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再誕せし神話の獣8-5

 王都アラムディスト内、王城を囲う城壁に在る出入口の門前に、突如何も無い空間から1人の老魔導師が姿を現した。

 王城城壁の門扉(もんぴ)前を警備する幾多の騎士が、突如と現れた老魔導師に驚愕(きょうがく)しながら視認し、彼が誰なのか直ぐに理解し敬礼をする。

「これはこれは、賢者エルガルム・ボーダム様でしたか。本日は国王陛下に御会いになられるのですか?」

 城壁の門扉前の警備責任者の騎士が代表して目の前に現れた老魔導師――――賢者エルガルム・ボーダムに(うかが)う。

 エルガルムが王城アルドカスト城に訪問する時、大抵は国王陛下に会う時だ。警備責任者の騎士の台詞(せりふ)は、彼に対して決まった問い掛けである。

 だが、今回の返答は違った。

「ちょいと引籠(ひきこも)()()に会いにのう。急ぎ開けてくれんか。個人的に急いでてのう」

 エルガルムの爛々(らんらん)と輝く目を見て、何やら滅多にない事に出会(でくわ)し歓喜に満ちているのだろうと、警備責任者の騎士は理解した。

「分かりました。直ちに扉を開けます」

 後ろを振り向き、指示を出す。

「門を開けろ! 賢者エルガルム・ボーダム様を御通ししろ!」

 指示に従い、城壁の内側に居る門の扉の開閉を担う見張り台の弓兵に伝え、城壁内側にある門扉開閉を容易に行う付与された魔法術式を起動させた。

 大きな門の扉が開く重い音が発すると同時に、門前を警備する騎士達は開く大きな扉に当たらない様に離れ、扉の先に入るエルガルムに道を開ける様に其々(それぞれ)両端に並び、再び敬礼する。

「どうぞ、御通り下さい」

「うむ」

 エルガルムは鷹揚(おうよう)に頷いた後、門の扉が開いた先へと進み、城壁内へと足を踏み入れた。

 彼が城壁の内側に入った事を確認され、扉は再び重い音を発しながら、今度は閉じていく。

 扉が完全に閉じるのを見届けず、エルガルムはそのまま城内へと進み、城内のとある目的の部屋に向かって歩み進むのだった。

 目の前に(そび)え立つこの王都で1番巨大な建造物――――王城、アルドカスト城。

 城壁内からでは、宮殿全体は視界に決して納まらない威厳のある立派な建物だ。

 城壁で囲われた広大な王城敷地内をエルガルムは堂々と歩き、王城前に居る騎士達の横を何事も無く素通りして行く。

 騎士達もエルガルムに敬礼以外は何もせず、己の職務を(まっと)うする為、王城入口の見張りを続けるのだった。

 幾度も訪れた宮殿内を迷い無く、エルガルムは広い通路を歩き進む。

 擦れ違う王城の使用人や騎士に近衛達は――――使用人は御辞儀を、騎士と近衛は敬礼――――言葉を交わさず挨拶をする。彼等に対しエルガルムは挨拶代わりに軽く頷き返し、そのまま目的の部屋へと目指す。

 王城なだけあって実に広大な為、彼が向かっているある部屋まではかなりの距離があり、歩いて行くのには時間がかなり掛かる。転移魔法を使えば簡単に直ぐ着くのだが、それは緊急時以外は使わない事にしている。

 転移魔法で宮殿内のある部屋に行くのは極めて簡単だが、その方法で王城に入るのは余り宜しくない事なのだ。

 ()わば、それは転移魔法による不法侵入行為だ。

 都市に入るにせよ王城に入るにせよ、許可を貰ってから入るのが一般常識というものだ。許可無しに転移魔法で入り込めば、それは許可無く入り込んだと見做(みな)され取り締まられるのだ。これは何処(どこ)の国でもある、転移魔法に関する魔導法律で定められている。

 エルガルムは〝賢者〟と〝英雄〟いう国王から(たまわ)った特別な権威を持っている為、例外的に彼は許されてはいるが、流石(さすが)にエルガルムはそこに関しては皆と同じ立場として決められた法律を厳守し、王都や王城に入る時も必ず許可を取ってから入る様にしているのだ。

