表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/244

強欲な愚者、天罰招く9-1

 アルドカスト城内にて、1人の女性騎士が廊下に足音をコツコツと響かせながら歩き進む。

 彼女が(まと)う鎧は白銀色を基調として作られ、金色の紋様が白銀色の鎧全体を美しく彩っていた。頭以外を覆う曲線美のある白銀色の全身鎧(フルプレート)だ。腰にはロングソードを携えていた。彼女の装備している武具はアダマンタイトと呼ばれる、オリハルコンよりも更に希少かつ非常に頑丈な貴金属で作られ、鎧にも剣にも強力な魔化を(ほどこ)されている一級品である。

 そんな武具を装備した彼女の左手には盾ではなく、何かの書類の束を持っていた。

 彼女は国王直属騎士にして、ラウツファンディル王国の全ての騎士達を統べる騎士の頂点。

 王国騎士団団長――――セルシキア・ケイナ・サイフォンだ。

 彼女は王城内の長い廊下を歩き、向かうべき場所へと進む。

 長い廊下を通り抜け、大広間へと足を踏み入れる。

 大広間の先には大きな両開きの扉があり、扉の前には2人の騎士、門番が立ち塞がる様に立っていた。全身鎧で身を包み、腰には(さや)に収まっているロングソードと、片手には(つか)の長い白銀色が(きら)めくハルバードが握られていた。

 セルシキアは堂々と、大広間の奥先にある扉へと歩き進む。

 近付いて来るセルシキアを直ぐに視認した2人の門番は姿勢を正し、彼女と2人の門番との距離が3メートル程に縮まった時、2人の騎士はビシッと敬礼を同時にする。何も合図も無しに、同時に息の合った同じ動きをするその姿は、実に素晴らしいものだった。

 そしてセルシキアが2人の前に立ち止まり、一拍置いて2人の騎士の内1人が口を開いた。

「サイフォン騎士団長、国王陛下が御待ちして居ります」

「御苦労。通してくれ」

「はっ!」

 2人の騎士はセルシキアを扉の先に通す為、大きな扉を押し開く。

 開き切った扉を潜り抜け、扉の先の空間へと足を踏み入れた。

 セルシキアが扉の先へ踏み入れた後、扉は閉じられた。

 そのままセルシキアは、前へと歩み進む。

 彼女の視界には豪華絢爛(ごうかけんらん)な風景が広がっていた。

 玉座の間。

 其処(そこ)は神殿の様な尊厳さが(ただよ)う巨大な空間だった。

 壁や床は白色を基調とし、金や銀が広大な空間にある物全てに精巧な細工が施されている。

 壁にはラウツファンディル王国の象徴(シンボル)が金糸で描かれた国旗が、幾枚も垂れ下がっている。

 長い真紅の絨毯(じゅうたん)は最奥にまで続き、7段の低い階段の上に敷かれた絨毯は隙間無く綺麗に敷かれている。

 そして階段の先、豪華絢爛で尊厳のある空間の最奥、金と銀をふんだんに使用し作られた玉座に座る者が居た。

 ラウツファンディル王国を統治する王。

 国王――――ラウラルフ・ディウズ・フルード・ベレガルズである。

 玉座に座る彼の顔立ちは、王として相応しい威厳さと尊厳さを()ね備えた毅然(きぜん)たる表情をしていた。目付きは鋭くは無いが、しっかりと開いた両目には力強さを醸し出しており、瞳は薄く明るい緑色を宿している。威厳と尊厳のある王に相応しい豪華絢爛な衣服に外套(マント)、そして金色の髪の上には王冠が乗っていた。

