんね!」

 魔導師としての成長次第でダンジョンという実戦の場に行ける予定を聞いたシャラナはやる気に満ち溢れ、自分にとってダンジョンという新たな未知の場所に赴き経験を積める事に喜びの色を浮かべていた。

(え! ダンジョン! 行ってみたい!)

 シャラナの隣で鎮座(ちんざ)し聞いていたガイアも、ダンジョンという未知の場所に好奇心が強く刺激され、蒼玉(サファイア)の様な大きな瞳に期待を宿らせ、爛々(らんらん)と輝かせた。

 ガイアは円卓(テーブル)に置いていたボードに乗った白紙と〝試し書きの羽根洋筆トライアル・ライティング・クイルペン〟を大きな指で摘み取り、紙に羽根洋筆(ペン)を走らせ、書き綴った文字を彼等に見える様に見せた。


〝僕も行きたい!!〟


 折角の異世界だから、この世界の様々な場所を見てみたい。

 この世界に転生してから、ずっと抱いていたそんな思いを輝かせて。

「ん~……。済まんのう…御主の身体の大きさじゃとダンジョンの入口に入れんと思う」

 エルガルムの残念なお知らせを聞き、絶叫したくなる様な動揺(ショック)が、ガイアの心に雷が落ちた様に打ち付けられた。

(えぇえええええええーっ!! そんなぁあああぁぁ~!!)

 ガイアは動揺(ショック)の余り、口をあんぐりと開いてしまった。

 期待感という大きな器が粉々に砕け散り、その器に溢れんばかりに満たされ未知に対する輝く好奇心は全て零れ落ちてしまった。

(……もうちょっと……もうちょっと身体が小さければ……)

 そして座ったまま(うつむ)き、誰が見ても判る程に落ち込み、ショボくれる様子を身体全体で(かも)し出すのだった。

 砕け散った期待感の器と零れ落ちた輝く好奇心は1つに(まと)まり、青く黒ずんだ落胆へと変色するのだった。

「す…済まんのう。テウナク迷宮都市のダンジョンの入口は基本、人が通れると同時に強大で大きな魔物がダンジョンから出て来れない大きさ(サイズ)で設計されておるから、如何しようもないんじゃよ。出来れば御主も儂等と一緒に来て欲しいぐらいなんじゃがのう…」

 エルガルムは慰めの言葉を掛けるが、ガイアはこの大きな身体ではダンジョンに入れない事に残念に思い、ガッカリするのだった。

「身体を小さくする魔法薬(ポーション)とか無いんですか?」

 シャラナは魔法薬専門である錬金術師、ベレトリクスに解決策を尋ねる。

(小さく為れる薬とな!)

 ガイアはその言葉に、小さくなれる魔法薬(ポーション)という存在に瞬時に反応し、ショボくれた様子から一気に期待の色が表れた顔でベレトリクスの方へと向けた。

「あ~……随分前に身体を一時的に縮小化と巨大化させる魔法薬(ポーション)の研究はしてたけど、作れるには作れるけど、その何方(どちら)も人体に危険を及ぼす魔法薬(ポーション)なのよねぇ」

(えっ)

 危険という言葉に、ガイアの顔に浮かんだ期待の色が薄れていった。

「人間に限らずなんだけど、縮小化は身体が小さくなると同時に身体機能全てが著しく弱くなってしまうのよ。その副作用の所為で元の大きさに戻った時の反動に耐え切れず、即心臓麻痺で死んじゃうのよ」

(戻った反動で心臓麻痺!? 何それ、怖っ!)

 小さく為れる夢の様な魔法薬(ポーション)の恐ろしい実態を聴き、ガイアの顔には期待の色が無くなり、小さく為れる魔法薬(ポーション)の恐ろしい副作用の結果に対し、げっそりとした怖気(おぞけ)の色を浮かべていた。

「逆に巨大化の場合だと、巨大化すると同時に必ず身体が(いびつ)になるし、これも心臓に悪くて巨大化する過程に耐え切れずに心臓が破裂して死んじゃうのよ。薬の効力が消えて元の大きさに戻っても、巨大化の過程で歪になった部分は元に戻らずの儘だったのよねぇ」

何方(どっち)も心臓に優しくない…!!)