 たとえ特別な権威や地位を持っていても、それに甘えてはならないと決めているのだ。

 ひたすら広い王城内の通路を歩き続け、(ようや)く目的の部屋の扉前に到着した。

 エルガルムは扉を少し強めにコンコンと叩いた。

「おーい! (わし)じゃ! 居るんじゃろう! 開けとくれ!」

 扉越しから声を掛けるが、返事が返ってこなかった。

 部屋に居ないという可能性は無い。

 その理由は、この部屋の主は基本的に引籠りで、現在では(ほとん)ど外出する事が無い人物だからだ。

 エルガルムは扉の把手(ドアノブ)に手を掛け(ひね)る。

 扉に鍵は掛かっていなかった。

 間違い無く居る。

 返らぬ入室許可の返事を待たず、そのまま扉を押し開いた。

 開いた扉の先に広がる空間は薄暗い部屋だった。窓に掛かった遮光窓掛け(カーテン)の隙間から漏れ出している、外からの光が少しながら暗い部屋を照らしていた。

 エルガルムの視界に映るのは、グチャグチャに散乱している書物や整理されず机やら床に適当に積み上げられた書物が広がる部屋。添え付けられた本棚には、書物が適当に詰め込まれていた。

 部屋の右奥にある扉の先の研究部屋は、厳重に魔法で施錠されている。

 視線を右奥の扉から左へと動かし、視線を動かした先を見て、エルガルムは溜息(ためいき)()いた。

 視線の先にある大きな寝台(ベッド)の上で、余りにもふしだらな格好で寝ている髪の長い女性が居た。

「ほれ、起きろ。もう昼じゃぞ。何時(いつ)まで寝とる」

 エルガルムは呆れた様に寝台(ベッド)で寝ている女性に声を掛けながら、窓の遮光窓掛け(カーテン)を問答無用で開けた。

 窓掛け(カーテン)によって遮られていた光は、寝台(ベッド)で寝ている女性とこの薄暗い空間に差し込み、明るく照らし出す。

「むぁ~……。眩し~……」

 寝ていた女性は、やる気の無い気の抜けた声で呟く。

 光りに当てられた長い髪は反射し、薄紫の色彩を煌めかせる。

 姿を照らし出された彼女の容姿はとても美しく、妖艶(ようえん)さを(かも)し出していた。

 少し気怠(けだる)そうな表情ではあるが、綺麗に整った顔立ちにその表情は愛らしさを感じられるものがあった。日の光の下に殆ど出てない所為(せい)か、肌は白い。瞳は薄紫色の髪とは違い、色の濃い紫色をしており、窓から差し込む光で輝くその瞳は、まるで紫水晶(アメジスト)の様に(きら)めく。身体付きは異性を惹き付けるのに充分な豊かな胸に腰の(くび)れが相俟(あいま)って、胸辺りが大きく開いている薄い寝衣によってかなりの色気が露出していた。

 彼女の名はベレトリクス・ポーラン。

 エルガルムが引籠り魔女と呼ぶ彼女は、魔法薬(ポーション)魔道具(マジックアイテム)の製作と研究を生業(なりわい)とするラウツファンディル王国で有名な魔導師――――〝錬金の魔女〟と呼ばれる錬金術師である。

 彼女の天才的な知能と技術による魔法薬(ポーション)製作に於いて、右に出る者は居ないと言われている。更に魔道具(マジックアイテム)製作に関しても、山小人(ドワーフ)族の製作技術と並ぶ腕を持つと言われている。

 そして魔導師としての実力も魔導師団全員が認め、そんな彼女の才能を見込んで国王は魔法と錬金術の研究による国の発展を御願いし、賢者エルガルムに並ぶ特別な地位を与え、研究費と衣食住を提供した。そして現在に至り、彼女は王城で暮らしている。

 (ちな)みに彼女の出身は不明であり、詳細は今も謎に包まれている。

「全く、何てだらしない格好をしとる」

 寝台(ベッド)で横たわっていたベレトリクスは、身体をゆっくり起こしながら目頭(めがしら)(こす)る。

「ん~……? …あら? エルガルムじゃない。戻って来てたの」

 眠りからは覚めたものの、()微睡(まどろみ)は頭の中に残留していた。

「相変わらず研究に没頭しとる様じゃのう」

「うんにゃ、最近は研究の方は休ませて貰ってるわよ。今迄(いままで)ずっと研究と開発であんまり寝てなかったからね。あんまり寝れなかった分、さっきまで寝てたのよ」

「なるほどのう。ま、休める時に休まんと身体が持たんしな」

「まぁ、完全にぐぅたらしてる訳でもないけどね」

「あぁ、魔法薬(ポーション)か」

「察しが良い事。そう、今は騎士と近衛や魔法師団員、そして冒険者組合(ギルド)の支給品魔法薬(ポーション)が不足状態に為りそうって事で、定期的に決めた数の魔法薬(ポーション)を作ってくれって頼まれてるのよ」