 ラウラルフ国王の両隣には精鋭の近衛(このえ)が2人、魔導師団から精鋭が2人、計4人が近辺警護として(ともな)っていた。

 セルシキアは玉座に腰掛け待つラウラルフ国王陛下の下へと、玉座まで続く長い真紅の絨毯を踏み締め歩み進む。

 王座まで続く絨毯の道を進み、ラウラルフ国王の前まで辿り着く。そして彼女は片膝を落とし、(ひざまず)き、(こうべ)を垂れ、国王に仕える臣下の作法を取る。

「セルシキア・ケイナ・サイフォン。只今(ただいま)、国王陛下の御身(おんみ)の前に参りました」

 セルシキアは、目の前に座すラウラルフ国王に臣下の挨拶を交す。

「うむ。(おもて)を……いや、立って構わないぞ。セルシキアよ」

 ラウラルフ国王は言葉を少し和らげながら、跪く彼女に楽にして良いと告げる。

 セルシキアは国王陛下の言う通りに立ち上がった。

 面を上げ立ち上がったセルシキアの視線の前に居るラウラルフ国王の表情は、普段の威厳さと尊厳さが柔らかな表情へと少し崩れていた。

何時(いつ)も済まない。君にも、〝豪焔(ごうえん)の侯爵〟にも苦労を掛ける事ばかりだ」

 ラウラルフ国王は目の前に居る最高位騎士のセルシキアと、この場に居ないフォルレス侯爵家当主のレウディンに、謝罪と労いの言葉を送る。

「いえ、臣下である私が国王陛下の為に動く事は当然の義務で御座います。レウディン殿もこの場に居たなら、おそらく同じ事を申すでしょう」

 普段キリッとした表情をしている彼女も、笑みを浮かべた。

 近辺警護で伴う4人も彼女の言葉に同感し、静かに数度頷くのだった。

 ラウラルフ国王は溜息(ためいき)()き、吐いた分の空気を吸った後、セルシキアに問い掛ける。

「さて、奴の件についての報告を聞こう。証拠はどれ程集まった?」

 ラウラルフ国王が言う奴とは、悪徳貴族で有名なデベルンス伯爵家の当主―――ダダボラン・ボズド・デベルンスの事だ。

「はい。充分過ぎる程に掴めています」

 セルシキアは左手に持っていた書類に記載された内容を読み上げる。

「ダダボラン・ボズド・デベルンスが所有している領地内の各村、テウナ村、ニニカ村、フォボット村、ルースン村、ナウバ村の計5箇所の村に関する警備兵の派遣と村の農作改善支援、徴税(ちょうぜい)の報告内容は全て改竄(かいざん)された物である事は調べは着きました。ダダボランの動向や各村の調査は魔導師団隠密部隊とフォルレス侯爵が冒険者組合(ギルド)に依頼し、信頼性のある人選された隠密に特化した冒険者達に探らせました。結果、実際は農作改善支援などされておらず、食糧不足による飢饉(ききん)問題が起こっていたとの事です。更に全ての村に警備兵が誰1人派遣されて居ないとの事で、時折出現する魔物による大きな被害が出ているという報告もありました。調査依頼を受けた冒険者が一時的に出現した魔物を退治したので、追加報酬金をフォルレス侯爵が支払いました。最後の報告からでは、徴税の時期ではないのにも関わらず、急に現れた徴税官と名乗る騎士達が強奪する様に、ルースン村に有る僅かな金品と食糧を持って行ったとの事です。その騎士達を追跡した結果、全員が犯罪組織〝背徳の金鼠〟の者だと判明しました」

 セルシキアの報告内容に、ラウラルフ国王は眉を(ひそ)めながら静かに聴き続ける。

 近辺警護の4人の表情に変化は無いが、その内容に彼等は心中で静かな怒りが燻り出していた。

「そしてダダボランに加担した貴族5名を2週間程前に秘密裏に捕縛し、徴税記録改竄と隠蔽(いんぺい)の罪により地下牢に幽閉しました。この情報に関しましては、信頼のある税理士に調査を依頼し、偽装と隠蔽された全ての記録を洗ってくれた物です。幽閉した貴族5名はダダボランから多額の賄賂を貰っていたそうです」

「はぁ……。ダダボランの息に掛かったのか、逆にダダボランに取り入ろうとしたのか。何方(どちら)にしろ…欲に目が眩んだには違いないな」

 ラウラルフ国王は、現在の貴族達の黒い強欲さに頭を悩ませながら、深い溜息を()いた。

 セルシキアが持つ書類の内容は、自分の領地の村の不当徴税以外にも、警備兵を派遣すらしていない事をを隠蔽している詳しい不正内容などが多々記載されている内容だ。この全ては様々な証人や目撃者、レウディンが秘密裏に冒険者組合(ギルド)に依頼した冒険者が得た情報よる信憑性のある内容だ。更には信頼のある税理士が秘密裏に調べ上げたデベルンス伯爵が管理している全ての徴税の記録から、明らかな不当増税による不法不正が発覚した記録も記している。