 怖気の色を浮かべているガイアは、巨大化の過程による身体の歪な変形と心臓破裂を頭の中で想像し、より一層怖気の色が濃くなった。

「そこまで詳しく知っているという事は……人体実験、したんですか?」

 恐る恐るシャラナは、平然と恐ろしい魔法薬(ポーション)の詳細を述べるベレトリクスに尋ねた。

「してないしてない。流石にそんな事したらこの国から追い出されるわよ。魔法薬(ポーション)での検証は魔物でしかしていないわよ。けど、何処(どっ)かの馬鹿な盗人(ぬすっと)2人がその2種類を強行しながら奪って行ってね、直ぐに兵達を動員して追い詰めたんだけど、1人が血迷ったのか巨大化の魔法薬(ポーション)を飲んじゃってね、飲んだ後はさっき言った通りの悲惨な死に方をしたのよ。後の1人も迷う事無く縮小化の魔法薬(ポーション)を飲んで身体を小さくして、人が入れない隙間に逃げ込んだのよね。まっ、私の〈魔力感知〉で其奴(そいつ)の居場所は大抵丸分かりなんだけどね。んで、見失う事無くちっちゃい盗人をもう一度追い詰めた時に薬の効力が切れて、元の大きさに戻ると同時に死んだって訳。だから結果的に、2人の盗人が勝手に人体実験を進んでやっちゃってくれたのよ。その御蔭(おかげ)でこの2種類の魔法薬(ポーション)の開発は無理だと断定したのよ」

 ベレトリクスから巨大化と縮小化の魔法薬(ポーション)の詳細、何処かの知らない2人の盗人による自業自得な魔法薬(ポーション)人体実験の(おぞ)ましい過程と結果を聴き、シャラナとガイアはげんなりとした。

(ただの薬でも魔法薬(ポーション)でも、作り方と使い方を1歩間違えると恐ろしい事になるのは前世の世界と変わらないんだな…)

 ガイアは前世の世界にあった普通の薬よりも、この異世界に存在する魔法薬(ポーション)は物によってはかなり危険な代物だと認識した。

「そもそも、巨大化も縮小化も一部の魔物や妖精、精霊が持つシンプルだけど特殊な部類の技能(スキル)だから無茶があるって予想は言ってたんだけど、それでもその研究と開発を当初の無能な貴族魔導師が頼んできたからやってたんだけどね。魔法による巨大化は異常な過剰強化だし、逆の縮小化は過剰な弱体化になるから、最初っから現実的に無理があったのよねぇ」

「じゃが、2人の盗人の御蔭でその研究と開発を中断出来たという訳じゃな」

「そゆこと。流石の馬鹿も何も言えなくなったから良かったわよ。無理な時点でずっと研究開発で無駄な時間を使うより、未知の素材探しをした方がずっと生産的よ」

 ベレトリクスの意見にエルガルムは頷き同意する。

「未知といえば、此処に居る幻神獣もね」

 チラッとベレトリクスは視線をガイアの方へと動かす。

「精霊獣でさえ滅多に御目に掛かれないのに、まさか神と同等の存在に会えるとは思ってもみなかったわよ」

「ホッホッホッ、本当にのう。これ以上、こんな嬉しい事はもう出会(でくわ)さんかもしれんのう」

 2人の会話は弾み、とても楽しそうな雰囲気だった。

「此処に来れば基本的な魔法薬(ポーション)の材料が沢山貰えるし、もう大助かりよ」

此方(こちら)としても助かる。御主の魔法薬学の知識をシャラナに教授してくれるのだからな」

「全然構わないわよ。シャラナになら錬金魔法に関する全てを御教授しても。何より魔法薬(ポーション)に使う材料には困らないから、ガイアの御蔭で製作授業も出来るしね」

 最近毎日の様に此処に通うベレトリクスは、大量の素材をガイアから貰う代わりとして、専門の魔法薬学をシャラナに教授する事になっていたのだ。

 賢者であるエルガルムも魔法薬学の知識は充分にあるが、ベレトリクスの方がそれに関する知識量がある為、エルガルムはベレトリクスに時間が空いている時で構わないからシャラナに教えて欲しいとお願いしたのだ。

 ガイアも魔法薬学の授業を、シャラナの隣で見学する形で参加をしている。勿論、材料を常に提供しながらだ。

 今ではそんな日々が、ガイアの最近の日常となっていた。

 ガイアは円卓(テーブル)に置かれている人にとっては大き過ぎるマグカップに手を伸ばし、持ち手部分を壊さない様に大きな親指と人差し指で器用に摘み取り、特別に大量に注がれた上質な紅茶を口に流し込み、直ぐには飲み込まず、紅茶のほんのりとした美味しい苦味を味わい、飲み込み喉を潤す。

 今日ものんびりと魔法関連の書物を読み、紅茶を飲み、綺麗な青空を見上げる。

 そして今日、抱いていた小さな悩みが、少し大きく膨らむのだった。

(如何にか小さく為れないかなぁ~……)

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