 ベレトリクスは寝台(ベッド)に腰掛け、溜息を吐く。

「でもそろそろ此方(こっち)魔法薬(ポーション)に必要な素材が尽きそうなのよねぇ。特に魔力回復薬(マナ・ポーション)に使うマナルディマッシュがもう無いし……今は治癒魔法薬ヒーリング・ポーションぐらいしか作れない状況なのよねぇ」

 焦る素振りすらなく、何時(いつ)も通りに気怠げに喋るのだった。

「ほう。それなら丁度マナルディマッシュを持っとるぞ」

 エルガルムの言葉に反応し、気怠げな表情に嬉しそうな色が浮かんだ。

「あら、ホント?」

「本当じゃ。今から出すぞ、ほれ」

 エルガルムが無系統魔法の空間魔法―――〈収納空間(スペース・ストレージ)〉を行使した。何も無い空間に黒い(あな)がポツンと開き、黒い孔は一気に拡大した直後、其処から大量のマナルディマッシュがごろごろと部屋の中に雪崩れ込む。

 流石の量にベレトリクスは目を見開いた。

「えっ、ちょっ! 何この量!? 何処(どこ)で採って来たの!?」

 ベレトリクスでさえ驚く量だった。

 驚いて当然の事だ。

 マナルディマッシュは魔素を取り込み成長する(キノコ)で、特定の魔素溜まりの場所でなければ成長するのにかなりの時間が掛かる特殊な担子菌(たんしきん)類だ。

 それに魔素の濃い土地でも、マナルディマッシュの群生地は中々見付けられる物ではない。

 それを知っているからこそ、ベレトリクスは驚愕しているのだった。

「まさか群生地でも見付けたの?」

 エルガルムに対し、ベレトリクスは当然の質問を投げ掛けた。

 その質問にエルガルムは笑いながら答えた。

「ホッホッホッ。残念ながら群生地は見付けとらんよ」

「えっ!? いやいやいや、幾ら何でもこの量は群生地じゃなきゃ採れない量でしょ」

 何時(いつ)ものベレトリクスの気怠げな声は、驚愕によって何処かに飛んでいた。

「今回此処(ここ)に来たのはな、そのマナルディマッシュを増殖を促した存在に関しての事じゃよ」

 マナルディマッシュを増殖させた。その言葉にベレトリクスは鋭く反応し、その存在に対する好奇心を刺激され驚愕の表情の中に笑みを浮かべた。

「増殖を促した…? 何々、いったい何を見付けて来たの?」

 錬金術師という研究者である彼女もエルガルムと同じ知識欲を持っている為、子供の様に興味が溢れ出していた。

「ラフォノ平野で遭遇(そうぐう)しての、今まで儂でも見た事が無い存在じゃよ。それでじゃ、お前さんの所に来たのはあの鑑定水晶を借りる為じゃよ」

「鑑定水晶? ……ん? ちょっと待って」

 ベレトリクスは奇妙な疑問を生じた。

「あんた〈鑑定の魔眼〉の特殊技能(スキル)が有るじゃないの。既に()たんでしょ?」

 エルガルムには〈鑑定の魔眼〉が有る。鑑定水晶が無くとも〝その存在〟を鑑定出来る筈なのに、何故わざわざ借りに来たのかベレトリクスは妙に思う。

「鑑定結果の詳細は如何(どう)だったのよ?」

 ベレトリクスからの問いに対し、エルガルムは何故(なぜ)か嬉しそうに笑みを浮かべ、鑑定結果の詳細を告げた。

「全て不明じゃよ」

「全て不明!!? うっそー……」

 エルガルムの有する特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉による鑑定結果全て不明という事実に、ベレトリクスは思わず笑みを浮かべながら驚愕した。

 特殊技能(スキル)〈鑑定の魔眼〉で覧れたのが一部の詳細だけなら未だしも、全ての詳細が不明という結果はベレトリクスでも聞いた事が無い事実。驚愕して当然の理由だ。

 そして驚愕と同時に、全ての詳細が不明である謎の存在に対する溢れんばかりの好奇心と知識欲が、笑みを無意識に作っていたのだった。

「なるほど。全て不明だから、あんたと共作したあの鑑定水晶が要る訳ね」

「その通りじゃ! 此処に来る前には彼奴(あやつ)に関する書物を(あさ)って調べたが、最後に御主(おぬし)が持っとる鑑定水晶で確認にしたいのじゃよ!」

「ん? その手に持ってる本は何? 随分古いわね」

「おお、これはな、彼奴に関して記された神話の歴史書じゃ」

「神話の…!? …へぇ~、益々興味が湧いてくるねぇ。いったいどんな生物なの?」

 ベレトリクスの紫水晶(アメジスト)の様な紫色の瞳に、鋭い輝きが宿る。

「それは実際に会って見るといい。だがその前に、鑑定水晶を御主から借りんといかんからな」

「よし分かった! ちょっと待ってねぇ」

 ベレトリクスは手を何も無い中空に(かざ)し魔法を発動させると、先程エルガルムが発動した魔法と同じ〈収納空間(スペース・ストレージ)〉という亜空間に手を突っ込む。ほんの少しの間だけでお目当ての物を探し当て、魔法の空間の中から引きずり出した。