 この内容は既にレウディン侯爵に伝えた情報である。

「次に魔導師団隠密部隊からの情報ですが、先程の報告内容に出た騎士に偽装していた〝背徳の金鼠〟の集団を尾行、そして彼等が潜伏する場所の潜入調査で、ダダボランが取引をしている所を目撃したとの事です。自領に関する不利益な情報の隠蔽は、奴等も絡んでいたました。その集団は外出行動をする際は常に全員黒一色の頭巾(フード)付き外套(ローブ)を着ており、覆面で素顔を隠しているとの事です」

 セルシキアは視界に映る近辺警護の魔導師団員に視線を向ける。

 彼女の視線に対し、2人の魔導師団員は情報は間違い無いと頷き、アイコンタクトによる意思疎通でセルシキアの報告内容を肯定する。

 この場に居る2人の魔導師団員は、今回の隠密調査には参加してはいないが、他の魔導師団員からは既に情報は知らされ共有しているのだ。

 セルシキア騎士団長が統べる騎士達は、ダダボランの悪行に関しては前々から知っていたが、魔導師団は騎士団よりもその悪行内容を知っている。

「奴はその集団と何を取引していた?」

「今回の件では工作員を数名雇ったのと、3日前に違法マジックアイテムを買い取ったそうです」

「取引された違法マジックアイテムの詳細は?」

「視認による情報ですが、おそらく〝隷属(れいぞく)首輪(くびわ)〟だとの事です。多額の金額で購入していたとの事です」

「……それは人用か? それとも人外用か?」

 もし、人用であるなら、捕らえた誰かを傀儡奴隷にするかという線が濃厚になる。

「それが、大きさから見て大型の人外用の物であると報告されています」

「………強欲な彼奴の事だ、珍しい生き物でも飼う事でも考えているのだろう。して、最後は本来の財務記録を聴かせてくれ」

「はっ。洗い出された財務記録から、ダダボランは国税と自領税を横領していた事が判明しました。自領税は1年分の7割、国税は1年分の4割、賄賂や裏取引などの私利私欲目的ばかりです」

「証拠となる映像は?」

「村の現状・不正・裏取引の瞬間、全て揃っています」

 ラウラルフ国王の表情に威厳さが色濃く浮かび上がり、静寂な憤怒が瞳に宿っていた。

「決まりだ。ダダボランがここまで犯罪に手を染めたのなら、後は処断するのみだ」

 ラウラルフ国王は決断をした。

 ダダボラン・ドボズ・デベルンスを犯罪者と断定し、デベルンス伯爵家とそれに加担した者――――不法不正を知った上で加担し仕えている使用人や騎士全員も含む――――粛清(しゅくせい)を実行する事に。

「サイフォン騎士団長! ダダボランと繋がりを持つ犯罪集団〝背徳の金鼠〟の隠れ家を探し出し、全員捕らえろ! 魔導師団員も動員せよ! 冒険者組合(ギルド)に極秘裏に依頼しても構わない! (やと)うなら信頼性と実力を兼ね備えた冒険者にするように、報酬金は私が持つ! 犯罪集団を全て捕らえ隠れ家を潰した後、魔導師団隠密部隊に奴の屋敷内を探らせろ! 犯罪集団から買い取った〝隷属の首輪〟を物的証拠として回収しせよ! 念入りに奴が何を企んでいるのかも探り、映像や音声記録で証拠を収めるのだ! くれぐれも、奴と奴の息が掛かった者達にバレぬ様に警戒し行動せよ!」

「はっ!」

 王として相応しい鋼の意志を宿した声でセルシキアに命令を下し、それに対しセルシキアは敬礼し、了解の意を示した。

 その時のラウラルフ国王は、威厳と尊厳が溢れる堂々とした表情が(あらわ)となっていた。

 


「さて……話が変わるんだが、衛兵から報告された例の賢者エルガルム殿の話についてなんだが…」

 しかし、その威厳さと尊厳さのある表情が困った顔へと崩れ変わる。声も鋼の意志が抜けていた。

「賢者エルガルム殿が〝謎の魔獣〟を連れてこの王都に入ったと聞いたが、セルシキア騎士団長もその話は聞いたかな?」

 謎の魔獣という言葉に、近辺警護の4人はお互いに顔を見合した。彼等もその情報は聞いていたが、ラウラルフ国王も彼等もその姿は実査に目にしていない。

「はい。その魔獣は1週間程前、実際にこの目で見ました」

 セルシキアも普段のキリッとした表情が少し困った顔になってた。

「何? その魔獣を実際に見たのか。いったいどんな魔獣だった?」

 ラウラルフは純粋に興味が湧き、賢者エルガルムによって王都に入った魔獣について問い掛けた。

 その内容に近辺警護の彼等も興味が湧き、耳を傾ける。

「はい。姿は岩石の動像(ストーンゴーレム)と非常に酷似した岩石で構成された身体をしており、その大きさは人の倍以上の高さ、横幅も大きく、腕や脚も太く大きなものでした。顔の骨格は(ドラゴン)を彷彿とさせるもので、背中には芝生の様な植物を生やしております」

「ほぉ……背中に植物が…」

 ラウラルフ国王は、賢者エルガルムが連れて来た謎の魔獣に対し更に興味が湧き、セルシキアの話を聴き入っていた。

「驚く事に、人の言葉を喋る事は出来ませんが、理解する事が出来る知能を持っていました」

「何と…! 我々人の言葉を理解出来るのか!」

 人の言葉を理解する事実にラウラルフ国王は驚き、近辺警護の4人はどよめきの声が漏れる。

「言葉だけでなく、まるで我々と同じ人間の様な振る舞いをする事も、何とも不思議な存在で…」

「ほほぉ、なるほど。賢者殿が無理矢理にでも王都に入れる訳だ…」

 賢者エルガルムがその謎の魔獣を無理矢理に王都内に入れた事に、ラウラルフ国王は納得するのだった。

「では、その魔獣は今何処(どこ)に居るのだ?」

「現在はフォルレス侯爵家の所です」

「フォルレス侯爵の所か。今は賢者殿も其処に居るのだな」

「いえ、賢者エルガルム様は魔導学院図書館に(おもむ)き、連れて来た謎の存在について調べている最中かと思います」

「わざわざあんな所にか?」

「はい。何やら古の歴史書を探しにとかで」

「古の……? それは興味深いな。それ程珍しい魔獣なのだな」

「それが、賢者エルガルム殿が言うには、魔獣ではないが、妖精獣なのか精霊獣なのかも不明だと(おっしゃ)っていました」

 魔獣ではないが、妖精獣なのか精霊獣なのかも不明という言葉に、ラウラルフ国王は目を見開き、驚愕と困惑を顕にした。

 彼だけではなく、伴っている近辺警護の4人も同じ様に驚愕し困惑していた。

「そ…それは如何(どう)いう事だ…!? 魔獣ではないが、妖精獣なのか精霊獣なのか不明だと!? いったい、賢者エルガルム殿は何を連れて来たのだ!?」

 当然の反応だ。驚愕と困惑する内容だ。セルシキアもそれを聞いた時は驚愕し困惑した事がある為、ラウラルフ国王の今の心境を理解も同情も出来る。

「私がレウディン殿の屋敷に赴いた際、ソフィア教皇猊下が御1人でいらっしゃってました。その時に教皇猊下が、その謎の岩石の存在から神聖な気配を感じ取ったと仰っていました」

「神聖な気配だと!?」

 神聖な気配を感じ取ったという言葉。それはソフィア教皇以外の者が言えば、意味は虚偽(きょぎ)見做(みな)され、その言葉は空言だと認識されてしまう。

 しかし、この場に居る全員は知っている。

 ソフィア教皇には特別な気配を感じ取る能力を有する聖職者で、それが有る故に、神聖な気配を感じ取ったという言葉に真実味が出るのだ。

「はい。ソフィア教皇猊下はその者を〝大いなる生命(いのち)の恵みを司りし神聖なる存在(もの)〟と仰っていました」

「〝大いなる生命の恵みを司りし神聖なる存在〟………」

 驚愕の事実から更なる驚愕の事実を聞かされ、その内容を全て受け止めきれなかったラウラルフ国王は両目を片手で覆った。

「そ…そういえば……賢者殿がその謎の魔獣を紹介しに連れて来るとか報告にあったなぁ…。大丈夫だろうか…」

「それに関しましては心配は無いかと思います。我々に対して友好を示す穏やかな心を持っているので、暴れる可能性は無いと思います。直接会って見て来ましたので、間違い無いかと。何せソフィア教皇猊下が()の者を神聖なる存在と仰っているのですから」