 空間から出た手の中には、曇りの無い無色透明の綺麗な水晶玉が納まっていた。

「はい、これ」

 取り出された鑑定水晶は、ベレトリクスの手からエルガルムの手へと渡った。

「良し! これで彼奴の正体が確定出来る!」

「確定? 確信じゃなくて?」

「確信はこの神話の歴史書から得ておる。後は鑑定水晶による結果だけじゃ」

 エルガルムの言った事に、ベレトリクスは納得の表情を(おもて)に出した。

「なるほど。相変わらずの駄目押しね。んで、その詳細全てが不明の存在は今何処に居るの?」

「それなら〝豪焔(ごうえん)の侯爵〟の所に居る筈じゃ」

「あら、フォルレス侯爵家の所なの。あ、そういえばあんた、フォルレス家の貴族令嬢をあの無能な貴族が(たむろ)ってる学院から連れ出して、暫くは修行の旅に行ってたんだっけ」

「まぁの。此処(ここ)王都に帰って来たのは1週間前くらいじゃよ」

「それで如何だったの? あの()の成果は?」

「冒険者の等級(ランク)で表すなら最低でもC等級(ランク)といった所じゃな。魔導学院の名ばかりの教師連中には余裕で勝てる」

「あら、1からのスタートで充分な成果じゃない。かなりの急成長ね」

「〝豪焔の侯爵〟と〝幻水(げんすい)の貴婦人〟の娘じゃからな。何よりあの()は持った才に胡坐(あぐら)を一切()かず、直向(ひたむ)きに努力してきたのじゃからな」

「そうね。何たって、数少ない神聖系統魔法を使える魔導師だものね。あの()(いず)れは両親を超えるわよ」

「ホッホッホッ。そうじゃな、もしかしたら教皇と実力が並ぶやもしれんな」

「もうそんな事より、早く連れてってよ! あんたの言う詳細不明な存在の所に!」

 焦れったかった様にソワソワし、「早く行こうよー」と言わんばかりの子供の様な様子を見せていた。

「それなら身形(みなり)を整えんか。そんなだらしない格好で外を歩く気か」

 ベレトリクスの淫らでだらしない格好を見ながらエルガルムは指摘する。

「部屋の外で待っとるから、ちゃんとした格好をして来い」

「へぇ~……しょうがないわね。じゃぁ、ちょっと待ってね」

 やる気無い返事をしながらベレトリクスは了承し、エルガルムは鑑定水晶を手に持ったまま彼女の部屋から出て待つ事にした。


 エルガルムは彼女の部屋の外で暫く待ち、身嗜(みだしな)みを整え終えたベレトリクスが扉を開け、部屋から出て来た。

 エルガルムと同じ広い(つば)が特徴の魔導帽子(ウィザード・ハット)に、胸元が開いた色気のある魔導衣(ローブ)は赤紫色を基調とした作りだ。肩に掛け羽織(はお)った腰丈の外套(ケープ)も赤紫色で衣服を統一していた。脚に履いているのは上質な黒革で作られた長靴(ロングブーツ)だ。

「お待たせ」

 ベレトリクスは扉を閉め、魔法で扉に鍵を掛けた。

短杖(ワンド)は持っていかんのか」

 彼女の腰辺りに短杖(ワンド)用のホルダーが着用されていない事を視認し、エルガルムは尋ねた。

「今の所は必要性無いからね。特に無能連中相手なら尚更、(スタッフ)短杖(ワンド)無しでも簡単に()せるわよ。まぁ、あんたを含んで、〝豪焔〟と〝幻水〟、〝銀雷〟の騎士団長と教皇の様な相手なら流石に持って行くけど」

 ベレトリクスは軽くニヤッと笑いながらエルガルムに言う。

「ホッホッホッ、そうじゃな。儂とて御主とは差しでも闘いたくはないのう」

 エルガルムは彼女の実力を充分に知っていた。

 ベレトリクスは単純な魔法の威力や魔導師としての魔法技術だけでなく、戦術に於いて非常に嫌らしいと言える戦略家である。先頭の最中で敵の目を盗みながらその(わず)かな時間で幾多の罠式魔法を瞬時に仕掛け、その後は彼女の思うが(まま)に戦闘の流れを独占するという、敵から見れば恐ろしく嫌らしい魔導師なのだ。