「そうなのか? ……そうだな、セルシキア騎士団長がそう言うのであれば大丈夫なのだろう」

 賢者エルガルムが連れて来た存在が穏やかで大人しい存在だと聞き、ラウラルフ国王は安堵(あんど)した。

「神聖なる存在に関しては直接、賢者殿に聞く事にしよう」

「それが一番ですね」

 ラウラルフとセルシキアは、お互いに僅かながら微笑(びしょう)を浮かべた。

「さて、今回の報告は以上で終わりにしよう。私の方も君達の仕事の後に備えなければならないからな」

「ダダボラン処断の準備ですか?」

「それもあるが、更にその後、奴の領地内の各村の飢饉問題の方だ。食糧を掻き集め、各村に暫くの長期間は食糧を支給しなければならん。警備兵の派遣する為に人員も集めなくてはならない。だが、各村の復興、修繕、改善、農作物からの食糧確保に家畜を育てる飼料(えさ)、これ等はどんなに多額の資金を出しても農作物の問題は直ぐに解決出来ない。非常に困ったものだ」

 国から各村に食糧や物資、警備兵の派遣を出すのは難しい事ではない。国民から税を少しずつ集め蓄えているのは、こういう非常時の為の備えである。

 しかし、どんなに莫大な資金を出そうとも、農作物は直ぐには育たない。

 農作物を育てる農地を改善する事は出来るが、農作物が実るには長い時間が必要だ。

 その為、農作物に関する問題を解決するには数十年徴税を免除し、国から不足分の食糧を支給し続け、各村が徴税で国に規定の税を納められるぐらいに安定と余裕が出来るまで、(なが)い時を待たなくてはならないのだ。

 そこまで各村の被害と食糧不足が深刻化したのは言うまでもなく、全てダダボランの所為である。

 これにはラウラルフは頭を非常に悩ませるのだった。

「陛下、農作物に関しては直ぐに解決する方法が御座います」

 そんな彼に対し、希望は在る事をセルシキアは口にする。

「何!? そんな方法があるのか!?」

 それを聴いたラウラルフ国王は、今も苦しむ民を思っての深刻な表情を一瞬で驚愕へと変えた。

 その言葉は普通に聞けば空言の類のものだ。

 しかし、セルシキアはそんな叶いもしない空言は決して言わない人物だ。

 彼女の自信を持った表情を見て、ラウラルフ国王はその言葉に希望を抱いた。

「はい。先程お話した〝大いなる生命の恵みを司りし神聖なる存在〟です」

「賢者殿が連れて来た神聖なる存在か! その神聖なる存在には特別な何かがあるのか!?」

 ラウラルフ国王の心中に抱いた希望が少しずつ輝き始めた。

「はい。神聖なる存在には高位の森司祭(ドルイド)の魔法を超えた、大地を回復させ植物の生長を驚異的に促進させる特殊技能(スキル)を有しています」

「何と…! そのような特殊技能(スキル)を有しているのか……!」

 ラウラルフ国王はその特殊技能(スキル)について考察する。そしてほんの僅かの考察で理解する。

「つまり、神聖なる存在の有する特殊技能(スキル)があれば、農作物を時間を掛けずに実らせられるという事か!」

「その通りです。実際に私もその効力をこの目で見ました」

 希望は更に輝きを増していた。

「よし!! ならば私自ら神聖なる存在の下へ出向き、その力を貸して貰うよう直接願い出よう! 民の為だ、私は頭を下げる事を辞さん!」

「へ、陛下?!」

 近辺警護の4人は驚愕の声が漏れた。

 王である彼が誰かに対して頭を下げようとするのは、民、貴族、臣下の誰もが驚く事だ。

「大至急、フォルレス侯爵の下に行くぞ! お前達も共に付いて来い! 宝物庫から謝礼の品を準備するよう宝物管理者に伝えておくように!」

 玉座から立ち上がったラウラルフ国王は、直ぐに神聖なる存在の下に()(さん)じようと希望を瞳に宿し、玉座から離れようとする。

 しかしその直前、セルシキアの言葉が彼の動こうとした脚を止めた。

「その必要は御座いません、陛下」

「何? それは如何いう事だ?」

「レウディン殿と今回の件の話を聞いていた神聖なる存在は、自ら協力を申し出てくれたのです」

「それは本当か!?」

「はい。本当です」

 彼女の言葉に、ラウラルフ国王の抱いた希望はついに輝きで満ち溢れた。

「よし! ならば後は奴の処断を早急に進めるのみだ!」

 不敵の笑みを浮かべ、ラウラルフ国王は再び鋼の意志を宿した声でセルシキアに命令を下した。

「頼むぞ! サイフォン騎士団長!」

「御任せ下さい! 国王陛下!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