 (ゆえ)に彼女は〝魔女〟と呼ばれている。

 戦士職は勿論の事、魔導師であっても、ベレトリクスは相手の力全てを利用し、弄ぶかの様に敵を叩きのめす戦術を得意としている。

 だからこそ、エルガルムは彼女とは敵として対峙したくないのだった。

 たとえ1対1(差し)であってもだ。

「じゃが、これから会う存在は儂等よりも遥かに強いぞ。儂等が束になっても勝てるか如何か怪しい程迄の未知の力を秘めておるからな」

「ほほぅ? あたし達が束になってもねぇ」

 エルガルムから謎に満ちた存在の話を聴く度に、ベレトリクスの目は好奇心で輝く。

 2人は目的の場所に向かう為、王城内の通路を歩き始めた。

 歩きながらも話は続いた。

「ねぇ、詳細全部不明だけど何か魔法とか使えないの?」

「おぉ、使えるぞ! 最初に会った時は土と水に氷の3つの系統を扱えておったぞ!」

「あら3つ。へぇー、3つでも中々居ないわよ」

「しかもじゃな! 魔力操作と魔力制御の技術が素晴らしいんじゃよ!」

 エルガルムの言葉は徐々に情熱が湧き出していた。

「人の言葉を理解していてな、ちょいと複合魔法について色々教えてみたら、自然系統魔法をあっさり習得しよったんじゃよ!」

「えっ!? 習得した!? 自然系統魔法を!?」

「そうなんじゃよ! 神聖系統に等しく扱える者が少ない自然系統を見事に使いこなしたんじゃよ!」

「へぇ~、かなり知能が高い奴なのねぇ」

 ベレトリクスは久々の未知に対する談義を楽しみながら話を交す。

「それって四大元素の魔法は間違い無く扱えるんじゃないの?」

「その可能性は非常に――――いや、間違い無く可能じゃろう。じゃが、儂が一番驚いたのは魔法ではなく特殊技能(スキル)の方じゃ」

特殊技能(スキル)?」

「うむ。自然系統に酷似したものじゃが、それを超えた全くの別物と言って良い特殊技能(スキル)じゃよ」

「自然系統に酷似した特殊技能(スキル)……?」

 ベレトリクスは少し考察する。

 自然系統魔法に関する知識を幾つも思い浮かべ、起こす事が可能な現象を元に、その酷似している特殊技能(スキル)を予想する。

 そして頭の切れる彼女は、直ぐにその特殊技能(スキル)の効力に関する答えに辿り着いた。

「………まさかその特殊技能(スキル)って……大地の栄養素を回復させて植物の生長促進させる…!?」

「正解じゃ!」

 エルガルムはベレトリクスの導き出した答えを肯定した。

 そして更に彼女は気付いた。

「あの大量のマナルディマッシュ! 特殊技能(スキル)で増殖させた物だったのね!」

「そういう事じゃ」

「なるほどね~、それは流石のあんたでも驚くわね」

 まぁの、とエルガルムは笑いながら言う。

「永く生きてきた中、人生で一番驚いたものじゃ。しかも、この歴史書に記された内容を読んで更に驚いた。儂はこの遭遇という出会いが幸運なんてものじゃないと感じておる」

「あんたの得た確信は相当のものみたいね」

「ああ。若しくはそれ以上かもしれんぞ」

 エルガルムは手に持っている歴史書の内容を思い返しながら、伝説の存在であろう岩石の魔獣の姿を浮かべた。

「あ、そういえば訊いてなかった事があったわね」

 ベレトリクスはある事を思い出し、エルガルムに問い掛けた。

「あんたが連れて来たのって、何の種類? 魔物? 妖精? それとも精霊?」

 この中のどれにしろ、彼女にとっては興味の対象から外れる事はない。

 四大元素の魔法を扱える可能性と、自力での自然系統魔法の習得、特殊技能(スキル)は自然系統魔法を超える植物の成長促進、しかも人の言葉を理解する。ベレトリクスにとっては期待するには充分過ぎる程だ。

 そんな期待を含んだ質問に、彼女の期待を超える答えが返って来た。

「魔物でも妖精でも――――精霊でもないぞ」

「………え!?」

 その答えを聴いたベレトリクスの表情は、子供の様な純粋な驚愕に満面の笑みが浮かんでいた。

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